えーっと、一番先を想定しにくいので避けまくってました。
生きる為には強くなるしかなかった。
当たり前の日常を手にするには強くならなくてはいけなかった。
運命を乗り越えるには、先の領域へと進むしかいかなかった。
誰にも指図されず、誰にも利用されず、誰にも狙われない為には、そいつ等よりも遥かに強くならなければならない。
その運命に翻弄され、その血によって蔑まれ、その力があるが故に骨の髄まで利用されてきた。
だからこそ、誰にも翻弄されぬ事なき頂きに。
無敵と評される最高峰の領域へ。
永久進化、至上無上、究極次元。
それが三人の持つ生きる理由であり、心の軸であり、精神の根である。
唯一そんな自分達を、悪態付きながらも育ててくれた義父が褒めてくれるかもしれない――そんなちょっと子供っぽい理由も持つ三人の青年は、今日もこの先も前へと進み続ける――筈だった。
というより、仰々しいかもしれないが、結局の所何が言いたいのかというと……。
「あの筋肉モリモリマッチョマンのド変態がァァッ!!」
一人居れば悪戯。
二人揃えば悪ノリ。
三人組めば大馬鹿やらかし。
そんな容姿も違えば、血の繋がりの無い三人を義父はいつの日か『三バカ』と呼ぶ。
黒髪の目付きが鋭い青年。
銀髪に蒼い目をした中々の美青年。
上二人と散々容姿を比べられて、大体卑屈な茶髪の青年。
上から道外神牙。
ヴァーリ・ルシファー
兵藤一誠。
通称・災害三バカと呼ばれるこの若者達は、右見ても、左見ても、上を見ても、下を見ても自分達の記憶には無い、見知らぬ大地のど真ん中で、とても困っていた。
そして茶髪の青年――つまり一誠が、凄まじく怒りの形相で空に向かって雄叫びをあげていた。
「ふざけやがってっ……! どこだここ!? あのクソハゲ筋肉マッチョのカマ野郎のやったことがマジだとしたら、今すぐ探しだしてから半殺しにしてやる!」
「落ち着けよイッセー、奴の言った事が本当だったと仮定したら、俺達は全くの別世界に来てしまった事になるんだぞ」
「しかしまさか、三人して同じ夢を見て、あんな気色の悪い筋肉マンによってこんな場所に叩き落とされるとはな……」
キレた番犬みたいになってる一誠を、神牙と呼ばれる青年が宥め、ヴァーリと呼ばれる青年は建物も電線も、もっと言えば強者の気配すらも感じない広大な平原を見渡して呟いている。
「外史がどうとかと言っていたが、この場所がその外史とやらなのか?」
「さてな、ただ、俺達が居た家から明らかに違う場所に飛ばされたのだけは間違いない筈だ」
「クソが! あのマッチョ野郎共、今度会ったら二度と喋れない様に粉々にしてやるぜ!」
兎にも角にも、まずはここがそもそもどこで、何なのかを知らないと話にならない。
三人が夢に見た、筋肉モリモリマッチョマンの変態――らしい人物が説明した情報だと、この世界は外史とやららしいのだが、それ以外の情報は教えられてない。
ご主人様を助けて欲しいとほぼ無理矢理送り付けられた様なものだったから。
「しまった、携帯が無いからアザゼルに連絡ができないぞ」
「充電中で手放していたからな。
ええっと、今手持ちにあるのはパイン飴と神器くらいだ」
「俺はブラックガムとドライグ」
『おう』
「俺はわたパチとアルビオンだな」
『ちゃんと居るぞ』
「ドライグとアルビオンもちゃんと居るか。
しかし、なんでヴァーリはわたパチなんか持ってるんだ?」
「近所の駄菓子屋に売ってたからついな。取り敢えず三人分はあるから食べるか?」
「むっ、確かに怒鳴りすぎて腹減っちまった。サンキュー」
取り敢えず手持ちの確認をし、ヴァーリが持ってたわたパチなる駄菓子を三人して口の中をパチパチさせながら食べる。
夢の中のせいで、ほぼ一方的に訳のわからない単語混じりで捲し立てられ、挙げ句の果てにその変態の言うご主人様とやらを助けろと、赤の他人なんて助ける気もないのに無理矢理こんな簡素すぎる平原に落とされてと、割りと災難な三人だが、やはり三バカと呼ばれるだけあって、こんな事態でも割りと呑気にわたパチを食べてる。
「つーかよ、あの悪夢に出てきた変態野郎の言うご主人様って誰の事だよ? 俺嫌だぞ、あんな褌変態野郎がご主人様とか呼ぶ奴なんて、もっと変態に決まってるぜ」
「しかし、手助けしないと帰してくれないんだろう? 俺はそう言われたぞ」
「俺も言われた。まったく身勝手な変態だったよ」
三人して半分程わたパチを食べ、色々と精神的にも落ち着きを取り戻し、とにかく変態マッチョマンの言うご主人様を、正直会いたくもないし、視界に入れるだけで気分が悪くなりそうな気もするし、もっと言えば赤の他人なんかお助けしたくもないが、帰る条件がそれしかないのならと、嫌々行動する事になった――のだが。
「待った。あの変態の言うご主人様ってどんな姿をしてるんだ?」
「………いや、俺聞いてないぞ」
「俺も……」
肝心のご主人様とやらの見た目や特徴を誰も聞いてなかったせいで、普通にのっけから詰んだ。
「あ、あのクソ変態がァ! 直に会ったら九分殺しにしてやるぜ!」
「参ったぞ、それらしき者を仮に手助けして、ご主人様とやらではなかったら骨折り損になる」
「第一、どう手助けするのかもわからんぞ。
堕天使はおろか、悪魔や妖怪の類の気配すらも感じない実に平和――かと思う世界なのにな」
わなわなと怒りに震えて拳を握る一誠と横でわ冷静にヴァーリと神牙は困った。
『取り敢えず、人間の集まる町を探したらどうだ?』
『そうだ、お前達が日頃からやってるテレビゲームだって、町や村で情報を収集したり、装備を売り買いしていただろう?』
そんな三人に、イッセーとヴァーリに宿る……かつては二天龍と呼ばれ、互いに殺し合ってた赤い龍と白い龍が提案する。
「ド○クエ方式か……」
「じゃあ人様の家に土足で入り込んだり、家の中のタンスを漁ったり壺を叩き割ったりしないといけないのか?」
「それはゲームだから許されるだけの話だろ。そこまでやらかしたら、間違いなく逮捕されるっつーねん」
どこか発言がズレてるヴァーリにイッセーが呆れながら突っ込みつつ、ドラゴン二人の提案に乗る事にし、三人は近くに町はないかと探ろうとすると……。
「………! 何者かが複数で此方に向かってきてる気配がする」
気配に鋭い一誠が、前方から生物の気配を複数感じ取ったらしく、目を凝らしながらその方向を見据える。
「強さは?」
基本、強いか強くないかで判断するヴァーリが、若干ソワソワしながら一誠に聞き、一誠はそれに対して首を捻る。
「……。多分一般人だと思うけど……」
「なんだつまらない。
外史なんぞと変態が言うのだから、見たこともない強者が居ると期待したのに」
「どちらにせよ、もし近づいてきたら素知らぬ顔をするんだ。
変に敵意を持たれても困るし、なんなら町が無いか聞いてみよう」
そう言った神牙に一誠とヴァーリが頷いている内に、その気配の元の姿が見えてきた。
そして同時に、向こうも三人の姿を視認したのだろう、三人にとっては怪しさしか感じない、馬に乗って謎の甲冑軍団が一斉に三人を囲むのだ。
「おっふ……」
「囲まれたんだけど……」
「両手をあげて降参ポーズだ」
どうポジティブに考えても友好的ではない馬乗り達に、どうしようかとひそひそ三人で相談しながら取り敢えず神牙の提案通りに両手をあげて降参ポーズをして暫くじっとしておく。
すると、前時代的な格好した馬乗り連中の中か三人の女性――恐らく纏め役と思われる者が降参ポーズ中の三人の前に出る。
(おっ! 美人さん! ……真ん中の金髪の子は若干足りないけど)
(他とは少し雰囲気が違うな)
(……。何故だろう、心がざわつく)
美人美女大好き一誠が、三人中二人を絶賛し、ヴァーリは三人とも取り囲んでる連中の中では雰囲気が異なると感じ、神牙は一誠の絶賛から若干外された金髪の一番背も低い少女に妙なものを感じる。
「「「…………」」」
「「「…………」」」
『……………』
そんなこんなで、暫く沈黙した空気が風に乗って流れていくと、金髪少女がまず最初にその沈黙を破った。
「思っていたより若いわね。
年の頃も私たちとそうは変わらないみたいだし」
「「「?」」」
意外と凛とした声をした少女の言葉に、三バカは内心『あ、言葉はどうやら通じそう』とホッとしつつも首を傾げていると、そのまま少女は三人に問う。
「貴方達が天から降りた遣い?」
「「「???」」」
天というから天にめっちゃ喧嘩売りまくった側の三人は少女の質問の意味がさっぱりわからなかった。
そして、まだ三バカ達は知らない。
この目の前の少女達とは意外とこの先長い付き合いになるということを
そしてこれがその始まりであるという事を……。
「曹……孟徳……だと……?」
「私の名が何?」
「い、いや……」
「「…………………っっ!!!」」
金髪少女が曹操と知り、その曹操の子孫である神牙が死ぬほどショックを受け、後ろでヴァーリと一誠が笑うのを必死に我慢したり。
「外史とは言い得て妙だ。
確かに外れたもしもの歴史と解釈すれば、お前の先祖が女であっても不思議ではない」
「それどころか、殆どの名のある武将や軍師が女って……」
「でもよくね? 可愛いし」
外史の意味を理解していく三バカ。
「つまり、アナタ達は天の遣いを補佐する為に異界とやらからやって来たというのね?」
「正味、その天の遣いとやらを補佐なんてしたくもねーっすけど、しないと元の世界には帰さないって言われましてね。
あの変態野郎には事が終わればホント生きてる事を後悔させてやりますぜ」
「アンタは、その天の遣いとやらそのものを求めていたみたいだが、俺達は外れの方だよ」
バカなのでバカ正直に自分達がどこから来て、どうしたいのかを話してしまう三バカ。
が、信じる信じないは別にしてもこの女版曹操は、モノホンの天の遣いとは違う巨大なものを三人共持っている事を察知し、事態は変わっていく。
「部下になれぇ!? 嫌だよそんなの!」
「あらどうしてかしら? 私の配下になっておけば、本物の天の遣いと会える確率も上がるわよ?」
「そんなもん自分達で探そうと思えば探せるし、そもそもアンタはともかく、アンタの部下に死ぬほど反対されてるじゃないか」
「そうだそうだ!! それに神牙の精神が持たねぇ!」
「……何故?」
「……………」
外の歴史とはいえ、先祖がこんなちんまい小娘でしたなんて現実は子孫としてはかなりショックである神牙の事を考慮して嫌だと返すヴァーリと一誠。
「もっと大人のお姉さんが良い! 煩くなくて、めっちゃ膝枕してくれそうな!」
「…………」
「き、貴様ァ! 華琳様に向かって戯けた事を……!」
「うるせー! おっぱいが大きかろうと煩かったら全部台無しなんだよ!」
が、一誠がもっとボインで人妻オーラ出してそうな人の部下ならやっても良い……と余計な事を言ったせいで変な方向に話が捩れていく。
「ち、ちくしょう……! あのチビ女め……! 当て付けみたいに俺に無茶振りしやがって……!」
「一言余計だったからだろ。甘んじて受けろ」
「ああ、本物の天の遣いとやらが恐らくあの変態筋肉マンの言うご主人様だろうからな。
あの規模の勢力を抱えてる事と、今後更に拡大していくことを考えてみれば、この場所で働いていた方が情報も手に入りやすい」
「ファッーック!!」
それまで基本容姿等を誉められてきた少女を真正面から否定してしまったせいで、少女に一番こき使われる一誠。
「荀彧さんは使えるぜー? 一瞬、チビでおっぱい無くてうっさいけど、頭は良いから俺を外してでも……」
「そんなのは知ってるわ。
けどいくら持ち上げた所でアナタははずさないわよ」
「……。転んで泣いてしまえ、このぺったんこ」
あらゆる手を使ってこのブラック企業も真っ青な女版曹操から外されようと必死になるが、大体失敗してしまう一誠。
「もうどーにでもなっちまえ! ヒャハー! 龍拳、爆発ゥ!!!」
ヤケクソになって敵をなぎ倒すせいで、頭は悪いけど使えると余計沼に嵌まったり。
「なんでアンタみたいな最低男が華琳様のお側に常にいるのよ!?」
「知るかチビ! 俺だってもっとほんわかとしたお姉様にこき使われたわい!」
同じくぺったんこに加えて、嫉妬までしてくる軍師少女とガキそのものみたいな喧嘩ばっかりしたり。
「な、なんだあの褐色美女軍団は!? まさに天そのものじゃないか!!」
「バカ言ってないでさっさと――」
「やだやだー! あのお姉さん達と一緒にいたいー! お前みたいなぺったんこじゃないもん!」
「…………………」
「このバカを蹴り飛ばしましょうか華琳様?」
嫌すぎて他勢力に寝返ると駄々こねたりと……一誠はとことん真逆の縁ばっかりだったとか。
「…………」
そんな一誠が振り回されている間、ヴァーリや神牙はマイペースな日々だったかもしれない。
例えばヴァーリなんかは、一誠と比べても冷静だし、なによりド天然だった。
なんだかんだ、華琳の配下にされてしまって一年程が経過してしまったとしても、ヴァーリはマイペースなのだ。
「見つけたぞ北郷一刀……。
彼が恐らくそうに違いない」
やっとさ発見する天の遣いに、ヴァーリはどのタイミングで接触するかを真剣に考える。
一誠が華琳に連れ回されてる隙さえ突けば割りと簡単に……なんて思ってるのだが、一年という時間は結構深いものだったのかもしれない。
「ヴァーリさん、ちょっと……!」
「む……なんだ? 俺は今本当の天の遣いとの接触方法を――」
「それは後で私もご一緒に考えて差し上げますから! とにかく付き合ってくださいまし!」
当初、ケダモノ呼ばわりまでしてきた経理担当の少女に引っ張り回される事が多くなってたりするヴァーリ。
別にヴァーリも関わる気なんて更々無く、もっといえばヴァーリは義父に本気でEDの心配までされる程異性よりも強くなる事にしか興味がない。
だからこそ、彼はこの少女にこれまで色々と天然でやってしまっていた。
別に事故でセクハラしてしまったとかではなく……。
「………」
「? 寒いのか? 俺ので良かったら上着を貸すぞ、ほら」
「うぇ!? あ……ありがとうございます……」
単に無自覚に、男嫌いの女性すら揺らがせる真似を……。
お陰で筆頭レベルに性癖がアレだったこの少女も最近は、ヴァーリが他の女性とくっちゃべってるのを見てるだけで嫌になってくるらしく、勘違いして上着を貸してくれたヴァーリをしょちゅう自室に連れ込むとかなんとか。
「ほ、ほら! お勉強をしますわよ!」
「この時代の文字の読み書きはもう大丈夫なんだが……」
「い、一応です! さあ始めますわよ!!」
「……おう」
天然で相手の母性を擽る白龍皇。
そして……。
「我等は曹操様の配下! そして、我等は持てぬ者達の抑止力となる!
虐げられし者達の盾となり、曹操様の覇道を阻む者への矛となれ! それが我等部隊の存在意義だっ!!」
『おおおおおっっ!! 神牙隊長!』
神牙は曹操としてのカリスマ性を爆発させていた。
「一誠とヴァーリが動けない今、俺がやるしかない」
「神牙様、我等は確かに曹操様の忠義を誓いました。
ですが私自身は、アナタに遣えたいと思っています。
なんなりとご命令を……」
警備隊を任され、そこから人材発掘癖が爆発した結果、表側は華琳に忠誠を誓う警備隊だが、裏は神牙に心酔すらする独立戦闘軍団となった。
まさに、本来曹操を名乗り続ける彼が集めた英雄の子孫――英雄派のように。
「凪、キミには感謝する。
キミのお陰で俺は動きやすくなれたからな……これからも頼む」
「は、ははっ…! も、勿体なきお言葉! わ、私は幸せです!」
「おーおー、とんだタラシやなぁ? 凪が完全に女の子やで」
「うーん、なーんか華琳様と被る時があるんですよねー? 雰囲気とかが」
「真桜! 沙和!! じ、神牙様の前で失礼だぞ! へ、変な事を言うな!」
皮肉にも、外の歴史の過去へと来てしまった事で覚醒させたカリスマ性。
「も、申し訳ありません神牙様! 二人がとんだご無礼を……わっ!?」
「! おっと! 落ち着けよ凪、俺は別に気にして――」
「あ、あぅ……じ、神牙様……。そ、その……神牙様の手が私の胸に――」
「!!! あ、す、すまん! わざとじゃないんだ!」
「い、いえ……き、気にしませんから……あ、あはは」
「おーおー、凪もやるやん?」
「うっかりと見せかけての大胆。
うーん、凪ちゃんも女の子になりましたねー?」
まあ、基本的にそっちの才能も残ってるのでイマイチ締まらないが。
終わり
補足
執事verの様に、やっぱり振り回されるらしいのと、やっぱり喧嘩友達っぽくなるらしい。
しかたないね……。
その2
んで、ヴァーリはずっと天然。
落ち込んでる彼女を見たら、そこら辺に生えてた花引っこ抜いて渡したり、熱を出したら律儀に治るまで看病してあげたりと、とにかく的確にやらかしてた模様。
その3
与えられた警備隊を曹操として覚醒した神牙くんは、見事に戦闘集団に作り替えた模様。
そして、やはりどこか間が抜けてる面を含めて凪さんにめっちゃ心酔された模様。
つまり、主なあの性質の被害者が凪さんらしい……、
続きません。