だから肉食さん達に食べられてしまうんです。
三バカの一人である曹操。
この名は、かの有名な曹操の子孫だったと判明したとで、自分で勝手に名乗っているだけの名であり、真の名は神牙。
本来の時空軸でならば、彼は『昔から神や悪魔を倒すのは人間だった』と言い、自分の様な人の英雄の子孫を集めたグループを結成し、世に出現して色々とやる青年となっていく筈なのだが、この神牙という青年は今も昔もそういった行動はしていない。
何故なら彼は確かに自身の先祖に一種の浪漫を感じはするけど、彼が望んだのは全くの別物だったからだ。
友達が欲しい。
笑えぬ程貧困した家庭環境に生まれた青年は、己の持つ特別な力のせいで両親に金で売り飛ばされても、売り飛ばされた先で人権を完璧に無視した扱いをされても、その後金に取り憑かれた両親が自殺をしてしまってちょっと悲しくなっても、彼が望んだのは自分に近い人材ではなく、自分に近い『友人』だった。
前向きに、ポジティブに、如何なる災難に見舞われても、世界にはきっと自分と同じ者がきっと居る。だからネガティブになっている暇なんて無い。
呆れる程前向きなジンガの呆れる程単純な思考回路。
端から見れば一種の狂気にも思えるだろう。
けれど彼は辿り着いたのだ。
同じ様に力を理由に親しき者から捨てられ、暴力を振るわれ、使い捨てにもされた生涯の朋友に。
バカをやって笑い飛ばし。
間抜けをやって一緒に怒られたり。
時には気にくわない奴に喧嘩を売りにいってぶちのめしてやったり。
食い物ひとつで喧嘩したり。
求めてやまない宝の日々はジンガにとってまさに幸福だった。
そしてあの運命の日。
始まりが、ジンガの好物だったチーズバーガーを友人二人――イッセーとヴァーリが食ったとかそんな小さな理由で巻き起こったマジの喧嘩の余波という、ほぼ事故みたいな理由で飛ばされてしまった摩訶不思議なる世界。
過去の世界で、子孫の曹操が台頭しようとする時期の、現代っ子には少々不便すぎる世界。
しかも、史実では男性だった筈が、ほぼ女性化してるなんとも言えぬ世界。
三人バラバラの地域に飛ばされ、ジンガが落ちた場所は後に江東平定の場所となった地域。
飛ばされた余波で力を半分以下まで弱体化してしまったのと、素の身体能力が三バカの中では一番『弱っちぃ』というのもあり、即刻二人の内のどちらかと合流しないとならないと考えていたのだが………捕まった。
後々孫呉だなんて呼ばれる軍団の、しかもよりにもよってトップとなっている存在直々に。
しかも言動から姿からすべてが思ってた人物とかけはなれ過ぎていた。
なんせ、いきなり襲い掛かって来たのだ。
いやまぁ、状況からしても余所者の不審人物と見られても仕方ないのだが、だからっていきなり殺しに来るのはどうなのかと思ったジンガは、弱体化したとはいえそれでも並の人間を越えた力を駆使して、相手を殺さない様に抵抗をした。
切り札となる黄昏の聖槍を使わなくとも、イッセーには素手のラフファイトとなる剛の手解きを。
ヴァーリには相手の攻撃を受け流す柔の手解きを受けていたのもあり、襲いかかってきた褐色肌で明るいピンクに近い髪色という、今にして思えばありえん風体である妙齢の女性を相手に大立ち回りを演じ、援軍に来た彼女の部下達をまとめて相手にしてもなんとか生き残る事ができた。
まあ、その結果、体力を大幅消費してしまい、捕縛され彼女達の『家』となる場所に連行されてしまったのだが……。
今にして思えばこの最初の戦闘が彼女に特に気に入られてしまった遠因だったのかもしれないとジンガは思う。
だってその日以降、ジンガはその女性――孫堅に引っ張り回されまくる事になるのだから。
娘が三人も居るくせに、言動から全てが型破りで、娘達からも呆れられる程だったが、ジンガはそんな彼女に元の時代へと戻る足掛かりすべく、はいはいと付き従った。
だから余計に彼女に気に入られてしまい、彼女どころか彼女が『家族』とする者達からも気に入られてしまい……。
「ここが新しく住む家か? 狭いじゃないか」
「今の時代では破格の広さだから我慢してくれ」
「そりゃ確かに広さなんてどうでも良いな。どーせ寝る時はオレとなんだからよお前は」
「…………」
彼女は――炎蓮という真名である孫堅は、元の時代へと帰還したジンガにひょっこり付いてきてしまった。
いや、彼女だけではなく、彼女が家族と呼ぶ者達と何人かまで。
「やっとアンタ等から解放されたと思ったのに……」
「あ? オレが――いや、オレ達がそんな簡単にお前を離すと思ってんのか? 前にも言っただろう、お前は気に入ったからどこにも行かせねぇってな」
「……………」
流石にこの時代の人間界では炎蓮達の基本衣装はかなり目立つので、アザゼルに土下座をした借金をしてまで買い与えた大人しめの服をなんとか無理にでも着させた。
「しかし、良い糸を使った服なのはわかるが、窮屈なんだが……」
「普段着てる服なんて着て町中を彷徨かれたら目だってしょうがないんだ。少しで良いから我慢してくれ頼むから」
タートルネックのセーターと黒いロングスカート。
これは、とにかくジンガか説得し倒した結果、炎蓮のみならず、長女の孫策こと雪蓮達にもこんな風な大人しい感じの服装となって貰ったものだ。
その時のジンガの苦労は誰にも伝わりそうも無いだろう。
パラレルワールドだったからといえばそれまでだが、過去の世界の癖に誰も彼も服装がハイセンス過ぎるのだ、あの世界は。
不満そうに着せられた服に文句を言う炎蓮にそう言うジンガは、今後の事を話し合う為に炎蓮と家に入る。
なるべく江東の孫家の城に近い間取りにしたが、外観まで似せると完全に目立つので、完コピとまではいかないものの、中々の再現度の……所謂天幕的な部屋に入ると、既に『付いてきてしまった面子達』が二人を待っていた。
「…………」
「何ボサッとしてんだ、さっさと座れよ?」
「お、おう……」
夢ではなく、マジに居るんだよなぁ……と、少し複雑半分、されどちょっと嬉しさ半分な気持ちを抱きながら、ジンガは上座位置に座る炎蓮の向かって右手側の席につく。
「えー、取り敢えず住居の確保を義父のお陰でなんとか出来た訳だが、君達の生きた時代とは常識から何から違う訳なので、まずくれぐれも『ムカついた』という理由で喧嘩騒ぎを起こさないようにしてくれ。
あと武器はこの時代では持ってるだけで犯罪なので絶対に持たないこと」
絶対に元の時代の方が自由に生きられる筈なのに……なんて思いながらもう一度念を押すように説明するジンガ。
しかし、ついてきてくれた面子達である雪蓮や小蓮、それから炎蓮辺りは不満を言いそうなものなのだが、驚くべき事に大人しく頷いていた。
「民……というか、普通の人にはダメなのはわかってるわジンガ。
ジンガが困る事は控えるから大丈夫」
炎蓮の長女、雪蓮の言葉に全員がうなずいた。
「散々常識がことなるって教えられて来たんですもの、その枠にある程度は従うべきだって言ったのは、母様なのよ?」
「え、そうなのか?
真っ先に敵陣に突撃して血塗れになるまで敵を斬り倒しまくる炎蓮が?」
「なんだよ、そんなに意外かよジンガ? ついてきた以上、そういう覚悟もしてるんだよオレは」
心底驚くジンガの態度が気に入らないなか、ちょっと拗ねた炎蓮。
まあ、人間界で騒ぎさえ起こさなければ問題は無いし、もし人ならざる者が喧嘩を売ってくれば解禁となる。
ジンガのレベルについていこうと奮闘した結果、ちょっとした戦闘民族と化した孫家達にとっても、そういった手合いとの戦闘の方が歯応えがある筈なのだ。
「じゃあくれぐれもお願いするよ。
………多分今頃ヴァーリの所も似た様な話をしてるだろうし」
「向こうには曹操達が居んだろ? で、オレ達を一回殺そうとしていたイッセーだったか? アイツん所には呂布と陳宮だっけ?」
「まさかイッセーの所が一番平和そうなのが複雑だオレは……」
「あらら? それはどういう意味かしらジンガ?」
「……だって大人しいじゃないか、あの二人は。
それに比べてこっちは人数まで多いし、身勝手の塊みたいなものが多すぎるし――――」
『……………』
「! あ、違うぞ! あははは、今のはちょっとした冗談――わぷっ!?」
「身勝手の塊だとよオレ等は? じゃあ身勝手に今から初めても問題ねーよなぁジンガ?」
「ま、ま、待て!! 落ち着け! 俺は元々こんなキャラじゃないんだ!! 話せばわかる、交渉を!!」
「雪蓮、ジンガを押さえつけろ」
「はーい!」
「おらおら! 小蓮も蓮華もぼさっとしてねーで手伝え! 本来の実力を取り戻したジンガは、前と違って一筋縄ではいかねーからな!」
「は、はい……」
「どんだけジンガが好きなのよ母様ったら……」
戦闘民族化と同時に、そっちの戦闘力まで増したので、ジンガにしてみれば前とそんなに力関係が変わらないせいで微妙だったとかなんとか。
「ひぇぇぇ!」
「よしよし、今日も元気そうで結構なこった。
さて、まずは誰からいく?」
「はいはいはーい! 私から行くわ!」
今日もジンガは楽しそうだった。
とまあ、雄より余程逞しい雌の虎さん達の群れに放り込まれた草食動物よろしくに神牙が食べられてたりしてる頃、一番色々な意味で落ち着いた位置に辿り着いたイッセーは、今日も恋やねねとのほほんと生きている。
町外れに屋敷を持つことになったヴァーリが、金髪の少女やら側近姉妹だとか、金髪少女の血縁でこれまた金髪の少女やらと、まあまあ静かに暮らしている話はまだ置いておいて、実はそれは別の目的でこの現代時代にひょっこり付いてきた者が一人……。
「…………」
「便利な世になったものだ」
その話をするにはまず、兵藤イッセーの神器について説明をしなければならない。
彼の神器の核となる存在は赤い龍――ウェルシュ・ドラゴンと呼ばれし、まぎれもないドラゴンだ。
そのドラゴンが、宿敵であるバニシング・ドラゴンと共に神によって神器として封印され、それ以降は代々宿主を介しての戦いを繰り広げてきた。
「しかし、この世界に来てからというもの、町の男共に声を掛けられることが多くなってしまったぞ。
今となっては他の男なんて同じ顔にしか見えなくなってしまったし、なんとかならないものか……」
「…………」
果てなき戦い。
しかしその戦いも兵藤イッセーの代となった事で変化した。
歴代の宿主の誰も持たない異質な特性。
そしてその特性を持つが故に凡人達に蔑まれ。
そしてそんなイッセーを拾った悪魔達や無限の龍神にすら最終的には見捨てられ。
あんまりすぎる人生を送るイッセーを見ている内に、赤い龍ことドライグは、龍なのに父性に目覚めた。
そしてイッセーもまたドライグを慕い、互いになくてはならない繋がりを持った。
それはパラレルワールドの過去への冒険を経ても変わらない繋がり。
神器使いとしては異質の、一時的で物理的な肉体分離をも可能にさせる事で限定的な自由すらも取り戻せた今でもドライグはイッセーを真なる宿主として認めている。
だが、そんなドライグは最近ちょっと困っていた。
いや、最近――というよりは、パラレルワールドの過去へと飛ばされてしまってからかもしれない。
飛ばされた影響によって力を半分以下にまで落とされたイッセーが恋との繋がりを徐々に受け入れ始めた頃に、ドライグはイッセーとの意思疏通を復活させ、当時イッセーの仲間となっていた若者達にも自身の存在を教えた。
僅かな時間ながら自立行動が可能だったドライグは、イッセーがそのまま約10年程歳を取った容姿の成人男性の姿となって分離が出来た。
無論、摩訶不思議な現象であるために、多くの者達は驚いた。
が、今もドライグにすら何故なのかわからないが、そんな自分に対して頗る懐いてきた者がいた。
それが……今人型となって自立行動中のドライグの真横に居る――
「なぁドライグ? お主はどう思う?」
「知らん」
空色の髪に赤い瞳。
イッセーを赤目にして10年程老けさせた風体のドライグと同じ色をした目をした女性――星という真名である趙雲だ。
皮肉屋でクール。
本心が見えづらい性格をしているこの星は、当初、ヴァーリやジンガ、そしてドライグとの意思疏通まで失って精神的にキレまくっていたイッセーに絡んでは、本気で何度か殺されそうになっていた。
が、それはどうやらイッセーに対して何か惹かれる者があった訳では無かったらしく、しかも根っこの所では星はイッセーに似ていた。
そう、イッセーの中に宿るドライグに対して懐く的な意味で。
お陰で自立行動が可能になった途端、過去の時代においても変なパピヨンマスクを着けさせられて、変なご当地ヒーローの真似事に付き合わされたりと大変だった。
「見てくれは良いからなお前は。嫌なら断れば嫌な良いだろ」
「むぅ、守ってはくれないのか?」
「俺が出る必要が無い程度にはお前も強くはなってるだろう?」
なんで赤い龍帝と恐れられた時もあった自分が、人間の小娘一人にこんなに振り回されなければならないのかと、星に一度『変な事に付き合わせるのはやめろ』と言った事がある。
が、クールで皮肉屋な筈の星はその言葉を言われた瞬間、信じられない事にオロオロとし始め、遂には本気で泣き出した。
それはもう、幼子の様に泣きじゃくって、嫌だ嫌だとドライグにすがりついてきた。
一体何の理由があってドライグに対してそこまで思ってるのかが、ドライグにしてみれば訳がわからず、結局は泣かれると厄介だからと星の戯れに付き合ってあげていたのだが、まさかこの時代にまでついてくるとは……。
「お前、何で付いてきた? 恋や音々音はわかるが、お前は別にあの時代で生きていた方が良かっただろ……」
「一誠が戻るとなれば、必然的にドライグも居なくなってしまうからに決まっているだろう? 一誠は未だに私がドライグと一緒に居る所を見ると微妙な顔はするが、あの時みたいに大反対はしなくなったしな」
不敵に笑う星にドライグはため息を洩らす。
こうして自立行動できる時間は、別世界のアザゼルの開発した変な装置のお陰で伸びはしたが、別に好んで分離して行動する気はドライグには無い。
だが、星のせいで一日の半数は表に引きずり出されて連れ回されてしまう。
例のクソったれが消し飛んでる時代なので、不満自体はそれほど無いのだが、最近妙に星が引っ付いてくるのだ。
「良い歳した娘の選ぶ道とは思えんぞ」
「後悔なんてしてないからな。
それに、ドライグと永久に離れ離れになる方が私は嫌だ。ほら、そろそろ帰ろう。
ドライグを一誠と勘違いしてる輩に見付かったら後が面倒だろうし―――」
「い、イッセー?」
「――――しまった、既に見つかってしまった」
「……はぁ」
子龍が、赤き龍の帝王に懐く。
生粋の龍であるので、星の心の内に秘めたものは察する事はできない。
名を捨ててまで付いてきたその本当の意味をまだ……。
「あの、こんばんは……?
えっと、今からはぐれ悪魔討伐があるのだけど……」
「……」
「先輩、そこの女性はこの前の恋という方ではない様ですが、誰なんですか?」
「こ、小猫ちゃん! ダメよそんな聞き方をしては……!」
「でも知らない女性です」
そんなドライグはただ今、星と共に家に戻る最中で、日は既に暮れていた。
一日中星に連れ回され、変なご当地ヒーローのニューコスチューム選びから何からまでも付き合わされて軽く疲れていた。
そんな時にバッタリと出くわしたのが、かつてイッセーを捨てたリアス・グレモリー達で、恋との関係性を話され、大層ショックを受けていたらしいが、ドライグにしてみれば鼻で笑う程に連中がショックを受けようがどうでも良かった。
「あの、お知り合い?」
「………」
腕を組んでいちいち密着して甘えてくる星のせいで、イッセーと勘違いしてるリアス達が一斉に不審がる目を向けてくるので、人違いだと教えてやろうとしたドライグだったが……。
「誰かと勘違いなされている様だが、彼はイッセーという名では無いぞ」
「え……」
星の言葉にリアス達が目を丸くする。
「ああ、人違いだ」
それに乗じてドライグもイッセーとは違って凄まじく低くて渋い声で違うと否定する。
「せ、先輩の声と違う……」
「しかもよく見てみたらイッセーくんより一回りは年上に見えますわ……」
「じゃ、じゃあ勘違いだったの?」
声質と見た目の老け方の違いにより、リアス達も本人ではないと気づいたらしい。
「ご、ごめんなさい! 知り合いに似ていたものでつい……」
「何やら誤解が解けた様で何よりだ。
ほら、早く行くぞリュー」
「………ああ」
道を開けたリアス達の間を堂々と抜け、星に引っ張られる様に退散するドライグ。
後ろを確認すれば、リアス達がまだこちらを見ているので、完全には誤魔化せてはないらしいが、嘘は言っていない。
「例の連中にまさか本当に出くわしてしまうなんてな……」
「チッ、少し疑われていたな」
「この前、恋との関係を教えて、元の関係には戻り得ないと話したのだし、問題は無いと思いたいが、イッセーとドライグを間違えてる時点でまだ諦めきれてない様子だなアレは」
「今更奴等ごときに邪魔されてたまるか」
「同意だ。いざとなれば私とドライグで影ながら守ってやらないとな」
イッセーより頭ひとつ分は背の高いドライグの腕に頬をスリスリさせながら微笑む星。
「なぁ、ドライグも人型になれるのだから、子供なんて作れたりはしないのか?」
「知らん、試した事すら無い」
「じゃあ、私で試してみたりなんて……」
「…………」
「ほ、ほら、恋やイッセーを見てるとな……。
ヴァーリやジンガ達も楽しそうだし……。たまにドライグの事を考えると寂しくなる気持ちというか、切なくなってくるというか……」
「俺は人間じゃねぇ、ドラゴンだ」
子龍に懐かれる龍帝はイッセーを守るために今を生きる。
少女に引っ付かれながら。
補足
母、三姉妹、側近達、その他。
……死ぬだろ曹操くん。
その2
んで、ひょっこりと実は彼女が付いてきたという。
んで、ドライグさんに引き続き懐いてる模様。
その3
ヴァーリきゅん?
彼は中々に世渡り上手にやってるかもね?