色々なIF集   作:超人類DX

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これ、三馬鹿ではなく、凹凸トリオです。


基本ベースが執事シリーズの……アレの続きみたいな。



※※※※凹凸三組『多分きっとほのぼの魏生活』

 異質なまでの頑丈さ。

 

 全身が血に染まろうが決して退くことしない、狂気とも思える強烈な意思。

 

 一度『敵』と判断すれば、どんな命乞いをしようとも耳は貸さず、その者が例えどれ程に有能であろうと、高い地位を持っていようとも、確実に息の根を止めようとする。

 

 天から降ってきた三人を運良く手中に出来たけど、その三人の内の一人で、もっとも他人に対しての警戒心が強すぎる男の背中はとても大きく見えるけど、酷く寂しげにも見えたのは果たして私の気のせいであるのだろうか。

 

 

「こ、ここっ! 殺さないでくれ! 奪った物は全てアンタにくれてやる! なんだったらアンタを長にしたって良い! なんでも言うことを聞くから命だけは――」

 

「その命乞いを、女子供が今までしたのを貴様等は聞いたのか?」

 

「そ、それは……!」

 

「聞くわけないよな? 知ったこっちゃないよな? 犯して、殺して、奪って気持ち良くなれりゃあ良いんだもんな?」

 

「そ、そうしなかったら俺達は生きていけなかったんだ!」

 

 

 彼は『奪われる』という言葉を酷く恐れている気がする。

 彼の友人であり、仲間である二人の男は、彼は子供の頃、とある者に名を含めた全てを奪われてしまったと言っていた。

 

 きっと、だからなのだと私は思う。

 ひょんな理由で、仲間にした許緒による事故から桂花を庇い、本来なら立つことすら不可能な程の傷を負った筈の彼は、まだ止まらない血を頭から流しながら、震えて命乞いをする、本拠地に居た賊達を虫けらでも見るような目をし続けているのも、この者達によって奪われて来た者達の無念を誰よりも深く理解しているからだ。

 

 

「一誠の顔が今までにないくらい、無機質だ……」

 

「わかるのか姉者? 私には何時もの顔にしか見えないというか、血が止まってないから迫力が凄まじいぞ」

 

「あ、あのバカ、下手したら本当に死ぬかもしれないのに……!」

 

「ぼ、ボクのせいですよね……」

 

「事故だったから、一誠も気にしてはないから大丈夫だ」

 

「一誠くんは人見知りが強いからさ、心配しなくて良いよ」

 

 

 賊の本拠地は岩山の洞窟の中にあった。

 その本拠地の中に向かって殺した賊の亡骸を投げつけ、混乱する連中を一気に一網打尽にして捕らえた。

 

 そして捕らえた賊の長と思われる大柄の男は、一誠の異質な雰囲気に恐怖を抱き、部下連中と共に命乞いをしているが、命乞いをすればする程一誠は血を流した修羅と化していく事をわかっていない。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

 

 

 賊の長が命乞いをし、更に余計な事を言ったその瞬間、一誠がその男の目に何の躊躇いも無く指を突っ込み、目玉をくり貫いた。

 

 

「あ――うぐっ!?」

 

 

 そして苦痛に獣の様な悲鳴をあげる賊の男に持っていた布を丸めて口の中に突っ込んで声を止める。

 ……妙に手慣れてる気がするのは、多分きっと気のせいではないと思う。

 

 

「奪うという事は、逆に奪われる事を覚悟してるから、やってきたんだろ? …………なんて、お前等ごときがそんな高尚な『覚悟』なんざ持ってるわけもないか……」

 

「うっ……!」

 

「だから殺さないでくれなんてほざけるんだからさ? くくく、何が殺さないでだよ、テメー等に殺された者達が今ここで聞いていたら何て言うかなァ?」

 

 

 そして完全に『敵』と認識した者に対しては、信じられない程よく喋り、信じられない程の残虐性を剥き出しにする。

 

 私は勿論の事、春蘭も秋蘭も桂花も……不思議と彼の残虐性から目が逸らせない。

 

 

「も、もう悪いことはしない! 奪うこともしない! だから命だけは――」

 

「しかし安心したなァ~!!!!!」

 

『っ!?』

 

「………………こんなに殺すことに躊躇いを覚えないクソ野郎共で。

ホント、ある意味あのクソボケ以来だ――――だから死ね」

 

 

 

 他人を信じない。

 信じようとする気持ちに怯えている。

 

 しかしそれでも彼の仲間である祐斗と元士郎が一誠を友として思っているのは、受け止められた相手に対する無上の献身性を知っているからなのだろう。

 

 断末魔さえ許さずに賊達を壊滅させた一誠の無機質な目が変わることを知っているから……。

 

 

 

 

 

 

 

 その名すらも一度は奪い取られた一誠は、皮肉にも悪魔という種族達との交流により、常時反抗期化したが、その者達に対しては割りと素直な子だった。

 

 だが一度でもスイッチが切り替われば、奪われた精神的トラウマへの自己防衛本能が働き、一気に残虐性が剥き出しになる。

 

 

 命乞いをする賊達を殺し尽くし、吐き気を催す程の血の臭いが辺りを支配しても、一誠は表情ひとつ変えずに華琳に対して口を開く。

 

 

「殲滅、完了致しました曹操様」

 

 

 桂花による無理矢理治療で多少出血が止まり始めた一誠が淡々と華琳に膝を付いて報告をする。

 

 

「アナタ一人にやらせるつもりは無かったのだけどね……」

 

「それは失礼致しました」

 

「……。いえ、ご苦労様。

お陰でこちらの被害は零のまま賊達を片付けられたし」

 

 

 荒れ狂う程に剥き出しとなった残虐性が嘘の様に沈静化し、無機質な声と無表情のまま一礼を済ませて下がる一誠に、華琳はこれ以上は何も言わなかった。

 

 

「血が止まりませんね。やはり回復力もかなり下がってしまった様です」

 

「ああ、だがそれよりお前一人に……」

 

「気に食わなかったから殺っただけです。

単なる個人的な感情ですから、お二人ともお気になさらず。

それに他を殺害することに関しては私が一番慣れていますしね」

 

「………」

 

 

 

 祐斗、元士郎に軽く笑みを見せる一誠に二人は無言で顔を見合わせて頷き合う。

 一誠一人に汚れ仕事は決してこの先はさせまいと。

 

 こうして少しばかり微妙な空気になったものの、此度の遠征は無事に成功という形にはなり、全員無事に帰還する事になった。

 

 ただ、その帰路の途中、自分のせいでかなりの大怪我をさせてしまったと許緒が一誠をチラチラと伺うが、本人は気付いているのか居ないのか……いや、気付いても話したら吐きそうになるので敢えて気付いてないフリをして流そうとするので、これまた微妙にギスギスとしていた。

 

 

「やっと血が止まったか……」

 

「は? 嘘言いなさいよ、あれだけの怪我をしたんだし、そう簡単に―――ほ、ホントに止まってるわね。

どうなってんのよアンタの身体は……?」

 

「だから言っただろ、キミの下手くそな治療なんて要らなかったって」

 

 

 

 ところで、華琳も春蘭も地味に桂花がラフな調子で一誠と話せてる事にちょっと驚く。

 無論、祐斗や元士郎も驚いていて、二人がペラペラとくっちゃべってるのを見てるが、ああいうズケズケとものが言えるタイプの方が実は案外話せたりするものが一誠はある。

 

 春蘭なんかがその最たるものだ。

 

 

「アナタ達、いつの間にか仲良くなったのね……」

 

「ち、違います! コイツが一々危なっかしいので釘を刺してるだけで仲良しではございません!」

 

「文句ばっか言われてるだけですので」

 

「ふーん?」

 

 

 慌てて全否定する桂花と、淡々と否定する一誠だが、帰還するまでの道中ずっとペラペラと喋り続けてたので、あまり説得力を華琳は感じなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アイツが言った通り、帰る頃には完全に傷が塞がり、湯浴みを済ませた頃には怪我なんて最初からしていなかったかの様に全快していた。

 

 やはり曹操様――いえ、今回の事を認められて真名でお呼びさせて頂く事を許されたので、華琳様と呼ぶけど、その華琳様が自らの直属とさせる理由がなんとなくわかってきた。

 

 ……あの残りの男二人共々、どうやら単なる木偶の坊ではないという意味ではまあまあ使えるらしい。

 けれど、遠征前に血を吐いていた事に関してはお伝えしておくべきなのか迷う。

 

 アイツは『絶対に誰にも喋るな』と目を血走らせながら言ってたし、華琳様に知られたら困るのは何となくわかる上で、相当華琳様に忠誠を誓っているのだと、悔しいがちょっとだけ認めてあげなくもない。

 

 

「警備隊の再編成?」

 

「ええ、私が治めてる領土内で不穏な真似をする輩は許さない。

だから改めて再編成を行う事にしたのだけど、その警備隊の長を祐斗か元士郎のどちらかに頼んでみようと思うわ。

それで、二人の友人として一誠はどちからが適任だと思うのか、意見を聞いてみたいわ」

 

「俺をこの非常に疲れるだけの、生産性の欠片もない位置からはずして、その警備隊とやらに入れれば万事解決だ。

警備隊どころか単独で敵の本拠地を潰せる戦闘集団にしてや――」

 

「私はあの二人のどちらにするつもりであって、アナタはこれまで通り私の直属に決まってるじゃない」

 

「…………チッ」

 

 

 普段は華琳様に対して大分畏まるけど、人目が少ない時となると大分気安いというか、かなり堂々と逆らってる事を何度か注意したけど、華琳様が『構わない』と仰ったので、今目の前で平然と華琳様に対して舌打ちをした日之影に私は黙ってるし、最近仕方なく真名を交換した秋蘭や、特に煩そうな春蘭ですら何時もの事だと黙っている。

 

 この露骨に逆らってくる所を華琳様は寧ろ楽しんでおられる節があるし、今も若干笑ってる。

 多分、これが日之影が直属配下である理由なんだと思うと、やっぱり悔しい。

 

 あの日以降、私は日之影と話はしていない。

 

 私はあくまで華琳様の軍師配下で、日之影は直属配下だからというのが大きな理由だけど、別に好き好んでお喋りする間柄ではないのはお互いわかりきった事だ?

 

 配下と認められた日、その日之影が華琳様に、私を直属配下にして自分を降ろせと言ったのを私が断ったからなのも――多分ちょっとだけ理由になるかもだけど。

 

 

「では警備隊は元士郎が適任と?」

 

「どちらかと言えば」

 

「ではその様にさせて貰うわ」

 

 

 しかしやはり日之影は……悔しいけど私の一歩上に立っているわ。

 軍師としての力量は勝ってるけど、実働においては日之影の方が遥かに上だもの。

 

 

「では元士郎にこの事を伝えるとして、一誠は少し休みなさい」

 

「やっとアンタから少し解放されると思うと清々するね」

 

「騒ぎだけは起こさないでちょうだいね?」

 

 

 華琳様から休憩を命じられ、余計な一言を言ってから退出していく日之影をじーっと見る。

 その視線が華琳様にバレてしまっていたのか、やはり何時だってお美しいお姿の華琳様が私に笑みを見せながら言う。

 

 

「桂花、アナタも少し休みなさい」

 

「え、私は別に……」

 

「ならば、一誠が変な騒ぎを起こさないか――多分起こすことも無いでしょうけど、一応見張りに行ってちょうだい」

 

 

 私が日之影とそれなりの仲だと誤解されてしまっているのか、華琳様はそう私に命じた。

 

 

「桂花が嫌なら私が代わっても良いぞ?」

 

 

 そういえば普通に日之影を真名で呼び、そしてあの日之影が唯一呼んでる春蘭がそう私に言う。

 そういえば夜な夜なコイツは、日之影達と特訓をしていて、頭はおバカさんながら凄まじい強さを持ったらしい。

 秋蘭が微妙にふて腐れた顔で、『私に対しては完全に壁を何枚も隔てた様な喋り方なのに』と、軽く落ち込んでるのと、おバカさんと二人にさせたらそれこそ騒ぎに発展しそうなので、仕方なく私は春蘭の申し出を断る。

 

 

「アンタと日之影を一緒にしたら、訓練場をめちゃくちゃにされるかもしれないから良いわ。

華琳様、行って参ります……」

 

「む……別に一誠とは訓練だけしてる訳ではないぞ。

食べたことない料理とか作ってくれるし……」

 

「なぁに春蘭? アナタ、私の知らない所で一誠にそんな事して貰ってたの? ……………私は一度もそんな事された事ないのに」

 

「そ、それは違います華琳様! アイツが華琳様に妙な料理を出す前にまず私が毒味をしてるのです!」

 

 

 ……。そういえば、あの遠征から帰還した直後、アイツが自作したらしい料理を食べさせて貰った事が私もあったわ。

 ムカつくことに普通に美味しかったからよく覚えてるけど、これは流石に華琳様には言えないわね……。

 

 なんて心の中で思いながら退出した私は、日之影を追い掛け――割りとすぐに追い付いた。

 

 

「待ちなさい日之影」

 

「……? なに?」

 

 

 何気に直接話のは久しぶりだったが、日之影の方は話しかけた私の方へと振り向きながら、特に久しぶりだからなんだといったものも無い淡々とした返事だった。

 

 まあ、コイツは華琳様や春蘭、それから男の仲間二人以外は声すら出せなくなる事を思えば、返事をしてくるだけ大分マシなので、無愛想な返事に一々腹も立たなくなる。

 

 

「華琳様から、アンタが休憩中に変な真似をしないようにと私に監視を命じられたから、仕方なく来たのよ」

 

「あ、そう」

 

「で、どこに行く気よ?」

 

「人気が無いとこ」

 

 

 そう言ってスタスタと歩き出す日之影に私は小走りで付いていく。

 

 

「ちょっと、歩くのが早い。歩幅を私に合わせなさいよ」

 

「は? ……はいはい」

 

 

 私の要求をめんどくさそうな顔をしながらも、律儀に応じて歩く速度を私に合わせる日之影。

 うーん、他の者達は常に無表情で無機質で喋らない日之影しか知らないせいで微妙に敬遠してるみたいだけど、喋ると案外子供っぽいところが多いし、言えばそれなりに応じてくれるのよね。

 

 木場と匙曰く、『だから余計に驚いた』だなんて言ってたけど。

 

 

「ねぇねぇ、私が居ない時とか華琳様とはどんな事を話すの?」

 

「彼女が一々俺に話を振ってくるのを、適当に返してるだけ。

曰く、真正面からはっきりと物を言ってくる男は居なかったから、意外と楽しいんだと。

俺にとっては良い迷惑でしかないがな」

 

「ふーん?」

 

 

 ところでだけど、さっきから城の外側まで歩いてる私達をコソコソしながら付いてきては様子を伺ってる者が居るのだけど、日之影は気付いて―――居るわね。

 

 

「ふぅ……」

 

「アンタ、普段の休憩もこんな場所に来てるの?」

 

「人もあんま来ない、日陰で眩しくもない。

俺にとっては割りと悪くないんでね……っと」

 

 

 城の裏にある普段あまり使われない小さめの倉庫が日之影のお気に入りの場所らしく、その倉庫の近くに立っている背もたれにするにはまあまあな大きさな木を背に座り込む。

 

 

「ちょっと、私が座る分も少し空けなさいよ」

 

「ん」

 

 

 解放された様な心底ホッとした顔で座り込むコイツを立ったまんま暫く見てるだけなのもアレなので、私も取り敢えず座ろうと日之影にずれて貰い、その横に座ってみる。

 

 少し離れた城壁の陰からこっちを見てる者については……うん、触れるのはよそう。

 

 誰なのかはもうわかってるし。

 

 

「具合はどうなの?」

 

「は? ああ、あの件ならもう問題ねーよ」

 

「問題にしないと思うには、笑えない量の血を吐いてたじゃない」

 

「どっちにしろもう吐かないし、キミは寧ろ、俺がとっとと早死にしそうだと喜ぶべきだと思うが?」

 

「バカね、そんな勝ち方したって意味無い事ぐらい私だってわかってるわ。

本当に大丈夫ならこれ以上聞かないし、誰にも言わない」

 

「キミって、俺が曹操の直配下なのが気にくわない割には蹴落とそうとはしないよな。変なの……」

 

「楽には蹴落とせそうもないじゃないのアンタは」

 

 

 久しぶりに喋るせいか、私も色々と話をしてしまう。

 

 まさかこの私が男とこんな多く無駄話をするなんてね……。

 いや、だってコイツ、他の下衆な男とは違う目線というの? そもそも私をそんな対象としては欠片だって興味ないって目なんだもの。

 それはそれでムカつくけど、下劣な視線を寄越されるよりはマシだわ。

 

 それに――――

 

 

「あ、あのっ!」

 

「っ!?」

 

 

 喋れる相手には結構強気な癖に、喋れない相手だと途端に豹変するのを知ってるから……なんとも言えないのよね。

 

 例えば、華琳様の配下になってからずっとコイツに大怪我を負わせてしまった事を気にし続けてる仲康が勇気を振り絞って日之影の前に現れた途端、一気に顔色が真っ青になってるし。

 

 

「ひ、日之影さん! ぼ、ボク……日之影さんにどうしても……!」

 

「………………」

 

「はぁ……」

 

 

 仲康はどうしてもあの日の事を謝りたいらしい。

 けれど肝心の日之影が凄まじく狼狽えているのに気付いてない。

 

 いや、仲康がコイツに謝りたい気持ちはわからなくもないんだけど……。

 

 

「……………」

 

 

 その日之影が狼狽え過ぎて声も出せず、私の服をくいくい引っ張りながら、助けを求める目をしてくるのよね……。

 それはもう、親猫とはぐれてしまった子猫みたいな……。

 

 

「え、なによ?」

 

「………」

 

 

 その目に何かゾクゾクするものを感じなくもないけど、日之影本人にしてみたら真面目極まりない緊急事態みたいなものであり、一言も声を出さない日之影に段々不安そうな顔をする仲康を前に、コイツは私に耳を貸せと小声で言い出す。

 

 

「………………」

 

「………。それを私が代わりに言えっての? 何で私が――――チッ、貸しひとつよ?」

 

「え?」

 

「あのね仲康? 日之影はアナタから受けた怪我は一切気にしてないから、アナタも気にしなくて良いって言ってるわ」

 

「え……で、でも……ボクとお話してくれないし、本当は怒ってるんじゃ……」

 

「それは――――は? また耳を貸せって? アンタいい加減に―――わ、わかったわよ! ったく……! ………ふむふむ、えっとね『キミに比べたら俺はそこら辺の雑草みたいなもんだから、本当に気にしなくて良いし、他人と喋ると具合が悪くなるだけだから』………だ、そうよ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 一々私を介さないと意思疏通も儘ならない日之影の代弁をしてあげた所、仲康は拒否されてると思ったのだろう、見るからに落ち込んでしまった。

 

 だから私は日之影に自分で言えと怒ったのだけど……。

 

 

「べ、べつに……おきになさら―――ごほっ! うげぇ!!」

 

「ひっ!? ち、血を吐いて……!?」

 

「! 仲康! この事を誰にも言わずに水を持ってきなさい! 早く!!!」

 

「は、はい!!」

 

 

 日之影曰く『すとれす』という、謂わば精神的な重圧が極度に達すると血を吐く。

 さっきまでは大丈夫だったのに、今回仲康と向かい合っただけでその重圧が一気にのし掛かってしまったらしい。

 

 そこまで他人と喋るのが苦手なのかと、私は仲康に口止めを徹底した上で水を持ってこさせる。

 

 

「げほっ! ごほ!! ち、ちくしょうが……!」

 

「平気だって言ってたのに、やっぱり嘘じゃないの……!」

 

「ち、ちげーよ、ここ最近あのチビっ子がこそこそ付いてきては見てるだけの繰り返しで、その視線のせいで全然安らぎがなかったんだよ……! 偶々今回は慣れてるキミが居たからマシになると思ったのに、そんな時に限って目の前まで近寄って来たから――げほ!」

 

「普通に私や華琳様や春蘭にする様な対応をすれば良いでしょう!? それがどうして血を吐く程にダメになるのよ!」

 

「だ、だって無理……。知らん相手と向かい合うと頭が真っ白になって、気持ち悪くなって、それから目の前がぐるぐる回って――と、とにかく無理なんだよ!」

 

「…………」

 

 

 吐いて苦しいのか、涙目になって私に訴える日之影が、今はとても小さく見えた。

 敵に対しては途端に残虐になるし、華琳様や私に対しては強気な癖に、他人のあんな子供一人相手になると途端にこんな事になる。

 

 一体コイツはどんな生き方をしたからこんな面倒極まりない性格になってしまったのか……。

 

 少し気にはなるが、弱々しく項垂れる日之影の背中を取り敢えずなんとなく私は摩っておく。

 

 

「お、お水持ってきました!」

 

「ありがと。ほら、ゆっくり飲みなさい」

 

「あ、あぁ……」

 

「あ、あの……またボクのせいで……?」

 

「アナタのせいではなく、コイツの死ぬほどめんどくさい性格が原因だから、気にしないで。

というか、これ以上コイツを追い詰めたくないと思っているのなら、気にしないであげてちょうだい。それがコイツにとっての一番の良薬みたいなものだから」

 

「は、はい……」

 

 

 竹筒の中に入った水を渡し、ゆっくり飲ませながら背中を撫でていく内に、少しは落ち着いていく日之影。

 仲康はどうしたら良いのかわからないって顔でただ立ち尽くしてる。

 

 まったく、こんな情けないやつが華琳様の直配下なんて悔しいにも程があるわ。

 

 

「ちょっと、その状態じゃまだまともに歩けないでしょうが。

もう少し座ってなさい」

 

「うん……」

 

 

 フラフラな状態でどこかに行こうとする日之影を無理矢理座らせる。

 本当はどこか空いてる部屋で暫く休ませる方が良いとは思うけど、無理に動かすのもよくは無いし、何よりさっきから妙に私に素直なのが……。

 

 

「何か他にボクにできる事は……?」

 

「そうね、まずこの事は絶対に他の誰にも喋ってはダメ。

それこそ華琳様にも……約束できる?」

 

「は、はい……! でもなんで……?」

 

「それがコイツの意思だからよ」

 

 

 ……。なんで私が日之影を庇い立てしているのか、自分でもよく分からないけど、取り敢えず仲康には念を押して口止めをし、項垂れたまま動かない日之影を……しょうがない、暫く寝かせるしかないわ。

 

 

「日之影」

 

「……なに?」

 

 

 本当は嫌だけど、コイツには大きな借りがある。

 さっきの代弁してあげる程度では返せない借りを返して対等になる為に、仕方なく……いや本当に仕方なく私は日之影に膝を貸す事にした。

 

 

「あぁ……! この私が男にこんな真似をするなんて……!」

 

「あ、あの……?」

 

「良い仲康! この事もぜっっっったいにっ!! 誰にも言わないでよ! これは仮にも私がコイツに借りがあるからしょうがなくしてやってるだけなんだから!」

 

「は、はい……わかりました」

 

 

 何か言いたげな目の仲康に気づかないフリをし、横になる日之影に膝を貸した私は、こっちを見上げて同じように微妙な顔してる変な奴と目が合う。

 

 

「わざわざキミにこんな……」

 

「黙って寝る! 寧ろ光栄に思っておきなさいよね!」

 

「……………」

 

 

 とにかく黙らせ、とにかく休ませる。

 死人みたいな顔色で華琳様のお側に居られても私が嫌なのだから。

 

 

「桂花」

 

「は?」

 

「だから桂花。私の真名、今後はキミだとかじゃなくて真名で呼びなさい。良いわね?」

 

「いや、俺は真名では―――」

 

「返事!」

 

「は………はい、わ、わかったです……桂花さん」

 

「ん。で、アンタの真名は? 嫌なら別に教えなくても良いけど」

 

「い、一誠……」

 

「ん、確かに貰ったわ。

じゃあ一誠……今は全力で休んでその死人みたいな顔色をマシにしなさい? それまでだったらアンタにこうしといてあげるから」

 

「……………」

 

 

 はぁ……化け物みたいに強い癖に、世話の焼ける奴だわ、ホントに。




補足

敵と決めたら一気に残虐超人化する。

そらもう、獄殺王みたいに。


その2
猫耳軍師とめっちゃベラベラ喋れるのは、彼女の気性が強いのと、表裏がある意味ないからですかね。

おかげで、めっちゃ一目置かれまくってますがね、猫耳軍師さん。


その3
んでまぁ、鉄球少女は空回りしたあげく、血まで吐かれてしまうという……。

皮肉なことに、それによって猫耳軍師さんが一気にヴェネラナのママン並の包容力に目覚めかけてるというね……。

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