色々なIF集   作:超人類DX

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続き。

ワン子、既に強い(確信)


疑惑

 川神百代に勝ったらデートが出来る。

 

 それだけを理由に鍛練を続けまくる一誠は今日も元気に早起きしてはトレーニングに励んでいる。

 

 当初は秀康と貞愛の二人から指導されながらぎこちなく……そして体力の無さにヒーヒー弱音を吐きながら行っていたが、一年も妥協なしな鍛練に耐えきれれば慣れたものであり、積み重ねによって着々と力を付けられている実感に対する喜びなんかも感じながら一誠は百代とのデートを目指しているのだ。

 

 

「行くよ一誠……!!」

 

「っし! 来い川神!」

 

 

 そんな一誠にも同じ様に積み重ねる努力を信じら続けられる友人と巡り会う事で、互いに切磋琢磨をしていた。

 川神一子―――川神百代の義妹である彼女は、百代達のような『天賦の才』は持ち合わせてない。

 

 しかしそれでも彼女は諦めずに前を向き続けている。

 

 その気質は一誠や秀康――そして基本的に一番他人と壁を作ろうとする貞愛ですらも認めるものであり、一子自身の性格もあって、三人とは恐らく一番近い距離間に居る。

 その証拠に、ある時を境に一子は三人の鍛練に参加出来るようになっていて、一誠と手合わせをしている。

 

 

「はっ!!」

 

「フンッ!!」

 

 

 一子のメインウェポンである薙刀の一太刀が襲い掛かるが、それを一誠は紙一重で避けていく。

 

 

「ウォラァ!!」

 

「うっ!?」

 

 

 一誠は対武器持ちへの対策も双子に教えられていた。

 とはいえ、対策と呼ぶにはあまりにも原始的なものである。

 

 その対策とは至極単純に……『相手の手からぶっ飛ばしてしまえ』である。

 武装した相手にはそれ以上のパワーで捩じ伏せろ。

 

 無駄に考えるより前へ前へと前進する戦闘スタイル――つまりゴリ押しを好む双子の考えを見事なまでに順応した一誠は一子の持っていた得物を弾き飛ばす。

 

 

「顎ががら空き……!! いらっしゃいませー!!」

 

 

 その隙を突き、一誠が渾身のアッパーカットを一子に叩き込まんと突き上げる様に拳を振るう。

 

 

「っと!!」

 

 

 しかしギリギリで上体を逸らす事で威力を逃がすことに成功する一子は大きく真後ろへと跳躍して一誠と距離を離す。

 

 

「あぶなっ……! 今の当たってたら間違いなく――わっ!?」

 

「まだまだァ!!」

 

 

 仕切り直そうとする一子だが、そうはさせないと地を抉りながら前進する一誠の乱打。

 

 

「くっ! 川神流、蠍撃ち!!」

 

 

 完全に我流の……単純な暴力スタイルの一誠の攻めをギリギリで裁いてきた一子は、だからこそ隙だらけでもあると、当たれば一瞬で意識を奪われるだろうパンチを三度程裁いた瞬間、空いた腹部に向けて学んだ武の一撃を放ち、ジャストミートで刺した。

 

 

「……………ウォラァッ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 一瞬一誠の動きが止まり、その瞬間に一子は勝ちを想像した。

 しかし一誠は膝を付くどころか、何でもなかったかの様に攻撃を再開。

 

 

「それはもう『慣れた』ぜ!!」

 

「嘘でしょ!? 昨日の今日で――」

 

「オラァッ!!」

 

「うぎっ!?」

 

「オオオオオオッ……!!」

 

「!? ま、まず……っ……!?」

 

 

 面を喰らった一子の脇腹に、お返しとばかりにブローを刺した一誠は、そのまま無数の拳を叩き込んだ。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

 

「ひぎぃっ!?」

 

 

 女子にやってはいけない気がするし、女子が出してもいけない気がする断末魔と共に全身にしこたま拳を叩き込まれた一子が最後の一撃と共に吹き飛ばされ、地面を何バウンドもしながら転がる。

 

 

「わ、ワン子ぉぉぉっ!?」

 

 

 例えるならばボロ雑巾とでも云うのか、全身に鬼の様な乱打を受けて吹き飛ばされてしまった一子を離れた所から見ていた風間ファミリーの仲間達は、栽培マンに自爆されて爆死してしまったロンリーウルフさんの様な体勢で横たわる一子に駆け寄る。

 

 

「テメーコラ兵藤! 決闘じゃねーのにやり過ぎだ!」

 

 

 良いガタイをしている男子、島津岳人がある種妹分とも呼べる一子に対するなんともいえぬ容赦の無さに対して抗議しようとするが……。

 

 

「イタタタ……」

 

「「「ワン子!?」」」

 

 

 その一子が普通に起き上がった。

 

 

「決闘じゃないけど、お互いに手加減してたら修行にならないからって、前から一誠達と決めてるから気にしないでちょうだい」

 

「だ、だけどお前、最近モモ先輩をぐらつかせてきた兵藤の攻撃をそんなまともに喰らってんのに……」

 

「そんな柔な鍛え方はしてないってば」

 

 

 心配する仲間達に笑いながら応えてみせる一子な立ち上がると、一子に先ほど刺された腹部を擦りながら立っていた一誠に近寄る。

 

 

「まさか昨日の今日で慣れられるとは思わなかったわ。

悔しいけど今日はアタシの負けね?」

 

「いや、慣れたってのは軽い強がりだ。

正直結構立ってんのも辛かったりするぜ」

 

「また一歩先行かれちゃったかぁ……」

 

 

 後腐れ無いようにお互いに握手をし、互いに動きの指摘をし合う。

 一誠も一子も互いに去年双子によって『己を知って受け入れた』事によって覚醒した気質を研磨し合える友人という事で認めあっている。

 

 

「アイツ等に関わる様になってから、ワン子が時折俺達も知らない面を見せる……」

 

「……。だが、明らかにワン子は強くなっている。

この前だってクリスとの手合わせも素手で完封したし、以前のワン子なら負けていた相手だった」

 

「そういえばあの双子は居ないみたいだけど……」

 

「……………」

 

 

 それは皮肉な事に風間ファミリーの面々ですら知らぬ一子の新たな一面であり、だからこそファミリー達は敵意とは違うものの、一誠や双子を警戒に近い感情を抱いている。

 

 

「つー訳で今日は俺が勝ったから昼飯のデザートは川神持ちだかんな?」

 

「わかってる。

次はアタシが勝つんだから!」

 

 

 壁を前にしても挑戦を辞めぬ気質。

 その気質は双子の父となる超越した堕天使に似ている。

 

 そう、誰が呼んだか……超戦者と。

 

 

 

 

 

 

 

 一子と一誠の激しい修行が終わるそんな頃、黛由紀江は空回りを続けていた。

 空回りというよりは、意図的に空回りをさせられてるというべきなのか……。

 

 

「お、おはようございます!」

 

「……どうも」

 

 

 それは真名をプロメスである結城貞愛の事である。

 以前、勇気を振り絞り、恩人でもある彼とお友達になろうとしたのだが、基本的にガードがある貞愛から割りとハッキリと断られたのだ。

 

 しかもその恩についても本人は全く覚えておらず、更に言えば結果的にそうなっただけの話だと突っぱねられてしまったのだ。

 

 

「きょ、今日は良いお天気ですよねっ!?」

 

「……………………。曇り空だし、数時間後には雨が降るみたいだけど」

 

「え、あ……ご、ごめんなさい」

 

「…………………」

 

 

 そんな黛由紀江はどうやら諦めてはいなかった。

 いや、というよりは彼の母や兄である秀康、その友である一誠の助言のせいで変なスイッチが入ってしまったというべきなのだろう。

 

 

「…………………」

 

「あ、あのですね、よろしかったら今日のお昼休みをご一緒しても―――」

 

「先生に頼まれごとがあるから無理だよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

 一誠として、秀康よりも真っ黒な青年時代をかつて生きた貞愛は思った。

 『この子の目的はなんなのだろうか』と。

 

 駒王ではぐれ辺りに襲われた所を自分が助けた――らしいが、恐らくその時は人ではない力を行使したのを見られたと思って間違いは無いだろう。

 

 その力を利用でもしたいのか……? と、基本的に他人にはどこまでも疑って掛かってしまう貞愛は由紀江の態度にも疑ってしまっている。

 

 しかも更に厄介なのが………。

 

 

(ああ、年上の女の人と遊びてー……)

 

 

 この男、女性の趣味が年上だった。

 それも一回り以上は年が上でないとという、どこで間違えてしまったのかわからん性癖だった。

 故に黛由紀江の心境がまるで理解できないし、そもそも異性としての意識も0から不動だった。

 

 

(この姿に生まれ変わってからは、心機一転して人妻と遊んでやろうと思ったのに、そんな機会も無くここまで来ちゃったしよ……。俺ってそういう星の下に生まれたのかねぇ……)

 

(か、会話を、何でも良いからお話をしないと……!)

 

 

 一誠は朝から一子と修行に。

 秀康は気付いたら居なかった。 

 なので一人で登校しようとすれば、毎朝毎朝家の前で

待ち構えてる変な女の子と登校している貞愛の思考回路は疑いと年上女性で支配されっぱなしなのだった。

 

 

 

「ダメでした。

私がダメなせいで……」

 

 

 結局一言も会話せず、歩幅も合わせる事無く学園に到着してしまい、わざわざ寮住まいなのに家まで行ったのに何の進展も無かった事に凹んでしまった由紀江は、昼休みになって合流した秀康と一誠――そして一誠に今朝の手合わせて負けた罰としてデザートを奢らされた一子とお昼を食べていた。

 

 

「マジでガード固いからなサダは……」

 

「アタシも最初はそんな感じだったわよ? だから大丈夫だと思うけど……」

 

「いや川神の場合は俺達に近いものを持ってたからってのがあるぜ」

 

 

 すぐ横で風間ファミリーの面々も聞き耳を立ててるという状況で落ち込む由紀江を元気付けようとする三人。

 

 

「なんだ、まゆっちは結城・弟に何かされたのか?」

 

「おおぅ、何かしたのが前提かよ……」

 

 

 基本一誠と秀康と貞愛を不審がってるファミリーの一人である直江大和が由紀江に問い、秀康と一誠は軽く大和の言動に苦笑いしてしまう。

 

 

「以前貞愛さんに助けられた事がありまして……」

 

「助けられたァ? 何だそりゃ?」

 

「ま、まあ色々あったんだよ。でまあ、この子はサダと友達になりたいんだがよ……ええっと、サダって基本ガードが強いっつーか」

 

「…………分からなくもないかもしれない」

 

 

 人ならざる者について話すわけにはいかないので、誤魔化しながら補足する秀康に、大和達はなるほどと頷く。

 そのファミリーの中の一人がボソッと小さく貞愛の性格に対して理解出来るといった言葉が出てきたが、誰にもその声は聞こえなかった様だ。

 

 

「お? 噂をすればその弟が来たみたいだぞ?」

 

 

 岳人が食堂の入り口からボーッとした顔で入ってくる顔立ちだけは秀康共々良いと言われてる貞愛を発見する。

 ぬぼーっとした顔で食券を買い、ぬぼーっとした顔でそれを厨房の人に渡し、ぬぼーっとした顔で出された料理を受けとり、ぬぼーっとした顔で一番近い手前側の席に座ろうとしたので、秀康と一誠が呼び掛ける。

 

 

「サダ! こっちだこっち!」

 

 

 呼ばれて気づいた貞愛の視線が一誠達を捉え、そちらにぬぼーっとした顔のまま移動しようとする。

 しかしその近くに風間ファミリー達や、由紀江が居ることに気づいたのか、一瞬止まり、一瞬疑うような表情を浮かべたのに秀康と一誠はすぐに気づいた。

 

 

「雑用は終わったのか?」

 

「まーね」

 

「あ、悪い。ここしか空いてねーや」

 

 

 そんな貞愛に大和がわざとらしく席を由紀江の隣の席を提供してみる。

 しかし貞愛は大和に軽く会釈をするだけで別に表情を変えるといった事も無く、ガチガチに緊張をしている由紀江の隣に座ると、黙々と食べ始めるだけだった。

 

 

「……………なに?」

 

 

 そのあまりのローテンションさに大和達や一誠達の視線が釘付けになり、その視線に気づいた貞愛はカツ丼のカツを今まさに口に入れる体勢で止まり、見ていた者達に軽く鬱陶しそうな声を出す。

 

 

「なあ、えーっと……まゆっちの事なんだが」

 

「? まゆっち……? なにそれ?」

 

 

 思ってた以上にテンションが低いので、軽く躊躇いながら話しかける大和に対して、貞愛は特に無愛想だってこともなく普通に返事をしながら、首を傾げる。

 

 

「この子の渾名みたいなもんだよ。

知らなかったのかよ……?」

 

「ああ、黛だからまゆっちね。なるほど……それで?」

 

「最近わざわざまゆっちが寮からお前らの自宅まで来て一緒に行こうとしてくれてるって噂を聞いて本当かどうかと思ってな……」

 

「え、寮なの?」

 

「は、はい……」

 

「それも知らなかったのかよ!?」

 

 

 全く由紀江についての情報が貞愛の中に存在してないといった態度に、大和のみならず岳人達も流石に由紀江を不憫に思ってしまう。

 

 

「寮なのに何で毎朝家の前に居るの? 俺はてっきり近所にでも住んでるのかと思ったんだけど……」

 

「そ、それは、貞愛さんとお友達になりたくて……!」

 

「まだそんな事を言ってるのかキミは……」

 

「こ、こればかりは諦めませんから!」

 

「……………」

 

 

 妙に食い下がる由紀江に貞愛はチラっと一誠と秀康を見れば、二人もどうやら彼女の肩を持ってるというのが分かる。

 めんどくさい性格をしてる自覚をしてるだけに、何でここまでこの女子が食い下がるのかが理解できない貞愛は、果てしなく微妙そうな表情を一瞬浮かべそうになるのだが……ふと思う。

 

 

「あのさ、キミお姉さんとか居ないの?」

 

「へ? い、いえ妹と弟なら居ますが……」

 

「………………………あっそ、じゃあ良いや」

 

 

 思えば初めて貞愛から由紀江に質問した様なものだが、居ないとわかった途端興味が失せたのか、ムシャムシャと食べ出してしまった。

 

 

「なんだその質問は?」

 

 

 同じように聞いていた大和が不審がって聞いてみる。

 すると貞愛は言った……。

 

 

「もしこの子に10は離れてるお姉さんが居たら、紹介して貰おうと考えてただけで深い意味は特に無い」

 

『………………』

 

 

 普通にゲスい事を平然と言ってのけた貞愛に、聞いた者達は引いた。

 要するに『お前のお姉さんを紹介してくれたら喜んでお友達になっても良い』と言ってるのと変わらないのだから。

 

 

「今キミがしつこいほど友達になりたがる奴は、こんな奴なんだってわかったろ? 良かったな、友達にならなくて?」

 

 

 戸惑った様子の由紀江にそう皮肉っぽく笑いながら言うのと同時に食べ終え、お茶を一気に飲み干した貞愛はお膳を持って立ち上がる。

 

 

「俺よりそこの仲良しそうな人達と友達なった方が健全だと思うぜ? じゃあそういう事で――ああ、寮に住んでるらしいし、もう朝とか来ないでくれよ?」

 

『…………』

 

 

 ハッキリそう由紀江に突き放した言葉を放ち、さっさと出ていってしまう貞愛。

 

 

(少しは変わったと思ったけど、やっぱ変えられねーな、そう簡単には……)

 

 

 根に残り続ける物を抱え続けながら……。

 

 

「……」

 

 

 横で聞いてても精神的に来る事を言われた由紀江は、これでもかと項垂れながら凹んでいた。

 

 

「サダの奴、高校上がってから余計拗れてないか……?」

 

「多分な……」

 

「マジな話、まゆっちは諦めるべきだと思うぞ……」

 

「仮に友達になれたとしても、気まずい空気が改善される気がなんとなくしないし……」

 

 

 さっさと食べてさっさと出ていってしまった貞愛とはどう考えても友人関係にはなりえないだろうと、大和達は由紀江に言いながら元気付けようとする。

 

 

「んー……貞愛は結構優しい所もあると思うけど私は」

 

「想像できねーぞワン子」

 

「この前のトレーニングの時、怪我をしちゃったんだけど、それに一番最初に気付いたのが貞愛で、手当てとかもしれくれたわ」

 

「さも『めんどくせーな』って態度で取り繕ってたけどな」

 

「基本ちょっと照れ屋なんだよアイツは」

 

「ふむふむ?」

 

 

 そんな大和達に一子はこの前あった軽いエピソードを交えながら話していく。

 クラスでも基本誰とでも接する事が出来る一誠や秀康とは違い、貞愛の場合はその一誠か秀康か一子くらいとしかまともに話そうとはしない。

 いや、勿論受け答え程度は普通にするが、他愛の無い会話を他のクラスメート達とした事は皆無に近いのだ。

 

 

 それは大和達も見ていてよく解るが、だからこそ余計に一子には普通に冗談半分な会話をしたりするのが解らないし、聞いてみると意外とポンポンとエピソードが一子の口から出てくるのだ。

 

 

「一誠や秀康が忙しい時なんかも、何も言わずに黙ってトレーニングに付き合ってくれるし」

 

「そういや何度か二人で走ってたりしてるな……」

 

「休憩の時とか黙って飲み物奢ってくれるし、こうしたら良いとか色々と身体の使い方なんかも教えてくれたお陰で、クリに勝ててるし」

 

「意外と面倒見が良いのか……?」

 

「一昨日も一誠と秀康が居なくて貞愛にトレーニング見て貰った後、ラーメン行こうぜって言って奢ってくれたし……」

 

「ん……?」

 

「その時の貞愛は結構よく喋ってたというか、一誠にどことなく似てたというか……」

 

「ちょっとストップだワン子……」

 

 

 割りと深い感じのエピソードがまだまだあるぞと喋り倒す一子を止めた大和は、『え、知らなかった……』と驚いた顔をしている秀康と一誠を見てから岳人や風間翔一ことキャップや椎名京と顔を見合せる。

 

 

「……良いなぁ」

 

 

 由紀江がますます落ち込む程度には、一子は貞愛と気安いやり取りが出来ている。

 

 それはつまり――――と、大和や仲間達もそんな気がしてるらしく、戸惑いながらも頷くので、大和は恐る恐るといった口調で一子に言ってみた。

 

 

「ワン子。これはあくまでも仮定というか、冗談だから言うんだが……」

 

「? なに?」

 

 

 キョトンとする一子に、正直かなり言いたくはないが、大和はたどり着いてしまったひとつの仮定を打ち明けた。

 

 

「結城貞愛って、ひょっとしたらワン子の事が結構好きなんじゃなかろうか……と」

 

「ふーん……? 貞愛がアタシを好き――――――――――ええっ!?」

 

 

 最初は流した一子が途中で気付いたのか、椅子を吹っ飛ばさん勢いで立ち上がって驚愕する。

 

 

「さ、貞愛がアタシを!? な、なんで!?」

 

「…………」

 

 

 ちょっとした友人で師匠的な存在という認識しかしてこなかっただけに、言われてしまうと戸惑いしかない一子は明らかにテンパっており、大和もあんまり言いたくは無いが理由を説明する。

 

 

「いやだってどう考えてもワン子にだけ甘すぎるだろ。

兵藤と結城・兄の話を聞いてる限りじゃ、弟の方は他人に対してかなり関心が薄いし、それは去年から奴を知っている俺達もなんとなくわかる」

 

「で、でもそれはアタシが一誠の修行仲間になったからだし、最初の方なんてそれこそまゆっちみたいに相手にもされなかったのよ……?」

 

「しかし今は違うだろ? 明らかにお前に対して甘い。

兵藤と結城・兄も思うだろ?」

 

「そう考えてみれば確かに川神には結構冗談混じりに話したしするな……」

 

「からかってはケタケタ笑ったりもするのは確かにある。

アイツが誰かをからかうってのは、相当認めてる相手だけだからな……」

 

「だろ? つまり少なくとも奴にとってワン子はその位置に居るって事だ」

 

「そ、そんな急に言われても……。ど、どうしよ、そんな事言われたせいで貞愛の顔がまともに見られなくなりそう……」

 

「…………」

 

 

 あわあわしている一子は完全に戸惑ってしまっている様子だし、由紀江は余計凹んでしまっている。

 結局の所は本人に聞かなければ分からない話なのだが……。

 

 

「おいヒデ、千円貸してくれ。

万券しかなくて自販機で買えねぇ………って、なに?」

 

 

 ちょうどその貞愛が自販機で飲み物が買えないという理由で秀康にお金を借りに戻ってくる事で、一子は動揺してまともに見ることすらできなくなる。

 

 

「なあサダ………単刀直入に聞いて良いか?」

 

「あ? なんだよ一誠?」

 

「お前ってさ、川神の事好きか?」

 

「………は?」

 

 

 そんな一子の動揺を横に、一誠が思いきって聞いてしまった。

 その瞬間千円を秀康から受け取ったまま固まった貞愛は、明らかにそわそわしている一子……それと何か微妙に怖い顔の風間ファミリーや何故か泣きそうな顔をしてる由紀江等々を見て首を傾げつつ……。

 

 

「俺が好き嫌いの激しい奴なのはわかるだろ? 川神が嫌いだったらまず近づきもしねーよ」

 

「つまりお前はワン子にそんな感じか!?」

 

「は?」

 

「ハッキリしろコノヤロー! どっちだバカヤロー! 返答によっては面接の時間だ!!」

 

「な、なんだよ……? ハッキリ言えってなら言うよ。

そりゃ好きだよ。でなかったらトレーニングに付き合うなんて真似しな――」

 

「…………………」

 

「わ、ワン子がオーバーヒートしたぁ!?」

 

「…………………」

 

「まゆっちがショックで気絶したァ!?」

 

「……なんなんだ?」

 

 

 躊躇い無く好意はあると言った途端、一子はオーバーヒートを起こしてひっくり返り、由紀江はゴチンとテーブルに額を激突させながら意識をすっ飛ばしてしまい、食堂内は軽く騒ぎとなった。

 

 

「サダ、お前ってやつは……」

 

「俺は良いと思うよ……うん」

 

「何その生暖かい目は……?」

 

 

 そしてこの日を境に特に貞愛は風間ファミリーから色んな意味で目の敵にされるのであった。

 

 

 




補足

基本的に現状の一誠と殴り合える程度の成長をしているワン子。

一誠は最近モモ先輩をぐらつかせた――つまり、ワン子も壁を越え始めてるかもしれない。


その2
そんなワン子のトレーニングを地味に一番多く付き合ってたのが真っ黒時代を生きた方の一誠。

色々と付き合っている内にアドバイスもしたし、怪我したら手当てはしたし、飲み物買ってあげたし、ご飯も連れていってあげた。

それをワン子が皆に話すから面倒な事に……そして貞愛もまた色々と省いて好きと言うから色々な方面へとダメージを……。





頑張れまゆっち!

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