綺麗なものは綺麗だと認める。
可愛いものは可愛いものだと認めもする。
しかし何故だろうか、彼は確かにスケベなのだけど、一定の境界を踏み越えてくることをしない。
価値観が微妙にズレているといえばそれまでなのだろうが、彼は何に対しても彼女を優先させてしまう癖が強すぎたのだ。
だからつまり……。
「初めて見た時から好きでした! 付き合ってください!!」
「え……。
あ、うん……唐突過ぎて言葉が見付からないんだけど、ごめん、そもそもキミ誰?」
「私の名前は天野夕麻。
えっと、今週末のお休みにデートを――」
「セイセイセイセイセイセイ。
名前はわかったけど、デートって何だよ? それに今週末は駄目だ。
予定が入ってる」
「え……じゃ、じゃあその次のお休み――」
「次も無理だしそのまた次も次も次も次も無理だ。
というかごめん、よくも知らない人にいきなりそんな事を言われてもちょっと……」
どんな美少女が突然現れてキナ臭さMAXな告白をされても、イッセーという少年の優先度は美少女とのデートより、ずっと一緒だった少女とのんびり過ごしている方が楽しいのだ。
「………」
「いやホント申し訳ない。
あ、俺のクラスメートの男子二人なら暇してると思うから、そっちに声かけたら喜ぶと思うぜ? それじゃ」
「…………………………………………」
美少女や美女はおっぱいボインには確かに興奮を覚える。
しかしそれは遠くから見てるからこそ楽しいのであって、別に近くに行ってみたいとまでは思わないのだ。
そんな事に時間を割くのであるなら、所謂幼馴染みの少女に絶賛八連敗中である格ゲーにどうやって勝つとかの研究をしていた方が彼にとって有意義なのだから。
「使用キャラのダイアグラムは勝ってるのに勝てないからな。
今度こそ勝つぜ……!」
天野夕麻なる黒髪美少女が唖然と――信じられないといった顔で固まっているのを放置してさっさと背を向けて去った一誠は、今週末の勝負に対する入念なイメージトレーニングをするのであった。
「………チッ」
そんなイッセーの背中を、忌々しげに睨みながら舌打ちをする天野夕麻には残念ながら気付いておらず……。
そんな告白事件から明くる日。
実はあの場面は先日の放課後の校門前にて始まった話であり、他校の生徒と思われる美少女がイッセーを呼び止め、人気の無い場所へと連れていかれる――的な現場を多くの生徒達が目撃していた。
それはつまりなんやかんや一緒につるむ事の多い元浜や松田……それから当たり前の様に居る藍華も知っている話である訳で……。
「はぁ!? こ、告白されてデートのお誘い!?」
「う、嘘だろ!? そ、それで返事は……!?」
「全然知らん子だし、予定もあるからって断ったけど?」
「「はぁっ!?」」
次の日まで会うことのなかった元浜と松田は、どっかの駄菓子屋のガチャガチャで手に入れたスーパーボールを教室の壁に向かって軽く投げ、戻ってきたのをキャッチして遊んでいたイッセーのありえん返答に、衝撃を受けていた。
「なんで断る!? 昨日俺もその子見たけどかなり美少女だったろ!?」
「意味がわからんぞ!? 第一予定が入ってたとしてもデート優先だろ!?」
「そんな事言われてもな……」
今世紀最大のチャンスをお前は逃したんだぞ!? 的な、半分怒りも入ってる二人の騒ぐ声にイッセーは困った顔をする。
「前から言ってる通り、そういう気ィ使いそうな事はあんまりしたくないんだよ。
それにデートを優先しようと思う程知らんし」
「なんて奴……! そもそも予定ってなんだよ?」
「藍華に格ゲーリベンジ」
「…………………。お前、それを優先したいからって断ったの?」
「そうだが?」
美少女とのデートより藍華と遊んでた方が良いと、当たり前の様に言い切るイッセーに、元浜と松田はちょうどイッセーの隣の席に座っていた藍華を見る。
「いやお前……桐生と遊ぶのは良いと思うけど、美少女だぞ?」
「普通お前……美少女とのデートだろ……」
「悪かったわね美少女じゃなくて。
言っておくけど、私も昨日ちゃんと言っておいたのよ? それでもイッセーは嫌だと言ったけど」
何気にディスられた藍華が微妙に笑いながら昨日説得だけはしておいたと語ると、何かに障ったのか、イッセーがちょっと不機嫌そうに口を開く。
「美少女なのはわかったけど、藍華が美少女じゃないっておかしいだろ。
俺は少なくとも藍華は綺麗だと思う」
「「………」」
『…………』
どうやら天野夕麻なる美少女と比べられて藍華がバカにされたと思ったらしく、不機嫌そうに返すイッセーの言葉に一瞬また教室の空気が固まった。
「あの子と比べられても惨めになるからやめて」
「はぁ? なに言ってんだ、別におべんちゃらじゃないぜ俺は」
「多数の意見をまとめたら私は地味よ地味」
「その多数の意見なんざどうでもいいぜ。俺がそう思ってんだよ」
「はいはい」
確かに言われてみれば藍華も決して悪い訳ではない容姿ではあるけど、天野夕麻なりリアス・グレモリー率いるオカルト研究部の面々に比べたらどうしても見劣りするのは否めない。
だがイッセーはそんな面々を知ってる上で藍華の方が良いと言ってしまっている。
藍華本人は照れもせず慌てるもせず、はいはいと適当に返している訳だけど、あまりにも距離感が意味不明に近すぎるというか、独り者達にとっては妙な敗北感を感じてしまう訳で……。
「ま、まぁ……イッセーがあんな美少女とデートする方が逆にムカつくし別にそれならそれでいいけど……」
「なんだこの微妙に納得できない気分……」
どこかが微妙に納得できない元浜と松田なのだった。
手を初めて繋いだのは1歳前らしい。
当時理解してなかった恋愛ドラマのラブシーンを見て真似して抱き合ったのが4歳。
父と母がこっそりキスしてるのを見て真似をしたのが……6歳くらい。
つまり、互いの初めが互いであるこの二人。
後になって意味を知ってちょっと照れはしたけど、決して嫌ではなかったのが二人の本音。
「ちょっといいかな? このクラスに兵藤一誠君が居ると思うのだけど……」
「き、木場くん!? 木場くんだわ!」
「きゃー!! 木場くんがウチのクラスに来てくれたわ!」
「こっち向いて~!!」
「あの……兵藤くんを……」
「今日どっちの部屋使うよ?」
「アンタの部屋で良いでしょ」
「オーケーわかった」
何時もの様に授業を終え、何時もの様に帰宅し、何時もみたいに互いの部屋に訪れ、宿題をしたりなにかをしたりする。
それが二人にとっての日常であり、今日もどちらの家の部屋に行くかを話し合いながら、何やら教室の入り口で女子が騒いでるのを気にもせず反対側の教室から出ていこうとしたのだが……。
「あっ! そこのキミ、待ってくれないか!?」
「んぁ?」
その騒ぎの原因である金髪美少年に呼び止められる事で、その日常が少しだけ変わり始めるのかもしれない。
「あ、元浜と松田が目の敵にしてる……ええっと――」
「となりのクラスの木場君よ」
「そうそうそれ! ええっと、何か用なのか木場くん?」
危うく帰られる所だったせいか、ちょっとホッとしつつ、後ろに居る多数の女子の黄色い声援と視線を受けている木場祐斗は、この学園に所属する男子にしては珍しくあまり敵意の視線が無い兵藤一誠に対してちょっと意外に思う。
「ウチの部長がキミを呼んでいるんだ。
今から一緒に部室に来てくれないか?」
「部長……?」
「部長ってもしかしてグレモリー先輩のこと?」
「その通りさ。
えっと、キミは出来れば外して欲しいのだけど……」
彼の所属する部の部長――即ちリアス・グレモリーが何でかイッセーを呼んでいるらしい。
あまりに意外な話にイッセーも流石に驚いてしまう。
「呼ばれる様な事をした覚えがまるで無いんだけど……」
「来てくれたら詳しく話せる。
ただその、キミは外れてくれると助かるけど」
「よくはわからないけど、先に帰ってるわ。
だから行ってみなさいよ?」
「お、おう……」
ほぼ関わりなんて無い相手からの身に覚えの無い呼び出しとなれば、多少なりとも不安に思う。
思わず藍華を見るイッセーだが、藍華はそんなイッセーに対して笑みを見せながら背中を軽く叩く。
「大丈夫よ。別に悪いことはしていないのでしょう?」
「まあ……」
「なら堂々としてなさい。
じゃあ木場くん。コイツの事頼むね?」
「任されたよ。じゃあ行こうか兵藤君」
「……………」
藍華に見送られながら木場の後を歩くイッセー。
正直、リアス・グレモリーに何で呼び出されてるのかとかはどうでも良く、イッセーはさっさと家に帰りたい気持ちで一杯だ。
旧校舎に連れてこられ、その旧校舎の一室に構えている活動内容がいまいち不透明な部活のひとつであるオカルト研究部の部室まで案内されたとしても、イッセーはさっさと帰りたい気持ちで一杯のままだった。
「失礼します。
部長、連れてきました」
「うげ……」
しかも中に入れば、一応オカルト研究部という名前の通り、オカルトめいたテイストの部屋になっており、そういう類はあまり得意ではないイッセーは思わず嫌な声を出してしまう訳で。
「ご苦労様、祐斗」
部屋の真ん中の椅子に座っていた赤髪の美少女や、その後ろに立つ黒髪の美少女や、イッセーから見て左側の机に座って和菓子を食べてる白髪の美少女を前にしても、やはりさっさと帰りたい気分でしかなかった。
「こうして直に話すのは初めてよね兵藤一誠君。
知っているとは思うけど、私がこのオカルト研究部の部長のリアス・グレモリーよ。さ、こちらにどうぞ?」
「…………」
確かに誰も彼も近くで見ればより造形の整った者だりけだと、元浜や松田やその他達がキャーキャー言うのも無理はない――と、思いながらリアスに促される形で用意された椅子に座るイッセー。
「緊張しているの? 大丈夫よ、別に取って食べる訳じゃあないから」
「……………」
早く帰りたくて仕方ないから無言になってるイッセーを、緊張しているのかと思ったのか、彼女なりのジョークが放たれる。
案内した木場は右側の席に座っており、今イッセーはリアスと対面する様に座っている訳で、一体全体こんな接点の『せ』の字もない自分に何の用があるのかと思っていると、リアスは突然ある者の名前を口にした。
「天野夕麻という名前に聞き覚えがあるわよね?」
リアスの言葉に、イッセーはきょとんとする。
確かにその名前は聞き覚えがあるし、なんなら昨日会ったあの他校の女子の事だった。
「ありますが……」
実の所、藍華がとなりに居ないと結構無口になるイッセーは、早く帰りたい気分が強いのもあってか、少々口調がぶっきらぼうだ。
しかし、リアス達はそんなイッセーを気にせず天野夕麻の写った写真をテーブルの上に出してイッセーに確認をする。
「この顔で間違いないわね?」
一体何なんだよ……と思いながらも写真を見せられ、確かに昨日見た女で間違いなかったので頷く。
「間違いないですけど、その子がなんなんですか?」
他校の生徒を何故そこまで気にしているのか。写真まで撮ってるし……と思うイッセーにリアスは一瞬迷った表情を浮かべる。
「そうね……詳しく話すとなると、私達の事を貴方に話さなければならないわ」
「あ、そうっすか。じゃあ別に良いッス」
「え?」
いや、このどこの誰ともわからん女を何で気にしてるのかを聞きたいのであって、別にお前らに興味ねーよ――と思わず言ってしまいそうになったイッセーは、寸前の所でグッと堪えると、それなら結構だと言う。
「なにやらご事情があるのはお察ししますし、この女子に何かがきっとあるってのも大体わかりました。
ですが別に詳しく聞きたいとは思いませんので話さなくても結構ッス。
第一俺もこの天野さんとは関わらないと思いますし」
「……それは何故かしら?」
「いきなり現れていきなり好きです言われて、いきなりデートしてくれって言われて、ホイホイ頷きますか? 普通に怪しいっしょ。
ましてや他校の生徒なのに」
然り気無く、おたく等の気にしてる天野夕麻とはそれっきりで一切関わりなんて無いし持とうとも思いせんとアピールすると、リアスは『そう』と返す。
「なるほど、大体わかったわ。
けど、そうもいかないと思うわ……貴方はともかくこの天野夕麻はきっと再び貴方の前に現れる」
「何故?」
普通に断った相手がまた現れると、確信めいた事を言っているリアス。
「それを詳しく話す為にも、私達の事を貴方に知って信用して貰いたいのよ」
「それを話すのに長くなりそうな気がするので、取り敢えず頭空っぽにしてなんでもかんでも貴女方の話を聞くだけ聞いて信用するんで、結論から話して貰えません? あんまり時間無いんすよ俺」
「? 予定でもあるの?」
「はいあります」
ほらやっぱり疲れる。
藍華相手なら顔見れば一々説明されんでも理解できるが故にめんどくさくて仕方ないイッセーは、ちょっとばかり無愛想に言い、予定が押してるから早くしてくれとも言う。
「意外な態度ねアナタ……。
別に自惚れている訳じゃないけど、私達とこうして直接話を出来るのは、この学園の生徒達からしたら大喜びされる事だと思っていたけど……」
「確かにそうだし、ほぼ間違いないでしょうね。
けどそれは多数の意見であって、多数こそが正義って訳でも無いでしょう?」
「……つまり、アナタは少数側だと言いたい訳ね」
遠回しに別に興味無いと言われ、リアスは微妙な気分になる。
持て囃される事に慣れすぎたからかもしれない。
「はぁ……わかったわ。
じゃあ単刀直入に言うわ、兵藤一誠君……アナタ、あの天野夕麻に命を狙われている可能性があるわ」
「へー? メンヘラストーカーの気質でも持ってて、昨日俺が断って逆上でもしてんすかね?」
「違うわ。
告白したのもなにも建前なの。アナタが命を狙われている理由は他にあるわ」
「そうっすか。じゃあ夜道には気を付けます」
「……………」
早く帰らせろコノヤロー的なオーラをバシバシ放っていい加減な返しばかりの一誠にリアスはため息が出てくる。
チラチラと腕時計の時間を確認しながら貧乏揺すりをし始めるのがまた微妙にムカつく。
そんなに自分達に興味無しかと、変な敗北感を感じてしまう意味で。
「アナタが特別な力を持っていて、天野夕麻はそれを排除しようとしているのよ」
「……………………」
だが、リアスのこの言葉が一誠の動きをピタリと止めた。
「特別な力……?」
「そう、特別な力。
貴方には自覚が無いのでしょうが、その身に特別な力を宿している。
そして私達は天野夕麻の行動を介して貴方に備わっている事を突き止めた……」
「オカルト研究部らしい活動っすね。
ミステリーサークルでも作成してんすか?」
ほんの一瞬動揺したのをリアス達は見逃さず、一気に畳み掛けた。
「いいえ、ミステリーサークルは作成しないわ。私達は人間の願望を叶える代わりに対価を貰う活動をしている―――悪魔なのよ」
背にコウモリの様な翼を全員で出しながら。非現実的な話に信憑性を印象づけさせてきたリアス達にイッセーは各々の背中にでてる羽を見て遠くを見るかの様に目を細め……やがて下を向いた。
「……………あの時藍華と見たのものは夢じゃあなかった訳か」
「………?」
「なるほど……命が狙われてるか」
ボソッと呟いたイッセーの声は聞き取れなかった。
しかしどうやらこの一般人にとって非現実的な話だけは信用して貰えたらしい。
それまで帰りたいオーラを撒き散らしていたイッセーが聞く体勢に変わる。
「俺がその天野なんたらに命を狙われてるのはわかりました。
ひとつ聞きます、その天野なんたらは俺の命を狙う過程で周りを巻き込む可能性はありますか?」
「恐らくは貴方の親しい人達も危険に晒されるわ。
アナタと仲の良いあの桐生藍華さんも……」
「………………。オーケーわかりました。
で、この女は今どこに居る?」
藍華や家族達まで危険になる。
それを聞いた瞬間、イッセーの声が一段階低くなると同時に、リアス達に天野夕麻の居所を聞き出そうとし始めた。
「今はわからないわ。
けど知った所でどうするつもり?」
「…………………………」
「私達の正体を知って貰った今だから言えるけど、相手は人間ではないわ。
我々の天敵となる堕天使と呼ばれる種族よ。普通の人間が太刀打ちできる相手ではないわ」
「………………………」
目が据わり始めてるイッセーの様子を見て、放置したらますますヤバイかもしれないと察したリアスは忠告を忘れずにしながら、悪魔らしく己の利となる方向へと引き込もうとする。
「だからこそアナタ一人にこの場に来て貰った理由を話すわ。
兵藤一誠くん―――私達の仲間にならない?」
「…………は?」
そう、元々リアス達が呼び出した理由はイッセーの中に特別な力があると理解したからであり、その保護とできれば仲間として引き込もうとする算段があったからだ。
どんな力なのかはまだわからないにせよ、その特別な力を宿す人間は出来る限り仲間に加えたい。
割りと自分達に対して興味を持たずに帰りたがってたので少々苦労したが、自分と家族達の命の危険が迫っていると解れば守る為に仲間になってくれる可能性が高くなっただろう。
「俺は人間であって悪魔じゃない」
「わかっているわ。
けれど私はアナタを悪魔に転生させる事ができるのよ。
この『悪魔の駒』というものを使えばね……」
「……」
「悪魔に転生するのは決して悪い話ではないわ。
寿命も伸びるし、長い年月を若い姿で生きられる。
最初は私の眷属という形になるけど、名を上げれば独立して自分の眷属を持てるわ。
例えばアナタも男の子だし、自分の好みの女の子だらけの眷属にしてハーレムになるのも夢では―――」
食いついたと思って、デメリットを後回しにして彼の好みそうなメリットばかりを挙げていくリアス。
しかし……。
「話にならねーな」
「………え?」
イッセーの言葉は一言『ありえない』というものだった。
「……。何が話にならないのかしら?」
「まず寿命が伸びるのがありえない。
年を食う時間が長くなるのもありえない。
それはつまり俺だけずっと歳を取らずに親や親友だけが先に死に行くのを見てなきゃならないんだろう?」
「それは……そうなるわね。
人と悪魔の寿命の差は大きいから」
「じゃあ嫌です」
「……………」
ハッキリと嫌だと言い切ったイッセーにリアスは驚いた。
不老長寿になれるという話だけでも人間にしてみれば魅力的な話だと思っていたのに、こうもハッキリと嫌がられるとは思わなかったのだ。
「………。何でですか?」
「あ?」
「何故寿命が伸びるのが嫌なのですか?」
それは黙って聞いていたリアスの眷属達も思ったのか、それまでもくもくとお菓子を食べていた白髪の美少女こと塔城小猫が質問をした。
「この学園の男子は皆スケベでした。
だからこの話にもあっさり食いつくと思ってたのに、先輩は何故嫌なんですか?」
「スケベなのも認める。ハーレムってのに興味が無いわけでもないのも認める。
けどな、それは手の届かない幻みたいな話だからこそ魅力的に思えるだけの話であって、実際そんな状況になったら間違いなくやかましい事になるだけだろう? それと、俺は別に不老長寿になりたかない。アイツが先に死ぬと決まった人生なんか――俺は嫌だ」
アイツ――つまり藍華と同じ様に歳を取って死にたい。
それがイッセーの根にあるものであり、不老長寿はごめんだった。
言われた小猫はこの学園の男子の在り方を嫌というほど見てたのか、イッセーの言葉を若干信じてなさげに訝しげな顔だ。
「…………。アイツというのは桐生藍華さんの事かしら?」
小猫から視線を切ったイッセーが、姿勢を戻すと、リアスが嫌がっている理由たるアイツが藍華の事なのかと質問すると、イッセーは頷いた。
「親同士が仲良くて、物心がつく前から何をするにしても一緒でしてね。
同じ釜の飯を食った仲……とでも言うんでしょうか? 兎に角ずっと一緒で、きっとこれからもなんだかんだ一緒にやっていく。
それなのに俺がその悪魔とやらに転生して不老長寿になってしまったら、俺は変わらないでアイツだけが歳を取って先に死ぬ……。
そんなの俺は死んだって嫌だ、ですから転生なんてしない――したくなんてない」
「「「「………」」」」
とても正直に。
とても清んだ表情で。
とても優しげに話したイッセーに、悪魔であるリアス達は思わず引き込まれた。
持て囃される事は数多くあれど、それほどまでに大切に思われた事は肉親を持つリアスはともかく、様々な暗い過去を持つ三人の眷属には無かったから。
欲しい……眷属として。
リアスは思った。
彼をもし眷属に出来たら化ける可能性を秘めていると感じて……。
「貴方の気持ちはわかったわ。
……そこまで思われている桐生藍華って子にちょっと興味が出てきたわ。
ねぇ、よかったら彼女ともお話をさせて貰えないかしら?」
「……………………」
「そんなに疑り深い顔をしなくても、本当にその子とお話がしたいだけよ。
それに、貴方の気持ちに免じて眷属にならなくても天野夕麻からアナタのご家族達を守るお手伝いをさせてちょうだい?」
「………………………………………………」
だがリアス達は知らないのだ。
イッセーも……そして藍華も。
「これは単なる独り言。
もしアナタとその子が転生できたらもっと永く一緒に居れるわよ?」
「…………………。あ、やべぇ、今のは卑怯っすね。
かなり良いかもって思ってしまいましたよ」
既に『化けて』居ることに。
終わり
なんやかんやで上手いことギリギリ瀬戸際でなんとか悪魔に転生してしまった二人。
しかし、リアスや眷属達は二人の関係性を前にすると羨ましくて仕方なかった。
「くーくー……」
「本当にイッセーはアイカの膝で寝るのが好きなのね……」
「昔からこんなんでしたよイッセーは」
心地よさそうな顔してアイカの膝で眠るイッセーを見ながら、リアスは互いに自然と信頼し合う姿に羨望すら覚えてしまう。
「聞いても良いかしら? イッセーとは他にどんな事をしたの?」
「どんな? うーん、6歳前にはふざけてキスくらいはしたかな……」
「は、早いわね。他には?」
「12歳くらいの頃は毎日抱き枕にされてたかな」
「抱き枕というと、たまにイッセー先輩がアイカ先輩に抱き着きながら寝てるアレのことですか……?」
「そうそう。どこで覚えたんだか知らないけど、イッセー曰く私は『温くてやわっこくて好きな匂い』なんだってさ」
「そ、それって最早プロポーズみたいなものじゃないかしら?」
「さぁ? どっちにしろ、別にせがまれて嫌だとは思わないですけど――っとと、また始まっちゃいました」
「んー……」
寝ていたイッセーが腕を伸ばし、アイカの腰に抱き着きて腹部に顔を埋めているのを慣れた様子で対応しているのを見て、女性陣はただただ指を咥えてみてるだけだった。
「ほらイッセー? 見られてるわよ皆に?」
「んー……!」
「あら駄目だわこりゃ……」
「む、胸に顔を突っ込まれてますが……」
「別に構わないわよ。
吸われるよりマシだもの」
「吸っ!? す、吸われた事があるの!?」
「何度もありますよ? 流石に恥ずかしいけど、まあイッセーだし別に良いかなって」
「そ、それは流石に甘やかし過ぎよ……! プロポーズどころかそれ以上の手前じゃない!」
「冷静に考えるとそう……んっ……! そう、なんですけど……。
まー、仮に押し倒されても抵抗はしないと思いますし、別に良いかな……って……ちょっとイッセー、言ってる傍から吸わないでよ……くすぐったいから……」
「あ、あわわわっ! あ、アイカさんがイッセーさんに……!」
どんな美少女や美女相手でも、それが美女ないし美少女なのは認めるけど何をするわけでもない癖に、アイカ相手だと嘘みたいに色々とやらかしているイッセーもアレだが、なんだかんだでそれを全部受け止めてしまってるアイカもまた大概だった。
「ふふ……藍華ァ……」
「はぁ、図体だけはデカくなって中身はガキのまんまねホント。
よしよし……っと」
『………』
そんな彼女の為にだけなら何時だって真面目になるイッセーを見て知ったからこそ、そこまでされる藍華がリアス達はとても羨ましかったのだという。
「私より皆さんの方が肉付きも良いし、ためしにイッセーにしてあげたらどうです?」
「前に冗談で言ったら、本気で嫌な顔されたから言える勇気なんてとっくに消えてるわ……」
「忘れもしませんわ『コイツ、頭でも沸いたか?』みたいな豚を見るような目を……」
「イッセーとアイカのご両親も殆ど公認してるし……はぁ」
なんてね
補足
なんだかんだと言って、桐生さんが好きすぎる問題。
まあ、抱えてるスキルの相性が、某ゲス医者とゲス患者レベルに良すぎているだけでは無く、ただ単にイッセーが桐生さんを好きすぎてるってが大きいかもね。
その2
なので危害が及ぶと解れば出撃はしちゃえます。
……ただ、今の彼と彼女はスキルをコントロール可能にはしてるけど、身体能力は人並みなので戦闘となると割りと危険ですけど。
その3
にも拘らず出撃しようとする程度にはやっぱり大好きらしい。