色々なIF集   作:超人類DX

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……忙しい。

マジで忙しい。

少しずつ進めてるけど、中々完成しやしねぇ……。

なので誤魔化し時間稼ぎでひとつ……


不倫っぽい龍とバンパイア

 穴は無かった。

 徹底的に練りに練った完璧な計画の筈であった。

 

 あの理事長を出し抜く事さえ出来れば、野望は達成する筈だった。

 そうすれば、お伽噺だと思っていたあの伝説の存在を呼び寄せられる――そう思っていたのに。

 

 

『伝説? アレが? あんなガキが? 喰うだけの暴食バカの猫ガキが伝説だァ? クククッ、あの理事長といい、アレのどこにそんな御大層な幻想を抱けるのかが理解できねぇな』

 

 

 奴が邪魔をした。

 今年この学園に入学し、公安委員を全滅させ、その後釜に座る、一見すればひ弱な少年にしか感じない男に。

 

 こちらの手駒を悉く再起不能にし、悪夢の様な力で血祭りにあげ続け、そして伝説の存在をソレ呼ばわりするばかりか、まるで会ったことがあるかの様な口ぶり。

 

 

『アレをたたき起こす為に、わざわざ雑魚共を目眩まし要因にしていたのはわかった。

けど、忠告はしておく――あの馬鹿はまるで話が通じない。

敵だ味方といった概念すらもあのガキにはありゃしない、あるのは――喰うか喰わねぇかだ。

どこであのガキを知り、何を考えてここに呼び出そうとしているのかなんて知らないし、知る気もない』

 

 

 散々彼の事は調べた。

 並の妖怪では足止めにならないのも承知で、反学派の連中を捨て駒として時間を稼がせた。

 でも……それでも――

 

 

『けど残念ながらあのガキを起こすのはアンタじゃない――

 

 

 彼の力は更にもっと……。

 最初に見た時よりもずっと―――

 

 

  ――――――俺だ』

 

 

 

 強くなっていた。

 全てを蹴散らす程の永遠ともいうべき力へと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御子神典明にとって力とは白音そのものであった。

 この世に生を受けた時から強い力を持っていた彼が最初で最後に『何をしても勝てない』と思わされる絶対的な力――それが白音だった。

 

 白く、小さく、一見すれば可憐な少女にしか見えないけど、その力はあまりにも強すぎて、その精神はあまりにも混沌としていて。

 

 ある意味で彼女に惹かれた彼は間違いなく白音の弟子であろう。

 

 

「金城北都達はこちらの用意した医療機関に運んだ」

 

「ああ、そんな名前でしたねそういえば」

 

 

 白音から学び、時には何度も死にかけもした。

 しかし、その土台があるからこそ御子神典明は三大冥王の一人として君臨する事が出来た。

 そんな彼女が『外』の空間にて眠りにつく前にひとつだけ頼まれた事。

 

 『私と同じ様に、いつかきっと一誠先輩がこの世界に来る。

その時は何が何でも引き留めて』

 

 軽く嫉妬すら覚える程に何度も聞かされた、師である白音が想いを寄せる存在。

 龍を宿し、人でありながら人を辞め、白音を拒絶し続けた最強の龍帝。

 

 特徴はノイローゼになるほど教え込まれていたのでわかっていたが、まさか別人として生まれ変わっていたとは思わなかったので対応が少し遅れてしまった。

 

 だがしかし、そのかつて兵藤一誠であった青年は今目の前に居る。

 青野月音という人間となって。

 

 

「………。キミにとってはその程度の認識なのはわかっている。

しかしまさか、我が師である白音をここに呼び寄せる事が目的であったとはな。

どこで彼女の存在を知ったのか……」

 

「この世界ではちょっとだけ有名なんだろ? アンタが師だなんで呼んでる程度には。

実物を見たらさぞガッカリしただろうぜ」

 

「………。相変わらず彼女には辛口だなキミは。

まあ、私がこの学園に施した大結界を外した所で彼女は起きないから、金城北都の目論見は初めから破綻していたと思う」

 

「ふん」

 

 

 彼は白音に対して辛辣だ。

 過去に余程何かをされたから……というのは白音本人から聞かされているのである程度は知っている。

 

 

「とにかく感謝する。

約束通り、魔女・イリナに関する事は全力でバックアップをさせて貰う」

 

「………」

 

「ところで話は変わるが、その昔、我が師に嫌というほど聞いたのだが……師と交わった事があるとか――」

 

「……………。殺されてーのかクソボケ」

 

「―――――すまなかった、余計な事だったな。

いや、ごく個人的な事だが、少しばかり羨ましいと思っただけでね」

 

「じゃあ精々あのガキが復活した暁には口説くんだな」

 

 

 だからこそ、彼が羨ましい。

 どれだけ手を伸ばしても届かない。近くに居たのに触れることすらできなかった彼女から誰よりも想われ、求められている彼が。

 

 

「あのガキに何を吹き込まれたのかは知らないが、これだけは言える。

俺は昔も今も、あのガキが大嫌いだ」

 

「………」

 

 

 御子神典明にとって師である白音はそういう存在であるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白音。

 その名を何度か月音とドライグ本人から聞いたことがあった萌香と裏萌香は、今回の金城北都の起こした騒動の件で余計気になって仕方なかった。

 

 

「寝ている月音が何度か寝言として呼んでいた名だったから、金城北都や理事長が話していた時は驚いた。

しかし一体、誰なんだ……?」

 

『詳しく聞こうとすると月音もドライグ君も苦い顔になるから、あまり深くは聞けないもんね?』

 

「ああ、あの顔から察するに、えーっと、好きとかいう感情は無く、寧ろ因縁のある存在だとは思うが……」

 

『あ、だからあまり妬かないんだ?』

 

「違う! 別にそういう事をアイツに抱いているわけでは無いと何度言えば―――」

 

『はいはいはい、それよりもそろそろ月音が理事長室から出てくる頃よ? 部室に戻ったら確実に紫ちゃん達に取られちゃうし、このタイミングしかチャンスは無いわ』

 

「……む」

 

 

 反学派の首謀格であった金城北都との一件も終わり、理事長に呼ばれた月音を理事長室の前でずっと裏萌香状態で待っており、その間に学園祭の前夜祭がスタートしているという状況の中をずっと待機していた理由は、理事長室から出たこのタイミングが月音と二人きりになれるチャンスだからと、表の萌香に言われたかであった。

 

 裏萌香本人は『別にそんなんじゃない』と未だに言っているが、表の萌香に言われるがままになってる辺り、微妙に説得力に欠けている。

 

 

「ふー……」

 

『あ、月音が出てきたわ!』

 

「い、言われなくてもわかってるさ」

 

 

 入学当初は自然と月音と遊べる時間は多かったが、部活に入部や、合宿時の魔女の丘の一件以降から月音に関わりを持つ者が多くなってしまった為、軽く蔑ろにされている感が否めなかった。

 

 このままではいけない――と、表萌香が妙に張り切ってあれこれと裏の萌香にレクチャーをするものだから、すっかり乗せられてしまっていた。

 

 

「どさくさに紛れて最大出力を解放したけど、あのガキの気配は微塵もなかった……」

 

『御子神の言う通り、この世界とは時間の流れも何もかも違う次元の狭間で眠っているからなのと、お前の力がそれだけまだ全盛期に程遠いからなのだろう』

 

「……。チッ、散々うざい程現れた分際で……あのガキ」

 

 

 そんなこんなで理事長室の前に張っていた裏萌香は、ぶつぶつとドライグと会話しながら出てきた月音の前に立つ。

 

 

「随分と時間が掛かった様だが……」

 

 

 何故かちょっとした緊張をしながら声を掛ける裏萌香に、ドライグとの会話に没頭して周りが余り見えてなかったのか、月音が今気付いたかの様に顔を上げる。

 

 

「? どうしたの? 前夜祭ってのがとっくに始まってる時間だと思うけど」

 

「…………」

 

 

 明らかにお前を待ってたのに……。

 心底変な奴を見てくる様な顔をしてくる月音に内心裏萌香はムカッとなったが、ここでそれを言えばそこで色々と終わってしまうので、クールであることに努めていく。

 

 

「あの現場には私も居たが、理事長に呼び出される事は無かったから、軽く気になっただけさ。

最近よくあの理事長に呼び出されてるしなお前は」

 

「……。色々とやらかしたからだろ、俺の場合は」

 

 

 と、確かに理由にはなってる事を言った月音が僅かに目を逸らした。

 この時点で裏萌香は『それだけが理由じゃない』というのを見抜き、そして白音という名の存在と結びつけた。

 

 

「…………。まあ確かにお前は目立ち過ぎているな」

 

 

 しかし裏萌香は敢えては深入りしなかった。

 表の自分共々、白音という存在の事は気掛かりだが、今はそれよりも、このまま部室に一度は戻るだろう月音をどう上手く誘導するかなのだ。

 

 

「それより、理事長の話は終わったのだろう? この後どうするつもりだ?」

 

「ちょっと部室に顔を見せてから部屋に戻って寝るつもりだけど」

 

「……。前夜祭なんだぞ」

 

「準備だけは無駄にやったんだから、参加しなくても良いと思っただけだし、別に参加したい訳でもないからな」

 

『思ってた通りね……』

 

 

 予定を聞いてみれば、あまりにも予想通り過ぎるスケジュールに表裏共々呆れてしまう。

 とはいえ、部室に顔を見せた途端紫辺りに引き留められてしまい、紫には甘いのでなんやかんや付き合ってあげてしまう未来も見える。

 

 だがそれではダメなのだ。

 

 紫や瑠妃といった魔女に対しては、本人は『いやねーわ』と言ってるが、誰が見ても対応が甘くなるので、二人にせがまれたら確実にそれに合わせてしまい、結果遊ぶ時間を取られてしまう。

 

 だから裏萌香にとってはこの時間が勝負なのだ。

 

 部室に戻る前に何としてでも約束を取り付ける。

 

 一度約束を交わせば、結構律儀な面があるので、絶対に破りはしないというのは解っている――故に今が勝負なのだ。

 

 

「だったら少しで良いから私と遊べ」

 

「………」

 

『違うでしょ! 練習した通りに言わないと!』

 

 

 ただ、あまり素直にはなれない裏萌香は何時も通りの偉そうな感じに言ってしまって軽く台無しになりかけてしまっているが。

 

 

『そんな言い方をしたら断られちゃうって何度も言ったのに!』

 

「だ、だからといって私がお前みたいに媚びろというのか!?」

 

 

 案の定嫌そうな顔をする月音の前で、表と裏の萌香が喧嘩をし始める。

 

 

「帰る」

 

 

 そんなやり取りを見ていて、馬鹿馬鹿しくなってきた月音はさっさと退散しようとするが、裏萌香が咄嗟に通せんぼする。

 

 

「ま、待て待て! わかった、言い方を変える! 私と学園内を一緒に回る名誉を与えてやろう!」

 

『おバカ! さっきより酷いじゃない!』

 

 

 みるみるとシケた顔となっていく月音に焦ってテンパってるのか、明らかにアタフタしている裏萌香。

 その様子があまりにも滑稽に思えたのか、シケた顔をしていた月音も盛大なため息だ。

 

 

「いや、この子がこんな性格なのはわかるから別に何も思わないさ。

けど、別に俺じゃなくて仙童さん達とかと回れば良いじゃん」

 

『この子は月音二人で行きたいのよ。

あ、勿論私もだけどね?』

 

「そ、そうだ! この私と二人きりだなんて他にはありえんのだ! 光栄に――」

 

『ちょっと貴女は黙ってて!』

 

「ぐっ……!」

 

 

 遂には主導権を取られてしまい、小さくなる裏萌香。

 まるで母親か何かに叱られてしまった子供に見えなくもない――そう思ったのは月音の中から様子を見ていたドライグだった。

 

 

『悪気は本当に無くて、ただ、素直に気持ちを表せないだけで、本当はもっと月音と仲良くなりたいの。

だから紫ちゃん達には悪いけど、この子とだけ少しで良いから一緒に居て欲しくて……』

 

「……。なんだろうな、何故かキミがこの子の保護者に思えてならないな」

 

『あはは、最初はお互いの事を認識できなかったし、私と違って強くてしっかりしてる――って思ってたんだけど、何でかな……?』

 

『良いんじゃないか? ここで断れば、暫く煩いと思うぞこの小娘は』

 

「ど、ドライグももう一人の私も、何故私を子供扱いするんだ!」

 

「俺もずっとそんな扱いをされてるから何となくキミの気持ちは分かるぞ。

…………。はぁ、仕方ない――俺と居た所でつまんねーと思うが、それでも良いなら別にいいよ」

 

 

 ドライグと表の萌香の両方に子供扱いされて憤慨する裏萌香に、軽いシンパシーを感じたのか、珍しく普通に了承する月音。

 

 

「そ、そうか! よ、よし、そうと決まれば早く行くぞ! …………くくっ、くふふふ♪」

 

「? 急に笑ってるが、何だよ?」

 

 

 こうしてドライグと表萌香のアシストもあり、上手いこと月音を誘えた裏萌香は、その瞬間明らかに表情が明るくなるのであった。

 

 

 

 

 あんな機嫌の良い赤夜萌香は見たことが無いby陽海学園生徒。

 

 ―――という程に機嫌が良い裏萌香は、校則違反がなんぼのもんじゃいよろしくに姿を晒し、あまりに機嫌が良すぎて浴衣姿にチェンジし、あまりに機嫌良く月音を連れ回して学園中を回っていた。

 

 

「赤夜さんが美し過ぎる……」

 

「その隣に居るのってあの青野月音だし……」

 

「ちくしょー! 普通にデートかよ!」

 

 

 その近くに月音が居るが、既にその悪名が知れ渡っているせいで、誰も彼に何をするとかはできないで影ながらに羨んでいる中、裏萌香と共に校内を見て回っていく。

 

 

「わざわざ着替えた意味がわかんないんだけど」

 

「雰囲気という奴だよ。ふふふ、案外似合ってるだろう?」

 

「そしてキミの機嫌が良すぎるのが不気味なんだけど……」

 

「さぁ? その理由はなんだろうな? ふふふっ♪」

 

 

 久々に本気で楽しいと裏萌香は思った。

 誰の邪魔も無い。横やりも無い。時間こそ僅かだが、久々に月音と二人だけの時間を過ごせる。

 

 前夜祭故に出し物等のものは制限されていて、回れる場所こそ少ないが、それでも裏萌香は楽しかったのだ。

 

 

「一応前夜祭は花火を打ち上げるらしい。

ここならよく見える筈だ――お前を初めて知ったこの場所からな」

 

 

 そして裏萌香が最後に月音と共に訪れたのは、自身のもう一人の人格との意思疏通を可能にし、月音という大きな壁を知る理由となった学園の屋上。

 ここが月音とのある意味での始まりの場所であり、うち上がる花火が一番よく見える場所だ。

 

 

「お前の力を一番間近で浴びた事で、私はこのもう一人の私との意思疏通が自在になった。

そういう意味ではお前に感謝している」

 

『あの時、私は月音に怯えちゃったのよね……』

 

「そんな事もあったなそういや……」

 

 

 白音に気付かせる為の全解放をした場所がここ。

 結局は白音に探知されずの無駄骨だったが、それによって萌香との関わりを深める理由となった場所。

 

 

「あの時以降、あの状態のお前は見ないが、何時かまた見たいものだ」

 

「性質がキミ達にとって『嫌悪』するものな筈なんだけど」

 

「そうかもしれないが、あの時のお前の力によって私ともう一人の私は繋がりを深められた。

……私達にとってはひとつのターニングポイントだよ」

 

 

 そう笑みを浮かべながら、屋上の手摺に背を預ける裏萌香。

 

 

「今度は実力であの領域のお前を引きずり出してみせる。

その時こそ、私はお前に並べるから」

 

「……………」

 

 

 普段から差を見せられてるというのに、まだそんな事を言う裏萌香に、月音は少しだけ驚く。

 負けん気の強さという意味では裏萌香は確かな芯を持っている……。

 

 

「あ、そ……。精々頑張るんだね」

 

 

 それだけは……まあ、認めてやらないこともない。

 月音も月音で素直にならずにそんな事を内心呟きながら薄暗い空を見上げると、ちょうど一発目の花火がうち上がった。

 

 

『わぁ、綺麗……』

 

『よもやこんな時が来るとはな……一誠?』

 

「俺もある意味驚いてるよ……。俺が人間じゃない者と花火を見るなんて」

 

「……。たまに思うが、月音のことをドライグが一誠と呼ぶのは何でだ?」

 

「……………渾名みたいなもんだよ、なぁドライグ?」

 

『ああ、そんな所だ』

 

 

 

 色とりどりの花火を吸血鬼という非人間族と一緒に見ている自分に不思議さを感じる月音。

 だがあまり嫌悪は感じず、自分の中で何かが変わっているからなのか……。

 

 打ち上げる花火に照らさせながら、月音は時折こっちをチラチラ見ては、目が合ったら慌てた様に空を見上げる裏萌香を眺めながら思うのだった。

 

 

終わり

 

 

 

 

 

オマケ

 

 保護者と保護者。

 

 

 実は中々戻ってこない月音と萌香を探し回ってたりする紫達に見つかる事なく屋上に居る訳だが、実の所この時間を作ったのにはもうひとつの目的があったりする。

 

 そう、表こと普段の萌香が。

 

 

『ねぇねぇ、少しで良いからまたドライグ君と替われない?』

 

「……………。ああ、なるほどね、キミがこの子に入れ知恵してたのはそっちが目的だったわけだ」

 

『?』

 

 

 良いタイミングを見計い、ロザリオの中に封じられている普段の萌香の声に、その瞬間察した月音とイマイチわかってないドライグ。

 

 

「お、おい、またあんな感覚を味わえというのか? い、いや別にどーしてもというのなら我慢してやらないこともないけど……」

 

 

 現在主導権を取ってる裏萌香も察したが、前回の一件でダイレクトに伝わった感覚を思い出したせいか、軽く赤くなってもじもじしていた。

 反対に月音は平然としていたけど。

 

 

『駄目、かな?』

 

「あー……まあ別に良いけどさ、ドライグは?」

 

『あ? 何の事だ? また入れ替われというのか?』

 

「そんなとこ。

俺は別にドライグに身体を渡すのは平気だし」

 

『そう簡単に小娘達と違ってホイホイ入れ替われる訳じゃないんだが……』

 

「そこは練習の意味も兼ねてだな。

修得して損は無い技能ではあるしよ?」

 

『まあ、イザという時の逃走手段には使えるが……』

 

 

 あまり月音の身体を借りるという行為には抵抗があるドライグだが、実用性を月音に言われれば、納得出来る部分もあったので、言われた通り入れ替わる準備をする。

 

 

「キミ達みたいに即時入れ替われる訳じゃないから、ちょっと待ってて」

 

『うん!』

 

「うぅ……あの時の感覚をまたと思うと変に緊張してきたぞ」

 

 

 わくわくした声色の表と違い、完全に尻込みしてしまってる裏萌香の目の前で意識を集中する月音。

 時間にして五分以上は掛かったものの、月音とドライグの精神は入れ替わる事に成功した。

 

 

『はー……意識して替わろうとすると疲れるな』

 

 

 ドライグと入れ替わり、赤龍帝の籠手の中へと封じられた月音の声色は確かに疲れていそうな様子だった。

 そして裏萌香もまた普段の人格の自分と入れ替わる形でロザリオの中へと戻る事で、ピンク色の髪を持つ萌香へと変化する。

 

 

「ふふ、ありがとうねドライグくん?」

 

「俺をわざわざ月音の身体を使って実体化させる意味がわからん。

普段から話をするだけならわざわざ入れ替わる必要もないだろう?」

 

 

 キレて機嫌の悪い月音とは性質の違う鋭い目付きと爬虫類を思わせる縦長に開いた瞳孔の赤い瞳――そして何よりその重みを感じる低い声。

 まさしくドライグが月音の身体を借りる形で実体化した証であり、萌香の微笑みに対して心底理由がわからない様子だった。

 

 

「ふふ、やっぱり月音が鈍いのはドライグ君の影響かな? お話するだけでも確かに楽しいけど、こうしてドライグ君と触れ合えるのが私にとって一番嬉しいの」

 

「これは俺ではなくて月音の身体だぞ」

 

「そうかもしれないけど、こんなに近くにドライグ君が居るって事が良いのよ。

ほら、まだ花火は上がってるから一緒に見ましょう?」

 

 

 本当に子供か? と疑いたくなる程に、妙に大人っぽくなってる萌香に手を握られる月音の身体を借りてるドライグは、言われた通り、空に打ち上がる花火を共に見る。

 その手は萌香に握られたまま……。

 

 

『…………』

 

『………な、なんか言ってくれ月音。

あの二人の醸し出す空気がたまらなくなる……』

 

『俺だってわかんねーよ……』

 

 

 そんな二人の醸し出す雰囲気に、色々な意味でお子様な二人はむず痒いやら気恥ずかしいやらで互いに何とも言えない気分だった。

 

 

「ねぇ、ドライグ君の本当の姿ってどんな姿なの?」

 

「前にも言ったが、俺の本来の姿はお前らの想像している龍そのものだ」

 

「何時か本当のドライグ君を見せてくれる?」

 

「……。どうだかな。俺はもう月音と共生している。

本来の姿という概念も無いのかもしれない――だが不便を感じた事は一度もないし、俺は今の俺に後悔もない。

俺にとって最後の宿主で相棒は一誠―――いや、月音だからな」

 

「そっか……」

 

 

 

 

 

『お、おお……なんだこの感じ。

前もそうだったが、本当に見てはいけないものを見てしまってる気分だ』

 

『こればかりは同意だ。

何故か不倫現場を間近で見せられる気がするぜ……』

 

 

 じーっと空を見上げながら淡々と答えるドライグを見つめながら嬉しそうに微笑み、そして一緒に空を見上げる萌香――を物理的な意味でも一番近い場所から見てしまう月音と裏萌香の意見が珍しく一致する程、何故か二人の醸し出す雰囲気は大人な気がした。

 

 

「あ、花火が終わっちゃった……」

 

「みたいだな」

 

 

 そんな不倫現場みたいなやり取りを見せられ続けている内に花火も終わってしまう。

 誰が決めた訳ではないが、花火が終わったら月音と再び入れ替わるという空気になっており、萌香も名残惜しそうにドライグの手を強く握る。

 

 

「今度は何時こうやってドライグ君の温もりを感じられるのかな……?」

 

「時間があって気が乗れば、何時でも手ぐらい握らせてやる。

何がそんなに良いのかよくわからんが」

 

「ふふ、言い方はアレだけど、やっぱりドライグ君は優しいわ。

だからかな……私はやっぱりドライグ君の事が好きよ?」

 

「この前も言ったが、その台詞に対して俺は的確な答えなんて出せん。

俺は実態の無い龍――肉体の作りからしてお前達とは違うのだ」

 

「そんな事は些細な事よ。

身体の作りが違うからってなに? 私はドライグくんそのものが好きなのよ? 見た目なんて関係ないわ」

 

「…………ふん、小娘が」

 

 

 

 

『………。ほ、本当に何か言ってくれ、み、見ちゃおれん!』

 

『表のキミの妙な度胸の強さは称賛に価するぜ』

 

 

 萌香がドライグの手を握っているという事は、入れ替わってる月音と裏萌香も、感覚的には同じ事をしているのと同じなので、特に裏萌香はさっきから緊張しっぱなしだった。

 そして……。

 

 

「そろそろ俺は戻る」

 

「うん……」

 

「何だその顔は?」

 

「………。こうして触れられるから余計に名残惜しいって思っちゃって。

ごめんね? 私が無理を言ってるって事はわかってるんだけど……」

 

「幸い月音の許可は貰っている上だから気にするな。

……まあ、そう何度も入れ替われと言われたら困るのは事実だが」

 

 

 入れ替わる時間は終わりを迎え、ドライグは赤龍帝の籠手として戻ろうと名残惜しいそうに両手で握ってくる萌香から手を離そうとした時だった。

 

 

「待って! 最後にひとつだけ……良い?」

 

 

 最後の最後で呼び止めた萌香に背を向けようとしたドライグが振り向く。

 

 

「何だ?」

 

 

 無茶な事を言うタイプではないとわかっているのか、特に嫌そうな素振りを見せないドライグ。

 すると、一瞬だけ緊張した表情だった萌香が何かに決意した様な顔をすると、ドライグの手を取り、自分の方へと引き寄せて抱き締めた。

 

 

『っ!?』

 

『あわわわわ……! か、感覚が……感覚がぁ……!』

 

 

 その行為に、月音と裏萌香がそれぞれの籠手とロザリオの中からテンパるを他所に、萌香は10秒程――抱き締め返してはくれないドライグを抱き締め、顔を上げると……

 

 

「…………」

 

『『わーっ!?!?!?』』

 

 

 つま先で立ち、ドライグの頬に口を付けたのだ。

 これには流石に月音すらも裏萌香と一緒に大騒ぎしてしまう中、数秒程の短い重なりから離れた萌香は、とても子供には思えない儚げに微笑む。

 

 

「本当は唇にしたかったけど、それはもう少し後。

私が本気だってドライグ君に伝えられるまで……」

 

「お前……」

 

「ただの小娘じゃないって、ドライグ君には絶対わからせるから! だから……私がドライグ君の事を大好きだって事だけは覚えて欲しいの」

 

「……………」

 

 

 どう返答して良いのかわからずに無言のドライグにしっかりと伝えた萌香。

 萌香自身も知らない過去の事を考えれば、厄介すぎる未来が待っているのかもしれない。

 

 しかしそれでも萌香は、ただひたすらに宿主となる月音を支えるドライグに惹かれていくのだ。

 

 

『キ、キキッ、キスした! 表の私が私より先にキスしたっ!』

 

『………………』

 

『ど、どうしたら……?

これでは自動的に私が月音にキスしたということに―――月音? 月音!? ………………こ、こいつ、意識がないだと……?』

 

 

 

 

 

 

 

「おい、月音が意識をすっ飛ばしたせいで入れ替われなくなったんだが……」

 

「え? あ、そういえば前に胡夢ちゃんにされた時も気絶しちゃったんだっけ……? えっと、ごめんなさい……」

 

「……まあ、暫くしたら復活するだろうから別に構わんが、チッ、逆のパターンで入れ替われる方法がわからんか、暫く俺が主導権を握らんとならなんのか……」

 

「え? じゃあ月音が戻るまでもう少し一緒に……」

 

「そうなるが、引っ付く意味がわからん」

 

「だってドライグ君と触れ合えるんだもん。ずっとこうしていたいくらいよ」

 

 

 

 

『お、おい起きろ月音! お前が居ないと、私一人でこの二人のイケナイ気がする光景を見なければならんのだぞ! おーい!!』

 

 

 終わり

 




補足

はい、さくっと反学派は終わりました。

そして首謀者の目的も微妙に違いました。


その2
今回の件で取り敢えず魔女の丘と師匠の無事は確定しました。

下手に人質にしようもんなら出撃確定という意味で。

……もっとも、お館様の身体も段々回復してるし、血を取り込んで強化してるので問題もないですが。

その3
機嫌よく連れ出せてご機嫌な裏萌香さん。

しかし、表の自分とドライグの不倫度が上昇であわあわしてしまうとかなんとか。


その4

ふ、不倫だー!

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