かつて少年は実の親に捨てられた。
少年の抱える『常人』には理解出来ない
だから少年は捨てられた。
実の親から最後に『お前は拾い子なんだ』と嘘までつかれて。
その言葉を真に受けてしまった幼い少年の心は傷付いた。
これから先どうやって生きていくのかを少年の心に宿る相棒の龍が教えてくれる事で生きられることは出来たけど、親の庇護も無い少年は偏見と差別の目に晒せていく事で『自分はこの世のカス』だと歪ませていくのに時間は掛からなかった。
けれどそんな少年を一時的に救ったのが居た。
それは少年の持つ力に吸い寄せられる形で現れた悪魔の少女。
名をリアス・グレモリーと名乗ったその悪魔は本来ならもっと先の未来で出会う筈の少年と出会い、保護し、力の扱い方を教えていき、その時は確かに親に与えられなかった本物の愛情を与えた。
けれど所詮リアスは悪魔だ。
そしてリアスが保護した者たちもそんな純粋悪魔のリアスに染まっていくのも仕方ない事だ。
結局の所リアスが少年を保護したのは彼の宿す神滅具と、歴史上例の無い謎の力を保持していたからだ。
全ての環境と力に適応し、糧として無限の進化を促す
当時その力をリアス達は共に先に進む力として頼りにして居て、少年も純粋だったが故に彼女達の為になるのであるならとこの力の一部を共有していた。
そう、彼の力は信じた他人をも引き上げさせるという特性を孕んでいたのだ。
そのお陰でリアス達も本来まだ到達する筈の無い領域に速くも進化し、そしてそれを更に伸ばしていった。
両親に捨てられる程に嫌悪されていた自分の力が誰かの役に――リアスの役に立てるのであるならこんなに嬉しいことはない。
………彼女に恋心を抱いていたのもあって少年は自身の――とある世界では異常性と呼ばれる個性を伸ばしていった。
けれどそんな幸せな日々は長く続かなかった。
リアスの下僕となって丸5年。
当時10に差し掛かる年齢になっていた一誠はこの事を終生忘れないだろう出来事によって再びドン底へと突き落とされた。
「紹介するわ。
この前友人になった◯◯よ」
「よろしく」
リアスが友人と言って連れてきた自分達とそう年の変わらない、不自然な程に整った容姿の少年。
左右の眼の色も違うその少年はリアスの友人として仲間に加わり、そして一誠達も彼と関わる事になる。
だがこの男の出現が『他人を信じる』という心を育てた一誠の人生を狂わさせていく。
そう、リアス達が徐々にその男を盲目的に信じ、恋愛感情を示し始める事で。
リアスに恋心を抱いていた一誠にしてみればそれは確かにショックだったけど、恋愛というのはほろ苦い事もあるとどこかの漫画本で読んだ事もあったし、リアス達が幸せならそれで良いと思っていた。
けれどその男は徐々に一誠にだけそのドス黒い本性晒していくのだ。
「チッ、なんでお前が既に眷属なんだよ? 原作と違うじゃねぇか」
何を言われてるのかは当時まるでわからなかった。
でもこの男が自分をあの時の両親の様に毛嫌いしているのだけは態度で理解できた。
何故嫌われているのだろうか? 何か彼に対して不愉快な事をしてしまったのだろうか? 当時まだ純粋な面を多く持っていた少年は、彼とも友達になりたいからと必死にご機嫌取りをしたり謝ったりもした。
けれどその男が自分をゴミでも見るような見下した目を決してやめなかった。
いや、そればかりかその男は全幅の信頼を勝ち取ったリアス達に少年の害悪さを吹き込み、そしてそれを信じ込ませたのだ。
その結果、少年はリアス達から見捨てられた。
あれだけ優しかった皆が男の様に自分の事をゴミを見るような目で見る。
そればかりか、人格まで否定する。
挙げ句の果てには力だけは使えるからと死ぬまで飼い殺しにするとまで言われた。
……リアス達の半径10メートルは近づくなとまで言われて……。
少年は再び絶望した。
所詮自分は力だけしか価値の無いこの世のカスだったのだと、信じる心を再び失った。
この時、最早父親代わりといっても過言では無かった相棒のドライグが味方でなかったら自分はとっくに死んでいたと彼は思う。
ドライグは言う。
最早お前の信じたリアス達は死んだ。アレはあの男の都合の良い人形だと。
だから逃げろ。このままではお前は殺される。
ドライグの言う通り、リアス達は最早その男しか見えていない。
まだ幼いのにその男を巡って争う様を見たときは最早恐怖しか感じなかった。
助けなければ……少年は男に戦いを挑んだ。
リアス達を正気に戻すんだと、まだ彼女達に情を抱いていた少年は戦う事を挑んだ。
だが男の力はあまりにも強大であり、当時まだ潜在能力の全てを引き出せなかった子供に勝ち目は無く、更に言えばリアス達までもが、躊躇せず殺意を向けてくるのだ。
多勢に無勢……一誠はぼろ雑巾の様に弄ばれ、何とかドライグの助けもあって死んだと思わせての逃亡に成功はしたが、身体と心に永遠に癒えない傷がついたのは語るまでもない。
奇しくも逃げ出したその日は少年の誕生日。
最高に最悪の誕生日を迎えてしまった少年は再び孤独になったのだ。
けど少年はそんな絶望的な目に遇わされていてもまだリアス達に対する情は深く残っていた。
自分は嫌われていても構わないけど、正気に戻って欲しいという願いはまだ残っていた。
その強い心により無限進化の異常性は皮肉にも高められていく事になるのだが、その無限を察知して現れた黒い少女との出会いはまたしても『運命』だったのかもしれない。
「……お前に我と似た力を感じる」
「だ、誰……?」
『!? こ、コイツまさか……オーフィス、か?』
「久しぶり赤い龍」
無限の龍神。
世界最強クラスの龍。
オーフィスとの出会いはギリギリ砕けそうになった少年の心を持ち直させる事になる。
「大丈夫。我と一緒に居ればもう誰も傷つけない」
「……………」
オーフィスは同じ孤独を持つ少年に優しかった。
その言葉は深く心を傷つけた幼い少年にとってまさに救いだった。
だから少年はオーフィスと共に先を歩んでいった。
今は彼女というカテゴリーであるオーフィスの無限を学び、そして自分の無限をオーフィスに教えていく事で無敵のコンビが完成する筈だった。
けれどそんな幸福もリアス以上に長くは続かなかった。
そう……またしてもあの男が現れたせいでオーフィスはアッサリと向こう側についてしまったのだ。
「◯◯といると安心する」
「………だってよ死に損ない?」
「う、うそだろ……」
『こ、このゲスがッ!! 貴様はイッセーに何の恨みがある!?』
「別に無い。
が、存在事態が気にくわなかったんだよね、昔から」
そして知る。
この男は何故か自分の知らない自分を知っていて、それが心底気にくわないから攻撃するのだと。
オーフィスすらも奪われた事で完全に心が砕けた少年は最早すべてがどうでも良くなった。
男の持つ強大な力を避けもせず、生きる意思を放棄してしまった少年は大人しく死を選んだ。
まだ11になったばかりの少年が耐えるには不可能な精神的重圧に対してついに折れてしまったのだ。
だけど少年は生き残ってしまった。
心が折れた瞬間、相棒であり唯一残った親友であり、父親代わりでもあったドライグがイッセーに対する父性を覚醒させ、命懸けで彼の神器とした守ったのだ。
『まだ死ぬなイッセー! 悔しくないのか! お前はあんなチンケな男に仕返しをしたくはないのか! 立て!!!』
「ドライグ……」
完全に独りではない。何があろうともあんな白状な連中とは違って絶対に変わらない自分が傍に居てやる。
この言葉が無ければイッセーはもうこの世には居なかっただろう。
そしてイッセーは汚くても生きる道を選ぶ。
決して他人は信じられなくはなってしまったが、どんなに汚くても生き続ける道を選んだのだ。
………二人の親友と出会い、再起するその日まで。
そして時は流れ、彼は今不思議な過去の世界に飛ばされている。
その世界で自分と同じ様に飛ばされた一般人の青年と出会い、過去の三国志の英雄の名前を持つ女性達と出会い、色々な体験をすることになるけど、ドライグと親友二人以外を決して信用しないイッセーは心に壁を作って決して他人を踏み込ませはしなかった。
歩み寄られてものらりくらりとかわし、自分が信じられるのはドライグと同じくこの世界に別の場所へ飛ばされた友人二人だけ。
それは帰還するその日まで決して変わらないし、似たようなトラウマを持つ友人二人だって同じだろう。
………そう思っていた。
『悪いが一誠、お前とはまだ合流できないんだ』
『少しやる事が残っていてな……』
『やる事、だと……? まさかお前達、こんな訳のわからん世界の、それも赤の他人に情でも抱いたのかよっ!?』
『『………』』
『嘘だろう!? 忘れたとでも云うのかよ!? 俺達はその情を持ったせいで散々な目に逢わされたんだぞ!?』
『悪い一誠……』
『お前の気持ちはわかるが、この世界の者達が全てそうだとは限らないだろう?』
『な……!』
ショックだった。
赤の他人を信じてる友人二人が。
そしてその二人が其々自分の知らない三国の登場人物の名を持った女共に頼られているのを……。
『ぐ……ぐぅぅぅっ……!!!』
殺意が沸いた。
そんな訳は当然ないと頭ではわかっていたけど、その者達がかつての男と重なって見えた。
ドライグの声も聞こえない今、すがれる友人二人すらもどうでも良い奴等にかまけているのが悔しかった。
『殺してやる……テメー等全員皆殺しにしてやるッッ!!!』
彼は――トラウマが強すぎて依存してしまう傾向が強かったのだ。
故にその感情の制御が効かなくなれば、彼はその無限に沸き上がる激情を撒き散らす怪物と化すのだ。
『ガァァァァァッ!!!!!』
『!? まずいっ! 下がれ!』
『チッ……! 止めるぞ神牙!』
無限に沸き起こる嫉妬、憎悪、怒り。
それは一誠の全身を不気味に赤く輝かせ、瞳もその理性と同じように瞳孔を失う。
ドライグという枷の声も届かぬ今、目の前の全てを破壊し尽くさなければ最早止まらない。
一誠は暴れた。
周囲の物を破壊し、一誠の事を其々二人から伝でしか聞いていなかった少女達を戦慄させる程の強大な殺意を乱暴に振りかざしながら一誠は理性を失って暴れまくった。
だが二人に止められてしまった一誠は結局誰も手に掛けることは幸い無かった。
『もう少しだけ待っててくれ。
俺もヴァーリも決してお前を裏切ってはいない』
『やるべき事が終われば必ず迎えに行く』
『……………………』
二人に敗けた一誠は何も言えなかった。
そしてその日から暫くかなり荒れた。
少しでも視界に目障りなものがあれば破壊しまくる程に。
『なんっ……で、こんな所に邪魔な桶があるんだァァァァッ!!!!!』
その荒れ方は反抗期どころではなく、蜀という括りでもなくなっていた仲間達も近づけなかった。
それでも物に当たり散らすだけで、人に暴力を振るわないだけまだマシだった。
その分、敵にしてみれば悪夢そのものだが。
そしてそんな反抗期状態の一誠に近寄った勇者が――そう、月や詠達と共に降ってきて一誠の家に住み着いた呂布こと恋だった。
『…………そんなに怒っていたら疲れる』
『あ゛? うるせぇぞクソボケが』
目が常時殺意によって血走っている一誠には一刀達ですらどうしたら良いのかわからなかった。
ちょっとでも触れたら爆発しそうな危険状態の一誠に近寄けるのは、弱体化している今の彼に食らい付けた恋くらいだったのだ。
『……。なんで一誠が怒っているのか恋はわかっているつもり』
二人の友人が自分だけを置いて遠くに行ってしまったと思っている一誠の心情を的確に言い当てる恋に、一誠は両目を不気味に血走らせて瞳孔をこれでもかと開かせながら声をあらげる。
『じゃあ是非共ほっといてくれや? 間違えてキミの腸を引きずり出して口の中に突っ込んでしまいそうだからよォ……!』
ドライグとの意思疏通が未だに復活しない今、精神の制御がまるで効いてない一誠はとても低く、傷ついて気が立っている獣の様だった。
下手をしたら本当にやられる……普通なら彼のやりかねない姿を知る者は尻込みするのだけど、恋は違った。
『……違う、一誠は怒っていない。本当は泣いてる』
『………あ゛ぁ゛?』
気が立ってる様に見えるのも、周りの物に当たり散らしているのも、言葉遣いが普段の倍以上に酷いのも全部建前。
本当はあのヴァーリと神牙という一誠にとってトモダチらしい二人の青年に置いていかれた事を悲しんでいると恋は見抜いていたのだ。
だからこそその心を見透かされた一誠は…………この世界に来てからきっと初となる、全力の殺意を恋に向けたのだ。
『知った様な口を聞くな。
テメェに俺の何がわかるんだよ……アァッ!?』
全身から血や恋の髪の色を連想させる炎の様な闘気が吹き荒れ、今る一誠の部屋のものを破壊していく。
だけど恋はそんな一誠に怯える事も無く、一歩近づく。
『壊したらダメ。
壊したいときは別の場所に行こう?』
『っ!? それ以上俺に近づくなっ!!!』
こっちに来たと反射的に一誠が手を恋に向かって翳して赤い光弾を放ち、それが命中してしまう。
腹部に直撃した恋の身体は部屋から庭へと壁を破壊しながら吹き飛ばされ地面に横たわる。
『………………』
『うっ……!』
だけど恋は立ち上がった。
そして何事も無く再び庭から屋敷へと入ると、手を向けたまま絶句している一誠に近づこうとする。
『来るんじゃねぇ!!』
一誠はまだ近づこうとしてくる恋に今度は光弾を何発も放ち、叩き込んで再び吹き飛ばした。
庭に放し飼いにしている恋の拾ってきた動物達が心配そうに恋に駆け寄るところを見ると動物達には当たって無い様だが、それも何時までかわからない。
けれど恋は防御も何も無しに真正面から何度も当てられているのにも拘わらず立ち上がると、再び一誠へと近付く。
『う、うぜぇんだよそろそろォ!!!』
最初から何を考えてるのか分からない一誠は、それでも尚近づいてくる恋に今度は全力の一撃を目の前に立った恋に放とうとしたその時だったか。
『!?』
『恋だって痛いものは痛い……』
耳を塞ぎたく様な高音と共に放たれかけた一撃を手を掴まれる形で防がれた一誠がビクッと怯えた子犬の様な反応をすると同時に腕を引っ張られ、そのまま何を思ったのか抱き締められたのだ。
『な……』
手首でもへし折られるかと思っていた一誠が今自分がされている事に驚いて身体を硬直させてしまう。
『こうすると落ち着く。だから一誠にもしてあげる』
『ふ、ふざけるなァ! 俺の中に入り込むんじゃねぇ!!!』
だが恋の言葉に自分の心の領域に土足で入り込まれたと激昂した一誠は恋を突き飛ばし、直接殴ってしまう。
『知った様な事をベラベラとほざきやがって……! ムカつくんだよおま―――』
『大丈夫……殴られても恋は怒らないから……』
しかしそれでも恋は何度も立ち上がっては錯乱していた一誠の身体を抱き締める。
心に壁を作っている事はこれまで過ごしてきてわかっていた。
一誠が他人を信じてないのもわかっていた。
そして唯一信じていた友人二人に置いてけぼりにされてしまって心に傷を負った事もわかっていた。
だからこそ、その友人が居ない今、自分が一誠になにかをしてあげなければならない。
と、右も左もわからない赤子の様に泣く一誠に何かを芽生えさせた恋は何度も何度も、拒絶されても尚一誠の傍に歩み寄った。
『大丈夫、大丈夫だから』
『ぁ……う、うぅっ……!』
その内一誠は恋の包容に抵抗する事無く崩れ落ち、そして身体を震わせた。
何で彼女にこんな真似をされているのかは分からないし、何であんなに殴られた相手にそこまで出来るのかは分からなかったけど、包容を受け入れた一誠は確かに『安堵』してしまったのだ。
『クソ……ちくしょぅ……なんで俺は……!』
『…………大丈夫。恋が居る』
『う、うるせぇ……うるせぇよォ……!』
愛情求めても掴めなかった。
掴みかけても奪い取られてきた少年は今やっと友情とは違う情で包まれた事で殺意を抑え込められた。
そしてこの日を境に一誠は落ち着きを取り戻し、単なる部屋貸し相手だった恋や音々音達に対してほんの少し歩みより始めたのだ。
そしてその結果……
「あの、俺と一発どうですか?」
「う、うん……良いよ。
じゃあこっち来て……?」
「へ? あ、いやこれは冗談で――あれ、ねぇ恋ちゃま!?」
一刀に言われるがままに原始人みたいなナンパをしたら、最初はポカンとしていた恋が何時も町で口だけ番長状態で色々な女性をナンパしてる時に何時も彼が吐いてる台詞だと知っていたので、直ぐに意味を理解して頬を紅潮させると……昼間なのに部屋に連れ込んで――――
「や、ヤベェ。マジでヤバイ。どうしよう、ねぇどうしてくれんの?」
「け、結果オーライだと思うぞ?」
「どこがだよ!? 俺の予想は『ありえない』って冷めた目で見られて終わると思ってたんだぞ!? そ、それがあんな……!」
「女性陣達が出歯亀しようとしまくりで、俺は苦労したんだぜ?」
「知らねーよ!? どうするんだよ!? 避妊具無しでズルズルとやらかしてしまったんだぞ!? し、しかも互いに初めてだったっぽいし…」
「良かったじゃん」
「よかねーよ!! どうするんだよ、まともにあの子の顔見れないんだけど!」
大人になりましたとさ。
「そりゃ最近あの子と暇すぎてチチをもぐ歌を歌いながら振り付けとかしてたけど、もぐどころか別の箇所を貫通させるだなんて……」
「案外押しが強いからなこの世界の女の子って……」
「……。その言い方だとまさかキミ……」
「ま、まぁね……」
「………。キミはとんだプレイボーイだな」
そういえば彼は結構モテてたな……と、色々な三国の名前持ちの女性達の事を思い出す一誠。
まあ、誰と何人寝ようが無理矢理でなければ別に否定する気は無いし、自分には何の関係もないので特に思うことも無いが、問題は恋だ。
そもそもの始まりは、冗談で原始人みたいな口説き文句を言った自分であり、暇すぎて宿していた神器の扱い方から基礎的な邪道戦法等々を教えたせいでスペックが跳ね上がり、今の自分と拮抗しうる領域にまで到達しているのが恋なのだ。
なので抵抗しようにも抑え込まれ、冗談だと訴えてもその冗談という言葉を冗談だと捉えられ、凄い嬉しそうに尽くしてくれて………。
「まさかあのバカ二人もこんな事になってねーだろうな……」
「えっと、ヴァーリって奴と神牙って奴の事か?」
終わって暫くはフワフワした気分だったけど、冷静になればなる程、やらかしてしまった度合いが今までの比では無い。
そればかりか、ヴァーリと神牙も似た事になってやしないか少し心配になる。
「いや、ヴァーリはED疑惑が浮上してたから無いな。
神牙は――微妙だが」
「EDて……」
こんな下ネタをベラベラ語り合えるのは同姓の一刀しかおらず、ただ今一誠はそこら辺の小さな小料理屋で飯を食いながら二人きりで話し合っていた。
「でもアイツ女の尻の形を選り好みしてたし……クソ、どちらにせよ合流できない理由がそんな理由だったらマジでぶっ飛ばしてやる」
「ま、まぁまぁ……」
基本的に一誠が珍しく愚だを撒いて一刀が聞き手になるという形であり、自棄食いのせいか普段より食事の量が凄まじい。
どれくらい凄まじいのかというと、どこかの宇宙最強の戦闘民族並みにバクバク食べていた。
「恋だって本気だったんだからさ……」
「だから困るんだよ。
キミはどうか知らないけど、俺達は何時までもこの世界に居る気は無いんだからよ」
敵意なら大いに結構。
しかし好意を抱かれたらどうしたら良いのかがわからない。
ましてやあのリアスに似た髪の色とオーフィスに似た口数の少なさという、色々な意味でツボを押してくる様なタイプなのだから。
「鈴々や雛里や朱里が凄い悲しげだったんだが……」
「あ? なんで?」
「……………。いや、うん」
だからどうして良いのかわからない。
気を許してまた裏切られたら今度こそドライグとも話せない今死ねると思いながら、大して強くもない癖に癖の強い酒を飲んでしまう。
「ヒック……つーか鈴々ってのが張飛さんだってのは解るけど残りのその真名らしき名前の二人は誰の事だよ?」
「諸葛亮と鳳統の事だよ……。
本当に一誠って恋とねねを真名で呼んでるのが奇跡ないのでぐらい心の壁だらけだな……」
「あぁ、あのちびっ子か。
そのちび三人が悲しげって何でよ? ウィック……親父ぃ! 酒が切れた! もっと持ってこい!!」
割りと最初の方に仲間になったロリ軍師の真名を一誠も貰っていた筈だが、未だに忘れてるというか呼ぶ気は無いという態度に一刀はやけ酒に入り始めるのを止めながら二人には聞かせられないと思う。
あの二人も一誠の放つ子供には実は結構優しいオーラを感じ取ってるせいか、結構頻繁に訪ねてるらしいが、心の壁が凄まじい一誠はこんな感じだ。
「試しに聞くけど、雛里はどっちだかわかるか? 朱里は?」
「あ? えっと、多分とんがり帽子被ってる方が朱なんたられ、雛なんちゃらが金髪らね?」
「ろ、呂律が……。しかも反対だし……」
やっぱり聞かれるわけにはいかねぇ。
基本的に最初に出会った桃香や愛紗や鈴々の顔と名前と真名は一致させてる様だけど、それ以降の例えば星ち至ってはウザい奴としか思ってないらしい。
馬超こと翠とか以降はほぼ覚えて………
「黄忠こと紫苑の事は……?」
「ああ、それは知ってる。
未亡人って聞いて張り切ったら呆気なくかわされましたけど? それがなんれすか? どーせキミと違って俺は無愛想で頭の悪そうなアホ顔野郎ですよっ!!」
と、思えば自分のストライク属性はちゃんと覚えてナンパまで仕掛けているのだから、彼は中々酷い男だ。
普通に断られたらしいが。
とはいえ、この一誠の壁の厚さを考えたら成功したとしても寸前でかわして逃げる可能性はあったのだろうが。
「酒ッ! 飲まずにはいられないッッ!!」
「どこかの吸血鬼化前の悪のカリスマみたいな事言ってないでそろそろ帰るぞ……」
「どこに帰れってんだぁ~!? ここが俺の家じゃあ! ギャハハハハ!」
そうこうしている内に完全に泥酔化した一誠に肩を貸しながら店を後にする一刀は、横で一人ヘラヘラ笑いまくる一誠に酒を飲ますとこうなるのかと知っていく。
「うぇひゃひゃひゃ! 目の前がグルグルしゅるじぇー」
「飲み過ぎだぜ。
はぁ……余程ストレスを溜め込んでたんだな。
まあ、順応してしまった俺と違って一誠はな……」
「北郷さん! もう一件! もう一件行きましょっ!」
「わかったわかった……!」
ダメだ、とにかく家に帰そう。
辺りが暗くなり始めた、一刀が仲間や一誠の協力で作り上げた傭兵国家めいた国の城下町を外へと向かって歩いていく。
その間も一誠は一刀にベロンベロン口調で『もう一件!』と煩いが、適当に聞き流せている辺り、彼もそんな経験を何度かしたのだろう。
主に酒好きな女性に連れ回される的な意味で。
「ほら着いたぞ一誠」
「んがぁ?」
そんな訳でこれ以上飲ませる訳にはいかないと思った一刀は、もう一件を連呼し疲れて意識混濁状態になった一誠を屋敷まで送った。
「俺んちじゃないっすかぁ~」
「そうだ、一誠の今の家だ。
お前は飲み過ぎだから大人しく家で寝ろ」
「なんでぇ……」
屋敷の門を潜るとたくさんの犬猫が出迎える。
恋がそこかしこから拾っては世話をしてしまうらしく、一誠も文句は言いつつも懐かれてるらしい動物達が千鳥足の一誠の足元に寄って心配そうな鳴き声を出している。
「一誠は大丈夫だ。
恋かねねはいるか?」
言葉が通用するとは思えないが、とても心配してる様に見える動物達にそう声を掛けた一刀は、ふと足元から視線を上げると、恋とねねが居たことに気付く。
「あ、二人とも……」
「帰ってこないと恋殿がずっと心配してたのですが……」
「あ、いや……飯を食うだけのつもりが酒まで飲んじゃってさ。
そうしたら一誠の奴はこんな事に……」
「お酒? 飲んでる所なんて見たことありませんでしたが……恋殿、どうやら無事の様ですよ」
「………」
ねねの言葉にこくりと頷いた恋が肩を借りて何とか立っていた一誠を引き取る。
「じゃあ一誠の事頼んだぞ二人とも」
「ん」
「言われなくても分かってますよ!」
うん、やっぱり誰か居ると安心できるなとよくぞ一誠の心の壁を唯一縫って入ってくれたと二人に感謝しながら自分の根城へと帰っていく一刀。
だが、帰った途端、ちびっ子達に行き先を聞かれて一誠と飲んでたと話した瞬間、物凄く癇癪を起こされる事になるとはまだ知らなかった。
「酷いのだご主人様! どうして鈴々達も連れていってくれなかったのだ!」
「そうです! あの一誠さんと一緒しかもお酒で泥酔しせいただなんて!」
「うぅ、酔っ払った一誠さんを見てみたかったのにぃ~」
「こ、今度機会があったら連れていくから……」
「しかし一誠が泥酔か。
それはそれで普段の仕返しの話題として見てみたかったもしれませぬ……」
「星は大体あの方に無視されてるからな……」
「あ、あはは、この前もしつこすぎて『そろそろ黙らないとその口縫い合わせるぞ』って言われてたもんね星ちゃん……」
「何故私だけそんな位置に置かれてるのかが納得できない……! そもそも私の方がそれなりに付き合いは長いだろう! それこそ恋とかよりも!」
「そのしつこさが嫌われてる理由でしょうよ」
「詠ちゃん! そ、そんな事言ったらダメだよ……!」
「仕方ないだろ!? 話し掛けても反応が無くて、かと思ったら恋や音々音にはちゃんと返事するのを目の前で見せられたら腹も立つだろう!?」
「い、一応星の印象は聞いてみたけど――」
「!? なんと言ってましたかご主人様!?」
「ええっと……酔ってたから本音じゃないと思うけど『たまにしつこすぎて逆さ吊りにして井戸の底に沈めてやりたくなる時がある』………って」
「………………」
「せ、星ちゃん……酔ってただけだから。ね?」
「気難しいお方なのは最初から知っていただろう?」
「べ、別に気にしてはいないさ。ただ腹は立つがな……うん」
何故か趙雲こと星だけが異様に嫌われてるという話に言われた本人はそれなりにショックを受けていた。
もっとも、朱里と雛里も名前を逆に認識されてると知ったら泣くどころじゃないが。
そしてそんな泥酔男は……。
「み、みじゅ……」
「ねね、水」
「はい!」
殆ど初体験の、しかも昔のアルコール度数なんかクソ喰らえレベルの強い酒を飲んだせいで大変な事になっていた。
「め、目が回る……」
「ほらお水。ゆっくり飲む」
「おぅ……んぐんぐ……」
「弱いんですねお酒が……」
凄まじく弱っていて、恋に水を飲まされている一誠を見て音々音は背中を擦る。
「はぁ……おれなんで家にいんの?」
「ご主人様に連れてきて貰ってた」
「酷く酔ってましたよ?」
「酔って……? そうか、途中からワケわからん量の酒を飲んでた気はする」
酷い胸焼けを感じながら取り敢えず立とうとする一誠。
しかし古代の療水こと酒のパワーは現代っ子でしかも酒なんて飲んだためしも無い一誠には強すぎたらしく、平衡感覚がぐちゃぐちゃで上手く立てない。
「うぉっ……!?」
「……!」
それはまるで自称天才がマジギレした伝承者に秘孔を突かれてうわばらするくらいに足の制御もままらなず、そのままあらぬ方向へとぶっ倒れそうになるのを、恋が慌てて止めようとするが、そのまま一誠は全体重を掛けて恋を押し倒してしまった。
「…………」
「れ、恋殿……」
妙な現場を目の当たりにしてしまった音々音はちょっとどうしたら良いのかわからないまま、固まる恋と一緒に押し倒してもたれてきて動かない一誠を見ると……。
「…………くかー」
寝てしまった。
今ので電池が切れたとばかりに一誠は恋の胸に顔を突っ込んだまま寝てしまった。
「ね、寝てしまった様です……」
「………」
「くかー……」
確かに寝ている。
思いきり押し倒されてる状態で確認する恋は取り敢えず何と無く一誠の身体に腕を回して抱き締めると、音々音に言う。
「ねねも一緒に寝る」
「え!?」
もうこのまま寝てしまおうと。
だけど――
「リアスさん……オーフィス……」
「…………」
「ね、寝言でしょうか? 誰かのお名前……?」
「……………………………」
勘というべきなのか。
見知らぬ女っぽい名前を寝言で聞かされた恋は胸の奥が締め付けられる様な寂しさを感じて……
「………」
「れ、恋殿!? ど、どうして衣服をお脱ぎに――むぐっ!?」
「静かにする」
着ていた服を脱ぎ、グースカぴーすかと寝ている一誠に身を寄せるのだった。
そして――
「んが……? な、なんだ? 俺はいった――――――いっ!?!?」
ズキズキと痛む頭を押さえながら起きた一誠の視界に飛び込んで来たのは、全裸ですやすや寝てる……彼女であった。
「…………………………」
恋だけじゃなくてねねも反対側ですやすやしてる。
「うん、これは夢だ。
寝れば全てが幻だったとわかるさ……あは、あはははは」
現実逃避に走った一誠はそのまま眠るのだった。
起きて現実を改めて突き詰められるその時まで。
「あ、あのさ……俺何かした? 昨日の事何も覚えてなくて……」
「立てないくらいに酔ってて、そのまま恋にもたれて寝てしまった。
それで何度か知らない人の名前を言ってたから、寂しくなって服を脱いだ。
ごめんなさい、寂しくなったから寝てる間に……」
「あ、あっそう……。その、よ? さっきから腹を撫でてるのはなんで?」
「……………20回は恋の中に――」
「にっ!? 嘘だろ!? や、やめろ! 頬を染めてこっちを見るな! な、なぁねねちゃまよ!? 嘘だよな!?」
「…………間近で見せられた辛さは一誠には分からないでしょうよ」
「………」
そして思ってた以上に現実の記憶無き自分はハッスルかましてたんだと。
一誠はいよいよのらりくらり軽口戦法が通用しなくなってきたのだった。
終わり
補足
呉ルートとの違いのひとつ。
オーフィスとも出会ってたけど、碌でもない末路。
だからどっちの要素がありそうな気がする恋さんには若干弱いのだ。
その2
もっとも、重ねてる訳ではないですけど。
だけど意外と生真面目になって混乱して酒飲んで北郷君に愚だ撒きしまくったとさ。
その3
趙雲さんは基本なんか嵌まってないのか、しつこすぎるのでたまにキレられてます。
しかも酷いことに全員の真名すらあんまり覚えてないし、あわわだかはわわに至っては名前を逆に覚えてるという………ATフィールドが強すぎるからね。
その3
そんな過去もあり、一回でも信じた相手に対する依存度が凄まじい。
お父さんことドライグ君と意志疎通が復活したら多分彼女にめっちゃ挨拶しそう……