それで……まあ、うん。
生き残る為に。生きて帰る為に。
生きて運命に抗い続ける為に。
自由に、気儘に、身勝手に生き続ける為に。
強く、もっと強く。何物にも縛られぬ強さを。
何物にも翻弄されぬ圧倒的な領域へ。
究極という名の終点等では満足なんて出来ない。
永遠に立ちはだかる壁を永遠に乗り越え続けてこその無神臓。
人の理から外れても尚進み続ける事が無神臓。
世界がどうなろうが、信じた者達への繋がりだけを大切にし続け、分け与える事こそが無神臓。
だからこそ他人に情は抱くことなかれ。
情を持ってしまえば、修羅の道に引きずり込んでしまう。
―――――――それが
この眩暈がしてきそうな世界は、自分達が生きた世界の過去とは色々と違いすぎるというのは、ご先祖が曹操であるジンガだ。
イッセーは過去を振り返らない主義――という建前で勉強をしない派だったので言われてもピンと来ない。
ヴァーリも歴史のお勉強なら過去に存在した強者にかんしてのみという片寄りすぎなお勉強しかしてこなかったので同じくピンと来ない。
そもそも現在、元の時代へと帰還する為の土台作りとして働かせて貰っている孫呉周辺の性別が逆転しまくってる時点でなんとなく二人もお察ししていた。
つまる所、結局は元の時代に戻る為にその者達を単に利用しているスタンスなので、何がどう違うなどは正味どうでも良いのだ。
…………土下座して孫策こと雪蓮に仕事をくださいと懇願した当初は。
「ビンゴ……! スーパービンゴォォッ!!!!!!」
楊州の孫家領地にてお仕事を振って貰い続けて結構な時間が経ってしまった気がしないでもない。
その間に随分と三バカは孫呉の方々と仲良しになってしまった気がしないでもない。
曹操ことジンガが、史実より大分早く死した孫堅の長女こと孫策に対して、呪いを疑うレベルのラキスケを発動してしまったかもしれない。
抱え込み病が本当の内臓的病気に発展した孫策の右腕に、無理矢理白き龍皇の血を飲ませて免疫活性を促してしまったヴァーリがそれをまだ黙ってるのかもしれない。
姉や仲間達の迷惑にならないようにと背伸びしては凹む孫策の妹や、彼女を支える者達の護衛がやりたくないからって、あの手この手を使ってたら、今度は末っ子ち懐かれてしまったイッセーが居たのかもしれない。
しかし、そんな彼等の苦労はただ今報われ掛けていた。
何故なら、謎過ぎるレベルで最近増えに増えまくりな黄巾党という賊軍団を中央―――つまり、かいつまんで説明すると、増えすぎた害虫を駆除する為にお前ら出てこいや――と、大陸のお偉い方々からの命令で、他の勢力達と力を合わせて駆除するという大きめのお仕事をするに当たって、連合となった各勢力のトップ陣達が集まる場所にて、連れてこられた三バカは出会ったのだ。
「えーっと、今回の討伐に参加させて頂く事になった、義勇軍を率いてる北郷一刀です……」
学生服っぽい格好をした中々イケた面構えをした青年が間違いなく、自分達みたいな状況の者なんだと。
というか、この自己紹介の後、普通に天の遣いと自称してくれたので、間違いなくどころか大当たりだった。
「よっしゃあ!」
「遂に来た……!」
「これでやっと手懸かりが掴めるな……!」
天のお遣いと名乗った瞬間、同席した他の勢力の者達がちょっとざわついたが、孫策の真後ろで北郷青年という手懸かりを発見出来て、空気も読まずに騒いでる三バカのせいでちょっと締まらない。
ジンガのご先祖様がすぐ横で、三バカの騒ぎっぷりを『バカを見る目』で見てたり、明らかに怪しい男三人を見て北郷青年や彼の仲間達が訝しげな顔をしてたり、孫策こと雪蓮と周瑜こと冥琳が、大きく咳払いをする。
「えーっと、彼等は無視して構わないわ」
「少々阿呆なのだ」
三バカと年の近そうな青年から天の遣いと聞いた瞬間、雪蓮と冥琳は別の意味で北郷青年に対して警戒心を強めると同時に、後ろでキャッキャとまだ落ち着きの無い子供みたいにはしゃいでる三バカに悟られない様、互いに無言でうなずき合う。
まず間違いなく後ろの三人は、この討伐会議が終わり次第、北郷一刀に接触を試みるだろう。
そして必ず彼に向かって、『キミも未来から来たのだろう? 教えてくれ、キミはどうやって来たんだ?』と聞くに決まっている。
それでもし北郷青年がどうやってやって来たのかを喋れば、これも間違いなく三人は真似をして帰れるかを試す。
………そうなれば、自分達は三人だけで数百万に匹敵する戦力を失う事になるばかりか、全体的な士気までもが大暴落するに決まっている。
常日頃から『存在しない筈の自分達が、何時までも留まる訳にはいかない』と言って憚らないし、知った瞬間帰ろうとするのは解りきっている。
だが、しかしだ……。
「そっ!? ……お、おいジンガ? あの女の子が……」
「………………」
「お、おいジンガ!? ――こ、こいつ、立ったまま泡吹いて気絶してる……!?」
「よくわからないけど、そこの黒髪の男の態度に何故か腹が立つわ」
「あ、いえ! 深い意味はございません! かの有名な曹操殿を目の前に、遂に緊張の限界が来てしまった様で……」
「ある意味ファンだからなアンタの―――いてっ!?」
「ば、バカお前、他所様の偉い人にそんな口はやばいだろ!」
「………………まあ良いわ。間の抜けた男達に構ってる程私も暇では無いのよ」
金髪少女が曹操と知った途端、何故か全身を痙攣させ、白目を剥き、泡まで吹いて気絶するジンガも……。
「予想してた事だろうが、変な所でメンタルの弱い奴だ」
ペシペシとジンガの頬を叩いて起こそうとしているヴァーリも、戦力という意味だけでないものを雪蓮や冥琳は持っている。
特に冥琳はヴァーリが内緒で白龍皇の血を分け与えられたお陰で全快し、健康体へと戻ったばかりか、内に蓄積させるストレスを軽減する方法まで教えてくれた。
それに――
「取り敢えず金髪さん同士の変な言い争いが終わるまでは大人しくしとこうぜ。
しかし、北郷君ったら、あんな可愛らしい女の子達にご主人様なんて呼ばれてるのか……良いなぁ」
イッセーは……妹の常に張った気を程よく緩めてくれた。
そしてその才を押し上げてくれた。
決して短くは無い付き合いとなった今、彼等を手放すのは己のみならず、全てに対する傷となる。
特に小蓮辺りが聞いたら、何をイッセーに仕出かすかわかったものではないのだ。
――――とまぁ、長いこと三バカについて本気になって、それこそ冥琳までもが不覚にも考え込んでしまい、会議に一切しなかった結果……。
「なあ、冥琳?」
「うぇ!? あ、な、なんだヴァーリ?」
「さっきからずっと黙ってるが、曹操と袁紹と北郷とやらが話を進めてしまって、俺達の軍が囮をしなければならなくなった様だぞ? いいのか?」
「え? えっ??」
要するにお前らは囮になって賊を引き付けろ。それで死んでも我々は知らんみたいな役割を押し付けられていた。
三バカの事ばっか考えていたせいで……。
軍師・冥琳史上最大の大ポカ。
解散となり、自陣に戻った雪蓮と冥琳は既に討伐の準備をしていた孫呉の面々に対して、特に冥琳が非常に言いづらそうな顔で『賊達を引き付ける囮役を押し付けられた』事を話す。
「何故そんな役を?」
「いや、その……」
「天の遣いを向こうで見たの。
そうしたら三人が帰れるみたいな顔して喜んでたから……ほら、わかるでしょう?」
『あー……』
「俺達のせいじゃなくね?」
全員の顰蹙こみこみの視線に、三バカはちょっと居心地が悪そうに目を逸らす。
「わかった、お詫びに囮役は俺等だけでやるから勘弁してくれよ……」
「何故そんな目でみられなきゃならないのかがわからん」
「前々から言っていた筈なのに」
三人がこうも孫呉の面々と距離を取りたがるのは、下手な情を持ったらダメだからと思っての事だが、多分それは色々な意味で手遅れなのかもしれない。
「私達を鍛えと言った約束を途中で投げ捨てる気なの? まだ私達は一誠の言う合格の領域まで進めてないのに……」
「蓮華様を悲しませたな? 今八つ裂きにするからそこを動くな」
「なんで!? 最近の蓮華ちゃまの反応の違いさに俺が戸惑ってんだけど!?」
当初はかなり一誠を毛嫌いしてた筈の蓮華のシュンとした顔に、一誠の方が逆に解せなかった。
蓮華の護衛から降りたくて、思春を当初鍛え、なんなら蓮華も鍛えて護衛要らずにしたら俺要らなくね? という頭が悪そうな悪知恵を働かせて、親切丁寧に色々と教えただけだと本人はどうやら思っているらしい。
本当に親切丁寧に教えすぎた結果、蓮華がシュンとした様子を見せた途端、思春が腰に下げた細身の剣の柄に触れつつ、全身から炎の様な気のオーラを放出させる所まで可能にしてしまい、戦闘力が人外の側に侵入してしまった。
なので当初の様に思春や蓮華に対して強気に出れなくなりつつあるとか。
「清々するとか言ってくれよ蓮華ちゃま? そうしたら思春さんも黙るし……」
「一誠が帰ると言うのを撤回してくれるなら……」
「っ! ほ、ホント最近どうしたの!? な、なんだよその目は!? 俺を蔑む目はどこやったの!?」
「だって……」
「だ、だってなんだよ? ちょ、ホントそんな目で俺を見るなよ……ドキッとするんだけど……」
しかも蓮華は思春以上に一誠の精神にダメージを与えてくる仕草が多くなってるし……。
「小蓮が聞いたら……」
「う……」
末っ子はそんな姉の様子の変化を機敏に察知して、余計一誠にガチ化したりと……。
「あ、良いこと思い付いた。
この戦が終わったら、蓮華と閨に入れば――」
「お姉さんがそんな事を言うのも良くないんですけどね!? そもそもこの子が本気で嫌がる――」
「……………………」
「え、ちょ、ちょっと蓮華ちゃま冗談だろ? なにもじもじしながらこっち見てんのさ? 違うだろ!? 俺みたいな女好きで、いい加減で、人を半笑いでバカにする奴は嫌いなのが蓮華ちゃまだろ!? 思春さんもそうだろ!?」
「…………………。お前が悪いんだ。不器用で中々前に進めない我々に親身になって、見捨てもせず面倒を見てくれたから……」
「ちっげーって! それは俺の打算! キミ達が強くなれば俺は必要なくなるだろって考えなの! ほ、ホントやめてくれ……しおらしくなられると弱いんだってば……!」
とてもじゃないがこれから自殺行為にも近い真似をしに行こうとする者達のやり取りではない。
周囲は孫家の次女と、その次女の心を和らげたばかりか、引っ張りあげる事までしてのけた赤い龍の帝王を生温い目で見ている。
「よしわかった! 蓮華ちゃまの嫌がることをしてやるよ! えーっと、よし! そのおっぱいを揉ませれ!」
「…………………………………」
「ほら、セクハラをすれば最初を思い出して殺意を――――っておい!? そ、そんな目を閉じながら恥ずかしげに胸を張るなって!?」
「そ、それくらいなら大丈夫だと思って……」
「大丈夫じゃねーやい!」
しかし根っこは変わらず、そして結局はお人好しな一誠は、どんどんしおらしくなっていく蓮華に、ある意味負けはじめてきたのかもしれない。
終わり
補足
三バカ揃いのままなので、精神的にはド安定。
ただし、余裕があるので他人ガードが強い。
その2
蓮華ちゃまと思春さんへの赤龍帝レッスンその1・鬼ごっこ
ドスケベで名高いイッセーくんとのハラハラドキドキ鬼ごっこ、捕まったら何かされる。(痛い)
レッスン2・気力という概念をお勉強。
つまるところ、個人個人の生命エネルギーを戦う力に変換するという訳で、手からポーヒー弾が出せるよ! やったね!
……とまあ、イッセー本人は途中で投げ出すのを見越したレッスンをやらせてたのですが、教えられた子達は、普段いい加減な面しか見てなかったのと、レッスンの時は割りと真剣だったのと、ちゃんと成果となったというせいか、思いの外信用されてしまったとかなんとか……