どうせ長続きしないだろうなので、はっちゃけナスビ
生まれとか、血筋だとかは存外めんどくさい枷になることが多い。
ただの赤龍帝であるならそれ程とやかく言われる事だって無かったのかもしれないけど、今のイッセーはただの赤龍帝ではない。
昔生きた世界では存在しなかった鬼という一族の末裔にて、その一族の間でも伝説とまで吟われた鬼武者の先祖返り。
後で調べたところによれば、かつて悪魔と鬼の一族との間に抗争があって、どうやら相当悪魔側は鬼の一族にしてやられたらしい。
上の世代の悪魔達にとって鬼の一族はかなりのトラウマがあるみたい。
だから匙君とイッセー――そして柳生一族の子孫で末裔である茜を眷属にしたと父と母に一応紹介した時に、凄まじい反対があった。
弟はどうやら鬼の一族の事を知らないみたいな顔だったから、恐れを抱いた顔をしながら反対する父と母に首を傾げていたけど、イッセーと匙くんの顔を見て驚いていたのだけはわかった。
どうやら『知っている』らしいわね二人を。
もっとも、何かをする気なら私は全力で抵抗してみせるけど。
まあ、そんな事もあって反対を押しきった形で三人を眷属にした私は、結構な陰口を叩かれている。
裏切り者だとか、気狂いだとか……。
うん、昔となんら変わらないからどうとも思わないわね。
無能とか色々言われてきた身としては、ね。
「アカネェってさ、ひょっとして結構な爪弾き者?」
「どっちかと言えばそうなるかしら。
……正直なんて言われようがどうとも思えないのよね」
「ふーん、オレ達を眷属にしたからとかじゃなくて……?」
「どっちにせよ私は無能と呼ばれてたから関係ないわ。
不良悪魔と呼ばれて結構よ」
「しかし元士郎をアオニィでリアスちゃんをアカネェか……。
なんだろ大昔観た教育チャンネルのアニメを思い出すんだが」
「俺は語尾にゴンスなんてつけねーぞ…」
うん、イッセーと一緒にまた居られる時点で他なんて要らないもの。
とにかく差異がある世界で、のびのびと生きてみようと誓う事になったリアスとは裏腹に、多くの悪魔達――というか古くから生きている悪魔達は、鬼の一族の末裔がグレモリーという名家の子女の眷属になった事をとても危惧していた。
人間社会の中へと何時しか埋もれていった鬼の一族は、力こそ全体を見渡せば特筆するものではないのだが、その何世代も先をいく科学力や、鬼武者と呼ばれる戦闘に特化した者は脅威的で驚異的だった。
故にその科学力を奪おうとその昔侵攻を目論んだのだが、鬼武者と呼ばれた者達の抵抗により侵攻どころか絶滅を危ぶまれる程の手痛い目に遇わされたのだ。
故にその末裔といえど警戒するのは当然の事である訳で、ましてや眷属にするなどありえぬ事なのだ。
それなのにあのサーゼクス・ルシファーの姉弟の片割れ……。
三兄弟の中で落ちこぼれとさえ言われたリアスが三人も眷属にしてしまった。
年齢からすれば小僧・小娘ではあるのだが、それでもやはり警戒してしまうものなのだ。
しかもよりにもよってこんなタイミングで発展してしまったある出来事は、古い悪魔達の頭を抱える事になるのだ。
「何て言うかさ、運命ってのは真逆を辿っても引っ付いてくるもんなんだな……と」
「そうね。ほんと―――そう思ってしまうわ」
鬼の一族の末裔の一人と娘が『そういう仲』である事を知って危惧したリアスの両親の『焦りと危惧』によるものが事の始まりだった。
基本的に駒王町の事についてはリアスの弟とその眷属が管理する役割で、爪弾き側であるリアス達はそこに監視の意味を込めて暮らしているという体だった。
それは過去に起こった色々な厄介事をなるべく回避しようという思惑があったりなかったりする訳なのだが、そんな思惑とは裏腹にやって来たのは、間違いなく面倒な厄介事だった。
「ライザー・フェニックスと何故か結婚する体にされてるわ私」
「……いやぁ、逆に笑えるなこれは」
「そういやそんな事があったらしいっすね」
「うーん、まるでお初ねぇみたいだなアカねぇは」
殆ど実家には戻らず人間界の、しかも鬼一族の末裔たる兵藤家で現在生活をしていたりするリアスに届けられた書状の中身は、差異はあれど大まかに言えばかつてと同じ存在との婚約を勝手に決めたという手の内容であった。
恐らく鬼の一族の末裔の一人である一誠と『そういう仲』になっている事に危惧した両親が逃げ道を塞ぐ為に進めてしまった話なのだろう。
リアスの双子の弟が苛立ち半分の鼻で笑いながらこの書状を寄越してきた時からあまり良い予感はしなかったが、その予感は確かに大当たりだったみたいだ。
「無論お断りだわ。
最初から私の心は変わらないのだから」
「やったね、俺はどうやら勝ち組確定らしいぜ元士郎?」
「わかりきってる事じゃねーか、ドヤ顔すんな」
「阿輪が知ったら拗ねそうだな……」
しかし当然ながらリアスは抗うつもりだ。
種族の違いやら過去の因縁なんて関係ない。
かつて自分を助けてくれた一誠と今生も添い遂げるつもりであるのだから。
「にしても、リアスちゃんの弟君は最近なんであんなイライラしてんだ?」
「さぁ? 殆ど会話なんてしたことないからイマイチ解らないわ。
眷属である彼女達もオロオロしてるし、なんなのかしらね?」
「八つ当たり混じりで絡んで来ないだけマシだと思うしかねーっすね」
「だな。
同じクラスの塔城小猫だっけ? そいつに凄いジロジロみられるのはなんか嫌だけど」
「あぁ、あの子と同じクラスだったわねアカネは……?」
昔の様に逃げるしか出来なかった自分では無い。
だから全力で抗う。
どんな手を使っても、何があっても必ず自分の意思を貫き守り通す為に。
アーシア・アルジェントの人生は決して運に恵まれたものではなかった。
他人を癒す神器を持って生まれたが故に聖女だなんて崇められたかと思えば、知らなかったとはいえ怪我人を放っておけない性分が災いし、悪魔を治療したら今度は魔女と蔑まれ、ほぼ追いやられる形で言葉も通じぬ異国へと飛ばされ……。
まあ、その背景にはとある堕天使一派が一枚噛んでいたりいなかったりする訳だが。
だがそんな状況でも彼女は『これが主から与えられた自分への試練で、乗り越えられたらきっと祝福される』と信じて、碌に言葉が通じない異国へとやって来たのだった。
しかし、アーシアはやはり運が悪かった。
目的地に行くにも道に迷い。
人に聞こうにも言葉が通じず行けやしない。
挙げ句空腹のままとにかくさ迷っていたら、どう見ても化け物でしかないはぐれ悪魔の潜伏場所に迷い混んだ挙げ句今まさに食い殺されそうになっていた。
(主の試練はとても厳しいのですね……。
私なんかが到底乗り越えられない程に……)
「くくく、小娘が一匹……実に旨そうだ」
ケンタウルスの出来損ないみたいな化け物が卑しい顔で嗤っていて、徐々にアーシアへと迫り来る。
まさにクモの巣に引っ掛かった蝉……とでもいうべきなのだろうか。
アーシアは恐怖もそこそこに歩き疲れたせいかその場にへたりこんで人生の詰みを感じていた。
「むっ!?」
「え?」
しかしその詰みは迫る化け物と自分の間を遮るかの如く降って地面に突き刺さった一本の剣が、運命そのものを変えたのかもしれない。
「ほっ! はっはははは! お待たせしました諸君!」
地面に刺さった剣の柄の上に片足で着地し、器用に立つ白髪の青年が現れた瞬間、アーシアの運命はきっと変わった……のかも。
「誰だ貴様……?」
「よくぞ聞いてくれました!」
ただ……。
「拙者の名前はゴーガン――じゃなかった、フリード・セルゼン! 悪魔祓い最高の剣士!」
ちょっとダサい決めポーズをしながら名乗るそのテンションとか姿勢は、空気を読めるタイプでは無さそうだったのだが。
「悪魔祓いだと? けけけけっ! たった一匹で――」
「お嬢さんお怪我は? あぁ、礼には及びませんよ? か弱い女性を救うのは、男として当たり前ですからねぇ」
「は、はぁ……あ、あの……悪魔祓いというか神父様なのですか?」
「ええ、元が後ろが付きますがね。
それとただの悪魔祓いではありませんよ? 拙者の名前はフリード・セルゼン、悪魔祓い界最高の剣士! ……です」
その青年はちょっと変わり者だった。
後ろにはぐれ悪魔が居るのに、無視をしてアーシアに怪我がないかを無駄に紳士的に聞いてくるし。
というか、腰が抜けてたてない自分を立たせてくれた挙動からなにからが本当に無駄に紳士的だった。
……自己主張は結構激しいが。
「ガキが……揃って食い殺すぞ!」
「ひっ!? う、後ろ!」
「んー? あぁ、これは失礼。
しかしお前ははぐれ悪魔という奴だろう? どうも拙者の剣が涙と興奮に震わないし、申し訳ないが一瞬で決めさせて頂こうか?」
「ぬかせぇぇっ!!」
正味アーシアはこの時点では、このフリードなるちょっと変な人が殺されるのではと恐怖した。
だが地面に刺さった剣を引き抜き、空いてる側の手を腰に当て、胸を張り、一見すれば素人目に見ても隙だらけにしか思えない立ち振舞いをするフリードの目付きが変わると、鋭利な爪を突き立てて来たはぐれ悪魔の攻撃を……。
「甘い!」
「ギャァッ!?」
何か青い壁のような防御壁で弾き、がら空きとなった胴体を一閃。
「ば、ばか……な……」
「ふむ、やはり幻魔時代と比べると人間となった今の拙者ではこれが精一杯か……。
これでは十兵衛に笑われてしまうな」
真っ二つに切り裂いたのだ。
どんな種族であれ、それこそ立場上敵対種族ですらある悪魔にすら非情になりきれないアーシアだが、彼の放った一閃を間近で見た時、彼女は無意識に呟いていた。
「す、凄い……」
その妙な立ち振舞いを含めた剣技に見惚れてしまったのだ。
「うーむ、ガルガントは生まれ変わっても肉体の強度は変わらなかったが……。
いや、悲観してはいかぬぞ拙者! 十兵衛だって最初は拙者より下だったのが最後には越えてみせたではないか! つまり今度は拙者が幻魔界最高の剣士から、悪魔祓い界最高の剣士に成長しなければならないということ! やってみせるぞ!」
これが紳士な幻魔界最高の剣士から一人の悪魔祓いへと生まれ変わったゴーガンダンテスの今であった。
「それではお嬢さん、拙者はこれにて! はっははは! はーっはははは!」
「ま、待って!」
「ははは……ばぇ!? い、いきなり拙者の襟首を掴むとは中々やりますねぇ……?」
「あ、あの……こ、言葉が通じる様ですし、お、お礼もしてません。
だ、だからその……」
「? 礼には及びませんよ? 先程も言った通り、か弱い女性を助けるのは男として――」
「そ、それでは私の気が収まりません! だからなんでも良いです、お礼をどうか!」
「うぅむ、女性にそこまで言われてしまうと断るのは失礼ですね……」
終わり
補足
ある意味運命の歯車ですね不死鳥さん達は。
リーアたんにとっての最初の壁でしたし。
その2
で、弟……名前がまだ決まってないのですが、彼は最近イライラしてましたらしい。
理由はアーシアやらレイナーレの件が来ない事なのですが……。
その3
拙者の名前はゴーガンダンテス、幻魔界最高の剣士!!
………降臨!