色々なIF集   作:超人類DX

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手直ししました。

主にやらかした内容が深刻的な意味で


※事後処理

 斯くして、別の世界の未来にて最高峰の一歩手前まで到達した異常者と、その異常者によって知らず知らずの内に命を救われ、覚悟により進化をした男とその下につくたった数十名の部隊によって織田信勝達は徹底的な敗北という名の奈落に突き落とされた。

 

 織田信勝と取り巻き達は無傷で突撃してきた藤吉郎によって捕縛され、柴田勝家も率いた兵達を再起不能に潰され、勝家自身も良晴ただ一人に下されて捕らえられる。

 

 あまりにも迅速で、あまりにも理不尽で、あまりにも凄まじい仕事を見事にやってのけた二人のサルに信奈は心中複雑な思いはあれど、最早流れ者でしかないという認識を改める他は無かった。

 

 

「本当にやってのけるとはね。

アンタ達って人なの? まぁご苦労様」

 

「「はっ……」」

 

 

 ただの猿顔と冷たい目をした特徴ない顔をした男だと思っていたのが、よもや鬼神を思わせる戦果を上げた。

 余所者であるからと疎んじていた信奈の取り巻き達ですら此度の二人の大立ち回りを認めざるを得なかった。

 

 

「さて、今回の働きに対する二人への褒美の前に、コイツ等の沙汰についてよ。

今より勝家を私付きの家老に配置を変え、信勝の取り巻きは追放で、信勝はこの場で切腹せよ」

 

『!?』

 

 

 それが当たり前だという様に言い切った信奈に信勝が顔を真っ青にする。

 

 

「せ、切腹!?

そんな痛そうなのは無理です姉上っ!!」

 

 

 後で合流した良晴は、その時初めて信勝を見たのだが、確かに女に見紛う程の容姿をしていて、どうやらその容姿通り、度胸と覚悟はあまりないらしい。

 

 仕事として淡々とやってきただけに過ぎない良晴は、嫌だと泣き出してる信勝を見ても同情もしないし、口を挟む事もしない。

 

 弱くて負けたのが悪い。

 

 今でも根付く良晴――否、兵藤一誠としてのアイデンティティは、勝てば正義で負ければ悪なのだ。

 

 

「あ、そう。そうやって後の事も考えないで勝手やった挙げ句無様に命乞いをするというのなら、このわたし直々に打ち首にするまでよ」

 

 

 そんな弟の命乞いを一蹴した信奈が受け取った刀を抜きながら上座から降りてきた。

 その一瞬、わずかに感情の揺れを示す様に瞳が揺らいだのを良晴は見抜いたが、やはり口を挟む気は無かった。

 

 

「ひ、姫様! 信勝様をお止め出来なかったのは家老である私の不始末! ですからこの場はどうか私の首でお収めを!」

 

 

 勝家が信勝の助命を懇願する。

 しかし信奈は聞く耳を持たない。持ってはならないという持論をもって黙らせる。

 

 

「………」

 

 

 藤吉郎はそんなやり取りをただ黙って見ていた。

 良晴は――

 

 

(はぁ、それにしても腹が減った……)

 

 

 最早目の前で血みどろの結果が展開されようが知ったこっちゃねーとばかりな事を考えていた。

 

 

(ガタガタ言ってねーでとっとと殺せや。

もっとも、殺す気には本気でなれてねーから、ごちゃごちゃとご託並べて先延ばしにしてるみてーだがよ)

 

 

 事実他人事とばかりに、目の前の出来事を茶番だと内心鼻で笑っている良晴にしてみれば、他人が他人を斬り殺そうとしてるだけの話であってどうでも良かった。

 そんな話より、今回の働きによる藤吉郎の出世コースの事にしか関心がなかった。

 

 

(秀吉さんを成長させて俺に届かせさえすれば、無理矢理にでも次元内に大穴抉じ開けて抜け出してやれるんだからな……)

 

 

 文明の利器に染まった現代っ子の良晴にしてみれば、不便を感じるこの時代に未練なぞありはしない。

 自分と同等に成長できた秀吉が居れば、後は力で頂点に君臨して一国一城の主にだってなれるだろうなのだ。

 

 つまり肉親を今から殺す殺さないでで揉めてる茶番なぞ―――

 

 

「……チッ、こっちは腹減ってんだから早く殺れや」

 

 

 どうでも良いから早く殺るなら殺って終わらせろ。

 こちとら割りと真剣にお腹が減ってるんだ…………という心の言葉のつもりが、本当に腹を空かせてイラついていたせいか、彼らしからぬミスをしでかしてしまった。

 

 そう、この緊張している現場で声に出して言ってしまうという……。

 

 

「よ、良晴……!!」

 

「んぁ?」

 

 

 その言葉はとなりに居た藤吉郎だけではなく、場に居た全員の耳に入ってしまった。

 心の中で呟いていたつもりが言葉に出てしまっていたという自覚が無い良晴は、隣の藤吉郎の死ぬほど焦った表情にポカンとしていると。

 

 

「腹が減ったから早く殺るなら殺れ? 今アンタからそんな言葉が聞こえたのは気のせいかしら?」

 

「…………あ、やべ」

 

 

 信奈の怒気を孕んだ目に、言葉に出していた事に気付いた良晴はミスったと自覚した。

 

 

「あー……いえ、深い意味は無い――訳ではございませんね。

ただ、先程からどうも姫様はそこの――えーっと……誰でしたか?」

 

 

 顔を真っ青にしながら泣いてる信勝を一瞥し……名前が出てこない。

 

 

「信勝」

 

「そう、その信勝という方を斬り殺すのに躊躇してるご様子なので、腹の虫が鳴るこちらの身としては殺るなら殺れ――的な」

 

「よ、良晴! はっきり言い過ぎぎゃ!」

 

 

 現代っ子の弊害か、相手が織田信長ではなくて織田信奈だからなのか。

 完全に舐めきった言い方をする良晴に今度は藤吉郎は顔を真っ青にしてしまう。

 

 案の定、そのあまりの失礼すぎる言葉に信奈が刀の刃の矛先を変更し、良晴の首に当てる。

 

 

「前々からふざけてると思っていたけど、今の言葉は流石に許せないわ。

信勝の前にアンタから斬られたいの?」

 

 

 嘘だろ? といった顔の信勝や、相当複雑な表情の勝家。あれはうつけを通り越したただの愚か者だったといった顔の取り巻き達、信奈に今まさに嘆願しようと口を開きかけている藤吉郎。

 色々な感情が一斉に信奈と良晴に注がれる中、かつてはそんな視線を受けたら吐く程のコミュ障だった彼は、首を傾けながら嗤う。

 

 

「斬られたいの? ………………へ、斬れるもんなら斬ってみろよ言い訳小娘が?」

 

 

 それは挑発だった。

 徹底的に無関心で、どこまでも見下しきった言葉と態度を数秒かけて飲み込んだ信奈は即座に刀を振り上げ、首を差し出す様に傾けた良晴の首に振り下ろした。

 

「……!?」

 

 

 だが斬れない。

 振り下ろした刃は良晴の首の皮膚すら通らなかった。

 

 

「おやおや、わざわざ斬りやすく首を差し出してあげましたのに、織田信奈様ともあろうお方が斬り落とせぬという訳ですか?」

 

「………ぅ!」

 

「だがま……躊躇してる刃なんてこんなもんでしょうね」

 

 

 化け物。

 寸止めなんてせず、本気で振り下ろした刀の刃を首だけで受け止めてヘラヘラ嗤ってる良晴の姿は妖怪と認識しても許されるだろう。

 

 

「そんなに肉親を斬りたくないのなら、代わりに私が殺しましょうか?」

 

 

 笑ってはいるが、その目はどこまでも暗く……暗い銀色に輝いていた。

 まるで良晴の心をそのまま表すかの様に、暗く冷たい……。

 

 

「こんな風に」

 

 

 そして信勝へと向けた人指し指からは青く輝きを放つ――貧乳をちょっとコンプレックスに思っていた家族の一人である悪魔の少女と同じ性質の魔力が集束し、水圧カッターの様に放たれ、信勝の頬を掠めて床を貫く。

 

 それは某宇宙の帝王が得意としていた指先からのビームにちょっと似ていた。

 

 

「ひ、ひぃぃっ!?!?」

 

「も、物の怪!? や、奴の指からなにかが!」

 

 

 頬を切られ、血を流している事を遅れて理解した信勝が、良晴に恐怖を植え付けられて悲鳴をあげる。

 

 

「や、やめてくれ! や、殺るなら私を殺れ!!」

 

 

 やばさをある意味一番知る勝家がプライドもかなぐり捨てて信勝を殺すなと懇願するが、信奈すら今の良晴から放たれた雰囲気に飲み込まれて言葉が出ない状況で、ハッキリ言った。

 

 

「笑わせるなよ砂利共。

今の時代にテメー等から喧嘩吹っ掛けて返り討ちにされた挙げ句、喧嘩を吹っ掛けた相手に許してくれだァ? 身内のちょっとしたお茶目で許せることと無いことぐらいわかんだろうが?」

 

「っ……」

 

「それにこれが逆の立場だったら、アンタ等は許すのか? 無いだろう? 謀反も何も結局勝てば全てが正義。負ければそれで終わりなんだよ」

 

「そ、それは……!」

 

 

 腹が減って気がたっているのか、何時もより割り増しの素のチンピラ口調になっていた良晴の言葉に勝家はぐっと言葉に詰まる。

 

 

「なのにこの姫様は殺す殺すと言うだけで殺しやしねぇ。

こっちはとっとと終わらせてさっさと飯が食いたいってのによぉ……。だから姫様の代わりに他人の俺がぶっ殺してやるってんだ」

 

 

 それは元の時代へと戻れぬ事への知らず知らずのストレスだったのかもしれない。

 力をもて余した欲求不満がそうさせたのかもしれない。

 

 

「ならば部下が代わりに殺すしかねーだろ? 腹減ったし」

 

 

 無表情で能面みたいな顔しかしない男の聞いたことすらなかった言葉遣いに信奈をも遂には困惑し始めてしまう。

 

 

「そ、そんなにお腹空いてたの? だ、だったらそうだと言えば……」

 

「じゃあ早く殺りなさい。すぐ殺りなさい。即座に殺りなされ。躊躇せず殺れ。早く、速く、はやく! ハーリーアップ!!!」

 

 

 遂には横文字まで出してしまった良晴は、信奈に刀を無理矢理持たせ、信勝の前にたたせて後ろに回り込んで手首を掴む。

 

 

「さぁ、僭越ながらお手伝いしますから一撃で仕留めなさい!」

 

「ちょっ!? あ、あんた何処触って――」

 

「殺るのか殺らねーのかどっちだってんだよォォッ!!

早く飯を食わせろォォォッ!!!」

 

「うひっ!?」

 

 

 腹を空かせたまさに獣みたいな殺意を剥き出しに、カタカタ震えて動けない信勝の前に後ろから信奈を無理矢理立たせて刀を振り下ろさせようとする良晴だったが……。

 

 

「いい加減にしろ良晴!!」

 

「!」

 

 

 遂に我慢が限界だったゴリラこと藤吉郎の渾身のストレートが綺麗に良晴の横っ面を捉え、そのまま彼を吹っ飛ばした。

 

 

「のわっ!?」

 

 

 ただただ見ているだけしかできなかった重臣の一人が吹っ飛んできた身体を咄嗟に避け、そのまま襖をぶち破って外へと転がり、そのままピクリとも動かなくなる良晴。

 

 

「姫様、此度の数々のご無礼。

止めるのが遅かった私の責任にあります……大変申し訳ございませんでした……!」

 

 

 吹き飛ばされた良晴を呆然と見ていた信奈の前にこれでもかと床に頭を打ち付けながら謝罪する藤吉郎。

 

 

「え……あ、う、うん……デアルカ……」

 

 

 なかなかに唐突過ぎる怒濤の展開に信奈も微妙に怒りが収まってしまい、なんて言って良いのかわからなくなってしまっている様子。

 

 

「どの様な処罰も受けるつもりです……」

 

「えっとその……も、もう良いわ。なんだろ、不思議なほど怒る気になれないし」

 

「そうは行きませぬ。

良晴は私の部下。その部下を御せない私こそが此度の元凶でぞざいます。

ですから――」

 

「いや本当にもういいわ。

それより、良晴は大丈夫なの? ……凄い勢いでぶっ飛んだけど……」

 

 

 その結果、色々と有耶無耶になったまま信勝や勝家は殺されなかったとか。

 そしてそんな良晴を止めた藤吉郎は――微妙に重臣達の感心を買ったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし、追放覚悟で秀吉さんの心証アップ成功……! 多分結果オーライだぜ)

 

 

 外へとぶっ飛ばされた良晴が気絶したフリをしながら、軽くほくそ笑んでいたとか。

 

 

(良晴……。

そんな真似をしなくても俺達は必ず成り上がると約束したではないか……!)

 

 

 わざとこんな寸劇を仕掛けたのだろうと藤吉郎は見抜いていたのだった。

 

 

 

 腹が減ったから早く殺って終わりにしてくれという本音半分と、途中から寸劇に変更して秀吉の心証アップ作戦半分。

 

 

 結果……多分半分は成功。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全降格あたりを覚悟していた良晴だが、何故か微妙な顔をされた信奈に信勝共々許されたはいいが、長屋に戻った途端、藤吉郎から何時もとは違う説教を受けていた。

 

 

「俺は良晴に常々感謝している。

あの時お前と出会い、命まで救ってくれた事は死ぬまで忘れない。

だが、俺の為に泥を被るのだけはやめてくれ」

 

「……………」

 

「確かに今の俺はお前にしてみれば頼りにならん小男なのかもしれない。

けれど約束する……必ず一人前の男に駆け上がる。だからあんな真似は二度としないでくれ……!」

 

 

 腹が減ってイライラしていたのは本当だが、途中から『アレ? これ使えね?』となってわざと愚か者な行動に走り、そこを御した藤吉郎に対する周りの心証を良くさせる作戦に切り替えた良晴は、見抜かれていた事に軽く驚きながらも、黙って頷いた。

 

 決して声に出して返事をしなかったのは、二度とやらないという保証が無かったから。

 

 

「そ、それで姫様はなんと?」

 

「心配するなねね。

良晴はこれから先名を変える事で許された信勝殿と共に許して頂いた」

 

「よ、良かった。

……まったくもう! 藤吉郎様の言う通り、少し度が過ぎますぞあなた様は!」

 

 

 事のあらましを聞いていて不安な顔をしていたねねに藤吉郎が大丈夫だと表情を緩ませると、ホッとしたと同時にポカポカと良晴を叩きながら怒るねね。

 それは現在良晴の実質下についていた犬千代もねねと同様にホッとしていた。

 

 

「……あわよくば犬千代さんを姫様のお側に戻せたらと思ったのですがね」

 

「……。私が居ると迷惑?」

 

「いいえ、ただ……嫌でしょう? なにを仕出かすかわからんどこの馬の骨ともわからん男の下につくなぞ」

 

「昔の姫様みたいだと思ってるから、そんなことはない……」

 

 

 そうハッキリ言い切る犬千代に良晴は顔には出さなかったが、微妙に困った気分になりながら、山で仕留めた猪を材料に作成した鍋料理をムシャムシャと食べ……。

 

 

「…………」

 

 

 ふと一緒に鍋を囲み、藤吉郎の隣をキープし続ける半兵衛と目が合う。

 

 

「? 何か?」

 

「い、いえ……!」

 

 

 何か言いたげな目をしていた気がした良晴が抑揚のない顔で問い掛けても、慌てて目を逸らした半兵衛は答えなかった。

 一体なんなのだろうか? ……まあ、大した事じゃないだろう。

 

 あまり半兵衛と話をしたことは無かったりする良晴は、妙に引っ付いてくるチビッ子達を好きにさせながら、ムシャムシャと腹を満たす。

 

 

(私より藤吉郎様から信頼を……)

 

 

 そんな半兵衛はといえば、実は藤吉郎が誰よりも信頼している良晴に対して…………まあ、平たく言ってしまえば軽い嫉妬心を持っていた。

 

「しかし咄嗟とはいえすまなかったな良晴」

 

「いいえ、あのままだったら城ごと吹き飛ばしていたかもしれませんので、お館様がお気にするものではありません。

寧ろ私はお館様がお強くなられた事を嬉しく思います」

 

 

 

 戦う技術を藤吉郎に教え。

 そして藤吉郎はその教えにより日増しに強くなる。

 故に藤吉郎が一番に信頼しているのは言葉には出さないものの、良晴であるのは半兵衛から見てもわかることだった。

 

 故に……嫉妬してしまう。

 

 

「む? 大丈夫か重虎? あまり無理をして食べ過ぎても身体に毒だぞ」

 

「大丈夫です……。藤吉郎様の活力のお陰で最近食べる量も増えましたから……」

 

「そうか、それなら良いが……」

 

 

 身体の弱い自分を心配してくれるのは嬉しい。

 しかしそれだけでは駄目である事は半兵衛にもわかっている。

 なんとかして良晴と同じ――いや、それ以上の信頼をして欲しい。

 藤吉郎に頼って欲しい……。

 

 幸い良晴は男だからその先の事は無いけど、その強い信頼を願わくば自分にも……。

 

 

(強くならないと……。

藤吉郎様のお役に立つ為に、今のままじゃ駄目……!)

 

 

 こんな自分を友だと言って受け入れてくれた藤吉郎の為に。

 そして願わくはその先の信頼を越えた繋がりを……。

 

 

「っ!? な、なんだこの水? 変な味が……ぁ……?」

 

「あ、それ俺の酒……って、よ、良晴? め、目が据わってないか?」

 

「……………………………………ヒック」

 

 

 そんな少女の小さな決意を他所に、事件は起こってしまったのだが。

 

 

終わり。

 

 

オマケ

 

最大級の弱点。

 

 

 

 悪魔の執事をしていた兵藤一誠は、その身体を何度も進化させても克服できないものがあった。

 それは彼に使用人としての全てを叩き込んだ自称・義姉のグレイフィア・ルキフグスよりも遥かに彼は――――

 

 

「ひひっ! キッヒヒヒヒヒヒヒヒャヒャャヒャ!!」

 

「よ、良晴が見たこともない顔で、突然笑いだした……」

 

 

 死ぬほど酒が弱い体質だった。

 それはもう、一口飲むだけで豹変してしまう程に。

 

 

「ヒヒヒッ! ちょーめんどくせー! あははは! つーか身体あちぃー!」

 

 

 不気味に思える程に据わりきった目で笑いだした良晴の豹変っぷりに、始めて泥酔する様を見た藤吉郎は嫌な予感がして咄嗟に半兵衛を背中に隠し、上半身裸になってケタケタ笑ってる姿に冷や汗を流す。

 

 

「ね、ねねと犬千代……その、良晴から離れた方が良い気がするのだが……」

 

「良晴が変……酔っぱらってる?」

 

「そ、その様ですぞ」

 

 

 何が可笑しいのか、ひたすら一人でケタケタ笑いまくる良晴に、犬千代もねねも困惑していると。

 

 

「あー……リアスとソーナはどこだぁ? ヴェネラナのババァは……サーゼクスは、ミリキャスは……セラフォルーは―――い、居ないんだよなぁ……! ぐすっ、も、もう皆居なくなっちゃったんたよなぁ……!」

 

 

 全く聞いたことの無い……南蛮人っぽい名をひたすら呼びながらなんと泣き出したのだ。

 これにはその名前は誰なのか以前に、藤吉郎達は驚いてしまう。

 

 

「な、泣いてる……」

 

「これも初めて見た……」

 

「と、というか、りあすとかそーな……というのは誰の事ですか? 南蛮の者の名……?」

 

「そういえば良晴は友人に南蛮人が居ると言ってたのを前に聞いた事が……。

はっ! も、もしやその者達が良晴の想いを寄せる者――」

 

「「…………」」

 

「じょ、冗談ぎゃ。二人してそんな目で俺を見ないでみゃ……」

 

 

 冗談にしては笑えねーぞ? みたいな目で見られて、ゴリラ化してるのに小さくなる藤吉郎は、豹変している良晴にびびってる半兵衛を取り敢えず庇っておく。

 

 

「良晴様? その、りあすとかそーなというお名前はどこのどちらさんの事でしょうか?」

 

「あ?」

 

 

 気になって仕方ないねねが俯いて泣きべそかいてるのを揺さぶりながら問い掛けると、目が据わった良晴と目が合う。

 その据わりきった目は、何時ものどこか優しさを感じ取れたものとは全く違うもので思わずねねは息を飲むのだが……。

 

 

「やっぱどこからどう見てもお前ってミリキャスじゃねーけど、ミリキャスにどことなく似てるよなー……あははー」

 

「ぁ……」

 

「………」

 

 

 ひょいと抱っこされたねねがそのまま膝の上に座らせて、頭を撫でられる。

 

 

「あの子もよくこうしてやると嬉しそうにしてなぁ……もう会えないけど……」

 

「そ、そうなのですか……えと、みりきゃすさんが……」

 

 

 なんだろう、全然悪くない気持ちだと、横でじーっと見てる犬千代の視線を受けながらも自分の今の状況を思うねね。

 しかしねねも藤吉郎も犬千代も半兵衛も、知らないのだ。

 

 良晴――というか一誠が泥酔したらどうなるかを。

 

 

「こっち向けよ?」

 

「あ、あの良晴様……とても嬉しゅう思うのですが、ちょっと恥ずかし――」

 

「違う、俺は一誠だ。本当の名前は一誠だ」

 

「「「「は?」」」」

 

 

 一誠? 良晴じゃなくて? 突然のカミングアウトに何かの冗談かと思ってしまうのは藤吉郎も同じだったが、それ以上に衝撃的だったのは――

 

 

「んむっ!?」

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「はわっ!?」

 

 

 彼は泥酔すると極悪レベルのキス魔に豹変してしまうのだ。

 しかも無差別級の……。

 

 

「よ、よしはるひゃま……! にゃ、にゃに――んみゅー! は……ぁ……んっ……んんっ……!!」

 

 

 究極的に唐突過ぎる接吻……しかも容赦なく舌を舌で絡み取ってきながらの初接吻に抵抗する暇も無く脳や身体を蕩けさせてしまったねねはそのまま――――というか、ねねもその小さな手を良晴の背中に回し、そのまま受け止めてしまっていた。

 

 

「あ、あわわわ! と、藤吉郎様……! よ、良晴さんがねねさんと……!」

 

「や、やはり幼女趣味があった……い、いや、酒に酔ってしまって自分で何をしているのかわからなくなっているのか……! 重虎、今の良晴に見つからないように俺の背中に隠れろ……!」

 

 

 うら若き者にしてみれば大変刺激のお強い光景に、半兵衛はつられる形で身体を火照らせ、藤吉郎の背中にしがみつきながら見ていた。

 

 

「あ、あなたしゃま……ね、ねね……はぁ……!」

 

「あ? ……喉乾いた」

 

「!? そ、それは俺の酒――」

 

「ヒック……あー? 何見てんだチビその2ィ~?」

 

「な、なんでも……ない……!」

 

 

 童女のねねがまさに女の顔になって良晴にもたれてるのを見ていた犬千代が、凄まじくドキドキしながら『そ、そんなに凄いなにかなのか』という妙な好奇心を抱いているのを隠そうとするのだが……。

 

 

「っ!?」

 

「ジロジロ見といてなんでもねーはねーだろーが?」

 

「ひんっ!? ま、待って! し、したことない……のに……!」

 

 

 ガッツリ取っ捕まってしまい―――どうなったのかはこっそり逃げて外から様子を伺っていた藤吉郎と半兵衛と五右衛門にしかわからない。

 

 

「……好きに切り刻んでくれ。

君達にはその資格がある」

 

「そ、そんな事はしませんぞ……! だ、だって寧ろ嬉しいと思いましたし……」

 

「内緒にしておけば罪にはならない……」

 

 

 ただ、翌日正気に戻った良晴が、ふと半裸で自分と一緒の布団の中に居た二人に気付いて、全力で謝り倒したのはマジだった。

 

 

「あの、それよりも良晴様は一誠というお名前が本当のお名前というのは……」

 

「!? そんな事まで俺は昨日……?」

 

「うん、それに……り、りあす? とかそーな……とか、セラフォルーとか、みりきゃす……って変わった名前も呼びながら泣いてた」

 

「な……!」

 

 

 そして彼には酒は絶対に飲ませてはならない……という暗黙のルールが決定したという。

 が、色々と良晴に関する秘密を藤吉郎達は知れて逆にちょっと嬉しかったらしいが……。

 

 

「確かに私は幼少期は一誠という名ではありましたが、この事は他言無用でどうかお願いします。

その名は私にとって本当に信頼した者にしか呼ばせたくありません故……」

 

「じゃあ俺達もその名では……」

 

「あぁ、この場の皆様は呼んで構いません……。

ご迷惑もかけてしまいましたし。

それでその……昨晩俺はどこまでしでかしたのでしょうか? 記憶が無いというか……すまん二人とも」

 

「あ、い、いえいえ! 私達を抱えたまま眠っただけで何もしてません……よね?」

 

「…………………………。姫様達と違って小さいから、あまり満足できなかったのかなとは思う。

…………でも跡になっちゃうくらい……その、アレしてた。

で、でも大丈夫、この事も姫様達には内緒にするから……!」

 

「……………………。やっぱ殺してくんねーか?」

 

 やらかし度合いはわりと深刻だったらしい。

 

 

「お、お酒のせいですから! あなた様が悪いわけではございません! ……………そ、その……腰が抜けてしまいましたけど」

 

「……………………最低だ俺」




補足
某宇宙の帝王様みたいに指からビームを出せます。

ただし、ソーナさんとの繋がりで体得した水流魔力を水圧カッターみたいに射出する感じだけど。

セラフォルーさんの氷系魔力や、ママン印消滅魔力でも可能。


その2
地味に蓄積し続けたストレスと、マジで腹が減ってイライラしてたせいで軽く暴発してしまった。

が、途中で使えると判断し、藤吉郎さんにぶん殴られる事で上手くなんとかなった模様。


その3
半兵衛ちゃん。
軽く良晴くんにやきもち。

……崇拝度が上がってる証拠や。


その4
そして執事一誠の最大弱点発動と――やっちまった。

リアルロリっ娘にやらかした罪は……もはやリアルに責任案件。


いや、手錠案件かな……。

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