引力……それは運命のひとつ。
引力という運命に引かれ合う事で、相容れぬ者と対話出来たり、理解し合え、そして強くなれるものなのだと。
俺はこの状況を。繋がりを。成長を。
単なる偶然で片付けるつもりはない。
引力があったからこそ、自分と同じ気質を持って周りに理解されなかった者と出会え、より己の力を強く磨いていけた。
だから俺は予感している。新たな『引力』の予感を……。
怪しい募金詐欺みたいな事をしていた現場を見てしまった。
例の教会連中の行動について明くる日報告したイッセーと白音に、リアスは微妙な顔をしていた。
「聖剣奪還がお仕事な筈よね? 何をしているのよ彼等は?」
「さぁ? その後、町の人の通報によって、警察に追いかけ回されてたのだけは間違いないぜ」
強い言葉で、悪魔側は干渉するな――と言われたので、その通りに干渉せず普段通りにやっていたリアスも、一応自分か任されてはいる町中で一般人相手に詐欺紛いな真似を働いていると聞いてしまえば、はいそうですかで済ませる訳にもいかなくなるわけで……。
「フリード・セルゼン君の事を祐斗に尋ねて来た彼女は?」
「一緒になってやってましたよ。
若干自己嫌悪入ってましたけど」
「本当に大丈夫なんでしょうね……? 放置してたら町をコカビエルに破壊されてしまいましたじゃ笑えないわよ」
聞いているだけで、頼もしさの欠片も感じない教会連中達にリアスは深くため息を吐く。
別にコカビエルがこの町で大暴れした結果、半冷戦状態になってた三大勢力が戦争状態に戻ろうが、知った事ではないが、好き好んで戦時中を過ごしたいとは思わないので、出来ればさっさと終わらせて欲しいのだ。
「て、訳だイザイヤ。
フリード・セルゼンの事を聞いてきたあの子はどうやら四苦八苦してるみたいだ」
パクパクと白音と軽く取り合いになりながらおはぎを食べてるイッセーが、それまで黙って聞いていた祐斗に振る。
「そうなんだ……。
実は昨日偶然フリードに会えたんだけど……」
「は?」
どうやら昨晩祐斗はフリードと邂逅していたらしい。
不干渉を命じられていた為に、切り出しにくかったのだろう、祐斗はちょっと申し訳なさそうに昨晩の事を話す。
「どうやら彼、警察から逃げた後の四人と出会したみたい。
無傷だった所を見ると適当にあしらったみたいだけどね」
「流石ね、前に祐斗を負かしただけの事はあるわ」
「それで祐斗君は、例の……ゼノヴィアって子について聞いたのですね?」
「ええまあ……。
聞いたら一瞬顔色を変えながら『知らねー』と言ってたので、ほぼ間違いなく彼女と過去に何かあったと思います」
はぐれ悪魔祓いにて、祐斗や元士郎よりも前に『鎧』に到達したフリード・セルゼンとの昨晩のやり取りは、どうやら間違いなく彼がゼノヴィアと何かしらの関わりがあったというものだった。
「聖剣計画の実験体にされる彼女を庇ったのはきっと間違いありません。
彼ってその――偽悪的な所があるのでわかりにくいかもしれませんけど」
「んだよ、行動イケメンかよちくしょう。
すげー強いし、言うことなしかい」
「どうかな。本人はそういう事に興味はないと思うけどね」
快楽刹那主義者――そんな風に見えた男の過去。
立ち位置こそ正反対だが、素直に気になる悪魔達なのだった。
「ところで、小猫とのデートは楽しかった?」
「デート? 違うね、飯をたかられただけだぜ」
「デートです! 間違いなくデートです! 凄く楽しかったです!」
「あらあら……じゃあお次は私が誘われちゃうのかしら?」
「休日をわざわざ疲れるだけに費やしたくはねーな。
だったらイザイヤと人妻ナンパしに行った方が良いぜ。な、イザイヤ?」
「いい加減祐斗って呼んで欲しいし、別に僕人妻が好きじゃないんだけど……」
「チィ、ノリの悪いイケメンめ。
ならギャスパーと遊ぶしかねーやん」
「デートする選択肢は無いんだね」
「……。ていうかよ、リアスちゃんはアレから大丈夫なのか? 実家の件」
「今露骨に話を逸らしましたね……」
フリードの事は気になるが、干渉するなと言われたので、本当に干渉していない悪魔達は意外とのほほんとしていた。
「連絡だけは来るわ。小言しかないから適当にあしらっているけど」
「良いのかよそれで……」
「あーしろこーしろと指図ばかりだし、二言目にはグレモリー家の次期当主としての心構えだとか、うんざりしかしない事ばかりなのよ。
そもそも私はグレモリー家なんて継ぐつもりもないし」
聖剣の話は横に、リアスと両親の仲違いについての話になっている。
フェニックスとの一件以降、リアスは両親からの連絡を全部スルーしている。
子供の我儘という自覚はリアスにもあるが、それでも自由を束縛する両親は許せないらしい。
「子供の戯言なのかもしれないけど、それでも私は私の決めた道を歩きたい。
イッセー……アナタを最初に眷属にした時からの夢だから」
自由を夢見るリアスの夢のある意味体現者は案外近くに居たりする。
「で、撤退という体でガキ共を見逃したのか?」
「流石に4対1じゃ分が悪いと思ったんだよボス。
癒しの神器使いも居たしな」
転々と根城を変えながら、準備を進める堕天使コカビエルとその下につくフリードがまさにそれだった。
境界線を踏み越え、自分のしたい事をする。
気が合えば種族なぞ関係なく共に歩み、気儘に生きる。
それはきっとリアスが夢見る生き方そのものなのかもしれない。
「まあ、あのガキ共もガヤに使うつもりだから生かしておいてくれた方が都合は良いが……。ゼノヴィアという小娘は大丈夫なのか? 奴等に怪しまれてしまっているのではないのか?」
「知らんフリをしてやってたのに、あのチビが勝手にバラしちまったんだよ。
ったく、テメーの立場も考えろってんだ」
そんなコカビエル組は、ただ今和風の旅館の一室で飯を喰らいながら、奪った聖剣を奪還する為に派遣された教会組について話し合っていた。
といっても、教会組というよりはその中に居たゼノヴィアについてなのだが。
「人でなし共がてっきり記憶を弄くって忘れてくれてると思ってたんだけどな……」
「当時の連中ならやりかねない話だな。
が、芯を立てた人間の精神力はバカにできない。
もしかしたら記憶を操作されても精神力ではね除けたのかもな」
「恩は売ったつもりはねーぜ……」
奪った聖剣を、この前と同じように部屋の隅に乱雑に放置している状況で話が続く。
フリード本人はどうやらゼノヴィアに己に関する記憶が消されてる事を願っていた様だが。
「恐らく相当な鍛練を積んだだろう。
お前に追い付く為に」
「へ、何かありゃ俺の名前を呼びながら泣きまくってたチビに追い付かれる程怠けちゃいねーぜ俺は」
フリードはゼノヴィアを知っている。
ジョワユーズを有するフリードの様に、デュランダルを持つゼノヴィアはある意味で妹みたいなものだった。
勿論血の繋がりは無いし、互いに親に捨てられて教会に拾われて実験台にされた者同士だからこそ、認識が強かったのだ。
「なんかありゃすぐ泣くし、うっぜーくらい後ろに引っ付いてくるし、お陰で記憶に焼き付いちまって仕方ないぜ」
「それだけならわざわざモルモットにされそうになった小娘の身代わりになるのか?」
「貧弱泣き虫じゃ確実に死ぬと思っただけだし、あのゴミ共にされるがままにされるのも癪だったんでね」
メソメソしながら自分の後ろを常についてきていた頃のゼノヴィアを思い返しながら複雑な顔をするフリードは、自然と今回共に来ていた面子に色々と疑われているのではないかと少しだけ心配していた。
「ボスの言う通り、俺に色々とぶちまけていたせいで他の奴等に俺と繋がってると疑われてるかもしれねぇ……」
「それを覚悟で小娘だって吐露したんだろう。お前に会う為に」
「……。忘れて生きてりゃあ長生き出来たのに、バカなチビめ……」
食べ終えたフリードが、普段決して見せることの無い憂いに満ちた表情で部屋を出る。
無論鍛練の為に。
「……不器用な奴」
そんなフリードの複雑な心境を察していたコカビエルは、お茶を一口飲みながらポツリと呟いていると、再び襖が開く。
「神父・フリードと今すれ違いましたが……」
目が覚める程の美貌の金髪の女性の入室にコカビエルは、歓迎する意味を込めて軽く手を上げる。
「昔馴染みが自分を覚えていて、その事を仲間の前でぶちまけてしまったらしい」
「昔馴染みというと、ゼノヴィアという子……?」
堕天使であるコカビエルとは本来敵対していて、普通ならこんな調子で会話する事も無い筈の天使・ガブリエルが、旅館の浴衣姿でコカビエルの右側座る。
どうやら温泉に入っていたらしく、湯上がりの影響か少し肌が赤い。
「そうだ。
だから心配なんだとさ。仲間共に疑われて孤立することに」
「なるほど……。記憶は無事だったのですね?」
「朗報と捉えるべきだろう?」
「ええ……そうね」
腐れ縁。
好敵手。
同類。
友人。
美女と野獣という言葉がそのままぴったりとこの二人の関係は単純でもあって、複雑でもあった。
「まあ、あまり首を突っ込むのも野暮だからお節介はやめろよ?」
「わかってるわよ。……ゼノヴィアという子の気持ちはよーくわかるわ」
「あ?」
同族には無かった者を持つ同士。
敵同士として殺し合い、互角の戦いを繰り広げ、戦争が終わった今はお茶を飲みながら駄弁る様な関係になっていた。
……それは、戦争が終わった途端、立場なんて知るかとばかりにガブリエルがコカビエルのもとへと来ては色々とアプローチしまくってたという歴史があるのだが、悲しいかな、コカビエルは気付いてる上で一線は越えてこないのだ。
「いくら言っても相手にしてくれないでしょう? 殺し合いの関係じゃなくて、もっと歩み寄った関係になりたいと願っているのに……」
「歩み寄ってる方だろう。
寧ろよく堕ちないなと関心するくらいだぞお前には」
「最初は堕ちかけたわよ。
ある時点で全く堕ちる気配が無くなったけど……」
「それは聖書の神の作り出した概念をお前が超越したという事だろう。
全く、お前は感心する程に狂ってるぜ」
ハッキリ言ってしまえば、ガブリエルはこの自由人であるコカビエルに惹かれていた。
というか、異性として想いを寄せていた。
悪人顔で、リアルに人間を食い殺してそうな顔をしてるけど、種族に対する偏見を一切持たないし、誰にたいしても平等。
だからガブリエルはコカビエルが大好きで、色々と堕ちるだろう真似を散々してアピールした。
「湯中りしてしまったかもしれません……」
「あ? おい、ひっつくなよ」
「あぁ、クラクラするわ……」
例えば、座ってるコカビエルにもたれ掛かってみたり。
わざと着ている浴衣の胸元を開けてみたりするのだけど、コカビエルは平然としていた。
「天使と堕天使に差なんて無いのに。
そう思いませんかコカビエル?」
「まぁな……。
だがお前程の容姿なら簡単に男なんて落とせるだろ?」
「アナタが堕ちてなきゃ意味無いし、アナタ以外にこんな姿を見せる気なんてありませんよ。もぅ……」
戦闘欲求の方が強いコカビエルのムード台無しな一言に、ガブリエルは可愛らしく頬を膨らませる。
きっとゼノヴィアも自分みたいに空振りしてしているのだと思うと、コカビエルといいフリードいい、鈍い男には困ったものだと思うガブリエル。
しかし愛想を尽かせた事は無かった。
何故ならコカビエルは確かに戦闘バカで、女心なんて欠片も読まないけど……。
「そろそろミカエル達に追放されるだろ……」
「構わないわ。
過去を『見てみぬフリ』をした者達と同列になりたくはないもの」
「で、グリゴリから追放確定の俺と行動するのか。
お前は本当にアホな女だが……まあ、感謝するぞガブリエル」
「ぁ……」
コカビエルは身を寄せてきたガブリエルと向かい合って彼女の後頭部に手を回すと、そのまま彼女の額に己の額をくっ付ける。
「お前程の強い女が味方なら何でも出来る気しかしない。
これからも頼むぞガブリエル」
「と、当然です。アナタを理解出来るのは同族ではなくて私だけなんですからっ……!」
誰もが彼を怖い顔と思うコカビエルの顔を含めた全てが大好きなガブリエルは、その目に心を奪われながら頬を紅潮させ、幸せそうに微笑む。
唯一理解してくれた彼と共に在る事に。
ガブリエル
戦い好きな自由堕天使に惹かれてしまった、堕ちぬ永久天使。
コカビエル
強者との激闘を愛する自由な堕天使。
「さてと、フリードの修行の面倒でも見るか」
「ちょ、ちょっと待ってください……! こ、ここまでしといて終わりなんですか?」
「何時もの事だろ」
「いやいや、先を……ね? ほら、んー……」
「お前のファンに殺されるだろ――っ!? おい、離せ!」
「嫌です! コカビエルがキスするまで絶対に離しません!」
「ガキかお前は! 清廉潔白で通ってるんだろう!?」
「勝手に付けれたイメージなんて知りません! うふふ! キスしてくれないならアナタの胸板に甘えちゃいますっ!」
「………………これ、ミカエル共が見たら気絶するだろ」
二人の力量……ほぼ互角。
「…………。天使様がボスのスーツの上着を着ながら幸せそうにおねんねしてんのは何?」
「……。奪われたんだよ。はぁ……疲れる」
「うふふ……コカビエル……大好き……♪」
「だ、そうだぜボス? いい加減腹括ればよ?」
「…………」
終わり
補足
悪態つきながらもやはり心配なフリードくん。
今頃仲間達に問い詰められてやしないかと……。
その2
ガブリーさんは何時も通りだよ。
イケイケ天使様。
……つーかよ、この組み合わせもありえないよね。
匙きゅんとカテレアさん並みに