悪魔が支配している街で、その支配している悪魔とこれから会合をする。
これもまた立派な任務であり、この任務を達成する事が主への忠を尽くす事になると本気で信じている少女は、組む事になった仲間と共に悪魔達が待っている学舎へと訪れていた。
「話は既に先方に伝わっているから良いとして、果たして素直に聞き入れてくれるか……」
「問題ないでしょ。
聞いてる限りだとかなり世間知らずな悪魔らしいし、文句があるなら滅してやるとでも脅しておけば良いし」
別教会所属の相棒が楽観的な事を言っている。
確かにこれから会う事になるリアス・グレモリーという悪魔は世間知らずで大分我儘――らしいのだが、その情報が果たして本当なのか実に疑わしい。
ソースが無いのもそうだし、何よりその情報源が今回の任務に同行する同悪魔祓いの男による情報なのだから。
「魔王の妹――言ってしまえばそれだけの肩書きしかない純血悪魔だからな」
「ほらね? ジュン君のこう言ってる事だし」
「………」
相棒にジュン君と呼ばれる、同い年くらいの青年がソース源なのだけど、正味少女――ゼノヴィアは疑っていた。
いや、別に疑う理由は無いが、逆に信じる理由も無いといった方が正解なのか……。
「あ、悪魔と直接会うのは初めてです……」
全ては直接会って見定めてみれば解る事だとゼノヴィアは取り敢えず考察を止めた中、今回の任務に参加する事になったもう一人の少女。
分類的には非戦闘員のシスター見習いの少女が不安げな声を出している。
悪魔祓いとしての戦闘訓練はまるで受けてない彼女が何故今回の任務に参加したのかは、簡単な話であり、彼女が癒しの神器を持っているからである。
ゼノヴィアは彼女とも今回の任務で初めて顔を合わせたのだが、癒しの聖女――だなんて呼ばれているその神器の力の噂は知っていた。
「大丈夫だよアーシア。
何かされても俺が守るから」
「ジュンさん……」
「ふーん? 私の事は放置なんだー?」
「勿論イリナもだよ。忘れるわけないだろ?」
「………………………」
だから別に足手まといだとは思わないが……。
このチームは四人中三人が既に知り合い同士で、ゼノヴィアだけが初対面な為、微妙な疎外感を感じてしまうものだった。
いや、任務遂行の為には別に関係ないのだが。
とにかくゼノヴィアは、微妙に甘ったるい空気を放つ三人組に対して任務に対する緊張感があまりにも薄く感じる為、もっと真面目にやれと言いたい気分をグッと堪えながら駒王学園の門を潜るのだった。
こうして例の世間知らずの我儘という風評になっているリアス・グレモリーの待つ部室へと教会四人組は乗り込んだのだが。
「初めまして、遠路遥々ご苦労様です。
一応私がこの街の事を任されているリアス・グレモリーです」
「ソーナ・シトリー。微力ながら彼女の補佐をさせていただいております」
『…………』
部室へと入った瞬間、出迎える様に整列していた転生悪魔達の先頭に立っていた二人の悪魔が仮にも敵対関係である自分達に対して深々と頭を下げて出迎えてきたので思わず圧されてしまった。
「あ、う、うむ。私はカトリックから派遣されたゼノヴィア。こちらはプロテスタントから派遣された紫藤イリナと佐上ジュン……そしてアーシア・アルジェントだ。
ええっと、今日は忙しい中時間を割いてくれたことに感謝する……」
世間知らずの我儘? と思わず首を傾げたくなるくらいに丁寧な出迎えに慌てて頭を下げてしまいながらソース元のジュンの方を見るゼノヴィア。
すると何故かジュンの方も驚愕して固まっていた。
「今お席を用意しますね? イッセー」
「元士郎」
「「はっ!」」
その驚愕になんの意味があるのかは知らないが、リアスとソーナはそんな四人の為に席を用意しろと二人の男子に命じると、イッセーと元士郎と呼ばれた少年二人がサササッと四人分の折り畳み椅子と机を広げて並べる。
「ご用意できました」
「どうぞお座りください」
『………』
あまりにも普通かつ迅速にされたせいで完全に圧されてしまった教会組は、取り敢えず言われた通りに座ると、二人の少年は軽く一例してから整列し直す。
「今お茶をご用意しますわ。朱乃」
「椿姫」
「「はっ」」
そして今度は朱乃と椿姫と呼ばれた黒髪の少女が二人の悪魔に命じられてお茶の準備をする。
なんというか、思っていた以上の待遇に完全に出鼻を挫かれてしまった感が凄まじい。
「二人のお茶が入るまで少し話を進めましょうか?」
「此度はどのようなご用件で?」
「あ、う、うむ……」
イリナもジュンも微妙に困惑しているし、アーシアに至ってはどうしていいのか分からないって表情だった為、代わりにゼノヴィアが二人の悪魔からの問いに答える。
これは余談であるが、本来の時間軸であるなら紫藤イリナと兵藤イッセーが既に知り合いで、ここでちょっとした再会イベントみたいな展開があったりするのだが、生憎二人はこれが初対面だったので特に何がある訳でもなかった。
というか寧ろイッセーの方は『あーんだよ、ちょっと年食った色気ムンムン悪魔祓いじゃねーんかい』と、ますます興味をなくしているくらいだ。
――とまぁ、そろそろ二人の女王のお茶が完成する頃にはゼノヴィアが代表して今回訪れた理由についてを話していた。
内容はとある堕天使の幹部が教会側に保管されていた7つに別れた聖剣の何本かを強奪してこの街に潜伏中的な話だった。
「恐らく奴の狙いはこの混乱を利用して再び戦争を引き起こすつもりだ」
「…………。なるほど」
そう締めたゼノヴィアが小さく一呼吸すると、聞いていたリアスとソーナは一瞬だけ互いの顔を見合わせてからなんとも薄い反応を示すだけだった。
「コカビエルが……あー、えっと、盗んだ聖剣を使ってこの街でよからぬ事をしようとしているのはわかりましたが……」
「我々はその間何もせず黙って見ていろというのがアナタ方の希望ですか?」
「そうだ。
万が一コカビエルと手を組まれても困るからな」
「「………」」
そうハッキリと言ったのはゼノヴィア――では無くて今まで黙っていたジュンとかいう青年だった。
「一応私達って悪魔なので、問題まで起こしてる堕天使と手を組むことは無いのですが……」
「100%組まない保証はないだろ? 俺達はあんた達を信じてはないからな」
あまりに突然の配慮ゼロの物言いに、内心舌打ちするゼノヴィア。
悪魔とはいえ、相手はそれなりに礼を尽くしているのにここで話を拗らせたら面倒な事になるのに、彼は何を考えているのか……。
イリナとアーシアはそんな彼にたいして頼もしさでも感じてるみたいだが、今この状況に関してだけは余計な一言でしかなかったのだ。
幸い、彼の一言に対してリアスもソーナも特に気分を害している様子は無いので安心はしたが……。
「ごもっともな意見ですね。
では何もせず関与しなければ宜しいのですね?」
「………。まあ、そうだが」
あまりにも素直な返しに。ジュンはまたも肩透かしを食らった様な顔をする。
こうしてあまりにもあっさりとした会合は終わりを告げた…………のだが。
「ひとつ訊ねたい。
ここに今『聖剣計画』の実験体にされていた者の生き残りが居ると聞いたのだが」
まさに終わりの直前、イリナとジュンと悪魔にビクビしていたアーシアを先に退出させたゼノヴィアは不意にそんな事を訊ねて来たのだ。
聖剣計画という聞き覚えの無い単語に一部ソーナの眷属達が首を傾げる中、その質問に答える様に祐斗がゆっくりとゼノヴィアの前に立った。
「僕がそうだけど……」
少し警戒した面持ちで名乗る祐斗に、ゼノヴィアは『そうか、キミが……』と呟くと、外――つまり先に退出させた三人に聞こえていないかを今一度確認してから口を開く。
「…………………。フリード・セルゼンはどこに居る?」
『!』
この面子の中では半数は聞き覚えの無い誰かの名前が出た瞬間、祐斗の顔つきが一気に警戒したものへと変わる。
「彼がどうかしたのか?」
「質問を質問で返さないでくれ、やはり知ってるな? 最も危険が伴ったプロトタイプの聖剣計画の実験体であった彼の事を……」
シーンと他の眷属達やリアスやソーナが黙って見守る中、ゼノヴィアの言葉に祐斗は頭の中で彼女は彼を探して何をする気なのかを考察する。
「……。そう警戒しないでくれ。
奴を探し当てたとしても私は何もしない」
「それこそ信じられると思うかい?」
「もっともだ。
最初期の聖剣計画は我々の中でもトップシークレットで普通なら私の様な『使い捨て』が知るものではない……が、私はその内容も被験者の名も知っている――というのは理由にならないか?」
「君が一人で調べただけなのかもしれない」
祐斗の過去の記憶にはこの少女の姿は無い。
ましてや計画の実験体にされたとも思えない。
今や聖剣計画は自分や彼の犠牲によって完成に近いものまで達した忌まわしいものなのだ。
故に彼女はその時期に自ら――聖剣を扱えるからしてまず志願しただけの者としか思えないのだ。
「……。この街に彼がコカビエルと共に潜伏している可能性が高い。
それを聞いて私はこの任務に志願した」
「…………」
だから余計に信じられないと祐斗が警戒する中、ゼノヴィアは語り出す。
「敵対種族に身を置く今の君に語るべきことではないのかもしれないが、私の目的はフリード・セルゼンだ。
……当然あの三人はその事を知らないし、知らせてもない」
「それは君だけに与えられた任務……?」
「違う。私個人としてだ」
ハッキリと言い切るゼノヴィアに、少しだけ警戒を緩める祐斗。
が、フリードと知り合いである祐斗はゼノヴィアについて語られた事も無いのでまだ信用はしない。
そんな平行線なやり取りが暫く続く中、それまで黙って見守っていたリアスが口を開いた。
「横から失礼するけど、貴女は彼の居場所を知ってどうしたいの?」
その話の内容によっては対応を変えなければならないんじゃないかしら? というリアスの言葉にゼノヴィアは少し目を逸らす。
「別にはぐれエクソシストになった奴を始末するとかは考えちゃいない。
そうならざるを得なかった理由も知っているしな私は。
ただ……」
「ただ?」
「会いたい。会って一発だけひっぱたきたい――それだけさ」
フッと笑みを浮かべたゼノヴィアにリアスはチラリと祐斗を見る。
「その理由は?」
「……………。何て事無い、勝手に私を庇って地獄を見て、私の前から去っていったあの大馬鹿に一言文句を言いたいだけだよ。
これ、本当に内緒にして欲しいんだが、聖剣を扱うには『因子』を持つ者だというのは知っているな?」
「ああ、その因子を持った子供を集めて無理矢理奪う実験をしていたのが聖剣計画で、僕も散々弄くり回されたからね……」
「だが初期はその結論を導きだすまでは手探りで行われていた。
だから既に『剣』を宿す強い素体が必要であり、フリードは生まれながらにして宿していた―――――ジョワユーズをな」
「…………」
「だが実は剣を宿していたのはフリードだけではなかった。
もう一人居たんだよ、生まれながらに強い因子を宿した絶好の素体がな」
「まさか……!」
クスクスと笑うゼノヴィアの言葉に段々察しが付いてきた祐斗は驚愕する。
「――デュランダルを宿す私という素体がな。
そうだ、私は最初期の聖剣計画の実験体候補だった」
「………!」
一世代後の実験体だった祐斗すらも知らなかった事実に、計画の内容をある程度聞いていた者達は全員驚愕した。
「しかし私は実験体にはされなかった。
……何故だと思う?」
「まさか……」
「そうだよ、あの偽悪男が当時の主導者に啖呵を切ったのさ。
『こんな泣き虫のでき損ないチビっ子なんかより、俺を使った方が最強の使い手に作れるぜ?』ってな……」
祐斗も聞いた事なかったフリードの過去に彼を知る者達は絶句した。
そんな中をゼノヴィアは儚げに笑う。
「奴が――あの偽悪男がその後、聖剣計画の初期主導者だった連中をその後皆殺しにしたせいで、はぐれエクソシストになった。
しかもご丁寧に私がデュランダルの使い手であった記録を抹消して改竄までしてな……お陰で私がデュランダルを宿す者と知る者はほぼ居ない――まったく、最後まで勝手な男だったよ奴は」
「……………」
「だから私は私なりのケジメをつける為に、今回の任務に志願した。
チビだチビだと小馬鹿にしてきた挙げ句、私を置いて一人で行ってしまったあの偽悪男の頬をひっぱたいてやろうとね」
「ひょっとして、もしかしてキミが彼にとっての『守りし者』だったのか……」
「さてな、その言葉の意味はわからないが。
奴は私の前から去る直前に純白の鎧をその身に纏った姿を見せてくれたよ。
で、悪ぶりながら『せいぜいちったぁ伸びた寿命でも満喫しとけ、泣き虫ちゃん』……と言ってな」
ゼノヴィアの網膜の内側に今でも焼き付く最後の姿。
ジョワユーズが剣から槍へと変わり、その身に純白の鎧に覆われ、満月が木霊する夜空を白く照らした幻想的な姿。
「……。コカビエルのもとへと居る可能性がある今、今度こそアイツは教会側に殺される。
だから私は――奴に借りを返す」
だからゼノヴィアは個人としてフリード・セルゼンを追い掛けるのだ。
自分を庇ってモルモットになったこと。
自分の痕跡をすべて抹消してくれたこと。
それによって彼がはぐれとなってしまったこと。
その借りを返す為に……。
終わり
オマケ・白夜
持っていたからこそ人生が狂わされた。
持ってしまっていたからこそ苦難の道を歩まされた。
しかし後悔は無い。
人生は狂ったし、苦難の道ではあったけど、持っていたからこそ救えたものも確かにあったのだから。
「悪魔祓い?」
「ミカエルも流石にボンクラではないらしい。
俺が奪った聖剣を奪還しようと悪魔祓いが四名程派遣したらしい。
………嘗められてる感は否めないが」
「まー、四人の悪魔祓いじゃボスにたどり着く前にバラバラだもんねー」
「ガキ相手にそんな真似をする気もないがな。
だがミカエルも焦ってはいるらしいな……この件で実験の事が明るみに出るのをな」
「保身ってか? 相変わらず神様・天使様には反吐が出ますねー?」
駒王町、とあるビジネスホテルの一室。
それまでの人生を嫌でも想像させる白髪と常に瞳孔が開いた目をした少年と、ウェーブの掛かった黒髪の悪人顔の男が部屋の隅に適当に放置している強奪した聖剣数本を無視してコンビニ弁当を食べている。
「俺が知る限り、まともな天使様は一人くらいしか知らねーんすけど」
「逆にアイツこそ一番まともではないだろ……」
「見て見ぬふりとか、知らねーで誤魔化そうと保身ばかりな連中と比べるまでもなくまともにしか思えませんがね俺は」
半額だった安い弁当を食べ終えて、ゴミ袋にポイするフリードとコカビエル……その名を持つ二人の男はこれまたコンビニで買ってた麦茶を飲んでいると……。
「ふぅ、なんとか誤魔化して抜け出して来ました」
部屋の扉が開けられ、そこに一人の来客が現れた。
コカビエルと同じように緩いウェーブの掛かった金髪の――目が覚める程の美女が。
「って! またコンビニで済ませているのですか二人は!? 身体によくありませんよっ!!」
「………。来て早々五月蝿いなお前は。小姑か」
「五月蝿いとはなんですかっ! 私はアナタ達の身体の心配をしているのですっ!」
「わ、わかってますって天使様! そんな怒らないでくださいよー?」
どうやら結構堅物気質らしく、コンビニ弁当で済ませてる二人に苦言を呈していて、それに小さく悪態をついたコカビエルに食って掛かっている。
どうやらフリードがなだめた時に出た言葉をそのままにするとするなら、彼女は堕天使であるコカビエルとはぐれエクソシストとなっているフリードとは本来敵対している天使族な様だが……。
「まったく……! コカビエルに命じられた通り、神父・バルパーと子供達は避難させておきましたよ。
神父・バルパーはご自身も今回の作戦に参加したがっておりましたが……」
「いや、じーさんには穏やかな余生でも過ごして貰いたいんで止めてくれてあざっす」
「後はガキ共を使ってなるべく騒ぎを大きくするだけだな。
だが、問題がひとつある――あのデュランダル使いの小娘の事だ」
天使と堕天使が共謀する作戦という、何やらそれだけでも大騒ぎになりそうな展開について話をしている中、コカビエルがフリードに話す。
「ミカエルが寄越したガキ共の中に居るみたいだが……フリード、お前はいいのか?」
「………別に、もうガキじゃねーんだし、責任くらい持ってんだろ」
「私がこっそり事情を話してこちら側に引き込みますか?」
「いや、いいっす。
何も知らずに生きれるんならそれに越した事はねーですし、てか、俺なんか忘れてるっしょ?」
「「………」」
ケタケタと笑って誤魔化してるフリードを見てコカビエルと天使………ガブリエルは顔を見合せ、これ以上は言っても今は無意味だと考えて口を閉じる。
「んな事より作戦だぜ作戦! このクソ剣に人生台無しにされた復讐をしてやらねーと夜も眠れねーぜ!」
白夜の騎士はピエロを演じる。
聖人君子を謳う連中の化けの皮を剥がす為に。
フリード・セルゼン
白夜騎士
備考・自分より少し年下だった少女を守る為にピエロになる事を決めた守りし者。
なんてね
補足
このオリキャラは……まーなんも出来ないね居たところで。
その2
アーシアさんは何気に無事でしたー
拍手ー……
その3
フリードくん、主人公化。
そして過去最大の捏造。