※ちょっと加筆と修正をしました。
とあるシスターと無神臓
別に青年的にはどうでもよかった。
誰が誰になろうと、誰がどうなってしまおうと、肉親じゃないのに肉親を名乗る謎過ぎる存在が現れようとも、今となってはどうだって良かった。
その謎過ぎる存在が御大層な才能と力を持っていようとも、自分の居場所を取ってしまうとも、弾き出されしまった少年は何の恨みも感慨もなかった。
無限と夢幻の両方を覚醒させし今となっては、そんなちっぽけな存在に何をされても『平等にどうでも良い』としか思えない。
人間以外の生物が幅を利かせてようがクソどうでも良いし関係ない。
それが一誠という全部を失っても尚しぶとく生き残ってきた少年のスタイルだった。
「でも、可愛い彼女くらいはほしーよな……」
怠惰な日々。
無気力な日々。
無計画な日々。
充実させた日々。
楽しい日々。
目標に向かって積み重ねる日々。
経てして時間というものは、ただ単にボーッとして過ごしても平等に過ぎていく。
毎日を充実させた人生を送る者にも、俺みたいにその日その日を何も考えずダラダラ過ごす者にもな。
「おや?」
「うー……うー……」
俺はどんな日々かと問われたらこう答える……それなりに充実してて楽しいと自負できるし、無気力で無計画な日々と指摘されたら否定できない、どっちつかずの中途半端な日々だってね。
だからなのか、それは単なる気紛れかもしれなかった。
何と無く格好とか見た目とか雰囲気が、他と違うなぁとか思ったからかもしれない。
フラフラ街に居るだろう女の子でもナンパしてみようと、学校もサボって外に出た際に偶然発見した、どう見ても普通じゃない空気を醸し出してるその子に話し掛けてみた。
一人挙動不審気味にキョロキョロしながら何かを探しているように見える、変わった格好をした誰かさんに……。
「失礼お嬢さん……何かお困りかな?」
「!」
人助け……なんて真似はしようとは思わないものの、目の前であからさまに『困ってますオーラ』なんて出しながら辺りをキョロキョロしている人間を通りすぎます……なんて事までは流石に思わないし、何より背格好からして確実に女の子だってのがわかる。顔は見えないが。
だから……まあ、そんな理由で人畜無害ですよな空気を纏いながら近付き、俺は珍しい格好をした女の子に話し掛けてみる。
理由……絶対にこのお困りさんが女の子だから。
「――! ―――」
「あ、何だって?」
さて、そういう訳で気になったからって理由で久々に人に話し掛けてみた俺こと一誠なのだが、困った事に相手の子の言葉が分からず、首を捻るという結果となってしまった。
身振り手振りで何かを必死に伝えようとするのは分かるんだが、如何せん何を言ってるのかが分からない。
日本語じゃねーわな……と内心思いつつジェスチャーか何かで必死に伝えようとしている。
その際、目深く被っていたフードが風の悪戯(笑)で外れ、露になった予想通り女の子だった彼女の風貌を見て一気にテンションが上がったのは云うまでも無し。
「☆Ⅱ〇・♪%※#&*@!」
「ほうほう……なるほど分からん」
この子本人はかなり逼迫した状況なんだろうと、綺麗なグリーンの瞳を潤ませてる辺り予想は出来るけど……俺は外国旅行する予定が将来に渡って無かったもんだから、外国語を習得せんかった。
これがまさに仇になっちまったせいで何も分からんが……ふむ。
「……………
残念ながら、人生を面白おかしく楽に生きれる為の技能を覚醒させた俺にはわざわざ習得する意味は無いのだ。否定して逃げれば良いのだからな。
故に、こうしてお嬢さんの眼前に手を翳し、何を言いたいのか分からないのなら分かる現実に逃げてしまえば良い……てな訳で、ホームレス幼児から小学生になる辺りで覚醒した謎能力で、言葉の壁という現実から逃げて取っ払ってみればほらこの通り……。
「落ち着こうぜお嬢さん。取り敢えずゆっくり、丁寧に説明して貰えれば分かるからさ」
「!? つ、通じた……?」
言葉の壁から逃げる事なんて訳無いのさ。
突然こっちの言葉が通じた事に、それまで必死こいてた顔を驚き固まるって感じの表情に変化させた金髪の子に、俺は出来る限りの笑顔のまんま続ける。
「まあ、最初何処の言葉か解らなくて理解するのに時間喰ったけどもう平気さ。
それで、どうしたんだい?」
明るく長い金髪と可愛らしい容姿に『大当たりだぜばか野郎!』と内心久々に無計画人生の中に楽しいお時間が舞い込んでテンションが上がる中を、急に言葉が通じて驚いてるお嬢さんにどうしたのかと問う。
「ょ、よかった……やっと言葉が通じる人と巡り会えました! 主よ感謝します!」
暫く目を丸くしながら驚いてたのを見て、やば、急にはやっぱりまずかった? と思ってたが、徐々にその表情が喜びに満ちました的なそれに変わっていくと……。
「あ、あの……ありがとうございます! 貴方が話し掛けてくださらなければ私は今も此処で迷ってました! 本当に……ありがとうございます……!」
「お、おぉ……?」
思わず俺もビックリする位な明るい笑顔を浮かべながら俺の両手をがっつり取って何度も何度もお礼を言ってきた。
これには俺も微妙に困惑だ。
「? どうかしました?」
「いや、その喜び様から察するに随分と困ってたんだなと……」
外人耐性の無い一般人からすれば、バリバリの外国語で尋ねられても困るだけというか、そそくさとその場凌ぎの言葉を吐いて逃げるだろうし、この子もそんな人間としか出くわさなかったんだろう。
だからこそのこの喜び様だと察しは付く。
「はい、私日本語が話せずその上道に迷ってしまいまして。人に尋ねても言葉が伝わらなくて……」
「ふむ?」
「お腹も空いてどうしようかと思ってたら、貴方が声を……」
「へぇ……」
ほらな。この子が何の用があってこんな場所に来たのかは知らないけど、簡単な日本語くらい習得してから来るべきだったね。
今の日本に他人同士の助け合いなんてほぼ無いんだからな。当然俺もね。
「だからつい嬉しくて……」
「ふーん? まあ、そんなに喜んで貰えるとなると話し掛けた甲斐があったよ俺も」
ま、俺もキミが可愛い女の子じゃなくて只の男だったら平然とスルーしてたけど。
男ならテメーで解決しとけとか内心小馬鹿にしながらな……そう考えるとキミは運が良いと云うべきなのか? あ、でも俺に話し掛けられてる時点でそうでもないか?
「あ、ご、ごめんなさい。
あまりにも嬉しくてついお手を……」
「いや、良いよそれは、キミみたいな子に手を握られると嬉しいし」
暫く両手を取られた状態でトークしてたのだが、ハッとその状況に気付いたお嬢さんに謝れながら手を解放されるので、俺は首を横に振って構わんと返す。
こちとら最近はめっきり女の子とこうした手を繋ぐなんて無かったし、あっても女の子擬きのオーフィスからパク付かれるとかそんなんばっかだ。
「えーっと? それで、キミは結局何に困ってたんだ? 聞けば道に迷ったとかどうとか言ってたけど」
「あ……そうでした」
女の子らしい女の子な手だったぜ……と内心満ちた気分に浸りつつも本来の話に戻すため、困ってた理由を問い掛けてみる。
すると、忘れてたっぽい金髪の子はハッとしてから話を始めた。
どうやらこの子はあの街外れにある教会に派遣されたシスターさんだったらしく、その場所が分からず困ってたらしい。
で、そこ行く人々に道を聞いても言葉の壁が邪魔して聞けず……偶々通りかかった俺がこの地に来て初めて言葉が通じたもんだからテンションが上がった……とまあそんな感じだった。
「なーるへそな……。その場所なら知ってるし丁度帰り道だな。
良いよ、どうせ年中暇だし案内したげる」
「本当ですか!?」
「うん、女の子が困ってるし、それにキミの様子じゃまともな会話になる奴は俺が初めてらしいからな。
ハイそーですか、さよなら……とは言わんさ。よし、こっちだよ」
案内すると言った途端、また元気になった金髪のシスターさんにちょっとだけホッコリしながら目的地へのガイドを開始する。
で、その道中互いの名前の交換をすることになった。
「私、アーシア・アルジェントと申します。アーシアと呼んでください」
金髪のシスターさん……では無くアーシアさんは屈託の無い笑顔で言うので、俺も……まあこの場限りの縁だろうけど自分の名を名乗る。
「俺は一誠……苗字込みだと『黒神一誠』。ま、只の一般人だな、うん」
人生を面白おかしく楽に生きれる変な力を二つ持ってるだけの只の人間。
嘘は言ってない自己紹介にお嬢さんことアーシアさんは嬉しそうに顔を綻ばせている。
「イッセーさん……ですね。覚えましたよ!」
「おう」
名前は覚えて貰えたが、多分その日限りにの縁だしそんな張り切らんでも良いと思うがな。
俺、無心論者だからあの教会に近づかないだろうし、なんて思いつつ適当に返しておく。
いや、可愛い事は可愛いんだが、シスターって響きな時点でナンパしても無駄な気がしてきてヤル気にならんのだ。いや、マジで可愛くて惜しいなとは思うのだけどな。
これがアーシアとの最初。
と、いう訳で滞りなくアーシアって子を、只の教会とは思えねぇ教会に送ってさよならした。
その際、神父だとか言われてた連中に変な顔を向けられたのが地味に気になるものの、気にしてもしょうがないので気にしない事にし、そこから数日はまたその日をその時に決める様な日々を過ごしていく。
そんないい加減な生き方が功をそうしたのか……アーシアちゃんを教会に案内してから数日のある日だ。
「イッセーさーん!」
「ぁ? あぁ、この前の迷子ちゃんか。どしたん?」
「い、いえ……その、この前のお礼をしようとイッセーさんを探してて……」
黒神一誠。
それが俺の名前だ。
只の人間であり、只の年頃の青年で単なる学生。
家族と呼べるものは10年前に見限ってるので居なく、この黒神という苗字も、肉親を見限ると決めた時に勝手に決めた名字だ。
今にして思えばもう奪われたという感覚は無いが、あの日を境に全部無くした俺は、その日を適当に生き、同年代が集まる学校に行ってそれなりに楽しむ毎日にしようと決めた。
平凡……常人にはとある力を二つ持ってる以外は真面目に平凡。
12年前に、俺とソックリな顔をした不振人物が現れて『俺が主人公だ!』と訳の分からん事を言って周りをたらしこんで追い出され、それからゴミ箱漁りのホームレス幼児・小学生を経て力に覚醒し、以後はそれを使ってそれなりに上手く行く生活をしている事以外は普通に徹してるつもりだ。
まあ、俺が今通ってる駒王学園って学校が、実はモノホンの悪魔が管理してて、その悪魔が実は人間に混ざって実は通ってて、その悪魔の中には俺にソックリ顔した不審人物である――ええっと、名前は分からん奴が転生とやらを果たした状態で混ざってるとかそんな現実はあるが、俺には何の関係も無ければどうでも良い。
簡単な話、それなりの学校を出てそれなりに金を稼いでそれなりに暮らしてそれなりの嫁さん手に入れてそれなりな老後を迎える。
それが今の俺が抱くしょうもない夢なのである。
「お礼ねぇ?
見た感じそのまんま律儀な子だねキミって」
「そ、そうでしょうか? でもイッセーさんが居なかったら今頃教会にも着けず行き倒れてたかもしれませんし、それを考えれば普通かなって……」
「ふーん?」
んで、そんな簡単に見えて実は究極的に難しかったりする夢を抱く一誠こと俺は、只今金髪と緑の瞳を持つ中々に可愛いと思える容姿の美少女――アーシアちゃんに後ろから呼び止められ、楽しいトークをしています。
どうやらこの前のお礼がどうとか言ってるんだが……。
「礼ってなにすんの?」
「えっとそれは……あ、あはは……すみません。
特に考えてませんでした……」
「………」
このアーシアちゃんって子は贔屓目に見んでもドジを今踏む事が多いような気がするし、現に何の考えもなしに俺を呼び止めたのでは無いかと突っ込んだら罰が悪そうに苦笑いして謝ってきた。
「イッセーさんとまたお話が出来たらなぁと思って……えへへ」
「えへへて……キミが可愛くなかったら回れ右して帰ってたぜ」
ある現実を任意に書き換える事が出来る力。
「イッセーさんの後ろ姿を見つけてつい……」
「あっそう……。
そういや俺とソックリな顔した男の方はどうしたんだ? 話し掛けられたとか何とか言ってたが……」
「え? あ、その……失礼でしたが、目を無理矢理合わせて来るので怖くて直ぐに帰りました……」
「ふーん?」
そんなこんなで久し振りに新しい知り合いを得た俺は、彼女の周りを最近チョロチョロしてるらしい、兵藤イッセーという男の事も多少警戒しつつ、この金髪シスターちゃん――つまり名前はアーシアって子と遊ぶのが密かなる楽しみだった。
まあ、アーシアちゃんが派遣された教会に居る連中がどう見てもいい奴等とは思えないし、何よりこの街は悪魔の巣窟だし、出会って数分で惚れさせる女キラーの『兵藤イッセー』が居るからな。
正直このアーシアちゃんが平穏無事にこの地で過ごしていけるとは到底思えんが、まぁ、その時は気の毒でしたと十字でも切ってやろうと思うよ。
どうせその程度の関係だしね……。
これがアーシアとの二回目。
旧姓兵藤……現在は黒神一誠と名乗る少年は正真正銘人間だ。
例え後々、鉛筆一本で神滅具を持つ英雄の名前を継ぐ青年の胴体を真っ二つにしようが、同じく二天龍の神滅具を持つハーフ悪魔をサッカーボール宜しくに蹴り飛ばそうが人間だと言い張る。
それでも突っ込みどころは満載だが、彼の肉体は人間な事に変わり無いし、何も最初からこんなハチャメチャで理不尽な戦闘力を持っていた訳じゃない。
寧ろ最初はそこら辺に居る普通の人間で、人間らしく脆く年相応の少年だったのだが、それまでの環境がガラリと変化してしまい、気付けばその日を生きるのも危うい環境にブチ落とされてしまってからこんな風になってしまったのだ。
帰る家と戸籍と親までも失った少年が出来たといえば、泥水を啜り、ゴミを漁り、盗みを働いてでも『生きる』事で、今までごく当たり前の家庭環境から肉親も何もいない環境に陥れられた一誠の幼年期は、戦争孤児の様な生き方をせざるをえなかった。
主人公と名乗る訳の分からない――自分と同じ顔をした少年がそれまで一誠幼年期の居た居場所を奪い取り、肉親やその周りの記憶から一誠の存在を末梢したせいで、そうせざる無かったのだ。
だからこそ一誠は貪欲なまでに生きる事に対する汚さを得た。
そして何よりも生きる為の知識を得て、誰よりもしぶとく生き残る決意を固めさせた。
ゴキブリが如くしぶとく、鬼の様に強く。
その意思をより強固にすればするほど、一誠の中に宿りし二つの無限と夢幻はより深くなる。
強く、逞しく……そして途方もなき力を。
その考えが歪に無限の進化を促し、その精神が歪に夢幻の中へとより一誠を導く。
その経験があったからこそ――
「しゃっきーん、出来たぜ俺の無敵武器……その名もメリケンサックならぬ、メガネサックよ」
「な、なんのつもり……? ふざけてるのかしら!?」
自由に生きる邪魔をする輩には容赦せず排除する。
その相手が例え極上の女だろうが、悪魔だろうが、堕天使だろうが、天使だろうが、妖怪だろうが、神だろうが、何だろうが……。
「ふざける? この人数相手に『武器』を取るのは当たり前だろ? 悪いが貴様等が神器なんていうくだらんものの為に奪ったアーシアの命を……テメー等全員の命で清算させて貰おうかゴミ共が……!」
等しく平等に排除する。
それが世界から1度抹消されても尚しぶとく生き残った黒神一誠という青年だった。
「な、何だよこれ……何でお前がっ……! どうなってんだよこれは!?」
「よぉ、重役出勤とは良いご身分だね兵藤イッセーとそのお仲間共?」
「こ、これは……貴方がやったのかしら、黒神一誠君?」
「やったといったら?」
「……。話を聞かせてもらうわよ……どうやって『人間』でしか無いアナタがこんな光景を作り出せたのかをね……!」
「ふーん……それは怖いね。怖くて怖くて――
「この輪ゴム鉄砲を乱射しちゃうよ……しかも両手で2連射出来るタイプでなぁ……!」
俺は我が身が一番可愛いと思ってる。
他人の為に命を張れるとかカッコいい事を言うつもりなんて無い……テメーが如何に人生をおもしろおかしく生きれるかが全てであり、その為に他の連中を盾にして逃げることも躊躇わん。
良い飯食って、良い女抱いて、良い車乗り回して好き勝手にエンジョイする。それが今の生きる俺の動機なのであって、よく分からん連中に茶々を入れられるのはゴメンだ。
だからこそ俺はソイツ等とツルんでる俺と同じ顔した物好き男の影に隠れてヒソヒソとやってきたのだ。
これからもずっとそのつもりだったんだよ……
「あーあ、やっちまったよ……」
そのつもり……だったんだよなぁ。
「まーったく、こっちの苦労も知らずにキミは眠るように死んじゃってさぁ。
庇う必要なんてこの通り無いのに庇うからだよ、このドジっ娘シスターめ」
「………」
冷たいアーシアちゃんの身体をそっと地面に置いた俺は、聞こえてもない筈の彼女に向かって恨み言を呟く。
そうだ、予感の通りこの子は騙されていた。
堕天使とかいう種族の下級だか中級のバカに騙され、彼女の命と直結する力を奪われて殺された……しかも、その前に俺を庇う真似までしてよ。
これをドシっ娘と言わずして何とする? そんな真似してくれたら堕天使とはぐれ悪魔祓いを皆殺しにしてまで彼女を取り返した俺は本物の馬鹿だ。
わざわざ俺の代わりに兵藤一誠として生きてる意味不明人物に任せてれば良いものを、結局は平凡とは掛け離れた真似をしちまった。
それもこれも、みんなみんなみーんな……
「死んで俺の文句が聞こえないなんて許さんよ? だからキミは――」
アーシア、キミのせいだ。
そして、その文句も聞かず勝手に死ぬなんて許しはしない。
知らん顔して放置するには、キミは余りにも俺と関わりすぎた。
だから……と、ここ数日思い出してしまう彼女との様々なやり取りを想い、冷たくなったその頬に触れながら小さく自分の中にある捩れを発動させる。
「
降り掛かる現実から、自分にとって都合の良い幻実へと逃げる俺の
世界に散らばる人間の持つ神器とは違う、現状この世に俺しか発現していないらしいスキル。
これを使えばアーシアちゃんが死んだという現実からも逃げ、死んでない事に出来る。
だから俺は躊躇無しに使う……他人に対して初めて己のスキルを。
「無理矢理生かす、それがキミへの俺の報復だ」
頬に触れながら小さく呟いたその言葉と変な言い訳を呟いた次の瞬間、死人の様に白かったアーシアちゃんの顔色に血色が戻り、胸を上下させながら呼吸もしている。
「…………ぁ」
そしてその目もゆっくり開かれる。
「イッセー……さん……?」
「ああ、俺だぜアーシアちゃん。キミが勝手に死んだせいで、思わずキミを騙した連中は皆ぶちのめしちゃったよ」
「ぇ……ぁ……イッセー……さんが?」
ボーッとした瞳で俺の名を呟くアーシアちゃんに、俺は適当に作り笑いを浮かべるが、正直今の状況はヤバイ。
堕天使共とはぐれ悪魔祓いのついでに兵藤イッセーとその仲間も殺さない程度にぶちのめしてしまった。
別にあの連中程度ならどうとでもなるが、女の子キラーの兵藤イッセーにこのアーシアちゃんを近付かせるのは精神衛生的に宜しくない。
となれば自動的に俺はこの地からさよならしないとならん訳だ。
「気分じゃなかったからつい悪魔連中は殺さずに置いたが、まずったな……記憶でも消しとくべきだったか?」
こうなった事情をアーシアちゃんに説明はした。
どうやら死ぬ前の記憶が曖昧だったらしく、俺の説明を受けて顔を青くしながら小さく震えて怯えてしまったが、芯が強いのか今は不安そうにしながらも俺と一緒にこれからの事を考えてくれている。
「アーシアちゃんの居た国にも帰れないんだよね?」
「はい……帰っても同じ事をされるかも……」
「だよなー」
既に夜中で真っ暗な森の中ってのもあるので、冷え込んでおり別な意味で震えているアーシアちゃんの声は暗い。
取り敢えず気休めのつもりで渡した制服の上着で我慢して貰わなければならないのも、己の無力さを引き立たせるだけだった。
「ごめんなさいイッセーさん、私なんかの為に……」
「ん、そんな事は俺が勝手にやった事だから気にするな」
口には出さんが、アーシアちゃんの為だと言い訳しといて、結局行き着く先は己の身勝手さでやった事だしね。
「そんな事……私もイッセーさんと一緒に居たかったですし、身勝手だなんて思わないでください……」
だというのにアーシアちゃんは簡単に許してくれる。
ゴミ漁りながら生き、散々汚物扱いされてきた俺と親しくしてくれる。
だからかね、時折確かめたくなるんだよ……
「出来る限りの事は何でもします……!」
「…………」
この子の顔面をの皮でも剥がし、肉片だけになった状態でも情は持てるのか――
とね。
もしかしたら美少女だからこんな真似までしたのかもしれない。
その姿が単に好ましいのかもしれない。
だから試したくなる……目の当たりにしてみたくなる。
上っ面だけの好きなのか、それとも本当に好きなのか……試したくなる。
「仕方ないか……。
此処まで来たら腹を括るっきゃねーわな」
だがそれを今試す場合ではない。
取り敢えずは今度の身の振りを考えなければならん。
平凡に近い日々を捨ててしまった現実は今更変えられんし、生き返らせて置きながらそのままサヨナラもしない。
となれば――あまり気は進まないがこれしかない……。
そう思った俺はアーシアちゃんが横で見てるのを感じながら携帯を取り出すと、これまたあんまり掛けたくもない相手にコールする。
「あー俺だ」
携帯でも弄くってたのか、ワンコールで出た相手が驚いた声を出すが、それを無視して一方的に用件を話す。
「前にお前が言ってた話だが、俺ともう一人の訳ありシスターの衣食住の保証を条件に乗ってやる。
は? ……。あぁそうだよ……チッ、何処で仕入れたのか情報の早いことで」
話に乗ると言った途端、目に浮かぶテンションの高い声を出す電話相手に鬱陶しく思いながらも我慢し、今すぐに此方に迎えに来ると言われ、詳しくは直接会ってから話そうという所で電話はクライマックスを向かえる。
「そういう訳だからなるべく早くな。
俺はともかくとして、シスターちゃんを一先ず安心させないと……あぁ、じゃあな――曹操」
直ぐに来ると言う電話相手の名を口にして切る。
はぁ、奴等の道楽同好会によもや頼ることになるとはねぇ……どれ程コキ使われるんだろうかと思うとやるせなくなるぜ。
「イッセーさん? 今のお電話は……?」
ハァとため息が出る俺を見て心配になったのか、電話をしまう俺にアーシアちゃんが声を掛けてくる。
「んー……簡単に言えば、コネを使って俺とキミの衣食住の確保って所かな」
「へっ!? そ、そんなに早く決まったんですか!?」
「まぁね、代わりに『仕事』しないといかんが……」
アッサリ衣食住の確保が出来たと言う俺に大層驚くアーシアちゃんに、仕事はさせんし奴等にもよーく釘は打つつもりだが、まさかテロ組織に世話になるとは言えんしな、住み込みの仕事とでも言って誤魔化しとけば良いだろ。
そんなことより問題はアーシアちゃん自身の意思だ。
「キミの分も用意させたけど、どうする? 他に道がないのに聞くのも変だが、俺と来るか?」
これである。
死を否定して死んでない事にしたものの、こうして一緒に連れていくのも俺のエゴでしかなく、彼女自身の意思はまだ何にも聞いてない。
まぁ、聞くにしても今言った通り、他に道がない状態でという意地の悪さが出ちまってるが……。
「私はイッセーさんに救われた身ですし、他に行くところもありませんから……ご迷惑でなければずっと一緒に……」
「………」
「でも、どうしてイッセーさんは私を連れて行ってくれるんですか? 私は迷惑ばかり掛けてるのに……」
着いていくつもりはあるが、逆にどうしてそこまでしてくれるのかが知りたいとアーシアちゃんは不安そうに緑の瞳を揺らしながら俺を見つめるので、俺は出会ってから暫く経ったある日から抱いてた事をそっくりそのまま打ち明けてみた。
「会って最初の頃なら見捨ててたよ」
「っ……」
「けど何だろうね、キミと遊んでる内にキミの動向が気になって仕方なくなってさ。
何が好きで何が嫌いか……とかね。そんで気付いたら堕天使連中に良い様にされてるのを見て、やっちまったのさ」
「え、それって……つまり?」
………。我ながらどうも言い訳がましいような気がする。アーシアちゃんもよく解らないって顔だし。
……。うん、つまりだな。
「分かんないし、多分だけど……俺はキミが好きになった……かも?」
「……………え?」
……………。あれ痛い? 心臓が凄い痛い。
心臓に持病を抱えてる訳じゃないのに痛くて動悸がやばいし、言ってからアーシアちゃんを直視できない……。
てか、急にこんな事言われてポカンとしない訳がないし、普通に迷惑――
「あ、え、す、好き!? イ、イッセーさんが私なんかを!?」
言わなければよかったと半分後悔し始めた矢先、それまでポカンとしていたアーシアちゃんの顔がみるみる内に茹で蛸の様に真っ赤になったかと思えば、すっとんきょうな声を出しながら酸欠の魚みたいに口をパクパクさせた。
「すす、す、好きって……! こ、こんなドジでのろまでアホな私なんか……」
「いや、寧ろその辺りに愛嬌があって好きになった要因としては大きいというか」
「あ、あわわわ……そ、そんな真顔で言わないでください!」
「あ、ごめん」
目をグルグル回しながらテンパるアーシアちゃんに言われ、何と無く謝ってしまう俺は暫く後ろを向いてブツブツ言い出す姿を眺めて待つことにした。
「はぁ、はぁ……うぅ……」
「大丈夫か? なんかごめんよ? この際だし言ってしまえと思って……」
「い、いえ……予想外な事に嬉しいやら驚いてしまったやらで……」
数分待ち、ちょっと落ち着いたアーシアちゃんが相変わらず真っ赤な顔で俯きながらも、ボーッと突っ立ってる俺の前に立つ。
「その……絶対にあり得ないと思ってて、ずっと黙っていようと思っていた事が……」
「うん」
そして意を決した様に俺に真っ赤で泣きそうになってる顔を向けたアーシアちゃんは――
「わ、私も……! イッセーさんが……す、しゅきです! あぅぅ……!」
思いきり噛みながらも、返事をしてくれた。
「え?」
「で、ですから私も好きなんです! 噛んじゃっただけです!!」
「お、おう……」
……。ムキになって2度言うアーシアちゃんにちょっと圧されるものの、びっくりな事に好き合ってたと分かった俺は、力が抜けてヘタリ込みそうになったアーシアちゃんを反射的に抱え、何と無くそうしたいからそのまま抱き寄せてみた。
「あぅ!? イ、イッセーさん……?」
「……。さっきまで冷たかったキミの身体が今は暖かいや……」
初めて感じる言い知れない安心感に包まれながら、迎えがくるまでずっと……。
「私も……イッセーさんが暖かいと感じます……」
これがアーシアとの永遠の始まり。
黒神一誠(旧姓:兵藤一誠)
種族・人間。
所属・某テロ組織の英雄派(仮)
備考……人の身でありながら、無限と夢幻の領域に到達した真なる一誠。
私には何もありません。
皆さんを治療する、神様から与えられたこの力以外は何の取り柄もありませんでした。
友達もいませんでしたし、私の中にあったのは只主にお祈りするだけの身だけでした。
ですが、それがある日を境に、私の人生は楽しくなりました。
黒神一誠さん……。
少し他の方と雰囲気が違って見え、道に迷って途方にくれていた私に手を差し伸べてくれた男の人。
そして……素敵な人。
どんくさい私を見捨てず、お友達にもなってくれ、そして私を死という現実からすらも救ってくれた人……。
初めて出会ったあの日から、毎日探してはしつこく会いに行く私に嫌な顔一つせず、面白いお話をたくさん聞かせてくれる時の笑顔にドキドキしたりしたのは秘密でした。
独りぼっちだった私に最後まで優しくしてくれたのはイッセーさんだけ……。そっくりさんの兵藤一誠と名乗る方がちょくちょく私の前に現れては、違和感のある目と笑顔を向けてくる事がありましたが、私は最初に出会った黒神イッセーさんに惹かれていたので、兵藤さんが結局何がしたかったのかよく分かりません。
何時も独りで寂しそうに歩くその背中にどうしても追い付きたくて……教会の方達も『彼とは関わるな』と何時も言ってましたが、私はそれを無視して毎日イッセーさんと会ってしまいました。
だから私に主からの罰が下ったのでしょう。
私は…………一度完全に死にました。
でもその死から救ってくれたのは他でも無いイッセーさんでした。
その時の事は覚えてませんが、堕天使や悪魔の方から私を連れ出し……こうやって生き返らせてくれました。
聞けばイッセーさんは私の持つ力とら別種の
死からも逃げるその力は、私から見れば神様の様な力に思えます。
でもイッセーさんは人間です。
私と同じ人間……私が好きになった素敵な方です。
だから私はイッセーさんの告白を…………。
「我儘を一つ……。
私を独りぼっちにしませんか?」
「それは保証するというか、嫌でも傍に置くぜ」
「私を、捨てませんか?」
「逆に捨てられても地の果てまで追い掛けてやるかもね……今自覚したけど、俺って独占欲が強いし」
「こ……こんな私を……愛してくれますか?」
「愛ってのはまだ分かんないけど、キミに害をなす連中から絶対に守るさ……絶対に」
この日から私は、私の全てを救い上げてくれたイッセーさんにこの身を委ねる事にしました。
これまでの不運の何もかも笑って受け入れます。
だってそのおかげで……私はイッセーさんに出会え、無理だと思っていた想いを叶えられたのですから……。
アーシア・アルジェント
種族・人間
所属・教会の見習いシスター(元)
備考……無限と夢幻を覚醒させた少年に見初められた聖女。
終わり。
補足
超簡単に纏めると……
一誠くん、アーシアたんと出会う→この頃は別になんとも思ってない。
一誠くんその後もアーシアたんと会っては遊ぶ→ここら辺から気になり始める。
一誠くんアーシアたんが堕天使に利用されてると知って無意識に出動し、ついでに居た兵藤イッセー含めた悪魔さんもろとも全滅させ、死んだアーシアちゃんを幻実逃否で復活させる。
一誠くん、そこで漸くアーシアたんに情を抱いた……つまり好きだと自覚し、意地の悪い質問をして自分の傍らから離れられない状況を作る。
結果……互いに好き合っててハッピーでした……みたいな?
その2
黒神と名乗ってる理由は兵藤を完全に見限ったという意味であり、何故黒神なのかは、浮浪者生活のとある日の睡眠時に見た夢に出てきた黒髪ロングの奈◯ボイスの美少女が…。
『キミを抱き込む真似はしないし出来そうもないから、キミには少し僕の知り合いの話をしよう……』
と、某目安箱生徒会長の半生を教えたのが切っ掛けです。