小さい頃から同じ釜の飯を食った仲。
それこそ他に居る幼馴染み達よりも過ごした時間が長く、全幅の信頼を寄せる相手が誰となれば、それは兵藤一誠に居て他ならないと織斑一夏は考えている。
だからまさか姉の千冬の裏工作で一誠が自分と同じ学校に進学する事になった時は、道徳的な意味でそれはズルいのではないのかとか考える前に万歳三唱で大喜びもした。
何故なら、女子の園となるIS学園で少なくとも肩身が狭い思いをする事は減るし、何よりもこの気まずさを共有出来る相手が信頼できる相手である事は精神的な助けにもなるのだ。
もっとも、姉の束とはちょくちょくと千冬を介して何度か会ってたのとは逆に、会うこと自体は実に六年ぶりとなる二人目の幼馴染みである篠ノ之箒との再会時は失敗して怒らせてしまい、早速そのデビュー戦が失敗してしまったのだが。
しかも、男子という希少価値的な理由で所謂学級委員に周りから一誠よりも多く推薦させられてしまい、それを良しとしないイギリス人の女の子にボロクソなじられ、だったらと一誠と二人で持ち上げるようにして推薦してあげたら逆にキレられて結局何故かいきなりISの試合でクラス委員長を決めなければならなくなる嵌めになったり。
静かなスタートを望んでいた一夏の思惑を悉く外してくる学園生活は、この先も波乱を思い起こさせるものばかりでため息だらけだった。
「なぁ一夏君よ? 今からでも部屋交換しね? あの大魔王の部屋を掃除するだけの生活とか俺嫌なんだけど」
「何時もの事じゃないか」
「いやお前、俺一応あの人からの視点だと弟の友達の一人って立ち位置なんだぞ? それがなんで下着の洗濯までさせられてるわけ? 俺ってなんなの?」
「それだけ信頼されてるって事だろ千冬姉に。
俺もそうだし」
「お前ら姉弟のその俺に対する意味不明に高い信用はなんなんだよ……」
もっとも、一誠も一誠でいきなり進学先をねじ曲げられた挙げ句、姉しか御せないという理由で寮部屋を同じにさせられ、早速苦労しているらしい。
一夏も箒と同室にされ、うっかり風呂上がりのバスタオル一枚姿の彼女と出くわして木刀片手に襲われ、現在朝食の席においても終始彼女は不機嫌だった。
「んで、箒さんはご機嫌ななめってか」
「タイミングが悪かったんだ……。
何度も謝っているんだが……」
「まあ……どっちが悪いかと考えたら多分お前の方が悪いに傾くかもしれんね」
「……………」
昨日以降は少し慣れたが、一誠も箒の事は知らない相手では無く、小さい頃は結構遊んだ覚えのある子だった。
が、その声を聞く度に意味不明な頭痛に襲われるので、一夏程仲良くはない。
精々友達の友達的な認識だ。
「あのさ箒さん。
怒る理由はごもっともなんだけど、取り敢えず矛を収めて一夏にISの事を教えてあげられやしないかな?」
「なんで私が……」
「いや、現状一夏が頼れるのってキミか俺ぐらいなもんだろ? 俺はISについてはなーんも知らんから戦力にはならないけどキミは違うだろ? だから頼むぜ? 見てしまった事はちゃんと反省してるみたいだし……」
「む……」
「た、頼むぜ箒……!」
流石に慣れてきたものの、何かが心の中で疼く箒の声を前に一誠が一夏と一緒に頭を下げる。
六年ぶりに見た箒は実に女性らしくなっているが、どうも精神的な所が未熟で、一夏に対して思わず激情してしまうらしい。
だから一夏も箒の想いを一切察していない訳で、外から見て察している一誠がそのフォローに入る。
箒としても一誠の事は別に嫌いではないのと、察した上で茶化しては来ないというのもあるせいか、耳を傾ける気はあるらしく、ペコペコ二人揃って頭まで下げてくるので断れない。
「わ、わかった……お前に頼まれてしまえば断るわけにはいかないからな。
仕方なく一夏の面倒は見てやろう」
「あざっす。
だ、そうだ一夏? 感謝して教えて頂きなさい」
「あ、ありがとう箒……!」
やっと乗ってくれた箒に感謝しつつ、心の中ではそのお膳立てをしてくれた一誠にも感謝する一夏。
やっぱり頼りになる奴だ……入学してくれてありがとう……! と、千冬の厳しさ半減装置も兼ねてる一誠にますます一夏は頼りにするのであった。
「あ、でも一誠も試合するんだろ?」
「は? あー……俺は良いよ、独学でやってみる。
箒さんに俺まで面倒を見させるのは酷だろ」
「別に構わないが……」
「良いって良いって! 邪魔しちゃ悪いしな!」
「え、邪魔だなんて……」
「…………」
「…………。やばい、カッコつけたは良いが、基礎知識すら死んでるんだった」
爽やかに笑って先に食堂を出た一誠だったが、実の所ISに関する知識どころかまだまともに起動させた事がなかった。
確かに束の工作かなにかでISに触れたら起動は可能になっていたが、それを纏って戦えと言われても、ノウハウから何からがド素人であるので流石に不安が募った。
とはいえ、一度カッコつけといてやっぱり教えてくださいとは箒に言えないので、取り敢えず千冬から押し付けられた教本を読んでみるが……。
「さ、さっぱりわかんねぇ……!」
直ぐにお手上げになってしまった。
何せ意味を理解できない理論的な言葉の羅列ばかりで、漫画ばっか読んで育ってきた一誠の頭脳が拒絶反応をしてしまうのだ。
「あらあら、私と試合をする癖に今更基礎中の基礎のお勉強とは……心底嘗められた気分ですわ」
「や、やっぱりこれで基礎か……! クソ……やっぱり断ってからの駒王学園ルートの方がよかったのか……!」
「ちょっと、聞いてますの?」
「つーか乗ってる人達はこんな事を頭の中で考えながら飛び回ってるのか? だとしたら真面目に尊敬しちまうぜ。ぐぬぅ……!」
すぐ横で此度試合することになった、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットからの嫌味が飛んでくるとだが、本人は頭から煙を出しながら項垂れていて反応が無い。
「つーかそもそも今回に関しては完全に巻き込まれてるだけなのに……。あの理不尽魔王が勝手に試合なんぞ組みやがるから……。
ちくしょう、今度後ろから『わっ!』って言って脅かしてやろうか……」
「二度に渡って私を無視とは良い度胸ですわね!!」
「ぬほっ!? お、おおっ……? な、なんだキミか……」
あんまりにも無視が続くせいか、いよいよ激怒したセシリアがわざとらしく一誠の机を叩きながら喚き、それによって漸く気付いた一誠が目を丸くする。
「なんだとは何ですの!? 織斑さんといい貴方といい、男の分際で――」
一夏と箒がまだ教室に戻ってこないせいか、も卯一人の男子として一応それなりに目立ってる状況で、セシリアが激怒するせいで変な意味で余計目立ち始めてる事に気付いてない一誠は、ふとプンスカしているセシリアを見て尋ねてみた。
「あ、ねぇねぇ、オルコットさんだったよな? この頁についてなんだけど、つまりどういうことだってばよ?」
居るじゃないか、なんか暇そうにしてる経験者。
しかも代表候補生とかいう、なんか凄そうな肩書きをしてる子が。
と、試合する相手であることをすっかり頭の中から抜け落ちてる一誠は、教本を広げて解らない項目を指しながら質問する。
「え? え、ええ……これはですね――」
あんまりにも唐突過ぎる返しにセシリアも真面目に返そうとしてしまったが、直前でハッとなる。
「って、敵である貴方に何故私が教えなければならないのですかっ! ふざけてますの!?」
「心底真面目だぞ俺は。
てかね、キミが最初に言った通り本当にド素人だし、キミは国家の代表候補生なんだろ? だったら教わるべきじゃね? みたいな……」
「で・す・か・ら・! これから試合をする相手に何故施しをする様な真似をしなければなりませんの!?」
「付け焼き刃程度に学んでもキミの敵にもならないんだしさ……頼むぜマジで」
そう言ってマジで頭まで下げる一誠。
一夏は箒にある程度基礎を学べるし、なんだかんだ言って一夏は一度身体で覚えたらそこから成長できてしまうタイプなのはよく知っていたので、一応入学した以上は離されたくはなかった。
かつての記憶を失う前の性格なら、死んでも他人の手を借りたがらずに独学で進化していた事を考えると、信じられない態度だ。
「話になりませんわね! 敵に教えを乞おうと媚びる姿勢からしても最低ですわ!」
「最低だとしても俺はこの学園に入ってしまった以上は学びたいんだ」
「でしたら私以外に乞えばよろしいでしょう!?」
「だって話しかけてくれるのはキミだけだし……」
「それは貴方達が気にくわないだけであって――」
「ホント……! ホントお願い!! 今のところキミしか頼れないから!」
「きゃっ!? な、何をしているのですか!」
「東洋の神秘……DO☆GE☆ZA☆だ!」
仕舞いには教室のど真ん中でセシリアに土下座し始める始末。
いきなりの所業にセシリアも見ていた生徒達も引いているが、上に進む為にはプライドすらそこら辺に今は捨てられる一誠は構わず土下座を続ける。
「頼む! 一生のお願い!!」
「何が一生のお願いだ馬鹿者」
が、そんな土下座も魔王の降臨によって強制キャンセルをさせられてしまう。
「朝っぱらから女子相手に何をしてる?」
「ええぃHA☆NA☆SE☆!!
教本読んでも訳がわかんないから身体で覚えようと、この国家代表候補生様に教えを乞うんだよ!」
「それでわざわざあんな真似をしたのか。
ヴェネラナ先生が見たら嘆くぞ?」
「うっ!? だ、だが母ちゃんだって事情を知ったらわかってくれるさ! とにかく邪魔するな大魔王! 俺は――」
「誰が大魔王だ。
とにかくそんなみっともない真似をするな。こんな事を束が知ったらわ下手をしたらオルコットにしでかす可能性がある」
「へっ、あんなマッド女にやられるほどオルコットさんは弱くねぇ! オルコット様をなめんなよ!!」
「……そのオルコットに対する信頼はどこから出てくるんだ」
「あ、あの私は……」
コントみたいなやり取りを千冬をやってる一誠に、先日の件もあって一誠と千冬とのよくわからない繋がりなた困惑する一同。
そんなタイミングで一夏と箒が教室に戻ってきて、変な空気になってる状況に首を傾げる。
「なんだよ、どうかしたのか一誠に千冬姉――じゃなくて織斑センセ……?」
「この馬鹿がオルコットに土下座すると見せかけてスカートの中を覗こうとしたから折檻しようとしただけだ」
「なっ!? 兵藤さん、アナタは私の……」
「しねーよ! 俺の誠意を踏み潰すな怪力ゴリラ女!」
スカートを抑えて距離を取ろうとするセシリアに、一誠は否定しつつ平然と言ってくれた千冬に激怒する。
「三十路以降マダムの下着姿は見たいがな!!」
『……………うわぁ』
そして勢い余って言ってしまったこの台詞のせいで、逆にドン引きされてしまい、結局セシリアから教えて貰えそうもなくなってしまった。
結局教えて頂くフラグを千冬に潰され、挙げ句一夏共々専用機が与えられると聞かされてますます変にプレッシャーばかりが募っていく事になってしまった一誠は、それでも意地になって独学でやってやると一夏の誘いを断って箒のもとへと背中を押した。
「うぬぬぅ! さっぱりわからん!」
三十路の下着姿が見たいと自爆したせいなのか、頭から煙を出して唸る一誠に助け船を出す声が一切掛からないという悲しき状況になってしまっている。
『織斑君は良いけど兵藤君はちょっと……』
みたいな空気が流れてしまったせいといえばそれまでだが、現実は三枚目よりも二枚目なのだ。
「あのマッド女は普段アレだが、こういうところを見せられるとマジで天才だぜ……。
ちくしょう、いっそLI○Eで聞いてみるか? いやでも対価を求められそうだな……」
そんな三枚目こと一誠はISの生みの親みたいな位置の束に聞いてやろうかと携帯を取り出したが、代償が怖くなったのでやっぱりしまった。
彼はあまり自覚してないが、両親や妹と箒ですらおいそれと連絡出来る訳ではない束に普通に連絡できて、ほぼ100%返事が返ってくる。
世界中がその行方と身柄を求めてるというのに、彼は連絡すれば向こうからホイホイとやって来るのだ。
「む、LI○Eが入ってる。
『ハーレム生活はどう?』だと? ………………ふん、『余裕。昨日の晩の時点でもう三人の女教師とベッドの中でイチャイチャしてやったぜ』……っと。
…………………あれ、なんか悲しくなってきたぞ?」
そんな束からのLI○Eに、一誠はありもしない事を捏造して返信するが、送ってから段々悲しくなってきた。
てのも、昨日の時点で職員室に突撃して女教師を見に行ったのだが、千冬に邪魔されたあげくサソリ固めでKOされてしまったのだ。
「母ちゃんにも送っておこう。
『今週末には一旦帰るから』……っと」
そんな悲しき現実を忘れる為に、敬愛する義母への連絡をする。
大きな包容力を持つ偉大なる義母を敬愛する一誠は、世間的に表現するとマザコンの部類だった。
「心配だ。
母ちゃんに寄ってくる野郎がもし居たらぶっ殺してやるにしても……」
恐らくきっと今の一誠であろうと『過去』の一誠であろうと表現の方法は異なるもののそこは変わらないだようし、誰かを嫁にしてもヴェネラナの方を優先して即愛想つかされて離婚コース待った無しだろう。
誰も居なくなった放課後の教室で一人そんな事を呟きながら今度こそ勉強に戻ろうとした一誠だが、携帯が震える。
「ん? ……なに?」
どうやら着信だったらしく、その相手を見た瞬間一誠は微妙な顔をしたが、取り敢えず出てみると、何故か知らないがその電話相手は怒っていた。
『ちょっといーちゃん! さっきのLI○Eはホント!? ちーちゃんが傍に居るのにそんな裏切り行為をした訳!?』
一誠をいーちゃんと呼ぶ相手なんて一人しか居ない。
それは即ち篠ノ之束本人であり、先程強がってLI○Eした文面に怒っているらしい。
何故なのは一誠にはわからないが。
「裏切りってなんすか? そもそもさ、普通に考えて俺がそんな簡単に成功できると思うんすか?」
『性交!? な、なんてこった……! いーちゃんのチェリーが……!』
「文字が違う!! だからさっきのは全部冗談ですってば! ……くそっ! 言ってて悲しくなってくるんだけど!」
『へ? あ……ふーん、そーなんだ。
ま、そんな訳無いってこの天才の束さんは最初からわかってたけどねー?』
「あっそ、そりゃよござんしたね、じゃあ切りますよ?」
『あ、待った! …………あのさ、学校はどう? それと箒ちゃんは元気にしてる?』
切ろうとした一誠に束が途端に声色を変えて妹の様子を聞いてくる。
これには一誠も切ることは出来ずに話してあげる。
「アンタと違って随分女の子らしく……なったのかな? 木刀振り回して一夏を追いかけ回したみたいだけど」
『あららー……照れ隠しが悪い方に行ってるね……』
「まあ、一夏は特に嫌った様子もありませんし、そもそも風呂上がりの場面をバッチリ見ちまったタイミングの悪さにも問題アリでしょうからねぇ……」
『なーるほど、ならいっくんには責任払いをして貰わないと』
「それは本人達次第でしょう。
アイツ、女子にはモテますからねぇ」
お膳立てくらいらは出来るが、それ以上の事は本人達次第だと言う一誠に、束も小さく『そうだね……』と言う。
「箒さんに連絡しづらければ、俺が近況くらいは教えられるし、まぁ、うざ電話しなけりゃ何時でもどーぞ」
『…………。ズケズケと言ってくる癖にそういう所だけは優しいんだから。
あーあ、真面目にどうしてくれるのさ?』
「? なにが?」
『はぁ……箒ちゃんの気分がわかるぜ。
ま、良いや……じゃあまたね?』
「あ、ちょっと待った」
『? なぁに?』
「……………。千冬さんから聞いてます。
その……母さんを周囲から守ってくれてることを」
『ちーちゃん喋ったんだ? 別に言わなくて良かったのに』
「………………。ありがとうございます」
『べっつにー、ヴェネラナ先生の事はこの天才の束さんが唯一尊敬できた大人だからさ。
気にする必要はないぜいーちゃん?』
「それでもっすよ……。
だからアンタと千冬さんに変な真似されても嫌いになれない」
『……………。告白の一つと捉えとくよ、じゃあね』
「え、いや別に違――あ、切れた」
切れてしまった携帯を仕舞う一誠。
結局誰の手も借りれない状況は変わらなかったが、妙に元気になれた気がした。
「うっし! やってみるか!」
自分の頬を叩き、気合いを入れ直した一誠は教本と真剣に向かい合う。
夕日が窓を射してオレンジ色に染まる中、一誠は人知れず己を磨くのだ。
「…………」
その様子を教室の外で壁に背を預けながら聞いていた千冬が居た事に気付かずに。
結局一人で抱え込もうとする……。
一誠についてかつてヴェネラナから聞かされた事のある千冬は、程度は違えど一人でなんでもやろうとしてしまおうとする一誠を見て、公平性には欠けるかもしれないがとひとつ決意をしながら部屋に戻った。
「え、教えてくれるんですか?」
「基礎中の基礎だけだがな。
活字が苦手なお前がごり押しで学ぼうとしたところで無理なのはよく知っている。
だから感覚的に私が解釈してお前に教えてやる」
「……………」
「なんだ?」
「いや、あの理不尽大魔神が先生っぽいことを言ってるから意外なもので……」
「よしわかった。
徹夜で死ぬほど叩き込んでやる」
放っておくと一人で先に進んで見えなくなってしまう。
ヴェネラナから聞いたかつての一誠の人となりを知っているからこそ、今の一誠に同じ徹は踏ませてはならないと千冬は、一々一言余計な彼に優しくからスパルタ方式で教授することにした。
「テスト勉強の面倒を見てやったのは誰だったかな?」
「ち、千冬様でございます……」
「そうだその通りだ。
で、貴様はこの程度のことも理解できないのか? ん?」
「や、やめてくれ、俺はマゾじゃないから精神に来る……!」
「怪力ゴリラ女と呼ぶ相手に教えられて恥ずかしくないのか? え? お前の脳みそはミジンコ以下か?」
「お、おぅふ……」
ただ、ちょっと千冬の趣味が入ってる気がしないでもないのだが……。
「………………」
「お、おい一誠? 酷い隈だけど……」
「ドS魔王化したんだよ……」
「ど、ドS魔王化って千冬さんの事か?」
「ああ、あのアマ、俺にISの基礎中の基礎だけは教えてやると言ってくれたはいいが、徹夜な挙げ句ちょっと間違えるだけでグリグリと踏んできやがる……」
「「………」」
文面だけなら如何わしいものを感じるが、ゲソッとした顔を見る限りでは鬼の様な勉強法方だったのだろう。
一夏と箒はただただ同情するしかなかった。
「ち、千冬様に踏まれてるってどういう事かしら?」
「こ、これはつまりそういう意味なのかしら!?」
「な、なんて羨ましい! ひょ、兵藤くんといったかしら? いったいどうやって千冬様に踏んで貰えたの!?」
「…………。目の前で怪力ゴリラ女と言えば多分――おぅ!?」
「誰が怪力ゴリラ女だ。
それとモタモタと食っているんじゃあない。
食事が済んだらHRまで復習をしろと言った筈だ、さっさと来い」
「……ふぁい、先生……」
「呼び方が違うだろ?」
「い、イエス……美人で素敵な千冬様……」
「よろしい。では行くぞ」
「……………………」
しかもドナドナの様に一誠は妙に元気な千冬に連行されていく。
その様を見て一夏は身震いをしたのは云うまでもなかった。
「ま、まずい。千冬姉が、ダ○ンタ○ンの浜○ばりのドSスイッチが入ったまんまだ……」
「確かに厳しい方なのは知ってるが、アレは完全にベクトルが違わないか……?」
「一誠が昔から千冬姉に逆らうせいで、一誠にだけあのスイッチが入るんだよ。
ああなったらヤバイぞ? 最後の時なんて一誠を馬にしてその背中に乗ってご満悦だったからな……」
『…………』
どんな関係だよ……? 事情を知らぬ者からしてみれば一夏の話を聞けば聞くほど疑問になる訳で……。
「く、クソ……! 束さんの方がまだ有情――ひぎぃっ!?」
「今私の前で誰が束の話をしろと言った? そんなに優しくされたいのか?」
「しゅ、しゅみましぇん、素敵で美人でかわゆい千冬様……!」
一誠にのみガキ大将化する千冬の一面を知った生徒達は、ますます彼女に楯突くのはやめておこう。
そんな事を一誠の犠牲を経て思うのだった。
まあ、過去に散々悪魔とはいえ女性相手にドS行為を――それこそとある魔王少女の衣装を竹尺で切り刻んで裸にひんむいた挙げ句、ゲラゲラと大笑いしてたことを考えたら自業自得なのかもしれないが……。
『わーん! み、見ないでよぉ……!』
『ギャハハハ! 良い年した痛い女が『見ないでよぉ……!』だってよぉ! それでも魔王かよ! ザマァ無いなぁ!』
『ひ、酷いよぉ……! 誰にも見られた事ないのに……。
こ、こーなったらいーちゃんに責任を……』
「……っ!?」
「ん? どうした?」
「い、いや……コスプレした結構可愛い感じの女の人が頭の中に……。なんか束さんに性格がちょっと似てなくもない感じの……」
「……………………………………。妄想もそこまで来ると哀れだな」
「も、妄想じゃなくて……ぐっ、あ、頭が痛い……!」
「……チッ、ちょっと来い」
「うぅ……だ、誰なんだよ。頭の中で束さんしか呼ばない筈のあだ名で俺を呼んで――うぷ!?」
「いいから考えるな。
今お前がしなければならないことはISの基礎を覚えることだ。
そんな訳のわからん妄想なぞさっさとわすれろ、良いな?」
「は、はい……。あの……胸が……苦しいっす」
「……………。す、すまん」
その魔王少女が今の一誠と千冬のやり取りを見てたら激怒して日本列島どころか地球そのものを寒冷化させるやもしれない……。
補足
通ってる最中もヴェネラナのママンが心配でしょうがない。
その2
身体能力に関してはちょっと喧嘩自慢程度まで落ち込んでます。
自覚はしてませんけど。
その3
記憶は失っても、奉仕する事に関しては本能的に身体が動いている模様。
その4
…………あれ、束さんが一番アレじゃね?
た、多分魔王少女にそこはかとなく似てる気がするからだ!