色々なIF集   作:超人類DX

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前回の続き。

重いソーたんは既に魔王少女化してる件


生徒会長と風紀委員長

 これでも俺、昔は結構ヤンチャしてたんだぜ?

 

 

 ……………って、飲み会の席で後輩か何かにイキる奴みたいじゃないけど、どう考えても風紀委員長なんかやるタイプではない事なのは間違いない。

 

 それが何でこうなってしまったのかというと、まだ中学生――正味、完全に黒歴史でしかない中学時代に偶々先々代の風紀委員長に目を付けられ、まだ中学生なのに見習い兼パシりで駒王学園の風紀委員会に入れられて進路も自動的に決定してしまい、入学と同時に逃げる間も無く先代の委員長に拉致同然に連れ去られて腕章と風紀委員専用の制服を着せられ、引き続きパシりにされて………気付いたら繰り上がりで委員長されてましてとさ。

 

 しかも俺と同学年の連中の誰一人が風紀委員に入らない――というか厳密に言うと先々代から始まった試験に落ちてしまったせいで入れず、結果中学時代に知らずに合格してしまった俺だけが残ってしまったという孤独感溢れる状況となって。

 

 で、一人なら一人で喚いた所でどうにもならないし、今年は試験どころか新入生の嘆願者すら現れなかったので結局誰もパシりには出来ないのは若干悔しいけど、問題はパシりの確保以上に色々と深刻だったりする。

 

 まずひとつ。

 この駒王学園は俺が入学した代から共学化した元は女子高であること。

 なので圧倒的に女子の比率が未だに高い学校である―――――のは、まあ男である身としては歓迎すべき所でかるのでそこは問題ない。

 

 一番の問題は、駒王学園の風紀委員会は在校生達にとって『絶対的な恐怖政治を敷く独裁レベルの集団』と認識されている事。

 その悪名は周辺地域の中学校――いや、駒王町全体に浸透してしまっていおり、名前を出しただけで男だろうが喧嘩自慢のチンピラ共ですらをも黙らせられるくらいの戦闘集団であったのだ。

 

 先々代と先代が取り仕切っていた風紀委員会は在籍する者達が女子のみにも拘わらず、全員の戦闘能力が女子ではないレベルだった。

 

 だからこそその戦闘力による恐怖政治が罷り通っていて、去年までの学園は誰も問題行動等の騒ぎは起こさなかったし、柄の悪い他の男子校辺りの抑止力にもなっていた。

 

 その恐怖政治を継いだ今、俺もそういう方針で――あんまり気は進まないものの、せめて次の代に継承させるまでは維持できたらなぁ……と、思っていたし、実際問題去年までの恐怖の代名詞が残っていれば大丈夫だろうとか楽観視をしていた。

 

 けど、けれど――それは大きな間違いだと気付かされたのは、とある理由でただの……ちょっと喧嘩慣れだけしてる普通(ノーマル)になってしまった状態で代を受け継ぎ、先代達が卒業した後に思い知らされた。

 

 

「スカートの丈が短いって言うけど、普通でしょう!? アンタ、そうやって理由つけて丈を測るフリをして中を覗こうとしてるわね!?」

 

「というか、卒業していった前の風紀委員長に馬にされてた変態男に触られたくもないわ!」

 

「そーよそーよ!」

 

『かーえれ! 変態かーれえ!!』

 

「…………………………………」

 

 

 心折れるわこんなもん!

 

 なんだよ! 先代の委員と委員長で合法ロリ的な冥ちゃん先輩が居なくなった途端、あからさまに一気に制服を着崩したり、無駄に化粧品持ち込んだりとやりたい放題してるから普通に取り締まるつもりが、変態扱いされて大ブーイングってなんだよ!?

 

 そりゃ確かにあの合法ロリには散々移動の足代わりにおんぶしてたさ!? けど馬になった覚えなんてねーし、第一去年まで俺は普通に――自分でも信じられないくらいまともな生徒やってたろーが! それが何で変態扱いされにゃいかんのだ!

 

 

「……。騒いでも学校に不必要な私物を持ち込んだり、規定を破った制服の着用をしているのは事実ですので、まずその私物をここに置いて、こちらにある用紙に反省文を――」

 

「そんな暇も無いわ」

 

「そもそもアンタなんかに指図されるのが嫌」

 

「これだって不必要じゃないし、女子には必要なものだし」

 

 

 下手に出て風紀のお仕事をしようとするが、用意していた軽い反省文用の紙を叩き落とされ、没収すべき私物も渡す気が無いと、さっさと行ってしまった。

 それは他の――明らかに怖い先代達が居なくなって清々したといった多くの者達も同様に、俺を馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべながら前を堂々と通る。

 

 

「………………………………」

 

 

 先々代や先代の口癖ではないけど、俺はこの時この連中を噛み殺してやりたいだとか、迅速に殺戮してやりたいと本気で思いながら……ちょっと泣きそうになるのを必死に堪えるために拳を強く握って震えた。

 

 

「女って……女なんて……」

 

 

 そして俺の代になってから思った。

 同年代や年下の女はマジで嫌いだと……。

 おっぱいが大きいとかもう何かどうでも良くなってきたわ……あはははは。

 

 

「あれぇ? なんだろ目の前が滲むぞー……? ぐすっ、うぐぐ……!」

 

 

 誰も言うことを聞いちゃくれない。

 反省文用の紙を置いておいた机をわざとらしく倒され、紙がそこかしこに散らばるのを片付けながら、勝手に出てきた涙を隠して拾い集める。

 

 

「これが全盛期だったら、マジで全員半殺しにしてやれたのに……ぐすっ」

 

 

 無力ってホントどうしようもないと今更ながらに思う。

 それと同時に、力があった時ってどうしようもなくチョーシこいてたんだなぁ……とも。

 

 そんな折れそうな気持ちのまま、それでも風紀委員長をやっていたのだけど、今度は……。

 

 

「あー、兵藤君。

君が使ってる風紀委員室なのだけど、現状キミ一人が使うには些か広いのではないかね?」

 

「……。元の応接室として返還しろと?」

 

「そうは言ってない。

だが、わかるだろう? 先代の雲仙さんや雲雀さんと違ってキミはまともだろう? まともなキミなら常識的に考えて、単なるイチ委員会が応接室を使用するのはよくないと……なぁ?」

 

「…………………わかりました」

 

 

 委員室すら消えてなくなった。

 いやまあ、言わんとしていることは解るから仕方ないとは思うけど……。

 

 

「では新しい委員室は?」

 

「……………。キミ一人なら無い方がいいんじゃないかね?」

 

「……………………………」

 

 

 委員室まで消え、完全に風紀委員会は名だけの存在に成り下がりました。

 

 

「……………………………………………………………………」

 

 

 拠点すら無くして、宙ぶらりん状態になってしまった風紀委員会は機能しなくなり、俺はこれからどうすべきなのかを考える為に、部活をやってる者達が居る校庭を花壇の隣にある縁石に腰掛けながらぼんやりと考える。

 

 

「見て、アイツ風紀委員会よ?」

 

「横暴だった先代達までは我慢していたけど、アイツ一人になった今、我慢する必要はなくなったわよねー?」

 

「そうそう、アレだけなら従う必要もないし」

 

「委員会室に使ってた応接室も追い出されたみたいよ?」

 

「ホントに良い気味ね。

これで学園の二大お姉様達のご登場がよく見られるし、風紀委員より生徒会の人達の方が良いもん」

 

「…………………」

 

 

 虫けらでも見るような目をしながら通り掛かる誰からにもボロクソに言われてしまう。

 思うに、前世ってもんがあるとするなら、俺ってその前世ではクソ程の極悪人だったんだろうなぁ……。

 

 あははは……あははははは……。

 

 

 

 

 

 

 

 歴代駒王学園の生徒会と風紀委員会は長年互いに不仲というのが伝統である。

 しかしその風紀委員会が本日から委員室を撤廃し、現委員長の引退と同時に委員自体を廃止する――というのを聞かされた現生徒会長である支取蒼那―――本名ソーナ・シトリーは、聞いたその瞬間に生徒会室を……他の役員達が驚くのも無視して飛び出した。

 

 確かに新たに委員長となった彼の代になった途端……厳密に言えば先代が卒業によって学園を去った時から、一気にそれまで押さえ付けられていた者達が校則違反をするようになった。

 

 それを彼が取り締まろうとしても、彼一人だけというせいか誰も聞く耳を持たなかったのも。

 しかしそういった馬鹿は後でソーナ個人が裏で消してやるつもりだったので今は放置していた―――のが間違いだったとソーナは全力で校舎を駆け回り………。

 

 

「…………………………………………………………………………………」

 

 

 普段殆ど人の寄り付かない校舎裏の小さい倉庫の扉の前を背にして腰かけ、死んだ目をしながら夕焼けの空を見上げていた風紀委員長(おんじん)が居た。

 

 

「イッセーくん……!」

 

 

 ソーナ・シトリーとしては、彼とは去年から知り合った。

 日は浅いかもしれないが、それでも彼との関わった時間の中身は濃いものであり、今のソーナ・シトリーが在るのは彼の『犠牲』のおかげである。

 

 そう思っているからこそ、どうであれ下手をすれば自分自身を完全に失う覚悟で先を生きる自由なる未来を与えてくれた。

 

 だからソーナは彼の犠牲による恩に報いる為に、何より自分がそうでありたいからこそ、彼の親友を自称した。

 その親友が『あの時以上』に魂の抜けた表情で座ったままピクリとも動かない。

 

 ソーナは大慌てで彼――イッセーに駆け寄った。

 

 

「イッセーくんってば!」

 

「…………? ああ、センパイか。

どうしたんですか? 結構余裕とか無いんで絡むのとか勘弁してもらえませんかね……」

 

「そんなつもりでアナタを探した訳じゃないわ。

その……風紀委員会が実質解体されたって聞いて」

 

「……………。生徒会長だしそりゃすぐに聞かされますわな。

ええ、その通りっすよ。やっぱりというか、風紀委員会は相当恨まれてたみたいですし、仕方ないとは思ってます……あはは」

 

 

 自嘲した様に渇いた声で笑うイッセーは見るからに無理をして笑っているとソーナには感じた。

 

 

「取り敢えずこんな場所に居たら風邪をひいちゃうわ、一緒に来て?」

 

「……………。全盛期だったら素っ裸で南極に放り込まれても風邪なんてひかなかったんですがねぇ……」

 

「それは……」

 

「あ、いや……別にセンパイに嫌味言ってる訳じゃないっすよ。

どうであれ、あの時は学園の生徒であるセンパイが危なかった訳ですし、風紀委員は学園の生徒を外敵から守るのも役目でしたから」

 

「…………」

 

 

 その役目の為に、自分自身の精神の根っこともいえる力を失ったのを助けられたソーナ自身が一番よく知ってるので、罰が悪そうにしゅんとした表情をするので、イッセーは笑って気にするなと言う。

 

 

「先代達が如何に偉大だったのかがよーくわかりましたよ。

理不尽と思われても仕方ない事ばかりでしたけど、それでも生徒達を他校の連中達から守ってましたからね……」

 

「それを知らないから他の者達は……。

最近他の学校の生徒にしつこく寄られたって被害が出てきているし……」

 

「遂にそういう話も此方にでは無くソチラさん側に伝達されるようになりましたか……。

これは、いよいよ風紀委員も終わりっすね……。あーあ、先代達になんて言おうかな……?」

 

 

 あまり凹まない図太さを持ってるイッセーも、今回の事ばかりは心が折れしまっている様子。

 外敵からの抑止をしてくれていたという事実を知らぬ多くの生徒達の、先代達が消えた途端の掌返しっぷりにソーナも頭に来るものがあるけど、今はとにかく腑抜け顔になって項垂れてるイッセーを何とかしなければならない。

 

 

『俺の進化のスキルをそっくりそのままこの人に渡してやれば、この人は助かるんだろ? 良いよ別に、元々俺には過ぎた代物だったしね』

 

『良いのかい? それまでキミが培って来た全てをも彼女に渡せば無かった事になるんだよ?』

 

『良いって良いって。

早くやってくれよ、間に合わなくなったら意味が無いだろ』

 

 

 スキルという人が持つ神器とは違う力を持ち、人を辞めて居た彼にその精神性を含めたそれまでの積み重ねを犠牲にする事によってソーナは今を生きている。

 そしてイッセーは普通の人間となった……。

 

 その結果がこんな――こんな姿であるなんてソーナは嫌なのだ。

 

 

「とにかく来なさい」

 

「別に恩を売ったつもりでアンタに進化(スキル)をくれてやった訳じゃないんで、そこら辺の人間一匹でしかない俺なんて放っておいてくださいよ……」

 

「良いからっ!!」

 

 

 余程ボロクソに詰られたのが堪えたのか、完全に卑屈になってしまっているイッセーを無理矢理立たせ、手をガッツリ掴んで連れていく。

 

 

(このままでは彼がダメになる。

私のせいで……私のせいであるべき人生を捨ててしまったから……。

だから私が……私が今度は支えないと……!)

 

「あー、いっそ前見た感じの、はぐれ悪魔っつーのが俺をぶっ殺してくんねーかな……あはははは……」

 

 

 

 ソーナはこの時思ったのだ。

 何とかしてあげたいと……。

 

 これが少し前のお話。

 

 そして現在。

 

 生徒会と一時的な協力という形でなんとか風紀委員会を存続させる事と、風紀委員室を取り戻す事が出来た一誠は――――

 

 

「だってアナタの為じゃない! アナタが私のせいでこんな事になったから! アナタに恩返しがしたいからっ!」

 

「わ、わかりました! わかりましたよ! お、重いから重いっての!」

 

 

 いや、ソーナは重くなった。

 体重がではなくて、こう……精神的に。

 

 

「じゃあ着てくれる?」

 

「い、いやぁ……自分の部屋でなら――」

 

「…………………」

 

「だ、だってセンパイと俺のイニシャルが入ってる手作りニットって……」

 

「………………………………もう良いわ」

 

 

 とにかく支えなければという気持ちが前に行きすぎて重くなり。

 またとにかく親友以上的な関係でなければ嫌だと言い出し、ちょっと一誠に拒否されると泣き出す。

 

 

「アナタの気持ちはよくわかりました……さようなら」

 

「ちょっとセンパイ、やめてくださいよそういう感じは! てかどこに行くんですかねぇセンパイ!?」

 

「………………………」

 

 

 今も生徒会と風紀委員による合同の仕事をする為に、生徒会室に集まっていたのだが、いきなりニコニコしながらソーナがイッセーに、他の役員達が見てる目の前でプレゼントを渡し、それがソーナによる手作りの――イッセーとソーナのイニシャルがデカデカと刺繍されている手作りニットだった。

 

 それを渡して来ただけではなく、普通にお揃いで着て外でお散歩しようと言われてしまい、それに対して困惑した途端、ソーナは真顔になって生徒会室から出ていってしまったのである。

 

 

「お、重いわぁ、めんどくせぇわぁ…!」

 

 

 何時も通り重いソーナに、一誠は心底重そうな表情を浮かべながら一旦項垂れ、二人のやり取りを遠巻きに見ていた生徒会の役員――つまりソーナの部下達にイッセーは質問する。

 

 

「あの、アナタ方からも言って貰えませんかね? ホント俺に対して変な罪悪感とか感じる必要は無いですって……」

 

 

 生徒会の役員であり、悪魔としてのソーナの眷属でもある者達に頼み込む様にして頭を下げるイッセーであるが、全員が目を逸らした。

 

 

「多分無理だと思う。

あの日以降の会長は肉親よりも優先順位がアナタになってるし……」

 

「少し世話を焼きすぎでは? って言ったこともあったけど、その瞬間見たことないくらい怖い顔をされたから、言うに言えないし……」

 

「兵藤くんが会長を上手いこと受け止めてくれたら多分解決だと思うよ?」

 

「……。いや俺の意思は? 犬か猫みたいに飼われろってか?」

 

「そうじゃなくてさぁ……。

兵藤くんってやっぱ先代の風紀委員会に入ってただけあって、変に女の子慣れしちゃってるや」

 

 

 部下でも誰もソーナを止められないらしく、殆どが首を横に振り、誰も彼も遠回しに諦めてくれと言ってくる。

 だが、そんなほぼ全員が女子である役員達の中、ここ最近新たに役員となりつつソーナの兵士として悪魔の眷属となった男子生徒が、露骨に嫉妬した顔でイッセーに言う。

 

 

「曖昧な事ばっかり言ってるからだろうが。

そんなに嫌ならもっとハッキリ言って突き放せば良いだろ……。

結局お前だって悪い気がしてないから曖昧な返答しさねぇんだろうが」

 

「匙君……そういう言い方は――」

 

「だって事実でしょう? 悪魔に転生せず、人間のままなのに会長や俺達の正体を知ってるし……」

 

「いや、匙君が兵士になる前から――兵藤君がまだ中学生の頃から会長の正体知ってたんだけど……」

 

「だ、だからなんだよ!? 会長の眷属ではないのは確かでしょう!? 外様だろ!?」

 

 

 この少年。名を匙というのだが、この言動の通りソーナに惚れている。

 ただし、匙はソーナの重さ尋常の無さをまだ全然理解しておらず、あくまで普段の生徒会長としてのソーナに惚れている。

 

 だから、転生悪魔ですらない一誠がソーナに色々とされてることに嫉妬をしているのだけど……。

 

 

「まったくの正論だね。

いやさ、そもそもあの人達の正体って先代と先々代も知ってて、俺の場合その人達に教えられたってだけなんだよね。

そう、めっちゃ外様。匙は今良いこと言ったぞ?」

 

 

 そのイッセーが寧ろ匙の言葉を肯定するもんだから、匙からしたら自慢されてるように聞こえて余計に腹が立つのだ。

 

 

「なのにあの人はあんな重くなるし……。

この前なんて一緒に住んでる祖母ちゃんに何を持って来たと思う? 婚姻届だぞ? 俺17だから無理だっつーの―――って言ったら刃物出して自分の手首切ろうとするし……」

 

「………………」

 

「あの人純血悪魔なんだろ? んで純血の数が昔の戦争で減ってヤバイらしいじゃん? 俺なんぞに構ってる暇なんて無いと思うんだけど……」

 

「……………………お前、喧嘩売ってるな?」

 

「売ってないっての! つーかあの人好きなの? だったら俺の存在を消去する程に惚れさせてやれよ? 最近マジ大変なんだぞ? このニットにしたって……バカなカップルじゃあるまいし、そもそも手作りって時点で引く――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪いの人形~!

 

 

 

 

 

 

「いっ!? ほ、ほら始まった! センパイ連れ戻してくるからちょっと待っててくれ……! あーもう!」

 

 

 生徒会室から少し離れた廊下から聞こえるソーナの物騒な声に、イッセーは慌てて飛び出す。

 

 

「あのね匙君。

会長が好きなのはわかるけど、相当な覚悟がないと無理よ?」

 

「何で会長が兵藤くんにあそこまでの気持ちを持ってるのか、まだ匙君には話してないけど……正直言うとその件に関しては私たち全員兵藤くんに感謝してるの。

もし兵藤くんが居なかったら、会長は今頃ここには居なかったから……」

 

「…………」

 

 

 古参の眷属達がイライラした顔の匙を宥める。

 それでも匙は納得してないようだが……。

 

 

「センパイほら! 着たから! 意外とフィットしたから! ねっ!? そのヤバそうな人形捨てましょ!」

 

「あはっ♪ やっぱり着てくれた……あぁ、こんなめんどくさい私なのに、アナタはそれでも優しい……! 好き! 大好き! この星の全ての生物の中でイッセーくんが大好き!」

 

「こ、声がデカいっすよ! それに普段のセンパイのキャラもありますからそういう事は――」

 

「………………え、嫌なの?」

 

「ぜ、全然!? と、とりあえず戻りましょ!? ねっ!?」

 

「うん♪ ね、腕……組んでも良い?」

 

「………。は、はい……。(た、助けてよ誰か……重さに耐えきれねぇよ……)」

 

 

 この重さに耐えられるのは恐らくこの地球上でイッセーだけなのかもしれない。

 

 

「で、あの……気を取り直して最近の風紀の乱れに対する傾向と対策を……」

 

「……………。やっぱテメー、喧嘩売ってるだろ?」

 

「ち、違うって! ホント今だけはこの件に波風立てないでくれ! やっと落ち着いてくれたんだからさ!」

 

「……………」

 

 

 本当に。

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 ソーたんは重い。

 重すぎてイッセーの前では素――つまりソーたんのお姉さんみたいなキャラになる。

 

 そして彼が他の女性に現を抜かすと露骨に嫉妬もする。

 

 

「え、俺に……?」

 

「ええ、イッセーくんのお口に合うか自信はありませんが……」

 

「最近疲れてそうだし、甘いものでもと思って私と朱乃で作ってみたのよ」

 

「マジすか!? 姫島センパイとグレモリー先輩の手作りとか 、この学園の生徒達が羨ましがるものっすよ! やったねオイ! 生きててよかったー!」

 

「………………」

 

 

 別の世界では幼馴染みだったかもしれない姫島朱乃が作ってくれたチョコにテンション爆上げなイッセー……だけど、その様子を見ていたソーナは、朱乃をこれでもかと睨むと………。

 

 

「手作りチョコレート~!」

 

 

 一体どこから取り出したのか、巨大な箱を抱えたソーナが某タヌキロボットみたいな調子で言うと――

 

 

「フンッ!!」

 

「あ゛ー!?」

 

「な……!」

 

「う……!」

 

 

 テーブルにあった朱乃とリアスのチョコを上から押し潰しながら置いたのだ。

 

 

「な、なんて事すんだよセンパイ!? せっかく二人がくれたチョコが―――」

 

「その二人は所詮他の者にも配る義理よ。

けど私は違うわよ? イッセーくんの為に作った本命チョコよ? ほら……!」

 

 

 二人のチョコをまるで踏み潰した像の様に大きな箱をニコニコしながら開けると、そこには巨大なチョコが確かに――信じられない事に失敗した形跡の無い見事なチョコレートがあったのだけど……。

 

 

「このチョコと一緒に私を食べて?」

 

 

 デフォルメされたソーナのイラストっぽい顔の上にピンクの文字で『わたしを食べて』と刻まれていた。

 そのチョコを目の前に、失敗したとかしてないとか以前にイッセーも朱乃もリアスもドン引きだった。

 

 

「な、なんだよこれぇ……!? 重いよ、重すぎるぞ……!」

 

 

 親友からいつの間にかグレードアップしてる重さに顔が真っ青なイッセー。

 そんなイッセーにソーナはにこやかに……。

 

 

「ハッピー・バレンタイン」

 

 

 妙にネイティブな発音で言う。

 そして顔がひきつってた朱乃とリアスにはスイッチが切り替わったかの如く怒りの形相で――

 

 

「Get out of here!! Get out of here!!!」

 

 

 部屋の出口を差しながらこれまた妙に発音よく二人に出ていけと怒鳴り――

 

 

「ふんっ!!」

 

「「「あっ……!?」」」

 

 

 だめ押しとばかりに、すでに潰れた二人のチョコを上から更に押し込んで潰すのだった。

 

 

「ふ、二人のチョコが……」

 

「あんな二人の事なんてどうでも良いでしょう? それより早く食べて? それとも少し溶かして私の胸に垂らすから、それを吸ったりなんーて……きゃっ♪ 自分で言っててなんてはしたないのかしら! でもアナタになら何をされても構わないわ! だって親友ですものっ!」

 

 

 重い。ソーたんはその重さをどんどん増していくのだった。

 

 

終了




補足

スキルとそれまでイッセーが培って来た進化経験の全てを渡された結果――多分星レベルの強さになってしまったソーたん

そして反対にどんどんダメになっていくイッセー。

それを見たソーたんは恩返しのつもりで彼を支えなければ……と最初はまともに考えてたのですが、その内重くなり、嫉妬深くなり……。


ちなみにこのイッセーの実家は祖母の家らしく、現在祖母からの援助で学園の近くの賃貸に住んでるらしいけど、これはあんまり関係ない。

ソーたんが最近その賃貸のイッセーのお部屋の押し入れに住み着いたとかも関係ない。



続きは―――まーうん……ね?

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