しかし彼はもう二度も負けてます……。
それを知るのは――
ふと思う。
私ってひょっとしたらクウラ様がかなり好きなのではなかろうかと。
いやまあ『なかろうか』では無くて、間違いなく好きという感情を持っていると思う。
でなければいくら周期が訪れたからと言っても、クウラ様の私物を使ってなんてしないもの。
……………。うん、思い返す度に相当恥ずかしいや。
そもそも好きになる要素って、普通に考えても無いし。
でもなぁ……それでもそう思ってしまうというか。
それに、長いことクウラ様のお側に居すぎて、他の異性に対する魅力を欠片も感じなくなってしまった訳だし。
まあ、相手にしてくれるとは思えないし、無謀な望みなのかもしれないけど、気長に頑張りますか。
………まずは自分の戦闘力を300万に到達させなければならないしね。
悪魔、堕天使、天使。
所謂三大勢力と呼ばれし者の各々トップを勤める者達は、会談時のイザコザの後始末を必死にやった。
主にクウラというトラウマ必至な存在に対して『我々は決して貴方の敵ではなく、これからもそれは変わらない』という説明と説得に全力を注いだ。
当然貢ぎ物を用意したし、とにかく必死だった。
それが項をそうしたのか……それとも単純にクウラから敵にすら思われてもなかったからなのか、上手いこと絶滅は免れはしたが、これまで以上にクウラへの気配りに神経を注がなければならなくなったのは云うまでもなかったとか。
必要以上に関わると却って機嫌を損ねる可能性がある。
故にクウラとその部下に対してはより一層気を配れ。
魔王達に直接命じられたリアスとソーナは、自身の眷属達に当たり前の如く命じた。
白龍皇を一撃で戦意喪失まで追い込み、何の躊躇いも無く学園ごと消し飛ばそうとする異質な戦闘力を持つ白音をしても『次元が違いすぎるお方』と評されるクウラにはどう逆立ちしたって勝ち目なんかある訳が無いのだから当然だと眷属達も頷いたのだが……。
「あのー……下手にちょっかいをかけるのは危険ってのは俺もわかりますし、勿論しないですけど、小猫ちゃんは……」
「彼女はクウラの部下よ。
アナタが気にしたところでどうにもならないわ」
「…………」
この期に及んでまだ白音を気にしているイッセーに、リアスは何度でも釘を刺す。
白龍皇の腕を半笑いで引きちぎって、何の躊躇いも無しに周囲ごと皆殺しにしようとした少女は、どこまで行こうがあのクウラの部下なのだ。
イッセーがずっと彼女を気にしているのは知っているが、だからといって自分達が何を出来る訳じゃないし、あくまで彼女はクウラの所有物であり、白音自身もそれを承知し、寧ろそれを望んでいるのだ。
クウラの思想を押し付けられているとか、クウラに強要されている等という考えは、所詮こちらの勝手な考えでしかないのだ。
「とにかく、今日から学校は夏休みに入るわ。
夏休み中は冥界にある私の実家に帰省する事になるから、クウラ達の事は一旦忘れなさい。いいわね?」
「……………はい」
イッセーの目線ではクウラは白音に殺害を強要する奴という認識で固まってしまっているせいか、あまり納得した顔はしていない。
反対に、クウラの事を一切知らず、授業参観の時に危うくクウラに文句を言いかけた匙は、三大勢力会談の時の極悪さを目の当たりにしたのと、ソーナ達にクウラ達の危険性を教えられたせいか、すっかりと長いものに巻かれる様な態度だった。
ともかく、彼等の夏休みはまだ始まったばかりだ。
さて、そんな第一級危険生物扱いされてるクウラと白音は、悪魔達の用意したいつもの屋敷にて、サーゼクスとグレイフィア夫妻の来訪を受けていた。
「えーっと、我々悪魔からの敵対はしない証を……」
「どうぞお納めください」
どうやら必至のご機嫌とりの真っ最中だったらしく、悪魔の上層部達からかき集めた資金や物資の献上を魔王を代表してサーゼクスと、妙にハートの強いグレイフィアが行っているらしい。
「白音」
「はっ」
クウラにしてみれば、勝手に頭を垂れてるだけの生命体という認識しかしてないので、何を言われようが特に気にもならない。
高そうな品物を献上され、白音に受け取りを命じさせれば、グレイフィアと似たデザインのメイド服を着た白音が受領のサインをする。
「確かに。
ああ、そういえば夏休みに入るとかで、グレモリーさん達は冥界に帰られるのでしょう? その間の街の管理はどなたが?」
「代わりの悪魔を派遣するつもりです。
もっとも、お二人が住むこの町に侵入して何かをしようと考える輩が果たしてどれ程居るかですけど……」
「ぐ、グレイフィア……!」
割りとズケズケと言っているグレイフィアに夫のサーゼクスはハラハラしてしまう。
まあ、クウラも白音も特に気にしては無さそうだったが。
「カテレア・レヴィアタンの件は大変申し訳ありませんでしたわ。
かつては私も所謂旧族派の者でしたし、同族として謝罪します」
「それほど気にしちゃいませんから大丈夫ですよグレイフィアさん。ね、クウラ様?」
「……………」
何故か微妙に仲の良いグレイフィアと白音を無言で見るだけのクウラと、いつのまに仲良くなってたんだと地味に驚くサーゼクス。
メイド仲間だからと説明したところで、サーゼクスはともかく、クウラには理解できないだろう。
こうして悪魔達からの献上物を手に入れた白音は、中身を確認しながらそれを地下倉庫に仕舞う作業を終わらせる。
「完了致しましたクウラ様。
計算してみたところ、数百年は余裕で遊んで暮らせるとは思いますが……」
「その時までにはとっくに奴等との関係なぞ切れてるか、お前の餌だろう」
「ま、そうなりますよねぇ? できればグレイフィアさんだけは勘弁して頂きたいんですけどね。メイド仲間ですし」
どう足掻いてもニートをやれるだけの金品を手に入れたと報告する白音に、クウラは声は相変わらず冷たいものだった。
白音の成長の道しるべが完成に向かい始めた今、クウラもまた本格的にかつての戦闘力を取り戻す事を決めた今、悪魔だその他この星に生きる生命体の未来なぞどうでも良いのだ。
「あ、そうそう、オーフィスからの伝言が……」
「なんだ?」
「えーっと、ヴァーリさん? ほら、この前腕が簡単にもげた脆い白龍皇の人が組織に渡ったらしいです。
なんでも私とクウラ様に復讐するとかなんとか……」
「ほう?」
水を飲みながら話を聞くクウラが、珍しく関心を示した声を出した。
「小娘に殺されかけたから、てっきり精神でも破壊して使い物にならなくなったと思ったが、存外そうでもなかった様だ」
「アザゼルさんに相当高性能な義手を貰ったみたいですね。
もっもと、ただそれだけの話ですし、組織自体最早長く無いので、渡った所で無意味なんですけど」
「数ヵ月後には解体すると奴は言っていたからな」
とはいえ、ヴァーリ自体のこれからには何の関心も無く、復讐目的で動いてると聞いた所で『だから何だ』と言わんばかりの反応だった。
「白音よ、わかっているな? 今度は確実に殺せ」
「畏まりました」
寧ろ嫌すぎるフラグが完全に設立されてしまった感しか無く、クウラの命令を絶対視する白音は当たり前のようにその命を受けた。
アザゼル辺りが命乞いをするだろうが、わざわざ喧嘩を尚も売ってくる輩に慈悲を与えてやるほど白音も甘くは無いのだ。
さて、冥界に行ったイッセーがリアスの実家の壮大さに圧倒されたりしている頃、ヴァーリ・ルシファーはアザゼルが半ば強引に作成させて強奪した、義手によって失った部位を復活させ、美猴という孫悟空的なアレのアレな青年の手引きで禍の団という組織に渡り、死にかけて心も破壊されかけたというのに、尚も白音に対するリベンジを燃やしていた。
「なに? 彼女の姉がこの組織に?」
今のままでは勝てない事を認め、組織内で力を蓄えようと考えていたヴァーリの耳に入った、同組織内に自分の腕をもいだ白い猫の姉が居るという話。
無論興味があるヴァーリは、その姉とやらに会えないかと美猴に聞いてみる。
「どうかな、そいつってオーフィスの腹心的な位置に居るみたいだしよ」
「余計に興味が沸いたよ。
オーフィスも何れは俺が倒すつもりだし、会って損は無いな」
もしその姉が妹並に強ければ良い実戦トレーニングの相手になる。
そんな事を考えたヴァーリは早速探しに出掛けたのだが……彼女は見つからなかったそうな。
それもその筈だ。
何せその姉である黒歌はオーフィスと共にクウラの屋敷に来ていたのだから。
「半数は整理した。もう少しで終わりそう」
「あらまあ……」
「それに付き合わされてるせいで、ちょっとした修行になってるのよね……」
「ああ、確かに。
微妙に強くなってる気配があるかも」
今頃白龍皇が探し回ってるとも知らずに、呑気にクウラの屋敷でお茶をご馳走になってるオーフィスと黒歌。
既に本人達はかなり勝手な事に組織を半ば手離してる感覚だったりする訳で、禍の団の構成員は殆どそれを知らない。
つくづく救われない連中だ。
「それでクウラは?」
冷酷で無慈悲が服でも着て歩いてる様な存在であるクウラの側ならば、ある意味で望んだ静寂を得られるかもしれないという理由で、全てが終わればそのままクウラの――というより白音の部下になる気であるオーフィスと、ある意味クウラの側に居たら悪魔に追われる事もないという理由でついてくる気の黒歌の二人は、そういえば姿を見せないクウラの行方を白音に訪ねる。
「クウラ様なら自室で寝てる」
「え、アイツって寝るんだ?」
「どうやって寝てる?」
どうやら今自室で寝てるらしいが、これまで寝てる姿をまともに見たことがない二人はそれだけで驚いた。
「どうって、普通だよ?」
「瞑想している姿は見たことあるけど、アイツが寝てるなんて想像できないんだけど……」
「気になる……」
あの無表情男がどんな顔して寝てるのか。
実に、地味に気になる黒歌とオーフィスが興味津々な表情になった後、黒歌が言い出した。
「ちょ、ちょっと見ても良いかな?」
「見るって、クウラ様が寝てる姿を?」
「だって凄い気になるんだもん。
クウラって永遠に起きっぱなしな気がしたからさ……」
「ロボットじゃないんだから、クウラ様だって寝るよ姉様……」
元のボディだったら数分寝るだけで長時間活動できてたらしいけど……と、内心呟く白音は、オーフィスが黒歌の隣で同意するようにコクコクと頷いてるのを見て、仕方ないとため息を吐く。
「あまりおすすめはしないけど、見てみる? 本当に普通に寝てるだけだよ?」
「お、おお……なんだろ、凄いドキドキしてきたにゃ」
「うん……! 我の気分が高揚する……!」
見たところで面白くもなんとも無い――と、実は自分が一番見まくってる立場の白音は、わくわくしてる二人を連れてクウラのお部屋に行き、コソコソと中へと入る。
「…………」
「ほ、ホントに寝てる……」
「よくわからないけど凄い……」
「そんな大袈裟な……」
そしてベッドの横に立った三人は、本当に普通に寝てるクウラの姿を見る。
目を閉じ、石像の様な寝顔で眠る辺りは実に彼らしいが、黒歌もオーフィスもそれだけで珍しい金塊でも発見した様なテンションだ。
そのまま暫く見ていた三人だが、それまで静かに目を閉じていたクウラが突然苦しむ様な声を出し始めた。
「え、魘されてる……?」
「苦しそう……」
「…………」
苦悶の表情を見たことが無かったので、またしても驚く二人とは逆に、白音はうなされている理由を察し、二人を部屋から出すべきかと考えていた。
絶対的な自信を持った自分。
本来の肉体を持った自分。
圧倒的なパワーと自信を兼ね備えた帝王の兄は、弟のフリーザの仇ではなく、自身の一族に泥を塗ったサイヤ人を八つ裂きにする為に地球へと襲来した。
一族に伝わる伝説の戦士。
フリーザはその力に覚醒したサイヤ人に殺されたのだと思い、その力を真っ向から叩き潰すためにサイヤ人の男と戦った。
『フン、流石にやるな。
我が弟を倒しただけの事はある……。だが、これからが本当の地獄だ』
戦ってみた所、そのサイヤ人の男は確かに並サイヤ人を遥かに凌駕した戦闘力を持っていて、爪の甘い弟を倒せたのもうなずけた。
『あと一回……。あと一回、俺は弟よりも多く変身できるのだ』
しかしそれでもクウラは負ける気はしなかった。
それは弟とは違って甘くは無い。そして弟よりも強いという自負があったから。
故に一気に勝負をつけてやろうとクウラはサイヤ人の男に言った。
『光栄に思うが良い。俺の究極の変身が見られるのは、お前が最初で最後だァァァァッ!!!』
完膚なきまでに潰す。
細身であった肉体が巨大化し、全身を禍々しく変貌させていくクウラは、その口許を覆いながら処刑宣告をする。
『さぁ、始めようかァァ……!』
その後、圧倒的なパワーで追い込んだ。
一切の反撃も許さずに叩き潰したつもりだった。
だがトドメを刺そうとしたその瞬間、サイヤ人の男は黄金の輝きを纏い、立ち上がった。
それがフリーザを倒した伝説の戦士だったと知り、焦ったクウラは完全に終わらせる為に目眩ましをしながらその指先に太陽のようなパワーを溜める。
『ハハハッ!! 油断したな、俺は弟とは違うと言っただろう!』
勝てば良い。
それこそ星ごと破壊して完全に超サイヤ人を殺す。
『この星ごと、消えてなくなれーーーっ!!!!』
勝った。
そう思っていたクウラは嗤う。
だがサイヤ人はそんなクウラの勝利を否定するかのごとく、クウラの放った巨大な光球をなんと跳ね返したのだ。
『な、ナニィ!? ぐぐっ、こ、これしきの事で俺がやられるかァ!!』
跳ね返された光球を更に跳ね返してやろうと両手を突き出すクウラだが、地球の成層圏を抜け、遂には宇宙にまで押し返されてしまった。
そしてその背には太陽が……。
『ギィヤァァァッ!!!』
全身を焼かれる。
そしてその瞬間脳裏を過ったのは、自分をこの状況に落としたサイヤ人が赤ん坊だった頃に乗っていた宇宙ポッドを落とさずに見逃していた事。
『ふ、フリーザだけではなかったか……甘かったのは……!』
太陽と共に全身を焼き尽くされたクウラはその後、惑星コンピューターと一体化し、復活する。
しかしそれでもサイヤ人二人に敗北する事になる。
そして最期はまるで違う世界にて地球人――もしくはサイヤ人に酷似した姿で生まれ変わり――
「…………ハッ!?」
クウラは今を生きている。
「…………今のは夢、か」
嫌な夢を見て目覚めたクウラは、嫌な夢を見ていたせいか、全身に入っていた無駄な力を抜き――
「「「…………」」」
「………………あ?」
何故かこっちを見てる三人娘にクウラは気付いた。
「何のつもりだ?」
妙に心配した面持ちの黒歌やオーフィスに、見られたくは無い姿を見られた事もあってか、少し不機嫌気味な声を出すクウラに、黒歌が慌てる。
「い、いや偶々通り掛かったら苦しそうな声が聞こえて……。あ、あの……出ていくから……!」
そう言ってオーフィスと共にそそくさと出ていく黒歌。
残っているのは白音だけであり、白音は黙って身体を起こしたクウラの為に白湯を用意して差し出す。
「…………。魘され方からして、孫悟空かベジータとやらに負けた時の夢ですか?」
「……。まぁな」
差し出された白湯と共に訪ねられたので、受け取りながら珍しく素直に答えるクウラは白湯を飲み干す。
「相当なトラウマみたいですが、私にしてみれば、話を聞いた時からずっと信じられませんよ。
貴方が負けるなんて……」
「負けたから俺はこんな姿になってしまったのだ。
……しかも、最早二度と復讐すら叶わん場所に飛ばされてな」
自嘲気味に話すクウラ。
トラウマの夢を見たばかりなのか、全てを唯一知る白音に対して少しだけ素直になってる。
何度思い返しても忌々しく、拭い去れない敗北はクウラのプライドを傷つけたまま癒すことは無いのだ。
「クウラ様に対して冒涜になるのかもしれませんが、私は貴方が負けたのは良かったと思ってます。
こうして会えたのですから……。もし貴方に出会えなかったら、私は弱いまま蹂躙されていました」
「……………」
そんなクウラの自嘲を白音は良かったと、怒られる覚悟で吐露すると、クウラは無言でその赤い瞳で白音を見据え、空になったコップを返す。
「やはり不思議なガキだ。
今の言動で、そのまま俺に殺されるかもしれんというのに、おくびもなく言うとはな……」
「アナタの部下になれば、嫌でもこうなりますよ。
それに、アナタの力にただ怯えて従う連中よりかはマシでしょう?」
「……ふん」
微笑む白音にクウラは目を逸らしながら鼻を鳴らす。
ただの雑魚なら殺してやったが、実際白音はその戦闘力を上げている。
唯一自分が使ってやっても良いと思えるくらいの領域へ……。
「大丈夫ですクウラ様。
負けたトラウマを抱えてるとしても、私は変わらずにアナタの所有物です。そのほんの少しだけの弱さは、私が一緒に抱えてあげます。これまでも、これからも……」
「ふん、ガキが。
……先に出ていろ、着替えた後に活動を再開する」
「ふふ……了解です」
超サイヤ人は二人居た。
ならばこちらも超サイヤ人を越えた自分ともうひとりの戦力を作り上げる。
最早奴等と戦える事は無くなったが、奴等を越えた時こそクウラとしての自信とプライドを取り戻せる。
人型に生まれ変わった今でもクウラは宇宙最強を追い求めるのだ。
白い猫との時間でほんの少しだけその内面を変化させながら…。
「やっぱり、クウラ様の所有物になれて良かった。
だから、何も知らない癖にそれを否定する奴等は、皆殺してやりたくなる……」
そして白い猫もまた、そんなクウラの孤高さにその忠と愛情をより強めながら……。
補足
釘を刺されてもまだ気になるイッセー。
そして何気に取り敢えずは復活するヴァーリ。
………二天龍? なにそれおいしいの? なんだけどね(笑)
その2
クウラ様、二度の敗北は結構それなりにトラウマ。
それを知ってるからこそ白音たんは所有物を望むという、それなりに強めの繋がりがあるのだ。
それこそこれ以上クウラ様の部下である事に茶々を入れるようなら本格的に殺る気スイッチがオンになるくらいには……