リアスは生まれた時から自由を愛していた。
恵まれた環境で生きている故の我が儘だと誰かは言うのかもしれないが、リアスは自分自身の意思で自分の生き方を選びたかった。
だからこそその思いを理解してくれた朱乃と一誠は何よりも大切であるし、勿論そんな自分についてきてくれる小猫や祐斗やギャスパーも大切だ。
「例えグレモリー家から勘当されようとも、私は私の意思で生きる。
その意思に貴方との結婚は無いのよライザー・フェニックス」
必要なのは自分が好きだと思える者だけ。
視野が狭くて器量も狭いと揶揄されるかもだけど、それだけは変えられないリアスの信念だからこそ、よくも知らない鳥一族の端くれと結婚する気なんて皆無なのだ。
「私の処女は彼に捧げるって小さい頃から決めてるし」
「わーい、言っちゃったよあの子。
マジで言ってくれちゃったよあの子」
「良かったですね先輩。これで堂々と今後は部長に対してケダモノになれますよ?」
「そして私達にもケダモノになれるわ」
「イザイヤァ、皆して俺を鬼畜にしようと画策してくるぜぇ……」
「器が試される良い機会だよ。頑張れイッセーくん」
貴族坊やに魅力は無い。
泥臭くても守ってくれた彼だからこそ良い。
あまりにハッキリと言われ過ぎて眷属共々唖然とするフェニックスに対してリアスはただただ堂々としているのだった。
あんまりにもハッキリ言いすぎたせいで、今回の話し合いの場を仕切っていた魔王の嫁でメイドでもあるグレイフィアがちょっと笑ってしまいながらも、『じゃあもうバトルして勝ったら官軍パターンで行こうぜ(要約)』と提案することで場は一旦収まった。
「と、いう訳で油断せずに修行するわよ皆」
男としてのプライドが半ば砕かれてしまっているフェニックスの三男がグレイフィアと共に冥界へと戻っていった後、部室ではリアスが眷属達にバトル勝利への士気を高めようとしていた。
「レーティングゲームってルールが曖昧だから苦手なんだけど」
「相手を絶命寸前まで追い込んでしまえば良いのよ」
「それ朱乃ねーちゃんの趣味だろ……。第一リアスちゃんが公式戦に出れる年齢じゃなかったし、今回が初ゲームなんだぜ? ルール間違えて失格になったらそれで終わりじゃん」
「ルールに気を付けながらでも十二分に戦えると思いますけどね、フェニックスさんとその眷属の人達を見る限り」
冥界悪魔で現在ポピュラーな遊びであるレーティングゲームで白黒決めようという流れになった訳だが、一誠はそのゲームのルールを覚える事に対して面倒さを感じている様子。
それでもリアスから渡されたゲームのルールブックに目を通している辺りは彼の律儀さがにじみ出ている。
「相手側は公式戦で一応負け無しらしいわ。
ほら、フェニックスの特性って不死でしょう? それでごり押せるみたいなのよ」
「ならば僕が相手の不死という因果を斬り伏せれば良い訳ですね?」
「そうね祐斗の因果律を斬り伏せるスキルがあれば無力化できるわ」
『プローモーション制度とか俺たちのチームに必要なのか?』と、一誠が朱乃や小猫に問い掛けながらルールブックを読んでるのを横に、リアスは祐斗に頷いている。
「ちなみに、今回の事にギャスパーは呼ばないわ」
「は? 呼ばないの? じゃあ俺もギャスパーと応援側に――」
「それは無理ね。相手側がイッセーに物凄く敵意を持っちゃったし、不参加という訳にはいかないわ」
「その相手をめちゃくちゃ言って煽ったのはリアスちゃんじゃねーか……」
はぁ……と大きなため息を吐く一誠は心底面倒だなと呟くが、ルールブックを読み続けてる辺りは、なんだかんだ付き合う気はあるらしい。
「万全を期して挑みたいし、明日から修行をしようと思うわ」
こういう所が好きなリアスは嬉しそうに笑みを浮かべながら、修行をすると宣言する。
別に今の彼等のレベルなら修行せずとも捻り潰せるのかもしれないが、油断は敗北を招くので例え相手が小鳥であろうとも全力で狩り尽くすを教訓に、彼等はその各々の特性を研ぎ澄ませるのだ。
匙 元士郎は転生悪魔だ。
階級は兵士で、自身の王はソーナ・シトリーという貴族の娘さん。
彼自身、転生悪魔になった理由に複雑な理由が絡んでいるのだが、一番の理由はある者の身の安全を保証させるというもことにあった。
その約束をソーナはきちんと果たしている。
だから彼は彼女に対して忠義を尽くすし、色々と手伝うこともあるのだ。
「今回の修行における、特別ゲストの匙君よ」
「どもっす」
例えば、王のソーナの幼なじみの赤髪の悪魔からの要請に対して自分が派遣される事になっても頷かなきゃならないのだ。
「ご存じの通り、匙君は祐斗と似たタイプの力を持っているわ。
だから彼には主に祐斗の修行の相手をお願いしたいと思うわ」
その事自体にまるで不満は無い。
彼にしてみれば同い年で同性の転生悪魔仲間である一誠と祐斗と会って色々と聞けるのだから。
「匙が来たって事は、貧乳会長さん辺りに派遣させられたのか?」
「ご名答。
まあ、不満なんて無いし二つ返事で了承したがな俺は。
それと今の貧乳って言葉を会長の前で使うなよ? まためどくさいことになるから」
「苦笑いしながら『リアスと比べたら間違いなく無いわね私は……』って言うだけじゃねーの?」
「お前の前ではな。
後で凄く落ち込むんだよ。ただでさえあの人はお姉さんと違って凄く『後ろ向き』な人なんだから」
「匙君のほうこそ、彼女は元気かい?」
「おう、問題なしだぜ」
ましてや、あの正か負で区分けすれば、間違いなく『負』のオーラを常に制御せず撒き散らす最凶のソーナの下に居れば大抵の事には動じなくなる訳で……。
「問題無しか。
良いよな匙はー……あんな年上美女とさー……」
「立場は凄まじく複雑な人だけどな」
「寧ろ燃えるだろうが。
現にお前は凄まじい速度で成長してるし」
「否定はしないが……」
今話し込んでるこの男三人の中では元士郎が転生悪魔としての日は浅い。
が、成長速度に関しては現在三人の中でもぶっちぎりだった。
それはイッセーが毎度会うたびに羨ましがっている、元士郎と現在行動を共にしているとある人物が理由であるらしいのだが……。
「せーんぱいっ! どーんっ!」
「どふぇ!?」
とにかくリアスの要請で元士郎は、祐斗の修行相手という形で合流する。
そしてイッセーはといえば直に相手の殴り方を教えた小猫に只今ヒップアタックを食らっていた。
「リアス部長が私はイッセー先輩と修行しなさいって言ってたッス!」
「それはわかったけど、何でいきなりヒップアタックなんだよ!? 今俺の腰から嫌な音が聞こえたんだけど!?」
「えー? 貧弱ッスね~先輩は?」
ケタケタ笑うウザい後輩モードになってる小猫にイッセーは痛む腰を擦りながら立ち上がると、その様子を見ていた匙に微妙な顔をされる。
「相変わらずどっちが素だかわからん子だな……」
「どっちも素だから困ってんだよ……」
普段の殆どは物静かな美少女なのに、イッセーと接する時はウザい後輩キャラになる小猫のキャラ差が激しすぎると元士郎は思っていたらしい。
今も立ち上がったイッセーに対して小猫はニヤニヤしながら見てるし……。
「この度はありがとうございます匙先輩。
えーっと…………そろそろあの人の事は孕ませたりしちゃいました?」
「…………」
「こ、小猫ちゃん、ドストレート過ぎるからやめようよ?」
「むむ、ひょっとして既にご懐妊? 流石ですね匙先輩。
それに比べてイッセー先輩のヘタレっぷりには――あいた!? い、痛いッスよ先輩!!」
自分に対しては物静かな後輩モードになって、割りとドストレートな事を聞いてくるし、イマイチ彼女の性格がわからんと、元士郎は後ろからイッセーにどつかれてちょっと泣いてる小猫に思うのだったとか。
「バカな事を聞いてねーでさっさと行くぞ」
「え、行くって何処に?
ひょ、ひょっとしてこんなお外で私のお腹をたぷんたぷんになるまで発射しちゃうんすか!? 汗だくまみれの激しい交――いだだだだだ!?!? お、お尻をつねるのは反則ッスー!!!」
イッセーにかつがれ、思いきり服越しに尻をつねられながら連行される喜怒哀楽が凄い後輩を見送る元士郎。
ソーナも大概凄いキャラだが、リアス達もまた凄まじく個性的過ぎると毎度の事ながら思う。
「……取り敢えず軽い打ち合いからな?」
「……うん、よろしくね匙君」
『つねるフリをして痴漢プレイとは先輩もやるッスね―――いだい!? そ、そんなに叩いたらお尻が真っ赤になるッス~!!』という断末魔をBGMに、元士郎と祐斗は修行に入る。
奇しくも同じタイプの成長を遂げた者同士の修行は、互いに成長を促し合うのだ。
匙元士郎
備考・残された家族とある女性の為に悪魔稼業を頑張る転生悪魔。
終わり。
これは冗談なオマケ。
黒猫様は告らせたい。
ウザい後輩気質になってる白猫には黒猫の姉が居る。
名を黒歌といい、スタイルは抜群で世の男の劣情を大層刺激しそうな格好をしているし、その上戦闘才能も抜群だ。
今は訳があっていつの間にかウザい後輩キャラを持つようになった妹とは離れて生きているこの彼女は、とある男に恋してしまった。
しかもそれがよりにもよって妹に戦闘技術とウザい後輩キャラを植え付け、更には妹が惚れてしまってる男だった。
しかし彼女はその感情を頑なに否定している。
何故ならその気持ちを彼に持ったら『敗け』だと思っているから。
(ま、まぁ、好きだとか言ってきたら付き合ってあげないこともないけど……)
その上、たった一度しか過去に顔を合わせた事しか無いのに、向こうが自分を好きな筈だと勝手に断定している始末。
(おっぱい好きなのは知ってるし、どーせ後少ししたら私を探し当てて、そのまま押し倒してくる筈だわ)
等と、根拠の無い事をずーっと考えていて自分からは何一つ行動しようともしない。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
「無ゥ駄ァッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッス!!」
「じー………」
否、訂正しよう。
彼女ははぐれ悪魔という、お尋ね者の立ち位置に居るのだけど、頻繁に覗きに来ていた。
(白音は無事ね……。
うん、アイツはついでに見に来ただけだけど)
誰に対しての言い訳なのかは知らないが、あくまで妹の様子を見に来ただけだと心の中で言い張りながらも、妹と真正面から殴り合ってるその少年をガン見しまくる黒歌。
「今なら姉様にも勝てる気がするッス!」
「あぁ、ねーちゃん居たんだっけ? 前に俺も一度だけ見た事あったなぁ。
でもよ、喧嘩に仮に勝てたとしても……」
「む……なんすか?」
「いや……姉妹の格差って非情だよなと……」
「あ、酷いッス! 私だって後二年もしたらおっぱいだって大きくなるッス! てか先輩が揉んでくれたらもっと早く大きくなるもん!」
「迷信を当てにしちゃうのがまた可哀想だ……」
(よし! 今私の事を言ってたわよね!? ふっふーん、この分だと後数週間で私を探して押し倒すに違いないにゃ)
その数週間は何を根拠に断定しているのかわからないが、彼の性癖がおっぱいの大きい女性(人妻年齢は都合よく忘却)という自分にドンピシャであるからと完全に慢心しまくりな思考回路のまま、いそいそとおめかしして待って―――
――一年経って妹が高校生になっていた。
(あ、あれ? まだかな? そろそろ私を探して捕まえてくる筈なのに……)
黒歌、本気の誤算。
日を追う毎にウザキャラ後輩化していく妹が彼とのボディ接触が、赤髪悪魔や黒髪ハーフ堕天使ちゃんと増えまくり、高校に妹が入学し、更に距離感が近くなっていく中、黒歌は何をしていたのだろうか?
そう、何もせずただ遠くから彼を見ていただけだった。
たった一度の接触。それも単なる挨拶を一言二言交わしただけで、彼が自分に惚れてると思い込んで告白を待っていただけ。
そもそも自分に惚れているのは決定事項だと言わんばかりの思考回路からして敗色濃厚なのだ。
(ま、まさか私の事忘れてる……?)
流石にそう思えてしまう黒歌の予感はほぼ当たっていた。
何故ならリアスも朱乃も白音もその他もキャラが濃すぎであり、ちょっと顔を合わせて挨拶を交わした程度の黒歌のことなんて忘却の空なのだ。
「フェニックス家の奥さんって美人かなぁ……?」
「確か結構な美人って聞いた事があるような……」
「マジかぁ。
あー……ゲームの勝利者報酬でフェニックス家の奥さんによる一時間膝枕権とか貰えねーかな……」
「コア過ぎるだろ……」
しかも今はどこの馬の骨ともわからぬ悪魔貴族のオバハンに現を抜かしている。
このオバハンフェチさえなければ、顔はそこそこだし度胸もあるし、妹を守れる程の力も日々慢心無く磨いている良い男。
お陰でそれに気付いてる一部女子から肉食系の如く迫られてるのに、彼はこんな調子だ。
(でも実際オバハン連中からは敬遠されているのは知ってるわ。
よし、決めたわ!)
だから黒歌は決めた。
(兵藤イッセーに……告白させて押し倒させるにゃ!!)
本人が聞いたら『あ、あぁうん……』と、ドン引きされそうな訳のわからない決意を。
(どうせ旧魔王派だった女を匿ってても何も言われてないんだし、私が出てきても何もされないわ! ………あ、で、でも取り調べとかこつけてアイツに身体とかまさぐられるのかな? 下の穴に何か隠してるなとか言われてアイツの…………えへへ……)
ドン引きどころか、ウザキャラ化してる妹が寧ろ蹴り飛ばしに来そうな妄想と共に……。
終わり
補足
匙きゅんもまた完成してる。
しかもあの方も居るので隙がない。
んで、マイナスソーたん疑惑が……。
その2
告るのでは無くて、告らせたい黒猫お姉ちゃん。
尚、周りのキャラが濃いので本人は黒猫ねーちゃんを忘れてたり……。