色々なIF集   作:超人類DX

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試作続き物第三弾


話数でいえば大分前のロザリオとバンパイアの奴。


バンパイアと赤龍帝

 最後にて最悪と呼ばれた赤龍帝。

 

 非人間族は全て敵と見なし、宣戦布告し、絶滅させてしまった――人から生まれた化け物。

 

 

 非人間族のひとつである悪魔にされた仕打ちによる憎悪が青年を突き動かし、手の付けられぬ異常な進化を促し続けたからこそ可能にさせてしまった悲劇。

 

 しかし、そんな悲劇をただ一人生き残った非人間族。

 

 元は青年を支配下に無理矢理置いた悪魔の部下の一人の猫妖怪であり、支配から解き放たれたと同時に押さえ込まれた力を復活させた青年に、原型が判別すら出来ぬ程に痛め付けられた。

 

 他の悪魔達と同じく、立つことも喋ることもできなかっなった、生きているだけの存在にされてしまった白い猫だったのだけど、白い猫は支配されて憎悪を燃やし続けていた青年の力ではなく、青年そのものを欲していた。

 

  その求める想いが――狂気とも言える執着が、白い猫の少女を青年と同じ領域へと押し上げ、復活する。

 

 そこから途方もない年月を掛けた青年との殺し合いだ。

 非人間族を憎み、そしてそうさせた元凶である悪魔の仲間でもあった白い猫の存在そのものを許さない青年の殺意と、青年をどんな感情を向けられても欲する白い猫の戦い。

 

 互いが互いを進化させ、悲劇の殺し合いはますます加速していき……最期の最期は青年の領域を越えていき、外の神を共に殺した。

 

 その後世界がどうなったのかはわからない。

 

 

 青年は白い猫に憎悪と憎悪に比例する借りを返せぬまま自らの生に終止符を打ち。

 白い猫の少女も同じく、青年の居ない世界に価値なんてないと自ら世界から飛び出したのだ。

 

 こうして、永遠に交わることのなかった龍の帝王と白い猫の戦いは終わりを告げた―――筈だった。

 

 

 青年の魂は死して尚消えることは無く、全く異なる世界の、普通の人間の夫婦の子として転生し、再びその目を開けたのだ。

 

 兵藤一誠と呼ばれた赤龍帝から、青野月音へ。

 何の皮肉か、白音と呼ばれた白い猫と同じ音という読みと字が名前となり……。

 そして一誠としての記憶とセンスを持ち……。

 

 

 それからの彼は白い猫への借りを返す為に、この世界のどこかに必ず居る筈の白音を探した。

 

 忌み嫌う非人間族がこっそり集まる学校に入学し、吸血鬼の娘さんと知り合う事で少しずつ彼の中にある憎悪の念を変えていきながら。

 

 

「貧血だけど、キミの師匠に学園の制服を着て貰ったし、写真まで撮らせて貰ったから俺の心は満足そのものだぜ……」

 

「だ・か・ら! どうしてお館様にばっかりそういう事をさせるのですか!?」

 

「彼女だからこそだよ……あの恥ずかしそうな表情を見るだけで一週間頑張れる気がするぜ……へへへ」

 

「ぐ、ぐぬぬ! お、お館様もお館様で簡単に月音さんの言うことを聞いちゃうんだから、もー!」

 

 

 最近は特にホクホクとした顔で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤夜萌香は吸血鬼……バンパイアである。

 普段の彼女はとても穏やかな美少女なのであるが、一度首に掛けられたロザリオが外されれば、封印されている妖気が解放され、銀髪の美しい容姿を持つ力の大妖としての人格が現れる。

 

 その時の萌香は裏萌香と暫定的に呼ばれており、種族としての力を存分に発揮する強い美少女となる。

 ………のだが、その裏萌香は陽海学園に入学したその初日に、自分の遥か上の領域に君臨している存在と出会った。

 

 何をしても勝てないと思い知らされる程の絶大なパワーを初めて目の当たりにし、指一本で敗北を味わあわされ、そして自分を含めた全ての妖怪達を一言に『有象無象』と言い切る傲慢とも取れる態度。

 

 何もかもが新鮮であり、裏萌香はその日から完全なる格上として月音をマークする様になり、彼の力を間近で浴びた影響なのか、それまで不可能だった普段の人格である萌香との意志疎通を可能にさせながら、嫌々仕方なく相手になっている月音を追っ掛けた。

 

 当初は、あんな面倒な性格してて、基本的に他人への関心が無くて、顔に似合わず敵となった相手への鬼畜さを思えば、誰も近づこうとなんてしないと考えていた。

 

 表の萌香はどうやら月音の中に宿るドライグと呼ばれるドラゴンが気になっている様だし、この分なら誰の邪魔も無く月音と遊べる――と素直になれない面もあって楽観視していた。

 

 しかしそんな裏萌香の楽観視とは裏腹に、月音には知り合いが増えた。

 それも異性の知り合いが殆ど。

 

 

 飛び級魔女っ娘やら、セクハラ猫教師やら、雪女やら……。

 基本的に人間の異性にしか興味がないので、変な事にはならないと思ってたけど、それも最近怪しい。

 

 特に夏休みの合宿で出会した魔女の師弟の――特に師の方に対しての月音は、普段からは考えられない程色々としようとしている。

 

 貧血覚悟で血を提供して、ボロボロだった肉体の回復の手伝いをしたり、ひまわりの丘の存続の為に奔走したり……。

 最近じゃその恩を盾に年齢的には完全におばさん以上の師に対してアレコレと服を着せている。

 

 しかも腹立つ事に師の方は嫌がってはいるが、結局着ている。

 

 

「よし決めた! 次は『妙齢魔女の女学生時代』で朝刊トップ決まりだぜ!」

 

『却下!』

 

 

 しかも週に一回は必ず学園を抜け出して魔女の師の所へ行ってる。

 それが裏萌香には、最近の対人関係的な意味を含めて気に入らなかった。

 

 

「気に食わん」

 

「入れ替わっていきなりなによ?」

 

「月音に関してだ。

お前らのせいで、月音と遊ぶ時間が減ってしまっている」

 

 

 そんは不満は遂に、公安を全滅させたせいで公安を学園長と何かしらの取引によってやることになり、今見回りの為に先日から学園に入ってきた魔女の弟子である瑠妃と一緒に学園の見回りに出ていった事で軽い爆発を起こしていた。

 

 新聞部の部室に居る飛び級魔女っ娘である紫や、別に入部はしてないけど、何か居る雪女ことみぞれ、それから月音を寧ろ嫌ってたのに、先日の件から態度が変わってるサキュバスの胡夢に、腕を組んで座っていた裏萌香は不満タラタラに文句を言っていた。

 

 

「特にお前。

散々月音に怯えて嫌ってた癖に、一度もののついでに助けられただけで態度を変えるのか?」

 

「ついでってのは……まー否定できないわね。

多分月音は紫ちゃんの方を助けたかったんだろうし」

 

「そんな事は無いと思いますけど。

あの時月音さんは胡夢さんと私を同時に助けてくれましたし」

 

 

 裏萌香に言われて怒るでなく、苦笑いしながら否定せずにいる胡夢に、紫が逆に否定する。

 本人に聞けば間違いなく『ついでだし、別に知らん存在じゃないし』と言うだろうが、あの時に限れば確かに月音は二人をほぼ同時に暴漢から助けていた。

 

 

「そ、そうかな?」

 

「そうですよ。……正直、ちょっと悔しいですけど」

 

「…………」

 

 

 紫に言われて少し嬉しそうに照れる胡夢に裏萌香はますますムッとなっていると、それまで黙って聞いていたみぞれが口を開く。

 

 

「ここで文句を言ってても月音がお前にそうなるとは思えないけど?」

 

「何が言いたい?」

 

 

 ジロッと睨む裏萌香にみぞれはのほほんと返す。

 

 

「今寧ろ脅威なのは、例のお館様って奴じゃないのか? 明らかに月音はソイツに肩入れをしてるじゃないか」

 

「確かに……コスプレさせてるらしいし」

 

「月音さん曰く『この魅力はそこら辺の小娘には出せない』って言ってますぅ」

 

 

 みぞれの言葉に、紫も胡夢も、若干悔しげに同意する。

 

 みぞれの言っていることは間違ってはおらず、裏萌香も一度お館様―――真の名がイリナである魔女とは会ったし、あまりに月音が肩入れをし過ぎたせいで、彼女も部下として欲しいみたいな発言をしたので、修羅場になってしまった事もある。

 

 ……その原因の月音は呑気にポテチ食いながら漫画読んでたけど。

 

 

「でもあの人の名前を聞いた時の月音ってさ、本当に驚いてた気がするんだけど」

 

「私はその時はまだ居なかったからわからないが、そうなのか?」

 

「そういえば……。

暫く放心していました」

 

『ドライグ君も驚いてたよ確か』

 

 

 それまで黙って裏萌香に代わってロザリオに入ってた表の萌香も、イリナという名を魔女から聞いた瞬間ドライグまでもが驚いていたと話す。

 

 

「まさか、この学園に入学する前の知り合いの女の名前……?」

 

『…………』

 

 

 案外良い線いったみぞれの考察に、そんな気がしてきた他の女子達の表情は少し不安になる。

 裏萌香さえも、『私は別に月音にそんな感情は無いが?』みたいに装っているが、殆ど顔に出てるまさにその時、見回りを終えた月音と瑠妃が新聞部の部室に戻ってきた。

 

 

「………………?」

 

「どうしたのですか皆さん?」

 

 

 見回りの途中、学園祭の実行委員の会長に話し掛けられたけど、学園祭自体がどうなろうと関係ない考えだったのでガン無視したり、その直後にはぐれ妖怪に背後から奇襲されたけど、貧血から既に回復していた月音に全滅させられて学園外れの湖に沈められたりと――瑠妃的には中々に刺激的な見回りを終えて戻ってきてみれば、入れ替わってる萌香を含めた全員が妙に不安そうな顔をしていた。

 

 

「………! あ、月音! お前また誰かと戦ったのか!?」

 

「え? ああ、また例のはぐれとかいう奴。

全身ぶっ壊してから湖に沈めた」

 

「や、やることが本当に一々えげつないわね……」

 

「そうではない! そういう事がある場合は私を呼べと言ったではないか!」

 

「すぐ終わる様な雑魚にキミを一々呼ぶ必要なんてあるか? もっと強いのに襲われたら呼ぶよ」

 

「! そ、そうか……? ま、まあそれなら仕方ない、今回だけは許してやろう」

 

((((軽くあしらわれてるのに……チョロい))))

 

 

 普通にあしらわれてるだけなのに、にょっとニヤニヤしながら矛を納めてしまった裏萌香に、見ていた者達はそのチョロさになんとも言えない気分になる。

 

 

『お疲れ様ドライグ君』

 

『いや、俺は見てただけだ。

月音自身の錆び付いた力を磨くには、俺の力ばかり使っては意味が無いからな』

 

『そっか。あ、ねぇねぇ、ドライグ君と月音って私とこの子みたいに入れ替わったりできないの?』

 

『? そんなものは試した事は――――いや、あるな。

大分昔、意識を失ってしまったコイツをなんとしてでも逃がす為に一時的に俺が肉体と意識の主導権を取った事が……』

 

『じゃ、じゃあもしかして出来るかもしれないの!?』

 

『あ、ああ……? 多分できるとは思うが、肉体は月音のものだから勝手にはできんぞ俺は』

 

『それは勿論そうだけど、えへへ~? そーなんだー、ふーん?』

 

『??? わからん……』

 

 

 左腕にある籠手と、裏萌香の首にあるロザリオとの会話だけが妙にのほほんとしている中、それまでニヨニヨとしていた裏萌香がハッとした顔をする。

 

 

「お、おほん! そ、それは良いとしてだな月音よ?」

 

「なに? 俺今から次の記事の編集作業をしたいんだけど」

 

「やりながらでも良いから聞け」

 

 

 顧問であり、担任である猫目静にセクハラされるのが嫌で嫌々入ったわりには、根がそうなのか、律儀に部活らしいことをしている月音は、週一ペースで人間界に赴いては、学園長にタカって手にした金で購入して持ち込んだ高スペックのノートPCのキーボードを打ちながら記事の編集作業を行っており、そんな月音に裏萌香は先程の話し合いで出てきた疑問を訊ねてみた。

 

 

「あの魔女がイリナという名だったと聞いた時、お前とドライグは心底驚いていた様だが…………他にその様な名の者と知り合いなのか?」

 

「…………」

 

『……………』

 

 

 それまでカタカタとキーボードを叩いていた月音の指が一瞬止まる。

 

 

(今月音さんの雰囲気が……)

 

(一瞬だけ変わった気がする……)

 

(…………)

 

 

 瑠妃も含め、月音の雰囲気が変化したのを感じたが、それも一瞬の事であり、再びキーボードを叩き始めた月音の視線は画面に向けられたままだった。

 

 

「知り合いが居たとしたら何?」

 

「………」

 

 

 しまった、地雷だったか? と裏萌香も部室内の体感温度がみぞれ関係なく2℃は下がった気がするのを感じながらも、あくまで只の疑問といった風を装う。

 

 

「いや、単に気になっただけだ。

お前があんな顔をしたのは見たこともなかったしな」

 

 

 

 そう言いながら他の女子達と視線を合わせる。

 『あまり深く聞いてはいけないと思うがどうする?』といった意味の合図であり、他の者達――みぞれですらもこれ以上深く聞いたら不味い気がすると、全員一致で頷いた。

 

 しかしその直後――

 

 

「名前に驚いたのは、初恋の子の名前と同じだったからってだけで、別に変な意味はないよ」

 

 

 あっさりサッパリと、月音の方から編集作業をしながらカミングアウトをした。

 

 

「ほう……初恋か――

 

「なるほど、初恋の方と同じ名前なら仕方ありませんね――

 

「うんうん、仕方ない仕方ない――

 

「お館様と初恋の方が同じお名前なら、確かに驚きますよね――

 

「なんだ、初恋ってだけだったのか――

 

 

 

 その、あまりにも普通に言われたせいで、普通に飲み込もうとしてしまった女子達だが……。

 

 

『――――ハァッ!?!?』

 

 

 

 直後、面白いくらい同じように驚愕した顔で声を揃えるのだった。

 

 

「ちょ、ちょっと待て月音!? 今の発言はからかってるのだろう!?」

 

「そ、そうですよね!? そうと言ってください!」

 

「嘘言ってなんになるんだよ?」

 

「え、じゃ、じゃあ本当に……?」

 

「……………。消してやる」

 

「お、お館様にやたら優しいのはそういう理由だっただなんて……」

 

 

 愕然のする女子達は次々と月音に詰め寄るが、月音は平気な顔で作業を続けている。

 

 

「い、今そのイリナという女は……?」

 

「……。死んだよ、ずっと前に病気で」

 

「……え」

 

 

 当然気になって、地雷とか考えられずに深く訊ねたその矢先、少しだけ画面から目を伏せて指を止めた月音の一言に、それまで大騒ぎしていた女子達は皆声が出せなくなった。

 

 

「す、すまん月音。余計な事を聞いた……」

 

 

 触れてはいけない部分に――それも最もデリケートな箇所を勢いとはいえつついてしまったと裏萌香はすぐに謝った。

 

 

「別に……」

 

 

 しかし月音は意外にも気にしてないといった様子であり、enterキーを押して作業を終わらせると、おろおろしている女子達に向かって軽く笑いながら口を開く。

 

 

「今はもう居ないけど、あの時の思い出はちゃんと俺の中に残ってるし、居ないのは事実だからな。

だから気にするな。俺はあの頃が一番強くて、一番楽しくて、一番幸せだった………それはこれまでもこれからも変わらねぇ」

 

『…………』

 

 

 恐らく、初めて見る月音の心底穏やかで優しげで――そして儚げな表情に、大なり小なり月音が気になる少女達は目を奪われた。

 

 

「思い返すとマジで幸せだったよなドライグ?」

 

『まぁな、進化の速度も一番充実していたし……だがお前、イリナばかりではなくゼノヴィアをハブるなよ』

 

「当然だろ。忘れる訳がない。

あの二人は俺にとって恩人でもあり、親友でもあり……一緒に強くなった大好きな子達なんだから」

 

 

 どんな思い出なのかはまだわからない。けれどドライグと語り合うその口調も表情の全てが幸福に満ちているものであり、決して自分達には向けられた事のないものだというのだけは、萌香達にはわかってしまった。

 

 

「ああ、名前が同じで驚いたとはいえ、イリナさんとイリナを重ねてるってのはありえねぇからな? そもそも名前だけで全然似てねーし。

まあ、あの人自体は結構嫌いじゃあないけど……クククッ」

 

『…………』

 

 

 それってつまり好きって意味じゃないか……。

 月音の口癖である『まあ、嫌いではない』の裏の意味を知っている萌香達は、悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる月音を見て、胸の中がズキズキと痛んだ。

 

 

「と、いう訳でイリナさんには学生服も良いけど、悪魔祓いコスチュームなんかを着て貰おうかなと俺は考えてる」

 

『…………』

 

 

 直後の残念な発言で台無しにはなったが、月音が他の異性にほぼ無関心であった理由がなんとなくわかってしまったという意味では、結構辛いものを感じる他なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月音に初恋の人が居た――それもこれまでの性癖からして間違いなく人間の女の子だったのだろうとショックが大きい者がまあまあ居たりするけれど、月音が一々そんな女子達の反応に気付く訳も無いし、気付いた所でどうとも思わない。

 

 

「……………………」

 

 

 かつて生きた世界とこの世界の非人間族は少しだけ――彼にしてみれば微々たる違いでしかないけど、それでも異なる価値観を持っている。

 

 それ自体は少しだけ認める。

 しかし結局の所一誠としての記憶と人格を持ち続けている月音に共存という考えには至らない。

 

 現状は共存に近い関係を保っているが、弟子だったと自称し、明確に行方を知る御子神典明との契約が終わるまでだ。

 ある程度裏の世界に顔が利くらしい彼を利用すれば、あのひまわりの丘を守る魔女師弟に対する外敵への抑止力が働くし、何より白音の行方を現状唯一知る存在だ。

 

 あの暴食の塊と化した忌々しい白音と何があったのかなんて興味は無いが、彼女に対する『借り』を返す必要がある月音にとって、彼は利用価値があるのだ。

 

 故に今は自ら非人間族を駆逐するといった行動は起こさない。

 向こうが余計な干渉をしてきた場合は――これまでと変わらず、一々残虐な方法で報復するが。

 

 

「……………」

 

 

 皮肉な事に、その異常性が同種たる多くの人間には化け物と恐れられられ、同種の異性からは基本煙たがられるのに、非人間族の異性を一誠の時から惹き付けてしまうという―――本人してみれば反吐しか出ない雰囲気を纏う月音が今やるべき事は三つ。

 

 一つ目は、御子神典明の後ろ楯を魔女師弟に付けさせ、より確実にあの丘を守らせる事。

 

 二つ目は、丘を守る為に自身の肉体を媒体に危険な魔術回路を残している魔女・イリナを完全に回復させる事。

 これについては、自身の異常性によって適応進化した肉体と赤龍帝としての細胞を血液を介して提供させ、彼女に定着させさえすれば問題はない。

 

 既に禁断の魔術によって干からびてひび割れた魔女イリナの肉体は、月音の提供した血を少しずつ取り込ませていく事により、肌の潤いや髪の色艶を取り戻しているし、血色も徐々に戻っている。

 

 

『そのままアンタにくたばられたら癪だし、ここまで付き合ってやったんだから、今度は俺の言うことを聞いて貰うぜ?』

 

 

 本来ならば死ぬ筈であった彼女に、そう悪っぽく笑いながら宣った月音自ら与えた他者の引き上げ。

 

 

『代償はアンタが今までの魔女ではなくなる事。

そして俺と同じく、そう簡単にはくたばれなくなる……。

そう簡単には死なせない――それが赤龍帝(オレタチ)に力を借りた代償だ』

 

 

 そこら辺の妖怪達よりも高い生命力の存在へと引き上げる事が二つ目の目的。

 別にそうすることで彼女を戦線に立たせるという目論見があるといった訳ではないが、肌や髪の潤いを取り戻して妙齢な魔女へと戻っていくイリナを見るのは――月音にとって人間界で女子大生をナンパする時並みにワクワクするのだ。

 

 ………冗談で着てくれと持ち込んだコスプレを恥ずかしそうに拒否しながらも着てくれた時なんかは、心底呆れていたドライグに中から見られながらテンションを上げたくらいだし、月音にとって彼女は中々の逸材らしいのだ。

 

 

 そして三つ目。

 これこそが月音にとっての最終目的で、力を完全な状態という意味で全盛期に戻す事だ。

 

 イリナに普通なら致死量となる血液を一気に提供した後、はぐれ妖怪に人質を取られていたとはいえ、多少殴る蹴るの暴行を受けた程度でフラフラになってしまう程貧弱化した肉体―――――――――いや、厳密には記憶と魂の強さに月音としての肉体がまだ追い付いておらず、精神と肉体のバランスが取れていない状況をなければ、白音が復活した後の殺し合いで確実に負けてしまう。

 

 

「………………………」

 

 

 その為には今までそれが当たり前だったが為に行っていたドライグとの連携を一時的にストップし、月音としての肉体での進化を果たさなければならない。

 

 故に―――一々前置きが長くなってしまったが、現在月音は学園近くの海岸に来ていて自己鍛練をしていた。

 水面揺らぐ海を前に立ち、ドライグの力を借りず己のだけの力をみなぎらせ、拳を突き出す。

 

 その突き出された拳から見えない巨大な力が放たれ、空を裂き、拳圧の作る風が海を割る。

 

 

「凄い……」

 

「向こうまで海面が割れてるぞ」

 

 

 妖怪でも感嘆する芸当らしく、こっそりと一人でやろうと寮を抜け出した月音を発見してついてきた萌香とみぞれがそれぞれ月音の行いを見ている。

 

 

「………………ダメだ」

 

「「え?」」

 

 

 しかし月音にとって、こんなものは所詮隠し芸レベルの児戯であり、全盛期よりもやはり劣っている自分自身の力に大きく息を吐きながらその場に腰を下ろしてしまう。

 

 

「体力も落ちてるし、此処等一体の海水を消し飛ばすつもりだったのに、割るが精一杯とはね、今まで如何にドライグの力を借りすぎてたのかってのがわかったよ」

 

「消し飛ばすって……」

 

「今でも強いのに、そんなに強くなってどうするつもりなんだ?」

 

「………………」

 

 

 全盛期の非人間族への憎悪によるパワーを当たり前だが知らない萌香とみぞれは、一々言うことのスケールがデカイ月音の言葉に若干引いている。

 

 けれど月音にしてみれば、今の身体で出せる最大出力の脆弱さは無視が出来ない程真面目な案件だ。

 

 

「こればかりは地道にやるしかないか……」

 

 

 しかし進化の速度が月音として生まれ変わってから、いやそれよりも前―――兵藤一誠としての晩年期から緩やかになってしまっている。

 全盛期の異質な速度による適応と進化を取り戻す方法があまりわからない今、地道に身体を慣らしながらステップアップを図るしかないのだ。

 

 そう結論付けた月音は再びトレーニングに戻ろうと立ち上がると……。

 

 

「よし、では次は私を相手に鍛練をしてみたらどうだ?」

 

「…………………」

 

「…………………いつのまに入れ替わったのか」

 

 

 表から裏へとそそくさ入れ替わっていた萌香が、そわそわしながら月音に言いつつ、軽くアップしている。

 そのあまりのそわそわ加減に、みぞれは内心『二番目に厄介なのがコイツか……』と、まだ見ぬ瑠妃の師の魔女の次に月音関連に対する脅威度を測定していた。

 

 

「キミを相手にするのはトレーニングにならないんだけど」

 

「なんだと? それはお前より私の方が弱いと言うのか?」

 

「現にそうだろ。何度も言うが力の大妖だなんて世間じゃ言われてるらしい吸血鬼だけど、そんなもの――俺にしてみたら他と何の変わりのない有象無象だ」

 

「………………言ってくれるな。なら確かめてみろ!!」

 

 

 バンパイアとしての萌香の力は、みぞれも悔しいが認めざるを得ない強大さだと思っている。

 しかし月音はそんな力の大妖を前にしてもハッキリと有象無象と言い切り、そしてその大口に見合う圧倒的なパワーを持っている。

 

 現に挑発に乗って月音に挑みかかる萌香の攻撃を月音は顔色ひとつ変えず――――()()で捌いている。

 

 

「いったい、どんな妖怪なんだろう月音は……」

 

 

 言葉の断片的に龍というワードが出るので、そういった系統の種族の気はしないでもない。

 だがそれは月音というよりは『月音の中に宿っているらしい赤い龍』の種族が龍である気がする。

 つまりその宿主である月音は一体何の種族なのか、そもそも精神に龍の人格を宿す妖怪なんて聞いた事すらない。

 

 

「ハァッ!!!」

 

「っ……!?」

 

『あ、当たった……!』

 

『油断し過ぎだ月音』

 

 

 片手で捌いていた月音の頬に裏萌香の爪先が掠り、龍曰く『並の馬鹿がその価値に気付いて取り込んだとしても瞬く間に死ぬ』らしい赤い血が頬から流れ、少し驚いた表情をしている月音と、叱咤するドライグを見つめながらみぞれは深く深く考え続ける。

 

 

「あ、当たった……久々に当たった。

ふ、ふふん! まあ当然だな……ふっふっふっ」

 

『ダメよ、少し当てられただけで得意気になっちゃ……』

 

「ふん、この分だと直ぐにでも月音に追い付いて――ぎゃん!?」

 

 

 頬から流れた血を拭うと同時に瞬く間に傷が塞がっていく月音の目付きが変化しているのに気付かず、久々に当てられた事でテンションが上がった子供みたいにドヤ顔をしていた裏萌香だが、注意しようとした表萌香の言った通り、一瞬で間合いを詰めてきた月音の真横に伸ばした腕………つまりウェスタンラリアットが見事なまでにヒットし、裏萌香は乱回転しながら海へと叩き落とされていくのだった。

 

 

『面白いくらいに吹っ飛んだな、銀髪小娘は……。

しかしあの小娘は確かに成長している』

 

「チッ、気絶してんのか? めんどくせぇな」

 

 

 プカプカと波打ち際にまで戻ってきてから浮かんで来た裏萌香のシュールな絵面を見下ろす月音が、意識を吹っ飛ばしてて自力で上がれない様子を見て、めんどくさそうにため息を吐きながらも海からあげてあげる。

 

 そんなやり取りの間もみぞれは、月音自身の正体を考察していく。

 

 

(妙に人間や人間で妖怪でもない魔女に肩入れし、逆に妖怪にたいしてはとことん鬼畜。

…………まさか月音の正体って)

 

 

 これまでの月音の趣味趣向を思い返していったみぞれは、やがてひとつの可能性に到達した様だ。

 しかし……。

 

 

「まあ、仮にそうだったとしても私には関係ないな」

 

 

 みぞれはそこで考えるのをやめた。

 結局の所、月音が何であろうと、他の妖怪にはない独特の気質が気に入っているというだけの事で、正体がなんであろうと関係ないのだ。

 それこそみぞれの考察が当たっていたとしてもだ……。

 

 

「なぁ月音、気絶したそいつはそこに置いて、私と遊ばないか? できれば二人だけになれる場所で」

 

「それにはなんの意味があるんだよ?」

 

「勿論、私と月音の愛を――」

 

「ありえないな、冗談はそのツラだけにしとけ」

 

「ふふ、そのツレない態度も良いぞ月音?」

 

 

 びしょ濡れで目をぐるぐる巻きにしながら気絶している裏萌香の頬を割りと強めに叩きながら起こそうとしている月音にたいしてのアプローチを似もなくかわされたみぞれだが、彼女に諦めの色は全く見えない。

 

 

(仮に私の考えが本当だとして、何で月音がこんなに強いとかなんてどうでも良い。

言えることは、人間の女達なんかに月音はくれてやるか……それだけさ)

 

 

 力が強かろうがどうでも良い。

 たまに見せるその下手くそな優しさがあればそれで……。

 意外な程に真理に近づいていたみぞれの気持ちは意外な程まともなものだった。

 

 これも皮肉な事に、非人間族からだけど。

 

 

終わり

 

 

 

オマケ

ガントレットと赤龍帝

 

 

 往年のテキサスの暴れん坊、または不沈艦と呼ばれしレジェンドレスラーを模した一撃で海の中へと放り込まれて気絶した裏萌香が気が付くと、割りと見知った天井が目に飛び込んだ。

 

 

「………………」

 

 

 どうやらここは月音の部屋らしい。

 

 

「ええっと、月音に当てられた所までは覚えているのだが、その後の記憶が曖昧なのは何故だ……?」

 

 

 どうやらウェスタンラリアットと海に叩きつけられた影響で軽い記憶障害に陥っている様子。

 

 

『覚えてないの? 月音に当てられて調子に乗って油断したせいで海に落とされちゃったのよ?』

 

「む……」

 

 

 はて? と記憶を辿ろうとした所で、ロザリオの中に居るもう一人の己にどうしてこうなっているのかの説明を受け、月音の部屋に押し掛けてる女子達がめんどくさそうな顔をしている月音にあれこれと話しかけていてこっちに気付いてない光景を見て納得する。

 

 

「月音が運んだのか……? というか海に落とされたのが本当なら、服が濡れている筈だ。

それなのに服は違うものだし……ま、まさか月音がここまで運んで着替えさせたのか……!?」

 

 

 それと同時に着ている服が違う事に気付き、途端に同様し始める裏萌香だけど、表萌香が苦笑い気味の声で訂正する。

 

 

『アナタにとっては残念かもしれないけど、運んでくれたのはみぞれちゃんだし、着替えさせたのもこの部屋に居た胡夢ちゃんと紫ちゃん瑠妃ちゃん。

その間も月音は外に出たから着替えさせて貰ってる所も見てないわ』

 

「……………………。そ、そうなのか? な、なんだ、それなら安心したよ。うん……ホントに」

 

 

 と、本人は言うが、明らかに残念そうな声で、表の萌香は敢えてそれを指摘はしなかった。

 

 

「あ、萌香さんが気が付いたみたいです」

 

「あらホントね。

月音に海に叩き込まれたんですって?」

 

「月音に言われて仕方なくここまで運んで着替えさせてもやったんだからな。精々感謝してくれよ?」

 

「月音さんの寮部屋なのに、女性物の私物ばかりなのはアナタが無理矢理押し掛けてるって本当ですか?」

 

「………………」

 

 

 自分の部屋なのに女子だらけなのが真面目に嫌なのか、本気で嫌そうな顔をしながら黙ってる月音が座る上に紫が座り、その周りを取り囲むみたいにみぞれ、瑠妃、胡夢が居て、どうやら色々と話しかけていたらしい。

 何故だろうか、自分が気絶してる間に月音を取られた気がして気にくわない気分になってきたが、あまりここでそんな話をしたら月音に叩き出される気がしたので、取り敢えず黙ってることにした裏萌香。

 

 

「目が覚めたらならさっさと出てってくれないか? ここ俺の部屋なんだけど」

 

「まあまあ、こんなに女の子達が来てるんだから役得と思ってもう少し……」

 

「人間の女の子なら何時まででも居て良いけど、何が悲しくてじゃない連中と駄弁らきゃならないんだ。

勘違いしてるようだけど、俺は――」

 

「何度も聞いたわよそれは。

人間以外の異性なんかに興味無いんでしょう? 態度を見ていれば痛い程わかるけど、あんまり面と向かって言われると本当に凹むから、今は言わないで?」

 

「……………チッ」

 

「でも魔女には変わらずに優しいからやっぱり大好きですぅ」

 

「……お館様にはもっと優しいのが納得いきませんけど」

 

 

 

 

「ぐぬぬ……」

 

『あはは、結構多くなっちゃったね? 月音の事が好きな子が』

 

「ば、馬鹿を言うな。

私は別に奴等みたいな意味は無い。ただ、あんなに邪魔が多いと月音と遊ぶ時間がどんどん無くなるのが……」

 

『はいはい……ふふ』

 

 

 全盛期ならばこの時点で地獄絵図が完成するレベルで非人間族への攻撃性が強かった月音だが、余程丸くなっているのか、憎まれ口はハッキリ叩くものの、煩くなければ黙っている程度に留めている様だ。

 特に最近までその力に恐怖して、自分の魅力にも平気で暴言吐いてきた月音を嫌っていた胡夢すら、余程の逆鱗に触れる事さえしなかったら、口は悪いが結構良い奴認識をして、その態度も大分柔らかいものになっている。

 

 

「貧血にはなってない? 何か飲む?」

 

「別に――――――って、何だよその顔は?」

 

「べっつにー? ………ふふふっ♪」

 

「…………………うっぜぇ」

 

 

 露骨に舌打ちする月音の態度も受け流せるようになっている胡夢。

 

 基本暴力的な面を『刺激的』と平気なみぞれ

 

 年下でまぎれもなく子供故に無条件で一番優しくされ気味の紫

 

 散々尊厳もろとも粉々にされたのに、師と土地を救ってくれた恩人――としてにしては妙に女性関係に対して気にする瑠妃。

 

 最初から異様に月音に対して好意が高い猫目先生。

 

 気づけばこんなに月音を近づく異性が増えてしまったと裏萌香は内心不安で仕方なかったのだった。

 

 

 

 さて、そんな裏萌香の不安を敢えてドライグが月音を見守る様に見守るに留める表萌香は先日部室でドライグとの会話に出た話が実の所ずっと気になっていた。

 

 

『ねぇ、少し替われる?』

 

「あ、あぁ……どーせ月音は私の事はどうでも良いみたいだからな」

 

『ネガティブねぇ……』

 

 

 強がる癖に、すぐ不安になる裏萌香に、何とも言えない――こう、例えるなら親心のような気分になる表萌香はそのまま不貞腐れた様に引っ込んだ裏萌香と入れ替わると、あれこれと話し掛けられてうんざりし始めてる月音に話しかける。

 

 

「ねぇ月音、聞きたいことがあるんだけど」

 

「? 入れ替わったのか……なに?」

 

「うん、この前ドライグ君と会話してる時に、以前私とこの子みたいに、月音とドライグ君の精神を入れ替えた事があるって聞いたの」

 

「………………。ああ、そんな事もあったな」

 

 

 いつのまにそんな話をしてたのかよ……。

 似た様な状況のせいか、表萌香に対して意外とお喋りになってるドライグに一言言ってやりたくなりながらも、過去に何度か確かにあったことにはあったと頷く。

 

 

「それじゃあ萌香さんともう一人の萌香さんみたいに月音さんもドライグさんも入れ替われるのですか?」

 

「自己的に試した事は無いけど、多分やろうと思えばできるんじゃないか? そうだろドライグ?」

 

『お前以前の歴代の宿主達とは違い、俺は既に神器としてではなくお前と共存している状態だからな。

あくまでお前が意識を失った時の緊急措置として俺がお前の身体を動かす……といった様な意味でなら可能だ』

 

「だ、そうだ」

 

 

 ドライグに確認してみれば、確かに可能ではあるという返答が返ってきたので、一緒に聞いていた萌香に可能と言うと、萌香の表情はこれでもかと明るくなった。

 

 

「じゃ、じゃあ、お願いがあるんだけど、今入れ替わって欲しいなー……なんて」

 

「………何故?」

 

『意味がわからん』

 

 

 ソワソワしながら入れ替わって欲しいと頼んでくる萌香の意図が揃って解らずに首を傾げる。

 

 

「お願いっ!」

 

 

 この萌香が妙な事を企む質ではないと、信じられない事に、非人間なのに一定の信用を無意識にしていた月音は、手を合わせながら可愛らしく頼んでくる萌香のお願いとやらを一応聞いてあげることにした。

 

 

「えーっと……」

 

 

 紫を下ろし、その場に立つ月音が左腕にドライグの力を纏い、目を閉じてドライグに意識とその身の全てを委ねる様に意識を閉じてみる。

 

 それが正しいのかはさておき、成功はしたらしく……。

 

 

「ドライグくん……?」

 

「………ああ」

 

「!? 月音さんの声が……」

 

「渋い声になった……」

 

 

 月音の肉体の主導権がドライグに移行した。

 明らかに声も目付きも……その目も爬虫類を思わせる鋭さに変わっており、萌香の声に返事を返したのは間違いなく月音と精神の入れ替わりをしたドライグであった。

 

 

「…………よくはわからんが、これで良いのか? 俺としては月音の身体を無理矢理奪ってるみたいで気が進まん」

 

『いや、ドライグだし別に構わないぞ?』

 

「あ、赤い籠手から今度は月音さんの声が……」

 

「本当に入れ替わったんですね、萌香さんの様に……」

 

 

 驚く女子達を背に、萌香の前に立つ月音――の肉体を借りてる状態のドライグは、ペタペタと身体やら顔やら触ってくる萌香に、久しく感じなかった擽ったさに顔をしかめていた。

 

 

「おい、何をべたべたと触っている?」

 

「や、本当に今の月音がドライグ君かなって思って……。

でもその声も、感じてた雰囲気も間違いなくドライグ君……」

 

 

 何度も何度も確かめる様に今の月音がドライグであると確信していく萌香の考えがイマイチわからないまま、暫く突っ立っていると、何を思ったのか突然萌香がそのまま月音の身体を借りているドライグに飛び付いたのだ。

 

 

「あはは! ドライグくんだ~! やっとこうやって向かい合えたっ!」

 

『なっ!?』

 

『っ!? か、感覚がダイレクトにきた!?』

 

『お、おいっ!? 何をしてるんだ!?』

 

 

 これには其々入れ替わった月音と裏萌香も驚いたし、ドライグであるとはいえ肉体は月音であるせいか、女子達もギョッとしている。

 しかしそんな事はお構いなしに、突然の事で驚いてるドライグに飛び付いたまま萌香はとても嬉しそうにドライグの感触に喜んでいる。

 

 

「うふふ、嬉しい。

ずっとドライグくんとは声でしかお話ができなかったから……!」

 

「おい、お前の乳房のせいで呼吸がし辛い」

 

 

 ある意味月音以上に冷静に文句を言うドライグだが、萌香はお構いなしに密着したままだ。

 互いの感覚がダイレクトに伝わってる月音と裏萌香にしたら堪ったものではないのに、それでも萌香は離れようとしない。

 

 

「我儘なのはわかってたけど、どうしてもドライグくんとこうやって触れあってみたかったの……。

だからもう少しだけ……」

 

「………。月音、どうする?」

 

『俺は構わないけど……』

 

『こ、これでは感覚的に私と月音も同じような事をしてる気分なんだが……』

 

『あ? ………それ言われると嫌だわぁ』

 

『なんだとっ!? おい表の私! もっとやってやれ!』

 

 

 果てしなく素っ気ない月音の声にムキになった裏萌香が意地になって煽る。

 

 

「な、何でしょう……? とてもイケナイ光景を見てしまってる気がしますぅ」

 

「紫ちゃんも思ったの? 実は私も……。

不思議な事に腹も立たないけど、代わりに見てはいけないものを見てる様な……」

 

「例えるなら、人妻が不倫してるような……」

 

「でも何故かドキドキしてしまいます……!」

 

 

 その光景を見ていた紫達は怒るより、寧ろドキドキな現場を見てしまっている感覚に陥っていたそうな。

 例えば、子持ちの人妻が渋い声の男と不倫をしてるような――そんな感じの。

 

 

「ドライグくんの血……」

 

「よせ、この肉体自体は月音のものであって俺ではない」

 

「でもドライグくんの匂いがするような気がするよ? 普段の月音とは違う……んんっ……」

 

「それこそ気のせいだ。

それより何時まで引っ付いてるつもりだ? そろそろ離れ――」

 

「もう少しっ! もうちょっとだけ……!」

 

「……………………………本当によくわからん小娘だ」

 

「ありがとうドライグくん。

やっぱり優しいのね……だからかな? 私、ドライグくんの事好きよ?」

 

「これまで生きてきた中で、一番返答に困る台詞だそれは……」

 

「わかってるわ。けど……ね?」

 

「…………」

 

 

 

 

 

『お、おい……流石に恥ずかしくなってきたんだけど』

 

『普段からずっとドライグの事を気にしてたのはわかってたが、そこまでだったとは思わなかったぞ……』

 

「あわわわ! もっとイケナイ光景を見てる気がするですぅ!」

 

「見てはいけないのに何故か見てしまうわ……!」

 

「なるほど、こういう感じもアリだな……」

 

「な、何故か普段の萌香さんが大人に見えてきました……」

 

 

終わり




補足

非人間族絶対殺すマンがよもやこうまで……。

理由としては、精神的な年齢を重ねて丸くなれたのと、お館様コスプレ撮影会が割りと癒しになってるとか。

お館様からしたらたまったもんじゃないけど(笑)


その2
原作でのお館様の本名がわかんので、イリナと設定しました。

 故に肩入れ度が半端なく、平気で死にかけの身体を復活させようと、奔走するし、丘を守る為に嫌いな非人間族の権力持ちと取引もする。

 そう、原作では逝ってしまったお館様がもしかしたらまさかの裏ヒロインなのかもしれない。

………裏萌香さんぐぬぬやけど。


その3
原作でいう反学派は見回りがてらに捻り潰されまくって数が一気に減ってます。

で、ボス格の方に至っては最早居ようが居まいがどうでも良いし、その相棒っぽい方も軽いちょっかいをかけた瞬間、描写無しに半殺しにされて淡水池に沈められたので、実質身動きが取れなくなってる模様。


その4
入れ替わったドライグと表萌香さんのやり取りがいけない不倫現場を見せられてる気分にさせられる――というお子様達の感想……。










――――あながち間違いでもないんだよねー


続きは………感想次第

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