数多の世界が存在している。
数多のもしもが存在している。
数多の繋がり方がある。
ある世界ではこの繋がりがあっても、またある世界では存在しない。
これはそんなもしもの繋がり。
内に秘める生まれながらの狂気は常人に理解される訳がない。
内に秘めた化け物の気質だって誰にも受け入れられる事だってない。
永久に進化し続ける運命を宿してこの世に生まれ落ちた少年は、誰よりも狂っていて、誰よりも先へと進み続けてしまう。
他の誰もが手をこまねいている事象においても、彼は慣れて適合してしまうことで意図も簡単に壁を乗り越えてしまう。
厄介なのが、その性質を彼は一切制御しようとせず、ありのままに事象を糧に変異と進化をし続ける。
その限界は存在せず、ただ無限に……。
それは数多の生物達にしてみれば毒にしかならぬ存在。
自身を脅かす病原菌の様なもの。
例え神だろうが、その病原菌に対応は出来ない。
それほどまでに彼は――化け物だった。
そして価値を知る者にとっては至宝でもあった。
生まれた時から二つの記憶を持つ少年は今日も静かに……きっと生きている。
多くの冥界の悪魔達がその少年を初めて知ったのは、恐らく少年が兵士として遣えているリアス・グレモリーがライザー・フェニックスとのレーティング・ゲームをプレイしていた時だっただろう。
グレモリー家のリアス――というより、魔王・サーゼクスが非公式ながらも初めて出場するという事で注目を集めた訳だが、何よりも驚いたのはその兵士の少年の容姿だった。
何故なら彼はあまりもそっくりだったのだ。
最初期の転生悪魔にて、最強の転生悪魔と評される魔王・セラフォルーの将軍とあまりにも……。
「最強の将軍……ですか?」
「ええ、私の故郷である冥界には多くの悪魔が住んでいる訳だけど、その悪魔の中に最強の転生悪魔として歴史に名を刻んでいる方が居る。
……実を言うとねイッセー、その方とアナタがあまりにもソックリなのよ」
「お、俺がっすか?」
「ええ、でもその方はご結婚もされてない――と、いうより今となってはしようもさせて貰えないから、アナタがその方の子孫である可能性は無いわ」
とある日の部室。
今日まで何とかリアス・グレモリーの兵士として仲間達と共に修羅場をそれなりにくぐってきた兵藤イッセーは、来る授業参観日を前に、突然冥界に自分のソックリさんが存在していると聞かされて、軽く困惑していた。
曰く最初の転生悪魔。
曰く最強の転生悪魔。
曰く……自分と似てる。
自分にソックリなその誰かが冥界で最強と吟われている事に何故か軽くむず痒さを感じるイッセーは、リアスにこんな事も言われる。
「だから最初にイッセーを見た時は驚いたわ。
あの方がどうしてこの学園に学生として通っているのかってね」
「そんなに似てるんですかその人と……?」
「ええ、直接お話をした事は殆ど無いけどね」
そう言って短く息を吐くリアスにイッセーは少し興味が沸いてきたのと同時に会ってみたくもなった。
どれだけ似ているのか。そして性格はどんな性格なのか。やっぱり性格も自分に似て美少女とおっぱい好きなのかとか……。
だとしたら是非とも談義をしてみたい……。
ひょっとしたら既にハーレム王になっているのかもしれない。だとしたらそのコツを教えて貰いたい……と。
そんなイッセーの願いは割りと直ぐに叶う事になる。
後日訪れた授業参観の日に。
匙元士郎は生徒会役員として、授業参観日におけるこの騒ぎの収束に苦労していた。
「父兄の方ですよね? 誰だか知りませんが、学園でそんな格好をして騒がれたら困るんですが」
「えー? でもこれが私の正装だもーん☆」
体育館が妙に騒がしいという話を聞き付けて行ってみれば、おかしな格好をした女性が壇上で多くの生徒(ほぼ男子)の視線を釘付けにさせて騒いでいた。
無論、生徒会役員として注意をしたのだが、誰の父兄かわからない女性は反省の色がまるで見えない。
だが、この魔法少女セットに身を包んだ女性がまさかの自分の主であり生徒会長でもあるソーナ・シトリーの姉である事を知り、仰天する。
「ここは学校です! 何をしているのですか!」
「やーん☆ そんなに怒っちゃやーよソーたん♪」
「ソーたんって呼ばないでください!」
マジでか……。
元士郎は惚れた生徒会長のソーナの姉の真逆過ぎる性格に面食らってしまった。
「そもそもギル兄様はどこへ……!?」
「あ、そうそう! 聞いてよソーたん! いーちゃんったら酷いんだよ? 学校に来るなり『現役JKでもナンパしてくるぜ』って、どうせ誰も引っかけられない癖に私を置いて行っちゃうんだぜ?」
「……。ギル兄様が……? 無いと思うのですが」
ギル兄様? 二人の兄弟か? そんな事を思いながら取り敢えずソーナの側で話を聞いていると……。
「ちくしょう、なんなんだこの学校の女子は? ちょっと声を掛けただけで変態野郎ってなじって鞄で殴ってきやがって」
そこには、先日の聖剣事件でそれなりに互いを知る様になったリアスの兵士の少年で、顔中に青タンを作り、何故か学園の制服ではなくて、執事か何かが着てそうな燕尾服姿だった。
「兵藤、お前なにしてんの? てかその格好はなんだよ?」
「ん?」
当然、おかしな格好をしてる彼に話しかける元士郎。
しかし話しかけられた燕尾服の男の反応が何時もの彼とはどこか違う。
「いーちゃん!」
「ギル兄様!」
「え?」
何故なら彼は兵藤イッセーでは無いのだから。
それに気付いたのは、ソーナとソーナの姉であるセラフォルーが彼を見てイッセーではない名を呼ぶことで漸く理解する事になる。
授業参観も終了となる放課後。
リアス・グレモリーとソーナ・シトリー両悪魔の父兄が学園の大会議室に集まって世間話をするという事で、リアスとソーナが眷属達と共に参加する事になったのだが、当然そこに居たイッセーにあまりにも似過ぎてる燕尾服姿の青年に殆どの眷属達は驚いていた。
「ん、知らない子達の為に紹介するね? 彼はギルバ。私の将軍だよ☆」
セラフォルーの紹介と共に一礼するギルバなる男に、初めて見る眷属達は、驚いてるイッセーの顔と交互に見合わせながら、その似過ぎてる顔に二度驚く。
それは、既に彼等を知る者達も改めてその瓜二つさに驚く程だった。
「本当にそっくりだね。
ひょっとしてギルバの隠し子の子孫が彼だったりしないかい?」
「それは無いぜサーゼクスちゃん。
だっていーちゃんは結婚してないし、異性とそういう事してないもん」
「……まあ、キミの囲い方を見ればそうか」
隠し子の子孫説が浮上しても、即座にセラフォルーが否定する。
「仮にそれが事実だとしたら、私はセラフォルー様の友人として彼を一発殴ります」
「殴るて……」
そして続けざまにメイド服を着た悪魔のグレイフィアが軽い調子で言うと、ギルバと呼ばれた青年は微妙な顔をする。
「そもそも、何故私が彼女のそれみたいな扱いなのでしょうか。
私は転生悪魔であって純血ではないのですが……」
「純血以前に、キミのこれまでの功績を考えたら誰も文句なんて言わないと思うが? ですよね?」
「うむ、寧ろ切実に貰ってくれ」
「セラフォルーもアナタ以外に一切興味が無いので……」
「………俺の意思丸無視かよ」
何気にセラフォルーとソーナの両親からも推されてしまって、思わず素が溢れてしまうギルバは、チラッと自分を凝視するイッセーを見て『キミはこうなるなよ』的な目線を送る。
かつての自分そのものに……。
セラフォルー・シトリーには秘密がある。
それは、この世界とは似て非なる世界を生きた記憶と経験……そして気質を継承しているという秘密。
その世界ではギルバと今は呼ばれた彼がちょうど今兵藤イッセーと呼ばれる少年と同世代の年齢で、妹のソーナとリアスの執事をしていた。
性格も色々と拗れて毎日が反抗期みたいな性格で、今みたいにマシな受け答えすら出来ない程だったのも記憶している。
そんな彼が今は自分だけの―――といえば少し語弊があるが、執事をしている。
かつて自分の服を吹き飛ばして全裸にした挙げ句鼻で笑ってた彼が……。
「よし、この世界の俺に然り気無く話しかけられたし、気質を分け与えられたぜ」
そんなセラフォルーと元イッセーことギルバの目的は、記憶も経験も気質も持たぬ、この世界を生きるかつての者達を影ながらフォローする事であり、イッセーに対しては自分の気質を分け与える事でもあった。
「気付いて開けられるかはこの世界の俺自身次第だけど、まあ大丈夫だろ」
今の領域まで到達できた理由でもあるとある気質の継承。
それこそが彼の目的であり、先日の騒動にてその資格があると判断した後に与えたものは、何物にも決して負けない永久進化の異常性だった。
「しっかし、夢がハーレム王ってのには驚いたな。
疲れるだけなのにな?」
「いーちゃんはそれに近い経験を昔したもんね?」
切っ掛けは与えた。
あとは本人次第という事で彼等を今度は遠くから見守る事にしたギルバとセラフォルーは、この世界のイッセー本人の夢に苦笑いしながら暫く理由があってこの人間界に滞在する為に取っていたホテルの部屋へと戻る。
目を輝かせて語る彼の夢を聞いていると、親の愛情を受けて育ったのがよくわかった。
「ご両親もちゃんとご健在だったね?」
「ん、そこに一番安心したよ。
……俺みたいにはならないだろうし」
だからひょっとしたら分け与えた物は不必要なのかもしれない。
けれど何時か彼にとって立ち向かわなければならない時が来た時にはきっと力になる。
だから彼はこの世界の自分に託したのだ。
「さーてと! 長いこと時間が掛かったが、やることも終わったし、これから何をしようかね?」
「昔のいーちゃんだったら言いそうも無い前向きな台詞だねー」
「拗らせまくってたからな。
………今もそんな変わらんだろうけど」
燕尾服のネクタイを緩めながら椅子に行儀悪く座るギルバにセラフォルーは幼少の頃の彼と今の彼の変わり方に笑みを溢していた。
他人と向かい合うだけで声も出せずに顔色を真っ青にして吐きそうになる程、コミュニケーション能力が死んでいた事を考えたら、随分と今はマシになったと思う。
もっとも、側が少し変わっただけで本質はある意味変わらないのだが。
例えば――
「あら、二人とも帰ってましたのね―――って! 何ですかイッセー! 上着を適当に置くなんて!」
一仕事終わらせられたとホテルの部屋で脱力していたイッセーを外出から戻ってきたらしい、メイド服を着た茶髪の――誰かに似ている女性が叱りつけた。
「折角特注で作った衣装を乱暴に扱うのではありませんよ!」
「わかったから怒鳴るのやめろし、相変わらずうっさいババァだな」
「おば様は何処行ってたの?」
「この世界のイッセーとあの子達がどんな子達なのかを一目確認しようと思いましてね。
どうやらこの世界のイッセー君に分け与えられたみたいで……」
「でなきゃわざわざ姿を晒した意味もないからな」
「まあ、それがアナタの目的でしたし……」
「そういう事だぜ。
だから一仕事終えたって事で小言は勘弁してくれよババァ?」
「それとこれとは話が別よ。
……そもそも今の私とアナタはババァと呼ばれる年齢差ではないのに」
「俺にとっちゃアンタは何時までもババァなんだよ」
ババァと呼ばれて困った様な顔をするこの女性は、イッセーとセラフォルーの両方を文字通り昔から――それこそ子供の時から知る者だ。
「この世界の私より今の私は年下なのよ? ババァはやめてくださらないかしら?」
「人間で換算したら最早ミイラだし、ババァは続投だ――いででで!? 耳を引っ張るな!」
「ババァではなくお姉さま……でしょう?」
かつてヴェネラナ・グレモリーだった彼女はセラフォルーやイッセーと違ってかつての世界では存在しなかった悪魔として生まれ変わった存在だった。
「まあまあおば様。
どーせニュルニュルにしてあげたらそんな言葉も使えなくなるから笑って済ませてあげようよっ☆」
「……ま、そうですね。
ババァ呼ばわりする相手に半泣きになる子供ですものね?」
「……あれは卑怯だ」
そして今はセラフォルー・レヴィアタンの僧侶として。
かつてヴェネラナと呼ばれ、今は純血種にてもっとも始祖の力を受け継いでしまったシャルロット・バアルは反抗期が終わってもババァ呼ばわりしてくる血の繋がりは無いけど息子同然に可愛がってきた青年と楽しくその日を生きていた。
「ところでおば様は聞いた? この世界のいーちゃんの夢ってハーレム王らしいよ?」
「あらまあ、生きた環境や気質は違えど似てるのねぇ?」
「……俺そんな事宣言した覚えがまるでないんだけど」
「けど実際はそんな状況だったでしょう? ………誰とも一緒にならずに死ぬまで独身を貫いたせいで、シトリーとグレモリー家は断絶しちゃったけど」
「俺のせいにすんなし。そもそも純血種じゃない俺にそんな事まで期待するのがアホなんだ」
「大分反抗期も無くなった今も、そういう所はそんな変わらないしさー? ホントどこまで焦らしてくるんだか、おねーさんは辛いぜ☆」
「このままではまた行き遅れ扱いをされてしまうわね。
……+αで私まで」
「知らん知らん!」
強くてニューゲーム・絆度フル状態の執事と魔王少女と元義母。
永久に始まらない。
人間界の時期的に夏休みという事で、イッセー達がグレモリー家にやって来た――的な話を聞いた所で、別に個人的にこの世界のグレモリー家とのパイプが無い執事イッセーことギルバは、特に何もせず、すぐ仕事をサボろうとするセラフォルーの監視役兼ストッパーとして、シャルロットと共に仕事をさせまくっていた。
が、セラフォルーの実家であるシトリー家に顔を見せれば、この世界のセラフォルーの両親から『はよ貰え』的な威圧を受けて居心地が微妙に悪かったりするし、別に関わる必要も無いと判断してスルー案件のつもりだったグレモリー家の者達にシャルロット経由で招待されてしまって仕方なく顔を見せなきゃならなくなったりしたりもした。
「見れば見るほどソックリ。
強いて云うならギルバ様の方が少し年を重ねてる気はする……」
「まるで兄弟みたいです」
案の定、この世界の自分と見比べられて色々言われたりした。
そら本人そのものなんだから似てるのは当たり前なのだが、真実を言う気は無いギルバは適当に濁した。
というか、この世界の自分が思っていた以上に性に対して正直だったので、育った環境の違いって凄いと改めて思っていた。
「ギルバさんはセラフォルー様とシャルロットさんのどっちが良いんすか!? やっぱりどっちもっすか!?」
「いや……あの二人は単なる腐れ縁というか……」
「でもどちらにも迫られたらいけますよねっ!? 俺は行けるっす!」
「お、おう」
自分とは別のベクトルで殺しても死ななそうな性格してるな……と思うギルバ。
無限進化の気質を分け与え、もし覚醒したら女性陣達が大変な事になりそうな気がしそう――というか、少子化問題が終わりそうな気がしてならなくなってしまったギルバは、彼に好意を持つだろう子達に内心手を合わせてしまう。
が、ギルバもあまり彼の事は言えない。
何故なら彼を後一人程狙うというか、付きまとう者が居るのだから。
「イッセーを出せ。ここに隠してるのは知ってる」
「それは無理な話だなぁ?」
「アナタとは現状敵同士ですからね」
「…………」
彼には執事として生きた記憶がある。
しかしどういう訳かもう一つだけ、別人みたいな記憶があった。
それはあるドラゴンと共に永久を研ぎ澄ませ合いながら生きた記憶。
「姿を変えてる、我を模倣した操り人形がこの世界の組織を動かしているから我は自由」
「オーフィス……」
「♪ 見つけた、そこの雌二匹と生きた記憶と混同してしまってるけど、それでも間違いなくイッセーは、我と生きたイッセー」
「いや、俺も確かに覚えては居るけど……」
「…………。何時からいーちゃんはロリコンさんになったの?」
「育て方を間違えたかしら?」
「俺はロリコンじゃねぇ!!」
共に生きるという理由だけで身体を人に近いものに作り替えたロリ龍神ことオーフィスにひっつかれてジト目で睨まれるギルバ。
「ふっ、お前達は無いだろうけど、我は既にイッセーと交尾の経験がある」
「へー?」
「ふーん?」
「待て待て! そんな記憶はないぞ! ……あ、あれ? 無いよな? 若干自信が無いぞ」
友人達から散々ロリコン扱いされし者の記憶と執事の記憶。
二つの異なる生き方をした男の魂が融合した存在が彼の正体なのだ。
「簡単に交尾する方法は、狭いお風呂に入ればできる」
「「ふむふむ」」
「なんでそこだけ仲良いんだよ……」
まあ、始まらないから嘘なんだけど。
補足
混合した存在だから、反抗期が終わってる感じです。
柔らか対応というか、龍神ちゃんイッセーも入ってるから軽くニート思考気味というか……。
その2
そんな背景があるせいで、未だ彼は独り身らしい。
まあ、狩人達は逃がさない気満々ですけど。