色々なIF集   作:超人類DX

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黒猫ねーちゃんは結果こうなりました。

旧魔派は結果こうなりました。


転落と這い上がり

 個を壊されない為に。

 その居場所を壊されても生き延びる為に。

 

 そんな想いを声に出す訳でもなしに、自然と抱きながら三人は力をひそかに磨いた。

 

 その結果到達したのが、種族としての力でも、神器の力でもない個としてのオリジナル。

 

 神器に似ている様で似ていない。

 個人個人が持つ指紋の様に、個人個人が持つ精神を形作る力は三人だけのオリジナルだ。

 

 それはとある世界の一部の人間が持つモノなのだが、この三人は自力で偶発的にその力を発現させたのだ。

 

 それ故にシンパシーとでも云うべきか、三人の繋がりはとても強く――いや、あまりにも強すぎた。

 

 それは、『互いさえ傍らに居てさえくれたら、誰からの――どんな悪意だろうともどうでも良くなる』という程に。

 

 

 

 

 

「俺が咄嗟に爆煙に紛れて引っ張り込まなかったら危なかったっすよ?」

 

「今『戻す』のでじっとしていてください」

 

「ぐ……! 私の両腕を吹き飛ばしたあの小僧が貴様の弟とやらか赤龍帝……!?」

 

「えーっと、まあ一応戸籍の上では……」

 

 

 自由に生きられさえすれば、過去にあったことすらもさっさと忘れて前を向いてしまう程に……。

 

 

「っ……こ、この力はなんだ!? 消し飛んだ腕が何事も無かった様に……!」

 

「詮索はご勘弁ください。

説明が何よりも面倒ですし」

 

「義手生活にはならなかったと思えば聞かない事ぐらいは平気でしょう?」

 

「………」

 

 

 どっちつかず。

 三人にとって『良い』と思えば『味方』にもなるし、『嫌だ』と思えば『敵』にもなる。

 一誠の弟とされる神器使いの兵藤彩也に腕を消し飛ばされた挙げ句、危うく殺されかけた所をどさくさに紛れて救出してくれたリアス、朱乃、一誠に対してシャルバ・ベルゼブブに、著しくプライドを傷つけられたが、一応の同盟相手なので、言われた通りこれ以上の詮索はしないことにした。

 

 

「まさかサーゼクスの妹に……。

私のプライドが傷つけられたぞ」

 

「ディオドラ・アスタロトも殺されたみたいですわね。

完全に襲撃の失敗です」

 

「赤龍帝、貴様の弟やらの邪魔さえなければ……」

 

「え、俺のせいだと言いたいんすか? まいったな……まさか戸籍上の弟がヒーローやったお陰で俺が怒られるなんて……」

 

 

 失った腕すらも回復の神器の類とは違うなにかで一瞬にして再生させる力も不気味だが、何よりこの三人は何を考えているのかがシャルバでもまるで読めない。

 特にリアスは、サーゼクスの妹という小娘同然の年齢でしか無いのに、どこか得体が知れないのだ。

 

 

(上手く手なずけられれば……リゼヴィムを消した上でサーゼクス共にも復讐ができるかもしれない)

 

 

 しかしその力は使える。

 不可解かもしれないが、得体が知れないのかもしれないが、この三人が持つ力はきっと大きな力となる。

 そう予感したシャルバは、一応同じ位置ではあるが、言動からなにからついていけない目の上のたん瘤であるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーを出し抜く事を視野に、目の前の小娘二人と小僧一人を手なずける事を決めた。

 

 

「いや、流石に今のは言い掛かりだった。

すまなかった赤龍帝、そして感謝する……お陰で体勢を建て直せるチャンスに巡り会えた」

 

「「「…………」」」

 

 

 その為には取り敢えず誠意っぽい対応をしてみよう。

 憎き男の妹だとかハーフ堕天使だとか、転生悪魔なんぞに頭を下げることには反吐が出るが、使えるものはとことん使うべきだと、シャルバは頭を下げながら礼を言うが、何故か反応がない。

 

 何だ? と不可解に思ったシャルバは顔を上げてみると……。

 

 

「明日は隕石でも降るのかしら……」

 

「やべぇよ、世界崩壊か? ソフトクリーム食べ放題の夢が……」

 

「二人とも、聞こえてますわよ。

確かにサーゼクス様にたどり着く前に脱落寸前にさせられたヘタレさんで、今の言動にも鳥肌は立ちますが、そこは心の中で思いましょう?」

 

「私を嘗めてるのかガキ共がっ!!!!」

 

 

 普通になめ猫の如くなめきった態度に、シャルバは取り繕うのを五秒で止めて怒鳴り散らした。

 悪い意味でこの三人は自由すぎるのだ。

 

 

「いやいや、嘗めてなんかありませんよ魔王様~」

 

「よっ、返り咲いたらきっと素晴らしい魔王様っ!」

 

「シャルバ様が魔王になられたらきっと素敵ですわっ!」

 

「む……そ、そうか? なんだ、中々見込みのあることを言うじゃあないか」

 

 

 が、シャルバも変なペースに巻き込まれてるせいか、若干アホの子みたいに乗せられて満更ではない様子。

 

 

「ふむ、仕方ない。先程の無礼は許してやろう。

そして何か好きなものでも食わせてやろうじゃあないか」

 

「よっ! 天下一の魔王!」

 

「素晴らしき魔王!」

 

「当代最高の魔王様!」

 

「ふ、ふふ……なんだなんだ? 小生意気なガキだと思いきや、可愛いげのある所もあるじゃないか……ふふん」

 

 

 完全にその小生意気なガキ共におべんちゃらで乗せられてるシャルバはすっかり気分を良くしたらしく、財布の紐をあっさりと緩めた。

 

 

(っしゃあ! 飯の種げーっつ!)

 

(意外と乗せられやすい性格だったのね彼……)

 

(ショートケーキにしますか?)

 

 

 だがこの時彼はまだ知らない。

 そんなガキ共三人との交流が後々越えられなかった壁を越える理由となることを……。

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリは思う。

 何故彼女達の仲間だった者は三人を見限ったのだろうかと。

 

 ディオドラ・アスタロトの暴走と、その混乱に乗じて襲撃したシャルバ・ベルゼブブとの騒ぎを上から見下ろしていた彼は、その騒動を解決に導いた兵藤彩也とそんな彼を慕う黒歌の妹を含めた仲間達の様子を見てても不可解でしかなかった。

 

 

「黒歌が抜けて兵藤彩也の実家に住むことになった」

 

 

 そんな中、妹を当初組織に連れ込む為に直接出向いた黒歌が、組織を抜けて兵藤家に居候することになったという話が起こり、ヴァーリはやはり不可解に思いながらも一応教えておいてやろうと思って、なんか色々と気が合ったという、あの孫悟空の子孫である青年と共にポーカーをして遊んでた変わり者三人組のもとへと出向いた。

 

 

「黒歌が組織を抜けてお前の所の弟の実家とやらに居候する事になった」

 

「ふーん」

 

「どうやらアンタの弟に説得されたみたいだぜ」

 

「それは良かったわね。

これでやっと小猫もお姉さんと暮らせる様で」

 

「彼なら魔王様あたりを説得して彼女のはぐれ悪魔の認定を取り消してくれるでしょうし」

 

「「…………」」

 

 

 テーブルを囲み、トランプ遊びに集中していて聞き流されてる感が半端無いヴァーリと美猴は、あまりにも他人事な態度に微妙な気分になる。

 

 

「何も思わないのか?」

 

「なにが? 組織を抜けた裏切り者だとでも思えば良いのか?」

 

「そうじゃなくて、アンタ等三人はどうも兵藤彩也のせいで周りから追い出されたってのに、黒歌は受け入れられてるって事にだよ」

 

「いいえ? 寧ろ小猫ちゃんにとっては幸せな状況ですし、おめでとうと花束のひとつでも郵送して差し上げたいくらいですわ」

 

「「…………」」

 

 

 完全に他人事オンリーな言い方に、ヴァーリも美猴もこういう他人事過ぎる態度のせいで追い出されたのではないかとすら思ってしまう。

 

 

「ていうか、そんな事をわざわざ教えてくる理由がわからないんだが。

なんなん? あのメロンボインちゃんを連れ戻したいわけ?」

 

「別にそうではないが……」

 

「良いのかよ? 黒歌の口からアンタ等の事を話されたら都合が悪いんじゃねーのか?」

 

「隠してるものはいつかバレるだけだし、仮に私達がこの組織に所属してると知られたとしても、彼は嬉々として殺す理由にするだけよ。

本当にビックリするくらい私達って彼にハマってないし」

 

「それにこの組織も決して小さな規模ではございませんし、おいそれと私達までたどり着けもしませんわ」

 

「この組織の長が考えを変えてアレに与しない限りは……ね」

 

 

 まるでこの組織の一応の長の未来を暗示しているかの様な意味深な台詞に二人は嫌な予感を覚えた。

 

 

「JとQのツーペア」

 

「残念ねイッセー。Kのスリーカードよ」

 

「ふっ、では私の勝ちですわね二人とも。

ロイヤルストレートフラッシュ!」

 

「「はぁっ!?」」

 

 

 朱乃のドヤ顔のロイヤルストレートフラッシュにイッセーとリアスが身を乗り出す勢いで驚愕している今はまだ解らぬ事ではあるが……。

 

 

「ドラ○エのカジノだったらグリンガムの鞭交換コースじゃねーか……」

 

「わ、私のシフォンケーキが……」

 

「ふふふ、お二人のお顔が『ぐにゃ~』ってなってますわ……」

 

 

 机に突っ伏すリアスと一誠と勝ち誇る朱乃を見てヴァーリと美猴は思う。

 この三人は例え目の前で壮絶な殺し合いが始まっても平然と三人だけの世界に浸り続けるのだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤彩也が禍の団の構成員で、SSレベルのはぐれ悪魔である黒歌を懐に引き込んだ。

 という話を『事情があってかつての主を殺したから許して欲しい』という事も含めて聞かされたサーゼクスは非常に迷うのと同時に、その黒歌から聞いた話に焦っていた。

 

 

「り、リアスが禍の団に……」

 

 

 そう、どうやらグレモリー家から完全に捨てられたも同然な妹が、自分のもっとも信頼する女王と兵士と共に禍の団に所属しているらしい。

 その話を聞いた瞬間、母や父は激怒し、誰が広めてくれやがったのか、冥界中でリアス達は裏切り者と犯罪者扱いだ。

 

 

「こうなったら連れ戻して禁固刑にしなければなりませんぞサーゼクス様?」

 

「ま、待ってくれ。

リアス達にも事情があるのかも……」

 

 

 周りはさっさと捕らえて永遠に幽閉すべきだと言うが、サーゼクスはその時点で矛盾を感じていた。

 というのも、リアス達の擁護は誰一人も現れず、同じ禍の団に所属して抜けたとあくまで自称でしかない黒歌は世間的な意味でも許される風潮なのか。

 

 そもそも自分の知らない所で勝手に追い出した両親も少しどころじゃなく異常におかしい。

 

 まるで世界そのものがリアス達を『悪』と決めつけてるかの様に……。

 

 

「ハァ……」

 

 

 最初に説明すると、サーゼクス自身はリアスを――というか、何があってもリアスの味方であり続けた幼馴染みの朱乃と一誠を含めた三人を常時心配していたし、自身の眷属に命じて密かに捜索までさせていた。

 

 だが冥界から去った三人の行方は一切掴めず、やっと知れたと思ったらテロ組織の構成員になっていた……。

 

 無事だった事自体にはホッとしたが、何でよりにもよってテロ組織に所属してしまったのか……。

 

 いや、よく考えなくても三人が冥界の悪魔達は皆敵だと思っても仕方ない事を先にしたのはこっちだ。

 

 

「サーゼクス様、リアス様達を発見致しましたが……」

 

「! 本当かっ!? それで三人は……!」

 

「それがその……」

 

 

 そりゃ恨まれても仕方ないとサーゼクスは急に変わり出した両親や嫁に対して非常に重い気分だ。

 しかも眷属達がリアス達を発見したと……何故か歯切れの悪そうな報告の内容にサーゼクスは今度こそ頭を抱えた。

 

 

「こ、これは質の悪い合成映像なのか?」

 

「い、いえ……紛れもない本物です……」

 

 

 眷属達が咄嗟に回したビデオカメラの映像を見せられたサーゼクスは、カタカタと震えながらその映像に映る無事そうなリアス達を見ていた。

 何故ならリアス達の映像は人間界の街を歩いているものなのだが……。

 

 

「私の目には、三人と一緒に歩いているのはシャルバとクルゼレイに見えるのだが……?」

 

 

 まず人間界に好き好んで行くとは思えない旧派トップ二人の姿に、サーゼクスは思わずビデオカメラを握り潰しそうになる言い知れぬ怒りが込み上げていた。

 

 

「我々もこの目を疑いました。

しかしこの二人は本物のシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスです」

 

「……………………」

 

 

 映像には、リアスと朱乃と一誠の三人に連れられる形でチェーン店のファミレスに入るシャルバとクルゼレイの姿が映っており、しかも服装も人間界の若者が着るようなラフな格好だった。

 

 

「一応中の様子を伺う為に我々も潜入したのですが……」

 

 

 それだけでも驚愕映像なのだが、何よりもありえなかったのは、自分の妹であるリアスやハーフ堕天使の朱乃、転生悪魔の一誠という、この二人にしてみれば毛嫌いする要素のある三人とファミレスで人間の作った飯を食ってるという事であり、カメラのマイクが映像と共に拾った音声もまた『ありえない』ものだった。

 

 

『な、なんだこれは……!? 雑味だらけなのに食べる手が止まらん……!』

 

『ドリンクバーとやらをカテレアにも教えてやりたかった……!』

 

『泣いてるよこの人達……』

 

『お坊ちゃん育ちだから庶民の味が初めてだったのよきっと……』

 

『罵倒すると思いきや、意外な反応でしたわね……』

 

 

 

 

 

 

 

「ナニコレ?」

 

『…………』

 

 

 やっすいハンバーグセットを食べて何か涙流してるシャルバ。

 学生がやりそうな、ドリンクバーの飲み物を混ぜて毒々しい色になってる飲み物を飲んでこれまた泣いてるクルゼレイ。

 

 なまじ彼等を知っているからこそあり得ぬ映像に、サーゼクスは思考がショートしてしまった。

 

 

「ネェ、ナニコレ?」

 

『……………』

 

 

 それだけでもありえないのに、何よりサーゼクス的にふつふつとした嫉妬が沸き起こる理由として、この二人が妹と普通に談笑しながら飯を食ってるという所だった。

 

 

『失った命までは戻せないのです。

申し訳ありません、お役に立てなくて……』

 

『いや良い……。

奴等を倒す事がカテレアへの弔いになる……ドリンクバーの事は教えたかったが』

 

『確か堕天使総督のアザゼルとの戦いに敗れたと……』

 

『あぁ、私はアザゼルを必ず殺す。単なるカテレアの復讐ではない。

己の運命に決着をつける為の戦いでもある……!』

 

 

 カテレアの弔い合戦に燃えるクルゼレイにリアスが差し入れのつもりか、途中まで食べてたケーキを渡している。

 

 

『よければどうぞ……』

 

『む』

 

 

 その瞬間、なにかがプッツンしたサーゼクスが、聞こえる訳もないのにその映像に向かってわめきだす。

 

 

「クルゼレイ貴様ッ!! そのケーキはリーアたんの食べかけなんだぞっ! 僕のだぞ!! 僕に渡せぇぇっ!!!」

 

「お、落ち着いてくださいサーゼクス様!」

 

「サーゼクス様を押さえろ!!」

 

 

 別にサーゼクスのものでも無いし、これはもう過去の映像なのだが、リアスから貰った安物ケーキをもっしゃもっしゃと食べてるクルゼレイに、多分今までに無いレベルの殺意を剥き出しにするサーゼクスを眷属達は全力で止める。

 

 

『うーん、雑味だらけなのに何故か美味い。

人間の作るものは不思議だ……』

 

『あ、申し訳ありません。

それ私の食べかけでした』

 

『ん? あぁ……えっと、すまん赤龍帝?』

 

『へ? ……あぁ、わざわざどうも。

変に律儀っすね』

 

『いやなんとなくな……』

 

 

 

 

「天国地獄大地獄! 天国地獄大地獄!! 天国地獄大地獄ゥゥゥッ!!!」

 

「まずいっ! サーゼクスが魔力を暴走させている!!」

 

 

 サーゼクスは思った。

 コイツら絶対に殺すと。

 

 彼は普通にシスコンのままで、追い出した両親達に激怒したくらいにはリアス達を想っているのだ。

 ちょっとアレだけど……。

 

 

『サーゼクス達は何故お前達を追い出したのだ? 正直不可解だ……』

 

『現政権に刃向かったのか?』

 

『色々ありまして。

とはいえ、私には二人も居ますし、寧ろグレモリーの名も無くなった事で自由になれたと思うと、とても気楽ですわ』

 

『それにしたって……。一体何を考えてるんだ奴等は……』

 




補足

カテレアさんは既に戦死済み。

そして消えた命までは戻せないのです。

そこら辺もクレイジーDと同じ。


その2
三人の変なマイペースさに若干取り込まれてるお二人。

結果安いファミレスの味に感動し始め、クルゼレイさんに至っては知らん所でシスコン兄貴にマジ殺意まで……。

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