妹と再会した時、妹のパワーは姉である事すら忘れて恐怖する程に増大し、高まり続けていた。
そのパワーを身に付ける理由となったのは、離れ離れになった直後、『結果的に』救ってくれたらしいクウラという青年だった。
気ままに生きる猫そのものの性格をしていた彼女が最初にその名前を聞いた時には何かの冗談だと思った。
何故ならクウラという男は、ここ数年急速にその名と力を世界全体に知らしめた謎の男だったのだから。
圧倒的なパワーで神であろうが捻り潰す……そんな男の部下――いや、駒として今日まで生きてきたと知った姉の黒歌は勿論最初は何としてでも悪魔よりも遥かに危険な存在から妹の白音を守らなければと、戦いを挑んだが、結果は言うまでもなく何のかすり傷すら負わせられる事すらなく殺されかけた。
しかも挙げ句の果てには守ろうと思った白音がクウラに懇願する事で殺されずに済むという、守ろうとした相手に守られたというオチまでついて。
魔力とか、仙術だの妖術といった類とは違う――ただ純粋で圧倒的なパワーを誇る帝王の部下として、何気に毎日それなりに楽しそうに生きている白音に救われた姉は、拾った命を大切にしつつもやっぱり心配なので様子を見る。
「……メイド服なんて着てどうしたの?」
「クウラ様の部下だし、お世話係でもあるから、気合いを入れるという意味で着てみた」
「………ふーん?」
メイド服を着てるのを見た時は、さすがにクウラを一度疑いかけたが、どうやら本人の希望だったらしい。
白音の将来が別の意味で心配になってきた黒歌は鼻唄混じりに悪魔側に資金を出させて建てさせた屋敷のお掃除をしている白音を見ながら、いつの間にか遠くなって見えるその小さな背中にため息を洩らすのであった。
いそいそと、割りと楽しそうに朝の給仕の仕事を済ませた白音は学生服に着替えると、屋敷の広間――というよりはまるで城の玉座の様な椅子に座って瞑想をしていたクウラに膝を付きながら出発の挨拶をする。
「ではクウラ様、学校に行って参ります」
「うむ」
「…………」
目を閉じながら返事をするクウラと、満足そうに微笑みながら広間を出ていく白音を暇だからこっそり来ていた黒歌は、真面目に妹の将来が不安で仕方ない気持ちを圧し殺しながら見送る。
「…………………………」
「…………………………」
無駄に広いこの屋敷には基本的にクウラと白音しか住んでいない。
無論盗聴や盗撮といった仕掛けなんぞある訳も無く、あったとしたらそれは悪魔側がクウラによって壊滅する未来となるので、ある意味この場所は追われている者にしてみれば絶対なる安全が保証された要塞のようなものだった。
故に白音を守る為にかつて悪魔の主を殺してはぐれ悪魔となった黒歌にとっても、最適な隠れ蓑だったりする訳なのだが……。
「………………………」
(何か喋りなさいよ……)
何気にクウラと二人きりにされた後の空気感はある意味で堪らないものがあり、今も白音が屋敷から出ていった後もクウラは椅子に座って目を閉じたままイメージトレーニングをしていて、一言も喋ろうとしないものだから、黒歌も声には出さないが心の中で微妙な不満の声が出てしまう。
「……………………………………………………………」
「……こほん」
「…………………………………………………………………………………」
「こほんこほん……にゃんにゃん」
「………………………………………………………………………………………………」
「にゃーにゃー……にゃにゃっ!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
(これでも無視かっ!?)
あまりにも空気が重くなったので、洒落のつもりで椅子に座って瞑想しているクウラの足下で猫の様に丸くなってゴロゴロ転がってみたが、何の反応も無さすぎて黒歌は意味もない敗北した気持ちにさせられてしまった。
(ぐぅ、目付きは悪いけどそこそこ良い顔してるだけになんかムカつくわ……)
このクウラという男。
直接会う前の噂で聞いたのと違わぬ冷酷さと残虐さを持っているのだが、信じられない程異性に対する感心が無い。
いや、無いというか、自分が最強であり続ける事にしか興味が無いというべきか。
「……? 俺の足元で何をしている?」
「あ」
今もそうだが、イメージトレーニングを終わらせて目を開けたクウラが、たまたま猫の腹見せリラックスポーズみたいな格好をしていた黒歌と目が合っても、無機質な態度そのものなのだ。
「いやその……目を閉じっぱなしだったから寝てるのかなって……」
「それで何故そんなアホ丸出しな姿を晒している」
「や……軽い出来心で……すいません」
その余りの無関心な態度に素で謝ってしまった黒歌はそそくさと立ち上がってクウラから離れると、途端に恥ずかしくなってきたのか、明後日の方向に向いて誤魔化していた。
「白音は出払ったぞ、貴様は何時まで居るつもりだ?」
「居ちゃ悪いの? 向こうよりここの方がある意味安全だし……」
「目障りだとは思うが、わざわざ追い出す程でもない。俺の周りをうろつかなければ勝手にしろ」
「ハッキリ言うなぁ……」
その歯に衣着せぬ言い方にちょっと笑ってしまう。
再びイメージトレーニングに戻ったクウラはそれ移行黒歌と話すことは無かったという。
かつて超サイヤ人へと覚醒した孫悟空を倒すために100%のフルパワー状態になって対抗したクウラの弟であるフリーザは、全力を出すことに慣れていなかったが為に反動でパワーを落とし、その結果敗北した。
兄のクウラはフリーザで言うところの最終形態を維持して身体を慣らしていたが為に反動というものを克服したばかりか、更なる形態への変身を可能にした。
(かつての俺はあの変身を可能にした事で、それに満足をしてしまっていた。
超サイヤ人に敗れ、醜い姿になった今、力を完全に取り戻すのは当然として、取り戻した先へと到達しなければ奴等には勝てん。
その為には自身のエネルギーを1から100まで完璧にコントロールを可能にしなければならん)
先の変身を可能にした事に満足し、その形態の訓練を疎かにしたから敗北した。
身体をメタル化させ、超サイヤ人に拮抗する程のパワーアップをしたが、それでも負けた。
だからクウラは、現状から力を完全に取り戻した更に先の領域への模索に時間の大半を費やしてる。
そのひとつの答えが、自身の持つエネルギーの完全なるコントロール。
それは奇しくも神の領域と同等の領域へと踏み込んだ弟のフリーザが、エネルギーコントロールを疎かにした結果、再び敗北して地獄へと突き落とされた際に行った訓練と同じものであった。
(水面すら揺らさぬ繊細さと、究極の激しさを併せ持つエネルギーコントロールを可能にすれば俺は更なる領域へと到達できる筈だ……)
その為には瞑想を行い、己の中に宿るエネルギーを僅かな欠片も見逃さずにコントロールする。
全身にエネルギーを満遍なく浸透させ、戦闘となれば一気爆発させて無駄なエネルギーロスを防ぐ事さえできれば、長時間に渡るフルパワーを解放しても身体への負担も減らせる筈だと悟ったクウラは、ひたすらに己の内包するパワーと向き合っていた。
「………………ふぅ」
そのイメージトレーニングが存外疲れるものであり、今まではその有り余るパワーを解き放ち、敵を殲滅していたクウラにしてみれば箸で絹ごし豆腐を掴むかのごとき繊細なエネルギー運用は骨が折れるものがあった。
とはいえ、宇宙最強レベルの力を持った者。
一度コツさえ掴めば瞬く間にクウラは己の力の完全制御を可能にさせてしまう。
白音が学校に行ってからずっと瞑想によるイメージトレーニングをし、気付けば窓を照らす太陽が傾き始めていた事に気付いたクウラは、一旦イメージトレーニングを終了させ………
「すー……すー……」
「む……」
ふと視線を向けると、本当にずっと黙ってそこに居たと思われた黒歌が、テーブルに突っ伏して寝ているのに気付く。
「…………」
すやすやと眠る少女を前にクウラの目線は無機質で冷たい。
白音の姉で、白音に拝み倒されたから殺さずに居てやっただけで、クウラ自身は黒歌に関心も無ければ名前すらまともに呼んだ試しは無い。
今も普通に寝ている黒歌を見たクウラは、数秒後には興味が無くなったのか、椅子から立ち上がるとそのまま通りすぎて広間から出ていくのであった。
「……………。ここまで清々しくスルーされると、笑けてくるにゃん」
実は寝たフリをして様子を窺っていたんだとしても、クウラにとって部下になれる資格も価値も無い存在は等しく有象無象なのだ。
白音は、クウラの部下として色々と暴走している感はあるが、成熟を迎える前に戦闘力を300万に到達させるというクウラからの至上命令は勿論守ろうと真剣に修行をしている。
地獄の方がまだマシと思える苦痛の果てに手にした推定戦闘力11万は、まさに白音の血の滲む努力の賜物だ。
そして今、その戦闘力を約30倍に上げる為の修行方法を模索していた。
「今のままのトレーニングではとてもじゃないけど、300万という戦闘力にまでは届かない。
クウラ様に聞いても、あの人は生まれた時から数百万の戦闘力を持ってたらしいし……」
そもそもこの世界の地球人が数百万レベルの戦闘力に到達するのは殆ど不可能な話であり、10万に到達できただけでも奇跡でしかない。
それは白音による執念の結果掴んだものだが、此処から先の領域は執念だけでは足りないのだ。
「例えば兵藤先輩の神器の様に、戦闘力自体を倍加させる何かを会得すれば糸口になれるのだけど……」
最近の白音は専ら戦闘力の底上げにはどうすれば良いのかの模索に費やしており、校内を無意味に徘徊しながら歩き回っているらしい。
そして偶々校庭付近を歩いていた白音が目にしたのは、近々行われる球技大会の部対抗試合の練習をしているオカルト研究部の中に混ざってるイッセー。
球技内容が野球で、リアスがノックした球をグローブでキャッチしている姿に別段関心は無いが、彼の持つ使用者の力を倍加させる神器の能力には些か興味があるらしい。
「あの人の神器の力みたいに、私自身の戦闘力を何かを切っ掛けにして一気に爆発上昇させる事ができれば或いは……」
楽しそうに球技練習をしているイッセーを見ながら、ただ戦闘力を底上げさせるだけでは時間が足りないと、白音は真剣に考察を続けていく。
金髪の美男子の木場祐斗が、なにやら心ここに在らずでエラーばっかりしてる光景もちらほらあったが、白音はあまり関わりも無いので特に気にすること無く、取り敢えずその場を後にする。
その数日後、その木場祐斗があるものに対して復讐心を宿していて、とある者達の出現によりそれが暴走する事になったとしても、白音には関心の無い事であった。
「変身……あ、アレって変身になるか試しにクウラ様に聞いてみようかな?」
姉との再会時に一応為にはなるからと教えられたとある技術によって偶発的に起きた身体の変化について思い出した白音は、とにかくクウラに見捨てられない駒になることだけが生きる意味なのだから。
さて、結果的に何とかライザー・フェニックスとの婚約を抹消させる事に成功したリアスは束の間の平穏を楽しんでいた訳だが、コカビエルという堕天使が天界陣営に保管されていた聖剣を強奪し、よりにもよってこの町に逃げ込んだという話で、頭の痛い事になっていた。
しかも、その聖剣に並々ならぬ憎悪を抱き続けた眷属の木場祐斗が復讐心に先走って暴走し、行方を眩ませてしまったというダブルパンチもあってか、リアスはちょっとだけ滅入っていた。
しかし今回の騒ぎは決して小さくはないので、取り敢えず要らぬ忠告かもしれないけど、この町に住んでいるというのもあるので、リアスは木場祐斗が欠けてる眷属達と共にクウラの屋敷を訪ねた。
「―――と、いう訳なのよ。
貴方にしてみれば、有象無象が何かをこそこそとやってるだけにしか思えないのだけど、一応教えておくわ」
「…………」
そう言い終えたリアスは、グレイフィアのプロデュースしたメイド服を着た白音を横に控えさせ、つまらなそうに椅子に座って肘掛けを使って頬杖を付いてるクウラの予想通り過ぎる反応に相変わらず過ぎると思う。
「聖剣ですか。
大変ですねそちらも」
「ええ……祐斗――私の眷属の一人がその聖剣に恨みを持っていてね、昨日から行方知れずで……」
「あらまあ」
事実他人事な反応をするだけ、まだ白音の方がマシに思えてならないリアスは、ふと何となく彼女の胸が大きい事に気付いたが、聞くのは野暮な気がしたので気付かないフリ――
「な、なぁ小猫ちゃん? 俺の眼が節穴じゃないと思うから聞くんだけど―――おっぱいデカクね?」
しようとしたけど、イッセーが軽く鼻の下を伸ばしながら白音にぶちかましてしまった。
後ろでアーシアがムッとした顔をしてるのも気付かない辺りはイッセーらしいし、あの顔からしてどうやらPADで誤魔化してるという類いではなく、本物らしい。
「ああ、これですか? 種族としての技術を使ってその力の維持のトレーニングなんですけど、使うとなんでか胸が大きくなるんですよね。
正味戦闘の邪魔になるんでアレなんですけど」
「昨日見た時より明らかに大きくなってるからビックリしたけど、そういう事だったのね……」
「なぬ!? そ、その技術さえあればおっぱい祭りに……!?」
技術とやらで胸が大きくなるとか地味に内容が気になるリアス達の横で、興味津々のイッセー。
お胸マイスターを自称するだけあって、白音の急成長してる胸から目を離さない。
「…………。話はそれだけか? いい加減下らぬお喋りを止めて、その行方知れずの下僕とやらを探したらどうだ?」
若干空気が和み掛けたそんな時、それまでつまらそうにしていたクウラが厳しい一言を放つ。
「勿論探すわ、けど外交の問題があってね。
聖剣奪還に二人ほど人間の悪魔祓いが派遣された時に釘を刺されたのよ」
無論、匙を投げたつもりはないリアスは外交問題を理由として話すが、クウラは馬鹿馬鹿しそうに鼻を鳴らす。
「ふん、神ごときにすら劣る天使共を恐れて部下一人制御できず、ここに来てベラベラと喋るだけとはな。魔王の妹が聞いて呆れる」
「……」
「そ、そんな言い方しなくても。
三大勢力の関係性は複雑らしいし……」
「そんなもの、そこの小娘が管理とやらをしてるこの町で、別勢力の蝿共が勝手に侵入して好きに動き回っている時点であって無いようなものだろう?
それなのに何故とっとと首謀者を探して始末しないか――――それは貴様等がソイツ等に力で劣っているからだろう?」
『…………………』
力こそが全てを可能にすると信じるクウラの身も蓋もない言葉に、リアス達は何も言えずにうつむいてしまった。
「まあまあクウラ様。
私達の様なフリーランスと違って皆さんは悪魔という勢力の一員なのですから、やはりそういう外交的な問題は無視できませんって。
クウラ様だって、その昔はお父様と弟さんとの勢力関係をうまく維持なされていたのでしょう?」
「フン、仮にどちらかが支配する惑星を俺が気に入れば、関係なく奪いに行く」
「それはクウラ様だからです。
クウラ様がお強いから可能なのです」
「……」
そんなリアス達を見て白音がフォローする中、クウラの過去めいた話が飛び交うが、話の内容がぶっ飛んでいて嘘臭くリアス達は感じた模様。
「ですが、その……えーっと、確か木場先輩さんでしたよね? その人を早いとこ見つけて止めないと、外交問題がややこしくなると思いますよ?」
「え、ええ……わかってるわ。勿論これから私達は彼を探すわ」
「木場は友達だからな! イケメンでちょっと許せないけど……」
何気に白音が宥める形で収まる。
弱者共の考えは理解できないといった表情で座り直すクウラは気になるものの、取り敢えず祐斗を連れ戻す事に決めたリアス達は、帰り際に考察していた事をクウラに話す。
「多分だけど、コカビエルの目的は聖剣ではなくてこの町に居る貴方だと思うわ。
貴方はそれだけ有名だし……」
「………………」
そそくさと帰っていくリアス達を見送ると、白音は長椅子に座ってたクウラの後ろの陰に隠れていた姉の黒歌に呼び掛ける。
「黒歌姉様、皆さん帰られたからもう大丈夫だよ?」
「んっ……はぁ……見つかると色々と厄介だから焦ったわ」
「……………」
ぬっとクウラの影から出てきたみたいに姿を現す黒歌は、身体を伸ばして大きな胸を揺らす。
「よくまあそんな胸で動けるよね? 慣れてないせいか私は邪魔にしか思えないよ」
「仙術で型崩れしない様に調整してるからね。
揺れはするけど不便はないわ」
「ふーん?」
「………………」
黒と白の猫姉妹が和気藹々としてるのに挟まれる形にクウラは座っていると、白音がクウラに訊ねた。
「コカビエルという堕天使がひょっとしたらクウラ様を狙っているとの事ですが、どうされます?」
「堕天使は以前何度か消してやったが、恐らくお前でも消す事は可能だろう」
「何気に白音を一定の信頼はしてるのね……?」
「当たり前だ。俺が成長の見込みもない雑魚をいつまでも傍に置くか。
まだまだ話にはならんが、白音はそれなりに戦闘力をあげてはいる」
「わーい、クウラ様に褒められちゃった♪」
「……………」
逆を言えば、使えなかったらその時点で切り捨てていたと言い切るクウラに黒歌は微妙な気分になるが、今はまだ使えると認識されてるのでそこを言及するのは野暮だと口を閉じる。
「故にだ白音、貴様に命じる」
ある意味究極の抑止力となってるクウラの部下という立ち位置は、部下である内は確かな安全を約束されているのは黒歌も認める所なのだ。
「そのコカビエルとやらを探し出し、直ちに始末しろ」
「はっ……」
クウラからの命令に、彼の前に膝を付いて頭を下げる白音。
「ちょ、ちょっと待ってよ。
コカビエルっていったら堕天使でも大物クラスなのよ? それを白音一人に倒させるって……」
「黙れ。最早白音にも劣る貴様に意見する権利なぞ無い。
もしソイツにこいつが殺される事になるのだとしたら、白音も所詮はそれまでだったというだけの事だ……」
「う…」
「出来るな白音? 俺はお前を買ってるつもりだ。
もしその期待に応えられる様なら……機甲戦隊と同等の地位をくれてやろう」
「!! 必ずやクウラ様のご期待に応えてみせましょう……!」
かつてのクウラの親衛隊だったクウラ機甲戦隊と同等の地位を与えると言われた白音は、その昂りで興奮したのか、全身から具現化させた戦闘力のオーラを放ち、テーブルの上にあったグラスを割る。
(し、白音から信じられない程の力が涌き出てるにゃ……)
次元の違うオーラを放つ白音の力に黒歌は戦慄する。
「制限時間はございますか?」
「今から数えて二日だ」
「二日!? そ、そんなの無茶――」
「「………あ?」」
「――にゃ~ん……」
妹が気付いたら自分をぶち抜いて遠くに行ってしまったと寂しく鳴く黒歌は、某堂島の龍ばりの早脱ぎでメイド服から現状一番動きやすい駒王学園の女子制服に着替える。
「あ、むむ……ごめんなさいクウラ様、服を変えます。
この状態だと胸が苦しくて……」
「……勝手にしろ」
しかし、普段の白音の体型に合わせた制服では、変身――というか白音モードとなって維持してる姿では胸が苦しかったので、違う服装にチェンジすると、今度こそクウラに挨拶をする。
「行ってまいりますクウラ様。
………………数時間で戻ります」
「……ほう、良いのか? 二日の猶予を与えてやったのにそんな言葉を吐いて?」
「構いません。
クウラ様の駒であり続ける為には、この程度の事に手間取っていられませんから。
ただ……」
「? なんだ」
「もしも私が数時間でコカビエルの死体と共に戻って来れた時は――ちょっとだけで良いので、私の頭を撫でながら褒めてくれませんか?」
「…………それは何の意味がある?」
「モチベーション向上です。
もしして頂けたら……ふふ、もっと頑張れそうですから」
微笑む白音の懇願にクウラは椅子に座ったまま目を少しだけ細めるが……。
「まあ、その程度の事なら良いだろう」
別に大した事でも無いので頷いた。
その瞬間、白音の全身から白銀を思わせる戦闘力のオーラが放出し――
「行ってきます……クウラ様!!」
窓から飛び出し、ジェット機よりも遥かにすさまじい速度で空へと飛んで行った。
「し、白音……あぁ、白音が不良みたいなのに……」
そんなやり取りを見て何かを察したのか、黒歌は妹の将来が更に心配になったとか。
もっとも、宣言した通り白音は数時間どころか40分程度で帰還した。
「証拠になると思って、死体は取り敢えず残して始末しました。ご覧下さい」
堕天使の死体を連れて……。
「おいお前、コイツが例のコカビエルとやらなのか?」
「う、うん多分。
この悪人顔は間違いないよ………ズタボロだけど」
白音。
クウラへの忠誠心により強くなるタイプの少女だった。
「ついでに居た神父も殺しはしませんでしたが、両足を切断して放置しておきました。
恐らくこの堕天使の悪巧みの仲間だと思いますが、まあそこら辺の始末は悪魔や悪魔祓いの方々に任せようと……」
「ああ、白音がどんどん殺し屋さんみたいに……」
「わかったご苦労だ白音。ククク、お前の中で何があったのかは知らんが、俺の指定したタイムリミットを大幅に短縮してみせるとはな。
俺の駒としては今のところ合格点だ」
「! あ、ありがとうございます……! そ、それでその……さっきの約束なんですけど……」
「機甲戦隊と同等の地位はくれてやろう。
それと、さっさと頭をこっちに寄越せ」
「………………あぅ」
「これで良いのか? 地球人の考えることはわからんが――」
「はぁ……! あぅぅ……! あははぁ……嬉しい……嬉しい……!」
「…………………………………?」
そしてちょっと、クウラにご褒美されるとハイになりやすい少女だった。
「ク、クウラさまぁ……ごめんなさい、一気に『周期』が来ちゃったにゃぁ……!」
「おい……俺の手を掴んで何処に触れさせるつもりだ」
「ちょ、し、白音! それは流石に冒険すぎるって!」
「ちょ、ちょっとだけだから……! 胸が苦しくて、お腹が熱いから撫でてください……!」
「………………………」
白音
現在戦闘力・12万(コカビエルを始末した際に何かを『喰った』事で向上)
白音モードで戦闘力+2万
食らう事で無限に戦闘力を上昇(一切の自覚無し)。
クウラに褒められると一気にハイになる。
サウザー・ブレード(白音版)
破壊光線(白音版)
ミニデスボール
クウラ
基本戦闘力・9700万(オリジナルボディならば1億5000万前後)
全力によって+1億(オリジナルならば変身により4億5000万)
メタルクウラ時代の瞬間移動(短距離)
メタルクウラ時代の様な修復強化機能は消失(その代わり白音の自覚無き何かに酷似したものを持つ)
破壊光線
デスフラッシャー
デスチェイサー
スーパーノヴァ
黒歌
基本戦闘力・920
仙術強化にて+300
クウラにはまともに名前すら呼ばれた事の無い黒猫。
終わり
何者かによってコカビエルが殺された。
今回の騒動における後始末と今後の関係についてを話し合う為に三大勢力のトップ達の会談が行われる事になったのだが……。
「く、クウラ!? な、何故キミが学園に……」
「魔王の一人か。
別に俺とて好き好んで来た訳では無い。
俺の部下がここに通っていて、保護者が見に来る日だから来いと頼まれたからだ」
「あ、あぁそういう……」
一回マジで殺されかけてビクビクしてる赤髪の魔王と父兄参観日に鉢合わせしたり……。
「こんにちはグレイフィアさん。
ふふ、どうですか? 中々この格好も板についてきたでしょう?」
「ええ、とても似合っておりますわ。
それで彼とはその後どうでしょうか?」
「いつも通りです。
でもこの前褒められたので結構モチベーションが高まってたり……」
「ねぇ、キミの部下の子と僕の妻はなんであんなに仲良くなってるのかな?」
「俺が知るか。
珍妙な服をお前の妻が寄越してからああなった」
「あ、だからか……最近同志が出来たって楽しそうにしてるから」
其々の嫁と部下が意気投合してるのを見てたり……。
「はーい! 私がレヴィアた―――」
「……………………………」
「げげっ!? あ、アナタはクウラ!?」
体育館のステージでテンション上げて騒いでたもう一人の魔王とこれまた鉢合わせした瞬間、その魔王が明らかにビビってしまったり……。
「あ、こ、こんにちはクウラさん。
その、姉が騒がしくして申し訳ありません……」
「べ、別に騒がしくしてないし。
なんかガン見してくるから落ち着かなかっただけだし……。
と、というか何なのさ? 何か言いたいことがあるなら――」
「おい白音。
お前はまさかあの雑魚の格好まで真似る気は無いだろうな?」
「いやー……あそこまで流石に冒険はできませんねぇ」
「なら良い。行くぞ白音」
「はーい」
やっと出てきた言葉がディスるだけの言葉で固まるシトリー姉妹を無視して去っていったり。
「十中八九、コカビエル達を消したのはクウラとあの猫妖怪の部下だと俺は思っている。
リアス、お前達がクウラにコカビエルの事を話したんだろう?」
「え、ええ……一応と思って」
「なら辻妻も合う。
奴ならコカビエル達を瞬殺できるだろうしな」
会談席でクウラ達について話題が出たり。
「クウラが敵に回ったらそれで終わりだ。
良いか、俺達はいがみ合うよりも先ず奴をどう敵に回さないかに知恵を出し合うしかねぇんだよ。絶滅を回避する為にはな」
「正論ではありますが……」
「下手に干渉せずに一定の距離を保つべきだね……。じゃないと今度こそ殺される」
「美的センスだけはダメダメだけどね」
「あ、あの……クウラ殿? 出来れば私の娘を返して欲しいなーって……」
「フン、連れて帰れば良いだろう? ただし、今の奴を貴様程度が御せるのであるのならな……」
「違う九重! 腕の角度が20度ずれてる! オーフィスはもっと背筋を伸ばす!」
「こ、こうだな!」
「意外と難しい……」
「あ、あの変なポーズの練習の意味は?」
「白音が勝手にやり出した事だ」
「致命的にダサいのはなんでにゃ?」
「それこそ俺が知るか。サウザー共みたいになりおって……」
ひょんな事から狐に懐かれた帝王の屋敷はカオス化していく。
「「「新生・クウラ機甲戦隊! とうっ!!」」」
「……………………」
変なポーズを決めるチビッ子三人。
「あ、あぁ……む、娘が……」
「ま、諦めるしかないにゃ。
クウラですら凄まじく微妙な顔してるし」
娘がテコでも動かないので、仕方なくクウラの屋敷に住み着かなければならなくなる未亡人と、最早普通に住み着く黒猫。
男の部下が何気に一人も居ない事にイッセーが気付いて変な対抗意識を燃やし始めたりするが……その部下が既に異常な戦闘力だったので表だって文句も言えない。
ただひとつ言える事は……。
「ククク……フハハハハハッ!! 戻った! 俺の本来の戦闘力へ――いや、それ以上のパワーを!!」
「やっぱりクウラ様も喰らう事で強くなるんですね?」
「くくく、まさか俺とお前にこんな特殊能力があったとはな……! 褒めてやる白音……お前のお蔭で俺は更に先へと踏み込めた!」
敵にとって彼等は……。
「俺こそが、宇宙最強だッッ!!!」
悪夢そのものなのだ。
「ところでクウラ殿は誰かを娶る等はしないのでしょうか……?」
「必要性が無い」
「でもお若いですし……。強さだけを求め続けるのも虚しくなるだけですよ?」
「ほう? 貴様は俺の生き方にケチをつけるつもりか? なら言ってやろう、俺が何故わざわざ下等生物なんぞを娶らなければならん?」
「か、下等生物……」
一応括りとしては仲間に分類される者にも厳しいが……。
「そもそも何故そんな事を聞く」
「む、娘が……」
「九重がなんだ?」
「む、婿にするならクウラ様が良いと言い出しまして……」
「ふん、餓鬼の戯言だろう。
そんな戯言を真に受ける暇があるなら戦闘力を上げろ」
「えぇ……?」
「うん、そういう奴だからクウラは」
宇宙最強にしか興味の無い青年は今日もそんな感じだった。
嘘だよ
補足
お姉ちゃんとしてはとても心配なのだ。
その2
しかし、天然で飴が与えられて張り切った白音たんは最短でコカビエルをひでぶさせてしまう。
これにより、彼女の秘められたなにかが出てきた様だが……?
その3
お母さん、普通にクウラ様からどうでも良い存在認識される。
しかも気付いたら娘に戦闘力をぶち抜かれて説得もできやしないという悲しき定め。
まあ、嘘だけどね。
その4
完全に地球人型になってるので、誰かと子孫は残せる。
が、クウラ様だもの……そんな考えは最初から無い。
攻略がNIGHTMAREなのだ。