覚醒した藤吉郎さんは……
これは強さだけが正義と信じ続け、人の理を越えても尚進化を止めなかった青年の解放の話。
奇妙な冒険。
数奇な人生。
そんな活劇の道を歩んでいると云えるだろう青年は、電気・ガス・水道・娯楽がほぼ死んでいる過去の群雄割拠な時代にて出会った猿顔の青年……後の豊臣秀吉と共にリアル戦場を駆けていた。
「盗んだバイクで走り回るならぬ、盗んだ馬で駆け回るか……」
「? 何を言ってるみゃ? それよりも早く敵を討ち取って目立たないといかんぎゃ!」
「………」
人の怒号や悲鳴が響き渡る戦場を駆け回り、今川義元の軍勢らしい兵達を薙ぎ倒しながら敵陣へと突き進む良晴と藤吉郎。
「む、やるでござるな相良殿!」
「…………」
そして、藤吉郎と出会う前に何かしらの契約をして付き従っていたらしい忍者の蜂須賀五右衛門なるチビッ子は、戦死した織田の軍の兵から託された旗を背に立てて前へ前へと誰よりも先陣を切れば取り敢えず目立つ筈――と、一国一城の主を夢見る藤吉郎を立てる形で提案した良晴は、藤吉郎に気づかれない程度に、飛んで来る矢だのなんだのを蹴散らしながら先陣をきらせる。
もっとも、蜂須賀五右衛門なる聞いたことの無い少女は良晴の仕事を見抜いて褒めているのだが……。
「…………」
「!? よ、妖術でござるか!?」
もっとも、ちんたらやるつもりはないので、向かってくる敵兵達に手から封印して久しい消滅の魔力をぶつけて消し飛ばし始めた時はこの少女も流石にギョッとなったみたいだが。
(何かが絶対におかしい世界だ……)
彼の思考はこの世界のおかしさに対する違和感で占められていた。
そしてそうこうしている内に敵陣に突撃し、敵を討ち取った事で勝利したらしい。
先陣をきって突撃した者ということで、織田の総大将に所見する事になったのだが、その総大将の容姿を見てギョッとなり、中身を知って別人と確信したのは別の話だ。
ちなみに藤吉郎は覚醒した妙なカリスマ性によって上手いこと家臣になることに成功したとさ。
木下藤吉郎が上手いこと家臣になって暫く経つ。
この世界のおかしさを段々理解していった良晴は藤吉郎の右腕みたいな位置になっていた。
この世界の織田信奈達とはほぼ関わりが無く、あくまで上司の上司という認識をして淡々と藤吉郎の補佐をしていた。
そのお蔭か、本来命を散らす筈だった藤吉郎は後の豊臣秀吉となる才能を覚醒させ、気付けば戦国覇王みたいなムキムキマッチョメンに進化していた。
「最近、ご主君が凄まじい変貌を遂げている気がしてならぬ」
「……………」
蜂須賀五右衛門の言う通り、今の藤吉郎は正直戦国覇王と言われても否定できぬ程の覇気を兼ね備えた漢に変貌していた。
まだ足軽頭ではあるが、戦場へと出れば素手で敵をなぎ倒し前進勝利していく様は鬼神そのものと評され、最近では手から某世紀末覇者の十八番技のアレさえ出していた。
それはひとえに、何だかんだ微妙に馬が合って遣えている良晴による進化の壁の乗り越えが理由であった。
「この俺に後退は無い! あるのは前進勝利のみ!! 受けてみぃ、この藤吉郎の無敵の拳! 天○奔烈をッッ!!!」
「おおっ、ご主君が手から波動を……! アレは良晴殿の得意技でござろう? 拙者にも教えて欲しいものでござる」
「…………」
手加減してるとはいえ、両手から謎のビームをぶっぱなして訓練相手を吹き飛ばしてるムキムキマッチョメンな藤吉郎を見て良晴は思った。
(秀吉って猿ってよりゴリラやん……)
猿どころか、撲殺ゴリラとしか思えないし、猿の要素がゼロになりかけてる藤吉郎の姿に、やはりこの世界はどこかおかしいと思わざるを得なかった。
「うむ! 今日も絶好調だぎゃ! 良晴! どうじゃ! お前さんの妖術を真似てみたんだぎゃ……」
「いやもう、お見事としか思えないです」
「そ、そうかそうか! わははは! お前さんに誉められると嬉しいみゃ!」
「お、お見事です……藤吉郎様……!」
「おう! 重虎も見ていたのか! ガハハハ!」
伸びてる訓練相手の兵士達のど真ん中で豪快に笑い飛ばす藤吉郎に対して、短期間でこれ程までの進化を遂げている事を素直に称賛してしまう良晴。
しかも彼のカリスマ性は一度たりとも結局勝てなかったサーゼクスにも比例する程であり、現にまだ足軽頭でしかない藤吉郎の周囲には良晴や五右衛門に始まり、最近の遠征というか制圧の際に出会った竹中半兵衛という、これまた少女が居る。
「はぁ……かっこいい……」
特にこの竹中半兵衛なる少女はムキムキマッチョメンで豪快過ぎる漢に変貌した藤吉郎に対して最早崇拝に近い感情を抱いていた。
藤吉郎にしてみたら美少女だし友達としても良いみたいな気軽な関係を望んでいるのだけど、将来のスーパー軍師は彼の豪快ながら爽やかな性格に惚れ込んでしまっているようだ。
「ご主君が成長するのは宜しいですが、その成長をよく思わない方々が居ることはご存じですよね良晴殿?」
「……。あぁ、上の連中だろ?」
「ええ、特に姫様直属の家臣達が外様である我々の進撃を警戒しております……」
半兵衛に手拭いを渡されて、豪快に汗を拭っている藤吉郎を共に眺めながら裏方側である良晴と五右衛門は、織田の上位家臣達からの警戒に対して話している。
そう……最初は浪人として単なる足軽として登用された藤吉郎達が戦場で戦果上げ、また藤吉郎がその度に異様な速度の進化を果たすものだから、完全に警戒されてしまっているのだ。
お陰で藤吉郎はイマイチ出世街道に乗り遅れており、このままでは一国一城の主という目的が遠退いていく事に危機感が少しあった。
「イザとなれば出奔させて一から作り上げることも可能では無いとは思うが、それでは時間が掛かりすぎるからな」
「最後の手段としましょうそれは」
日ノ本を一度は掌握する後の豊臣秀吉の為に裏方へと回る二人。
そう思わせる藤吉郎のカリスマ性はきっとこの世界の信奈と肩を並べる程なのかもしれない。
(てかもう、本来の歴史もへったくれもねーよこりゃあ)
関白へと到達するのかも最早読めない。
それでも藤吉郎を押し上げるのを辞めようとしないのは、この世界から抜け出す為の足掛かりだからなのだ。
俺は運に恵まれているだろう。
今川から織田に寝返る決意をしたのは間違いではなかった。
今だからこそわしは――いや、俺は思う。
「うーむ、今日姫様に呼び出されたのだが……確かに良晴達の言う通りあまり歓迎されとらん雰囲気だったみゃ」
足軽から足軽頭へと出世できたのは良晴のお陰だ。
あの時の俺は弱く、良晴の補佐がなければ死んでいた。
だから俺も強くならなければならないと良晴に鍛えて貰ったお陰で、少しはマシになったと思う。
この前の戦果の褒美に姫様から長屋を一軒与えて頂けたし、俺は順調だと思いたかったのだが、やはり元は浪人の外様である俺達は信用されてないらしい。
姫様……というより姫様の家臣達から警戒された目線を送られてしまった。
「やはり直接姫様の信用を勝ち取るしか無いですね」
「信用か……。
最近朝が冷えるし、姫様の草履を暖めておくとかぎゃ?」
「……………。下手したら変態扱いされて―」
「い、嫌です! わ、私は反対です!!」
「――と、重虎さんも反対ですし」
「かと云って戦果で示しても逆に警戒心を強めてしまうと思われます。
私が思うに、姫様というより家臣の方々がご主君を警戒していると思いますゆえ」
「特に柴田殿からの視線がきつかったのぅ……」
歳は皆違えど、俺にとっての友。
この三人は俺みたいな外様な男を慕ってくれる。
だからこそ俺はこの三人の為に夢を叶えたい。
何も無い。
何の価値もない。
私はきっとこの世に生まれた意味なんてない。
だから独りが良い。
独りならいじめられる事なんてない。
これまでも、これからもそう思っていた。
「お前さん、独りか?」
あの方に出会うまでは。
「俺達はお前を虐めやしない。
お前達のような者達を守る為に俺は一国一城の主になる夢がある。
だから俺の所に来い、俺と共に夢を叶えようぎゃ!」
とても大きな人。
でも笑うとちょっと可愛いお方。
「剛掌派ァッ!!」
そしてとてもお強い方。
でも私を虐めた人達とは違って優しい方。
「やったぞ皆! 姫様から足軽頭の地位を頂いた!」
だから私の力はこの方の為に使うと決めた。
この方の夢のお手伝いをすることこそが……この方に出会えた事こそが私の――
「ガハハハ! 一国一城の主になれたらお前達を側近にするぞ! 重虎もな!」
―――…生まれた意味。
「んぉ!? 見ろ良晴! あそこに居るおなご、凄い美少女だぎゃ!」
ちょっと女性好きなのはモヤモヤするけど。
「見ておれ良晴! 俺がおなごとお近づきになる腕を見せてや――おおっ? な、なんじゃ重虎?」
「……………行っちゃ嫌です」
「ぬ? 何故だ、良晴に色を教えてやろうと……」
「い、嫌です! い、嫌だぁ……!!」
「ぬ!? な、何故泣くぎゃっ!? わ、わかった! 行かぬ! 行かぬから泣き止んでおくれ重虎!」
「くすん……」
離れない……離れたくない。
「うーむ、ある意味ご主君の夢が叶っているよーな……」
「……。いや、アレは将来ヤバイ事になるぞ。
昔そんな経験が……」
「? 経験?」
大きな手が暖かい。
その大きな身体に安心する……。
「頭、撫でてください……」
「む、これで良いか?」
「はい……ふふふ♪」
ずっと……もっと長くこのお方に……。
異様な力を持つ家臣が私には少なくとも二人居る。
勝家達はそんな二人を危険だなんて言ってるけど、私にはそうは思えないし、下手に出奔された方が後々厄介だと思う。
「姫様! 草履をご用意致しました!」
「…………」
藤吉郎と良晴。
ひとたび戦場へと出れば鬼神の様な強さで敵をなぎ倒す訳だけど、どちらもその目的は単純――出世したいと出世させたいだ。
「一応礼は言っておくわ」
「! や、やったぞ良晴! 姫様からのお礼のお言葉ぎゃ!」
「はいはい……」
家臣にして暫くしたら暑苦しいまでに大きくなったサルと、何時でも無表情なサル。
どっちもサルと私は呼んでるけど、性格は対照的。
豪快に駆ける藤吉郎とは真逆に、顔色を一切変えずに敵を始末する良晴。
真逆な性格をしてるのに、何故か二人は仲が良い。
特に良晴は私に対する忠誠心というよりは藤吉郎へ忠誠を誓ってるとハッキリ言われた。
つまり藤吉郎が私の家臣である限りは裏切ることはない訳だけど、それが少し気にくわない。
「では我々は訓練に戻りますぎゃ!」
「よい一日を」
どこまでも冷めた目。
私や他の家臣達に対する関心が一切無いといった目。
そして不思議な格好。
いったいどこから来たのかもわからない。
しかしその強さは勝家達をまとめて相手にしても一瞬で終わらせる程の力。
戯れのつもりで勝家達と腕試しをさせた時の衝撃は今でも忘れない。
拾った枯れ枝で武器を持った勝家達の得物を両断した……理解できないあの力を。
「……………」
「? まだなにか?」
「いえ、次も期待してるわ……ただそれだけ」
「……。そうですか、では」
理解できないからどうだって訳じゃない。
あの二人が居れば天下を取れると思えるから。
ただ、それでも時折、良晴が私を見る目が……なんかムズムズする。
草履作戦が割りと上手く行った事にご機嫌だった藤吉郎だったのだが、今日も元気に訓練しようと思って訓練場に行った時、待っていたのは珍しく怒った顔をした半兵衛だった。
「反対だって言ったのに……」
「や、す、すまん……! しかし意外と成功したのだぞ! なぁ良晴!?」
「まあ、多分……」
怒ってるといっても、可愛らしい顔なのであまりそういった効力はないのだが、藤吉郎は少しタジタジだった。
「何故止めなかったのですか……。竹中殿が終始不機嫌でしたぞ?」
「一応止めたけど、やってみなければわからんぎゃ! ………って聞かなかったんだよ」
半泣きで怒る美少女にとにかく謝るムキムキマッチョメンの絵面はとてもシュールだし、他の兵達が微妙な顔して見ているのを一緒になって眺めながら五右衛門は苦労したんだぞ的な顔で良晴を見る。
「確かに反応は悪くなかったからな」
「大男がおなごの草履を懐で暖めるというのは変態みたいでござろう」
「それは――否定できねぇな」
『出世の為ぎゃ……!』とにやけながら信奈の草履を懐で暖めていた藤吉郎の姿は確かに変態チックではあったので五右衛門の言葉に否定ができないで軽く笑ってしまう。
「すまんかった半兵衛! しかし夢の為なら俺は泥も啜らなければならんみゃ! それをわかってくれ!」
「うー……! そ、それを言われたら何も言えないじゃないですか……!」
筋肉ゴリラが美少女にペコペコ頭を下げまくってるシュールな絵面も、この一言でどうやら終わりそうだ。
崇拝にも近いものを藤吉郎に抱いてる半兵衛にしてみれば、例え主君のとはいえ――異性の草履を暖めるだなんて真似はしてほしくないし聞きたくもないらしい。
もっとも、夢を引き合いに出されてしまったので怒れなくなってしまったのだが。
「しかし、他の者には怯える竹中殿が見た目だけなら気絶してもおかしくない姿のご主君にあんなにも懐くとは……」
「お前も似たようなもんだろ……」
藤吉郎軍は今日も平和……かもしれない。
補足
木下藤吉郎(進化)
CV…謎の声変わりにより置鮎龍太郎
容姿
猿顔さん→戦国BASARAの豊臣秀吉のマッチョメン
戦闘スタイル
素手
良晴により死なずに家臣となり、そして良晴との訓練により素手での戦闘スタイルに開眼。
体つきも顔つきもみるみるとゴリラ化し、腕から謎ビームも出せるようになったとか。
そして凄まじく前倒しで竹中半兵衛ちゃんを心酔させるカリスマ性は信奈の家臣達に強烈な危機感を抱かせるが、性格は元のまんまなんでお気楽さが目立つ。
ただし、一国一城の主の夢の目的が半兵衛の様な子供達が平和に暮らせる為にへと変わり出している。
ちなみに、半兵衛ちゃんには最近頭が上がらんらしい。
必殺技
北○剛掌波
天将奔烈