没過ぎる内容だもん
確実に、間違いなく、絶対に。
自分がその代償で死ぬことになるとしても、還さなければならない。
自分が帰れなくなろうとも、このババァだけは絶対に……。
何故なら、俺には家族なんてものは存在しないが、ババァには居る。
ババァを待ってる夫や、娘や息子や孫――とにかく家族が居る。
だから絶対に帰さなければならない。
どんな手を使っても、それこそ殺人を犯してでも俺は必ずこの小うるさいババァを元の場所へと戻す。
血反吐を吐く鍛練。
妥協無き精神。
進化への渇望。
一度全てを剥奪された少年は、二度と奪われぬためには『力』が必要不可欠であるという考えに到達し、その身体をとことん苛め抜いた。
その心に宿す異質な異常により、常に進化を遂げ続ける少年は平行して『情』は弱さを生むと感じ、情の排除を徹底しようとした。
本来ならば、両親に愛されて育ち、明るくて少しばかりスケベな青年へとなる筈が、他人と喋る事すら儘ならない、氷のような冷たい青年へと変貌させた。
しかし青年は結局は『情』を捨てきれなかった。
……。いや、捨てさせてもらえなかったというべきか。
少年が未だ勝てぬ真の人外の青年の家族達が、血の繋がり等関係ないとばかりに少年に愛情を与えてくれたから。
中でも真の人外の青年の母は、息子や娘に受け継がれなかった自身の髪の色にそっくりな髪色を持っていた少年をこれでもかと構い倒した。
お陰で少年は常時反抗期みたいな性格になってしまったのだけど、それでも悪魔の母は人である少年を実の息子や娘や孫と変わらぬ愛情を注いだ。
だからなのだろう、少年は態度こそ反抗期でババァだなんて呼ぶが、イザという時は自分の命をも簡単に投げ出して母の盾となる不器用な成長を遂げた。
そんな不器用な優しさを母のみならず、家族達も知っているからこそ少年を愛するのだ。
本物の家族以上に。
そして少年の不器用さは、意図せず、望まぬまま世界を移動させられてしまう事で漸く、少しだけ素直になっていく。
宇宙人が存在する世界というのはわかった。
地球に宇宙人が何人か混ざっているのも理解はした。
しかしながら、わかった所で青年が抱いた感想は……『だからどうした?』という、心底どうでも良いものであった。
宇宙人が居ようが居まいが、そんな事は青年にとっては蚤にも等しき関心なのだ。
青年が目指すものはあくまでも『帰還』。
自分のせいで巻き込んでしまった者をなんとしてでも元の世界へと返す。
それこそ、例え自分が取り残されても。
それが青年が『ババァ』と呼ぶ女性に対する密かなる情の証だった。
「…………………………」
その為の情報収集は欠かせない。
曰く、他の惑星は地球よりも遥かに進んだ文明の星もある――それはつまり、世界を転移する方法を持つ惑星もあるかもしれないという事であり、青年は偶然にも知り合う事が出来た地球人に擬態している宇宙人の医者の下で雑用をしながら異界でしぶとく生きていた。
「デビルーク星のプリンセスがこの学園に転入したらしいわね?」
「デビ……なんだって?」
「デビルーク星。少し前に銀河を統一した王の娘よ」
本音を言えば、他人に従うのは反吐が出るほど嫌だった。
しかし目的の為にはプライドを捨てなければならなかった為、本当に仕方なくの嫌々で目の前の宇宙人協力者の言うことを聞いている深めの茶髪の青年。
「科学力は随一の星だから、上手いことそのプリンセスと仲良くなれたら協力して貰えるんじゃないかしら?」
「…………」
「……って、貴方一人じゃあ話しかけるのもまず難航しそうよね。
私とすら最初の方はヴェネラナさんを介さなければコミュニケーションも取れなかったし」
「………………チッ」
白衣を着た抜群のスタイルをした、青年がババァと呼ぶヴェネラナに近い髪色をした美女の含みのある笑みに、燕尾服を着た青年は露骨に舌打ちをしながら目を逸らした。
そう、元の世界では魔王をそれぞれ輩出させた二つの悪魔の名家の執事をさせられていた青年だが、その実――内弁慶ともいえる程のコミュ障持ちだった。
それ故に、現在彼がまともに会話できるのは、この目の前の白衣を着た美女と彼がババァと呼ぶ……母を自称する悪魔の女性――
「あまり私の息子に意地悪を言わないでくださる? ふふ、拗ねちゃいますから?」
「あらごめんなさい。
からかい甲斐があるものでつい……ふふふ」
ヴェネラナ・グレモリー。
白衣を着た女性に劣らぬ美貌とスタイルを持つ美女だが、これでも孫がいるほどの歳である。
故に青年からは反抗の意味も込めてババァと呼ばれている。
そんな青年とヴェネラナは所謂異世界の存在だ。
理由があってこの今いる世界から抜け出せなくなってしまっている訳だが、そんな二人の事情を知った上で協力してくれているのが、この女性――御門涼子なる宇宙人であった。
宇宙でも屈指の名医であり、それ故に狙われていた所を偶々――本当に偶々鉢合わせした青年によって結果的に助けられてから、彼と彼女の事情を知り、協力する事になった。
もっとも、ヴェネラナはともかく、他人とは一切喋らない青年――日之影一誠とのコミュニケーション難易度は御門涼子とて難航し続けたのはお察しだ。
「一誠、貴方は確か18になったばかりよね?」
「……。それが?」
今現在、ある程度の会話までは可能になった。
端から見れば冷たい受け答えに見えるのかもしれないけど、彼にしてみれば究極的な妥協をしているつもりである。
それを御門涼子も解ってはいるので、ぶっきらぼうな態度をした燕尾服の青年に対して特に気を害した様子もない。
「いえね、18ならば彩南学園に生徒として転入してみてはどうかしら? デビルーク星のプリンセスもその学園に転入するみたいだから……」
「ふざけるな、今更あんな所に行けるか」
あんな所。
つまり学校の事であり、元の世界でも嫌々仕方なくやらされた学校生活は一誠にとって苦痛以外の何物でもない。
故に異界に迷い込んでしまった上に学校生活までやるのは嫌過ぎて即答の拒否だった。
「学がないと大変よ?」
「学ならヴェネラナのババァに教わっていた」
「集団行動の意味を学べないじゃない」
「馬鹿馬鹿しい。
何故ボンクラな雑魚共に合わせてやる必要がある」
「頑なねぇ……? 昔からこんな性格なのかしら?」
悪辣な言い方の一誠に、御門涼子は呆れながらお茶を飲んでいたヴェネラナに問う。
「そこは色々と事情がありましてね。
これでも子供の時と比べたら大分マシにはなりましたのよ?」
「さぞ幼い頃の一誠は小生意気な目付きをしていたんでしょうね……」
「そこが可愛いのよ。
ふふ、貴女にも何時か解る時が来ると思いますわよ?」
「………………おい」
余計な事を喋るなよ……。
という無言の抗議が籠った視線を一誠から向けられながらも軽くスルーして微笑むヴェネラナからの言葉に、御門涼子は自分より遥かに大人からの言葉だと飲み込む。
解る日が来るとは思えないが……。
「話を戻すけど、本気で帰りたいのなら我慢を覚えるべきよ。
この星の技術――いえ、他の惑星の高度な技術であっても
「…………………」
「彼女の言うとおりね。どうしますか一誠? 決めるのはアナタよ?」
「……………………………くっ」
妥協をしなければ元には戻れない。
それを言われてしまえば一誠も弱い。
そう、帰る為には力ではどうにもならない事を我慢してこなさなければならない。
転校生として学校に潜り込むなんて、考えただけでも吐きそうになるが、高度な技術を持つ宇宙人を上手く利用しなければならないのであるなら……。
「や、やってやんよ……!」
妥協をする。
半分はただの強がりでしかないが、元の世界で悪魔の家族――主にこの義母と、義姉を自称するメイド悪魔からの徹底的に叩き込まれた事で到達した青年執事は、本当は真面目に嫌で仕方ないけど、妥協しないと帰れないのならばと、了承した。
「決まりね。
手続き的な事は私がなんとかしてあげるわ。
一応その学校で保険医とかやってるし」
「チッ」
「舌打ちしないの一誠」
「……………………。どうも」
これはスーパーリアルハーレム王の物語の………裏のお話。
「彩南高校の制服なんだけど……くっ、壊滅的に似合わないわねアナタって? ぷくくっ!」
「殺すぞこのアマッ……!」
「こーら一誠! そういう口の聞き方はダメって言ったでしょう!? まったく悪い子ね!」
「うぷっ!? やめろババァ! 一々うっとうしいんだよその無駄な脂肪が!」
通う学校の制服が壊滅的に似合わなかったり。
「えー、転校生です。
彼は学年的には三年生なのですが、諸事情により皆さんと同じ学年となりますので、仲良くするように」
「…………………………………」
二回留年した不良という体で編入させられてしまったり。
「………………………………………………………………………………」
『全然喋らないなあの人……』
『二回も留年って、鑑別所にでも居たって噂らしいぜ?』
『下手に話しかけても怖いだけだな……』
「……………………………………」
不良のレッテル(強ち間違いでもない)を貼られてしまい、完全に初日から孤立する執事。
だが同時期に転入した――つまり一誠達にとってはある意味でターゲットである宇宙のお姫様はそんな一誠に、あわあわしてる男子生徒を横にグイグイと話しかけてくる。
「私ララ! アナタも今日からガッコーに通うんでしょ? 同じだね!」
「お、おいララ! ま、まずいって!」
「? なんで?」
「だ、だってその人、学年は同じだけど年上で……」
「……………………」
怯える者達の視線に寧ろ実は吐きそうになってたり。
「…………………」
「初日から滅入っちゃって、この先が思いやられるわよ?」
「俺をどうして同年代の連中と同じ学年にさせなかった……?」
「だって戸籍が完全にないし、この世界では中学すらまともに出てない状況じゃない。
寧ろここまで捩じ込めた事を褒めて欲しいくらいだわ」
「………………」
保険医らしい御門の所に赴いてめっちゃ恨み言を言ったり。
「アナタと同じクラスの結城リトという子の家に現在プリンセスは住んでいるみたいよ?」
「……。その小僧からは完全に怯えられたんだが」
「あらま。
鑑別所上がりの二回留年した不良って背景をでっち上げたのはマズかったかしら? でも強ち間違いではないでしょう? アナタって言動が一々辛辣で乱暴だし」
保健室の常連化になったり。
「ちょ、ま、待て!? な、なんだお前!?」
「………………」
「ひ、日之影………さん!? な、なんでここに!? いやそれよりも早く逃げてくれ! じゃないと春菜ちゃんみたいに――」
「………………」
「ばぇ!?」
偶々出くわした宇宙人の修羅場が鬱陶しかったので、目に入った宇宙人をグチャグチャにしてしまったり。
「あ、あの……この前の事は誰にも――」
「………ああ」
「! しゃ、喋った!? あ、いやえっと……! あの……き、気にならないんですか? あ、あの時の事」
「別に……」
後のリアルハーレム神からおっかなびっくりに話しかけられても、内心テンパってしまって無愛想な返しであったり。
「えーっと、それでここが俺の家っす」
「……………」
何故か知らないけど、その少年に懐かれてしまったり。
「………………………」
「えーっと、リトのお友だち?」
「と、友達というか先輩というか……」
「なにそれ?」
何気に上手いこと潜入が成功したり。
「…………………………」
「あ、アナタは確かリトの同学年の先輩さん……。どうして……」
「…………。通り掛かったら、キミがチンピラに絡まれてたのを見た。
最初は無視するつもりだったけど………通り道の邪魔だったからってだけ」
その後、子供相手に大人げない真似をしていた大人を発見し、ついそのままぶちのめしてお助けしてしまったり……。
「あら、一誠のお友だち…………あらら?」
「うわぁ!? ご、ごめんなさい! わざとじゃないんです!」
やっぱりヴェネラナのママンにもやらかしたハーレム神。
「ブッ………殺すっ!!!」
それを見た一誠が、自分でも訳がわからないくらい殺意ゲージが振り切れそうになったり……。
「わざとじゃないのだから落ち着きなさい一誠。
まったく、お友だちを殺そうとしてどうする気ですか? というか……ふふ、そんなに私が大切ですか?」
「ちげーわババァ! は、離せコラっ! やめろ!!!」
「ああ、だから可愛いのよアナタは……♪」
そんな母が簡単に封殺してみせたり。
「あんなに喋る日之影さん見るの初めて……」
「というか本当に親子なのか? 若すぎるぞ……」
「リトは日之影さんのお母さんに感謝しなさいよ? 本気で日之影さんはキレてたんだから……」
「あ、ああ……」
死ぬ程次は気を付けようと心に誓ったり。
「……………。結城君、俺は何でロリコンだなんて言われてるんだ?」
「お、俺にもわかんないっす。
でも多分ですけど、最近美柑の買い物の荷物持ちとかをしてあげてたせいなのかと……」
「…………………………じゃあ金輪際やらね―――」
「ま、待ってください! そ、それだけは勘弁してください! アイツ最近口には出しませんけど、日之影先輩と夕飯の買い物をするのが本当に楽しみみたいで……」
「そんなもんは知らねーな。
あの子が何を思おうが、俺には何の関係のない話だ」
「そ、そこをなんとか! そこをなんとか!!」
と、思ったら最近ロリコン扱いされて切れそうになったり。
「…………………」
「イッセーさんってお料理が上手ですよね? 今度教えて欲しいなーって……」
(……………。バカか俺は。
何をやってるんだ一体)
けど子供にはやっぱり甘い部分もあったせいで、結局これだったり。
「えーっと、アナタ本当に女児趣味が……」
「…………………殺すぞマジで」
「冗談よ。
それにしても……ふふ、ヴェネラナさんの言った通り、中々可愛い所があるのねアナタって?」
「そこを動くな、一撃であの世に――ぷわ!?」
「ふむふむ、ヴェネラナさんの真似事をしてみたけど、これは中々悪くないわ」
「て、テメっ! クソアマ、離せ――うぷ!?」
「あ、これ結構癖になりそう」
変な母性に覚醒した保険医さんだったり。
「………………」
「い、家出? な、なんでですか?」
「小うるさいババァと小賢しい女が徒党を組みやがった……」
「それってイッセーさんのお母さんと御門って人ですか?」
「…………。そうだよ。
ちくしょう、ガキ扱いしやがって……」
「そ、それで家出。あ、いや全然居てくれても構わないですし……」
マジで家出して結城家に上がり込んだり。
「……? 暫く見ない内に住人が増えてないか?」
「ララさんの妹さんで双子なんです」
「……。飯とか作るの大変じゃないのか?」
「まあ、それなりに……」
「…………。手伝うよ、暫くは」
住人が増えてて色々と大変な子供を見てて忍びなかったので、叩き込まれて無駄に高い家事スキルでフォローしたり。
「日之影先輩って美柑となら普通に話せますよね?」
「どこかの誰かみたいにベタベタとかもしないからな。
しっかりしてるよキミの妹さんは……」
割りと手放しで褒めたり……。
「あの……一誠さんにあまり構いすぎるのはよくないと思います。
一誠さんも男の人ですし……」
「………………」
「勿論反省はしますが……何で一誠はアナタの背中に隠れてるのでしょうか?」
「シュールだわ……」
「警戒してるからですよ。
聞いてる限りだとオモチャにされてるみたいですし」
「…………」
結果、小学生女子にめっちゃ守られる情けない執事だったり。
まあ、そんな日々だった。
永久終了
補足
ちまちまやってるあのシリーズとは違って、関わる対象が基本違う。
それだけ。
続かないよ