人生を歩く上で何度かぶつかる『壁』がある。
その壁は挫折を象徴するものであり、乗り越えられれば成長と進化を手にする事ができる。
これまでにも壁には何度もぶつかってきた。
そして乗り越える事で強くなってきた。
それはこれからも変わらないだろう。
何故なら俺は普通の人よりも多くの壁に出くわす気質であるから。
そして乗り越える度に際限なく進化できるから。
でも、今回出くわした壁はこれまでのどの壁よりも強大で、初めて『乗り越えられないかもしれない』と思わされるものだった。
きっと俺よりも多くの壁を乗り越え続けてきたあの堕天使という壁が……。
運良く無傷で済んだ。
しかし相手は今までの全てが児戯になってしまう程の凶悪な存在だ。
その話を受けたリアスと朱乃は、嘘や冗談で言っている訳ではないと直ぐに理解した。
「ハッキリ言うぜリアスちゃん。
俺達全員が束になってマジになっても、あの堕天使には勝てないと思う」
「悔しいですが、イッセーの言うとおりです」
悪魔祓い組の手伝いをしていた過程で出会したコカビエルが自分達のような側で、更にはその領域が今の自分達の数段上であるというイッセー達の語りに、リアスは部室に集めた他の眷属やソーナ達と共に難しい表情だ。
「そう……。
コカビエルの事は私達もある程度知っていたけど、そういうタイプだった訳ね」
「今の私達では止められない。
かと言って冥界に応援要請をした所で……」
「無駄な死体が増えるだけでしかないわ。
恐らくコカビエルの力は現魔王四人を一度に相手取っても粉砕できる領域でしょうしね」
そんなコカビエルから聖剣を奪還しなければならない悪魔祓い組に寧ろ同情を覚えてきたリアスは、居心地が悪そうに用意した椅子に座る悪魔祓い達に声を掛ける。
「厳しい事を言う様で申し訳ないけど、アナタ達ではどう逆立ちしてもコカビエルには勝てないわ。
一応質問するけど、教会への応援要請は可能?」
現在、冥界側とはかなり折り合いが悪い状態のリアスが要請した所で、多分来るのは兄のサーゼクスだけだろうと思っているリアスは、イッセー達が連れてきた悪魔祓い組の一人である佐上ジュンに質問してみる。
「してみた所で時間が掛かると思う。
仮に直ぐに来てくれたとしても、コカビエルやフリードに対抗できる実力者は居ない……」
「そう……。なら余計な犠牲者を増やさない為にも要請は控えた方が良いわ」
「…………………」
会合初日に大きく出る言動をリアス達に放った手前もあってから、結構小さくなってるジュンにリアスはそう告げる。
「学園の敷地を利用して聖剣を束ねるとコカビエルは間違いなく言ってたのよね?」
「ああ、夜更けに行うとか……」
「今の時刻から学園内にトラップを仕掛けようにも時間は無いし、仕掛けられたとしてもコカビエルには通用しないわね……。
うん、考えれば考える程私たちって本当にピンチだわ」
「はぁ、昔から運が悪い方だと思っていたけど、今回は特大に不運だわ」
相手が格上だとわかってしまってるせいか、一周回って冷静かつ他人事みたいにピンチだと呟くリアスと不運にため息を洩らすソーナ。
勿論、この町を破壊するつもりなら全力抵抗はするが、ここまで八方塞がりなのは中々に久々なので笑けてしまうらしい。
「アナタ達はいっそ戦死したという事にして姿を隠した方が良いと思うけど……」
「……。いや、自分達だけ逃げる訳にはいかないし、俺達も出来る限りの事はさせてもらう。
ここまで来たらもう自棄にしかなれない」
「ジュン君の言う通り、最後まであがいてやるわ」
「………」
「わ、私も……皆さんと最後まで運命を共にします……!」
共通の大敵という存在のお陰か、よもや敵対関係の相手とこんな会話が出来るとは思わなかったリアス達は、ジュン達の言葉にそれ以上言える言葉は無かった。
「フリードとコカビエルの他にも、もう一人協力者が居るかもしれないんだよな……」
「電話してた相手の事だね?」
「あの口調からして対等に接してる感じだし、下手したら同等の可能性があるかもな……」
「フッ、まさに詰みな状態ね」
「笑い事じゃありませんわリアス。
まだ私達にはやることがあるというのに……」
「そうです。
こんな所で終わるわけにはいきません」
「そうよ。まだイッセー君に豊胸マッサージをして貰ってないのに死にたくないわ」
「………………」
ソーナの割りと空気の読まない発言に場が一瞬だけ微妙ながらも和んだ気がした。
「足掻けるだけ足掻くしかない。それは理解したわけだけど……」
「ん、なに?」
自由への壁の高さを痛感しつつ、それでも足掻く事を覚悟したリアスは、ところで……という意味を込めて自身や自身の眷属、ソーナとソーナの眷属、佐上ジュンとその仲間の者達、そしてゼノヴィアといった面子が揃う中、今回ばかりは生き残れるかがわからない為、いっそ死ぬなら一緒という事で招いた金髪で褐色肌の女性が居たりする。
「ここまで何とか生きてこれたけど、今度ばかりは運が尽きたかもしれないわね……」
「大丈夫っすカテレアさん。必ず俺が貴女を守る……!」
「…………。ふふ、アナタにそう言われるだなんて、大きくなったわね元士郎?」
名をカテレア。
先代魔王・レヴィアタンの血族者にて、現悪魔政権に適応する事無く同志達と共に冥界の片隅に追いやられた生活を余儀なくされた者の一人。
そしてその同志達すらからも見捨てられた悪魔。
現在は、元士郎の自宅で彼の兄妹達を守りながら平和に暮らしていたのだが、今回の件において『少しでも戦力は居た方がマシにはなるでしょう?』という彼女の言葉により、何年か振りに袖を通したカテレア・レヴィアタンとしての衣装を纏って参戦してくれた。
「最期になるかもしれないから、出来る限りの事はしてあげるわ。
さ、おいで元士郎?」
「めっちゃ見られて恥ずかしいんですけど、お言葉に甘えて……」
元士郎と出会う事で変わり、逆にカテレアと出会う事で進化の壁を突き破れた元士郎は今では立派なコンビであった。
それこそ、死ぬかもしれないから今の内と云わんばかりにイチャイチャやってる程度には。
「カテレア・レヴィアタンって確か旧魔王の……」
「? 随分詳しいな。まあ、見ての通り、元士郎が只今恨めしい事をして貰ってる訳で、敵じゃないから安心しろよ?」
「………みたいだな」
初めて見る者はカテレアの姿に――具体的にいえば元士郎と抱き合ってる姿に驚いている様であり……。
「なるほど、男の子はああいうのも好きと……」
「ちょっと参考になりますね……」
「………………………」
仲間達はそんな二人を見て参考にしている。
主にジュンやらフリードが、もし生き残れれば近い将来大変そうな目に逢いそうな気がしないでもないことを参考にしてるアグレッシブさは――まあ、リアス達にもよーくわかるので置いておこう。
問題はカテレアでは無くて、もう一人なのだから。
「…………………」
「貴女、何で居るの?」
長い黒髪。主張はげしめの胸。花魁めいた服装。
かつてリアスも一度だけ相見えた事があり、只今絶賛ポキポキと指を鳴らしながら、ヤンキーみたいなメンチをその者に送りまくる可憐美少女こと小猫の姉にてはぐれ悪魔。
「や、たまたま通りかかったらコカビエルに殺されそうになってたので、加勢してみた……みたいな?」
何気に、そして然り気無くさっきからイッセーの側を離れないクロネコこと黒歌の飄々とした返しにリアスと朱乃は大きくため息を吐き、ソーナはその自己主張が凄い胸を親の仇の様に睨み……。
「取り敢えず一言良いかな姉様? ……………テメーさっきから何時まで先輩にひっついてんだゴラァ……!」
妹はその可憐な姿からは想像もできないドスがききまくったボイスで凄んでいた。
「し、白音が不良になっちまったにゃ……」
小物チンピラみたいな口調の白音にちょっとショックの黒歌。
それもこれも、白音がリアスの眷属になった時から戦い方を叩き込んだ古参兵士のイッセーの影響が大きすぎるからだったりする訳で……。
「姉様? …………………あー!!? そうか! 妙に白音と似た匂いがすんのかと思ったら、キミって白音のねーちゃんだったんだな! 忘れてたわ!」
「に゛ゃ!? わ、忘れてた……!?」
「そっかそっかぁ……。いやどっかで見た気がしないでもないとは思ってたけど白音のねーちゃんだったわ。
いやー、ちょっとスッキリした気分だぜ」
「わ、忘れてたの? 私の事を?」
「ん、そりゃ結構前に一度見たきりで、一言も話した事なんて無かったからなぁ」
「……………」
もっもと、空気を読まないイッセーは、今になって黒歌が誰なのかを思い出して一人スッキリした顔をしてるし、今の今まで普通に覚えてるばかりか、今から土下座されながら結婚を申し込まれるだろうとばかり思っていた黒歌はショックでちょっと涙目にすらなっていた。
「良かったな白音。ヤバイ状況でねーちゃんと会えて?」
「いや、はい……それはそうかもしれないッスけど……」
ポンポンと白音の背中を叩きながら姉妹の再会を祝福するイッセーのこの態度には、ちょっとだけ姉に同情して怒りが引っ込んでしまう白音。
何で姉がイッセーに引っ付いて離れないのかに腹が立つが、こうもバッサリと今の今まで顔も碌に覚えてなかっとカミングアウトされてるのを見れば同情の方が勝る。
「わ、私ってイッセーに忘れられてたの……?」
「……。まあ、お茶でも飲みなさいよ?」
「イッセー君は基本的に忘れっぽいんですわ。
……ただし、二回り程年上の女性は絶対に忘れませんが」
「? 突然どうしたんだあの三人は?」
「先輩が酷すぎるせいっす」
「は? 俺がひどいって……何故に?」
「はぁ……」
友人か自分の性癖に合致する女性以外に対する記憶容量の確保が終わってるイッセーの悪意無き顔に白音は自分がイッセーの後輩であることにホッとすらしてしまう。
「うーん、よくわからん」
「なぁ、イッセーは美少女が大好きじゃないのか?」
「何だその質問は?」
「いや、何となくのイメージで……」
「そりゃあ、好きか嫌いかと言われたら好きかもしれないけどさ、やっぱり年上のお姉様っしょ? 三十路や四十路だったらパーフェクトだぜ」
「……。それは例えば……ええっと、魔王・サーゼクスの嫁さんとか? それかソーナ・シトリーの姉とか?」
「は? あぁ、確かに年は俺より上だけど無いな。
まだ若いし、最近見た中で最強なのはフェニックスっていう貴族悪魔の奥さんだな。
ありゃやべぇ。膝枕とかしてくれたら良い匂いしそうだもん……ぐへへへ!」
「………………」
そう言いながらイッセーらしいだらしない顔の笑みを浮かべる姿に、ジュンは『何があってこんなにねじ曲がったんだろう?』と、知識とは違う性癖の拘りに疑問を覚えてしまう。
「リアスちゃんの従兄弟のサイラオーグ・バアルさんのお母さんもヤバイね。
………………前土下座してお母さんとデートさせてくださいって息子さんに頼んだらぶっとばされたけど」
「そりゃ殴られるだろ……」
「頼み方が駄目だったのか……うーん」
「だったらリアス・グレモリーの母親とかは――」
「あぁ、あの方は駄目だ。
童顔過ぎるし、性格も意外とキツくてよ。
俺って5歳になる前からリアスちゃんの眷属やってんだけど、リアスちゃんって何時も小さな事で怒られて結構ボロカスに言われてるのを見てたんだよ。
だから苦手っつーか……」
「五歳前? あの、失礼だけど家族は知ってるのか?」
「さぁ? 3歳の誕生日の頃には居なくなってたから知らねーと思うし、今頃どこで何をしてるのかも知らんな」
「…………………」
家庭環境から眷属へとなった経緯まで知識とは違うのかとジュンは密かに絶句したと同時に納得した。
初めて出会った時も、妙に落ち着いていた事に対して。
「キミこそ大丈夫なのかよ? 故郷に家族が居るんだろ?」
「イリナにはちゃんと居るが、俺とアーシアは天涯孤独だよ。
……こんな事になってしまった今、生きて帰れるかもわからなくなってしまったけど」
「そうか……まあ、出来る限りの事はするぜ」
「………」
そう言ってリアスに呼ばれて離れていくイッセーの背中を見つめるジュン。
お伽噺みたいな世界に転生してから、自分は何をすべきなのかわからなくなっていたが、主人公である筈の彼の生き方を知って少し印象が変わった気がした。
そして思う。生き残ってもっと彼を――いや、未知なるものを持つ彼等を知ってみたいと……。
そして……。
「どうやら全員お集まりの様だな」
『!』
生きる為に必要な巨大な壁がやって来る。
「っしゃあ! オールスターと来たかぁ!」
「フリード……!」
漆黒の翼をはためかせて部室の窓の外から姿を―――では無く、普通に入り口の扉をノックして入室してきた堕天使コカビエルと、フリードの出現に全員の顔が強ばる。
「お前達がサーゼクスとセラフォルーの妹だな? ……ふむ、なるほど。
くくく、俺を見て何かを感じるか?」
「ええ、嫌という程にね」
「はぁ……やっぱり死ぬのかしら私……」
図々しく入室してきたコカビエルがフリードと共にソファに座って楽しげに笑いながら若者達を見渡している。
何故なら約半数が己と同じ『例の無いものを持つ者』だったのだから。
「やはり私達を殺しに来たのかしら?」
イッセー達からすでに話は聞いていたが、直で相対すれば、それが誇張したものではなく、寧ろ誇張したところでそれすらも過小評価だったと感じる程の異質さをコカビエルから感じて声が固くなるリアスは既に今コカビエルが質問に対して『そうだ』と言った瞬間戦闘を開始できるように身構える。
「殺す? 何故これから俺達を超える可能性のある芽であるお前達を殺さなければならない? それではつまらんだろう?」
しかしコカビエルの返答は思っていたものとは違うもの――いや、人伝に聞いたコカビエルの性格通りのものだった。
「そりゃあ少し遊びに付き合って貰うかもしれないし、その結果死ぬかもしれないが、殺す気は無いぞ俺は」
「……。どういう事? アナタの目的はこちらの考えでは奪った聖剣を利用して戦争を起こす事だと思っているのだけど」
「確かに、俺のやっている事は下手をしたら三大勢力による戦争の復活になりかねないものだろう。
だが、単に無駄な死体が量産されるだけの生産性も無いものなぞに俺は興味なんて無い」
『…………』
そう言いながらフリードと一緒にここに来る前に自販機かなんかで勝ったと思われる飲料を飲みながら語るコカビエル。
「俺の目的は一つ、過去あの聖剣で人生を狂わされた者の願う『清算』の手伝いだ」
「清算……ですって?」
「そうだ。そして奴等のメッキを剥がしてやる事だ」
「奴等……?」
話の意図が見えないリアス達にコカビエルは頷きながら、ジュン、イリナ、アーシア、ゼノヴィアに目を向ける。
「先にお前達に教えてやる。
今日の今日までお前達が信仰していた神はとっくの昔に消滅している」
「……は?」
「しょ、消滅………?」
「「………」」
真面目な顔をして神は死んだといきなりカミングアウトするコカビエルの言葉の意味が最初理解できなかったイリナとアーシア。
しかしジュンとゼノヴィアは既に知っていたのか、少し目を逸らした。
「どうやらそこの小僧とフリードの昔馴染みの小娘は知っていた様だが、これは事実だ。
今の天界のシステムはセラフのリーダーであるミカエルが消滅した神の模倣をしたに過ぎない」
「そ、そんなの嘘よ! なんの証拠があってそんな……! そうよねジュンくん!」
「…………」
「嘘だって言ってくださいジュンさん!」
「………………。コカビエルの言ってることは嘘じゃないと思う。
俺も前に『知ってしまった』から……」
「そ、そん……な……」
「私達がやってきたことって……」
絶望し、力無く床に膝をつくイリナとアーシア。
アイデンティティのひとつを否定されたと同義ともなればこれは仕方ないのかもしれない。
「神が消えたとなれば、その信仰は一気に消える。
それを恐れたミカエルがお前達人間に真実を伏せたのだ。
お前達が今抱えてる聖剣もそうだ。信仰を強める為の、所謂ひとつの
「「………」」
真実を知ってしまったイリナとアーシアの反応が無い。
余程ミカエルの模倣したシステムにすがっていたのだろうと、同情を覚えながらもコカビエルは続ける。
「しかしその象徴である分かれた聖剣には『バックアップ』が搭載されている」
「バックアップ……?」
「元の聖剣は聖書の神のものだ。
つまり聖書の神の力が宿っている訳だが、それと同時にあるものも宿っているのだ――――聖書の神の意識がな」
『!?』
この事実は知らなかったと目を見開くジュンとゼノヴィアは、その瞬間理解した。
何故コカビエルが聖剣をひとつにしようとしているのか……そしてそれに何故フリードが協力しているのか。
「まさかコカビエル、貴方達の目的は……」
「あぁ、分かれた聖剣を元に戻し、宿る神の意識を無理矢理引きずり出す。
そして終わらせる……聖書の神を―――搾りカスでしかないものに翻弄されてきた者達の清算を」
「…………」
搾りカスであるとはいえ神を殺す。
ある意味では戦争を引き起こすといってくれた方がまだマシだったのかもしれないその目的に。
「ひとつ質問して良いかしら?」
「何だ?」
「聖剣を束ねたい理由はわかったし、悪魔として以前に私の騎士である祐斗の事を考えれば反対する理由も無いし、なんならその清算にこの子を協力させて欲しいとすら思っている。
けれど、それなら何故ここまでの騒ぎにしたの? 貴方程の者ならもっと迅速に行えてた筈よ?」
「簡単だ。
この事実を敢えて騒ぎにして公表させるつもりだったからだ。
神の下を免罪符にする者をな……」
祐斗とフリード。
聖剣計画の生き残り達が過去にされてきた事を世界に発信させる。
そうする事で少しは今後の抑止力へと繋がるからと語るコカビエルにリアス達はなるほどと納得する。
「魔王の妹が住むこの町で騒ぎを起こせば冥界にも伝わる。
だからこの町を選んだ……それだけの事だったが、まさかお前達が『そう』だったとはな」
「貴方の言う『引力』ってそういう意味で言っていたわけね……」
「まぁな。
くくく、さて、話はこれまでにしようか? そろそろ俺達の協力者も到着する頃だ」
「協力者?」
腕に身に付けていた時計を確認しながら含み笑いをするコカビエルに首を傾げていると、再び部室の扉がノックされ、数拍程間が開いてから扉が開かれる。
「準備完了ですコカビエル」
その言葉と共に姿を見せた人物にその場に居た者達は、コカビエルとフリードを除いて絶句した。
何故なら、その人物が目が覚める程の美貌を持つ者だから――――では無く、この場に協力者として現れるにはありえぬ勢力の者だったからだ。
だがしかし、コカビエルはフッと笑みを溢すと当たり前の様に言った。
「紹介しよう、俺の相棒のガブリエルだ。
種族は―――まあ、見た通りだ」
天界組織
「あ、アナタ様は!?」
「て、天使様……!」
「が、ガブリエル様……!?」
「お、驚いた……」
当然、名前だけで直接会った事が無かったジュン達は驚愕するし、勿論悪魔であるリアス達も思わぬ来客にちょっと固まってしまっていた。
「初めまして皆様。
私はガブリエル、今コカビエルの紹介通り、彼のパートナーをしております」
当然偽者を疑うが、彼女の背に広がる12対の純白の翼を見れば並を越えた天使である事は疑いようがない。
おっとりとした微笑みで挨拶をするガブリエルに、思わず全員が『こ、こちらこそ……』と頭を下げた。
「あ、あの……天使様――いえ、ガブリエル様が何故コカビエルと……?」
当たり前の疑問を投げ掛けるイリナに、ガブリエルは微笑む。
「コカビエルとは昔馴染みで堕ちる前からの知り合いでして。
組織や勢力が変わってもこうして会う仲なのですよ」
「修行仲間みたいなもんだ。
言っとくがこんな優しそうな顔をしているが、俺と同等のパワーを持っているから見た目に騙されるなよ?」
「む、怖がらせる様な言い方をやめなさいコカビエル。
私だって女の子なのよ?」
「女の子? ………お前、自分の歳を考えろ――いて!?」
「何か聞こえた気がしたけど気のせいよね?」
「…………おう」
『…………………』
軽くひっぱたかれ、威圧を感じる笑みにコカビエルは口を閉じる。
このやり取りを見て、関係性は本当だったんだと思うのと同時に、コカビエルって尻に敷かれてるのか? と思ってしまった。
「やべぇ、あの人も本当に相当強いぞ……」
「上には上が居たものね。
しかしまさか現役堕天使と天使が……」
さも当たり前みたいにフリードとは反対側のコカビエルの隣に腰掛けて、地味にコカビエルに密着してるガブリエルになんともいえない気分になる一同。
「コカビエルに続いてガブリエルまで出てくるなんて……」
「アナタはカテレア・レヴィアタンですね? 旧政府と現政府に追放されたとは聞いておりましたが……」
「昔の話です。今はレヴィアタンではないただのカテレアです」
「……ふふ、そうですか」
カテレアと話をするという凄い絵面になってるし……。
「そういえばセラフォルーが貴女に対してかなりの対抗心を燃やしている様ですが……」
「……? はて、彼女とはそれほど接触した覚えはありませんが、何故対抗心を燃やされているのでしょうか?」
「人気がどうとか。
冥界で貴女は天使にも拘わらず人気者らしいですから……」
「あら……。
しかし人気者と言われましてもね。
私には心に決めた者が居ますし」
「……みたいですね、どうやら」
微妙な顔をしてるコカビエルにひっつきまくるガブリエルを見て察するカテレアはセラフォルーに内心思う『色々と負けてるわよ貴女』と……。
年齢も種族もバラバラな者達の奇跡の会合はまだ続く。
「フリード……」
「よぉ、おチビちゃん。
くく、逃げずに残ったのか?」
「逃げるわけがないだろう。やっとお前に追い付いたのに……」
「バカだなぁ? 折角抹消してやったのに、忘れて生きてりゃあもっと長生きできたのに」
「そんな生に意味なんて無いさ……。
だって、わ、私はお前を……!」
元士郎やカテレア、ガブリエルやコカビエルを見てて何かに影響されたのか、ちょっと緊張しながらフリードに話しかけるゼノヴィアだったり。
「て、天使様が堕天使と共に居ても堕ちないなんて……」
「ひょっとしたらあの方はミカエル様のシステムを超越してるのかもしれないな。
だから堕ちないんだろう」
「そ、そんな事があるんですね……」
嫌がるコカビエルに甘えるガブリエルを見て、今の天界のシステムがコカビエルの言った通りなんだろうと理解していくジュン、イリナ、アーシアだったり。
「うーむ、確かにスゲー美人かも」
「! へぇ、そうなんだ?」
「そう思うんだ?」
「もう居るのにそんなひどいこと思うんすねー? へー?」
「忘れてたって照れて嘘言うくらい私が好きな癖に浮気するなんてひどいわ……」
「胸か。また胸ですか……姉の胸でももいでやろうかしら」
「………………。何だよ皆して怖いな……」
漠然的な感想をガブリエルに対して呟いたら、悪魔っ娘達や猫娘達がジト目で睨んだり。
「神の陰我を断ち斬る……か」
「だ、大丈夫ですか? アナタに何かあったら私は……」
「え? あ、はい。でも皆が居るから大丈夫ですよ」
一人で考えてた騎士に副会長が緊張しながら話し掛けてたり。
「しかしあの凝り固まった旧政権の筆頭悪魔が転生悪魔の小僧とな……」
「私はよーくわかりますよ。
好きになれば、相手の種族や地位なんて関係ありませんもの」
「そうか……。しかしお前、やけにひっついてくるのは何だ?」
「私より若い子達が進んでいるのに、私は停滞してると思うと燃えるんです。
アナタはさっさと私を抱いてくれないし……」
「……」
ガブリエルに軽く迫られて微妙に立場が無いコカビエルだったり。
決戦的な話な筈なのにどこか抜けた空気だった。
終わり
少し未来の話。
全ての清算。過去を乗り越える試練。
「漸く出てきやがったな……」
「アレが神の残骸……」
手足も無く、顔も無い神の残骸。
それを切り裂こうとする聖剣の輪廻に捕らわれた過去を持つ者達。
『『貴様の陰我……俺達が解き放つ!!!』』
白夜と銀牙が肩を並べる時、神への反逆がスタートする。
『疾風ェ!』
『銀牙ァ!』
強大なパワーを放つ神だったものを斬る為に馬に乗り、天を駆ける。
そして――――
「俺はグリゴリを抜ける」
「私も今を以て熾天使を抜けさせていただきます」
今回の騒動の発端となった堕天使と天使の脱退。
これにより天使と堕天使の組織が急速な弱体化に陥る。
「スートハートの天使イリナよ!」
「同じくアーシアです!」
脱退したガブリエルを主と見てお使いとなる脱退組その2
「行く宛もねーし、俺はボスの部下でもやるつもりだが……」
「私もついていく……」
「俺もだ……頼む……!」
反対にコカビエルにはゼノヴィアとジュンが部下として加わり、脱退した二人を中心に大きくなりそうな勢力が作られていく。
「おい、この前の件でコカビエルとガブリエルに認められたからっていい気になるなよ……」
「げっ、また来やがった……」
「いい気になんてなってないんだが……」
「キミはアザゼルの下じゃないのか?」
「誰が! 俺は昔からコカビエルとガブリエルの弟子だ! それも一番弟子だっ!」
フリードとゼノヴィアとジュンの位置に何故か嫉妬して毎度絡んでくる銀髪少年。
そして――
『カテレアさんは死んでも渡さない。
我が名は呀――暗黒騎士!』
カテレアの過去を食い尽くさんと駆け上がる暗黒騎士。
「もう人間界の学校を辞めて家に戻りなさい! 堕天使や天使と勝手な真似をして、アナタはそれでもグレモリー家の跡取りですかっ!!」
「………………………………………………………………………………(プッツン)」
リアス達は―――
「グレモリーの名なんて要らない。
私はアナタの人形じゃない!!!」
修羅場になっている。
「さ、サイラオーグさん! 是非とも貴方のお母さんとデートを! デートをさせてください!!」
「流石に許せない案件だ! ダメったら駄目だ!!」
「そこをなんとか! 変な事はしません! 町を一緒に歩いてソフトクリームとか一緒に食べたいんです!! だからお願いしますっ!!」
イッセーはリアスの従兄弟に土下座してその従兄弟のお母さんとデートさせてくれと懇願しまくり……。
「俺の母じゃなくて、ヴェネラナ様はダメなのか!?」
「ダメです! 性格が人妻っぽくないしキツイんですよ! おおらかさがまるでない! それにリアスちゃんを昔からボロクソになじってたんでぶっちゃけ嫌いっす」
「なっ、あ、あの人はリアスにそんな事を……。だから反抗していたのかリアスは……」
遂に大声でヴェネラナ・グレモリーはありえないと言ってしまったり。
「……………………………………………」
「げっ!?」
「ぷーくすくす! あり得ないですって? よかったじゃあないですかお母様? イッセーの性癖から外れてる時点で未来永劫安心した暮らしが約束されますわよ?」
別にどうとも思ってもない存在にあり得ないと言われてイラッとしていた所を、最早反抗を隠す気すら無くしたリアスに腹立つ顔で煽られてしまったり……。
「さ、行きましょうイッセー? こんな鬼ババァの側に居たら何をされるかわからないわ」
「お、おいリアスちゃん……」
「お、鬼ババァ!? 待ちなさいリアス! 何ですかその言い種は――」
「事実でしょう? そんな眉間に皺寄せてるから山姥みたいな顔ですわよ?」
「なっ!?」
挙げ句娘にババァと呼ばれて流石にショックだったり……。
「キミの事は娘から聞いてる。
なんでも娘の事を想ってるとか……」
「……………………。いや前提からして間違ってるんすけど」
貧乳眼鏡っ娘がガチになったせいで、親御さんに呼び出されたり……。
「反対はしない。寧ろ娘みたいなものを引き取ってくれて感謝しかないのだ」
「……………あ?」
でもソーナのマイナス性に嫌悪を示していた親御さんのあんまりな言い方にちょっとムカついたり。
「しょうがないわ。姉と違って私は生まれ損ないだもの」
「だからって……! あれが親の言う事かよ!?」
「良いの良いの、アナタやリアス達が私を否定しないだけで私は幸せだから……」
「……センパイ」
つい腹立って、ボロクソに暴言を吐きまくってからソーナを連れ出してしまったり。
「リアスちゃん、悪いやっちまった。
我慢できなかったよ……」
「いえ、もしもあのままソーナを無視してたら怒ってたわ。
だからアナタは自分のやった事に自信を持ちなさい」
「………あぁ」
性癖を理由に逃げてきた少年が遂にきちんと向かい合う覚悟を決めた時、彼は本当の進化を果たす。
「ドライグ……やるぞ!」
『覚悟を進化に変えたか。
いいぞ、油断するなよイッセー!』
「……承知!」
紅蓮に輝く真の龍帝へ。
そして永久に止まることの無い進化の道へ……。
「ほひょー!? エシル様! 是非とも私めを奴隷みたいになじって――あだだだだっ!?」
『………………』
まあ、向かい合うだけで性癖は変わらないのだが。
嘘だよ。
補足
何気に順応する転生者。
まあ、元から普通に変な欲とかもそんなないからね。
その2
お姉ちゃんとの感動の再会はチンピラ化してしまう小猫たん
それはもうNEOと融合してるアカシア様のごとし。
その3
若い子達やカテレアさんを見て負けてられないと頑張るガブリエル様。
コカビーは果てしなく困ってしまう模様。