色々なIF集   作:超人類DX

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タイトル通り。

……実は続きだけは少し書いてたのよ。


赤龍帝とバンパイア
何時だったかの記念続き


 青野月音は青野月音であって青野月音とは違う。

 それは彼には所謂前世の魂が宿っており、その魂は根っからの人間贔屓の非人間嫌いだった。

 

 そんな彼が前世からの因縁である、とある白猫との決着を着けるために非人間しか通わない学校に敢えて通い出して、紆余曲折の末に白猫が世界の外で眠っている事を突き止めた。

 

 だから彼は例の白猫が起きるその時までに更なる力を蓄える事にした。

 非人間達が跳梁跋扈している学校に引き続き通わなければならなくなったとしても、その白猫のせいで猫が大嫌いになったのに、担任の猫妖怪にウザいくらい絡まれたとしても、初登校の時から今まで妙に絡んでくる吸血鬼に引き続き絡まれても、彼は時を待つ為に我慢する事にしたのだ。

 

 彼の心の中がほんの少しずつ変わり始めながら……。

 

 そして少しずつ殺し尽くした程毛嫌いしてきた非人間達の非人間だからこそ抱える苦悩を知りながら……。

 

 

 

 

 

 

 似た者魔女師弟達を相手にした小さな冒険から1ヶ月が経った。

 その冒険で何がどうなったのかは当時者達にしか分からない秘密みたいな事にはなっているものの、開発土地に指定されていたあのひまわりの丘が今もまだ無事であるということは『そういう事』なのだろう。

 

 

「新聞部でーす!」

 

「いかがですかーっ!」

 

 

 夏休みも終わり、再び厚い雲に常時覆われた学園での生活が戻ってきてしまった新学期。

 新聞部に所属する赤夜萌香や仙童紫、黒乃胡夢やその他男二人は例のひまわりの丘であった神隠し事件についての取材記事を載せた新聞を正門前で配っていた。

 

 

「へー、新聞部は人間界で取材までしたんだー」

 

 

 ちょっと前まではこういった行為は公安委員会が取り締まってしまうので出来なかったが、生憎その新聞部に所属するその他男子二人の内の一人で、今萌香達三人娘があくせく配っている後ろでボケーっとした顔で突っ立っている彼――青野月音が当時のトップもろともぐちゃぐちゃにしてしまったので取り締まられる事も無い。

 というか、その後その公安委員会が一度解体された後に後がまにされてるので、ある意味月音がルールそのものだった。

 

 

「白音の手懸かりが手に入ったまでは良いけど、何をしてるのやら俺は……」

 

 

 別に義憤に駆られたから公安委員会を潰した訳じゃないし、新聞部にしたって顧問かつ担任の猫目静の半脅迫で入らされたに過ぎない為に、基本的に凄まじくやる気が無い月音は三人娘が楽しげに自身達が作成した新聞を生徒達に配る姿を見て満足そうにしている男子その2で新聞部の部長である森丘銀影に軽く肘をつつかれる。

 

 

「ええやんか、お前のお陰で公安からの五月蝿い妨害も無くなったし、見てみぃ? あの子達も伸び伸びしとるで?」

 

「あーそーですかー」

 

「それに、お前の作った新聞の隅に載せたミニコラムも男子からは意外とウケがええしな?」

 

 

 化け物じみたパワーを体感させられ、当初完全に月音にびびりまくっていた銀影の言葉に月音は、新聞を読む一部男子達を見てみると、確かに面白そうに読んでいるのが見えた。

 

 

「あったぞ! 連載・人間女性!」

 

「今回の見出しは『スーツを着たOLの黒タイツのエロさについて!』だってよ!」

 

「人間の女なんてしょうもないと思ってたけど、この記事を読んでから馬鹿にできなくなったぜ!」

 

 

 『新聞部に所属するならなんか記事を書け』と言われて嫌々考えた結果導きだしたのが、妖怪――主に男共に対して如何に人間の女性の素晴らしさを伝えるという斜め上方向にぶっ飛んだ連載コラムだった。

 

 どうせすぐにでも打ちきり確定と踏んで、当初は思いきりふざけてやったのだが、思いの外男子達からのウケがかなり良く、気づけば個人で連載まで持たされてしまったのだ。

 

 ちなみに今回の記事は、先程誰かが言った通り、外資系OLのスーツ姿と黒タイツのエロティシズムであり、男子達は勝手に読んでは盛り上がっていた。

 

 

「人間も妖怪もこういう所は同じなのが逆に腹が立つ」

 

「上手い具合にツボを抑えてくるからや。

もっとも、女の子達からはクレームの嵐やがな」

 

 

 くっくっくっ! と笑う銀影の言う通り、一部男子達からの評判は凄い良いのだけど、女子達からの評判は悪いし、連載をやめろというクレームまで来ていた。

 というか、新聞部の女子達からも月音が人間の女に対してだけは目の色を変えてベラベラと語りまくるのは嫌らしい。

 もっとも、本人に改める気配はまるで無いのでムッとするだけに留めてるのだが。

 

 

「むー……せっかく月音さんとひまわりの丘の神隠しを解明したのに……」

 

「ホントよ、男子達は青野のふざけたコラムばっかり……」

 

「人間の女の子ばっかり褒める記事だから嫌よね……」

 

 

 月音のコラムに騒ぐ男子達に、三人娘は不満顔。

 特に紫にしてみれば、夏休みの合宿で月音のお陰で人間に対する耐性も確立できたし、ひまわりの丘の神隠し事件の解明も一緒に出来た事に対する記事を一部の真実を隠しながら自慢気に書いたのだ。

 

 瑠妃やその師匠で親代わりでもあったお館様という二人の魔女との交流の果てにちょっと紫や後で知った萌香にとってちょっと不安になるオチがあった訳で……。

 

 

「さっきから携帯ばっか弄っとるけど、メールか?」

 

「………そんなとこっす」

 

「誰や? ……まさか合宿の時にナンパした人間の女の子か?」

 

「だったらどれだけ良かったか。

残念ながら相手は若干の機械音痴さんです。

ったく、小文字変換のできないのかこの人は……ふふ」

 

 

 と、ブツブツ言いながら、後の時代にはガラケーと呼ばれる事になる今はまだメジャーである二つ折りの携帯を操作する月音はちょっと笑っていた。

 

 

「…………。またメールしてますぅ」

 

「もしかして例の人?」

 

「はい……瑠妃さんのお師匠様で、人間を全滅させようとした所を月音さんが止めた魔女です」

 

「なんでそんな相手とメールなんてしてるのよ?」

 

「人間に戦いを挑まない約束をした代わりに、人間について詳しい月音さんから色々と出し抜く方法を聞くためらしいんです。

月音さんも最初は面倒がってましたけど、今じゃブツブツ言いながらも優しく笑うからちょっと不安ですぅ……」

 

「た、確かにあんな優しい顔する月音ってあまり見ないかも……」

 

 

 結論から云うと、月音と紫によって『お漏らしニート魔女』だなんて不名誉きわまりないアダ名を頂戴してしまった魔女の少女、瑠妃とその師匠であるお館様と呼ばれた魔女はひまわりの丘を完全死守した形で今も平穏無事に生存していた。

 

 彼が本当の青野月音だったら、お館様とは殺し合いに発展し、禁断の術を使って敗北し、結果その反動で死に絶えるのだったが、相手が破壊の龍帝とまで呼ばれた兵藤一誠が生まれ変わった青野月音だったが為に、殺し合いに発展する前から実力の差を見せ付けられ、別口の方法で上手くひまわりの丘の存続に成功したのと、彼が意外と夏休み期間の間ずっと訪ねて来ては、人間の握る土地の権利書を奪う方法から実行までの面倒を見てくれたというのもあって、そのお館様が『同胞ではないが部下には欲しい』と、月音を割りと気に入ってしまったのだ。

 

 

「絶対に部下になってくれ的な内容です……」

 

「あの時はもう一人の私が激怒して大変だったわ……」

 

「当の本人はのほほんと人間の女のナンパしては砕けてばっかのちゃらんぽらんだったけどね」

 

 

 そんな事もあってか、裏萌香が死ぬほど激ギレしてお館様と一戦交える所まで発展したり、紫もそれに加勢したりと修羅場全開だったのだが、本人は胡夢が呆れ顔で言った通り、そんな修羅場なんて他人事宜しくに街に行っては人間女性をナンパして玉砕しまくっていたという。

 

 で、散々修羅場った結果、『何かあったら連絡しろ』とお館様に携帯を渡して今に至った訳だ。

 なので、特に裏萌香とお館様の仲は悪い。

 

 

「授業があるから終わり……っと。

ったく、お漏らしはしないがマジでニートになりやがってあの魔女め……」

 

 

 そしてお館様は守れるものも守れて今のところ次の目的が無いので自宅警備員に就職したらしく、暇さえあれば瑠妃に教えてもらいながらのメールを送りまくってくるのだったとか。

 

 

 

 

 

 さて、そんな夏休みを過ごし、新聞もほぼさばけた頃だったか……。

 あまりにメールをしながら優しく笑ってる月音――というかメール相手にそろそろ乙女が嫉妬し始めた頃だったか。

 

 

「ねぇ……」

 

 

 片付けをしていた新聞部達の前にやって来た一人の少女に全員の作業の手が止まる。

 

 

「新聞……まだ残ってるよね? 貰っていい?」

 

 

 どうやら新聞をご所望らしいのだが、この学園の制服を着てないのが嫌に気になる。

 が、欲しいというなら配るまでなので、近くに居た胡夢がはいと違和感を少女に覚えながらも渡すと、少女はじーっとその場で軽く呼んでから不意に口を開く。

 

 

「このコラムを書いた青野月音って人は誰?」

 

 

 新聞の端にあるミニコラムの箇所を指差しながら、少女が月音はこの中の誰なのかと聞いてくる。

 女子ウケ最低なコラムにまさかの女子が興味を示してるのかという衝撃で思わず皆が少女を無視してせっせと片付けを続行していた月音を見てしまうと、少女は理解したのか、背を向けてる月音に近づく。

 

 

「ねぇ」

 

「はぁ、人間のおんにゃのことわんわんしてぇ……」

 

『……………』

 

 

 ボーッとし過ぎてるせいなのか、思考回路がかなり駄々漏れてる発言をした月音に萌香達はコントの様にずっこけそうになる。

 となれば当然ドン引きされる―――という訳ではどうやら無く、少女はクスクスと笑っていた。

 

 

「ふふ、思ってた通り。

公安委員会を壊滅させて恐れられてるみたいだけど……」

 

 

 クスクスと笑う少女に漸く気付いたのか、月音が振り向く。

 

 

「あ? 何?」

 

 

 ボーッとしていたら目の前に知らん妖怪女が居た。

 以前ならこの時点でめちゃくちゃ嫌な顔をしていたが、妥協をする事を覚えたせいなのか、声こそぶっきらぼうながら、月音は目の前に現れて何か笑ってる少女に返事をすると、少女はいきなり両手を広げ始めた。

 

 

「どう……かな……?」

 

「は?」

 

 

 何かを見ろという意味で両手を広げたらしいのだが、何の事を言われてるのかサッパリわからない月音は訝しげな顔になる。

 というよりそもそもが誰なんだという話である訳で……。

 

 

「キミが書いたコラムの理想とする人間の女の服装を参考にしてみたんだけど……」

 

「はぁ?」

 

「前号の時の……今時女子ファッションって……」

 

 

 そう言いながら『どうよ?』みたいな顔をやめない少女に、月音はふと前号に書いた人間の年頃少女ファッションについてのコラムの事を思い出した。

 そういえばどうせ誰も参考になんかする訳も無いと思って、結構趣味に走った服装についてを書き殴った記憶があるし、言われてみれば目の前の少女の格好は遠い過去に友達だった二人の少女にさせてみた格好に近いものがあった。

 

 

 

「キミが書いた記事はバッサリとしてて面白くて……」

 

「…………」

 

 

 肩の露出したパーカー調の服に、縞模様のニーソックス。

 そして当然のミニスカート……。

 月音というか、一誠が割りと好んでいた格好そのものであり、珍しくジーっと見始めたその視線に少女はちょっとばかり照れていた。

 

 

「まー……良いんじゃね?」

 

 

 そして思わず―――というかかつては非人間族絶対殺すマンだった月音は何処の誰とも知らない少女の格好を褒めていた。

 よくよく観察してみれば容姿なんかも良かったりするのだけど、彼の場合はまだ非人間族に対する嫌悪感によるフィルターが残っているので、特に思うことは無いらしい。

 

 ただ、どうであれポジティブなコメントを出した月音にショックを受けてる紫と萌香――というよりは今はロザリオの中に居る裏萌香が居るのだけど。

 

 

「ふふ、そうか。

コラムの作者にそう言って貰えるのはとても嬉しいよ。

久々に学校に来た意味もあった。

猫目先生がかなり褒めちぎってたからどんな姿をしてるのかとも気になってたし、会えて良かった」

 

「久々に……? というか顔が近いから離れてくんね」

 

「意外とかわいい顔だし……ふふふっ!」

 

 

 成長するにつれて、仲間が居なければ常に凶悪殺人鬼みたいな荒みきった顔付きに変わっていた兵藤一誠時代とは違い、青野月音としての容姿はまだ大人になる前の段階故か若干の童顔だった。

 それが彼女的には良かったらしく、ズイッと十秒程顔を近付けてきてから少女はご機嫌そうに新聞片手に去って行くと、対して月音はうざそうに顔をしかめてその少女を見送った。

 

 

「なんだったの? つーか誰アレ? 完全に私服じゃん」

 

「さぁ? あの世にも珍しい、女の子のファンって奴なんやないか?」

 

「趣味が悪いって事よ。

でもあの子も運が良いわね。こんなちゃらんぽらんが公安委員のトップに変わっていたから私服登校でも取り締まられなくて」

 

「まあ、別に私服だろうが何だろうがどうでも良いからな…………ん?」

 

「……」

 

「あの、もう一人の私が怒ってるんだけどー……紫ちゃんも」

 

「は? 今のどこに怒る要素があるんだよ?」

 

 

 ついこの前のお館様との件も含めて何故勝手にキレてるのかがわからない月音は、プンプンしてる紫とプンプンしてるらしい裏萌香に首を傾げるのであった。

 

 

 

 ここ最近月音の自分に対する扱いが輪をかけて酷い。

 ――と、思って不満ばかりな裏萌香は、表萌香に対して終始愚痴っていた。

 

 

『魔女の丘の件――いや! 仙童紫が月音にひっつき始めてからというもの、私に対する敬いがますます月音から消えている!』

 

(それは昨日も聞いたから落ち着こうよ……)

 

 

 完全なる格上の月音と知り合って以降、事あるごとに月音に拘る裏萌香に対して苦笑いを内心浮かべながらも、まるで娘の癇癪に付き合う『母親』の様に宥める表の萌香。

 それはまるで、イッセーとドライグを彷彿とさせる訳であり、表の萌香は主にドライグがひっそりとこういった状況の対処を教えてもらっていた賜物なのかもしれない。

 

 

(ドライグ君が言ってたでしょう? 変に遠回しな事しないでストレートにぶつかった方が月音には効くって。紫ちゃんが良い例じゃない)

 

『わ、私にあんな下品な真似をしろというのか!? 私達はバンパイアなんだぞ!』

 

(でもドライグ君曰く、本来の2%未満の実力しか出してない月音にいつもあしらわれてるじゃないの)

 

『ぐぬ……!』

 

 

 どんだけ月音が好きなのよこの子……。

 と、表の萌香は別人格の自分自身の筈なのに何故か微笑ましい気持ちになってしまう。

 まるで父親のように月音と接しているドライグからの影響なのか……。

 それは自分でも良くわからないが、もう一人の自分の応援は出来ることならしたいとも思うので、自分の考えを伝える。

 

 

(少しだけ素直になるのよ。

ドライグ君だって言っていたじゃない? 他の有象無象と比べたら快挙に近いレベルで私達は月音に大分心を開かれてるって)

 

『…………やけにドライグの受け売りばかりだな』

 

(貴方達が遊んでる間によくドライグ君とはお話するから……。月音がドライグ君を凄く慕う気持ちがよーくわかるし)

 

 

 渋い声で威厳がある様に感じるが、結構大雑把で逆に親しみを感じる。

 それが表萌香によるドライグへの印象であり、最近は暇さえあれば裏の自分と入れ替われば月音を介してドライグとお話ばかりしていた。

 

 

「みなさーん おはようございまーす!夏休みも終わって二学期になりました!」

 

 

 こんな調子で自分の別人格とのトークに付き合っている表萌香だが、現実では既にHRが始まっていた。

 

 

「今日も元気に頑張りましょう! ……と、言いたいのですが、その前に二学期の学級クラスのリーダーである学級委員長を決めてもらおきたいと思いまーす!」

 

 

 何やらクラス委員決めの話を静がしているのだけど、萌香は裏萌香にレクチャーしている事に没頭していてほぼ聞いてなかった。

 ……故にそれが隙を生んでしまった。

 

 

「二学期は文化祭とかあってまとめ役が必要なので、委員長の他に副委員長や書記辺りも欲しいですね。ですので誰か推薦はありませんか?」

 

『言いたいことは解ったが、あんなちびっ子みたいな真似をしなければならないというのは、月音を付け上がらせる様な気が……』

 

(だったらしなくても良いわ。

その代わり、月音が他の女の子と楽しくしてるのを見ても怒らないでよ?)

 

 

 何やら七めんどくさそうな役員を決める話になっている中、二人の萌香は隣の席でねりけしという、消ゴムとしての機能にまるで期待できない消ゴムを伸ばして遊んでて同じように静の話を聞いちゃいない月音についてのトークで耳に入ってこない。

 だから、突然後ろの席の方から椅子を引いた音と共に手を挙げて立ち上がったある者の言葉に反応するのにも遅れてしまった。

 

 

「私は赤夜萌香さんを推薦します……」

 

 

 なったら間違いなく面倒な事ばかり押し付けられる役職に推薦されてしまった事に……。

 

 

「え?」

 

『む……』

 

「?」

 

 

 いきなり名前を呼ばれて裏の自分共々意識が現実に戻り、周りを見渡すとクラスメート達がこぞって自分に拍手を送ってくる。

 

 

「赤夜さん、白雪さんの推薦なのですが、クラス委員長になってくれますか?」

 

「え、ええっと……?」

 

『しまった、話に没頭し過ぎて何を言われてるのかがサッパリわからん。

が、めんどくさそうな事を押し付けられた気がするぞ――あの朝月音にズケズケと近づいてきた女に』

 

「え? あ、ほ、ホントだ。あの子このクラスの子だったんだ……」

 

「俺も今気づいたわ……」

 

 

 若干ダウナー女子が入ってる雰囲気の……今朝月音に近づいてきた少女と同じクラスだった事に驚く萌香と、ついでに月音は少女と目が合う。

 

 

「本当は青野月音くんを推薦したかったけど、色々と忙しそうだし……」

 

「うーん、確かに月音くんは新聞部に加えて新しい公安委員長さんでもありますからねー」

 

 

 そう言って今ナチュラルに一人の生徒相手にめっさ親しみを感じる名前呼びと熱っぽい視線を向ける静に、若干教室がゴシップネタを前にした様にざわつくが、刹那で月音がデカい舌打ちをしたので収まった。

 

 

「でしょう? ですからその青野くんとしょっちゅう一緒に居て暇してそうな赤夜さんを推薦してみました」

 

「ひ、暇そうって……」

 

『あの女……言ってくれるじゃあないか。しかもなんだ? 私達を見て妙ににやついて……』

 

 そんな空気の中をマイペースに語る少女。

 事実確かに月音の後を大体ついてるが、別に暇って訳ではないと萌香は思うし、さっきから妙に白雪と呼ばれた少女に意味深に笑われてるのが引っ掛かる。

 

 別にクラス委員をやること自体は吝かではないものの、ここで頷いたらあの白雪という少女の思惑に乗せられた気がしてちょっと気にくわない。

 

 

「あのー……もう少し考えさせて貰ってもいいですか?」

 

 

 結果、萌香は保留という形でかわした。

 裏萌香程では無いが、あの少女から嫌なものを感じるので。

 

 

 さて、保留という形で上手くかわし、授業も特に何事も無く進行してお昼休みになった。

 

 

「お昼だよ月音!」

 

「ふわぁ……ぁ……」

 

 

 一学期の頃はしょっちゅう他クラスを含めた男子達から下心全開でお昼の同行を申し込まれてきたのだが、月音が公安委員会をほぼ公開生放送で壊滅させてしまって以降は、青野月音は凄まじくヤバイし、赤夜萌香に狼藉を働いたら命がなくなる……みたいな噂が立ったが故に今は誰も誘う者は居ない。

 

 

「また売店で買うの?」

 

「手間が掛からないからな」

 

 

 表の萌香としても裏萌香としても月音との時間の妨げにならないという意味では今の現状はとてもありがたかったし、最近ではなんやかんやドライグが密かに教えてくれた通り、入学当初と違って月音も自分に付き合ってくれる様にもなってくれた。

 

 紫には少し悪いがと表の萌香は思うものの、こういう所で色々と稼がないとと裏萌香には既に言ってある。

 本人は『媚びるみたいで嫌だ』とさも嫌々な感じで言ってるが、結構張り切るのは既にわかりきっている話だ。

 

 

「じゃあ今日は売店で買わなくても良いよ月音」

 

「? 俺に断食しろってのか?」

 

「違う違う。

月音も分も私が―――うぅん、もう一人の私が頑張って用意したの」

 

『ま……まあ、所謂施しという奴だよ。他意は無い』

 

「本当はドライグ君の分も用意したかったけど、ドライグ君は食べられないし……」

 

『気持ちだけでも受け取っておくから気にするな』

 

 

 何せ冗談で昨晩裏萌香に『いつも売店で買って食べてる月音にお弁当でもつくってあげたら?』と言ってみたら、仕方がないと何度も言いながら張り切りまくって作成したのだから。

 まあ、料理の腕と出来上がりはお察しかもしれないが……。

 

 

『ど、どうだ? ふ、ふふん、美味すぎて言葉もでないか?』

 

「……………………………………………………………………。ふつー」

 

『!? ふ、普通か……そうか普通か! あっはっはっは!』

 

(…………。本当は不味いのに月音がもう一人の私に気を使ってくれたのね……)

 

(本当にやるなぁもう一人のお前は。

純人間でない者なのにあそこまで言わせるとは……)

 

 

 それでも舌触りとかがジャリジャリする物体を食べて、普通だと返した月音にすっかりご機嫌になった裏萌香を表の萌香とドライグは親目線で見守った。

 

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 

 屋上に移動して裏萌香状態になってる彼女と、そんな彼女から渡された弁当を無表情で食ってる月音――特に月音の方をじーっと物陰から見続けてる少女が居たとしても特に気にしないのだ。

 

 

「で、クラス委員ってやるの?」

 

「ふん、あの女の意図に乗ってやる気は無いな。

それにそんなものに時間を割かれていたらお前と遊ぶ時間が減るだろう?」

 

「あ、そう……。別になんでも良いけど」

 

「ふふん、素直じゃない奴め。本当は私がクラス委員長をやらなくてホッとしてるのだろう? 私に遊んで貰えるからと!」

 

「突然怒ったり、ポジティブになったり忙しいなキミは」

 

「当たり前だろう? この私を抱き枕にしたあげく、あんなスケベな事をしたのに他の女にかまける月音が悪い」

 

「………記憶から永久削除してぇよそれ」

 

 

 

 

 

 

「…………………抱き枕」

 

 

 思ってる以上に雰囲気の違う萌香の、月音との距離感の近さに段々イライラし始めたとしても気にしない。

 

 

『ドライグ君ってドラゴンさんなんだよね? じゃあ人の姿になれたりしないの?』

 

『試した事も無く封印されたからわからんな。

それに別に人の姿に化ける理由も無いだろうし』

 

『えー? ドラゴンの姿のドライグ君もカッコ良さそうだけど、できたら一度で良いから人の姿になって出て来てくれたドライグくんと私は遊びたいなぁ……』

 

『お前もよくわからん小娘だな……仮にできたとしても絶対につまらんだろ』

 

『そんな事ないよ~

ドライグ君のこと月音みたいに優しくて好きよ?』

 

『………』

 

 

終わり




補足

お館様は生存してました。
例の切り札で削られた命もドライグが一言……『俺を介して月音(イッセー)のパワーを譲渡すればなんとかなるだろ』

と言って実行した結果なんとかなりましたし、丘についても土地の権利書を失敬し、丘に関するオカルトな噂を流しまくって現存成功。

夏休み中は合宿が終わっても月音がレクチャーしに訪れたりするし、その時ばかりは言い出しっぺだったのもあって嘘みたいにテキパキ働いたので、お館様に思いの外気に入られてしまって部下に勧誘され、それを聞いた紫ちゃまと裏萌香さんが激ギレしてお館様&お漏らしニート魔女――じゃなくて瑠妃さんの師弟コンビによる喧嘩に発展したりと色々あった模様。


現在は弟子の瑠妃さんと館でゴロ寝しながらダラダラしてるマジニートになってるらしく、暇さえあれば月音あら渡された携帯使って月音にメールしまくってるらしい。

文字変換が苦手で文面がぽんこつらしいけど。


その2
くぎゅ……じゃなくて、雪の人です。

不登校は変わりませんが、あの服装は月音が嫌々書いた新聞の人間界女子のファッションについてのコラムを参考にして着るようになった設定。

そして新聞を届けてくれた先生があんまりにも月音について語り倒すのと、コラムが案外面白かった(妖怪についての辛口レビュー)ので、段々気になって不登校から一時的に抜け出したという経緯。


……なのだが、その月音が意外と優男風味ながらもワイルドな行動をするから結構どころじゃなくなってきてる模様。

萌香さんをおもくそ敵視し始めてしまうかもしれぬ模様。


そんな萌香さん――特に裏は表さんにおもいきり乗せられて作った弁当を食べてもらえてウキウキで、それを見て表さんとドライグは親目線感覚でのんびりしていたという温度差よ

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