やっぱり心配だから――と祐斗と元士郎……つまり今は織田信奈と明智光という、よくよく考えたらどこぞの戦国武将を思い起こさせる名前の女子へとなった二人の友人に合わせる為に駒王学園へと進学することになった元執事のイッセーこと、相良良晴は、この世界の自分や元士郎や祐斗やリアス達を影ながら観察していた。
「……」
「ほ、ほら、結局はボク達も含めて『可能性』の世界だし」
「そうだぜ。覗きだのセクハラだので女子から顰蹙を買いまくってたとしても、それはこの世界のイッセーであってお前じゃあないから気にすんなよ?」
「……。知ってたので別に気にしてませんよ俺は」
「でも早く結婚できそうな性格だよね?」
何もなければこれ程までに違うのか……。
そう思う他が無い程に、この世界のイッセーはあらゆる意味で正直な性格をしていた事に果てしなく複雑だった。
何せ正直といっても性に対しての割合がほぼ全てだし、同じ学園の女子にクラスメートの男子二人と袋叩きにされている姿を見た時は、非常になんともいえぬ気持ちにさせられた。
環境の違いを如実に感じながらも、まだ悪魔であるリアス達の正体を知らずに生きているイッセーを陰ながら観察していく元イッセー達。
「まったくの別人に生まれ変わって少し安心してるだろ? 顔に出てるぜ?」
「……少しだけ」
怒り狂う女子生徒達に追いかけ回されるこの世界の自分の所業のせいであらぬ冤罪を吹っ掛けられる可能性を考えたら、別人として生まれ変わった事を、今は光という名前の女性となった元士郎に突っ込まれて思わずうなずいてしまう。
「もっとも、オレ達もあまり他人事じゃあねーけどよ。
匙元士郎は未だ一般人で、木場祐斗――イザイヤはどうも復讐心を拗らせたままだし」
「昔の自分自身を見てるみたいでむず痒いや」
ミリキャスに関しては、男児として生まれた以外の情報が一切入らないのでわからないが、この世界の木場祐斗、匙元士郎もまた駒王学園の生徒な為にちょくちょく目撃はする。
イッセーと元士郎は悪魔の存在すらまだ知らぬ身。
祐斗は既にリアス・グレモリーの騎士であり、過去への復讐心を少しこじらせている。
「今日はこのくらいにして、ご飯食べに行こうよ?」
「良いねぇ? オレ、ハンバーグが無性に食いたい」
「ではミリキャス――じゃなくて燐音に連絡して合流しましょう」
知った所で外様も外様な自分達にやれる事なんて何一つある訳ではなく、育った環境の違いが故か、誰一人として『個の精神の力』を持たぬ者達の様子を見ながら一年程が経過する。
兄さまとひとつ違い。
だから同じ学校に通える。
先んじてこの世界のお姉ちゃん達が居る学園に入学した兄さまと漸く同じ学校に通える。
一年我慢した甲斐があった。
最早純血悪魔だとか、そんなゴミにしかならない柵は僕にはない。
この世界の僕が男の子だったらしいのもどうでも良い。
僕は僕。彼は彼。この世界の兄さま―――いや、昔の兄さまと同じ姿をしただけの単なる別人の人達にしたって僕は本当の所、なんの関心も無い。
僕にとって全てなのは、兄さまであり、例えその姿が変わろうとも僕が大好きなのは兵藤イッセーの姿ではなく、兄さまの魂そのものだ。
それが、例え兄さまが醜悪な見た目だったとしても関係ない。
顔の皮を剥がれても、生きているだけの肉塊に成り果てようとも、僕が好きなのは生きざまを背中で見せてくれた兄さまなのだから。
「入学おめでとう……」
「ふふ、ありがとう兄さま。
これでまた兄さまと一緒だね?」
「まあ、そうなるのか……?」
顔立ちも背丈も変わっているのはお互い様。
兄さまのお友達の二人が女の人になってしまったのは……まあ、ちょっと不安に思うこともあるけど、そうなることは無い。
だって兄さまは生涯独身を貫いたんだから。
おかげでグレモリーとシトリーが断絶したけど、家の存続の為にどこのだれともわからない奴と結婚なんて僕達がする訳が無かったからね。
ま、今はその柵も無くなったから僕は遠慮なんてせず兄さまを振り向かせるさ。
「ねぇ兄さま? 僕入学したばかりだからまだ学園の中をよく知らないんだ? だから案内してよ?」
「? 去年の学園祭の時に大体教えた筈――」
「んー、燕尾服に袖を通した兄さましか見てなかったから忘れちゃった? ほら! 早く行こっ!」
今度は邪魔させない。
邪魔をするなら―――何人足りとも許さない。
「見事に空気にされてやんのオレ達……」
「はは、仕方ないよ、彼女はとても苛烈だから……」
今度こそ……完全に僕だけの兄さまに。
リアス・グレモリー率いるオカルト研究部は、男女問わず熱烈なファンが多い。
兵藤一誠も例に漏れず彼女達の美貌とスタイルに色々な夢想をする訳だが、そんな彼女達の人気に群がらない男子が居るのを知っていた。
「ヨシハルー、そろそろ帰ろうぜー」
「ヨシハルくんの家で鍋パーティをするから、材料の調達とかもしたいよね」
「わかりました。今帰り支度をしますので少々お待ちください」
相良良晴。
普段から無口であり、クラスメートの大半と碌に話をせず、淡々と授業を受けるロボットみたいな男。
顔立ちは整っている訳でもなければ、崩れているわけでもない所謂フツメンに相当するそこら辺に居そうな奴なのだが、彼はどういう訳かいつも同じクラスの男口調のおでこが特徴的な女子と、学園の王子様だなどと呼ばれている、イッセー達にしてみれば敵である男子の木場祐斗と同じ質の金髪を持つ美少女と呼べる容姿の女子――
「兄さま! 授業終わったよ!」
ひとつ下の学年の、おかっぱ頭の小柄な美少女とこれまた呼べる女子にいつも囲まれていた。
「美少女・影トップ3にまた囲まれてるぞ相良の奴……」
「あ! 燐音ちゃんに抱きつかれてる!?」
「あんな能面ロボットみたいな奴が何故あんな……!」
実はリアス達ばりに男子達の間では美少女認定されている織田信奈、明智光、滝川燐音の三人と話している時くらいしか良晴の表情が変化した事が、イッセーが知る限りでは無い。
相手が美少女達でなければイッセー達も一々気にしはしないが、相手は勝ち気そうな見た目とは裏腹に穏和な雰囲気を醸し出す信奈だったり、逆に美少女の上に口調が完全に男のそれで、所謂ギャップ萌えの対象にされてる光だったり、素直で塔城小猫と双璧する癒し系マスコットの燐音だったりにあんな仲良さげされてるのを見ると、若い男子達は少し僻みを抱いてしまう訳で。
「ぐぬぬ、結構羨ましいぞ相良……!」
普通にイッセーは羨ましかったという。
恐らく真実を知ったらショックで寝込むかもしれないというのに……。
「凄いこっちを見てたね、イッセーくんとそのお友達が」
「私が皆さんと共に行動するのに思うところがあるのでしょう。
皆さんは私と違って目立つ容姿ですから」
「つまりこの世界のイッセー好みのツラしてるってか? うへー……そいつは勘弁して欲しいぜ」
「この世界の兄様……いや、兵藤一誠さんに誉められてもあんまり嬉しくはないかな僕も」
そんな視線に気付いていた上で敢えてスルーして教室を出た四人は、この世界の元気一杯なイッセーに複雑な気分を抱きながら廊下を歩く。
「「「「………」」」」
その途中、この世界の生徒会長になったばかりのソーナとその仲間達とすれ違ったり、この世界のリアスと仲間達が騒がれてるのを目撃したりしたが、やはり外様でしかない彼等はスルーした。
「ねぇ、ひょっとしてだけど、この世界の僕達って昔のこの時期の僕達より弱かったりしない……?」
「どっこいどっこいだろ。
あの当時はまだヨシハルと話す事すらできなかったんだし」
「リアスとソーナがスキルを持っていないのも大きな要因かもしれません。
……恐らく安心院なじみが存在しないからサーゼクスもスキルを持っていないかと」
「それはつまり、これから先成長はするけど進化はしないって事なの兄さま?」
「多分な。
そしてだからこそ確信する。俺達の方がイレギュラーだったってな」
ただの悪魔の娘さん。
それがこの世界のリアスとソーナに対する印象であり、成長の余地はあるけど進化の予兆は無いという評価をしたヨシハルの言葉に三人はなるほどと頷く。
「じゃあ僕と光さんは鎧に到達せず?」
「進化もせず?」
「成長止まり?」
「でしょう。
それを確信したからといって我々がすることなぞありませんが」
成長するだけで終わる。
進化という壁を認識すらできずに、乗り越えることもできないだろう。
それだけの事を確信しながらも、やはり良晴は彼等に干渉する事を拒むような台詞。
「でもさ、まだ一般人のイッセーくん――いや、兵藤君の周りを怪しいのが嗅ぎ回ってるのはどうするの?」
「もし例の神によって異界から転生してきた奴だったら、流石にまずいだろ……」
「正直、彼等がどうなろうと僕はしらないけど、その結果僕達の事を悟られたら鬱陶しいと思う」
「……………」
恐らくこの世界のイッセーもまた何らかの理由で悪魔であるリアス達を知る事になるだろう。
しかしその前に不穏なものが嗅ぎ回ってるとなれば……それが転生者ならば全力で、イッセーに悟られずに叩き潰さなければならない。
「その場合は私一人で処理しておきます。
皆さんの事は欠片も悟らせやしません。幸い俺は男のまま……ですからね。
それだけであのゴミ共の攻撃の対象にされる筈ですから」
もし今この世界のイッセーの周りを嗅ぎ回るのが転生者なら本気で消す。
そうでなければ――まあ、その時考える。
「ま、ネガティブな話はこれまでにしてさっさと鍋パーティやろーぜ! オレめっさ腹減ったからめちゃくちゃ食ってやるぜ!」
「ん、そうだね。
今すぐな話じゃないし」
「兄さまとの時間が潰されなければ何をしてでも関係ないよ僕は」
姿や名前は変わっても、今尚高まり続ける進化の異常性を持つ良晴は三人に引っ張られる形で前へと進む。
一度奪われる形で喪った少年は、強くなり続ける事でしか己を表現できず。
本来なるべき性格もねじ曲げられ、性欲より生存欲求と進化への渇望が強すぎて、異性への関心が無かった。
「あ、今日兄さまの家に泊まるからね?」
「え、泊まるの? じゃあボクも泊まって良いかな? 修学旅行みたいに皆で話したい」
「じゃあオレも。
服借りるぜヨシハル?」
「サイズが合わないでしょうに……」
だからしれっと泊まると押し掛けられても彼は動じない。
まあ、信奈と光はかつては男だし、燐音は年齢がひとつ違いになったとはいえ妹分という認識をしているからなのだろうが。
おわり
イッセーの周りをこそこそ嗅ぎ回る何かが堕天使の一派である事を知った四人。
だが転生者独特の臭いがしなかったのと、なんかデートをしてたのでそのまま見送る事にしたのだが……。
「その堕天使に帰り際に殺され、やって来たリアスが兵士に転生させた……ですか」
「これって結果オーライなのかなぁ……」
「ほぼ同時期にこの世界のオレが会長の兵士になったみたいだし、多分結果オーライなんじゃね?」
「……」
よくわからない間に結果オーライ的な感じでリアスの兵士に転生したのを知った四人は、これ以上の干渉を止める決意を固めた。
この先どうなろうと、多分きっとどうにかなる筈――と思って。
その時点で四人の役割は終わったといってもいい。
目標を無くした四人は取り敢えず生きてみる事にしたのだけど………。
「うっそだろ……」
ヨシハルは以前三人に凸をかまされてボロを出してしまった時と同じ台詞を思わず――この目の前の光景を前にして呟いていた。
「け、携帯……! そうだ携帯! ……っ!? け、圏外……だと……?」
目を血走らせながら前時代的な武装で殺し合う人間達の光景。
競走馬とは思えない馬で大地を駆けていく甲冑姿の人間達の光景。
なにより鉄筋ビルもネオン輝く街並みもなにもかもが無いド田舎みたいな風景。
なにより携帯の電波が届かないし、そもそもさっきまで家で友達三人とご飯を食べていた筈だった。
それが気づけばこんな……。
「ガァァァッ!!!!!」
満足に死ぬこともできないのか。
進化の果ての代償はあまりにも大きい。
「な、何者だ貴様! 我等を今川の――あべしっ!?」
「よ、妖術かっ!? て、手かから光を――ぎぇぇっ!?」
「これは夢だ……夢だ……夢だ夢だ夢だ夢だぁぁっ!!!」
精神の許容を越えてしまった青年は、襲い掛かってきた雑兵達が逆にドン引きして恐怖する程の極悪な殺意をむき出しに、所謂『ポーヒー』的な効果音のする光弾をぶちまけまくる。
「ちょ、ちょっと待つみゃ! わ、わしは敵じゃないぎゃ!」
「あ゛っ!?」
「っ!?(ま、まるで獣の類いじゃ……。
だ、だがこの坊主の覇気は何かを成し遂げる程に強い……!)
そろそろ某伝説の野菜人の『無駄なことを、今楽にしてやる……!』の前口上の後に放たれる洒落にならない規模のアレを放ちかけた所に現れた猿顔の男が必死になって止める。
ある種この時点でこの猿顔足軽さんは世界を救った英雄として末代まで称えられるべきなのだが、あいにく誰もその事は知らない。
「とりあえず水を飲むみゃ」
「ど、どうも……」
竹の筒という、お前は何時の時代の人間だと思うものを渡され、その中身の水をガブガブ飲みながら取り敢えず落ち着いた青年は、冷静になっていく頭と夢ではない現実に軽く絶望しながらも、猿顔さんから色々と聞き――
「せ、戦国の時代……」
もっと絶望した。
「こんな時代だから落ち込むのもわかるぎゃ。
けど今の時代だからこそ機と考えるべきみゃ」
「………」
そのあまりの落ち込みっぷりに同情してくれた猿顔さんに、初めて他人の優しさの暖かさを知ったのは皮肉なのだろうが。
結構愉快な性格をしているこの彼が後の豊臣秀吉になるかもしれぬ男と知った時はぎょっとしたが。
「わしは今川の殿さまに仕えておったが、あのお方はブサイクな男が嫌いでみゃあ。出世出来なさそうになかったぎゃ。
なので、この戦のどさくさに織田方へ寝返ろうと考えておった」
「はあ……」
そんな流れなのか……と、あまり歴史内容には興味が無くて覚えてない青年は豊臣秀吉となるかもしれない男の事だけは知ってたので頷いたのだが。
「だからわしの策とお主の武があれば織田方に仕官できるやもしれんぎゃ! どうじゃ? 見たところ行く宛が無さそうだし、一緒に行かぬか?」
「いや……」
後の豊臣秀吉になるかもしれない男と一緒に殿の草履でも温めとけってか? 冗談じゃない……そう思って断ろうとした青年だが、彼の夢への語り口が判断を鈍らせる。
なんというか、彼は天性の人たらしなのかもしれない。
「危なっ」
「? とつぜんわしの頭の近くを掴んでなにを……って!? これは鉄砲の弾!? お、お主今わしに向かって飛んで来た鉄砲の弾を掴んだのぎゃ!?」
「え……あぁ、あのままだとアナタが被弾してたので……」
「!!! 今顔を会わせたばかりのわしの為に! お主は命の恩人ぎゃ! わかった! お主の為にわしは必ず一国一城の主になるみゃ!」
「は、はぁ……」
そして銃弾が足軽さんに飛んで来たのをキャッチして救ったもんだから、変な覚醒というか覚悟を決めたらしい。
先ほどまでの猿顔が覚悟を決めた漢の顔へと変貌していく。
(進化した……だと?)
その変化は彼にとって何度も見たもの。
壁を乗り越えての進化だった。
「さあ行くぞ! 一国一城の主の為じゃ!」
「え、ちょっと俺は……」
これは過去へと遡り、後の豊臣秀吉となる男を結果的に支えて行くのかもしれない青年の話。
「お、織田信奈? ……はぁっ!?」
「な、なによ? 私こそ、この日ノ本を統一する天下一の美少女の織田信奈よ!」
「おおっ、確かに美少女だぎゃ!」
「…………あ、違う。間違いなく……ふぅ、安心すべきなのかなんなのか」
生まれ変わった友人と同姓同名同顔だが、中身が一切合切違うと知って若干ホッとし。
「私の目的はこの方を一国一城の主にする事。
それ以外の事には何の興味もございません」
取り敢えず流れに飲み込まれて木下藤吉郎と一緒に仕官させられたので意思表示だけはしといて……。
「そ、そこまで言ってくれるとは……! お前はわしの一の家来だきゃ!!」
「………」
美少女にデレデレの藤吉郎さんをフォローし、一国一城の主にすればこの世界の事が見えてくる――そう考えた青年は、封印したその手腕を復活させる。
「あ」
「藤吉郎様、こちらです」
執事としてのその手腕を。
「う、美味いぎゃ! こんな美味いものを食べたのは初めてみゃ!」
「ありがとうございます」
出世させる為に。
なにより進化の壁を乗り越えた覚悟の男を見てみる為に。
「サル! あ、目付きの悪い方! アンタに一言――」
「今忙しいので後にしてください。
それでお館様、此度の領土制圧に当たっての見取り図です」
なんか戦国武将の殆どが女で、色々と嫌になることも多いけど。
彼は藤吉郎を最強の一国一城の主にする為に動きまくる。
「我等の目的は信奈様を天下人にする事! その為には何が必要かっ!? 信奈様の障害となるものに勝つ事! 負けると思えば負ける! 勝つと思えば勝つ! 逆になろうと、人には勝つと言い聞かすべし! 負けることを考えるな!
我等に後退は無い、あるのは前進勝利のみ!! 我等羽柴軍の力――見せつけるぎゃ!!!」
『うぉぉぉぉっ!!!!』
結果、ただの足軽が織田軍最強の兵士達を束ねる兵となる。
「信奈様、あの男は危険です。
藤吉郎は傀儡で、あの男によってきっと近い将来信奈様の敵に……」
「そうはならないわ。
アイツの力は人の理を越えてる。アイツがその気ならとっくに私達は滅亡して藤吉郎に天下を獲らせていた筈。
……ふっ、前にハッキリ言われたわ、藤吉郎を一国一城の主にしたいだけで、アンタ等には人格からして興味が無いって。
織田の為に汚い仕事をするのはやぶさかではないけど、私達そのものには何の興味も無いんですって」
「それは……」
「あんな底冷えすら覚える程冷たい目で見られたのは生まれて初めてよ。
私という存在そのものに興味が無いと言われたのもね……」
信奈の言葉に家臣達は複雑な顔をする。
皆も知っているのだ。
彼が藤吉郎の為に身を費やしているのも……。
そして異質な力を夜な夜な空へと解放して何かを試しては凹んでいるのも。
「お館様、よーく考えてみたらある意味お館様の望みの半分は叶っているのでは?」
「……お触りしたら首をはねられるとわかってて手は出せんぎゃ。
それよりお主はどうなんみゃ? 年頃の男じゃろ?」
「生憎私はああいう我が強い女達は嫌いなんですよ」
「うーん、でもねねには優しいじゃないか?」
「そりゃガキですからね」
仕事だけは本当に有能だが協調性が死んでる青年と戦国の少女達との溝は案外深い。
「まあ、それに……友達には恵まれてますから」
藤吉郎を最強の秀吉にする。
そうすれば必ずこの世界から抜け出せると信じて青年は今日も頑張るのだ。
「おサル様ー!」
「「ん?」」
「あ、秀吉様ではなく良晴様です! 今日は暇だと噂で聞いて遊びにきたよ!」
「いや、見ての通り今からお館様の訓練を――」
「あー! あー!! 今良晴は確かに暇みゃ! ほれ良晴! ねねと遊んでやるぎゃ!」
「は? ……?」
そしてチビッ子にはめっさ好かれるのは万国共通なのかもしれない。
「ねーねー、良晴様って本当は一誠って名前なの? 秀吉様だけに教えたって話だけど……」
「あの人は……勝手におしえたな? おい、頼むからその名前は人前で呼ぶな。
あくまで俺は良晴だからな」
子供にはやっぱり優しいせいか、結構な速度でなつかれた良晴は、彼女を肩車しながら町を練り歩く。
すると一斉に子供達が群がり、男児は遊んでくれとせがみ、女児は……何故か次々と彼に求婚してくる。
「ダメ! この方はねねの!」
そして喧嘩になる。
「……………なんで?」
本人は好かれる理由がさっぱりなまんま、ねねというチビッ子に連れ回されるのであった。
「……。アンタってもしかしてねねの様なのが好き――」
「冗談で言ってるのでしょうか? 本気だとしたらその脳天を割ればそうじゃないと理解できるのですか?」
「じょ、冗談よ! いや、あんまりにも私に対して冷たすぎるからと思って……」
「命じられた仕事はこなしているつもりですが?」
「そうじゃなくて……ええっと……」
…なんてね。
補足
見守って眷属になったらお役ごめんしたと思ったら飛ばされたという。
その2
藤吉郎さんは死なんさ。てか死ねる気がしないし、なん覚醒しちゃいそう。
その3
そらロリコン言われますわ!