色々なIF集   作:超人類DX

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ボスが更なる覚悟をもったり、街で変なのが出没したりとそんな話


赤い龍と子龍さんの噂

 目には目を歯には歯を。

 生きる事に対しての『覚悟』をした時から強くなる事だけが希望だった。

 

 

 裏切った奴等を片手でぶちのめせる程の圧倒的なパワーを。

 どうにもならない力を持った男を超越する最高峰の領域に。

 

 善人を気取るつもりは無い。悪人を吟うつもりも無い。

 目指す場所は何者にも縛られぬ『自由』であり、裏切った者達に堂々と俺は幸せだと胸を張って言ってやる事。

 

 

 ………………否、それは彼にとって全て『建前』でしかない。

 彼は彼が『気にくわない』と思った者をぶん殴る為に生き続ける。

 それが彼にとっての生きる意味なのだから。

 

 そして異界の地にて彼はひとつだけ漸く掴んだのだ。

 

 ……―――凍てついて固まった心を解かしてくれた者を。

 

 

 

 

 

 北郷一刀はただの人間だ。

 この不可思議な世界に於いては少し先の『知識』があるだけの只の人間の男だ。

 

 だからこそ平和な世を目指して旅をしていた義三姉妹の願いを自分なりに叶えてあげようと、その知識をフル活用し、未来の世界の軍のシステムを自分なりに考えて作り上げた結果が傭兵派遣組織だった。

 

 どんな形でも『戦う者達』にとっての天国(ヘヴン)であり、虐げられし者達にとっての最後の避難所(ヘイブン)となる場所を作り上げる。

 

 そこには人種も、生まれも、地位もなにも関係ない。

 誰もが安心して暮らせる場所。

 

 それを作り上げ、そして維持させるには皆の力は必要不可欠であり、自分も戦う覚悟が必要だと思った。

 

 ……同じ様に未来から来て、自分を助けてくれた彼の様に。

 皆が守る為に血を浴びているのに、自分だけが安全な場所から観ている訳にはいかない。

 故郷を棄ててこの場所を守ろうとする者達の覚悟に応える為に、彼もまたひとつの覚悟を決めるのだ。

 

 

『お前達の無念を海の藻屑にはしない……』

 

 

 一人目の仲間が死んだあの時から……。

 

 

『俺はお前達の苗床だ、俺達は常にお前達と共に在る……』

 

『水葬はしない……。それでどうするの?』

 

『……。仲間の遺灰で石を創るんだ。

それを俺達は抱いて前へと進む。

俺達に付いてきてくれた仲間達は死して尚も俺達と戦い続ける』

 

 

 一刀は志半ばで散った者達の為の覚悟は出来ているのだ。

 それはただの知識を持つだけの男では無く、この世界を生きる覚悟を持った男として。

 

 

『戦うぞ……俺も!』

 

 決して開花する筈の無かったなにかを覚醒させて。

 それはきっと、龍帝の称号を受け継いだ彼の背を見て来た――からかもしれない。

 

 

 

 

 

 覚悟を決めた男によって国家に帰属せぬ軍団の団結力はより強くなった。

 生き残った者達は散っていった者達の灰で作り上げた輝く石を抱えながら前を歩いていく。

 

 そこに甘さは無い。

 そこに理想論だけのものは無い。

 あの甘い劉備ですら戦う覚悟をした今、彼等の居場所は更なる領域(ステージ)へと進歩する。

 

 

「一誠、頼む。俺にも戦い方を教えてくれないか?」

 

「は?」

 

 

 ドライグという一誠にとっての精神の支柱。

 そして恋というヴァーリと神牙以外に心を許しても良いと思う存在。

 この世界に居てからは荒れまくっていた一誠の精神がやっと落ち着きを取り戻し出した今日この頃。

 

 

「突然で悪いとは思ってるし、その……あんまり空気を読んでないのも認めるけど……」

 

「いや別に……」

 

「…………」

 

 

 

 実体化したドライグが何処へと出掛けていったのを見送って何時もみたいに割りと暇をしていた一誠は訪ねて来るなり突然自分に戦い方を教えてくれと頭まで下げてきた一刀に、暇を持て余してたので、恋に言われて彼女に膝枕されながらボーッとしていた一誠はちょっと気まずい気分になって起き上がる。

 

 

「取り敢えず場所を変えよう。

悪い、恋と音々音ちゃま。ちょっと出掛ける」

 

「ん」

 

「あまり遅くならないでくださいね。恋殿が寂しがるので」

 

「へいへい。じゃあ行くぜ北郷くん」

 

 

 あまり二人には聞かれたくはないって様子だったので、取り敢えず詳しい話を聞くために、以前泥酔した料理屋で話を聞くことにする。

 

 

「もうこの世界は史実とは掛け離れている。

史実に存在する赤壁の戦いが訪れる気配がまるで無いばかりか、魏と呉が同盟を組んだ」

 

「魏と呉……? それはヴァーリと神牙が留まってる所のか? それで?」

 

 

 ドライグも取り戻せたし、恋や音々音との日々で精神的な余裕が少し出来ている一誠だが、未だにヴァーリと神牙の事を自分から奪ったと魏と呉の面子達には良い印象は持っていないらしく、ちょっとムスッとした顔で、今度は嗜む程度に酒を煽る。

 

 

「本当なら蜀漢となっている俺達の組織も俺が色々とやったせいでその在り方も変わっている。

きっとそのせいなのだろう、呉と同盟を組んで最大規模の勢力になっている魏との戦争が逆になっているんだ。

呉と魏に潜り込ませたスパイからの伝令だから間違いない」

 

「……。予感はピタリ大当たりだったか。

つまり呉と魏――まあ、そんな勢力についてはどうでも良いとして、ヴァーリと神牙に対するリベンジマッチが実現しちまうかもって事なんだな」

 

 

 パクパクと料理を突つきながら酒を飲む一誠に一刀は頷いた。

 元から史実から掛け離れていたが、更に変わり始めたこの世界の歴史。

 自分達の勢力でやって来る二つの大きな勢力を迎え撃たなければならないかもしれぬという話に一誠は少し難しそうな顔だった。

 

 

「事情はわかったよ。

けれど何故君が戦い方を? なんというか、ハッキリ言わせて貰って悪いけど、君は今まであまり戦わなかったじゃあないか。

まあ、ただの一般人がいきなり戦えなんて言う方が普通に酷だと思ったから俺が前に出てただけだったけど」

 

 

 どこかの誰かが甘ったれているだなんて意味のわからない事をほざきそうな状況に一刀は甘んじていた――――いや、一誠が戦えるからこそ一般人である一刀には戦わせなかったといった方が正しいか。

 

 自分には無い絶大なカリスマ性を持つ一刀に組織の運営から士気の意地を任せる代わりに自分は何も考えずに敵を叩き潰す。

 

 だからこそ今まで好き勝手にやってても咎められやしなかったし、実の所一誠にしてみればそんな役割を引き受けていた一刀の存在はありがたかった。

 

 故に自分も戦うという、冗談には思えぬ覚悟を放つ一刀に一誠はもうひとつだけ重要な事を言う。

 

 

「それにキミはその……あまり戦うという事に対するものが足りないというか」

 

「…………」

 

 

 そう、一刀は元の時代においては剣術というか剣道をやっていたらしいが、それはあくまで実戦における殺しの技術とは違うものであり、この世界においてはそういったものは通用しない。

 それに何より一刀はあまりにも才能が無さすぎた――否、普通(ノーマル)過ぎた。

 

 一誠なりに気を使った言い方をされた一刀は自覚はしているのか、俯いてしまう。

 

 

「わかってるさ、それでも俺は、お前達ばかりに押し付けて自分だけ安全な場所でふんぞり返りたくはもう無いんだ」

 

「…………」

 

 

 余程兵達の死が彼の主観を変えさせたのか。

 一誠の懐にも決して歴史には記録されない英雄の生きた証があるが、その長の一人である一刀にしてみれば自分以上に責任を強く感じているのだろう。

 ましてやこの世界はどうにも男より女の方が腕力諸々強いのだから。

 

 

「まあ、やる前から決めてたら世話も無いし、そんな直ぐには強くはなれないが、自衛手段くらいは覚えた方が良いという意味では、やってみる価値はあるかもね」

 

 

 今の一刀が無力で奪われていくだけだった幼少の頃の自分と重なった事もあり、一誠は彼に自分なりの戦い方を教えると引き受ける事にした。

 

 

「そうと決まれば早速、あの三人にも協力して貰おうか」

 

「お前、酒飲んでるのに大丈夫なのか?」

 

「あんま飲んでないし問題はねぇ……」

 

 

 自分なりの戦う為の型さえ発見できたら或いは……。

 ドライグにかつて言われた言葉を思い出した一誠は、一刀が持つスタイルを模索する為の手伝いをする為に、彼と一番付き合いの長い三人娘を探すために店を出るのだった。

 無論、一刀の奢りで。

 

 

 

 

 以前、荒れに荒れまくった状態で三国少女達の訓練に付き合い、割りと加減はしたけどやり方が中々厳しかったという思い出がちょっぴりある訓練場に到着した一刀と一誠は、途中其々仕事をしていた三人娘を呼び出し、今回集まった理由を一誠が説明する。

 

 

「…………てな訳だ。

彼のスタイル――じゃなくて、彼に合った戦う型を模索する為にキミ達にも協力して貰おうと思うんだ」

 

「ご主人様が戦う……んですか?」

 

「そーいえばご主人様って正直あまり……」

 

「言うなっ!! 良いかひとつ教えてやるぞ雌共。

男は意地っぱりな生き物なんだよっ! そして割りと繊細なんだ! そんなハッキリ言うと結構傷付くんだぞ!!」

 

「ご、ごめんなのだ」

 

「め、雌共って……」

 

 

 一刀に戦い方を教えてあげようという――最近めっきり丸くなってる気がしてならない一誠の言葉に、愛紗辺りがうっかりハッキリ言いそうになったのを、一誠が黙らせる。

 特にこの劉備こと桃香は一刀を結構甘やかすタイプなので、余計な一言で萎えさせる訳にはいかない。

 

 故に三人娘に対して雌共呼ばわりしながら、余計な事は絶対に言うなと釘を刺した一誠は、とりあえず素の戦闘力が一番低い桃香に訓練用の刃が潰れている剣を持たせ、一刀と模擬戦をして貰う。

 

 

「よし、始めろ。

言っとくが、もし加減なんてしたら水切り投げの刑にしてやる」

 

「うっ! わ、わかりました! じゃあご主人様……行くよ?」

 

「模擬戦だがほぼ実戦だ!! 敵がわざわざ殺そうとする相手に確認なんかするかァっ!!!」

 

「は、はいぃっ!!!」

 

 

 結構熱が入ってるのか、桃香に厳しい言葉を投げつけまくる一誠。

 あまり見ない一誠の光景に、一緒になって打ち合いを開始する二人を見守りながら愛紗と鈴々が話し掛けてくる。

 

 

「何故当然このような事を?」

 

「ご主人様は今までまともに戦った事なんてないのだ」

 

「悔しいんだってよ。

自分だけ高いところにふんぞり返るのも、弱いのも」

 

「……。確かにご主人様に武の才能はございませんが、それでもご主人様が居るからこそ、国境無き軍隊は纏まっているではありませんか」

 

「キミは少し男心を理解した方が良いな。まあ、この世界の男はキミ等より基本弱いから理解する必要もなかったんだろうが、男とはそんな生き物なんだよ」

 

「難しくてわからないのだ」

 

 

 桃香との打ち合いに、力負けし始めて焦っている一刀を見ながら、一誠は軽く笑う。

 

 

「やぁっ!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 そうこうしている内に桃香の模擬刀が一刀の得物を弾き飛ばす。

 この時点で素の力すら桃香に負けているとわかった一誠は取り敢えず勝負ありと二人を止める。

 

 

「ふむふむ、見ていて思った事は、アレだね、握力とかも鍛えた方が良いと思う」

 

「だ、大丈夫ご主人様?」

 

「う、腕が痺れた……!」

 

「桃香様は決して戦えないという訳ではございませんからね」

 

「最近だと愛紗から手解きをして貰ってたし」

 

 

 なんだか本当に久しぶりになるこの面子だけのやり取りに、何故か知らないけど妙な優越感を感じて実は結構わくわくしている三人娘。

 特に鈴々は、かなり色々な意味で優しくなってる一誠に然り気無くベッタリだ。

 

 

「基礎体力は地道に筋トレ辺りをして養うしかないにしても、どうしたもんかな」

 

「す、すまねぇ……」

 

「気にするな。

俺だって餓鬼の頃はこんなもんだったしな」

 

 

 攻めるという事に対しての才能がまるで無いというのだけは分かった。

 とはいえ、一誠自身の戦闘スタイルは『殺られる前に殺れ』を地で行く超攻撃型のスタイルなので、受け身の型に関しては専門外だった。

 

 

「関羽さんも見た感じは攻める方だし、張飛さんも同じ……。

劉備さんは何気に器用貧乏的な感じだし……」

 

「き、器用貧乏ってあまり褒められてる気がしない……」

 

 

 然り気無く器用貧乏――つまり可も不可も無いと言われてちょっと落ち込む桃香。

 もっとも、彼女もまた独特のカリスマ性を無意識に備えているので、これだけある程度戦えるのなら問題は無い。

 その証拠に息を切らせている一刀と違って彼女は息ひとつ乱していないのだから。

 

 

「体力が無いって事はだ。

つまりはアレか? 夜の合戦もキミが基本負けてるのか?」

 

「なっ……い、いや別にそんな事は」

 

「へー? 夜の合戦なら勝てるんだ?」

 

「あ、あのやめてください。意味を知った瞬間凄く恥ずかしいです」

 

「で、でも確かにご主人様に負けてるかも……」

 

 

 夜の合戦の意味を理解した愛紗と桃香が恥ずかしそうに顔を覆っている。

 鈴々は違う様だが、何故か一誠に何か言いたげな顔で見ていた。

 

 

「一誠お兄ちゃんこそどうなの?」

 

「は? 俺は五分五分―――ってオイ、俺の話じゃないだろ」

 

「そうかもしれませんが、意外な話だとは今思いました」

 

「そうなんだね、一誠さん場合」

 

「う、うっさいな! 良いんだよ俺の事はッ! 男はなぁ! 夜の合戦になると皆原始に還るんだよ! 文句あっかァ!!」

 

「………恋が羨ましいのだ」

 

 

 ボソッと呟いた鈴々の声は他の三人には聞こえなかった。

 だが鈴々もそうだけど、基本的にチビッ子達は皆こんな感じの感情を恋に対して持っているらしい。

 

 

「とにかく、北郷君の基礎体力は夜の合戦状況を聞く限りはそれなりにある。

そりゃあ考えてみたら結構な相手と寝てるもんなキミは……!」

 

「げ、お、俺に飛び火してきた!? い、いやなんかスマン、本当にスマン」

 

「別に攻めてる訳じゃないよ。

周り見てても解るけど、ちゃんと合意なんだろ? 世の中には意識を無理矢理混濁させてテメーに好意を抱かせてから寝るゲスも居るしな」

 

 

 もっとも、それは最初の方だけで後は自分の意思も半分入ってたろうが……あの雌共は。

 

 

「じゃあ次は張飛さんとやってみな」

 

「げっ!? い、いきなり難易度が上がってないか?」

 

「突貫工事にはこういう無理矢理さも必要なんだよ。

てな訳で張飛さん頼むわ」

 

「………うん」

 

 と、最早拘る気にすらなれない過去に知り合った連中の事を思い出しながら、一誠は体力を回復させた一刀に基礎体力の向上は自分でやれと命じつつ鈴々と戦わせる。

 

 

「そういえば一誠殿。

ドライグ殿は今どこに?」

 

「え? さぁ? どこかに出掛けてってのを見送った後!北郷君と飯食いに行ったからわからん。

けどそろそろ俺の中に戻ってくるとは思うけど、なんでそんな事を聞いてくるんだ?」

 

「いえ、最近私が編成している隊内で妙な噂がありまして……」

 

「噂?」

 

 

 そんな中、鈴々に投げ飛ばされている一刀を眺めながら、愛紗からの話しかけに一誠は訝しげな顔をしながら耳を傾ける。

 

 

「なんでも、不可思議な仮面を被った二人組が街に出現したり、たまに出没する賊達を勝手に討伐したりと……。

それがその……どう見てもドライグ殿と星だったと」

 

「は? ドライグと誰だって?」

 

「星ちゃんだよ。えっと、趙雲さんの事」

 

「…………………あの鬱陶しい女の事か。それと何でドライグが?」

 

「それはわかりませんが……」

 

 

 ギャースとギャグ漫画みたいな断末魔と共に地面を某自爆されて死んだヤムチャ的格好で転がる一刀を見ながら一誠はちょっとだけ、意味が自分でもわからないけどムカッとした気分になる。

 

 

「あまり勝手にされると隊内の士気に影響を与えるので、出来れば一誠殿からも言って欲しいと……」

 

「……………」

 

「やってる事は悪いことじゃないんだけどね……」

 

 

 あの趙雲とかいう女は妙にウザいと思っていたのだが、何故ドライグとそんな変な事をやっているのか。

 拷問――じゃなくて事情聴取の必要が出てきた一誠は、取り敢えず後で探してみる事にした。

 

 まだ時間的に数時間はドライグは出歩けるし、現場を抑えればすぐにでも聞ける筈なのだから。

 

 

 

 

 

 

 その頃、趙雲こと星は、ここ最近とてもご機嫌だった。

 それはもう我が人生に天啓得たりと叫びたくなるくらい――――否、どこかのハイになった吸血鬼が自分の頭に指を突っ込んでぐりぐりしながらハイだと叫びたくたるくらいご機嫌だった。

 

 

「何故自分でもわからぬ程に一誠が気になっていたのかがわかった。

どうやらドライグ……彼の中に宿るアナタに私は惹かれていたようだ! そう、同志として!」

 

「…………あ、あぁそうか」

 

 

 ドライグというモノホンのドラゴンを正体に持つ男との邂逅は星にとって、全身に衝撃が走る程のものだったらしい。

 だからとっさに誰よりも早く己の名と真名を授け、そしてこういった活動に付き合わせる事に成功した訳で……。

 

 

「む! あそこの店で喧嘩騒ぎを起こしている様だ! 行くぞ華蝶仮面・ジョーカー!」

 

「…………………」

 

 

 本当に仕方なく、どうせすぐ飽きるだろうと思って、教えてあげたいくつからの横文字にすら対応し、己を華蝶仮面・サイクロン。

 そしてドライグを以下略・ジョーカーと名付け、街の治安を勝手に守るご当地ヒーロー活動を楽しんでいる星。

 律儀なのは、ドライグが本人から渡されたアホみたいなパピヨンマスクをちゃんと被ってあげてる事であり、正直190以上もある筋肉質な男がそれを被っているのは、見た目は確かに美少女である星と違って完全な変質者でしかなない。

 

 これならグラサンを掛け、アゴヒゲでも生やして着物一枚羽織ってた方がマシにすら思えるくらいに。

 

 

「ほら早く! 行こうドライグ!」

 

「…………わかったから手を引っ張るな」

 

 

 だが結局ドライグは星に付き合っていた。

 

 

(この小娘、餓鬼の頃のイッセーにどことなく似てるんだよな)

 

 

 そう、小さな頃、自分にこれでもかと懐いてきた一誠にとても……。

 だから変なマスク被ってでもついつい彼女の戯れに付き合ってしまうのだ。

 

 

「街の治安を脅かす者はこの二人で一人の華蝶仮面が許さん! というわけで早速……!」

 

『JOKER! Maximum drive!!』

 

「我が必殺のジョーカー・エクストリーム!!」

 

 

 わざわざ変な技の開発にまで付き合い、子供の遊びみたいな掛け声まで付き合ってあげて、どこぞのダブルライダーキック(かなり手加減)にも付き合ってあげて。

 

 

「で、出たぞ不審者が!」

 

「へ、へへへ、変態だー!!」

 

「何を!? 私たちをいうに事欠いて変態とはどういう――」

 

「よせ、逃げるぞ。関羽の隊に追いかけ回される前に」

 

 

 もっとも、変態扱いされてちょっと微妙な気分になるけど。

 

 

「ぐぬぬ! 変態とは失礼な……!」

 

「紛れもなく変質者だろ俺達は……」

 

「だが悪いことなんてしてないし、寧ろ街の治安維持に貢献しているだろう!?」

 

 

 実体化終了まで残り半刻。

 今日もあまり歓迎はされてないヒーロー活動に付き合わされたドライグは、その後の反省会みたいなものにも付き合わせ、どこかの出店で買ってきた食料と飲み物を片手に街の外の小さな雑木林で星と話し合っていた。

 

 

「正規の部隊じゃない者が勝手にやるのはよくないだろう。

その証拠に関羽の部隊からはかなりの顰蹙を買っている様だしな」

 

「むむむ、小さいことを気にする連中め……」

 

「お前が大雑把過ぎるんだ」

 

 

 本当に小さい頃の一誠にどことなく似てる小娘だ。

 そんな事を思いながら、この世界の食べ物を口に運んでみるドライグはそれと同時に何故一誠が毛嫌いしていたのかを理解した。

 

 つまり、単なる同族嫌悪だった。

 

 

「しかし私はやめんぞ! 楽しくて仕方ない!」

 

 

 それとなくもうやめてみたらと提案しても却下される。

 

 

「じゃあ俺だけ抜けるからお前一人で―――」

 

 

 と、言えば何時も……。

 

 

「え……な、何で?」

 

 

 そもそも出会ってそんな経ってる訳じゃあないのに、本気でショックを受けた顔をされるのだ。

 

 

「ある程度は付き合ってやっただろう。

俺は確かに一誠以上に暇をもて余す位置には居るが、実体化出来る時間にも限りはあるし、何より実体化するとアイツの体力を削ってしまうんだよ。

それに力を取り戻す鍛練もしないとならないし……」

 

 

 そもそも柄じゃあ無いと思っているドライグは、それだけを言ってからふと星を見ると、自分と似た赤い眼を潤ませ始めている事に気付いて『あ……』という声が出る。

 

 

「わ、私がいけないのか……? 私が嫌な思いをさせたのか? だったら直すからやめるだなんて言わないでくれ! お、お願いだから……! うぇ……ふぇぇん……!」

 

「…………」

 

 

 気付いた時には星が泣き出してしまった。 

 ここら辺は一誠には無い個性ではあるのだが、周囲から聞いた彼女のイメージとはまるで違うというか、この部分が多分素なのだろうとドライグはめそめそと泣く星に困った様な顔をしながら、取り敢えず小さな頃の一誠にはしてやれなかった行為のひとつである、背中を撫でる。

 

 

「わかった、今のは訂正してやる。だから泣くな」

 

「くすん……」

 

 

 嘘泣きならどんなに楽だったか。

 一誠に対して父性を目覚めさせてからというもの、こういう事にめっきり弱くなってしまったドライグはトントンと泣く星の背中を軽く叩きながら先程の話を訂正する。

 

 

「お前、その状態を仲間に見せたら人気者になれるんじゃあないか?」

 

「嫌だ、見せたくない。

カッコ悪いし……」

 

「じゃあ俺にも見せるなよ。対応に困るんだが……」

 

「私にもよくわからないけど、お前に拒絶されると勝手にこうなるんだから仕方ないだろ……」

 

 

 涙を拭いながら吐露する星に、なんでそこまで懐かれているのかがイマイチわかっていないドライグは、人間という生き物はやはり不思議なものだと、一誠を介して人という生物に興味を持った時の事を思い返す。

 

 

「取り敢えず帰るぞ。

さっさと涙を拭け、見られたくは無いのだろう?」

 

「…………うん」

 

 

 だがそんな面倒な状況を『まあまあ悪くはない』と思っている己も居る。

 結局涙に負けて止めるのを辞めたドライグは実体化出来る時間も残り少なくなっていたのもあり、星を送り届ける。

 

 

「手間の掛かる小娘だ……」

 

「……おんぶしてくれ」

 

「はぁ? 貴様、甘えるのもいい加減にしろ。

俺は貴様の親では無――」

 

 

「してくれないんだ……。……あぅ……うぅぅ……!」

 

「っ! わかった!! すれば良いのだろう!? 本当に手間の掛かるガキめ! これじゃあ一誠以上だ!」

 

 

 その際、街の住人から赤髪の男におぶって貰う星の姿を見られて変な噂が立てられる事になるのだが、それはまた何時かの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あんの(アマ)ァ……!」

 

「い、意外な現場を見てしまいましたね……」

 

「お、落ち着けよ一誠……。

ほ、ほら恋……頼むぜ」

 

「落ち着いて一誠。

恋がギュッてしてあげる」

 

「むぷっ!? ………チッ」

 

「わ、本当に落ち着いた。

凄いね恋ちゃん……」

 

「…………………むー」

 

 

 取り敢えずその前に遠くから現場を見られてしまった挙げ句久々の殺意MAXになりそうな一誠の方が色々と大変なのだから。

 

 

「ドライグめ、何であんな女なんぞに……」

 

「ドライグがというよりは星が……って感じがするけど」

 

「どっちでも良い! あの女……! 最初からどうにも気に食わねぇって思っていたけど、状況が状況なら殺してしまってたかもしれないぜ」

 

「まずいっ、一誠がキレそうだっ! 恋!」

 

「一誠、怒っちゃ駄目。

別にドライグが取られた訳じゃない」

 

「わぷっ!?」

 

 

 目付きが段々とやさぐれ全盛期の頃の様に血走り始めたのを見た一刀が再び恋に頼み、直ぐ様恋は一誠の顔面に胸を押し付けながら抱き締める。

 その都度鈴々の機嫌が下降していくのだけど、そうは言ってられない。

 

 

「落ち着けるなら、昨日の夜みたいに恋の胸をちゅーってして良いよ?」

 

「ぶっ!? ば、ばば、馬鹿! 皆の前で言うなっ!」

 

「あ、ふーん……?」

 

「そういう事もするのですね? ある意味ちょっと安心しましたよ一誠殿」

 

「………どうせ鈴々には無いもん」

 

 

 現に一誠は恋にそうされる事で怒りを引っ込めるのだから。

 

 

「しかし星の様子を見るに、結構嬉しそうに見えますね……」

 

「ぐぎぎぎ……! お、俺だってドライグにあんな事された事ないのに……!」

 

「ど、ドライグさんが本当に大好きなんだね一誠さんは……」

 

「一誠にとってドライグは親も同然だって言ってた。

それはつまり、恋にとってもお父さん……?」

 

 

 一誠のお陰で変に対応に慣れているのが、何とも言えない皮肉感が出ている。

 しかも一誠にしてみれば腹の立つ事に、よりにもよってあのウザい女なのだから。

 

 

「ふ、ふん! どんだけドライグに懐いた所で、所詮は赤の他人だぜ。

怒るのも馬鹿馬鹿しいし放っておいてやるさ……!」

 

「一誠、もし恋が他人に何かされたら怒ってくれる?」

 

「は? は??? されたら??、? ……されたの?」

 

「えっと、もしもの話――」

 

「誰にされた? そいつは野郎か? だとしたら今すぐにでもそのカスをブッ殺して――」

 

「もしもだって話だよ! ちゃんと恋の話を聞けよな……!」

 

「えぁ? あ、あぁもしもね……はいはい、もしもの場合ね? うん……まぁ、想像するとかなり嫌だね」

 

「常々思ってたけど、ちょっと重くないか……?」

 

「自覚はしてるぜ北郷君……。一切直せる気もしないけどね」

 

「恋は今の事を言われて嬉しいと思う……。あの時の夜に言われた事が本当なんだって……」

 

 

 一回でも懐に入れた相手に対する愛情表現が過激というか、仮の話をされただけでヤバイ行動に移そうとするのを見てしまった一刀達は、彼に対して彼の大切に思う者達に関する冗談は止めようと固く誓う。

 

 

「でも大丈夫、一誠が怒った時は恋がぎゅってするか、胸をちゅーってさせてあげれば――」

 

「あー! そういえばお腹減ったなぁぁっ!!!」

 

 

 もっとも、この恋に不届きな真似をする勇気のある輩はほぼ居ないと思ってもいるが。

 

 

「しょ、しょうがない、今日の所は見逃してやる! 帰るぞ恋!」

 

「うん」

 

 

 あんまり聞かれたくない事を聞かれて恥ずかしくなったのか、恋を連れてそそくさと退散する一誠。

 一刀達は思う、恋のお陰で彼はとても落ち着けているんだなと。

 




補足

型というかスタイルを、某ライトセーバー式型で軽くまとめると


一誠・選ばれし者が全盛期だった頃に使用していた超攻撃型のドジェム=ソ

桃香さん・器用貧乏型のニマーン

愛紗さん・大体一誠に似て攻撃型のシエン

鈴々さん・以下略

星さん・なんか飛び回ってそうなアタロ

恋さん・全フォームを極めた者が使用できるジュヨー―――を最近進化した的な意味で更に発展させたヴァーパッド。

……まあ、冗談だけど。

その2
変な遊びに付き合ってやってたら、その内すんごく懐かれてしまった。

しかも何でか知らないけど、某泣き虫ゼノヴィアさんばりに泣かれるという……。


その3

まあ、シリーズでちらほらあったけど、ちゅーってやるのはもう通過しました。

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