悩んだ結果、没データを晒す
人生の前半は色々と多くあった。
良いことも悪いことも、色々とありすぎた。
けれどその後の人生はとても楽しくて幸せであったと胸を張れて俺は言える。
終生の親友に恵まれ、子供の時から一緒だった愛した子と夫婦にもなれた。
思い残す事は何も無い。
あるとするならば、生まれ変わってもまた巡り会えたら……。
なんて思いながら何時もの様に眠りについた俺を待っていたのは――
「我等の名は既に忘れ去られる寸前。
しかし我が最期の血筋であるお前の存在が、再び我等の名を甦らせると確信している。
だが私はお前に名を背負って窮屈な生を歩んで欲しいとは思わぬ。
お前に何もしてやれなかった私が今更上から多くを語ったところで滑稽でしかないからな……」
「………………」
「ふふ、そろそろ私も妻のもとへと行く時だ。
アルフォンス……お前は死んだ私の妻――母さんによく似ている。
ごほっ……! 名を蘇らせるなんかより、お前にも早く良い妻を見つけて欲しいな……。
いや……もうお前には居るんだったな……だったらもう心残りは無い。
さあ、振り返らずに走れ……! 私は向こうで母さんと見ている……ぞ……」
再びの生。
かつての記憶を持った生まれ変わり。
理由はわからない。だけど俺はこうして生きている。
名も、姿も、そして種族ですらも違う存在として。
「…………。逝ったか。
バカ野郎、かつての記憶を持ってたとしても、アンタは父親として尊敬してたのに……早いんだよ」
しかしそんな事はどうでも良い。
記憶があろうが無かろうが、俺はたった今眠るように逝った悪魔の男の――この没落した名の家を必死に守ってきた男の息子。
「見てろ親父、アンタの遺言は必ず果たしてやる。
俺はもう一誠ではない――アンタの息子のアルフォンス・ウァラクだ……!」
俺が一誠としての生を終わらせる直前に願ったからなのか、それとも誰かのふざけた悪戯であるからなのか、そんな事は、生まれ変わってから今のこの瞬間までずっと考えてきたが、もうそれもどうでも良い。
「俺はまだまだ強くなる。
永遠に――永久に」
アルフォンス・ウァラク。
それが俺なのだから。
かつて栄華を誇ったウァラクの当主が死去した。
だが既に没落していたので誰にも知られる事無く、ひっそりとウァラクの当主を継承した最後の生き残りであるアルフォンスは、母が眠る墓の隣に墓を作り、悪魔としてはかなり穏健派で周囲からバカにされても曲がらなかった父を弔うと、遺品整理をしながらこれからの事を考える。
「ウァラクの血は絶やさないにしても、今現在残ってる貴族みたいな成金になるのはちょっと違うしなぁ。
大きな戦いも親父の代で大体終わって、今は軽い冷戦状態だし……」
シンプルに力を示してウァラクの復活を冥界全土に知らしめるといった方法が楽なのだが、今は仮にも平和であるが為に難しい。
かといって別の方法を模索しようにも、基本的に力こそ正義な考えが割りと強いアルフォンスには中々思い付かない。
「……………。そういえば、この時代の俺自身は大丈夫そうだが、スキルが無いらしいな」
家事がすこぶる上達したせいで小綺麗ではあった掘っ建て小屋の自宅を掃除しながら、アルフォンスはふと思い出した様に独り呟いた。
この時代の自分自身についてを。
「悪魔に転生したばかりで、ついこないだ非公式のレーティングゲームに出てたらしいが、どうも赤龍帝ってだけらしくてまだまだ発展途上だとか……。
変な連中が居ないみたいでそこは安心だけど、微妙に心配だな……」
可能性の自分はどうやらとある悪魔の眷属になったらしいというのは風の噂で聞いた。
最後まで拒絶した赤龍帝としての力をメインに、まだまだ覚醒したばかりのひよっことの事だが、かつての彼自身であった自分が持っていて、その彼が持っていない力の有無の差が地味に心配になっている様だが。
「……。ま、俺が一々茶々を入れる事でもないか」
この時代の自分自身にはできるだけ干渉すべきではないと既に結論付けていたアルフォンスは、何もしないことを決めていた。
下手に余計な真似をしてしまえば、それこそ自分がかつて味わった苦い思い出を与えてしまうかもしれないから。
それよりもまずは自分の事だと、掃除を終えたアルフォンスは外に出て軽いトレーニングをする。
「勘は大体戻ってきた。
後はこの悪魔の身体をどう引き上げるかだな……」
生前と違い、数の減った純血悪魔の肉体であるアルフォンスとしての進化を模索しながら、トレーニングを繰り返す。
永遠なる進化の性質を魂というレベルで保持しているが為、その力は異質な程に高まっていく。
父親がそれを見て笑いながら『ウァラク家始まって以来の異才』と言っていたのをよく覚えている。
もっとも、父親はアルフォンスの意思を尊重し、決してその力を利用しようとはしなかったが……。
「ハァ!」
ウァラクの血を持つ者には特に特殊な魔力がある……といった者は無い。
敢えて言うなら他の悪魔よりも抜きん出て肉体が頑丈であり、先の大戦時代はその身ひとつで敵を叩きのめしていたという伝説もあった。
「フンッ!!」
もっとも、今はこの通り没落してしまい、保持していた広大な領土も失い、掘っ建て小屋生活を余儀なくされていた訳だが。
己の肉体ひとつで戦う者――それがウァラク家である。
「………ふー」
つまりアルフォンスとしてもウァラクの在り方は、己の気質とピタリと一致するのだ。
傷だらけになろうとも立ち上がって行く……そんな血を持つアルフォンスもまたその力を更に高めていくのだ。
そして、日課となるトレーニングが終わりを迎える頃……。
「アナタ」
没落し、冥界の片隅とも言える寂れた森の奥にぽつりと立つ掘っ建て小屋に寄り付く悪魔は今では殆ど存在しない中、幼少の頃から知り合い――――――いや、再会したというべきなのか……。
「お父様にご挨拶をして来ましたわ」
「わざわざありがとうな……」
没落し、名すらも世間から忘れられているウァラク家とは違い、広大な土地を保持し、名も知れ渡る名家の娘だけが度々訪れてくれていた。
死んだ父にも気に入られ、かつては娘の父とも盟友で何度も気にかけられていたという繋がりによって再会できたこの娘もまたかつての記憶を持つ者。
「私の父がウァラク様が亡くなったら、アナタを迎えたいと言っているわ」
「……………。記憶の無いあの人に、同じこと言われるのは嬉しいな」
「私も嬉しいのよ? またアナタと一緒になれるんですもの」
「ああ、俺達はやっぱり離れられないみたいだな――
―――――レイヴェル」
かつての時代で共に生きたレイヴェル・フェニックスが。
明るい金髪に気の強そうな意思を感じる蒼い瞳。
彼女だけがかつての記憶を持ち、再び巡り会えたのは何かの運命であるとしか思えなかったけど、今となってはそんな事もどうでも良い。
何よりも大切な者と再び一緒になれた。
寄り添う彼女を抱き寄せ、その体温を感じる事が出来るのならどうでも良いのだから。
「この前話た通り、兄の行ったレーティングゲームに僧侶として私も参加をしました。
どうやら白音さんもイザイヤさん――いえ、今は祐斗さんと呼ぶべきでしょうか? 二人とも記憶はお持ちでは無かったようです。
恐らくは黒歌さんも、元士郎さんもゼノヴィアさん達も……」
「俺とお前が持ってる事が普通ならありえない事なんだ。
それが当たり前なんだし、この世界の俺が普通に生きられてるのならそれで良い。
この世界の俺にとっての仲間なんだからな」
どうせ誰も見てないのだからと、身体を寄せ合う二人だけの世界。
「余計な真似をして彼等の邪魔だけはしてはならない。
それによ、俺は俺で結構これから忙しくなるからな……!」
「ウァラク家の再興の事……?」
「おう。
まあ、親父はそんな事に拘らなくて良いとは言ってたけどレイヴェルが居てくれたら大丈夫な気しかしないんだよ」
かつて幼き頃からずっと一緒で、最期まで愛し続けた女性と再び生を共に出来る。
兵藤一誠だったアルフォンスにとっても、これ程に幸せな事は無いのだ。
「しかしこの時代のライザーはなんというか……」
「そのまんまの女性好きと言いたいのでしょう? 結局この時代のアナタにトラウマ植え付けられた挙げ句、軽く引きこもりになってしまいましたからね」
「…………。そんな事になってたのか」
「ええ、良い薬になったと思いますわ」
「辛辣だな……」
「アナタを貧乏没落家と見下していましたからね。
兄ではありますが、許せませんわ」
「結構事実なんだけどなぁ……」
チャラチャラしてそうで、割りと真面目であったライザーはこの時代では不真面目で、アルフォンスを見下している。
なのでレイヴェルはあまりこの時代のライザーとは仲良く無い。
父であるシュラウド・フェニックスはアルフォンスの父とかつて親友だったせいか、その息子であるアルフォンスには色々としてくれるのでレイヴェルは引き続き尊敬しているようだが。
「ふふ、昔みたいに白音さんや黒歌さんのお邪魔もありませんし……どうしますアナタ? 私はずっと昔からアナタのものですよ?」
そんな父から本日レイヴェルは『アルフォンス君の様子を見てくるがてら決めて来い』と。
元からそのつもりであるレイヴェルとしても、当たり前の様に頷き、今アルフォンスにアプローチを仕掛けてみる。
「ったく、レイヴェルは変わらずに可愛いなぁ」
「きゃっ……♪ あはは、アナタもその甘え方が変わらなくて嬉しいわ」
横抱きに抱えられ、自宅へと入り、質素なベッドに二人で入る。
そして身を寄せ合いながらその影を一つにしていく……。
「あぁ……前より早めに子供ができそうですわ……」
「やべーな、生活できるだけの資金をまずは稼がないと……」
かつて駒王学園で生徒会長をしたこともあった兵藤一誠は、再会した嫁と生まれ変わってもイチャコラするのである。
「ね、アナタ、もう一度だけ……だめ?」
「その頼み方は反則だぞレイヴェル! このっ!」
「やんっ♪」
終わり
二人しか持ち得ぬ記憶。
そして関わる事を避けてきた者達との邂逅。
「彼はアルフォンス・ウァラク。
私の王にて、婚約者ですわ」
「こ、婚約者ァ!? そ、そうだったのか……」
「ウァラク家ってかなり昔に没落したっきり全く話も聞かなかったから、てっきり途絶えてるのかと思ってたわ。
まさか私達と同世代の子孫が居たなんて……」
「少なくともこれから先もウァラクの血は途絶えませんわ。
私が居ますからね」
「そ、それってもしかしてアレか? 子供的な意味でか?」
自分自身に変な目で見られて微妙に居心地が悪かったり。
「僕は凉邑零。アルフォンス・ウァラクの騎士だ」
「同じくバラゴ。階級は兵士だ」
「貴様の陰我、この銀牙騎士が解き放つ!」
「お前の陰我、この暗黒騎士が食い尽くす!」
名も姿も変わった銀の狼と黒い狼との再会。
「先代のウァラクが死に、新たに当主となったアルフォンス・ウァラクについてだが、ここ最近出場したレーティングゲームは全戦全勝。
眷属達の質も良く、何より王であるアルフォンス自身の実力もかなり高い」
「先代もそうだが、ウァラクは特殊な力を持たぬ代わりに異質な肉体を持つ。
どうやらその血を間違いなく受け継いでいるようだ」
徐々に思い出させていくその名。
「次のゲームの相手は―――リアス・グレモリーとする」
「!」
「お互い、良いゲームにしましょうね?」
しかし下手に名が知れ渡るせいでやりにくい相手とぶつけられたり……。
「ま、マズイ。
相手がグレモリーになってしまった……!」
「何がマズイんだよ? 普通に戦えば良いじゃないか?」
「ひょっとして、昔居たあの男みたいに自分がなるじゃないかと心配なのかい? だとしたら大丈夫だよアル君。
寧ろ下手に手加減したり、わざと負ける方が相手に失礼だよ」
「ええ、二人の言う通りよアナタ。
拘るのはわかりますが、もう私達と彼等は別人なのですから」
はげます者達によって決意をしたり。
「リアス・グレモリーさんの騎士だったね。
二人の相手は僕がするよ」
「兵士は確か赤龍帝だったな。
お前の相手は俺がする」
「くっ、木場、コイツ等……」
「ああ……強い……!」
「残りは僭越ながら、女王である私が相手をしますわ。
ああ、何時だったかのライザーの僧侶として出ていた私とは思わない事ですね」
「そ、そうみたいね……」
「す、すごい迫力ですぅ……!」
「くっ……これじゃあウァラクさんに近づけない……!」
かつての自分自身に対して壁として立ちはだかったり。
「我が名は絶狼……銀牙騎士!」
「我が名は呀―――暗黒騎士!」
「さぁ、始めましょうか……!!」
かつて生徒会のメンバーとなった者達は更に強くなっていく。
そして……。
「……………」
「その、なんだ……久しぶりというか……」
「ああ……言いたいことはわかるぞ小僧。
だが何も言うな」
「まあ! ではもうすぐお子さんが?」
「ええ、来月には生まれる予定です。
ふふ、昔のアナタ達を参考にしてみた結果、うまく行きました。彼もちゃんと私と一緒になってくれると言ってくれましたし、今一番幸せです!」
「………。鬼みたいに強かった堕天使が天使に押し倒されたって……」
「だから言うな小僧ォ! 気づいたら俺より実力が上回ってたんだ!」
「アザゼルやミカエルといった、両陣営のトップはなんと?」
「アイツがどちらも完璧に黙らせたおかげで、イザコザは無い……はぁ」
「なんつーか、お疲れっす」
「チッ、まさかフリードの宿敵だった小僧二人にすらそんな目をされるとはな……」
こんな事や……。
「自分自身が死ぬ姿を見るのは、あまり気持ちの良いものではありませんね……」
「カテレアさん……」
「その名は既に過去のものです。
今の私はアーシェですよ元士郎?」
「俺にとってもその名前は過去です、今はバラゴですから」
「ふふ、お互い不思議な経験よね? でもこうしてまた会えた。
今度は厄介な名も血も無いけど、私の事……受け入れてくれる?」
「勿論、あの二人を見る度にアナタが恋しかったですから」
こんな事もあったとか。
始まらない
補足
没落貴族として生まれ変わっている。
しかし一応純血なので割りとアッサリとイチャコラできましたとさ。
その2
同じく別人に生まれ変わった二人が居たとしたら、最強戦力になるに違いない。
その3
天使さん、幸せ過ぎてヤバイの巻。
堕天使さん、逃げられなくなる。
その4
お悩み中。
詳しくは活動報告にて