※後で消します
※根底から関係ない話
物心が付いた時でも母の事は知らない。
そして物心が付いた時からとても大きな背をした父と旅をしていた。
その旅の目的は幼い少年にはまだわからない。
けれど強くて頼もしい父と一緒なら何処へ行っても平気だった。
例え旅先の村や町で、母に連れられながら歩く自分と同じくらいの歳の子供を見て少しだけ羨ましく思うことがあったとしてもだ。
そんな少年は覚えてはいないが、かつて父と一時的に住んでいた村へと帰って来た。
多くの村人達が父を喜んで出迎える光景を見て少年はますます父を尊敬する事になるのは当然の話。
父と自分を見て感激して泣く恰幅の良い、優しい顔をしたおじさんも、父の知り合いの奥さんとその娘さんとの出会いも、幽霊が出ると噂されるお城に、猫みたいな生き物をいじめっ子達から助ける為に退治しに行ったりしたことも、少年にとってそれはとても大事な宝物になるだろう。
そしてその後出会った妖精の少女との出会いはもっと大きくて大切なものになるだろう。
父を喪い、過酷な奴隷へと堕ち、大人へと成長し、自由を取り戻し、父の遺言に従い、死んだと思っていた母を探すために伝説の勇者の末裔とその装備を探すさすらいの旅人となろうとも……。
「くっ……! 天空の盾を手に入れるには持ち主の娘の旦那さんにならなければならないのか……!」
ちょっと初恋を拗らせて軽く擦れた青年になってしまおうとも……。
とある世界のトンヌラという旅人は根を張る雑草の様にしぶとく生きるのだ。
「天空の盾は手に入れたい。
けど結婚なんて……。最近ヘンリーとマリアさんが結婚して僕に自慢してて、羨ましいとは思ったさ。
でもよくも知らない娘さんと夫婦になりたいとは思えない……!」
父を喪い、青年と成長し、奴隷生活から抜け出し、苦楽を共にした親友と親友の故郷たる国の問題を解決に導き、その親友と別れ、死んだ父の悲願を達成するために旅を続けたトンヌラという、紫のターバンを頭に巻いた青年は、死んだ父のような精巧さを兼ね備えた顔をこれでもかと苦痛に歪めながら、大いなる壁にぶち当たっていた。
悲願を達成するに必要な伝説の装備。
そのひとつである剣は父が村の洞窟に隠していた為手に入れては居る。
だから必要なのは残り三つ。
天空の鎧。天空の盾。天空の兜――そしてそれらを扱える天空の勇者。
父と己はその勇者ではないために装備は扱えない。
しかしそれでも必要な物なので探し求めて旅を続けた結果、盾のありかは分かった。
だが手に入れる難易度がこのトンヌラ青年にとってはNIGHTMAREクラスだった。
正直、父を殺した仇のゲマという魔物が100体に分身して襲い掛かって来られるよりNIGHTMAREだった。
「取り敢えず一目盾だけは見に行こうと思ってルドマンさん屋敷に入ってみたけど、結局見せて貰えないばかりか婚約者候補にされてしまったし……」
一応本物なのかを確かめる為に、大勢のルドマンの娘と結婚したがる連中に混ざって屋敷に潜入はしたが、肝心の盾は見られないし、炎のリングと水のリングを取って来いと言われてしまうし、そのルドマンの娘にはよくわからないがガン見もされるし……。
「た、盾だけ無くても残りの装備で行けるかな?」
他の者達が我先にという勢いで炎のリングの在処である死の火山という―――はっきりいってルドマンは娘と本当に結婚させる気があるのかと思う物騒な火山地帯へと行ってしまった中を町の外に置いてあった自前の馬車に籠って行く気がしないトンヌラは頭を抱えていた。
「どう思うピエール? 盾が欠けても行ける気しない?」
「そんなに結婚が嫌なのですかトンヌラ殿は?」
「考えるだけで頭の中が締め付けられそうだから、相当嫌なんだと思う」
盾はこの際飛ばすか? そんな事まで考え、そして旅の最中心を通わせて仲間にした魔物達に相談までするトンヌラ。
結婚が嫌だというよりは、実は本人なりの信念みたいなものがあって結婚を躊躇っている。
スライムナイトと呼ばれる、唯一ある程度喋れる魔物に嫌だと吐露するトンヌラは、最早天空の盾は諦めてしまおうかと思っていたその時だった。
「そうだ!」
どこかの表現をするなら――
その時・・・閃くっ・・! 圧倒的閃きっ・・・・!!
みたいな天啓がトンヌラのネガティブだった脳内に電流の如く流れた。
(大人になって困った事があったらってあの時……!)
それは幼少の頃の記憶。
金髪の少女とお化け退治しに行った時よりも心に強く残った思い出。
過酷な奴隷生活を堪えることが出来た光の記憶。
不思議で暖かい……多分信じてはなかっただろう父にあのラインハットへ向かう道中何度も聞かせまくった思い出
別れの際、言ってくれた言葉を思い出したトンヌラはキラーパンサーに成長したゲレゲレやピエールと名付けたスライムナイト、そして偶々遭遇して偶々会心が連発してヒットした倒したら仲間になったはぐれメタルことはぐりんがビクッとする勢いで馬車内から飛び出すと、ルラフェンの町で会得したワープ魔法であるルーラを唱え、復興が近々開始させる故郷のサンタローズの村へと飛んだ。
「僕が住んでいた家は瓦礫になっていたけど、あの地下はまだあった……!」
ルーラで奴隷生活中に破壊された故郷の、トンヌラが住んでいた家の跡地へと辿り着くと、あの思い出の始まりでもある地下の階段を降りる。
家は破壊されたが地下には手が及ばなかったらしく、幼少期となんら変わらない地下室は少しジメジメしていたが、希望の天啓を得たトンヌラには爽やかな春の風が吹いている様に感じた。
「ここから妖精の国に続く階段があったんだけど、やっぱり無くなっている。
けど、ポワン様は僕が大人になって困った時は助けてくれるって言った!! ベラだってまた会いたいって言ってた! 僕も会いたい! 困ってる程に会いたい! 会いたい! 会いたいんだ!!!」
「がる……」
「ゲレゲレもその妖精の国とやらに行ったことがあるのか? しかし、主のあの鬼気迫る表情はすごいな……」
「…………」
膝づき、怪しい宗教みたいにブツブツと呟きながらお祈りを捧げるトンヌラに、仲間の魔物達は『そんなに雌と番いになるのが嫌なのか……』と魔物らしい解釈をしながら、呪文の様にベラに会いたいを連呼するトンヌラを見ていた。
そして―――
「き、きたーっ!!」
想いというにはあまりにも重すぎる念が伝わったのだろうか、幼少期と同じ光の階段がなんとトンヌラ達の前へと現れた。
その精巧な顔つきにより、割りと旅先の村や町の娘さん達から『ぽっ……』ってされていたけど、全然気づきもしなかったトンヌラの表情は六歳の頃のあの時に戻った様であり、階段の出現を認識するや否や、奴隷時代と旅によって鍛えられた肉体をフル稼働して全力疾走し、光の階段の先へと続く彼方へと飛び込んだ。
「ベラ! ベラはどこだい!?」
慌てて魔物達もついていった先の世界は、春の陽気漂う妖精の世界。
幼少期の頃より、青年となった今のトンヌラには少し小さくなった感覚を覚え――――るとかそんな事よりもまずは一緒に冒険をし、ずっと再会を願っていたベラという妖精を探す為に妖精の村内を爆走した。
「そうか、ポワン様の所だ!」
再び来られたせいか、完全にテンションがねじまがっているトンヌラはやがて、幼少期記憶を頼りに大木で作られたちょっとしたお城の扉をぶち破る勢いで開け、最上階へと爆走。
そして……
「ベラ!」
トンヌラの奇行を見ていたのか、他の妖精やポワンと一緒に軽く引いた顔をしていたベラと十年振りの再会を本来よりかなり前倒しで果たした。
「よ、ようこそ妖精の村へ……。
その……久し振りですねトンヌラ……」
「ひ、久し振りトンヌラ……大きくなった――きゃん!?」
春風のフルートを取り戻した村の小さな英雄は精巧顔付きの青年へと成長した……と玉座に座るポワンもその横に控えるベラも確かに思ったが、ベラの姿を捉えるなり、嘘みたいな速度で接近し、ベラに抱き着く姿はデカイ子供そのものだった。
「ああ、ベラだ……うぅ、本物のベラだ……会いたかったよ……!」
「と、トンヌラ……」
しかしその奇行も、ベラにすがるようにして身体を震わせて涙を流す姿を見れば、過酷な人生を歩んでいたのを見ることしかできずに居たベラとポワンを憐れみに誘う。
「よく頑張ったわねトンヌラ……。そしてごめんね? 助けることができなくて……」
「ホントだよ。お父さんは死んじゃうし、奴隷にさせれるし……! でもまたこうしてベラに会えて嬉しいよ……!」
子供の様に涙を流して抱きつくトンヌラの言葉にベラは謝罪の意味も込めてよしよしと頭を撫でた。
姿は少女の様だが、実年齢はトンヌラより上なのだ。
「ぐすっ……」
「それでトンヌラ、あんな鬼気迫る顔でここに来たいって願い倒していた理由は………えーっと」
「ぐすっ、母親を探す為に伝説の勇者とその武具を探す旅をしてたんだけど、その一つがお金持ちの家にあって、手に入れるにはそこの娘さんと結婚しなければならないんだ……」
「それなら結婚をなされば宜しいので……」
「そんな理由で結婚はしたくないんです! 確かに可愛らしいお嬢さんではありますけど、僕はその人の事は何も知りません! だから無理だと思うのです!」
「そ、そうですか……」
そんなに嫌なのですか……と、ベラにひっついたまんま離れもしないトンヌラの迫真の顔にポワンは圧されてしまう。
「でも嫌だからと言ってなんで私達の村に?」
そんなトンヌラを引き続きよしよししてあげながら、ベラが尋ねると、トンヌラはいよいよ本気でベラに甘えがらぶちまけた
「うん、僕結婚の事を考えさせれた時に思ったんだ。
結婚するならベラが良いって」
「へ?」
「あ、あらあら……」
泣き顔から突然真剣な顔付きで求愛じみた台詞を宣うトンヌラに、泣き虫な弟みたいに感じてたベラも思わず頬が染まる。
「ちょ、ちょっと待ってトンヌラ。
私妖精だし……」
「関係ないよ」
「トンヌラと違って、私はこのままだし……」
「ずっとベラのままって事でしょう? 僕は構わない」
「や……寿命だって違うし」
「気合いで克服するよ。
旅の途中で聞いたんだけど、進化の技法というものを使えば――」
「そ、それはなりませんよトンヌラ! あの技法は禁忌されているもの! もし手を染めれば天空の神による天罰が……!」
目を泳がせるベラを抱きながら真っ直ぐな目をしたトンヌラの、ヤバイ発言にポワンが慌てて止めに入る。
「じゃあ気合いだけで克服します。だから僕と結婚してください……!」
「ど、どうしましょうポワンさま?」
「し、進化の技法だけは使わせてはならないにしても、これは確かに困りましたね……」
気合いで諸々を克服するから結婚してくれと言ってからまたベラの胸に顔を埋めて甘えだすトンヌラが梃子でも動く気配がない様子に、ちょっと顔が赤いベラと、ヒヤヒヤした顔のポワンは困った顔だ。
天空人と地上の人が交わるよりは禁忌な訳ではないのだが……。
「ほ、ほら! 私より前にお化け退治を一緒にしたビアンカって子の方が……!」
「ベラが良い」
「で、ではいっそ天空の盾の持ち主の娘のフローラ――」
「ベラが良い」
「じゃあそのお姉さんのデボラ――」
「誰? ベラが良い」
イエスというまで絶対に離さん。
そんな気迫すら感じるトンヌラの意思にベラ自身は吝かではないし、別にポワンも否定するつもりはない。
無いのだが、この先の諸々が詰みそうな予感がするのだ。
「良いと言うまで僕はここを動きません。
種族の違いなんて僕には関係ないですから」
「トンヌラ……」
しかし本人は真剣だ。
あの小さな男の子が、見た目が変わらない妖精の自分を本気で愛してる。
そして梃子でも動こうとしない。
「ベラの良い匂いがして、僕好きだよ……」
「と、トンヌラ! く、くすぐったいし恥ずかしいからやめて……!」
「わ、わかりました! と、取り敢えずベラを今後の旅に同行させましょう! 結婚云々ついては旅をしながらゆっくりお互いに考えてみてはどうでしょうか?」
「え、ベラが僕の旅に?」
「はい。 話も急なものですし、少し落ち着いて考えた方が良いと思いますし……。
ベラも良いですね?」
「え? は、はぁ……私はトンヌラの旅に同行することは構いませんけど……」
結果ポワンの一声で、ベラが旅の仲間となった。
所謂問題の先送りでしかないし、トンヌラは今後全力でベラを口説き落としに掛かるだろう。
「やった……! また冒険ができるねベラ!」
「も、もうトンヌラ!? は、恥ずかしいからぐりぐりしないでっ!」
(ど、どうしましょう……)
かつての天空の勇者がシンシアというエルフの女性と共にしたのだから、きっとアリな気はするだろう。
……多分。
ベラルートみたいな話。
始まらない。
補足
SFCだとビアンカさん
PS2だとフローラさん
DSだとデボラさん。
そんな感じで取り敢えず各々やってましたけど……
じゃあスマホ版にベラルート解禁してよっっ!!!!!
……なんて思ってしまった次第で暴走しました。
その2
リュカとかアベルだと格好いい気がしたので、トンヌラだったら情けない5主人公キャラでいけるかなーみたいな。
ちなみに、今の時点でのステータスは攻略本の推奨レベルとステータス程度―――――
ですが、ベラルート解禁によりモチベーションがカンストを起こし、二ヶ月でスライムベホマズンを心酔させ、三ヶ月でパパス並みチート行動を開眼し、その後、皮の腰巻きとパパスの剣のみでミルドラースとタイマン晴れる領域へと進化します。
理由?ベラへの愛で
続かないけどね。