数百年の時間を使っても取り戻せた戦闘力はフルパワーで3億。
この現実は、クウラを酷く絶望させるに十分だった。
超サイヤ人を越えるどころか、元の戦闘力を取り戻す事すらも儘ならない。
この世界が自身が敗北を喫した世界とは根底から別物である事は数百年生きた中で理解したが、だからといってこの世界から脱出して元の世界へと戻る手立てすらも無い。
戻れた所で、超サイヤ人に劣る今の戦闘力では、挑んだ所で瞬く間に駆逐されるのがオチではあってもだ。
しかしクウラはそれでも諦めるつもりはなかった。
それは未だ自分の力に限界を感じなかったからだ。
確かに本来のボディと比べたらその成長と進化は緩やかなのかもしれないが、成長自体は未だにしているし、その限界にまだ到達していないのだ。
それは、余りにもしつこく付いてきたので、仕方なく当初は成長の限界が見えたら殺してやろうと思っていたグレイフィアという悪魔の女にも言えた事だった。
(俺自身はまだ発展途上。
ならば迷う理由は無い……これまでと変わらず俺は更なる進化をしてやる)
成長する手を緩めるつもりは無い。
この星……いや、この世界において現時点でも最高峰となる戦闘力を持っていたとしてもクウラは歩みを止めない。
(ここ数十年の間に現れた『餌共』もまだまだ底尽きてはいない事だからな………クックックッ)
この世界にヒューマノイド型として復活し、数多の強い生物を糧に成長をしてきたが、強い生物の数も大分減ってしまった。
しかしここ数十年の間に出現した特殊能力を持った連中はクウラにとって嬉しい誤算だった。
(奴等自身の戦闘力は塵に等しいが、その力は多用で、しかも俺の餌としての栄養価値も高い)
戦闘力は5程度でありながら、その者ごとに違う様々な特殊能力やアイテムを持つ存在は、停滞し始めていたクウラを再び進化の予兆を与えた。
人と変わらぬ姿へとなってしまった事で、当然ながらかつて手中に収めたビッグ・ゲテスターの特性を失っていたクウラだったが、いっそ狂気ともいえぬ長きに渡る研磨を重ねた果てに、どうやら完全にビッグ・ゲテスターと引き剥がされた訳では無いということに気付いた。
(あの時俺は孫悟空とベジータによってビッグ・ゲテスターのメインコンピューターから引き剥がされ、消え去りこんな姿へと成り果てた。
故に当然元のボディの様な変身も、メタルクウラとしての様な学習能力も無いと思っていたが……)
これまでの軌跡を回想しながら椅子に座って目を閉じていたクウラが目を開き、その赤い瞳を自身の右手に向ける。
すると右腕の肘の部分までが、なんと生身の皮膚が硬化し、あの時のメタルクウラの様な色へと変色したのだ。
そう、これが数百年に渡る狂気の生によって発見した今のクウラの可能性。
(右腕のみではあるが、俺はどうやらメタルクウラとしての特性を失ってはいなかったらしい。
くくく……無論、ビッグ・ゲテスターの本体の能力に比べたら微々たるものだが、元はビッグ・ゲテスターも一枚のコンピューターチップが自己進化と周囲のエネルギーを食い荒らすした事であそこまでになった。
それはつまり――)
鈍く白銀に輝く己の右腕を翳しながらクウラは凶悪な笑みを溢す。
(俺は他人のエネルギーをこの右腕から喰らう事で更なる進化を可能にする……!)
自己永久進化。
生身となり、人とななってこの世界で復活したクウラは、実はその直前、ビッグ・ゲテスターの残骸と一体化をしていたのだ。
それこそビッグ・ゲテスターの本体と比べたらその能力も搾りカスも同然なのかもしれない。
だがクウラにとってはこれでも嬉しき誤算だったのだ。
何せ今はどこからともなく沸いてくれる
(俺の様にどこぞの世界から復活した者達なのか、それとも最近堕天使の男が言っていた
ますます凶悪な笑みを浮かべて一人笑うクウラ。
各々が与えられた力を持って好きに行動しようとしたら、存在する筈もない化け物が既に君臨し、食物連鎖の頂点の如く喰い殺しに来る。
まさに連中にとっては地獄の世界でしかなかった。
「グレイフィア」
「はっ」
しかもそれだけの力を持ちながら、尚も成長を続ける。
「時間だ。お前も訓練の準備しろ」
「かしこまりました」
小難しく、屁理屈を並べた様な特殊能力達をまとめて等しく踏み潰して喰い尽くす圧倒的なパワー。
宇宙最強を目指す帝王の兄は尚も進化を続けるのだ。
オッス! 俺兵藤イッセー!
小さい頃、ひょんな事から銀髪の綺麗なお姉さんと、めっちゃ怖いけど、めっちゃんこ強いお兄さんみたいになりたくて、ドラゴソボールを見ながらドラゴン波の練習をしたら本当に出来てしまっただけの普通の男子校生!
その力の正体は、どうやら俺の中に宿る二天龍の片割れのドラゴンが関係しているみたいで、えーっと確か4歳くらいの時にその力を扱える訓練をし、銀髪のメイドなお姉さんと時々怖いお兄さんに教えて貰いながら頑張った結果!
『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』
「今だ! ドラゴン波!!」
「……………………フン」
「げげっ!? 俺のドラゴン波をまるで滝登りみたいに―――ぐべぇ!?」
――――未だにどっちにも勝てません。
「ごふっ!?」
「………」
いやさ、俺の神器の特性の倍加を繰り返したら流石に勝てんじゃね? みたいな自信を簡単に粉砕するよねこの人達。
力やスピード等をとにかく倍加させまくっても精々一発かすらせる程度ってさぁ……。
「小僧、貴様は大技に頼りすぎだ。
だから読まれやすいのだ」
「お、オッス」
怖いお兄さんことクウラ先生が良く口にする戦闘力という単語。
それはその人物の強さを分かりやすく数値化したものであり、今の俺の基本的な戦闘力は15万らしい。
それって高いのかどうかよくわからんのだが、クウラ先生やグレイフィアのお姉さん曰く『その歳ではまあまあ』らしい。
ちなみにグレイフィアさんの基本的な戦闘力は9000万台で、クウラ先生は1億以上だと。
………うん、まあまあどころか俺虫けらやん。
「治療してあげるから、来なさい」
「うっす! でへへへ!」
ん? だから倍加すりゃあ一億なんて余裕で越えられんじゃんだって?
それ俺も思ってめっさ倍加しまくってから挑んだ事あるんだけど、余裕で返り討ちにされたんだな。
なんでも力やスピードを倍加させまくれば確かに戦闘力そのものも変化するみたいだけど、だからといって倍加=そのまま戦闘力がそっくりそのまま向上するって理屈ではないらしい。
俺が仮に一億倍加したところで、パワーやスピードは一億倍加するんだろうけど、戦闘力換算したら良くて精々2000万とかその辺らしい。
倍加=そのまま戦闘力増加ではないは基本なんだぜ。
それに数値なんてあくまで目安であって、本人の戦闘センスはまた違うのさ。
なんて、クウラ先生にボコられた箇所をグレイフィアお姉さんに治療して貰いながら、お姉さんから漂う――良い匂いとか、こう、清楚に見えるけどそこはかとない妖艶さに貧血とは違う意味でクラクラする俺なのでした!
俺もこんな年上のお姉さんと毎日イチャイチャしてーぜ! 囲まれてお世話されたいぜ!
……お姉さん曰く、クウラ先生は全くお姉さんの事をそんな目で見ないらしく、とても勿体ないと思うぜ。
「今日はグレモリーさんやシトリーさんとは一緒じゃないの?」
「え、一緒じゃないっす。
そもそもあの人達の眷属ではありませんし」
「眷属でなくても仲は良さそうだったけど?」
「んん? そうですかね? そりゃグレモリー先輩のお母さんとか、シトリーセンパイのお姉さんのブロマイドくれたらめっちゃ働きはしますが……」
「あら……。そういう所、別の意味でクウラ様に似てしまったわね……」
「へ?」
だから俺も強くなって年上のハーレム王になるんだ! なんてね。
ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーは、互いの姉と兄が戦友同士で、両親同士も仲が良いという関係ゆえに幼い頃からの付き合いだった。
だからお互いに英才教育を施された者同士として互いに切磋琢磨し合えたライバルともいえる関係だが、普段は普通に仲も良い。
お互いに眷属を未だ持たないからというのもあるだろう。
そして出会った赤い龍を宿す男の子に振り回される事が多いからというのも元々の仲の良さに拍車を掛けているのかもしれない。
そんな3人はしょっちゅう固まって行動する事が多い。
本来の時間軸ではリアスはオカルト研究部。
ソーナは生徒会長。
そしてイッセーはまだ悪魔や人ならざる存在――自身の力を知らずにクラスメート2人と女子へのセクハラに精を出している筈だったが、この世界ではソーナもリアスも其々眷属は持たないし、生徒会長でもオカルト研究部の部長でもないし、イッセーは別に女子達へセクハラはしてない。
いや、イッセーは別の意味で女子達にムカつかれてるのは変わってないが、一番大きいのはリアスとソーナという全生徒の高嶺の花と平然とつるんで、両手に花状態に嫉妬されまくっているというのが大きい。
しかも本人が『いや、俺子供に興味ねーっす』とか言ってしまったから余計拍車をかけてる。
しかも今年入学した金髪碧眼の美少女ともさっさと仲良くなってしまったものだからヘイトも高い。
「え、エシル様のプロマイドだとぅ!? マジかレイヴェル! それを俺にくれるのか!?」
「え、ええ……お渡ししても良いですが、その代わり――」
「任せろ! 何をすれば良い!? 敵勢力の全滅か!? 護衛か!? それとも日曜大工か!?」
「で、デートてすわ! デートをしてください!!」
「…………………………………………………………えぇ? それはちょっと……」
「ろ、露骨に嫌な顔!?」
「諦めなさいレイヴェルさん。
イッセーはそういう男よ」
「リアスも私もそんな態度ですからね……」
ある意味であのクウラとグレイフィアの直弟子で、既にその戦闘力も冥界悪魔と比べても最高レベル。
ここ最近では生身のみで若手最高峰とも称されたリアスの従兄弟であるサイラオーグ・バアルと笑いながら殴り合い、競り勝ったという事もあってか、別に悪魔に転生した訳では無いのに冥界では『年上フェチドラゴン』とか呼ばれて割りと人気者にされていた。
このレイヴェル・フェニックスという悪魔はそんな彼の姿にホの字となった者であり、わざわざ人間界の学園に入ってまで会いに来た筋金入りの娘さんなのだが、まあ、お分かりの通り年も下のせいか友人関係までにはなれたが、イッセーはレイヴェルの母にお熱になった次第で、リアスやソーナ共々空回り気味だった。
「俺、初めてデートするなら年上のおねーさんって決めてるんだ……」
「『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……』みたいに言ってもかっこよくないわよ」
「レイヴェルさんのお兄さん達が聞いたら激怒するでしょうね……」
「うー……イッセー様のいじわる……」
人格自体は悪くない。
……いや、若干身勝手な部分は多いが、クウラに対しても物怖じをしない意味不明なメンタルの強さはとても好ましい。
それに一緒に居たら楽しいし、なんだかんだ困っていたら気に掛けてくれる然り気無さもある。
年上フェチでさえ無ければ……と、リアスもソーナもレイヴェルも、この前嫌々あげたヴェネナラとセラフォルーのプロマイドを眺めてニヤニヤしてるイッセーにため息が止まらない。
「ところで、昨晩、妙な力を内包したアイテムを持った人間らしき男に迫られたのですが……」
「む、例の連中達かしら?」
「恐らくは。
私の事を知っていたみたいでしたので」
「何故この町はそんな者が多いのかしらね。
大丈夫でしたか?」
「ええまあ……結局はそのアイテムの力を纏って強くなった気でいる輩でしたので、完全に灰にしてやりましたわ」
「へぇ? 過保護な兄ちゃん達に教えられてきたって話は伊達じゃない訳だな。
良いね、ちょっと俺とヤろうぜ?」
「うえっ!? ぁ……は、はい……初めてなので優しくしてくださいな……」
「そっちちゃう。バトルの方。
サイラオーグさんが独学であれだけ強いってわかったから、俺も胡座なんてかけないからな。修行相手は多い方が――」
「「「…………」」」
「え、なんで睨まれるの俺?」
しかもクウラとグレイフィアの影響か、割りとバトル脳な所が多く、これも三人を歯痒く思わせる原因だった。
「小さい頃、お兄様が苦笑い気味に
「なんすかそりゃ?」
「クウラさんとグレイフィアさんにその昔、無謀にも挑んで徹底的に叩きのめされ、そのまま殺されそうになった所を必死に庇った天使のおかげて命拾いした昔話よ」
「今でも現役で生きている様ですが、どうもその堕天使さんは天使さんが何故庇ったのかをわかってなく、お二人へのリベンジに燃える修行バカだとか……」
「ふーん? クウラ師匠が見逃すとは思えないが、グレイフィアお姉さんが頼んだのかな?」
「多分ね。
とにかく、今でも天使さんはその堕天使に対して空回りしているとか……」
「私たちみたいに」
「いやいや、俺は年上好きだって言ってるし………ん? ちょっと待った、その言い方だと三人はまさか俺のこと―――」
「「「……………」」」
「―――って、んな訳ないか! あったとしても困るし! ガハハハ―――ばわっ!?」
「これに関しては私達は悪くない。」
「グレイフィアさんのせい――というのは語弊はあるけど、絶対に影響はあるわよねイッセー君の場合」
「しかもクウラ殿の影響も少しはいってますわねま、このハッキリとした言い方は」
思わずグーで殴ってしまった三人は、壁に脳天をぶつけて目を回すイッセーを見下ろしながら、妙な連帯感を強めていく。
「ここまで来ると意地でもその気にさせたいわ」
「ええ」
「私一人では不可能ですし、今後とも協力させて頂きますわ」
複雑なのだ……女心は。
レイヴェル・フェニックス
基本戦闘力・7万
過保護な兄達によって強い後輩少女。
若手最強のサイラオーグとのタイマンに競り勝ったイッセーの姿に一目惚れをしたけど、本人は母のエシルにニヤニヤしてモヤモヤ。
謎の堕天使(男)
推定戦闘力・2500万
その昔、ブイブイ言わせた勢いでクウラ&グレイフィアに挑んで絶命寸前まで追い込まれたが、顔見知りだった天使に庇われて生き延びたらしい。
謎の天使(女)
推定戦闘力・3000万
不良が子犬を助けた的な心理がそのまま完全に昇華し、堕天使男に好意を寄せながら切磋琢磨してきたが、今でも空回りしているとかなんとか。
堕天使男より高いのは密に……
補足
とはいえ、徹底的に壊滅させるとクウラ様が決めたらそれに文句なく付き従う辺り、グレイフィア様も逆に影響を受けている。
その2
まあほら、レイヴェルたん忘れたらアカンみたいな謎の使命感が……。
ただ、年上フェチやからね……うん。
その3
謎の堕天使と謎の天使は謎のままさ。