自由に、気儘に、学校帰りの学生みたいにバカをやって笑い合いながら生きていたい。
その邪魔をする者は誰であろうと許しはしない。
その道を阻むというのなら、どんな手を使ってでも退かして前へ進んでみせる。
愛の為とか、正義の為とか、そんな綺麗事を理由にする気なんて最初から無いし、自分達の生き方を理解して貰う気だってない。
三人の若者はただ先を知りたいのだ。
自分の限界を。
何物にも縛られぬ圧倒的な自由の果てに何が見えるのか。
その為だったら、気にくわない者だってぶっ飛ばす。
西部開拓時代の混沌の様な自由を楽しみたい。
それが三馬鹿の目指す生き方であるのだ。
つまり、彼等の異質化した力をただ求める者は、ただの束縛でしかない。
全てに目が覚めて、再び求めるのも何もかもが既に遅くて、妨害となるのだ。
彼は赤い龍を宿していた。
しかも、物心が付いた時には既にその力を半ば扱い、制御し、赤い龍との意思疏通すらも可能にしていたという。
その異質さを恐れた彼の実の親は、そんな彼を育てきる自信を持てずに彼を捨てた。
流石にまだ子供であった彼が一人で生きていくのは不可能で、飢え死にをしかけていた所を偶然発見して保護したのが私……リアス・グレモリー。
当時私はまだ5歳で、彼は――イッセーはまだ4歳の子供だった。
みすぼらしく、薄汚く、そして親の愛情を失った彼を保護し、その卓越した才能を更に開花させていく姿は気昨日の様に覚えている。
親の愛を失って孤独だったイッセーに、出来るだけ家族としての愛情を与えてきたし、イッセーはそれをきちんと理解し、新しく眷属として入ってきた子達にも優しく、先輩眷属として色々と教えてあげてくれた。
そう、あの子は私にとって最初の眷属。
本当ならこの先も、私の眷属として――いえ、それ以上の、もっと大きな存在なって私の傍に居てくれる筈だった。
………あの、悪夢みたいな男に全てを狂わされるまでは。
迂闊だったし、もっと警戒すべきだったと今では思う。
でもきっと、そんな感情を無理矢理消して人のコミュニティの中へと入り込んでくる力を持っていたあの男には通じなかったでしょう。
私達の前に現れ、私達の心に何かを植え付け、好意を抱かせる暗示のような何かを膨らませていく。
正気へと戻れた今となればそうとした思えない事を私達はされた。
けれどイッセーは、その神器とは違う異質で、私達にも分け与えてくれた異彩な力を持っていたからなのか―――いえ、あの男に謂れの無い殺意を抱かれていたからこそ何もされなかったのでしょう、私達があの男に心を溶かされていく間に、イッセーは蔑ろにされてきた。
それを見ていて私達は庇う所か、止める事もできなかったし、あの時点で私達の意思はあの男によって完全に操作されてしまっていた。
だから私達は彼を見捨ててしまった。
築いてきた絆を私達が捨ててしまった。
あの男に殺されそうになり、激怒した赤い龍の意思による抵抗でイッセーは死にはしなかったけど、その精神的なショックはきっと計り知れなかった筈。
それを思えば私達は後悔しかない。
失踪した果てに出会い、這い戻る絆を持つ寸前だった龍神すらもあの男に堕ちてしまったのだから……。
だから、白龍皇と原初の神滅具使いの男と世界を相手に抵抗し続けたのだろう。
あの男からの呪縛から抜け出し、正気に戻った時にはあの子は仲間の二人と世界から消えてしまった。
でも、永遠に謝る機会すらも失い、失意のままその生涯を終わらせた筈の私達は最後の最後で運に見放されなかった。
だってあの子が同じ様に――間違いなくあの子自身としてこの世界で生きていたのだから。
あの男が消えた今、私達に柵は無い。
無限の龍神との協力体制を築いた今なら、あの子を取り戻せる。
堕天使勢力の下で仲間の男二人と生きている―――と、『事情の全てを知っている』アザゼルから聞き、彼の提案によって『会いやすく』なる為に私が管理を任されているあの町に住む様にさせる事で、私達はやっとあの子に会えると思っていた。
―――思っていたのだ。
「天の世界は何かと便利な物に溢れていますね。
変な味はしますが、綺麗な水は簡単に手に入りますし、火だって簡単に起こせる機械もあるし、何よりお布団がフカフカですぞ」
「天じゃなくて、未来な」
「でもちょっと空気が悪い……」
「あの時代に比べたら色々と環境の問題が多発してるからな……」
決して広くも無ければ、かといって狭くも無い和寄りの家にイッセーは住んでいた。
……………会ったこともない女二人と。
明るい緑色の小柄な……というか子供にしか見えない少女はまだ良い。
昔からイッセーはどちらかといえばああいう年下の子に好かれやすい体質だったから。
けれどあの……赤い髪をした女は。
当たり前の様にイッセーと寄り添いながら縁側でのほほんとしてるあの女は――
「だ、誰なのよ……あの女は……!」
知らない。
イッセーをあんな穏やかそうな表情にさせているのが……私達はただショックだった。
「一誠、また例の連中が庭を覗いてますぞ」
「手でも振るか、会釈でもしてやれ。俺はしとくぜ」
「……………」
途中、私達の存在に気づいても、イッセーは動揺するでも無く平気な顔をして軽く会釈をするだけ。
そしてその様子を見ていた赤い髪で褐色肌の女はイッセーに対して、まるで『自分のモノだ』と言わんばかりに抱き着きながら、抑揚の無い顔で見ていた。
「な、なんなのよ……誰よあの女? どうしてイッセーにあんな密着して……」
「……………………」
「アザゼルなら何か知ってるかもしれません」
「聞いてみましょう……!」
私達がイッセーを完全に見失っていた時に知り合ったのは間違いない。
でも、あの当時、他人不信が極限にまで達していた筈のイッセーがあんな風に受け入れるとは思えない。
私と同じ様に、イッセーを見捨ててしまった事を後悔している眷属達やオーフィスもあの女に動揺を隠せないまま、恐らくアレが誰なのか知ってるだろうアザゼルに問い質す事にした。
どうやらこの世界では、 イッセーやヴァーリ・ルシファー……そして曹操と名乗る青年にアザゼルが資金援助をしている様だし、アザゼル自体も私達みたいに『知っている側』だ。
聞けばきっと一発で分かると思った私達は、この世界では既にシェムハザにグリゴリの総督を譲って、気儘に生活しているアザゼルを近くの喫茶店に呼び出した。
「どういう事よアザゼル?」
「あ? 何がだよ? っと、店員さーん、チョコレートパフェ一つとナポリタン大盛りなー」
呼び出したアザゼルは割りとあっさりと来てくれた。
けど、私達がお金を出すとわかった途端、図々しく色々と頼み始めている。
まあ、情報と引き換えと思えば安いものだから、文句は無いし、なによりあのイッセーと一緒に居る少女と女はなんなのかが知りたい。
「土地は確かに提供したけど、イッセーに家を用意してくれたのはアナタでしょう? その家に一緒に住んでいるあの明るめの緑髪の少女と、私より少し薄い赤髪の女はなに? どこの誰?」
『引退して暇だし、アイツ等三人分の家を建てる土地を提供してくれたら、お前達とイッセーの仲について協力してやらんこともない』と言ってたので、アザゼルはこちら側だ。
いい加減な面は多いけど、ある程度信用はできるから私達はアザゼルの言葉を待っていると……。
「本人から聞けよ。
それこそ話が出来る絶好の機会じゃねーのか?」
グリゴリの総督をさっさと引退して、以前より前倒しで自由になったせいなのか、それとも私達の知らないアザゼルの一面だったりしたのか、運ばれてきたナポリタンをズルズルと、行儀悪く食べながら、アザゼルは私達にとってハードルの高い事を言っている。
「それが聞きにくいからアナタに聞いているのですけど?」
「それに、その言い方だと知ってるんですね? あの二人を?」
「勿体ぶらないで我達に早く教える」
朱乃、小猫、オーフィスがアザゼルに詰め寄る。
勿論、私やアーシアも詰めよりはしないけど、答えを知りたい。
けれどアザゼルは口に付いたケチャップを紙ナプキンで拭きながら言う。
「俺が今ここで何者であるかを教えたとして、お前達は信じるのか? 受け入れられるのか? 俺の予想ではまず無いと思ってる。
勿体振ってる訳じゃねぇ、真実は本人から聞くから真実だと俺は思ってんだよ。
知りたけりゃあ本人に聞け、なんだったら話し合いが出来るようにお膳立てくらいはしてやれるぜ?」
『……………』
あの女とイッセーの距離感は相当親しみが感じられる。
だからどんな関係なのかは――私達も馬鹿ではないから半ば予想はできてしまっている。
恋人なのかもしれない……。
そう考えるだけで胃がキリキリと痛むし、皆だって苦しそうな顔だ。
アザゼルが仮にあの女とイッセーの関係を話して、予想通りだった場合、確かに私達は感情が爆発して嘘だとわめき散らしてしまうかもしれない。
だってそれ程に、あの子が大切だったと気付いてしまったから……。
「このまま黙って見てるだけか。
それとも思いきって踏み込んでみるか。
案外踏み込んでみたらあっけらかんとした展開になって、お前達の望む『元鞘』に収まるかもしれねーぜ?」
「……」
そう。私達はイッセーを発見してから一度も面と向かって話をしていない。
あの女の事もあったし、何より怖かったから。
殺意を向けられる事が。
罵倒をされることが……。
追い返される事が。
「リアス、どうしますか?」
「私はこの人が言っている事にも一理あるかと……」
「確かに私達はやり直してからイッセーさんとはお話すら出来てませんし……」
「我も同じ事を思ってる」
けれど、このまま足踏みをしている訳にはいかない。
あの悪夢みたいな男から解放され、どんな理由があるにせよ私達はやり直す機会を手に入れられた。
だから―――
「わかったわ……本人に聞きましょう」
私達はその一歩を踏み込む決意をした。
あの子との本物の日々を取り戻す為に……。
「パフェうんめっ………ぷくくくっ!」
けれど、私達が手を取り合って団結している横で、パフェ食べながら嗤っているアザゼルにこの時まだ気付かなかった。
アザゼルは心底可笑しくて堪らなかった。
アザゼルという堕天使は、味方には成り得ないと判断した者に希望を少し与えてからブチ落とすやり方が結構好きだった。
何故ならアザゼルは――――
「よぉ、イッセー、シェムハザ達に全部押し付け過ぎて暇すぎたから遊びに来てやったぜ」
「引退するには早い気がしたんすけどね?」
「今更神器研究なんてする気にもならないし、人工神器等々にも作業感覚だからよー。
ところで、話がしてーって奴等が居るんだが、コイツ等も家に上げてやってくんね?」
友達感覚でやって来た自分を、イッセーは苦笑いしながら迎え入れてくれる。
そしてアザゼルが連れてきたリアス達に対しても……。
「ああ、ジンガん所とヴァーリん所とこの家の土地を提供してくれたんでしたっけ? 何のお構いも出来ないッスけど、それでも良いなら別に……」
「だ、そうだ」
「お、おじゃまします!!」
思ってた通りに、あっけらかんとした態度であっさりとリアス達を中へと入れるイッセーに、アザゼルは内心笑ってしまう。
それを知ってか知らずが、リアス達やオーフィスまでもが少し緊張した面持ちで新築したばかりのイッセー宅へと入る。
そして居間へと通されると、そこにはリアス達が一切知らない少女……恋とねねが居た。
「お客さんだ」
「………」
「アザゼル殿は存じてますが、その方々は……」
「話がしてーんだとさ」
「……………」
ジーっと一言も喋らずに戸惑いの表情を浮かべるリアス達を見つめる恋と、ここ最近家を覗いてくる例の連中が家の中に入ってきたということで、警戒気味のねねに、イッセーは安心させる様な声色で言いつつ、リアス達をその場に座らせる。
「…………」
「ええっと、粗茶ですが……」
「ど、どうも」
和室というのもあり、雰囲気に圧されて全員正座してるリアス達とは反対に、片膝立てながら座っていたアザゼルが間を取り持つ様に話す。
「まあ、お察しの通り、コイツ等はお前と同じ時空軸の者だ。
ほら、例の男にヤられたというか……まあ、本人達曰く、今は正気に戻れてるらしいだわ。
で、お前に色々と謝りてーんだとよ」
「はあ……その為にわざわざご足労頂いて恐縮っすね」
アザゼルが間を取り持ってるせいか、割りとスムーズに話を進められたが、言われた本人のイッセーの反応はあまり関心が無いそれに近いものがあった。
「そ、の……こうして話をするのは随分久しぶりというか、あの時は本当にごめんなさい……」
「ごめんイッセー……」
「謝って済む事では無いとは重々承知はしています。
ですがどうしてもアナタにしてしまったことを謝りたくて……」
「ごめんなさい……先輩」
「ひどいことをしてしまいました……」
「だ、そうだ」
次々と謝るリアス達をフォローするようにアザゼルが――――リアス達に見えない角度から口の端をこれでもかと歪めながらフォローする。
「はぁ……別に謝らなくても良いと言うか。
そもそも正気じゃないってのはわかってましたしね」
「「………」」
それに対してイッセーは、リアス達に謝る必要は無いと返し、本当に怒りの無い表情だった。
寧ろ次々とイッセーに謝ってるリアス達を見てムッとなってるのが恋とねねの方だった。
「あの件は水に流しましょうよ? 皆だって充分この時まで苦しんできたんでしょうし」
「わ、私達を許してくれるの?」
「許すも許さないもありませんよ。
大丈夫です、俺はもうなんとも思ってませんから」
「せ、先輩……!」
「イッセー……!」
「あ、ありがとう……イッセーくん!」
薄く微笑みながら許すと言い切るイッセーに、リアス達はこの時確かに救われた。
長年の後悔の念が、この一言で漸く軽くなったのだから。
「あの……ところでその、そちらのお二人は?」
「え? ああ、そういえば知らないですよね皆さんは。
まずこの子はねねと言います、そしてこの子は―――」
だがしかし、この緩和した空気のどさくさ紛れに二人の事を聞いた瞬間――
「恋……。
イッセーと恋は契りを交わした関係」
『…………え』
既にイッセーは遠くへと行ってしまっていた事実を叩き付けられた。
「契り……って?」
「俺の嫁さんっす」
「よ、嫁……………ぇぇっ!?」
さも普通に嫁だと言ってのけるイッセーに、最初は言葉の意味が大きすぎて飲み込めなかったリアス達は、一気に驚愕する。
「い、イッセーはその方と結婚するの……?」
「そっすよ?」
「な、何故……?」
「何故って、そんなのわかるでしょ? 恋とは――」
「恋はイッセーが大好き。そしてイッセーも恋を受け入れてくれた。だからする」
「―――そういう事っす」
『………………』
既ににやにやが止まらないアザゼルは、軽く嫌がってたが、途中で諦めてアザゼルの膝に乗せられていたねねの頭をわしゃわしゃ撫でながら我慢のし過ぎて全身を痙攣させていた。
「………っ!!! ………っっ!!!!」
「ちょ! や、やめてくださいアザゼル殿!」
笑いすぎてさっきからねねに対するボディタッチが多く、ねねが擽ったそうに身を捩らせてるが、リアス達やオーフィスは予想が当たってしまったその衝撃とショックに声が出せない。
いや、予想はある意味越えてた。
だって嫁宣言されてるのだから。
「ま、待って、私達を許してくれるのでしょう?」
「っす」
「や、やり直しのチャンスをくれるのでしょう……?」
「存分にやり直しをしてください。
奴が居ない分、今度は自分達の本当の幸せを見つけるべきっすよ」
「だ、だから……また一緒に……私達の仲間として……」
それでも何とか声を出すリアス。
先ほどの言葉で一気にイッセーが遠くに居るように感じるし、そのイッセーの隣に平然と寄りそう恋に言い知れぬ嫉妬の感情が涌き出る。
「? あぁ、昔みたいにアナタの下僕になれと? それはちょっと難しいっすね。
見ての通り、家庭を持つことになりますし」
『…………』
「あの時みたいに我と一緒は……?」
「うーん……無理かなぁ」
爽やかな笑みと共に、隣に寄り添ってた恋の肩に腕を回して抱き寄せて断りの言葉を放つイッセーに、リアス達は幼子にしか見えない少女に、微妙なセクハラを無自覚でやっちまってるアザゼルに殺意を向けた。
「アザゼル……アナタ、こうなる事を知ってて私達を……!!」
「くくくっ……! みょ、妙な言いがかりはやめろよなぁ? 現にイッセーはお前達を許してるじゃねーか?」
「さ、さっきから何処触ってるのですかー! ちんきゅーきーっく!!!」
「ぐへ!?」
アザゼルの腕から抜け出したねねが、その勢いでターンし、そのまま見事な飛び蹴りをアザゼルの顔面にぶちかます。
しかしそれでもアザゼルはケタケタと楽しくて仕方ないと笑うのをやめない。
「『洗脳されて身体まで許し、イッセーを見捨ててしまいました。だから許してください』ってかァ? 許して貰えてよかったなぁオイ! くははははは!!」
「あ、アザえもんが怖い……」
流石に今のアザゼルのバカ笑いに引くイッセー。
というかひっくり返った状態でねねにげしげしと蹴られながら笑ってる姿がなんとも言えなさすぎる絵面だった。
が、言われた本人達であるリアス達にしてみれば、地獄の現実でしかない。
「だから言ったろ? 案外あっけらかんとした感じで済むって。
良かったな、今後は自分達の幸せとやらを精々探せるじゃねーか? イッセー達とは無関係な所でよぉ?」
『…………』
「我はイッセーを……」
「おいおい、無限の龍神様ともあろうお方が、随分と拘るなぁ? ひょっとしてイッセーの持つ側の違う『無限』が欲しいだけなんじゃねーのか?」
「ち、違う……我は!」
「お前達もだ。
イッセーの特性によって力を進化させて貰ったのが忘れられないんだろう?」
「そうじゃない!! 私達はイッセーそのものを――」
「そのイッセーは今この恋という娘のものだぜ? イッセー自身もそれを望んでる。
つまりだ、最初からお前等に対してコイツはもう許すも許さないも無く、単純に他人という認識しかしてねーんだよ! ほら、これで罪悪感も抱く必要もねーぜ?」
『……………!』
ポリポリと頬を指で掻きながら困った顔をするイッセーの本音が、憎むでも無く、ただの無関心だった。
アザゼルに突き付けられた真実に、リアス達は放心し、そのままアザゼルがポケットから取り出した防犯ブザーのような機械によって家から強制的に転移をさせられてしまった。
その後、リアス・グレモリー達がショックのあまり引きこもりになってしまうのかもしれないが、アザゼルは別の時空軸とはいえ、義理の子が受けた仕打ちの返しをすることが出来たととても気分が良かった。
「アザゼルさん、あの人達ヤバイんじゃ……」
「あ? 気になるのかよ?」
「いや、流石に目の前であんな地獄に叩き落とされた様なリアクションをされたらねぇ……?」
「だからといって、イッセーがまたアイツ等の仲間になるのは、恋は反対」
「いやならんし、そんなことやってる暇があるならお前達とのほほんとしてたいから無いけどよ……」
「良いんだよ。
許されたから全部が全部元に戻れると思ってる時点で、それはただの傲慢でしかねぇんだ。
ましてやオメーにそんな真似を――洗脳されて仕方なくやってしまっただなんて言い訳で済ませるのは笑えねぇ。
俺は知ってるんだ……似た様な力を前にしても――それをはねのけ俺の親友だった男を想い続けた天使の女をな」
「それはわかりましたが、何でねねにあんな事をしたんですか! へ、変な所とか触るし……!」
「ああ悪ィな。
笑いを堪えるのにちょうど良い抱き心地してたんで……」
「そんな理由であんな事をされたねねの身にもなってください!! ……うぅ」
「ははは、今度なんか買ってやるから許せ?」
ポンポンと羞恥混じりに膨れるねねの頭を撫でるアザゼル。
一生涯独り身なせいか、変に軽い所が多い堕天使は、そんな男だった。
別時空軸の堕天使
アザゼル
無意識を操作するスキル。
三馬鹿の義父にて、ちょっと過保護。あとなんか軽くチャラい。
最近の主な被害者……音々音。
とまあ、恋を嫁宣言し、家庭があるので眷属には間違いなくならないと言い切ったイッセーは、それでも少し不安だったらしい恋に膝を貸してあげながら、のほほんとお茶を飲んでいた。
「アザえもんもエグい事しちまったというか……」
「………」
「心配しなくても俺は何処にも行かないよ、恋」
「うん……」
恋を膝枕しつつ、その頭を優しく撫でると、恋は安心した様な表情をする。
さっきから別室でねねがアザゼルに対してぷんすかと怒ってるその怒声が聞こえるが……まあ、アレは放置してても問題は無いだろう。
「この世界にまで名すら捨てて付いてきてくれたんだ。
離れたくなったとお前が例え言っても、俺は離さないよ」
「……うん」
「だから大丈夫だ」
今更リアス・グレモリーがどこで何をしてようが、記憶があろうが無かろうがどうだって良い。
今のイッセーにとって大切なのは、友であるヴァーリやジンガ、そして恋やねねなのだ。
過去の事はもう過去に起こったただの思い出でしかない。
粗暴で、短気で、直ぐに頭に来ていたあの頃の自分を受け止めてくれた恋が大切なのだから。
「おわっと? な、なんだよ恋?」
「イッセーの事をぎゅってしたくて……だめ?」
「いや、寧ろして欲しいから駄目じゃない。
へへ、恋の匂いは安心するぜ……」
「恋も、イッセーの匂い好き……」
だから邪魔なんてさせない。
もう二度と奪われない。
目の前の……やっと掴めた幸せを守る為に生きる。
それだけが今の生きる意味なのだ。
「恋、またイッセーが欲しい……きて?」
「……。ちくしょう、散々年上趣味だった筈なのに、可愛いなこのやろ……!」
「ぁ……♪」
そして――
「……………。一応二人に聞くけどさ、随分とその……オープンになってきたんだな?」
「違う。俺は違うぞ、ジンガとは違う」
「お、俺も違うぞ。そもそもあんな不意打ちみたいに羽交い締めにされたら抵抗なんてできないじゃないか…… 」
皮肉にも、恋との繋がりにより、一気に女性に対してまともになり、年上ハーレム王がどうだとか一切言わなくなったイッセーは、ゲソッとした顔をしながら、それでも違うと言い張る二人の親友に、赤まむしドリンクをそっと差し入れるのだ。
「すっぽんの生き血ドリンクもやるよ」
「「………」」
「まあ、ほら……サッカー試合ができるくらいの大家族にしちまえよ? あぁ、もう今の時点でなってるも同義だけどさ」
「「………」」
補足
許してます。
許しはしてます。しかし同時に関心も無くなりました。
許しはしてます。でも元鞘には戻れません。嫁さん居るし。
そんな感覚です。
その2
このアザゼルさんは敵に対しては性格が異質的に悪くなります。
上げてからブチ落とす戦法がとにかく大好きです。
成功したら恋ちゃまの妹分に対して無自覚セクハラしながらゲラゲラ目の前で嗤っていやるくらいには。
んで、そんなアザえもんは…………無意識という概念を 操作してしまう程度のスキルをお持ちだとか。
その3
続きは……反応が良ければ。