色々なIF集   作:超人類DX

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これも没にしたもの。

だって……むずいんだもん色々と


コミュ障執事とぼっち少女と遅れて魔王少女

 何物にも干渉されぬ領域へと進む為には、どうしても乗り越えなければならない壁がある。

 

 肉親をも信じる事を辞めた少年にとって、その壁となる者は人で無く魔の者であり、その王となる青年であった。

 

 幼少期から現在に至るまで、追い込むことは出来ても勝利することは一度も出来ていない。

 

 その都度鍛練を積み重ね、強くなっても魔王は常に少年の一歩先へと立っていて、結局は負けてしまう。

 

 

 それは今日の決闘でも同じ事であり、既に数多の魔の者達よりも人でありながら越えている少年が持てる全てを尽くして追い込んでも、後一歩の所で逆転されてしまい、新たな敗北の記憶を植え付けられてしまう。

 

 

(また……また負けた……)

 

 

 勝てない。

 どうしても勝てない。

 

 この男を越えさえすれば、こんな場所から去れるし、こんな使用人の格好も辞められるし、鬱陶しい奴等からの干渉もされなくなる。

 

 だけど勝てない。

 どれだけ鍛練をしても、赤き人外の魔王は更にその上に何時だって立っている。

 

 

「な、なんとか笑って誤魔化してるけど、イッセーに殴られ過ぎて口の中もズタズタだよ。

暫く辛い物は食べられないかな……くっ……」

 

「クソが……」

 

 

 地に伏せる自分を見下ろして微笑む魔王と視線を交差させながら、コンプレックスを更に肥大化させる人の子である少年は、沸き上がる無限の悔しさを胸にその意識を手離した……。

 

 

 

 

 

 

 魔王・サーゼクス―――別名・人外の半身に負けて意識を手放すと、決まってイッセーと呼ばれる少年は見たくはない夢を観る。

 

 その夢は、どこかの学校の教室で、その教室のど真ん中にある席で、着たことなんて無い学生服を着た姿で座っていて……。

 

 

「265戦264敗1分……今日までのサーゼクス君相手の戦績に敗北がまたカウントされた訳だけど、負ける原因はそろそろ解ってきたかな?」

 

「……………」

 

 

 視線の先には教壇の上に腰掛け、薄い笑みを浮かべながらこちらを眺めている少女。

 敗北を味わえば必ずといっていいほど見てしまう、少年にとってはとても嫌な夢。

 

 サーゼクスの半身と名乗る平等なだけの人外・安心院なじみとの会話がイッセー少年はとても嫌だった。

 

 見透かされているようで……。

 

 

「進化が足りなかった…それ以外にない」

 

「足りないからと補い続けて一度でも勝てた試しは無いだろう? お前の本質は『隣人との繋がり』を受け入れる事だ。

そうすれば今までのが子供の遊びに思える程にその成長の速度は劇的に――」

 

「俺に誰かと仲良しこよしごっこをしろと? ふざけるな、死んでもアンタのそのアドバイスだけは聞けねぇ……」

 

「………。ま、だろうな。

過去が過去なだけあって、多少サーゼクス君達のお陰でマシになってきてるとはいえ、その強い他人への不信感がお前の進化を停滞させちゃってるんだからね」

 

「アンタの指図だろうが受けねぇ。俺のやり方でサーゼクスもアンタもぶちのめす」

 

 

 だからかなりイッセーは、安心院なじみに反抗的だ。

 というか、基本的にこのイッセーは誰に対しても反抗的か、受け答えしないかのどっちかでしかない。

 それは強い他人に対する不信感を拗らせた結果、極度のコミュ障になったからであり、更に言えばそんな彼にサーゼクスの家族達がこれでもかと構い倒そうとするものだから、余計反発してしまっている。

 

 それ故に、どうしても誰かの指図ではないやり方で強くなる事に拘ってしまっており、それが彼の進化を停滞させている大きな理由だった。

 

 

「とっとと戻せや」

 

「やーれやれ、とことん拗らせちゃって……困った子だ」

 

 

 ヤサグレたヤンキーみたいに、机に両足を乗せて鼻を鳴らす燕尾服の姿の少年に安心院なじみは小さくため息を吐きつつ小さく呟く。

 

 

「今の環境に慣れすぎて、軽く甘えが出てるみたいだし、荒療治になるかもしれないが、少しは解らせる必要があるな……」

 

「あ?」

 

 

 そう、思いの外サーゼクスの家族達がイッセーに対してほぼ肉親と変わらぬ愛情を注ぎすぎてしまっていて、それを軽く当たり前だと――指摘したら本気で否定してくるだろうから敢えては言わないが、無意識に甘えが出てると分析した安心院なじみは、繋がりによる進化を体験させようと荒療治をする事を決意する。

 

 

「そこまで言うなら、お前一人でどこまで強くなれるのか見せて貰おうじゃないか。

文字通り、キミが大切にしてるヴェネラナちゃんとかセラフォルーちゃん達が居ない環境でな」

 

「………………は?」

 

 

 そう、ベタベタし過ぎだから一旦引き剥がしてみてしまえ。

 『押して駄目なら退いてみろ作戦』を実行する事をポカンとした顔をしてるイッセーに向かって宣言した安心院なじみは、手を二回程叩く。

 

 するとイッセーの身体が見えない何かに押さえ付けられたかの如く硬直し、動けなくなる。

 

 

「!? て、テメェ……何のつもり――」

 

 

 勿論抗議しようとするが、安心院なじみは妙にニッコリと微笑みながら言う。

 

 

「だから言っただろ? 荒療治をお前に施すって。

常日頃からヴェネラナちゃんやらセラフォルーちゃんやら達からベタベタされるのを嫌がってた様子だったしさ、文字通りその子達が干渉も出来ない全く別の世界で暫く大好きなトレーニングでもしてみれば良いんじゃないか――という僕からのサプライズプレゼントだぜ」

 

「べ、別だと……? 何を言って――」

 

「良かったな? 小うるさいババァと呼ぶ者からも、会う度に外へと連れ出そうとしてくるコスプレ好きの子からも、お姉さんぶりたい女の子二人からも、お前を兄様と呼んで懐く子からの誰も存在しない世界でのんびり暮らせるしトレーニングとやらにも没頭できるぜ? もっと喜べよ?」

 

「な……!」

 

「ふふ、まあもっとも、ただ放り込むだけじゃあキミも『気づかない』だろうから、ちょっとした試練を僕が与えるよ。

ま、詳しくは向こうに着いて状況を知った時にでも僕がお前に持たせた携帯にメールで説明してやるから―――――精々強くなって僕やサーゼクス君を脅かしてみな?」

 

 

 と、ニコニコと半分程嫌味と皮肉を込めた言葉を送ったと同時にイッセーの姿が消える。

 

 

「お前は悲しいことに一人でどうしても強くはなれない星の下に生まれたんだ。

本当に化けたいのなら、それに気づいて受け入れる事だよ……」

 

 

 そしてそこに残った安心院なじみは、この世から送り出したイッセーに向かって独り呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間(トキ)はきっと、あまりにも寂しすぎたせいで自暴自棄になっていたのかもしれない。 

 

 あまりにも友達が出来なさすぎて、物言わぬただの観賞用植物たるサボテンに名前までつけてエア会話をしたり、あまりにも友達が出来なさすぎてネガティブ思考がデフォルト化したり、あまりにも友達が出来なさすぎて遂に――

 

 

「これで間違いない……はずだよね?」

 

 

 偶々読んだ本に書いてあった悪魔召喚の儀式を利用し、呼び出した悪魔に友達になって貰おうと本当に実行してしまったり。

 

 

 つまるところ、この少女は友人という繋がりに餓え、非常に求めているが、それが無いまま今日までを迎えてしまったが故に、自棄っぱちになってしまったのだ。 

 

 

(お願い……! お友だちになってくれそうな優しい悪魔さんであるように……!)

 

 

 

 悪魔に優しさを求めてる時点で既に色々と破綻してる計画なことにも気づいてないレベルで自棄になってしまっていた少女は、儀式によって今まさに召喚されるだろう悪魔が理想の友人になれることを願っていた。

 

 普通なら正気を疑うが、それほどに少女は友達を欲していたのである。

 

 そして儀式によって描いた魔方陣に現れたのは……。

 

 

「え……?」

 

「………………」

 

 無駄を削ぎ落とした礼服を身に纏う深い茶髪の―――とても目付きが悪い青年であり。

 

 

「……………………………」

 

(も、もしかして怒ってる……?)

 

 

 どう見てもイライラしてるオーラを放つ――友達になるならないを頼む以前の様子で辺りをキョロキョロを見渡し……。

 

 

「ぅ……」

 

「…………………」

 

 

 鋭いその目が一瞬で萎縮した少女を捉えた。

 

 

(ぜ、絶対に怒ってる。召喚されて絶対に怒ってる……!)

 

 

 その目付きのあまりの悪さというか、軽い殺気も感じた少女は一気にネガティブ思考に切り替わった。

 

 

(そ、そうだ……。

悪魔召喚をするのはこっちの勝手だし、された方からしてみたらいきなりだし、そもそも私みたいなのとお友だちになんてなってくれる筈もなかった……。

ふふ……私って馬鹿……)

 

 

 まるでどこぞの魔女化した魔法少女みたいな事を内心思う少女の思考はどんどんネガティブになっている。

 

 

(あのアマ……。マジでやりやがったのか? 何処かもわからねぇし、この女は何だ? 魔女の類……なのか?)

 

 

 そして意識を取り戻したと思ったら傷も無く、サーゼクスと決闘をした冥界ではなく、全く見知らぬ場所で、目の前には以前、『兵藤一誠』の側になって自分を消そうとし、返り討ちと同時に絶滅させてやった魔女だか魔導師組織の連中の中に居た気がする小娘に近い格好をしている少女がひとり。

 

 足下をふと見れば、何かの転移用の魔方陣の中心に立っているらしく、そこから推測するに、この女が何かを呼び出したタイミングと、安心院なじみが自分を放り込んだタイミングが合わさった結果なのだろうと、イッセーなりに推測する。

 

 

(何のつもりだか知らねぇが、こんな訳のわからん奴に合わせてやる理由はねぇ。

とにかく此処が一体どこなのかを調べる為に一旦見晴らしの良い場所に……)

 

 

 さっきから俯いてブツブツと独り言を言ってる少女の事は欠片も気にならないイッセーは、とにもかくにも情報を集めなければと、少女を無視してこの場を離れようとする。

 

 しかし……。

 

 

「!?」

 

「わわっ!?」

 

 

 現在の場所は周囲が木々に覆われていて、恐らくは森の中――だと思われる。

 そんな森の中で、しかも空を確認すれば星やら月やらが輝いてるので夜の時間帯に一人召喚的な儀式をしてる理由がさっぱり過ぎて、素面であろうが関わりたくは無い――と名も知らなければ会話すらまだしてない少女に対して思ったイッセーは一刻も早く離れようと確かに少女の立つ場所の反対側に向かって歩こうとした。

 

 だが何故か一歩目までは良いが、二歩目が踏み出せない。

 

 

(なん……だ!? 歩こうとすると身体が鉛の様に重くなって……!)

 

 

 見えない壁に阻まれてるかの如く前へと進めない。

 しかしそれでも無理矢理進もうとすると……

 

 

「あ、あれ? 足が勝手に……」

 

「…………」

 

 

 

 少女が自分で困惑しながらイッセーと同じ方向に歩く。

 無理矢理イッセーが一歩歩けば少女も一歩。

 

 まるで見えない何かで無理矢理繋がれているかの様に……。

 

 

『いーちゃん! 早くメールを見ないとチューしちゃうゾ☆』

 

「!?」

 

「え……な、なに? どこからか声が……」

 

 

 訳が解らないし、どうも少女のリアクションを察するに、少女自身も解ってない様だと理解した矢先、ポケットから謎過ぎる着ボイスが最大音量で森の中を響かせる。

 

 そのボイスの主は、イッセーにとって馴染みのある者であり、最近よくイッセーの携帯を拝借しては『いーちゃんにのみ限定』らしい自撮りの写真だとか、目覚ましアラーム専用ボイスだとかを吹き込んでくる――眷属を持たぬ女魔王であった。

 

 また勝手にボイスを吹き込んで着信に設定しやがったと、目の前の見ず知らずの少女に聞かれた意味でも恥ずかしくなったイッセーは咄嗟に携帯を取り出して中身を確認する。

 

 

『迷える子羊君ことイッセーへ。

キミがこのメールを読んでいる頃には、僕はもうこの世には居ない――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――なんて事はある筈も無いし、そもそもこの世に居ないのはお前なんだけどな?』

 

 

 

「……………………………………」

 

 

 

 例の女というネームで携帯メモリーに嫌々登録していた安心院なじみからのメール内容に、イッセーは脊髄反射的に携帯を握りつぶしたくなったが、グッと堪えて続きを読む。

 

 

『多分今お前は見覚えなんて無い草原か森の中に居るだろう? そしてすぐ近くには全く見知らぬ誰かが居る。

これが正解だったら元気よく手を挙げなさい』

 

 

 10メートル程離れた箇所では、名も知らぬ少女が何故か不思議そうな――見たこと無いような物でも見るような眼差しでイッセーの携帯をチラチラ見てくるが、その視線にイッセーは既に吐きそうになりながらも、今は安心院なじみの言うことを聞かなければ、どうしたら良いのかもわからないので、メールに書かれた通り、無駄に素早く手を挙げながら画面を下へとスクロールして――

 

 

『うん、手を挙げても意味無いから別にあげなくてもいいけどね?』

 

「……………………………………………………………」

 

 

 無駄にむかつく顔文字…………『(^ー゜)ノ』……こんな感じの顔文字付きの文を読み、イッセーは持ってた携帯を地面に叩きつけたくなった。

 

 

『あ、もしかして今僕の文面見て携帯を壊したくなったかな? 別に壊しても良いけど、それだと今後は安心院なじみちゃんからのサービスメールが受け取れなくなるぜ? お前だってここがどこだかくらいは知りたいだろう?』

 

(………。戻ったらケツにタイキックしてやるぞこの年齢不詳ミイラ女が……!)

 

 

 何とかキレそうな線を繋いで携帯を壊したくなる衝動を抑えるイッセーは、戻った暁には安心院なじみに人間界の年越しにやってるバラエティ番組の恒例罰ゲームキックを尻にしてやると固く決意するが……。

 

 

『さて、ジョークはここまでにして早速の最初のサービスだ。

まず今お前が居る場所はお前がよーく知る世界とはまるで異なる世界だ』

 

「………………………」

 

『つまりお前の夢の中で言った通り、そこにはヴェネラナちゃんやセラフォルーちゃん――といった、お前が内弁慶になれる相手が一切誰も存在していない』

 

「………………………………………」

 

 

 教えられるものはイッセーを徐々に寒気を感じさせる現実へと戻していく。

 

 

『誰の手も借りずに強くなる、そう言ったのはお前だ。

だから僕はそのお膳立てをしたやったのさ。

良かったな? お前を知らない、お前にベタベタしない、お前に構わない、お前の事なんて誰も興味のない世界で存分にトレーニングできるんだぜ?』

 

「………………………………………」

 

 

 シトリーとグレモリーの紋章が合わさった紋章が金の糸で胸元に刺繍されている燕尾服を着たイッセーは、その文を前にしばし呆然となった。

 最大の壁であるサーゼクスの家族である悪魔達が存在しない世界に放り込まれた事を。

 

 

『とはいえ、流石にそれじゃああんまりだし、お前の事だからその世界で出会す他人と碌にコミュニケーションも取れないだろうから、僕がひとつだけ試練を与えてあげる。

まずお前がこの世界で最初に出会した者……多分すぐ傍に居て、今頃『違和感』を感じてるだろうその者を―――引き上げてみな』

 

「………………………………………なん、だと」

 

 

 喚いた所で今はどうにでもならないのは何となくわかったので、メールを最後まで読む事にしたイッセーだけど、安心院なじみから与えられた課題が最初からNIGHTMAREモードよろしくの難易度で、また吐きそうになった。

 

 

「ずっと小さいアイテムのようなものを見ながら固まってるけど一体……。

やっぱり私が呼び出したのが気に入らなかったのかな……? きっとそうだ……絶対に怒ってる……」

 

(こ、これを俺が引き上げるだと……?)

 

 

 頭抱えながらブツブツ言ってる女一人を引き上る(シンカ)させるという無茶振りに、イッセーの顔はこれでもかとひきつった。

 

 

『もし成功したら――きっとその頃にはお前も多少は気づくと思うぜ?』

 

(冗談じゃねぇ。こんな知りもしねぇ奴に何で俺が! やる訳が――)

 

『ああ、やる訳が無いだろとかお前は僕のメールを読みながら思ってるだろうから、手は打たせて貰ってるぜ?』

 

(クソがっ!!!)

 

 

 逃げる事を決意したイッセーだが、見透かされてるかの如くその意思は封殺された。

 

 

『恐らくは既に気付いてると思うけど、そっちの世界においてお前が誰かと最初に出会した瞬間に僕の仕込みは完了する。

それは、お前とその者との間に見えない繋がりを形成する僕のスキルによって――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――お前とその者は半径10メートル以上離れられないんだぜ☆』

 

「ファッキュー! ぶち殺すぞ平等主義者ァ!!!!」

 

「ひぇ!?」

 

 

 そして、人外のほくそ笑む顔が目に浮かんだ瞬間、それまでまだ冷静だったイッセーはこれでもかといった怒声を張り上げたのだった。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……!」

 

「こ、殺すって言った。わ、私のこと? 勝手に召喚したから怒って私を殺すのかな……? あ、あははは……私ってホント馬鹿……」

 

 

 誰の手も借りずに強くなると言い過ぎたせいで本当に誰も知らない世界に飛ばされ、そこの原住民と無理矢理繋げられてしまったコミュ障青年の明日は一体……。

 

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! わ、私はただお友だちが欲しくて、悪魔でも良いって思って魔が刺しただけなんですぅ!」

 

「……………………………………」

 

 

 多分前途多難であるのは間違いない。

 何せ、話すのだけでも多大なる困難が生じるのだから。

 

 

「ええっ!? わ、私がやった儀式のせいで私から一定の距離以上離れられない呪いが掛かったのですか!?」

 

「…………………」

 

「そ、そんな……。ど、どうしたら……お、お風呂の時とか……」

 

「……………………………」

 

「あ、い、いえ! わ、私が悪いですし、こうなった以上は責任を取らないといけませんよね?

で、でも親にはなんて言えば良いのか………」

 

「……………………………」

 

 

 何度も胃に穴を開けて何とか自分とこの少女の間に起こってしまった事を伝える執事。

 

 

「……………………………」

 

「ほんとうにごめんなさい……」

 

 

 10メートル以上離れられないので、仕方なく少女の家に行ったら親に怒られてしまったり……。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 元々どっちもネガティブ思考のせいか、今の状況のどうしようも無さのせいで余計ネガティブになり、揃って部屋にとじ込もって体育座りする日々になったり。

 

 

「閉じ籠ってたら家を追い出されちゃいましたね……」

 

「………………………」

 

 

 結果、少女が男を連れ込む不良になってしまったと勘違いした両親達に家を叩き出されてしまったり……。

 

 

「どこか大きい街に行きましょう。

そこでアイテムを売ってお金に変えれば暫くは大丈夫だと思いますし……」

 

「…………………………」

 

 

 鍛練どころではなくなってる状況に少女以上にネガティブコミュ障になっていったり。

 

 

「冒険者としてギルドに登録してクエストを行えば、それに見合った報酬で生活ができる筈です……。

他の方々とのパーティは組めないでしょうけど……」

 

「…………………」

 

 

 友達を不必要と考えるコミュ障と、友などの繋がりに餓えてるコミュ障。

 正反対のコミュ障同士の珍道は続いていく。

 

 

「や、やりました! 魔力の適正が高くていきなりアークウィザードでした……!」

 

「…………………」

 

「えーっと、イッセーさんは……な、無し?」

 

「………………………………………」

 

「お、おかしいですね? だってこの街にくる前に襲ってきた巨大な竜を一人で倒したのに………」

 

「……………………………………………」

 

「ま、まあ考えても仕方ありませんよね! とにかく頑張りましょう!」

 

「………………………………………………………」

 

 

 一応互いの名前だけは教え合ったが、会話が殆ど成り立たない二人だけのコミュ障パーティ。

 

 

「……………」

 

(あ、あれ? よくよく考えてみると、家を叩き出されたとはいえ、こうして一緒にクエストして一緒にご飯を食べてるって事は、もしかしてお友だちに……?)

 

「………………?」

 

(なんて……イッセーさんからしたら勝手に呼び出された挙げ句、離れられない呪いまで掛けられてるんだし、その元凶の私の事なんて嫌いだよね……うぅ)

 

(この……年下だったのに驚いた女はあの平等主義者に巻き込まれて両親に家を叩き出された……。

クソ、他人とはいえ俺のせいだし……なんとかしねぇと)

 

「「…………」」

 

 

 互いが互いに罪悪感を感じてるなんともいえないコンビ。

 

 

「うっ!? あ、あの後ろ姿ってもしかして……」

 

「?」

 

「あ、あのイッセーさん、一緒に隠れて貰えませんか? ほ、ほらあそこにめぐみんが……」

 

「……………………………………。(ああ、食い物をたかってきたガキか。苦手なんだな)」

 

 

 だから徐々にイッセーは少女の行動に合わせてあげていた。

 

 例えば、少女の故郷に滞在させられていた際、割りと裕福だった少女に何度か飯をたかってきた同族の、ド貧乏な家のチビッ子から隠れるのに付き合ってあげたり。

 

 

「あ、ゆんゆんと……ある日突然ゆんゆんにひっついてる変態さん!」

 

「……………………………………………」

 

「ち、違うって言ってるでしょう!? この人は私のせいで――」

 

「えー? でもゆんゆんがお風呂入ってる所もずっとひっついてるって話だったじゃないですかー?」

 

「マジでか? ガチのロリコンなのか……」

 

「けしからん奴だな」

 

「あの、あんまり近づかないでくださる?」

 

 

 その内出くわしてしまい、少女から飯をたかってためぐみんと呼ばれる少女から完全に誤解された認識をされていてキレそう――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………殺せよ、もう良いよ。死ねって事なんだろ? 殺せよ!!!」

 

『!?』

 

「い、イッセーさん!?」

 

 

 めぐみんの言動のせいで、彼女の仲間と思われる者達から犯罪者でも見るような目をされ、極限までに達したストレスがこのタイミングで爆発してしまったり。

 

 

「………………」

 

「めぐみん達は追い払いましたよ。

もうイッセーさんにあんな事を言う人も居ませんから……」

 

 

 爆発し、セラフォルー、ソーナ、リアスと同質の魔力を手当たり次第撒き散らして軽い災害ゾーンを作り上げてしまったイッセーがポツンとクレーターのど真ん中で体育座りして凹んでいるのを少女……ゆんゆんは初めてイッセーの感情が見れた気がしたとちょっと嬉しく思いながらなんとか慰める。

 

 

「もしもまた言われる事があったとしても、今度は私がちゃんと言います。

だから……」

 

「違う、そうじゃない。

キミと俺が一定距離以上は離れられないのは、キミのせいじゃなくて俺のせいだ……」

 

「え、それって……あ、あれ? 今普通に喋って……」

 

「さっきのあのチビのお陰で若干吹っ切れた。

フッ、ロリコンね……ははははは! はぁ……」

 

 

 皮肉にも、一回暴れたお陰で吹っ切れた執事は全てをゆんゆんにうち明ける。

 

 

「い、イッセーさんは異世界から来て、それで、その女の人のせいで私から離れられなくなった……って」

 

「正確にはこの世界に飛ばされて最初に目が合った生物とだ。

その時点では俺も解らなかった……だから俺のせいなんだよ」

 

 

 余程罪悪感を持ってたのか、殆ど目を合わせずに打ち明けるイッセーにゆんゆんは……。

 

 

(そうだったんだ……。でも……)

 

 

 あの出会いからこの時まで半年の間を思い返す。

 離れられず、風呂の問題で大騒ぎになったり。

 

 両親にただ黙って怒られたり。

 

 叩き出される寸前まで一緒に部屋に閉じ籠ってたり。

 

 冒険者となって会話こそほぼ交わさなかったけど、ちゃんと一緒にクエストしてくれたり。

 

 やっぱり会話は無いけど一緒にご飯を食べたり……。

 

 なによりも、この街に訪れる道中襲ってきた巨大な竜を不思議な感覚のする魔力や力強い体術で蹴散らした時のあの背中が忘れられない。

 

 

「私は……今の生活が楽しいって思ってます。

だから謝らないでください」

 

 

 その告白に、どんな時でも裏切らない繋がりを欲していた少女は初めてイッセーを知れた気がした。

 だからこそ……嬉しかった。

 

 そしてこの日から少しずつ、変わっていく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー? ふーん? そーなんだー? いーちゃんったらこんな所で遊んでたんだー? しかも女の子と?」

 

「げっ!? せ、セラフォルー!? お、お前何でっ……!?」

 

「安心院さんだっけ? その人から聞いたんだよねー? いーちゃんがパワーアップの修行をするから暫く帰らないって話を。

でもさー、いーちゃん居ないと寂しいから、安心院さんって人に頼み込んでこうして来ちゃったんだ。

そしたら……いーちゃんが知らない子と楽しそうにしてるからさー?」

 

 

 のかは知らない。

 

 

「ゆんゆんちゃんかぁ―……へー? ふーん? こういう子もタイプなんだね?」

 

「ちげーよ馬鹿! つーか帰れや!」

 

「嫌! いーちゃんの内面を知ったらその子がどうなるかくらいわかるもん! だから帰らない! それにいーちゃんと離れられないスキルで繋がってるってなにさ!? 私にして欲しいんだけど!?」

 

「知るかボケ! 一番割りを食わされてるのはこの子なんだぞ!」

 

「でもお陰でいーちゃんとお風呂まで入れるんでしょ!?」

 

「入るわけねーだろ! 目隠しするわ当然!」

 

「あ、あの、イッセーさん、その方は一体……」

 

「え、あ、ああ……この女は――」

 

「はーい☆ よくぞ聞いてくれたねっ! 私は魔王少女レヴィアたんだぜ☆ いーちゃんとはちゅーした関係でーっす☆」

 

「むが!? や、やめろ馬鹿! い、息できね……!」

 

「ちゅ、ちゅーって……」

 

「ふっふっふっ、巻き込まれて暫くいーちゃんと行動してるみたいだけど、おねーさんが来たからにはもう安心だぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんですかあの凄く格好いいカッコをした女性は!?」

 

「例のロリコンにめっちゃ抱きついてるし、ロリコン男は目が死んでるし……」

 

「………この気配……まさかあの女……!?」

 

 

 ただ、これのせいで一気に色物パーティ扱いされるのは間違いない。

 

 

「あの、セラフォルーさんが例の魔王少女という形で街の住人の人気者になってしまってますが……」

 

「放っておけ……昔からああなんだよあの女は」

 

 

終わり




補足

解除条件。

ゆんゆんと本当のお友だちになるのと、引き上げること。


その2
しかし、コミュ障で喋らなすぎて周りからはただゆんゆんにひっついてる変質者扱い。

燕尾服でキメててもコミュ障だと台無しなのだ。


その3
ロリコン言われてストレス爆破した結果、軽く吹っ切れたという皮肉。

まあ、まだスタートラインにすら立ててないけど。


その4
魔王少女推参。

何気に安心院さんとポーカーゲームやって勝利したから来れたという偉業を達成。

そして暫く会ってなかったから露骨に嫉妬するし、露骨にベタベタするし、露骨に『いーちゃん専用の魔王少女』とか触れ回るしで暴走気味。

若干14歳のゆんゆんにも嫉妬中。

そしてこの世界は悪魔に厳しい世界だけども、執事イッセーと並走可能な領域なので平気だし、そもそも彼女は執事イッセーにむちゅーできればそれで良いので、滅ぼうが知ったこっちゃないらしい。


悪魔らしいよね……

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