色々なIF集   作:超人類DX

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ライザー様が進化しました。


ステアウェイ・トゥ・ヘブン――天国への階段

 厄介な存在だ。

 ライザーがまず思った事はシーグヴァイラ・アガレスという悪魔の持つ狂信さだった。

 眷属を持つつもりが無かった己の前に膝づき、忠誠を誓う。

 

 それだけなら適当にあしらえた。

 しかし彼女の忠誠心の度合いは自分の予測を大きく上回っていた。

 

 ほんの少し、ほんのちょっぴりでもライザーの事を愚弄すれば、そのドス黒い忠誠心を爆発させ、相手を殺す。

 

 どうしてそこまでに至ったのかはまだライザーにもわからない。

 ただ彼は思うのだ……この女は手元に置いておくにしても厄介すぎる爆弾の様なものだと。

 

 

「ゼファードル・グラシャラボラスは、参加資格の無いシーグヴァイラ・アガレスによって重傷を負わされたというのは間違いないかね?」

 

「はい、控え室に突如出現し、ライザー・フェニックスに対して『忠義』を誓い、ゼファードルがほんの少し……たった一言ライザー・フェニックスに向かって『あんな女を口説いて回る様な奴に』とぼやいた瞬間、激昂し……」

 

 

 お陰でまず目立つ。

 こんな茶番めいた集まりなど、一食浮かすだけのつもりで適当にやり過ごすつもりだったのが、シーグヴァイラによって軽い事情聴取をされる事になってしまった。

 今、魔王四人や悪魔の権力者達の事情聴取を受けていて、代表して受け答えをしているサイラオーグが説明をしてしまっている。

 

 

「アガレスの娘がフェニックスの三男に……か」

 

「ライザー・フェニックス、サイラオーグの主張に間違いはないか?」

 

「……………………。はい」

 

 

 彼等にライザー達を庇う理由は無い。

 当たり前だ、ライザーが止めなければ下手をすればサイラオーグやリアス達をもシーグヴァイラは攻撃していたのだから。

 それに、特にリアス達はライザーを完全に恐れている様だった。

 

 

「よろしい、ならばライザー・フェニックスにはゼファードル・グラシャラボラスの治療に必要な『フェニックスの涙』を献上せよ。

シーグヴァイラ・アガレスについてだが……本当にライザー・フェニックスの眷属になるつもりか?」

 

「……………」

 

 

 ずっと無言でライザーの後ろに控えるシーグヴァイラが頷く。

 その瞬間、周囲がざわつき、『アガレスの娘が……』という声がちらほら聞こえ、ライザーは内心舌打ちをした。

 

 

(クソが。

アガレスの娘を眷属になんざ目立つだろうが。

だが、もし断れば、この女は間違いなく精神を破綻させて暴れまわる。

そうなればこの掌返ししか能がない連中は俺達に対して小うるさい事を言う……!)

 

 

 別にシーグヴァイラが精神破綻者で誰彼構わず傷つけるだけの存在なら関係ないと突っ返せるが、あの時ハッキリと自分に向かって忠誠を誓ってしまっているし、今サイラオーグ達もその現場についてを語ってしまっている。

 

 

(……。幻滅させて忠誠心を削ぐか。

ギルとレイヴェルが言ってた通りかもしれねぇ……厄介な)

 

 

 女は懲り懲りだと、眷属は義弟と妹だけに留めたし、これからもそれは変わらないと決めていた。

 だがこんな形で、あまり知りもしない――勝手に忠誠心を爆発させてるような貴族の女を眷属にする事になってしまうとは。

 純血悪魔で眷属になる事例は無くは無いし、元々彼女はどうやらアガレスからも半ば見捨てられてる様な存在だから、アガレス本家が煩いという心配は、シーグヴァイラ自身が直接黙らせるという意味でも問題は無さそうだ。

 

 

「………」

 

「ぅ……!」

 

 

 チラリとリアスの後ろに立つ一誠と目を合わせて見ると、顔色を青くさせながら逸らされた。

 明らかに自分に対して『是が非でも関わりたくない化け物』と認識した怯え方をしているのがわかる。

 

 

(ギルの為にもキミには『英雄』になって貰わないといけないんだ。

頼む、乗り越えてくれ……その恐怖を)

 

 

 まさか乗り越えるべき相手だった相手に今度は自分が壁にならないといけないとは……。

 事はそう単純にはいかないものだと改めてライザーは思うのだった。

 

 

(そういう意味では毒となる彼女を引き込むのも必要なのかもしれない。

………よし)

 

 

 リアスとその他はどうでも良いが、一誠だけは乗り越えて貰う。

 故にライザーは決意をしたのだった。

 

 

「シーグヴァイラ」

 

「はっ……」

 

「キミの事はまだ信用できない。これはわかるな? 俺は疑り深い性格なんだ」

 

「………」

 

「だから見てろ。それでもし自分の理想と違うと感じたら即座に辞めろ」

 

「……はっ!」

 

 

 大地の帝王となる決意を。

 

 

 

 狂暴な女すら一声で落ち着かせる。

 その出で立ちに、以前『安堵』を感じて恐怖した一誠は、会合が始まって、リアスのお兄さんのサーゼクスや他のお偉い悪魔達の話が全く耳に入らなかった。

 

 

「最後にそれぞれの今後の目標を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 

 怖い……恐ろしい。

 あの時から抱いた感情は修羅場を少しだけ乗り越えた今でも拭い去れないし、今も彼を少しでも見てしまうと、その姿に『安心』してしまいそうになる。

 それが余計に一誠の恐怖を駆り立ててしまうのだ。

 

 

「大丈夫、一誠くん?」

 

「副部長……だ、大丈夫っす」

 

 

 そんな一誠の様子に気付いて声を掛けたのは、同じ意味でのトラウマを持つ朱乃。

 彼女の場合はライザー……というよりはライザーの後ろに控える包帯男のギルに対しての物理的な恐怖だったりするのだが。

 

 

「あまり彼等に気を取られてはダメ。

気になるのはわかるけど、今は大事な会合の席なのよ?」

 

「わかってます……すいません」

 

 

 朱乃の場合はギルにズタズタにされたという恐怖が残っている。

 フェニックス家から渡されたフェニックスの涙による治療により、顔面の骨の大半を壊されて普通なら何年も包帯が取れない筈の重傷もなんとか元に戻ったが、それでもあの時受けた痛みの恐怖は昨日の事のように朱乃の脳裏にこびりついて離れない。

 

 

「俺は魔王になるのが夢です」

 

「ほう? 大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じれば、そうなるでしょう」

 

 

 若手最有力と吟われ、リアスの従兄弟であるサイラオーグの語りに上層部から感嘆の声が洩れているけど、朱乃は一誠と同じように、ライザーの後ろで一切動かずに立つギルなる男が気になって仕方ない。

 

 

「副部長はあの包帯野郎に暴行されたんですよね? 女の子の顔を殴るなんて酷いぜ……」

 

「……」

 

 

 一誠は逆にギルに対する恐怖はなく、自分に対する義憤を持っている様子。

 それは確かに嬉しいが、できることなら一誠が彼に関わるのだけはやめて欲しいと思ってしまう。

 何故なら心配だから。

 

 

「わ……私はグレモリーの次期当主として生き、そしてレーティングゲームの各大会で優勝することが近い将来の目的ですわ……」

 

「なるほど。すぐ横のライザー・フェニックスに実質敗北している悔しさを糧に是非か頑張って貰いたいものですな」

 

「…………」

 

 

 リアスが夢を語る瞬間、上層部の一部が鼻で笑う様な態度で一応激励している言葉を送ると、ライザーという名前を聞いたリアスが唇を噛みながら俯いてしまう。

 そう、彼女もまたライザー・フェニックスとその眷属全体にトラウマを持つ者なのだ。

 

 

「私は、冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

「……レーティングゲームを学ぶところならば、既にあるはずだが?」

 

 

 そんな一部の上層部の嘲笑をサーゼクスがやんわりとした言葉で制止させ、次はソーナの語りとなる。

 何やら彼女は冥界にレーティングゲームの学校を建てるのを夢としているらしい。

 

 

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行くことが許されていない学校のことです。

私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔てのない学舎です」

 

 

 だがその夢はどうやら理解されないカテゴリーだったらしく、言い終えたその瞬間、上層部達は笑い飛ばしていた。

 

 

『ハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

 ある意味盛り上がった瞬間なのかもしれない。

 可笑しくて可笑しくて、この小娘の放つギャグは中々にセンスがあったと云わんばかりに……。

 

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「それが夢とはまさに『夢見る乙女』と言うわけですな!」 

 

「シトリー家の次期当主ともあろう者がその様な夢を語るとは。

此処がデビュー前の顔合わせの場で良かったというものだ」

 

 

 見下し、馬鹿にするような言い方をされるも、ソーナの目は本気だった。

 

 

「私は本気です」

 

 

 この時ばかりは上層部達の対応に正直感謝してしまう一誠と朱乃。

 お陰で嫌でも意識してしまうライザー達の事が頭から離れたのだから。 

 

 

「ソーナ・シトリー殿。

下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出だされるのが常だ。

その様な養成施設を作っては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰す事となりますぞ?

いくら悪魔の世界が変革の時期に入っていると言っても変えて良いものと悪いものがある、それを全く関係の無い、たかが下級悪魔に教えるなど……」

 

「黙って聞いてれば、なんでそんなに会長の、ソーナ様の夢をバカにするんスか!? こんなのおかしいっスよ!! 叶えられないなんて決まったことじゃないじゃないですか! 俺たちは本気なんスよッ!!!」

 

 

 ソーナの兵士の少年、匙元士郎がソーナを馬鹿にされたことに我慢ならずに食って掛かるが、上層部の冷えた視線が射抜く。

 

 

「口を慎め、転生悪魔の若者よ。

……ソーナ殿、下僕の躾がなってませんな」

 

「申し訳ございません、下がりなさい」

 

「で、ですがっ!」

 

 

 納得できないという顔をする匙にもう一度ソーナは下がれと命じ、渋々引き下がる。

 この時点でソーナの姉であり、魔王の一人として見守っていたセラフォルー・レヴィアタンが上層部達に食って掛かろって癇癪を起こそうとするが、その前に上層部達の視線はある意味『メインディッシュ』であるライザー・フェニックスに向けられていた。

 

 

「さて、面白い夢物語の後で申し訳ないが、最後はキミだライザー・フェニックス。

キミの夢はなんだね?」

 

「……………」

 

 

 癇癪を起こすのは彼の後にでも勝手にしろ……といった様な視線を向けられて悔しそうに歯を食い縛るセラフォルーを他所に、上層部の者達は――更には若き悪魔達全員の視線すら一手に受ける事になったライザーに注目した。

 不思議なカリスマ性を持っている可能性があるのは、今も彼の傍に膝を付いて微動だにしないシーグヴァイラを見ればわかる。

 

 そんな期待感を抱く面々に対して、ライザーはとても……死ぬほど気だるげに前へと躍り出ると。

 

 

「『安心』出来る毎日を目指したいと思っています」

 

 

 その夢を語る。

 

 

『……?』

 

 

 当然何の事だかわからない他の悪魔達は揃って首を傾げる。

 

 

「心の平穏というべきでしょうか、『勝ち負け』に拘り続けるのでも無く、『無意味な権力』に固執するでもなく、平穏無事に家族と過ごす事であり、それが『幸福』である事を理解しています。

永遠の安心を手にする事が私の――いえ、我等の夢です」

 

『…………』

 

 

 その優しげな語り口調に全ての者が一気にライザーに惹き付けられた。

 

 

「その為ならば―――――我等の『安心』を脅かす者が居るのなら、例え誰であろうと『敵』として認識し、排除するッ!!」

 

 

 そして全身から放たれる七色の炎に全ての者は心を奪われた。

 それは盲目的に傍に居たシーグヴァイラも同じであり、言葉を失う上層部達をどこか『くだらないもの』を見るような目を一瞬向けた後、名を呼ばれる事で『歓喜』の気持ちがあふれでてしまう。

 

 

「シーグヴァイラ・アガレス。

キミは俺を恐れていない……だからこそ俺に遣えるだけでは実に惜しい」

 

「……ぁ」

 

 

 やはり間違いではなかった。

 彼こそが自分にとって全てをさらけ出せる存在……。

 膝を付くシーグヴァイラはそっと自分の頬を手で触れるライザーに思わず頬を染めながら声を洩らす。

 そして子供に言い聞かせる様にライザーは言った。

 

 

「もう一度言おう……友達になろう」

 

 

 優しく……本当に優しい声を放ったライザーに、シーグヴァイラは完全に全ての価値観の優先順位をライザーに変えていく。

 

 

「はい……ライザー様……」

 

 

 己自身すらもライザーの前では無価値であるという意味も込もって。

 

 

「うぉぇぇっ!?」

 

「ぐぅぇぇぇっ!?」

 

「は……ひ、ひぃぃぃっ!!」

 

「こ、これは……ライザー……! キミは一体ッ……!?」

 

「そ、ソーナちゃん! しっかりして!」

 

 

 周りではそれを理解できない馬鹿共が吐きながら発狂している様だが、そんなものなどどうでも良い。

 シーグヴァイラは今確かに『幸福』を感じ取りながらライザーの手を握る。

 

 

「………。どうすんの? 兄貴のカリスマ性的なものがあのシーグヴァイラって悪魔のせいで余計爆発的に進化してんだけど」

 

「正気を保っていられるのは魔王達と、サイラオーグ・バアル辺り。

けど、お兄様に対して『恐怖』しているのは間違いないわね」

 

「だよな。

チッ、余計目立っちまってどうすんだよ兄貴?」

 

 

 この世界の自分自身がライザーに対してトラウマを抉られたせいか、吐きながら震えてるらしいが、それよりも爆発的に進化したカリスマ性のせいである意味かなり厄介になりだしてるとギルとレイヴェルは危機感を募らせる。

 

 

「お前と生きられたら何処でも良いけど」

 

「結局はそうなるわよね。

正直ここに未練なんてもう無いもの」

 

 

 だが結局はギルもレイヴェルも安心の日々の邪魔さえされなければ問題ないし、その為の準備もしてきた。

 シーグヴァイラという存在については予想外だったが、あれだけライザーに対して盲信しているのなら手綱は握れそうだ。

 

 

「と、いう訳です魔王様方? 何やら場が荒れていますが、今を以てシーグヴァイラ・アガレスを我が眷属に正式に加えさせて頂く。

異論はございませんな……?」

 

「わ、わかった……」

 

「くくく、アテが外れた様な顔をなさいますが、どうかされたのか……サーゼクス様?」

 

「……!」

 

 

 灯った炎は決して消えはしないのだ。

 

 

 その後、場は落ち着きを取り戻し、何やらレーティングゲームの話が浮上してソーナとリアスが戦う事になったらしいが、誰もがライザー達に対戦しろとは――言えなかった。

 

 

「キミ達は眷属も揃っていないし……」

 

「そ、そうですな。

それに……あまり頑張らなくても少し休んだ方が良いと我々は思うのだ」

 

「そうですか。ではその様に……」

 

 

 小僧の年齢である筈の彼等に誰もが気を遣う。

 下手に敵と断定されたら何をされるかわからない『恐怖』を抱いてしまったから。

 

 

「ち、ちなみになんだけどさ? アナタはソーナちゃんの夢についてどう思う?」

 

「さぁ、我々には無関係過ぎて―――心底どうでも良い。

作りたけれ好きに作れば良いし、挫折したければすれば良い。

ただ、我々は一切彼女の夢を否定する気は無いが、支援するつもりなど無いとだけ言っておきましょうか」

 

「それは……どうして?」

 

「彼女自身に何の関心もございませんからね。

フッ、大方貴女様は我々を『利用できる』と踏んでそんな質問をしてきたのでしょうが……クックックッ、またアテが外れましたなァ?」

 

「……………」

 

 

 その異質さは妹達の為に使えると思ったサーゼクスとセラフォルーを嗤いながら一蹴するライザー。

 今も昔もライザーは魔王もその妹達も嫌いなのだ。

 

 

「………………」

 

「シーグヴァイラ」

 

「……! 申し訳ございませんライザー様」

 

「「………」」

 

 

 その際、戦力差も忘れてシーグヴァイラが無謀にも魔王二人に対して殺意を向けたのだが、ライザーの一言で直ぐ様おとなしくなり、出すぎた真似をしたと謝罪する。

 

 だがシーグヴァイラはこの忠誠心を糧に爆発的な成長を後に見せる事になる……のかもしれない。




補足
なんたる皮肉か、女性は懲り懲りとしていたライザーくんは、見たことなんて当然ない気質の女性によって覚醒してしまいました。

お陰で『敵』が増える可能性が……。

その2

ゲームには参加できませんでした。

だってヤバそうだって思われてるもの。


その3
シーグヴァイラさん、利用されると知った所で受け入れてるレベルの忠誠心となるでしょう。
そしてきっとリアス達にとっての最初の壁に………アカン、無理ゲーや!

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