……若干設定忘れてるけど
他人の身体を乗っ取ってしまい、本人ではない存在。
兵藤一誠から結城リトへと変わって以降、最愛の存在との永遠の別れを強いられたという事もあり、ずっと彼の心には虚無感が残り続けた。
それでも自らの自我を崩壊させなかったのは、自身の魂と共にある相棒のドラゴンの存在と、無限に進化する特性。
復讐から、最愛の悪魔の少女を守る為にその特性を研ぎ澄ませ続けた少年は全く異なる世界と、全く異なる肉体と名を持って死んだように生き続けている。
だが、宇宙からやってきた少女との出会いと、それが織り成す様々なトラブルが彼の止まった時をゆっくりと再始動させていく。
その宇宙人の少女に好意を持たれようが少年は興味なんて無く、降り注ぐトラブルは物理で無理矢理解決していく中、少女の父との戦闘は、紛いなりにも強さにそれなりの自負がある少年のプライドを完璧にへし折る事になった。
宇宙の覇者との戦いに敗北。
肉体はどうであれその自我を『赤龍帝・兵藤一誠』に戻した正真正銘の全力の戦いに敗北する事で、まだ肉体としては未完成だとしても、結城リトはプライドを砕かれた。
勝手に好いてくる宇宙人の少女や、最愛の悪魔の少女と姿形は違えど、その性質は酷似した生体兵器の少女達の前で見せてしまった敗北。
打ちのめされたプライドが修復する事は無い――そう思われた。
しかし結城リトは復活した。
リベンジを誓う事で、止まった時を少しずつ動かし始めたのだ。
その理由となったのは、初めて出会った宇宙人の少女でも、結城リトの妹でも、悪魔の少女と似通った性質に覚醒した金色の少女でもない――
「取り戻すぞドライグ、あの野郎にリベンジする為に」
『ああ、当然だ。
俺達の力はまだまだこんなものではない』
最初は互いに毛嫌いしていた宇宙人の少女の妹の片割れによって。
ギド・ルシオン・デビルークとの決闘に敗北してから月日は流れた。
一度はプライドを粉々に打ち砕かれ、全てがどうでも良くなっていたリトだが、リベンジを誓う事で再起する道を選んだ。
学年も二学年へと進級となり、クラス替えもあったり、その間にも色々なトラブルが舞い込んで来たが、ギド以外に遅れを取る事は殆ど無いし、異性に対する凄まじいドライさも変わらずだった。
変わった事と云えば、一年生の終盤から宇宙からやってきたララの双子の妹達が結城家に住み着いたとか、片割れのモモに嘗めた真似をされたので、徹底的に拒否反応を示しまくったり、反対にもう片割れの――
「チッ、全然背が伸びねぇ……」
「イッセーだった頃はどんくらいだったんだよ?」
『肉体的な成長期の終着点は確か188㎝程だったな』
ナナ・アスタ・デビルークとは逆に色々と世話になったのもあるし、性格がさっぱり気味だったので意外な事に毛嫌いといった感情は無かった。
いや、寧ろリトのほうがナナに懐いている感すらあった。
「無理に身体を痛め付けながら鍛えてるからじゃないのか? 睡眠も大事だと思うぞ」
「むぅ……」
ララ、モモ、ナナ
デビルークのお姫様三姉妹は今現在、父のギドの意向もあって結城家に居候中。
しかしながら、最初に居候となったララはイッセーとしての過去に悪気がなかったとはいえ土足で踏み込んでしまった時に向けられた無の感情がトラウマになってイマイチ近寄れず、末っ子のモモはなまじ策士タイプで、ファーストコンタクトも完全にミスったせいで、一番嫌われてしまっている。
故に、簡単にリトに近寄れるナナは二人から軽く嫉妬に近い感情を向けられている。
無論、ナナも二人とは仲良くして欲しいので、色々と間に入ろうとはするのだけど……。
「り、リトさん! 身長を伸ばしたいのでしたら、私に良い考えが……!」
「Fuck you ぶち殺すぞ」
「」
「そ、そんな言い方しなくても……」
特にモモに対する対応が終始塩――いや、タバスコを思わせる程の激辛対応だった。
その理由も一応はあって、悉くモモがリトの中に設置してある地雷を踏みまくったせいであり、今では顔を見るだけで舌打ちは基本となってしまうレベルまで嫌っていた。
「モモが真っ白な灰に……」
「ちょっとでも甘くすれば即付け上がるガキにはちょうど良い」
「そ、そりゃあ確かにモモがリトの地雷を悉く踏みまくってきたのは事実だけど、ほんのちょっとで良いから許してあげられないのか?」
「…………。まあ、ナナが言うなら考えてやらんこともない」
ナナが説得をすれば多少は軟化するけど、モモからすればナナには相当甘いのを散々見せ付けられてきたので、あまり救われた気にはならない。
寧ろ、ナナに軽く嫉妬の念の方が増幅する訳で。
「おいナナの妹。
ナナに言われて気付いたが、確かに今のは言い過ぎた。
本当は嫌々だけど、訂正するわ」
「な、ナナに言われてじゃないですか。それにそんな心底嫌そうな顔されて言われても嬉しくもなんともありませんよっ!!」
「あ、そう、ならば言い方を変えようか―――俺の半径五メートル以内に近づくな」
「」
何でこうなってしまったのか……モモは大人気なく中指まで立てて吐き捨てるリトに百は折れた心をまた折りながら真っ白な灰への戻るのだった。
さて、真っ白な灰になって結城家の庭に立ち尽くすモモは放置したリトは、餌の催促だけの為にやって来る野良猫の様にいつの間にかリビングに居た金髪少女であるヤミやらララ等を交えて妹の美柑の作った朝食を食べ終える。
「結城リト、本日のご予定は? 学校は休みなのは既にリサーチ済みです」
「トレーニングに付き合うのは構わないけど、たい焼きを買いに行くのには付き合わないぞ」
「む、何故ですか? どうせ暇でしょう?」
「俺に金を出させるし、キミは絶対に五千円分以上も買うだろうが。
俺は金持ちじゃねーんでね」
「むー……」
初めて出会い、軽くリトにあしらわれて以降、つけ狙い続ける少女、ヤミは宇宙人であり、造られた存在だ。
トランス能力でターゲットを仕留める宇宙の殺し屋と呼ばれし放浪者だった彼女は、何度もリトに挑んでは返り討ちにされていく内にイッセーとしてのリトを知り、そして彼が今現在も愛し続けるリアス・グレモリーと酷似した性質に覚醒した。
そればかりか、リトの中に宿る龍が一定距離の間ならばワイヤレスで移動して宿せる擬似的な赤龍帝にもなれる。
今でもリトを仕留める気ではいるのだが、それと同時に彼とのトレーニングでより高みに昇る楽しさにも目覚めてしまったらしく、ここ最近の彼女はトレーニングを共にし、終わってから食べるたい焼きが楽しみで仕方ない――半分は年頃の少女らしい感情を持ち始めていた。
まあ、今リトにすげなく断られてしまったのだが。
「じゃあさリト、トレーニングが終わったらたまには遊びに行くとかどうかな?」
そんなヤミが断られて軽く膨れてるのを見ていたのは、リトの地雷を一度踏んでしまって以降、持ち前の明るさと積極性が封殺されてしまったララだった。
宇宙の中でも最上位と言われる程の美貌と可憐さを持つララだが、リトにはまったく通じてなく、庭でまだ灰になってるモモよりは対応もマイルドなのだが、積極性殺されてるせいか、何時も遠慮がちな態度になってしまっていた。
とはいえ、それでもララは父の様に強くて影のあるストイックさを持つリトに惹かれてしまっていて、諦めたくはなかったのか、隙さえあればデート的な提案をする努力は欠かさない。
そう、地雷さえ踏まなければリトは基本的に優しい。
……………後から来たナナには最上位の優しさを見せて胸の中が常にモヤモヤするけど。
「遊びに……?」
「う、うん、パパに勝つ為に凄いトレーニングをするのも大切だと思うけど、気分転換も大切なんじゃないかなー……って。
ほ、ほら、この前家に届いたチラシによると、近くで『なつまつり』ってのがあるみたいだよ?」
ギドに負けた時、誰もリトに近寄ることが出来なかったのに、ナナだけが独りで何処かへと行ってしまったリトを探しだして以降、リトはナナに甘くなった。
ヤミにもそうだけど、それと同等にナナには優しく、一番先に出会ったのは自分なのにと、ララの表情は何時も曇っていた。
「祭りねー……?」
「その祭りとやらにはたい焼きは?」
「間違いなくあるよヤミさん」
「! 私はプリンセス・ララに賛成します!」
けれど勇気を出さなければそれこそ置いていかれる。
そう思ってのこの誘いに対して、たい焼きがあるとわかった途端目がキラキラしているヤミを横に考えている素振りを見せるリトをじーっと見つめるララ。
「まあ、たまには良いか」
そしてその願いは通じた。
その瞬間、久々にララの表情は明るくなった。
対・ギドのトレーニングを夕方までヤミと行い、一度家に戻って準備を済ませたリトは、用意でもしていたのか、浴衣に着替えていた女子達と共に地元内では中々に大規模な祭りの会場へと到着した。
「おおっ、これが祭りか! 楽しそうだな!」
「たい焼き! 結城リト、たい焼きが売ってます! 早速買ってください!」
「早ぇっつーの。最初は美柑からだ。
美柑は何が欲しいよ?」
「んー……なんとなくわたあめ?」
Tシャツにハーフパンツに安いサンダルという、そこら辺の兄ちゃんみたいな格好をしているリトは、浴衣姿の美少女達にどうであれ囲まれてる状況のせいか、道行く男達に羨ましがられながら、出店の並ぶ道を歩いていた。
「…………」
「私にはわかってますよララ姉様。
この状況を上手く利用してリトさんとの仲をなんとか深めるのですね!?」
「うん、確かに本音だけど……」
そんなリト達の後ろを歩くのがララ………と、ちゃっかり付いてきてるモモであり、美柑にわたあめを買ってあげてるリトの姿を見つめ続けるララに、どうにも打算的な物言いになってしまうモモが無駄に張り切った声を出している。
「こういう集団のイベントではリトさんとて多少はその警戒心も薄くなるし、少しは対応してくれる筈です! つまりこれはチャンスです!」
「……リトはそんなに甘くないと思うよ?」
「駄目です! ここで足踏みしてしまっては折角のチャンスが無駄になります! ではまずは私が試してみせましょう!」
(一番リトに毛嫌いされてるモモのあの自信はどこから来るんだろう……?)
その根拠もなく沸いてくる自信がある意味で羨ましいと思うララは、『リトさーん♪』と無駄に可愛いらしく近づくのを見送る。
「リトさん! 私、あの林檎飴というものが食べてみたい――」
「テメーで買ってテメー一人で勝手に食ってろ」
「」
(ほらやっぱり……。流石にモモがやってることがリトにとってよくないのは私でもわかるもん)
養豚場の豚でも見るような冷めきった目で切り捨てる様に言われてしまったモモがまた真っ白になるのを見て、ララはモモを反面教師にして学んでいく。
「そ、そんな意地悪言わないでくださいよ~? 自分のお金で勿論買いますから、こう、一緒に腕とか組みながら買いに行きたい――」
「そろそろその腕引きちぎってその無駄にうざい口の中に捩じ込んでやりゃあ、少しは黙るのか? あ?」
「」
結局毛ほども警戒心が緩くなってないリトに、何時も通りの塩対応をされてしまったモモを見て、ララはまだ大人しくしておいた方が良いやと、反対にナナには何でもかんでも奢ってるその後ろに付いていくのだった。
終わり
リトの身体としての全盛期を取り戻す道は険しい。
何せリーチが少し短いのもそうだが、肉体自身の進化が遅いのだ。
「あ、あの男、まだ強くなる気か? あれではまるで天然の生体兵器じゃないか……」
「あんな人に喧嘩売ってしまって、よく生きてたよね私達……」
体の良い壊れないサンドバッグという酷すぎる理由で生かされた挙げ句、専属パシりにされてしまった第二世代型生体兵器達からすれば、日増しに力を増幅させていくリトの姿にガクブルしたり。
「行きます!」
「来い……!」
イッセーとして愛した少女と同じ性質に覚醒した金色の闇もまた先の領域へと進むし……。
「ふぅ……大分扱い方もわかってきましたよドライグさん」
『お前の場合、イッセーと同じで無駄に禁手化等のパワーアップは却って邪魔になる。
徹底的に基礎を極めて素の姿で戦うべきだ』
「ええ、動き辛そうですからね、あの鎧は」
リトの保護者でもあるパパドラゴンにも認められているし。
だが……。
「……。オレ、アノオンナ キライ」
「何で片言なんだよ?」
「またティアと問題が発生ですか……」
「俺とドライグが理由でイヴを引き上げてしまった事に関しては否定はしねぇよ。
あの女はお前を生物兵器にはしたくなかったらしいし、力を付けさせさという意味で憎まれても……まあ、しょうがねぇとも思ってるよ」
「強くなる事が楽しいから自分から進んでアナタとトレーニングをしているんだって、何度もティアに説明したのですが……」
「親心って奴だろ。
それは分からんでもないから俺も黙ってるさ。
けどよ、四六時中物影からへったくそに覗いてはなんでもない所でひっくり返ったり、一々その度に俺を巻き込むってのは勘弁しろよ。
学校の時にそれやられたせいで、変な噂まで立てられるしよ……」
「あー……」
「その時は流石にイラッとしてしまって、私がティアに文句を言った件でしたね……」
「お陰で俺は女教師に手を出す野郎扱いされちまったし……さっきもヤバイアレなスカウトの男に絡まれてたから、仕方なく横やり入れたらまたひっくり返ってよ……くそ、あの女の胸が無駄にデカいせいで首がむち打ちになっちまった……」
「………………」
「リアス・グレモリーくらいあるもんなぁ……アタシはないけど」
「あ、いや、別にお前らを貶すとかいう意味で言った訳じゃないからな? とにかく、俺はあの女は苦手だ……」
ヤミのクローン元が苦手になったり……。
「zZZ……」
「本当……なんで、どうしてナナにはこうなの!?」
「静にしろよ、寝てるんだから。
起こしたらまた言われるぞ?」
「ぐぬっ! で、でも何でリトさんはナナに膝枕されならが寝るの? ナナにだけ!」
「だから、初対面で色々とやらかしたモモが悪いんだろ? 普通にしてたらリトは普通なんだよ」
「んー……」
「っとと……。ふふ、ほらな?」
「ぐぬぬぬー!」
でもナナは更にオカンになっていったり、
「彼女のスキルを模倣したお陰で、やっとできたわ。
私がリアス・グレモリーよ………まあ、夢の中でしかアナタ達とはお話できない存在だけどね?」
「二度目ですね……」
「リトがイッセーだった時に大切にしていた悪魔……」
夢の中での邂逅があったり。
「イッセーの進化――いえ、今はリトだったわね。
彼の進化が止まってしまったのは、私達のせい。
あの子は私達との思い出に囚われ過ぎてしまっていて、先を見る事を放棄してしまっている」
「ではどうすれば……」
「………。アナタ……イヴさんだったわね? アナタは私と似た性質を持っている。
だから……勝手なお願いだけど、あの子の傍に居て欲しい。
そしてナナさん……」
「アタシ? アタシは別にアイツに何も出来てない……」
「そんな事は無いわ。
アナタはアナタのまま、あの子の傍に居て欲しいの。
ふふ、悔しいけど、あの子はアナタの事が結構好きだから」
イッセーが愛した少女に教えられたり。
※これが執事の場合
元の世界へと戻る方法が実質存在しない。
色々な発明が出来る頭脳を持つ宇宙人の少女にそう告げられてしまったグレモリーとシトリーの執事をしていた日之影一誠は、共に流れてしまったグレモリー家の母であるヴェネラナを守りながら、異界を生きていた。
その協力者たる御門涼子の世話になりながら、直せる気も、直す気も無いコミュ障執事は、ラッキースケベの代名詞となりそうな少年と出会い、その少年や周りの者達と関わりながら、それでも諦めずに元の世界へ戻る方法を模索するのだ。
時にはヴェネラナや涼子の執拗な構い倒しにげんなりしたり、理由の果てに苦手になった金髪タイプに絡まれてストレスを溜めたり、そのストレスによって胃に穴が開いて血反吐を吐いたり。
その吐血した所を偶然、真面目女子に見られて変な誤解をされてしまったり、宇宙の王とタイマンを張ったり……。
元の時代に戻れる目処は立たないが、色々なコネクションを築き上げていく執事は今日も生きているのだ。
そしてその繋がりは、結城リトの肉体に憑依してしまった一誠とは色々と違うものがあった。
例えば、向こうでは一切関わりが無かった涼子もそうだし、金髪嫌いのせいでヤミの事は記憶しようとしなかったり、リトと知り合っていく内に、その妹の美柑と知り合い、グレイフィアやヴェネラナ達に仕込まれた家事スキルを伝授したり……。
何より一番の違いは、デビルークの三姉妹の次女との関係だろう。
向こうはこれでもかと毛嫌いしているが、日之影一誠は特にその次女を毛嫌いしている訳ではない。
というか、特に何をされた訳でもないので、普通に話をするくらいだった。
このコミュ障拗らせ執事がだ。
「………また家出?」
「俺は悪くない。
だってババァと御門がガキ扱いしやがるから……」
「前も同じ様な理由で家出したよね……?」
何度目になるかわからぬ家出をした一誠が、リトの妹である美柑と結城家でお話をしている。
最近めっきりヴェネラナと涼子コンビの構い倒し攻撃から逃れる避難場所となってしまった結城家には、宇宙人の同居人が三人は少なくとも居る。
それは一誠にとっても知り合いであり、そういった居候を受け入れていく内に美柑も慣れてしまったのか、お茶を飲んでから出ていこうとする一誠を引き留めて、好きなだけ居ても良いと受け入れた。
「ある程度受け流せる様にならないとダメだと思うよ?」
「わかってるんだが、上手くいかなくてね……ハァ」
「多分二人も、家出する度にここに来てるって普通にわかってると思う」
「野宿すりゃあ良いとは思うんだけど、どうもここでしかこういった愚痴はできないからね」
「ふーん、ここだけでかー」
「? なに?」
「べっつにー? ………ふふっ♪」
色々教えてくれるし、手伝ってくれる。
最初は兄の年上のクラスメートという認識しかなかったけど、親しくなると結構優しくて、隙が無いように見えて結構情けない隙が多い。
それが美柑の日之影一誠に対する印象であり……
「あら、イッセーさんではありませんか。
…………もしかしてまたヴェネラナさんとドクター・ミカドと何かありました?」
「………………。まあ」
「あのお二人はリトさんに対する私の姉みたいな事ばかりイッセーさんにしますからねぇ……。
ほとぼりが冷めるまで此処に居るべきですね」
「おう……。ところで結城君は?」
「ナナにちょっとやらかして追いかけ回されてますよ……。
ナナも素直じゃありませんからねぇ……」
「またやったんだリトったら……」
「ババァも時もそうだったけど、アレでわざとじゃないってのが最早神憑り的だろ……」
「ふふ、でも見てる分には面白いんですよね~?」
ちょっぴり憧れる年上の男性。
モモ・ベリア・デビルーク。
別のもしもの世界ならば、死ぬほど毛嫌いされてしまう悲運な宇宙人の少女が日之影一誠の存在を知ったのは、姉であるララの様子を見る為に地球へ行った父のギドからの土産話からであった。
顔中が痣だらけになるという、父の驚きの姿もそうだが、宇宙の覇者と呼ばれる程の強さを持つ父と決闘し、決着こそつかなかったが互角だったと父自身が語っていた事に双子の姉であるナナ共々驚いた。
地球という辺境の惑星……それもその星の住人達の戦闘力は平均してとても弱い筈なのに、父とまともに殴り合い、しかも生き残っている……。
そういう意味では強い興味を抱いたモモ。
やがて家出同然にナナと共に母星を飛び出して地球に行き、先に家出していた姉のララが住んでいた結城家に厄介になる事でその人物と出会う事になるのだが……。
『居候がまた増えたのか……大変だろキミも』
『一応手伝ってはくれるから大丈夫。
でも、もうちょっと料理のレパートリーを増やしたいから、教えて欲しかったり』
『よし任せろ』
最初に抱いた印象は、リトよりは背も高いし雰囲気も只者ではないものを感じたが、やってることが給仕の者みたいで、何よりこっちが挨拶をしても何も返してこない程度に無口でつまらなそうな男性……だった。
後々になって聞いた話では、人見知りを拗らせた結果、他人には無愛想になってしまうと、実母に勝るとも劣らぬ美貌の――彼の母らしい女性に教えられる事で理解していくのだが、とにかく最初はまったく喋ろうとしないつまらない男――というのがモモの正直な感想だった。
だから地球に滞在してから暫くは、特に関わる事も無く顔を合わせたら軽い会釈をし合う程度のやり取りしかしなかった。
リトに惹かれてる姉の後押しとか、やらかすリトの性質を見て悪知恵が閃いたりとか、リトの妹である美柑とは結構喋る一誠を何度か目撃したりとか、一誠の作る料理がびっくりするほど美味しいかったりとか、どこぞの星のしょうもない王子に拉致られた際、助けに来たのがまさかの一誠だったとか、何でアナタがと聞いたら……
『………………………………………………………………。偶々』
散々貯めた挙げ句偶々だとぶっきらぼうに言われたりとか。
学校がない日は基本的に燕尾服で、宇宙でも有数のお医者に厄介になってて、彼の母と共に構い倒され過ぎては、家出してきたりとか。
なんやかんやリトの家に頻繁に来ては美柑の家事の手伝いをしているのを見ている内に、最初は美柑経由でしていた会話も普通にできるようになっていったモモは現在、日之影一誠と結構喋る間柄になっていた。
「げっそりした顔で、キミの姉ちゃんが全裸でベッドに潜り込んでくるのをやめてくれないと俺に言ってくるんだが、キミからも言ってやれないのか? 気持ちがなんとなくわかるんだよな……」
「ほほぅ? イッセーさんにもそんな経験が?」
「……。まぁね。
俺の場合は叩き出せるが、結城君の場合はそんな訳にもいかないだろうし」
リトの人柄にはとても好意を抱けるし、現にそんな優しさがあるからこそララを惹き付けたのだろうとモモは思うし、ナナもその内リトに惹かれていくのだろうと思っている。
モモ自身もそういったリトの優しさには好意を抱いている。
「そういえば、最近は天条院さんから追い回されては……」
「………………。折角忘れてたのに、思い出させないでくれ。
アレは最早悪夢でしかねぇ……」
「お金持ちの人だよね。
前にリトも絡まれたって言ってたけど……主にイッセーさん関連で」
「勘弁してくれ。俺はああいうタイプが一番苦手なんだ。
偶然かもしれないけど、金髪の女ってのは何でああなんだ……」
「ヤミさんは別にそうじゃないと思うけど?」
「ヤミさん? …………………………………………。ああ、居たねそんなのも」
「彼女に対しては最早覚えようともしないのですか……」
「いや覚えてるよ。結城君を仕留めるとか言ってる割には地球でのんびりやってる奴だろ? アレに関しては俺の害になってないから印象が無いだけさ」
「……。結構な頻度でイッセーさんに襲い掛かっては返り討ちにされて半泣きになってる気がするんだけど……」
「そういう意味でもさ」
逆にイッセーは一見すると無愛想が服を着て歩いているようなタイプで、優しさというものを他人に見せる事をしない。
イッセーの――血の繋がりは無い母ことヴェネラナが以前チラッと言っていたイッセーの過去から推測するに、彼は余程の事が無ければ他人に対しての警戒心を解こうとしない。
強烈なトラウマがあるから……そして何よりヴェネラナとその家族達がそんな彼の傷を癒す為に構い倒しまくった結果、常に反抗期みたいな性格へとなってしまった。
力を信仰し、力を示す事でしか周囲に自分の価値を示せない……そうでなければ再び見捨てられてしまうという心の奥底に残り続けるトラウマを誤魔化す為に。
「あの人は? 古手川さんって人。
イッセーさんが具合悪い所を見て以降からずっと関わってくるけど……」
「俺が二回留年した、少年院上がりの不良だって思ってるから、真面目な彼女にしたら許せないんだろうよ。
毎度出くわす度に変な漢方薬ばっか渡したり、薄味の料理食わせて来ようとするのはどうかと思うけど――ヴェネラナのババァや御門とか天条院に色々と言ってくれるという意味では結構悪くないタイプだとは思わなくもない」
けれどその不器用な優しさは解る。
解りにくいけど、どこか根っこに残る人の良さが出てしまう所をモモは知っている。
残念なことに、そのわかりにくい優しさを知っているのは自分だけではないのだが。
そして子供には優しい。
美柑に対するやり取りを見れば、それがよく解る。
「ふーん、意外と評価が高いんだね古手川さんに対しては?」
「ひょっとしてイッセーさんはああいう方がタイプなのですか?」
「? いや別に。
ていうかタイプの女とか考えた事もねーよ、嫌いなタイプならすぐ言えるけど」
「「…………」」
「え、なに?」
ほんのちょっと癖のあるモモにとって、そんな影のある優しさは嫌いではない。
「げっ!? ば、ババァと御門の両方から交互に着信が……ぐ、む、無視だこんなもん!」
「良いの? 出ないと後が大変なんじゃ……」
「へ、へっ! 今更あの二人にビビるなんざありえねぇぜ。
…………電池切れって事にして電源切っておこう」
「父と互角に戦える程なのに、そういう所は弱いですね……」
「は? よ、余裕だし、あんな女二人に負ける気なんてしねーけど?」
妙にヘタレな所とか特に。
終わり
毛嫌いされている違う世界とは事なり、執事である彼とはそれなりな関係性であるモモ。
「キミは本当に凄いな。
わざとじゃないかって毎度思うぞ」
「お、オレにもわかんねーっす。うう、よりにもよって西連寺にあんな事をしてしまうなんて……」
「……。まーでも許してくれると思うぞ? なんとなくだけど」
「ええ、寧ろ反応的には……ねぇ?」
「な、なんだよ二人揃ってその意味深な言い方は……?」
ラッキースケベの神であるリトのお悩み相談を一緒にしてたり。
「しかし母の魅了が全く通じないのには驚きました」
「そんな柔な精神はしてないし……顔とかじゃなく、ババァに似てるもんだからよ……」
「え!? それってつまり母が結構好き――」
「いや、ハッキリと苦手だよ。
ババァには似てるが、正直ババァの方が見てくれは良いと思ってるし」
「……やっぱりマザコンですねイッセーさんは」
「マザコンじゃねーし」
とある日やって来た三姉妹の母のうっかりによってイッセーに魅了が降りかかったが、一切顔色が変わらず、それを見ていたヴェネラナと喧嘩になった反省会をしたり。
「あ……」
「! 危ない!」
姉達の後押しを頑張ってちょっと疲れが出てきて倒れそうになった所を支えられたり……。
「疲れてるなら休めよ。
キミ、やっぱ悟られずに抱え込むタイプだろ……」
「そういうつもりは無いのですが………あのー……」
「ん? 何か飲みたいのか?」
「いえ………支えて頂いてるイッセーさんの手が私の―――」
「……………………。すまん、この手首を切り落としても構わない」
「そ、そんな事はしませんよっ! 逆にそんな冷静な顔をされると却って傷つきますし……イッセーさんもあまりリトさんの事は言えないと思いますよ? この前体調を崩された時も看病をしてくれた美柑さんと私に――」
「だ、だから俺が寝るときは絶対に近寄るなって言ったんだよ! 自分でもわかんないけどそうしちゃうから!」
「………ヴェネラナさん曰く、余程気を許さない限りはしないらしいですけど?」
「そりゃ確かに嫌いではないけど……」
「………ヘタレ」
「なんで!?」
「ふふ……でも嬉しいかな? 少なくとも嫌われてないって事だから」
向こう側の世界の者達が見たら驚くか騒ぐか……そんな関係だ。
「イッセーとデートがしたいなら、この母を倒しなさい!」
「デケー声で何言ってんだよババァ! そんなしょうもねー話に乗る奴なんて――」
『………………』
「……。意外と居るのよイッセー? まったく、リアス達に知られたら大変よ?」
「知るか!」
最大の壁はママンだが。
補足
超塩対応の憑依。
しかしナナたそはオカン化が止まらん。
そう、せーの……ナナたそーっと。
その2
逆に執事さんの場合はママン居るから精神的余裕があるし、ファーストコンタクトも普通だったから、徐々に仲良くなったとか。
憑依側のモモさんが見たらそら『何故!?』となりそうだね……うん。
………。仲良くなってる相手が軒並み年下なのは気のせいさ。
だって御門さんとか古手川さんとか………天条院さんからも基本構われてるしね。
え、普通に会話が成立してる相手が美柑たそなのはどういうことだって?
……彼って無理してても表に出さずに頑張るタイプの子に好印象を持つんだからしょうがない。
偶々美柑たそとかモモたそがそうだっだけ! だからアレではない。
体調ぶっ壊して寝込んでた時にお見舞いに来た二人を寝ぼけて引きずり込んでしまって大騒ぎになったけど、関係ない!!