色々なIF集   作:超人類DX

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彼の心の奥底に踏み入る為にはまだ修行が足りない


実は打たれ弱い

 最近同じ様な夢を見る。

 

 その夢は一人の男と少女が向かい合っていて、男の方はこの世の全てを憎悪したような負の感情を丸出しに。

 

 そして白髪の少女はそんな男の殺意と憎悪が心底心地良いといわんばかりの微笑み。

 

 両者が誰なのかはわからない。

 けれど夢で見るその男の方はとても誰かに似ている気がしてならないのだ。

 

 

『いい加減死ねよテメー……存在そのものが鬱陶しいんだよっっ!!』

 

 

 そう、あの月音にとても。

 容姿は違うけれど、口調と放たれる力の色がとても似ている。

 まさかとは思うが……夢だから似てるだけなのかもしれないけど、とてもその男は月音に似ていたのだ。

 

 

『ふふ、ふふふっ♪ 本当にみーんな殺しちゃったんですね先輩? まあ先輩がムカついてる奴等に生きてる価値なんて無いし、殺されて当然ですよ。

それで後は私ですか? ふふ、殺してみます? 私、先輩から与えられるものならなんでも大好きです』

 

 

 頭がイカれてるとしか思えない白髪の少女の方は誰なのかはわからないし誰かに似てるとも思えない。

 果たしてこれはなんの夢なのか。

 

 殺意に囚われた男と、そんな殺意を真正面から受けて心底幸福そうに笑う少女が殺し合うこの夢は一体……。

 

 私はまだ解らない。

 

 

 

 

 

 現在の陽海学園の公安委員会は実質青野月音のワンマン経営だった。

 先代メンバーを破滅させる事で奪い取った位置だと周囲の妖怪達は優男に見えるからこそ月音を基本的に恐れていた。

 

 が、一部にはそんな彼の存在をとてもやっかむ者達も居る。

 

 特にほぼ学園一かもしれない美少女達に自然と囲まれてる立ち位置を妬む者が大概な理由であるのだが……。

 

 

「月音っ! お前っ! どうして私をほったらかしにした!?」

 

「五月蝿いな。

二度も言わせんなよ、学園長だか理事長のボケ狸だかに言われて学園の不穏分子をつり上げて始末しなきゃいけない契約なんだからしょうがないだろ」

 

「それは理解できたが、何故私をその場に誘わない!?」

 

「足手まといなんか要らないだろ。

それにキミは別に公安じゃあない」

 

「あ、足手まといだと!? 私が!?」

 

 

 実はよろしくない噂のある教師に『解雇通知』を送るという任務に白音に関する情報の等価交換でおこなった月音は、白雪みぞれという少女に目撃されてはしまったものの、結果的に釣り上げに成功した形で達成した。

 

 定期的に力を何かにぶつけておかないとストレスが溜まるし、勘が鈍るので、つい最大出力の一段前の領域でぶちのめした訳だが、その力を見せて貰えなかったとかそんな理由でバンパイア状態の萌香にただいま文句を言われていた。

 

 

「だ、だったら私も公安所属させろ! 手は多くあって損はないだろう?」

 

「嫌だね。

俺は別にあの学校の治安がどうなろうが知った事じゃあないし、わざわざこんな馬鹿丸出しな事をしてるにも個人的な理由があるからなんだよ」

 

「なんだその個人的な理由というのは?」

 

「教えない。

そしてもし、しつこく聞くなら俺はキミを本気で殺す」

 

「っ……!」

 

 

 裏萌香は不満だった。

 自分が全力で『遊んで』も壊れない処か、片手間に自分を降せる程の力を持つ月音が自分に対してまだ壁を作るのが。

 

 確かに自分は弱い。

 負けてなんかないと意地を張っては居るが、自分は月音に全く届いちゃいないし、事実月音にしてみれば自分はただの足出纏いにしかならないだろう。

 

 無理矢理押し掛けて、萌香の私物で月音の部屋を埋め尽くしても、ドライグが少しだけ自分達に月音が心を開いていると言ってくれても、まだ何かが足りない。

 

 それはきっと月音の正体と頑なに非人間種族を嫌っている理由にこそ答えがあると裏萌香は察している。

 

 

「ドライグは優しいから色々キミ達に言ってくれてるみたいだが、勘違いしないで貰えるか? あんまり煩いと脊髄反射的に八つ裂きにしたくなるんだよ、お前達みたいなものを見てると」

 

「……………」

 

「俺がどこで何をしてようが、キミに何の関係がある? キミが一々小言を抜かす権利がどこにある? 無いだろう? ここ最近黙っててやってただけでさ、そういう所……本当にウザいよ」

 

「……!」

 

 

 でも踏み込もうとした瞬間、月音は激情に駆られるでは無く、心底軽蔑するような冷たい眼差しで見据えながら拒絶する。

 表の萌香も今は何も言ってくれない時点で裏萌香は思わず部屋を飛び出してしまう。

 

 

『少し言い過ぎじゃないか?』

 

 

 部屋を飛び出す直前、表の萌香が月音にロザリオ越しに小さく『ごめんね』と謝るのを聞いたドライグがベッドに腰掛けながら脱力する月音に声を掛ける。

 

 

「謝れってのか? 冗談じゃない。俺はああいうギャーギャー騒ぐ奴が嫌いなんだよ」

 

『……………』

 

 

 そう言いながらベッドから立ち上がる月音は、ナップザックを肩に掛ける。

 

 

「それに、こうでも言って追い出さないと出られないだろ?」

 

『………はぁ』

 

 

 そう言いながら部屋の扉を開けて、消灯時間なのに外へと出た月音にドライグはため息を洩らす。

 既に時刻は夜更けであり、本当なら寮を出るのは校則違反。

 

 しかし月音は見回りの教師の目を掻い潜りながら外へと出る。

 わざわざそんな真似をするには理由があり、寮を出て暫くすると、文字通り地面を蹴って空へと大きく跳んだ。

 

 

禁手化(バンスブレイク)・赤龍帝の鎧」

 

 

 そして全身に龍帝の鎧を纏うと、背から炎を吹き出しながら飛行する。

 ある場所へと行く為に……。

 

 

 

 

 

 月音にバッサリと言われてすっかり落ち込んでしまった裏萌香をどうやって上手く元気付けてあげられるか……なんて思いながら表の萌香は塞ぎ込んだままの裏萌香が封じられてるロザリオを首に月音と合流せず登校した。

 

 

「月音と昨日ああなっちゃったから一人で来たけど、もう先に月音は教室に来てるみたいだよ? どうするの?」

 

『……話しかけても無視されるかもしれないから話しかけなくても良い』

 

 

 よっぽど昨日の月音の言葉に自信を失ってしまったのか、叱られてしょんぼりする子供みたいな弱々しい声の裏萌香に表萌香は取り敢えず言われた通りにして、隣の席に座る。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 普段ならそもそも月音と一緒に教室入りをしてたので、一人で来るのも久々かつ会話が無いのは寂しい。

 基本的にこっきから話しかけないと月音は返事をしないので黙ってると月音もずっと黙ってしまう。しかもそれでも一向に構わない態度を常にしてるので、余計会話が無い。

 

 お陰でクラスメートの何人かがヒソヒソと自分と月音を見て『え、喧嘩?』と噂しているので微妙に居心地も悪い。

 

 

「朝っぱらから何だよ?」

 

「?」

 

『……?』

 

 

 そんな視線に晒されても月音はといえばどこ吹く風で、何やら携帯に着信が入ってそれに出て誰かと電話をし始めていた。

 

 

「今から一応授業なんですけど……。え? あぁ、別に良いっすよわざわざ。

乗り掛かってしまった船ですしね……えぇ、えぇ……」

 

 

 

「誰と電話してるんだろうね?」

 

『……。月音の携帯の番号を知っているのは、この学園でだと私達と新聞部。

口調が砕けた敬語からして森丘銀影かもしれないが、そもそも電話で用件を話すくらいなら直接言う筈。

となれば、私達以外で連絡先を知っている相手―――つまり、あの魔女達かもしれない……』

 

「わ、凄い、そこまで推理できちゃうなんて?」

 

『……』

 

 

 関心するのと同時に、ちょっとだけでも意地を張らなければ良いのにと思ってしまう萌香。

 萌香としてももう一人の自分と月音が仲直りして欲しいと当然思っている。

 自分だって月音とお話したいし、何より近くに居ればドライグともお話が出きるので。

 

 

「まだ定期的にしないとダメですので、今度の休みに――はい。

そう思うのなら今度人間の女性の服でも着て見せてくださいよ?」

 

 

 どうしたものか……。

 そんな事を思いながら誰かと電話している月音をジーっと見ていると、ふと自分以外にも月音を見てる者が居た事に気がつく。

 そう、長かった髪をバッサリ切ってイメチェンしてる白雪みぞれが。

 

 

「ではそろそろ。はい……ゴロゴロしながら菓子ばっか食ってないで、ちゃんと弟子を鍛えてやってくださいよ? それじゃあ」

 

 

 月音のパワー解放の姿を間近で見たみぞれはてっきり月音に怯えてしまっているのかと思ったが、視線的にそうでもない。

 

 

「ねぇ、白雪さんが見てるよ月音をジーっと見てるよ?」

 

『……どうせ私は奴にも劣るさ……』

 

「ひ、卑屈だなぁ……」

 

 

 何時もなら強気発言の三つか四つは出てる筈なのに、完全にネガティブになってるもう一人の自分に苦笑い。

 やはり此処は自分が一肌脱がなければならない……と、携帯をしまって再び無言でペンを回しながら座ってる月音とを見て思う表萌香なのだった。

 

 

 ところで、そのみぞれによってクラス長に推薦されてしまった萌香は、クラスメート達の投票の結果決まりましたと、この後始まったHRにて静がクラッカーを鳴らしながら祝福した。

 

 

「厳選なる投票の結果、やはり赤夜さんがクラス委員長になりましたー!」

 

「え、えぇ……?」

 

 

 祝福の拍手が教室内を響く。

 任命されてしまった萌香は別に吝かでは無いのだが戸惑いは隠せない。

 ちなみに何故か候補にされてた月音には二票程入ってたらしい。

 

 

「やっぱり赤夜さんよねー」

 

「美人だしな!」

 

 

 人気者故の宿命でクラス委員長にされてしまった萌香。

 が、ここで一人手を挙げながら席を立つ者が一人……。

 

 

「あの……副委員は決まってませんよね? でしたら私が立候補したいのですが……」

 

 

 そう、あの白雪みぞれが副委員に立候補すると言い出したのだ。

 これにはみぞれが不登校女子だったこともあってか騒然となるし、萌香はもう一人の自分と小競り合いまでしていたのもあって驚いている。

 

 月音は知らん顔で練りけしで遊んでたが……。

 

 

「白雪さんが……ですか?」

 

「はい……ええっと、だめですか?」

 

「他に立候補する者が居なければ構いませんが……」

 

『…………』

 

 

 驚きつつ静は他に立候補者が居ないかを確認し、一人も居ないのでそのまま副委員長にみぞれがなる。

 

 

「ど、どうしたんだろう白雪さん……」

 

『…………』

 

 

 萌香と比べると疎らな拍手で祝福されたみぞれが席に座るのをチラチラ伺いながら萌香は若干警戒する。

 

 

『おい、小娘が不安がってるぞ』

 

(待て、ねりけしを伸ばす限界の新記録にチャレンジ中なんだ。集中させてくれ)

 

 

 そして月音はねりけしを伸ばしてまだ遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 結局1日中月音と話が出来ず仕舞いだった萌香は、一応公安の仕事をする為にさっさと教室を出ていった月音を追いかけようとしたのだが、そこに待ったをかけたのがみぞれだった。

 

 

「待て。クラス委員の仕事の振り分けについて話し合いたい」

 

「え……あ、う、うん……」

 

 

 理由がまともなので頷くしかできない萌香は、他の生徒達が全員教室を去った後、みぞれと二人きりになって若干ビクビクしていたとか。

 

 

 そして月音はといえば……。

 

 

「ん? 青野じゃない、今日も先に公安のお仕事かしら?」

 

 

 大体慣れてきて気安くなっていた黒乃胡夢と出会していた。

 

 

「適当にやってるフリでもした後、一応部活には出るよ。出ないと顧問の猫女にセクハラされるからね」

 

「セクハラされてたのアンタ……?」

 

「アレがこの学園の教師じゃなかったら100は殺してやってたぜ」

 

 

 当初、自分より人気者の萌香に対抗する意味合いで月音に色仕掛けをしたのだが、まるで相手にされないし、それどころか下手したら殺されてたかもしれなかった現実を目の当たりにして完全にビビっていた。

 が、同じ部活という意味で近くで見てみると結構アホな言動は多いし、人間の女が関わると途端にバカになる姿を見て、怯えるのもアホらしくなり、今ではこんな調子だった。

 

 

「ふぅん? ま、何でも良いけど部室行ったらまだ誰も来てなかったし、その見回りとやらに私も付いてって良い?」

 

「は? ……別に良いけどマジで適当に学校内を歩いてるだけだぜ?」

 

「良いわ良いわ。アンタに紳士的なエスコートなんて期待しちゃいないし」

 

 

 そう言って若干嫌そうな顔した月音を見なかった事にしてついていく胡夢。

 莫大な力を持つ意味不明生物ではあるが、サッパリとした対応をすれば別に何もされない……と分かれば結構簡単なものなのだ。

 

 

「…………………………」

 

「わぁ、アンタを見るなり皆して制服をキチッと着直してるわね」

 

「別に何の格好してようがどうでも良いんだがな俺は」

 

「余程前の公安をボロボロにしたのが恐怖みたいねー」

 

 

 月音の姿を他の生徒が捉えれば全員が怯えながら制服をちゃんと着直したり、道を開ける。

 それはまるで腫れ物みたいな扱いだが、当の本人はどうでも良さげな顔でテクテク歩いており、校舎内から体育館、運動場と見回りをしていき、最後に人気の少ない校舎裏を見回る。

 

 

「アンタまさか、今さらになって私の魅力に気付いて襲うつもりだったり――」

 

「冗談はその顔だけにしたらどうよ?」

 

「ふーんだ、言ってみただけだもーん。アンタの趣味の悪さは知ってるしー」

 

 

 萌香や紫を見ていて学習した事のひとつに、月音は普通に話し掛ければ結構普通に返してくれる。

 冗談も言えば少々辛辣なながらも少し半笑いで返してくれる。

 

 なるほど、こうして接し方を変えてみれば結構普通な奴じゃん……そんな事を思いながら前を歩く月音についていくと……。

 

 

「おうおう、今度は別の女と一緒かよ公安様よー?」

 

 

 見た感じヤンキー感丸出しの柄シャツを着た男子生徒がよりにもよってバカなのか一人で月音に絡んできた。

 

 

「赤夜萌香に飽きたのか? 結構良いじゃん」

 

「…………」

 

「ちょ、あ、アンタ誰よ?」

 

「俺か? 俺はコイツと同じクラスの小宮砕蔵ってもんだ」

 

 

 名乗るヤンキー風味の男に胡夢は『同じクラスなのに絡んだの!? やっぱり馬鹿じゃない!』と、月音の様子を恐る恐る伺うが、幸い月音の顔つきはまだ普通だった。

 

 

「同じクラス? ………………。あ、うん。えっと小松菜君だっけ? 知ってる知ってる」

 

「「…………」」

 

 

 いや、正解はクラスメートとすら認識してなかったので、腹が立つよりも先にお前誰だよ的な気分が勝っていたらしい。

 思いきり名前を間違えてる月音に青筋を立てる小宮砕蔵。

 

 

「新・公安委員様は俺みたいなはぐれ者を覚えてすら居ないってか? やっぱテメームカつくぜ。赤夜萌香ばかりか他の女とまで宜しくしやがってよぉ……!」

 

「ちょっと待った! 私別にコイツとはそんなんじゃないわよ!」

 

「だがそうやって一緒に行動してるって事は嫌いではないんだろう? そうだよなぁ? お強い公安様だもんなぁ?」

 

 

 妬みか!? しかも勘違いされてるし聞く耳ゼロ!? メンチを月音に切りまくる砕蔵に胡夢が困惑していると……。

 

 

「でもよぉ、いくらお強い公安様と言っても―――」

 

 

 砕蔵の視線が月音と胡夢の後ろに向けられ、振り向くとそこには両手を刃物みたいな形に変形させた見知らぬ妖怪が……。

 

 

「こうやって知り合いを人質にされたらキミも流石に動けないんじゃあないかな青野月音君?」

 

「つ、月音さん……!」

 

 

 怯えた顔をする紫の首筋に添えつつ姿を現した。

 

 

「ゆ、紫ちゃん!?」

 

「…………」

 

「おおっと動くなよ青野月音。

動いたら俺の仲間が一瞬であのチビの首を撥ね飛ばすぜ?」

 

 

 流石に目付きが変わった月音に砕蔵が勝ち誇った顔で顔を歪めて嗤う。

 

 

「あ、アンタ達卑怯よ!!」

 

 

 人質を取る事に激昂する胡夢。

 だが才蔵と紫を人質に取っている妖怪は笑い飛ばす。

 

 

「卑怯? 苛つく相手をぶっ殺せるなら卑怯だろうがなんだろうが結構だぜ?」

 

「僕達『はぐれ妖怪』はキミ達とは違うのさ」

 

「は、はぐれ妖怪……!」

 

「………………」

 

 

 はぐれ妖怪の事を知っている胡夢は苦々しげに顔を歪めながら、どうやら魔法を行使するステッキを奪われて無力な紫を心配する。

 

 

「紫ちゃんを離して……!」

 

「事が終われば解放するさ。

そこでスカした面した奴を殺した後になァ!」

 

 

 そう言って巨大な妖怪へと変化する才蔵はその場から動かないで無表情の月音の顔面を思いきり殴った。

 

 

「あ、青野!」

 

「月音さんっ!!」

 

「おおっと動かないでよ二人とも? キミも人質になって貰うし」

 

「は、離してよ!」

 

 

 諸葉と呼ばれたはぐれ妖怪が胡夢を拘束する。

 暴れようとするも、紫が無力である為に大人しくせざるを得ない中、殴られて地面を転がった月音はゆっくりと立ち上がって妖怪化した才蔵を見据える。

 

 

「へぇ、一発じゃ足りないってか? ならもう一発だァ!!!」

 

 

 その目が癪に障ったのか、才蔵が先程よりも更に強い一撃を月音の腹部に突いてぶっ飛ばす。

 人質がこんなにも効果を発揮するとは思わなかった才蔵はテンションが上がって更に何度も殴り続ける。

 

 

「あ、青野……そんな……!」

 

「わ、私のせいです……! 私が捕まりさえしなかったらこんな人達なんか……!」

 

 

 月音が血を流している姿を見るのが初めてだった胡夢と紫はショックと自分の足出纏いさを呪っていると、一緒になって見ていた諸葉が嗤う。

 

 

「ははは! キミ達にはある意味感謝だね。

本当は僕が殺してやりたかったけど、人質取られて何もできない時点でこの程度だったね」

 

 

 そう言いながら両手の刃を使って、紫と胡夢の制服を切り刻む。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「や、やめてぇ!?」

 

「あはは、ねぇ才蔵~? 殺す前にこの二人の事をソイツの目の前で目茶苦茶にしてやらないか? その方が絶望するだろうしさー?」

 

「あ? あぁ、それは悪くねーが、ヤるなら俺はそっちのおっぱいデカい女な」

 

「えー? ……まあ、しょーがないか。

どうせこの後赤夜萌香も襲うし我慢してやるよ」

 

 

 そう言ってピクリとも動かずに横たわる月音から二人のもとへと近づく才蔵に二人は震えが止まらない。

 自分のせいで月音はボロボロにされるし、慰みものにもされる。

 

 最悪にも程があった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあぶっ殺しても良いよなそろそろ……?」

 

 

 そう、才蔵と諸葉が。

 

 

「え………?」

 

 

 気を失ってると思っていた月音の声が聞こえた。

 そう思った二人の妖怪が反射的に振り向いた時には全てが遅かった。

 何故ならそこに倒れてる筈の月音の姿は無く……。

 

 

「「ギィィヤァァァァッ!?!?!?!?」」

 

 

 全てに気付いた時には当たり前としてある筈だった二人の両腕が引きちぎられて居たのだから。

 

 

「う、腕ガァァっ!?」

 

「ぼ、僕の腕っ! グァァッ!?」

 

 

 遅れてやってきた激痛にのたうち回る二人と妖怪の間を悠々と通りすぎる血塗れの月音が全身から赤いオーラを放ち、傷が瞬く間に塞がっていく。

 

 

「変に勘ぐられても困るからわざと生物レベルを落として食らってやったけど、やっぱり痛いもんは痛いな……。で、大丈夫?」

 

「つ、月音さぁん!」

 

「だ、大丈夫って聞くべきは私達よ……き、傷があり得ない速度で治ってるみたいだけど……」

 

「一時凌ぎみたいなものだけどな。

てか、ちょっと久々に血を流したせいか頭がクラクラするぜ……」

 

 

 自分の頭を軽く叩きながら血が足りないと訴える月音に胡夢はちょっとホッとしたと同時に疑問があった。

 何でわざわざ殴られてやっていたのか? 月音なら即時黙らせてやれたはずなのに……。

 

 

「確実に無傷でこの子をそこの畜生一匹から助けられる保証が無かったからだよ。

キミも人質されちゃったことだしね」

 

「…………」

 

 

 その疑問に答えた月音に胡夢は心底驚いた。

 紫は解るが、自分まで助ける為の確実性を重視していた事に。

 

 

「わ、私なんか目の前で犯されてもどうでも良いと思ってると思ってたのに……」

 

「? まー、本当に知らん奴ならそう思ってたけどな。

一応知らない相手ではないからな……うん」

 

 

 月音に抱き付いて泣く紫の頭を優しく撫でながら月音は軽く目を逸らしながら答え、そのまま着ていた制服の上着を下着が露になっている胡夢にも着せてあげる。

 

 

「それ、暫く着ておきなよ。

色々と見えて大変だぜ?」

 

「あ、ありがと……」

 

「仙童さんはあんまり破けてないけど――あ、ごめん、俺の今着てるYシャツなんだけど我慢できる?」

 

「! し、します。というかください!」

 

 

 な、なによコイツ―…と、変なギャップを感じてどぎまぎする胡夢に気付かず、月音は自分の着ていたYシャツを紫に着せて肌着だけとなる。

 その身体は見事までに引き締まった鋼の様な身体であり、思わずドキッとしてしまう。

 

 

「さてと……腕もいだだけで泣き叫ぶなよ畜生共? 畜生共なんだから平気だろ? ――おっと、間違えて足を踏み潰しちゃったぜ」

 

「「ギィィッ!?!?」」

 

「おいおい、威勢の良さはどこに置いたんだ? んん? 俺の目の前でこの子達に何かする元気はよ? ほら、言えよ? 言ってみろって?」

 

 

 一転して泣き叫ぶはぐれ妖怪達をなぶり続ける月音に、野蛮さを感じる筈なのに胡夢は何故か目が離せない。

 

 

「お、俺達の敗け……だっ!」

 

「ゆ、許して……! こ、殺さないでくれ……!」

 

「許してくれぇ? テメー等に命乞いした者達が聞いたら何て言うかなァ?」

 

「も、もう二度とお前に楯突かない!」

 

「な、なんだったらキミの手下になるっ! 僕達の勢力の事だって全部話す! だ、だからっ―――」

 

「しかしガッカリだなァ!!!!!」

 

「「!?」」

 

「……………やっぱりテメー等畜生共はどこでもそうやって途端に命乞いをしちゃうんだ?」

 

「「ひっ!?」」

 

 

 全身から放たれる赤いオーラが巨大な龍の形へと変わるその姿も、心底ガッカリした様なその赤く輝く眼からも目が離せず、胸の鼓動が高鳴る。

 

 

「あの世へおやすみ」

 

 

 だからこそ胡夢は思わず叫んだ。

 

 

「「だ、ダメっ!!」」

 

 

 殺意を凝縮させた一撃を掌から放とうとした月音に……。

 紫も同じだったのか、声を重ねながら月音を止めた。

 

 

「殺さないで、捕まえてちゃんとした処分にさせた方が良いわ……」

 

「月音さんが手を汚すべきじゃないですよ……」

 

 

 ピタリと二人の声に止まった月音はふと、二人のはぐれ妖怪が泡を吹きながら白目を剥いて意識を失っている事に気付く。

 

 

「…………チッ」

 

 

 舌打ちをしながら殺意を引っ込める。

 横で泣きそうな顔した者に言われて萎えてしまったらしい。

 

 

「まあ、子供の教育に悪いし……」

 

 

 それに紫の情操教育上宜しくないので仕方なく……と誰にたいしてなのかもわからない言い訳を一人しながら泡を吹いて気絶してる二人に最低限の止血治療を施す。

 

 

「証言くらいはして貰うからね」

 

「も、勿論!」

 

「なんでも話します!」

 

 

 ふて腐れた様に言う月音に二人の表情が明るくなり、思わず目を逸らす。

 甘くなった……今誰かに言われたらとても否定なんてできないくらいに丸くなっていた。

 

 

「じゃあこの馬鹿共を連行……ぅ……?」

 

「あ、危ない月音さん!」

 

「ふ、フラフラじゃない! 本当に貧血に――きゃあっ!?」

 

 

 そしてオリジナルの肉体に比べたら若干貧弱になっていたと今になって知った月音は、血が足りなくて足元がふらつき、そのまま事故って胡夢の胸にか顔面を突っ込みながらもたれ掛かってしまう。

 

 

「な、なな、何を……!?」

 

「あ、悪い……マジで血が足りない……」

 

「ちょ、ちょっと月音さん! 胡夢さんのおっぱいに顔が!」

 

「ぇあ? なんかやわっこいと思ったらそうなのか……ちょっと黒乃さん、今すぐ俺を殴り飛ばしてくんね? 身体が動かねぇ……」

 

「な、殴り飛ばすなんてできないわよ! か、仮にも助けてくれた相手に……! しょ、しょーがないから暫く貸してあげるわよ私のおっぱいを!」

 

「……………胡夢さん、それって他の意味合いとかはありませんよね?」

 

「なっ!? 無いわ! 無い……筈よきっと……」

 

 

 テンパりながらも何気にギュッと月音を抱いてる胡夢に紫がジト目で睨むという変な状況。

 裏萌香が見てなかった事が幸いだったかもしれない。

 

 

「ちくしょう、またしても一生の不覚。

俺があんな程度で貧血になるとか……ハァ」

 

「だ、誰にも言わないから安心しなさいよ。

そ、それにしても良い天気ね……?」

 

「は? めっちゃ曇り空なんだけど……」

 

「へ? え、あ……そ、そうねっ! あははっ! 何言ってるんだろ私!?」

 

「胡夢さん……」

 

『……。俺はどうなっても知らんからな』

 

「え! い、今の声って……」

 

 

終わり




補足

当初サキュバスさんだけが人質なら構わずゴーしてたけど、ゆかりんがされてしまえば動けなくなり、しこたまわざと殴られて隙を伺う作戦に変更。

その結果、素の状態だと意外と打たれ弱い事に気付いてしまい、更には二人がかつて自分が悪魔達にされた事をされそうになってスイッチが切り替わる…。


その2
結果貧血になってサキュバスおっぱいに……まぁ、しゃーないね。

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