現・赤龍帝の調査を終了し、堕天使領土へと帰還したレイナーレ。
総本山であるグリゴリ本部には滅多に来ない為か、すれ違う堕天使の殆どが、イブリースの部下にて実質的なNo.2の位置に置かれてるという意味で名が知れ渡る彼女に視線が向いてしまう。
その後ろに人間の娘を連れてという意味も加味して。
何故彼女が本部に来たのかといえば、グリゴリのトップをしているアザゼルが拾ったハーフ悪魔の少年の白龍皇に、赤龍帝の事についてを報告する為である。
限られた存在しか立ち寄ることの無い彼の部屋を訪ねたレイナーレは、イメージトレーニングのつもりか、瞑想をしていた銀髪の少年に調べた中身を全て教えてあげる。
「――――以上、これが私が調べた現・赤龍帝についてよ。
使い手としては目覚めたばかりで、自覚もなしだけど、これについては主となった悪魔が教えるでしょう。
良かったわね、年は近いみたいだわ」
「年はどうでも良いさ。
キミから見て、その赤龍帝は強くなれそうなのか?」
「さてね。興味も無かったし、強くなるかどうかは彼の主や仲間達次第なんじゃないかしら?」
「そうか……。ところでキミの後ろに隠れてる女はなんだ?」
「ぅ……」
「ちょっと色々あってね。これからクウラ様に会わせるの」
「この女をイブリースに会わせるだと? 虫も殺せなさそうなのに……」
「戦闘員としてではなく、単なる保護だから問題ないわ」
赤龍帝の兵藤イッセーと近い年の白龍皇の少年に話すことを話し終えたレイナーレは、右も左もわからず戸惑いっぱなしのアーシアを連れて部屋を出る。
イブリースという名で通る真の主の所有物となってからは半ば脱退気味の組織としてのグリゴリは一応平和路線を目指している様だが、その選択が後にどうなろうともレイナーレはどうでも良かった。
例え組織が滅びて多くの堕天使が死に絶えようと、間違いなくイブリース――クウラは滅びないのだから。
「あの……レイナーレさん? 何処に行くのですか?」
「今行った場所は堕天使を纏める組織の本部。
これから行く所は私にとっての家よ」
「家……?」
本部を後にしたレイナーレは、翼を広げ、再びアーシアを抱えながら飛翔しながら説明をする。
最早翼なんぞ展開させずとも、今より遥かに早い速度での飛行が可能なのだが、アーシアを抱えてる関係上、緩やかな速度で飛んでいる。
冥界にある本部から離れていきながら空の旅をしていたアーシアは、優しく抱えてくれたり、質問に優しく答えてくれるレイナーレに妙な安らぎを感じながら身を委ね――
「着いたわ」
「す、凄い……」
レイナーレ自身が『家』と呼ぶ――巨大で、常人ならば近寄れる事すら難しい岩山の頂点に建つ城に圧倒された。
「クウラ様の『戦闘力』を感じる」
「戦闘力……?」
「後で説明してあげるわ」
岩山を飛び越え、城の門の前へと着地したレイナーレがアーシアを下ろし、城門の扉に手を触れる。
しかし触れるだけで開けようとはしないので、アーシアははてと首を傾げて見ていると、レイナーレの全身から蒼白い光が炎の様に放出した。
「わっ!」
教会で悪魔達相手に一度見せた重圧と比べたら微々たるものだが、それでもアーシアにはレイナーレから計り知れぬ程のパワーを感じて圧倒される。
そしてオーラを放出したと同時に城の扉が自動的に開いたのだ。
「この門を潜れるのは『資格』のある者だけ。
無い者は例え組織の幹部連中だろうとも通れないわ」
「資格とは……?」
「強さよ。
私の主は強さこそ全てというお考えの持ち主であり、今の堕天使のトップをパシりに使ってこのシステムを導入させたってわけ。今回は私の『客人』としてこの認証をパスさせてあげるわ。さ、中へどうぞアーシア?」
どうやら一定の強さの証を示さなければ開かない仕掛けらしい。
レイナーレに説明されたアーシアは、彼女の主にちょっと怖いイメージを持ちながらも慌ててレイナーレの後ろをぴったりついていき、城の中庭を越えて城内へと入る。
「す、凄い……」
そして圧倒される。
外から見たら古めかしい外観だった城の中は、SF映画の様に近未来的なものだったのだから。
「元々今の堕天使の幹部達は研究者気質が多くてね。
最高戦力である我々が脱退するのを防ぐためにあらゆる技術を提供してくれたおかげで、意外と中身はハイテクな城なのよ」
「まるで別世界に来たみたいですよ」
エントランスだけでも近未来的なテイストがふんだんに盛り込まれている光景にアーシアはただただ圧倒され続ける。
しかしこれほど巨大な施設だが、誰の姿が見えない。
「あの、この場所はレイナーレさんとレイナーレさんの主さんだけが住んでいるのでしょうか?」
だとしたら少し勿体ない気がする……と思いながら質問するアーシアにレイナーレは首を横に振る。
「この施設が完成した当初は私とクウラ様――いえ、イブリース様の二人だけだったのだけど――」
戦闘力が低い時点で門に弾かれるシステムなのと、イブリースという堕天使の冷酷さが、他の者達を近づかせなかったといった理由で城には当初二人しか住んでいなかったと説明しようとしたレイナーレだったが。
「死ぬ気で訓練した結果――」
「私達三人も――」
「クウラ様の所有物になったッス!」
三つの影が上から、レイナーレとアーシアの前に降りてくる。
「?」
一人はトレンチコートを着た男。
一人はボンテージの長身な女性。
一人は子供の様な小柄でゴスロリファッションの少女。
「――と、見ての通り全員合わせて今は5人が住んでいるわ」
「5人……ええっと、この方々は?」
三人並んで堂々と立つ堕天使達にアーシアがおずおずと訊ねる。
すると何故か知らないが、三人は『その言葉が聞きたかった!』と言わんばかりの顔をすると……。
「ドーナシーク!」
「カラワーナ!」
「ミッテルトっす!!」
三人が一人一人変なポーズをしながら名を名乗り出し、アーシアがポカンとそのテンションに追い付けてないまま……。
「「「三人揃って! ネオ・クウラ機甲戦隊!!」」」
ミッテルトを真ん中に、ドーナシークとカラワーナが決めポーズをしながら締めた。
「あ……あの……?」
当然、意味がわからずに困惑するアーシア。
揃いも揃いって、ドヤァっとした顔で決めポーズをいきなりされたらそうなるのも仕方ないし、呆れた顔をしていたレイナーレが三人に注意をする。
「この子が困惑しているわ。それに、クウラ様にもうざがられてたでしょうが、その変な名乗りを」
「なんでっすか! 隊長のレイナーレさんが乗り気じゃないのもおかしいっす!」
「そうよ! このスペシャルファイティング・ポーズをしないと戦闘に気合いが乗らないわ!」
「という訳で隊長も!」
「誰が隊長よ! 私はクウラ様の側近であって機甲戦隊のリーダーではないわ! そもそも機甲戦隊の再編成だってアナタ達が勝手にやり始めただけでしょうが!!」
実に個性的な性格揃いの予感しかしない三人の堕天使に怒るレイナーレはアーシアを紹介する。
「訳あって保護することにしたアーシアよ。
今からクウラ様にご挨拶しに行くわ」
「あ、アーシア・アルジェントです!」
ペコペコと頭を下げるアーシアを三人は訝しげな顔で見ると、懐から妙な機械を取り出して片耳に嵌める。
「人間か? 戦闘力は……2じゃないか」
「門を突破したと思ったら隊長が入れたのね」
「なんでこんな人間をつれてきたんすか?」
「話を聞いてる限りだと、教会側に追放同然に人間界の日本に飛ばされて、家も食べるものも無いらしいの。
まあ……偶々出くわしてしまった以上は放ってもおけないし、なによりあの町は悪魔の管轄地域だったから」
「隊長も物好きっすねー……」
「クウラ様なら部屋に居られるが……」
「多分関心すら示さないと思うわよ?」
「百も承知よ。
空いてる部屋を使わせて貰う許可を頂くだけよ」
片耳に装着した、モノクルみたいな機械を操作しながら何かを見られた気がしたアーシアは居心地が悪そうにしているので、レイナーレはさっさと話を締めてアーシアを連れて主の居る部屋に向かう。
一体どんな人物なのか……。
アーシアは緊張と不安が入り交じった複雑な気持ちでレイナーレに着いていき、やがて城の最上階に辿り着く。
「クウラ様……レイナーレ、ただ今帰還致しました」
大きな扉の前に立つレイナーレが、扉の向こうに居るとされる人物に向かって声をかける。
「入れ」
すると扉は自動的に開き、レイナーレは一礼すると同時にアーシアを連れて中へと入る。
そして、大きめの部屋の奥にある大きな椅子に座る紫色の頭髪をした鋭い目付きをした青年……。
「アザゼルが拾ったガキに頼まれて人界に赴いた話は既に聞いている。
が、そこの小娘はなんだ?」
彼こそが堕天使イブリースとして復活せし元・宇宙の帝王の兄……クウラであった。
赤い眼光が鋭くアーシアを捉え、自身の側近となるレイナーレにたいして問い掛けるその声も雰囲気も、何もかもが威圧的であり、アーシアは小さく悲鳴をあげてレイナーレの背に隠れてしまう。
「赤龍帝の調査の際に知り合った神器使いの娘でございます。
どうやら天界側の人間共によって追放同然に異国に飛ばされた様で……」
「それで拾ってここまで連れ帰った訳か。
……お前のその拾い癖はなんとかならんのか」
「ですが、ドーナシークもカラワーナもミッテルトも、まともな戦闘員にはなれました。
アーシアにはその才能はありませんが、簡易的なメディカルマシンとしての機能を持つ神器を保有しておりますので、決してただの人間ではありません」
どうやらさっきの三人の堕天使はレイナーレが拾って来た事から始まったらしく、アーシアも決して役立たずではないと主張すると、イブリース――いや、クウラは怯えながらも何とかレイナーレの隣に立って萎縮する―――彼にとっては塵にも等しき戦闘力の少女を暫く見据える。
「……。面倒はお前達で見ろ」
「はっ! ありがとうございます!」
レイナーレの拾い癖は今に始まった話では無いと理解はしていたお陰か、面倒は自分達で見ろという条件を出してこの場に居ることを許可した。
こうして不幸な少女は、異次元の強さを持つ堕天使に拾われ、帝王のもとへと身を寄せる事になった。
それが果たして幸なのか不幸なのか……それはまだわからない。
「ふふん、入隊を歓迎するっすよアーシアさん。
レイナーレ隊長に目を付けられるとは運が良いっすね」
「は、はぁ……」
「クウラ様……あぁ、堕天使としての通名はイブリース様なんですが、うち等はあの方の手駒としての認められてる意味でクウラ様と呼べる資格を与えられてるッス。
今のところ、アンタはレイナーレ隊長の保護下に措かれてるみたいだから、クウラ様の事はイブリース様と呼べっす」
「わかりました……!」
よくわからない契約書をテーブルの上に広げながら座る三人の堕天使とは反対側に座るアーシア。
レイナーレは『こんな契約書なんていつの間に作ったのよ……』と、三人の変な方向に精力的な面に呆れながら、アーシアの横で黙って見ている。
「基本であり使命でもあるが、我々は実力主義だ。
戦闘の強い者が我々の中での地位が決まる。
レイナーレ隊長がNo.2は当然として、No.3はこのドーナシーク――」
「待ちなさい、No.3はこの私、カラワーナでしょう? この前の戦闘訓練ではアナタに勝ったわ」
「それを言うならうちだってドーナシークにもカラワーナにも勝ったっすよ? つまりNo.3はうちになるね」
「ほーぅ? なら今この場で決着を――」
「そんなに優劣をつけたいなら、私が相手になるわよ……?」
「「「………………すんません」」」
途中で誰がNo.3なのかで揉め始めて話が脱線し始めたので、レイナーレが脅し混じりに止める。
三人の堕天使は確かに強くなったが、レイナーレと比べたら大分格下であるし、なにより三人ともレイナーレに見出だされて今の領域に到達できたので、基本的にレイナーレに頭が上がらない。
「と、ともかく、戦闘力の向上こそがうち等の使命っす。
聞くところによると、アーシアさんは戦闘に向かない性格と神器を持ってるみたいっすが、ある程度自衛の手段は持って貰うけど、良いっすね?」
「は、はい……」
「心配せずとも、最初はキミに合わせたレベルの訓練を施す。
……クウラ様の直弟子であるレイナーレ隊長は最初からハードだったが、それを施したらキミが確実に死ぬしな」
確かにクウラの雰囲気は容赦の言葉が見当たらないくらい冷たくて鋭いものだった。
ゴクリと喉を鳴らしながら契約書の項目に目を通していくアーシアは、意外と待遇は良い事に気付く。
「城内の施設は全部自由に使って構わないっす。
後で案内はするけど」
「か、カラオケ施設にドリンクバー完備の漫画喫茶って……」
「ああ、うちがクウラ様におねだりして、グリゴリでトップやってるアザゼルをパシらせて用意させたっす。
他にもバッティングセンターからゲームセンター、ビリヤードからダーツバー、おまけに天然温泉施設なんかもあるっす」
「す、凄いですね」
意外とレジャー施設も完備されてるんだと、アーシアは驚く。
「他にも有給制度、出産休暇、育児休暇、家族サービス休暇なんかもあるっす。
………まあ、今のところ誰も申請しそうに無いものなんすけどね」
「そうなんですか?」
「ドーナシークはこんなんだし、うち等もよわっちぃ男なんて願い下げっすからね。
レイナーレ隊長は……ねぇ?」
「な……なによその目は? この前二人きりでお酒を飲みながら語り合えたし、少し前進したわよ!」
「……。とまあ、レイナーレ隊長も恋愛ごとには空回り気味っすからねー。
アーシアさんにはそういった相手はいないっすか?」
「いえ、お友だちすらまともにできませんでしたし……」
「あらら。
じゃあこの制度が日の目を見る日はまだまだ先になりそうっすねぇ……」
クウラにたいして空回りしてるらしいレイナーレがふて腐れた顔をするのを横目にアーシアも恋愛なんて自分には無いだろうと思っている模様。
「どうしてうち等やうち等の知り合いって恋愛下手ばっかなんすかねー?」
「知らないわよ。クウラ様は元々そういった事柄に関心が無いし……」
「クウラ様もそうっすけど、定期的に挑んできては死にかけてるあの悪人顔のコカビーさんなんかもそうでしょ?」
「コカビー……?」
「コカビエルという組織の幹部で武闘派な堕天使の男だ。
昔からクウラ様に絡んでは殺されてかけてるのに、懲りない男だ」
「顔は間違いなく人間を頭から食い殺しそうな悪人顔なのだけど、そんな男にたいして奇跡的というか、何故か好意を持つ女性が一人だけ居るのよ」
「なるほど、ちなみにどんな方なんですか?」
「一応写真があるけど見る? えーっと確かこの端末に写真のデータが……………あったわ、この男がコカビエルよ」
「………………。め、目が血走ってますね」
「怖いでしょ? 女受けゼロなんだけど、そんな彼に隠してるつもりだけど周囲にバレバレな好意を向けてるのがこの人」
「…………………………………………え」
何故か話が恋愛事情になり、何故かクウラ達に挑んでは半殺しにされまくる堕天使の周辺事情になり、アーシアはコカビエルという悪人顔の堕天使の写真データを見てから、そんな彼に好意を持つとされる女性の写真データを見て………驚いた。
「綺麗な方です……。
この方も堕天使なのですか?」
「普通ならとっくに堕ちてもおかしくないのだけど、彼女は何故か堕ちない天使っす」
「ええっ!? て、天使様なんですか!?」
「そう、異端通り越して変人天使と呼ばれるガブリエル。
この人もコカビエルにそんな感情を持ってるのだけど、悲しいことに戦闘バカなコカビエルには気付かれてもないという……」
「えぇ……?」
「どうして男ってこんなんばっかなんすかねー? ドーナシークはどう思うっすか?」
「男はロマンを求める生き物だからさ……フッ」
今の面子で唯一男性であるドーナシークは無駄にキリッとしながらロマンを求める生き物だと返す。
「クウラ様だってストイックなだけよ。
他の男とは訳が違うの」
すかさずレイナーレも口を挟む。
ストイック過ぎて枯れてるというか、元が宇宙人だから認識の価値が違うからとか、色々と事情が多いからなのは密にしておきたいレイナーレだった。
ミッテルト
戦闘力2100万
カラワーナ
戦闘力・2000万
ドーナシーク
戦闘力・2200万
ネオ・クウラ機甲戦隊(勝手に再編成)所属。
悪人顔堕天使・コカビエル
戦闘力・4800万
イブリース(クウラ)の自称ライバル。
絶対堕ちない天使様・ガブリエル
戦闘力5000万
周囲にバレまくりな上、空回りしまくり天使様。
軽い遍歴
イブリースの異質なパワーにコンプレックスを抱く。
戦争後、挑んだら殺されかけた。
重症負って、死ぬのも時間の問題かと思ってたら、戦争時代妙に出くわして顔見知りだったガブリエルさんに治療されて一命をとりとめる。
とにかくイブリースへのリベンジに燃えるコカビエルに、訓練の手伝いという建前で来て世話焼きするが、本人はその意図に今まで気づかない。
気づいたらガブリエルさんの方がコカビエルより勝り始めた。
でもガブリエルさんはとにかくコカビエルを立てようとする。
周囲から見てもガブリエルさんの空回りっぷりは可哀想になってくる。
最近、イブリースの部下のレイナーレの強さに目を付けてるコカビエルのせいで、ガブリエルさん焼きもち気味。
終わり
補足
え、新生機甲戦隊が強すぎ?
そら、レイナーレ隊長が頑張って鍛えたり、時折クウラ様の地獄訓練の餌食になったんだから仕方ないね。
その2
そんな連中の中に、戦闘力たったの2であるアーシアたんは生き残れるのか!?
その3
このクウラ様の根城は、ハイテクだし、変にレジャー施設も充実してる。
しかし、入るには最低戦闘力が100万以上無いと文字通りの門前払いをくらうとか。
その4
コカビーもガブリーさんも居ます。
んで、設定的にはそんな二人の方にアザゼルさんよりヴァーリは懐いてるとかなんとか……。