色々なIF集   作:超人類DX

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反応の多さに、また無駄にはりきって、落書きった。


終わり付近にまた別ルートだったら小話ひとつ。


多分その後

 この世界に来てから、俺の力は未だ完全には戻らなかった。

 

 よくて全盛期の万分の一。

 

 そこから取り戻していく感覚が全くない。

 

 ドライグとの連携にしたって、今では一切使用せず――てか、使用する意味も全く無くなった覇龍系統の解放ですら無理だ。

 

 

 世界そのものが違うからなのか。

 それともこの世界へ来る理由となった、連中との殺し合いの時に、力を使い果たしたからなのか。

 

 それはわからない。

 

 しかし、このままではいけない。

 というか、力を取り戻せなかったからこそ、この地でもあんな無様な敗北を喫して、結局あの子達にカッコつけただけで何も出来やしなかった。

 

 だから今度こそ、もう二度と負けてはならない為に、俺は方向性を変える事にした。

 

 力を取り戻すではなく、力を新たな方向へと進化させていく。

 

 戦闘スタイルはそのままに、そこから別の新たな道を切り開く。

 

 名も立場も無くしてしまったあの子達に詫びる為に。

 

 なによりも、負けっぱなしは嫌だから……。

 

 そして何か……道筋がとある切っ掛けで見えちゃった気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

  軽く握った拳に、久々に感じる力がみなぎっていることがわかる。

 試しに突き出した拳が空を裂き、拳圧の作る風が湖の水面を割る。

 

 

「凄い……」

 

 

 傍で見ていた月がただの突きだけで湖の水面を割って見せた青年――一誠に対して口にする。

 それは一誠自身も思っていた事であり、そもそも停滞したままだった力の成長という名の大きな壁が一気に取り払われた様な感覚も久々だったし、何故突然越えられたのかもわからなかった。

 

 

「このパワーがあの時に戻っていれば、月達の運命も違っていたのかもな……」

 

 

 だからこそ一誠は、今のみなぎる力が何故あの戦いの時に戻らなかったのかと悔しがった。

 これでも全盛期と比べたら微々たるものでしかないが、それでもあの戦いの時にこのパワーが戻っていれば、連合軍達なぞ絶滅―――は、流石に大袈裟にしても、道連れくらいにはできたというのに。

 

 何時まで経っても後手ばかりな有り様に、一誠は複雑な表情だったが、月はそんな一誠を一切責めることはしなかった。

 

 

「ご自分を責めないでください。あの時は武力だけではどうにもならない状況でした。

それに、私は今の方が幸せですから」

 

 

 名を捨てる事になったのかもしれないけど、仲間達は無事だった。

 それに、名を捨てて他勢力に渡る事で、血塗れになっても最後まで抗ってくれた青年と向かい合うことが出来た。

 

 それだけで充分だった。

 

 

 

 

 

 とまあ、シリアスっぽい話はさておき、一誠が一段階程力を増した理由は何だったのか。

 それは本当に一誠にもわからないし、あるとするなら、月と一晩共に過ごしたから……なのかもしれない。

 

 

「どこぞのSAGAじゃあるまいし、んな理由でパワーアップするってのかい」

 

「お前なら有り得そうな気がするがな」

 

「はっはっはっー! ドライグもまたまたご冗談を~? ……………なんで知ってる?」

 

「…………。少し声を互いに抑えるんだな、今度からは」

 

「月……その、今更ボクも文句は言わないけど、丸聞こえだったわよ」

 

「き、聞こえてたって……うぅ、恥ずかしい……!」

 

 

 ドライグと詠から凄まじく生ぬるい視線を頂いてしまった月と一誠は、微妙に気まずくなってしまった。

 とにもかくにも、壁を一段階乗り越えたのだけは間違いない。

 

 

「多分一刀達も知ってるんじゃない?」

 

「…………。そもそも彼が宜しくやってたのを月が見ちゃって互いに凄まじく気まずくなったのが発端なのに」

 

「理由付けできて良かったじゃない?」

 

「あ、あの詠ちゃん、一誠さんに無理を言ったのは私の方だから……」

 

 

 詠の言葉に目を逸らしまくりな一誠を、月が必死にフォローする。

 どちらにせよ、してしまった事実には変わり無いし、詠の言った通り、一刀達にも普通に知れ渡っていた。

 

 

 

 蜀に入ってくれたもう一人の未来人である一誠は、一刀にとって同じ未来人であるのと同時に、自分には到底手の届かぬ戦闘力を持った頼りになってしまう存在だ。

 

 しかも同性というのもあり、よく個人的に話をすることも多い。

 

 

「キミがよろしくしてたのを月が見ちまったせいだからな」

 

「わ、悪い悪い。けど、その後アレだったんだろ?」

 

「あの子に泣きそうな顔して言われて無視できるかってんだ……はぁ」

 

 

 立場上では一刀がトップ陣という体ではあるが、一刀は友人の様に一誠に接していて、一誠もまたフランクな口調だ。

 

 

「紫苑に対して何時もしてたナンパはどうすんだこれから?」

 

「やめるに決まってるさ。

てか俺ピエロじゃん。昨日見ちゃったのってキミと紫苑さんが―――あー、もう良いわこの話は」

 

「な、何から何まで悪い」

 

「まったくだな、死ぬほど俺がカッコ悪いってオチだったしよ」

 

 

 年上女性のナンパを一切止めると言い切った一誠に一刀は、割りとそういう所は誠実なんだなと思うのと同時に、アレ、自分ってもしかして酷いんじゃないのか? と少し心配になるのだった。

 

 

「ところで、月を暴君呼ばわりして吹聴したバカ共が進軍してくるって噂なんだろ? もし少しでもその兆候が出たら教えろよ? ……徹底的に壊滅させるから」

 

「お……おう」

 

 

 あ、やっぱり違う。

 ちゃらんぽらんに思えて、一度でも受け入れた者に対する思い入れの強さが半端じゃない。

 

 連合軍となる理由となったとある人物の未来が悲惨な事になる予感をしながら、一刀はスタスタと去っていく一誠の背中を眺めつつ両手を合わせるのであった。

 

 

 

 

 ところで、今現在一誠の中にはドライグの意識は無く、留守中である。

 本人はホイホイと一誠から離れたくは無いのだが、ここ最近分離しないと喧しい連中が増えたので、ドライグは渋々実体化してはこそこそと隠れる日々だった。

 

 

「チッ、赤い龍と呼ばれた俺がなんで小娘ごときに……」

 

 

 その姿は、赤い龍としての威厳が半ば崩壊している。

 すっかり一誠の保護者になってしまってから、相当角が丸まった性格になってるという自覚は本人にあまり無い様で、町の人混みに隠れながら外へと逃れようとしているドライグは何故か簡単に見つかってしまう。

 

 

「見付けたぞドライグ殿!」

 

「ドライグさんみーつけた!」

 

「!?」

 

 

 町の外の森か何かで時間でも潰してやろうとしていたドライグの目論見は見事に外れた。

 何故なら、そんなドライグの燃えるような赤髪をめざとく発見した二人の少女にデカい声で名を呼ばれながら飛び付かれてしまったのだから。

 

 

「チッ、また貴様等か小娘共め……!」

 

 

 今の一誠より一回り老けた赤髪赤眼の長身の男性。

 それが分離状態のドライグの姿なのだが、声だけはドライグのままであり、また色々とやはり目立つせいで、小娘共――つまり、この地に渡ってから知り合った劉備と趙雲にそれぞれ背中と腰辺りに飛び付かれてしまっていて、ただいま町人達の視線を釘付けにしていた。

 

 

「どこへ行こうというのだドライグ殿?」

 

「貴様等の知らん場所だ! ええぃ、離れろ鬱陶しい小娘共め!」

 

「むー、ちゃんと真名を授けたのに、小娘は酷いよドライグさん!」

 

「知るか! 小娘なんだから小娘と呼んで何が悪い!」

 

 

 ドライグ本人に理由なんて知るよしも無いし、知りたくもないが、ドライグという存在を一誠を介して知った時から、しかも分離出来る前から妙にドライグに懐いてきた。

 それが分離して実体化したとなってからは露骨になっており、一度一刀に文句を言って、この二人をちゃんとさせろとも言ったが、結果はご覧の通りの有り様であり、ドライグの両腕に左右それぞれに引っ付いて離れやしない。

 

 

「第一、貴様等仕事はどうした! 執務でもなんでもあるだろうが!」

 

「大丈夫だ、愛紗とご主人様達に昨晩の時間を作らせた代わりに今日は休みだ」

 

「でもまさか、一誠くんと月ちゃんがそうなったのにはびっくりしたよね?」

 

「チィ……」

 

 

 こうなるとテコでも動かないのは、これまでの経験上わかってしまったので仕方なく諦めるドライグは、二人の少女に連れ回されるのだった。

 

 

「アンタ等! ドライグになにしてるのよ!」

 

 

 詠に発見されて、厄介な渦のど真ん中にぶちこまれながら。

 そして、小娘共に何故懐かれてるのかが、全然理解できてないドライグは、引っ張られる形で料理屋に入り、食事をする羽目になるのだった。

 

 

「この俺が、まさか小娘に振り回されるとは。

つくづくヤキが回ったものだ……」

 

「そんな龍が居ても良いと思うぞ?」

 

「そうですよ、親しみやすいですし」

 

「ドライグはアンタ等の玩具じゃないのよ! まったく、なんでよりにもよってドライグに……」

 

 

 溢れ出る無自覚な父性がツボだったのか、劉備こと桃香も、趙雲こと星もドライグに懐きまくりだ。

 しかもこれがまんま子供だったらドライグもまだ理解しないでもなかったが、どういう訳か二人とも良い年になる女なのだから余計困惑しかない。

 

 

「おい、口の回りに付いてるぞ」

 

「ふぇ?」

 

「そっちじゃない……ああ! 服の袖で拭くな! 良い年をした娘だというのに……そら!」

 

「むぐむぐ……えっへへー♪ ドライグさんに怒られちゃったー♪」

 

 

 とはいえ、一誠の面倒を見続けて来たせいか、自然と世話を焼く体質になってしまったらしく、服の袖で口を拭こうと――いや、どことなくわざと注意されようと思ってやってる気がする桃香に持っていた白い布で口回りを拭いてやるドライグ。

 

 

「ったく、お前等も良い年なんだから、北郷と寝るのに自分を磨くとかすれば良いものを」

 

「ご主人様は愛紗ちゃん達が居るし……」

 

「ちょっとご主人様は若過ぎるしな……」

 

「そうそう! やっぱり渋い声をした年上の人がかっこいいもんね!」

 

「い、一誠の女版か貴様等……」

 

「………………でも、なんとなく二人の言いたいことはわかるかも」

 

 

 言ってる事が一誠のまんま女性バージョンである星と桃香……そしてボソッと呟く詠。

 とはいえただの年上ではなく、包容力を持っていることが条件らしく、ドライグはどうやらドツボらしい。

 

 

「逆にドライグ殿はどういった者が好みか聞きたいものだが?」

 

「年下は嫌いですか?」

 

「……」

 

「知るか。俺はナリこそ今は人型だが、真の姿はそのまんま龍なんだぞ? 人間のどの雌が好みかなんぞ考えたことなんて無い」

 

 

 いや、本当はかつて何度かあるが、すっかりパパ化しちゃったので完全に忘れてるドライグは、人間の食べ物を何気に楽しみながらバッサリと返す。

 

 なのに何故かニヨニヨとした笑みを見せられるので、微妙に居たたまれない気分だ。

 

 

「じゃあ誰でもアリの可能性があるという事だな」

 

「そっかー……良いこと聞いちゃったねー?」

 

「ぼ、ボクを見て言わないでよ! そ、そんなんじゃないし!」

 

「………………」

 

 

 わからん。特にこの世界の人間の雌は。

 ドライグはただただそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

「チィ、ドライグのモテモテ期はまだ続くってか」

 

 

 そして、元は一誠の中に宿っていて、実体化したとしてもその繋がりは切れている訳では無い。

 つまり遠くに居ようがドライグの事がわかる一誠はといえば、一刀に言った通り、例え黄忠といった年上女性と出会してもナンパすることはせず、ただただ軽く挨拶するだけに留め、黙々と修行を続けていた。

 

 まあ、ドライグの複雑なる心境がダイレクトに伝わり、どうやら始まってしまったモテ期が続行中であることには、一誠も少しだけ複雑な気分にさせられている様だが。

 

 

「ふー……」

 

 

 が、今までドライグの力を借りて何とか奴等との戦いの土俵に上がっていた事を痛感させられた今、更なる領域へと侵入する為の修行に手は抜けない。

 己の体内に蓄積された力の源を十全扱える様にする。

 

 今まではドライグによる倍加によって、何とかごり押せてきたが、十全扱える事でもっととてつもないパワーを引き出せる事に目を付けた一誠は、ここ最近誰の邪魔が入らない山の中での修行に精を出していた。

 

 戦における効率的な戦い方の策を捻り出す頭脳なんて持ち合わせてないし、深く考えるのは基本的に好きではない。

 

 前進勝利。圧倒的な力で策もろとも消し飛ばす。

 言ってしまえば、この世界の武将達の中に何人かは居そうな考えがデフォルトである一誠のやれる事は、結局の所力の進化だけなのだ。

 

 

「んっ!」

 

 

 体内に溜め込んだ力を一気に放出する一誠の全身から真っ赤な闘気が炎の様に迸る。

 そして解放した力を両手に集約させ、組み合わせる。

 

 

「フン!」

 

 

 そした溜め込んだ力をボールの形のまま空へと放り投げると、赤い球体はぐんぐんと空へと突き進み、やがて遥か上空で大爆発を起こす。

 

 

「……………パワーが足りないな」

 

 

 真っ赤な閃光が青空を染め上げ、やがて消えていくのを見上げていた一誠は、まだ力が脆弱であると小さく呟くと、それから何度も気力を溜めては、被害を出してはならないと上空に放り投げて爆発させ、力の具合を確かめる事を繰り返す。

 

 

「ふぅ……はぁ……」

 

 

 その繰り返しを続けていく内に、気力が底を尽きた一誠はその場に座り込む。

 

 

 木々の間を吹き抜ける風が、熱く熱したその身体を冷ましていくのを感じながらボーッと偶々目に入ったムササビの滑空していく姿を眺めていると、蜀に流れてからは給仕の服を着るようになってしまった月がやって来た。

 

 

「お疲れ様です。

随分と熱心だった様ですけど……」

 

「雑務とかその他諸々をしない代わりに、前線で戦うからね。

身体を鈍らせる訳にはいかないよ。それより月こそお仕事ほっぽってこんな所に来て大丈夫かよ?」

 

「北郷様からお暇を頂いたので来ちゃいました」

 

「聞かれた辺りから露骨だなオイ……」

 

 

 大木を背に預けて座る一誠の隣にちょこんと座る月と風を感じながら時を過ごす。

 最初はかなり一誠も月達に対してよそよそしくしていたのだが、先の大きな戦いに負けてからは軽く開き直ったのか、難くなに真名で呼ぼうとしなかったそれも無くなり、またストライクゾーンから外れていたというのもあって、本来一誠が持つ同年代かそれ以下に対する包容力の強さを無自覚に発揮する様になった。

 

 故に昨晩の様な事が――いや、アレは偶然そうなってしまった展開ともいえなくもないが、どちらにせよ互いにとって忘れる事は無い時間を共に過ごした。

 

 

「あ、あの一誠さん。

黄忠さん達の事は……」

 

「ああ、もうやめた」

 

「え……?」

 

「え? だってする意味も無いだろ? って、これまでの態度見てればそう思われても仕方ないだろうけど」

 

 年上女性達にデレデレするのはもう止めたし、何かしらの幻想が解けた気がすると苦笑いしながら話す一誠。

 

「どうも年上に変な理想を勝手に持ってたってのに気付いたみたい。

それに……流石に月とそんな事してしまった以上はな」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 昨日の夜を思い出し、頬を紅潮させる月。

 後で聞いたら、凄まじく声が響いていたと聞かされて、顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。

 

 けれど、一誠はあの夜の事を単なる気の迷いだったとは思ってはなく、彼なりにけじめをつけようと考えていくれている。

 

 それだけで月は嬉しかった。

 

 夜空から堕ちて来た、不思議な力を持った青年。

 

 未来という先の時代から来た青年。

 

 力を振りかざさなければ生きていけなかった悲しい青年。

 

 自分以上にその手を血に染めながらも、それを覚悟で生き抜こうと必死な青年。

 

 

 決して弱さを誰にも見せる事なく、快活な姿を見せ続けようとする。

 その姿が羨ましく、眩しく……だからこそ惹かれた。

 

 

「一誠さん、わ、私……」

 

 

 だから言わなくてはならない。

 勢いではなく、ちゃんとした想いを。

 決して消えはしない、太陽の様な彼に対する気持ちを。

 

 

「昨日の事は、勢いでアナタを引き留めてしまったかもしれません。

けど、私は一誠さんが……!」

 

 

 勇気を。憂いるだけで何も出来なかった自分だけど、この気持ちだけは自分の意思で……。

 

 

「月、その先は言わなくて良い」

 

「え……?」

 

 

 けれど、一誠がその言葉を止める。

 言葉を止められた月は、拒絶されたのかと思ってショックを受ける。

 

 

「やはり駄目ですか……?

そうですよね、一誠さんのお好みじゃないし、ぺったんこだし……」

 

 

 そうだ、年上に対してデレデレするのはやめるとは言ったが、別に月自身を受け入れるとは一言も言っていない。

 舞い上がってた気持ちが急激に萎んでいく月に、一誠が苦笑いしながらポンと頭に手を置く。

 

 

「違うって、月から言われたら格好付かないだろ?」

 

「あ……」

 

 

 昨日だって月から言われた。

 だから、その先の月の言葉は自分から言わなければならない。

 月の後頭部に手を回し、そのまま自分の額を月の額にくっつけた一誠は言葉を紡ぐ。

 

 

「俺は相当嫉妬深いんだよ。

多分だけど、月が知らない男に少しでも触れられたらソイツの腕を切り落としてしまいたくなるくらいに。

そんな面倒な男なんだぞ俺は? それでも俺の傍に居てくれるか?」

 

 

 孤独を強いられてきた。

 だから他者への繋がりを強く求める。

 ドライグという繋がりを持った今でもそれは変わらない。

 そして一度受け止めた者への思い入れは強く、決して手放すことはしない。

 

 自分の傍に居続ける事はある意味牢獄と同じだ、考え直すなら今だ。

 忠告とも取れる事を告げた一誠は月と額をくっつけたままジッと彼女を見つめる。

 

 

「はい、それでも私はあなたと共に……」

 

「…………」

 

 

 そんな一誠の目を見つめ返す月は、それでもその傍らに居たいと言った。

 その瞬間、額を離した一誠が月を抱き寄せる。

 

 

「史上最高に変わり者だぜ月は。

でも、ありがとう――」

 

 

 優しく、壊れてしまいそうな月の身体を抱き締めながら一誠は彼女の耳元で一言ささやいた。

 

 

「――――」

 

「あぅ、一誠さん……」

 

 

 どんな言葉だったのか……それは月にしかわからない。

 

 

「「………」」

 

 

 ただ、再びお互いの顔が近づき合い、額ではなくその唇が重なり合った光景は、きっと先の先への道の始まりなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落書きその2

チビッ子だらけルートだったら。

 

 天の遣いとか呼ばれても、困るし、寧ろ天にめっちゃ逆らってる側だ。

 

 つまり何が言いたいのかというと、天の遣いだとか、人の上に立つだとかというのは、天の遣いっぽいナリを少なくとも俺よりはしてるこのイケてる側の青年に任せるべきなのだ。

 

 

 モテモテしてそうで悔しいけど、それが現実なんだ。

 

 俺は……うん、帰る為になるべくポジティブに頑張りたいと思う。

 

 

 例え三国志的な――いや、皮だけの中身まんま別物みたいな時代で、武将達が女の子だったとしてもね。

 

 

 

 

 

 世に見放された農民達をかき集めた、無法者の私兵軍隊。

 義勇軍という名ばかりの素人集団を統率している北郷一刀は、自分と同じ状況に陥る年の近い青年と共に、乱世をなんとか駆け抜けていた。

 

 劉備とか、関羽とか、張飛とかが女の子で、何気に他もそうなのかと聞いてみたら多分そうだとか言われて途方にくれても、一刀は天の遣いとして日々を頑張るしかなかった。

 

 諸葛亮だとか、鳳統だとかがチビッ子だったことにギョッとしたとか……まあ、とにかく生きる為には神経を図太くしなければならないわけで。

 

 その点、自分と同じ平原で目を覚まして出会った青年は、三国志に一切興味が無かったらしくて、名前を聞いてもあんまりピンと来てないせいか、この不可思議な世界にわりと簡単に順応している。

 

 というか、この青年自体が、不可思議な存在というべきか、手からビームを出してしまえるのだ。

 

 

 お陰で、現義勇軍には彼が必要不可欠であり、更に言えば、彼は年上のお姉さんがタイプと言っているにも拘わらず、年下に好かれるタイプだった。

 

 例えば張飛こと鈴々なんか、出会って契りを交わす前から既にその青年に懐いていたし、先程述べた諸葛亮こと朱里だとか、鳳統こと雛里なんかも彼に懐いてしまっていた。

 

 本人はそれを知らずに年上の女性民にデレデレしまくってるのだが……。

 

 

 これは、北郷一刀から見る、龍の帝王の少年のプチ記録。

 

 

 

 

 この日の空は晴れていた。

 

 義勇軍として、各地を放浪しつつ、盗賊に襲われてる村をお助けする日々を送ったり、ついに自分達の軍が黄巾討伐に加わる事になったりとした中、彼は今日も――きっと何時も通りだった。

 

 何時も通り、先陣を切り、何時も通り手からビームをぶっぱなして敵を吹き飛ばし、その都度チビッ子達から尊敬の目を向けられ。

 

 討伐後にやっぱり女の子だった、後の魏の帝王となる曹操に声を掛けられた瞬間、チビッ子達が通せんぼして修羅場になったり……。

 

 一誠という男は本当にチビッ子からの支持率が凄い。

 

 ………本人は年上女性にデレデレだけど。

 

 

「まったく! なんなのだあの曹操とかいうのは!」

 

「わ、我々の前で勧誘だなんて許せません!」

 

「そ、そうです! 一誠さんだけは渡せません!」

 

「妙に熱心だなぁ……」

 

 

 怒るチビ達の意図がわかってない一誠。

 チビッ子達と同じ目線になって話をしたり、ヒーロー然とした真似をするから余計に支持率をあげてる事をまるでわかってないのがまた……。

 

 

「鈴々ちゃん達が凄く怒っちゃったね……」

 

「最近は一誠殿の事となると暴走してしまうきらいがあるのが心配ですが……」

 

 

 劉備こと桃香とか、関羽こと愛紗が鈴々達チビッ子の、一誠に関しては主張が強すぎる事を少し心配する。

 けどその予想は、後々当たる事になる。

 

 

 

 

 反董卓連合としての戦いも終わった後、ようやく一所落ち着ける様になった俺達。

 軍の整備、運用、運営、色々な仕事が多い中、一誠はといえば……。

 

 

「紫苑さーん! 俺とお茶しませんかー! ていうか結婚を前提に―――――」

 

「一誠兄ちゃん! こっちなのだ!」

 

「見せたいものがありましゅ!」

 

「今すぐ見て欲しいです!!」

 

 

 チビッ子達による阻止が多くなっていた。

 例えば今一誠がナンパしようとした子持ちの未亡人さんこと黄忠があまりにもドストライク過ぎて、毎日ナンパしようとするのを、鬼気迫る様子で毎度チビッ子達が阻止しようとするのだ。

 

 しかも、黄忠……ではなく、その娘までもが、あっという間に一誠に懐いて。

 

 

「なんだよー? 折角大人のお付き合いを申し込もうと思ったのに……」

 

「いや! 一誠兄ちゃんは渡さないのだ! 鈴々とずっと一緒が良い!」

 

「わ、私も! 私も一誠さんのお側にずっと居たいでしゅ!」

 

「だから、他の方にあんな顔しないでください!」

 

「そ、そんな事言われても……。

あ、わかった泣くな泣くな! まったく、なんだかんだ言ってもまだ子供なんだから……」

 

 

 泣きながら一誠にひっつくチビッ子達をよしよしと一人ずつ背中を撫でながらあやす一誠は、やはり気付いてない。

 

 

「り、鈴々ちゃん達が一誠君に抱きついて、見えないところでにやにやしてるけど……」

 

「そ、そういえば最近一誠殿が、『肌着が無くなった』と言ってましたが、まさか……」

 

「…………………。そのまさかと思った方が良いぞ。

前、鈴々達が一誠の部屋で、一誠の上着を着ながら寝室で悶えてたのを見てしまったし……」

 

「「うわぁ……」」

 

 

 付き合いが長くなった桃香と愛紗すらもドン引きした声を出すが、俺もドン引きだ。

 そこまで好きかと……。

 あ、やべ、チビッ子を抱えながら一誠がこっち来た。

 

 

「この子達が遊びたいんだとさ。

何かこの子達にお仕事が残ってるなら、それを優先させるけど……」

 

「「「あ、どうぞごゆっくり」」」

 

 

 どうやら一誠をチビッ子同盟だけで独り占めしたくなったらしいので、俺達は喜んで送り出す。

 いやだって、チビッ子達の俺達に向ける『許可しなかったら……』みたいな目が怖くて……。

 

 

「一誠兄ちゃん! えへへ、この前ご主人様が愛紗達としてたことが鈴々もしたいのだ!」

 

「この前? ………………! あ、アレはだめだ! つーか俺に頼むのは違うだろ!」

 

「意味なら知ってます! だから一誠さんと……」

 

「さ、最近お腹の奥がせつないんです……だから……!」

 

「だからって言われても……」

 

 

 大丈夫かな一誠の奴。

 なんかもう、仮にそうなっても一誠がやられた被害者としか思えないから仕方ないって思えてしまうのがまた。

 

 

 

「一誠兄ちゃん、大好きなのだ……。

ずっと一緒が良い……」

 

「他の女性にあんな顔をする一誠さんを見ると、悲しいです……」

 

「ずっとお側に居たいです……」

 

「う、うーん……」

 

 

 困った顔の一誠と目が合ったが、俺達はすぐ逸らした。

 以前、見かねて間に入ろうとしたら鈴々達から酷い目に合わされたばかりだからな。

 

 頑張ってくれ一誠。

 

 

「なあ、流石に注意してくれないかな? 最近あの子達が素っ裸になって布団ん中入ってくるんだけど。

キミ達が一刀とお部屋でよろしくしてたのを見たせいで、完全にマセちまったんだぞ、なんとかしてよ?」

 

「そ、そうなんだ? 一誠くんはどうしてるの?」

 

「風邪引くから服だけは着せて、10年早いって言ってから子守唄歌って寝かせてあげてる。

すっげー不満顔されるけど」

 

「……。そんな対応だからじゃないかな?」

 

「子供なんだからそんな対応しかなくね?」

 

 

 ていうか、一誠も一誠で悉く対応を間違えるからチビッ子達が余計本気になるし、相談された桃香も流石に的外れだらけの一誠の対応になんとも言えない顔だ。

 

 

「一誠兄ちゃんはおっぱいが大好きだから、どうにかして大きくするのだ!」

 

「でもどうやって大きくするのでしょうか……?」

 

「うう、いくら考えても策みたいに浮かびません~!」

 

「璃々の聞いた話だと、好きな人に胸を触って貰うと大きくなるらしいよ?」

 

「「「それなのだ(です)!!」」」

 

 

 そしてチビッ子達がまたよからぬ事を……。

 

 

「一誠……今晩はマジで気を付けろよ?」

 

「? なんで?」

 

「仕留めに掛かってくると思うからだよ」

 

「は?」

 

 

 俺は言えない。年上ではないしせよ、年の近い女の子達の何人かに実は一誠が好意を持たれてるのに、チビッ子達が完全に封殺しているということを。

 

 

「一誠兄ちゃん、今日の夜一緒に寝ちゃだめ……?」

 

「一誠さんにぎゅってしながら眠りたいです……」

 

「一誠さんの匂いが、お日様みたいで大好きですから……」

 

「俺っていつから保父さんになったんだろ……」 

 

 

 近づこうもんなら、策を総動員させて蹴散らしたりするのを一誠は知らない。

 

 

 

終わり




補足

続きはないよ。
いやほんと、あったとしても、ひたすらいちゃこらしてる話ばっかだもん。

現代戻りは恋ちゃまでやっちまってるし。

あるとするなら、月を嵌めた連中への借りを存分にお返しするとかそんなんしながら、イチャイチャして……気付いたらお子さんがみたいなそんなんだし。



その2
パパイグさん、最近小娘に振り回されるのこと。

モテ期突入中。


その3
チビッ子オンリールートの場合、ひたすらチビッ子に迫られるだけの話。

そしてチビッ子によってフラグが全部叩き折られてるお話。

余計な知識ばっか身に付けては実行してくるのをヒョイとかわしては悶々とさせ、着てたばっかの服は失敬されてハァハァされまくって……。

まあ、そんな感じ。

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