色々なIF集   作:超人類DX

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思ってた以上に……色々あるのだ。


子供の想いの強さ

 最近夢を見る。

 

 その夢はとても不思議な夢で、見たことも無い大きな建物が立ち並び、夜なのに星の様に明るくて、多くの人々が行き交う不思議な世界の夢。

 

 そしてその夢には何時も決まって見るのだ。

 

 

『…………』

 

 

 小さい一誠(アイツ)が。

 今よりも小さくて、今よりもアホな顔してなくて、今よりも――暗い目をしているアイツの。

 

 

『どうして私達の子なのに……』

 

『………』

 

 

 これはどんな夢なのか。

 最初見た夢の内容は、恐らくアイツの父と母と思われる二人の男女がアイツが居ない間に何かを話し合っている夢。

 男も女も自分の子である筈の一誠に対してどこか恐怖した様子なのが印象的で……。

 

 

『一誠、お前はうちの子じゃないんだ』

 

『だから本当の家に帰るのよ! アナタは私達の子じゃないの!』

 

『………………』

 

 

 そして挙げ句の果てに捨てる。

 その時のアイツの顔がどんな顔だったのか、何時も記憶に無いけど、私がもし言われたら絶望するだろう非道な言葉なのは間違いない。

 所謂勘当をされたアイツはその後、帰る場所も無く乞食の様に物で溢れ返ってる世界の塵を漁りながらそれでも生きていた。

 時には大人達に塵を漁ったと殴られ、汚ならしい餓鬼だと罵倒されてもアイツは生きた。

 

 

『お、俺を……?』

 

『そうよ、アナタを私が助けてあげる』

 

 

 その後、みすぼらしく生きていたアイツを待っていたのは、血の様に赤く、雪の様に白い肌をした女との出会い。

 ボロボロだったアイツをある日突然現れたその女は保護すると宣言して拾い、アイツに衣食住を与え、アイツの死にかけていた心を救った。

 

 そしてアイツは『悪魔』と名乗るその女やアイツみたいにその女に拾われた『仲間』だと思われる者達と死にかけていた心を蘇らせ―――――る事は無かった。

 

 

『イッセー、残念だけどアナタはもう要らないわ』

 

『キミのその何も考えないで人の心にズケズケ入り込んでくる様な態度はもううんざりなんだよ』

 

『でも大丈夫ですわイッセー君。

追い出しはしません、アナタの神器は仮にも危険ですのでね』

 

『…………』

 

 

 アイツが12になる前に現れた一人の男。

 その男がアイツの仲間達の関心を全て横取りした結果、アイツは悪魔達から『要らない』と言われた。

 しかもただ要らないでは無く、力自体は危険だから一生死ぬまで飼い殺しにするという、絶望以上の恐怖も交えて。

 

 悪魔達の後ろで嗤う男にアイツは二度も心を壊された。

 その時の絶望は……ただこうして外から夢として見ている私だってどれだけのものなのかが理解できてしまう。

 親に捨てられ、やっと出来た繋がりすら一方的に切り捨てられ、挙げ句牢獄に一生囚われる。

 

 私ならもう生きようとは思わない。

 

 死んだ方が遥かに楽だとすら思うだろう。

 

 

『Boost!!』

 

 

 けどアイツはそれでも自由に生きる事を選び、かつての仲間とその仲間を誑かした男に無謀な勝負を挑んだ。

 見ている限りではこの時のアイツは――そう、アイツ等が言う神器という力はあれど、まだ完璧に扱えてはいない。

 だから私が知るアイツとは思えない程にボロボロに……アイツは負けた。

 

 この時は、何故か解らないけど異様な怒りを覚えた。

 無論アイツにではなく、あっさりと捨てた悪魔と呼ばれる者達に。

 そして何もせず見ているだけの私自身に……。

 

 しかしこれは夢だ。

 アイツに触れる事は出来ないし、見ているだけしか出来なかった。

 

 これは恐らく私と出会う前のアイツなのだろう。

 全てに裏切られたという、私の知らないアイツの……。

 

 

 その後どうなったのか。

 その後をまだ夢で見ていない私にはまだわからない。

 ふざけた事ばかり言って、何時も世の中を馬鹿にしているように笑ってばかりのアイツにどうやってなったのか……。

 

 私はまだ知らない……。

 

 

 

 

 各地で黄色い布を身に付けた集団が暴動を起こしている。

 袁紹という……お世辞にも頭が良さそうには見えなかったこれまた女性に無茶振りめいた命令で鎮圧していく訳だが、そろそろ雪蓮がボソッと言うのだ。

 

 

「ねぇ、あの女斬り殺して良いかしら?」

 

「気持ちは解るが抑えろ雪蓮。まだ『機』ではない」

 

「なによ冥琳? その言い方だと何時かは反旗でも起こす様に聞こえるわよ?」

 

 

 袁紹というステレオ風味なお嬢様口調の金髪女性は――なんというかアホなのだ。

 取り敢えず鎮圧するのに数の暴力に頼り、鎮圧後の被害の後片付けは今は袁家の配下である雪蓮達に押し付け、そういうチマチマしたことに対しての支援はゼロ。

 

 

「最近は被害が出る前になんとか神牙とヴァーリと一誠が制圧してくれるから良いけど、ホント、あの三人を偶々拾わなかったらもっと大変だったかもね」

 

「それには同意する。

……元の時代に帰るのを第一の目標としている三人には少し申し訳ないがな」

 

「そうね。三人が来てからそろそろ経つけど、帰りたいのよね……」

 

 

 とはいえ、一人で千人程の働きをする三バカが来る前に襲撃して潰しまくるお陰で、江東周辺の村の被害は相当抑えられている。

 袁紹はその理由を知らないし、また雪蓮達にしてみれば絶対に三人の事を教えるつもりはない。

 

 

『おーっほっほっほっ! 雪蓮さん達よりも私の方がこの三人を上手く使ってあげますわ!』

 

 

 もし知られて、こんな事を言われてみろ――多分現状持つ全戦力を投入して反乱してやれる自信があるし、うっかり八つ裂きにしてしまう。

 しかし今はまだ機ではない。

 この地を守る為には後ひとつ『決定的』なものが必要であり、それを手にするまでは精々あのアホの傀儡になっておいてやる。

 

 

「そういえば、最近よく神牙の夢を見るのよねー」

 

「なに? お前もか? 私はヴァーリの夢を見るんだ。

……その、内容は笑えない夢だが」

 

「そうなの? ……まあ私もそうね。子供の頃神牙の夢だけど」

 

 

 あの三人が来て此処は変わり始めた。

 戦力がどうとかじゃなく……こう、言葉では表せないものが。

 

 

「うーん、私が神牙の夢で冥琳がヴァーリて事は、蓮華は一誠の過去の夢かしら?」

 

 

 でも三人はどこは自分達に対して一線を退いている。

 踏み込んではほしくないと、何か見えない壁を作っている。

 最近それが酷く――寂しい。

 

 

 

 

 あのふざけた男は悔しいけど私より強い。

 蓮華様に対してもふざけた態度は許せないけど、やるべき事だけはやっているのも認めてはやる。

 でも、だからこそ奴が時折見せる顔は――酷く寂しそうだと私は思った。

 

 

「出せよ、テメー等が奪ったもんを」

 

「な、なん――バビルッ!?」

 

「聞こえなかったのか? 出せってんだよボケ」

 

『は、はぃぃぃっ!!』

 

 

 最初に見たのは、各地で黄色い布を身に付けた者達の暴動により、近くの村が襲われた時だった。

 私達が向かうよりも更に速く奴はその村に救援を行ったのだけど、その時は既に遅く、私達が合流した時は村は焼かれていた。

 だが逃げた賊を何人か捕まえたのか、奴は珍しく怖い顔をしながら賊達を地面に殺さない程度に叩き伏せていた。

 

 

「この反物はなんだ? テメーが持つには些か小綺麗じゃあないか?」

 

「そ、それは襲ったこの村の女と子供が持ってたもので……」

 

「………へー?」

 

 

 殴られたのか、顔の半分が腫れ上がる賊が震えながら反物を持っている理由を話した時、奴は笑みを溢した。

 それは普段私や蓮華様、そして子供に向ける様なふざけた笑みでは無く、底暗く……寒気を覚えるものだった。

 

 

「そうかそうか……さぞかしその女子供は泣きながら命乞いをしたんだろうな?」

 

「そ、それは……」

 

「で、お前達は嗤いながら殺したか犯したか……ククククク!」

 

 

 クスクス嗤う奴を見て賊達が震える。

 既に襲撃された後の所々煙が上がる――死体すらも転がっている村にて捕らえた賊の1人が言葉を詰まらせた瞬間、小さく嗤い始めた一誠はその賊の片目を指で抉った。

 

 

「ギィィヤァァァァッ!?!?!?」

 

 

 鮮血と賊の激痛の悲鳴が舞う。

 それは普段の奴とは思えぬ躊躇の無さ。

 

 

「あ……ぎ……ぃ!」

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

「た、頼む! 許してくれ! お、俺達だってこうでもしなければ生きていけなかったんだよ!」

 

「許してくれぇ? テメー等に殺されたここの人達が聞いたら何て言うのかなァ!?」

 

 

 目を指で抉り潰された賊が痛みに喘ぎ苦しむのを見て一斉に他の賊達が次々と命乞いをする。

 

 

「仕方ないんだ! 今の王朝のせいでこんな世になってしまったんだから!」

 

「俺達の事なんて一切考えないで税だけ上げてかれたら食えなかったんだ!」

 

 

 仕方なかった。そう自分を正当化する賊達に私は怒りが一瞬だけ込み上げた。

 散々罪もない者を蹂躙しておきながら……と。

 だけどそんな命乞いの言葉……。

 

 

「牢に入れってんなら入るから! 一生入ることになっても良いから助けてくれ―――」

 

しかしガッカリだなァ!!

 

『!?』

 

 

 掻き消す様な大声で賊達の命乞いを消し飛ばすと、その瞳を鮮血の様に真っ赤に輝かせながら静かに言う。

 

 

「そうやってお前等も命乞いをするんだ?」

 

 

 本当に残念そうな顔をしているのがとても印象的だった。

 

 

「昔、俺を裏切った連中も言ってたなァ? 『裏切るつもりは無かった。本当はそんなつもりは無かった』って」

 

 

 そしてアイツの左腕に何度か見た赤い籠手が現れ、身体から赤い闘気の様なものが炎の様に吹き荒れる。

 

 

「でも俺はその時ソイツ等に言ってやったよ。『命乞いした相手をお前達は見逃したのか?』って……。テメー等は見逃さなかったよなァ? だから俺も見逃さない―――……永遠に死ね」

 

 

 掌から放たれる赤い閃光が賊達を肉体ごとこの世から消滅させる。

 後に残るは死臭のする壊れた村……。

 

 

「はぁ」

 

 

 闘気が消え、目の色も何時ものものに戻っている。

 でも放たれるものはとても冷たく、そして虚しそうだった。

 

 

「……なんだよ?」

 

 

 煙が上がる家屋を暫く眺めていた奴が見ていた私に気付いて目が合う。

 その目はとても暗くて、でも――とても惹き込まれる何かがあった。

 

 

「……………。先行し過ぎだ。蓮華様がお怒りだぞ」

 

 

 コイツが普段からふざけているのは知っている。

 だけど時折心の中に闇の様なものを抱えているのも何と無く察していた。

 きっと蓮華様もお気付きになられているだろう、けれどその事を一度も話した事は無いしコイツに問いだした事も無い。

 

 

「……。皆殺された後だったよ、悪い」

 

「何故お前が謝る。

悪いのはこんな真似をした奴等だろう」

 

「……」

 

 

 そうだ。

 どんなものを抱えていようが、コイツはふざけていて、ちゃらんぽらんで、馬鹿で、町の女に声を掛けまくるだらしない男なんだ。

 そして私や蓮華様に『生き残る技術』を教える男なんだ。

 

 それ以上も以下もない。

 だから私はコイツに何があっても態度を変えるつもりはない。

 

 

「お前、少し自惚れていないか?」

 

「は?」

 

「その異様な力については認めてやるが、自分を万能な存在だと思ってるんじゃないのかと私は言っている。

自分一人で何でも出来ると思うなよ」

 

「……………」

 

「この件は我々全体の責任だ。

お前一人のものじゃない」

 

 

 ……? 何だコイツ。私の言った事がそんなに意外だったのか? ポカンと口を開けたアホ顔だが……。

 

 

「わかったなら今後は独断専行は許さん。

村人を弔い次第戻るぞ」

 

 

 まあ良い。アホ顔なのは何時もの事だ。

 とにかくこの馬鹿と共に殺された村人を他の兵達と弔い、蓮華様のもとへと連れ帰る。

 

 ………最初は近付かれるのも嫌だった私が連れ帰ると思ってるのも滑稽だがな。

 

 

「これから先何があるかわからないし、これからは私を思春とでも呼んでろ」

 

「は?」

 

「呼びたくなければ呼ばんでも良いけどな。

そら、さっさと歩け―――一誠」

 

 

 だが、ほんの少しだけは認めても良いかもしれない。

 私はそう思いながら、まだ暗い顔をしているコイツの背中を押しながら歩いた。

 

 

 

 驚いた。

 何故ならあの思春がアイツに真名を授けたのだから。

 一体何があったのかと思い返せば、多分独断先行して襲われた村へと行ってしまったアイツを思春が追いかけた時なのだろうが……。

 

 

「黄巾賊と呼ばれるあの者達を本格的に鎮圧する為に各地の豪族達を集めた討伐隊が結成されるらしい」

 

「ふーん……それが?」

 

「わからないのか? もしかしたら以前お前達が言っていた天の遣いとやらが現れるかもしれないって事だよ」

 

「なるほど。

キミの言いたいことはわかったけど、袁紹さんだっけ? あそこの下部組織的な位置でしかないし、その戦争に参加させられたとしても会えるかなぁ」

 

「だから名を上げるのさ。

何時までもあんな能天気の下に付くつもりは雪蓮様とて無いはずだからな」

 

 

 凄い。

 思春が普通に話してるぞ一誠と。

 散々暴言の投げ合いだった二人が普通に会話をしているぞ。

 ……と、私が思いながら見てると、視線に気付いたのか一誠と目が合った。

 

 

「? 何だよ?」

 

「いや、最初の頃と比べても随分思春と話せるようになったなぁと」

 

「私が、ですか?」

 

 

 あれ、自覚してなかったのかこの二人? 揃って首を傾げる仕草すら見事に合ってるというのに。

 とはいえ、私も私で一誠のやり方に慣れてしまったのか、妙な行動や言動に大しても怒ることは少なくなっているわけだけど。

 

 

「一誠ー! シャオと遊ぼうよー!」

 

 

 逆に小蓮は日に日に一誠に対する懐き方が凄まじくなっているのだけど。

 今だって思春の修行の面倒を見ていた一誠の背中に思い切り走って飛び付いてきてる。

 

 

「あーもう少し待っててくんね? まだ終わってないから……」

 

「えー? もう良いじゃん、蓮華お姉様や思春ばっかり狡いよー!」

 

 

 背中にしがみつく小蓮をそのまま背負う一誠に不満顔をしている。

 本当に子供にだけは好かれやすいのは、やはりアホだからなのか……。

 

 でもそんな一誠も夢で見る限りではかなり…………いや、やめておこう。

 

 

「えへへ~ 一誠に言われた通りの事を寝る前にしてるからおっぱいも大きくなったでしょ?」

 

「おうそうだな。でも積み重ねが大事だから、途中でやめたらダメだぞ?」

 

「うん! 絶対に『ないすばでー』になって一誠に貰ってもらうからねっ!」

 

「何を小蓮様に吹き込んでるんだお前は……。それに何だその『ないすばでー』ってのは?」

 

「え? それは――」

 

「ダメッ! 思春やお姉様に教えないで! 明命にもだよ!」

 

「――と、言われてるから教えられんわ」

 

「………どうせ碌でもないのだけはわかるから別に良いが」

 

 

 ちょっと小蓮が心配な気がしてならないけど、本当に楽しそうな顔をしているのを見ると、あまり強くは言えないのかもしれないな……はぁ。

 

 

 

 小蓮が初めて見た三バカの印象は。

 

 神牙=一言余計そう

 

 ヴァーリ=微妙にパッとしない

 

 一誠=町にいる女の人や祭に鼻の下伸ばしながら声ばかりかける変な人。

 

 

 みたいな……まあ、特に思うこともない的な印象だった。

 が、偶々その中で一誠と関わる様になってからというもの、あっという間に小蓮は一誠に懐いた。

 というのも、まだ子供だからと周りが忙しそうにしていて相手にしてくれない時であろうと、一誠だけは同じ目線に立って対等に接してくれるのだ。

 

 それにとても優しい匂いがするのも小蓮は好きだった。

 だから何時も女の人に声を掛けてはさっさと断られたり、思春や蓮華にダメだしされてげんなりしている一誠を小蓮はなんとか独り占めしたいと思っている。

 

 

「天の御使いねぇ……絶対に俺達と『同じ』だと思うんだけど」

 

「それって前に言ってた人の事?」

 

「お? ひょっとして興味ある口か小蓮ちゃま?」

 

「んーん、全然ない」

 

「あら……」

 

 

 だから前に聞いた『何時かはこの地を去る』というのも阻止したい。

 その為には何がなんでも一誠をこの場所に留める『理由』が必要だと子供ながらに考えた小蓮は、一誠に貰ってもらう事を思い付く。

 

 

「俺より良い男かもしれないぜー?」

 

「周りがそう思っててもシャオにとっては一誠が一番だもん」

 

「そうかぁ? 照れるねぇ!」

 

 

 そうなれば何時でもどこでもずっと一緒。

 一誠を含めた三人がまだこの地に来たばかりの頃に雪蓮がボソッと『種馬』にでもなって貰うみたいな事を言っていたが、とんでもない。

 神牙とヴァーリは別にどうなろうが良いが、一誠だけは自分ただ一人じゃないと嫌だ。

 

 

「あっ!? 蓮華テメー! それ俺のだろ!?」

 

「お前は何個食べてると思っているんだ!? 一個くらい良いだろ!」

 

「なんだとこんにゃろー! 寄越せ! 俺のだぁぁっ!」

 

「や、やめっ――ど、どこを触ってるんだ!」

 

「うるせー! 寄越せぇぇっ!!」

 

「やめろこの馬鹿! 食いたければ私のをやる!!」

 

「……ん、なら良い」

 

「食い意地の張った奴め。蓮華様になんて事をするんだお前は……」

 

「食い物に偉いもクソもあるかよ……んめーんめー」

 

 

 だから蓮華と思春は小蓮にとって大きな壁だ。

 やり取りは男女のやり取り等では決してないし、今だって蓮華と料理の奪い合いで取っ組み合いにまでして、それを思春が止めるといった感じだけど、その分異性の壁がまるでない――――と、幼いながらにそう一誠の膝の上に座りながら小蓮は分析する。

 

 

「欲しかったならシャオの分をあげたのに……」

 

「それはダメだ。育ち盛りは食べなきゃいけないのだ」

 

「……。小蓮に甘い癖に何で私には容赦が無いんだ」

 

「そういう奴だと思いましょう蓮華様」

 

 

 これが逆転して異性として意識し始めたらマズイ。

 一誠が二人に取られる――と、本当にマセた事を考えている小蓮は特にこの二人を警戒していくことを改めて誓いながら、食べ終えて満足そうに笑みを溢している一誠の胸元に顔を埋めながら抱きついた。

 

 

「一誠……好き」

 

「ふはぁ、食った食った―――へ、なんか言った小蓮ちゃま?」

 

 

 今はまだ子供としてしか見られてない。

 最初は別にそれでも良かったけど、今はそれが辛い。

 子供だから優しくしてくれるのは嬉しいけど、異性として見てくれないのはもっと辛い。

 

 

「好き。大好き。誰よりも好き」

 

「お、おい小蓮?」

 

「だから思春やお姉様にだって渡さない。一誠はずっとシャオと一緒。

誰にも渡さない。誰にも触れさせない……」

 

 

 初めて抱いた真剣な恋心は未来の時代から偶発的に来てしまったいい加減な男。

 小蓮はいい加減でも、時折放つ怖い雰囲気も、残虐な態度も、なにかもかもをひっくるめた一誠がそれでも大好きで、ちょっと困った顔をする一誠やオロオロしてる姉と部下に宣言するかの如く言うのだ。

 

 

「嘘じゃないよ? 一誠とこうしているだけでシャオの胸はずっと苦しいし、お腹の中が切なくなる。

大人になってからって一誠は何時も言うけど、シャオは待てないよ……今すぐ一誠の赤ちゃんを産みたい。

でもそれを言うと一誠を困らせちゃうから、まだ我慢できる……。

だからどこにも行かないで? シャオが大人になるまで居なくならないで……? じゃないとシャオ――死んじゃうからね?」

 

「「「………………」」」

 

 

 子供の安易な気持ちではないことを宣言する小蓮に、一誠は思わず蓮華と思春と顔を合わせながら微妙に困った。

 だって言ってる事がそこら辺の大人よりアレだったから。

 

 

「えへへ……一誠、だーいすきっ♪ それと、その二人とシャオが大人になる前に仲良くなってもシャオは死んじゃうかも?」

 

「はい?」

 

「「…………」」

 

「そもそも仲良くないのになんで言われてんの俺?」

 

 

 天真爛漫さが仇になりすぎてしまっている。

 小蓮は小蓮なりに……真剣と書いてマジなのだ。

 

 

「このやろ、またマセた事を言ったな? 擽り地獄じゃい!」

 

「キャハハッ! や、やめて一誠ぇ!」

 

 

 もっとも、一誠もアホなのでそういう事をしちゃって余計に想いを強くさせてしまう訳なのだが。

 

 大きな戦いは近い。




補足

原作よりかなり前倒しに一度下僕になってたのですが……まあ、原作レイナーレよりも強いトラウマがね。


その2
故に一度スイッチが切り替わるとかなり残虐度が高まるけど、ある意味この時代には合ってるのかも。


その3
末っ子ちゃん――マジです。

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