そんなこんなという流れ的なノリで小猫ちゃんが住み着き始めて暫く経った。
責任を持って養ってくださいと言われても、正直な話何も出来るわけが無く、気が付けばいつの間にかスキルアップしてた小猫ちゃんにご飯作って貰ったり掃除して貰ったり……見ようによっては俺が養われているようにしか見えなくなってたが、特に小猫ちゃんは文句を言うでも無く、逆に何処か楽しそうな顔しながら……。
「ハァ、先輩は私が居ないと
とか言ってくるんだ。
まぁ自活能力は確かに低いし、現にこの様だから何も言い返せないけどさ、小猫ちゃんって俺がダメ人間な程ウキウキしてる気がするんだけど、果たして気のせいなのか?
「ほら先輩。ご飯が出来ましたから漫画はその辺にしてください」
「うん、ありがと」
元の種族に戻り、純粋な猫妖怪になっても俺からすればやっぱり人外に違いがない訳で、喧嘩にでもなったら刹那でボコ殴りにされるだろう。
故に、たった数日ですっかり家での主導権を取られた俺は、新刊で続きが気になるのを我慢して本を閉じ、お湯沸かしにしか使用してなかったショボい台所で作られた料理が並べられているテーブルの前に座る。
「相変わらず多いね。しかもその八割は小猫ちゃんのお腹の中ってのがまた信じられないぜ」
「何を今更って奴ですね。いただきます」
曰く、先輩好みの味を勉強したと言うだけあって、食ってみるとこれまた中々美味しくてビックリしたのは懐かしい出来事だ。
「まさかまともなご飯を食わせて貰えるなんて夢にも思わなかったな。
今まではコンビニ弁当とかカップ麺で生きてきたから」
「血色の悪さの原因の殆どは片寄った食生活をしてきたからです。
身体が細いのは…………まあ、単純に貧弱気質だからかと」
一度すべての存在から小猫ちゃんの記憶を消してリセットしてからも、悪魔の援助無し状態で引き続き学校に通ってる小猫ちゃんはやはり当然とも言うべき人気者っぷりは変わらない。
まあ、普通にこの子可愛い顔してるからね……当然っちゃあ当然だけど……。
「そういえば、元部長に私が人間じゃ無いことがバレて、今日眷属にならないかと言われました」
「へぇ?」
紅髪悪魔さん達の人気に肩を並べるレベルな小猫ちゃんの話に相づちしなら、上手く味付けされてるサバの味噌煮を口に入れる。
うん、これもフツーに美味しいな。悔しいことに。
「『学校に通いたいだけですから』とお断りしましたけど」
「ほー?」
「別にリアス部長が嫌いって訳じゃ無いんですけど、やっぱり自由となれた身だし、正直もう姉に関してもどうだって良いので上手くお断りしました。
まあ、私が何で先輩と常に一緒に行動してるのかとか、家に転がり込んでいるのかと誠八先輩に聞かれましたが……」
「小猫ちゃんとはほぼ『初対面』ってのが今の現実だからね。
そりゃあ追い出された弟と猫の妖怪さんが一緒に行動してるのかは気になるんじゃないの?」
「それだけなら良いんですけどね。あの人はどうも一誠先輩が誰かと行動しているのが前から気に入らないって様子でしたし」
「彼ならそう思ってるかも。曰く俺は、存在してるだけで『他人を駄目にする』らしいから」
他愛の無い会話。
小猫ちゃん以外の相手とはまず成立さえしない、只の会話が、内緒だけど俺は好きだ。
『死ね』『消えろ』『気持ち悪い』と二言目には言われて唾吐かれるか、殴られるか、逃げられるかしか無かった俺にこの子だけはこうして普通にしてくれる。
言ってる事はかわいくないけど、不思議で変な子……それが俺にとっての小猫ちゃん……いや白音ちゃんと言う女の子だった。
「一誠先輩もダメな人だと私は思いますが」
「ん、自覚はしてるよん」
「ふふ……だからこそ私が居ないといけない訳です。
良かったですね先輩、私という後輩が居てくれて?」
「実に恩着せがましい言い方センキューベリーマッチ」
スゲェ小生意気な事ばっかし言ってくるけどね。
まあ、別に腹が立つとかは無いから構わんし、寧ろ怯えられたり逃げられたり罵倒してこないだけ嬉しいもんよ。
マゾだからという意味ではなくてね。
「ねえ、そろそろ楯○さんの本を返して欲しい……」
「駄目です」
そうだな、強いて文句があるなら今キッパリと断られた通り俺の大事なお宝本を返して欲しいという所か……。
「あんなものに頼るとかやめてください。
言ったでしょう? ムラムラしたら私を使っても構わないって……」
「ん? ちょっと待った。まさかキミは俺があの本使ってチョメチョメしてるとか思ってたの?」
「? 違うんですか?」
キョトンとした顔で俺を見てくる小猫ちゃん。
「いや、勘弁してよ。楯○さんにそんな事するかよ。
普通に単純にファンなだけだし」
何て邪過ぎる想像を俺に持ってるんだよこの子は。
大体、性欲なんてもんは
単純に楯○が好きなだけなんだよ……2次元だけどね。
「何だ違うんですか……返しませんけど」
「まあ、そういう話に想像ついちゃうのは、普段の行いの悪さが故にって所だし何も言わないけどさぁ……返してくれないのかぁ……」
水色の髪で跳ねっ毛。
瞳の色は赤という……あれ、日本人? って見た目だけど、それすら愛嬌が良さそうでvery goodなんだよ。2次元だけど。
しかも勝ち気な見え隠れするつり目と来たとなればもう満塁ホームランレベルに俺の好みのど真ん中入ってるんだよ……………2次元だけど。
「現実に恋人が居ないからって2次元に走るのはどうかと思いますけど……」
「う、うっさい。現実の女の子なんて皆どうせ俺と付き合うなんて思うわけが無いんだよ」
「だから私が居るじゃないですか。あれ、知りません? 学校の人達は皆私と先輩が恋人同士だと思ってますよ?」
「な、なんだって!?」
しれっとした面持ちで食べ終えた食器を片付けし、揃って歯を磨いた後にまたテーブルの前に座って話を再開した際の小猫ちゃんの言葉は、俺をビックリさせるのに十二分だった。
いや、考えてみれば友達がまるで居ないのに小猫ちゃんとだけは普通に会話してる処か、晩飯は何にするんだ的な話とかしてるのを聞いたらそんな間違いをするだろうけど。
「だ、だから最近また無駄に殺意向けられてたのね……。
おかしいと思った、人格を戻しても周りが前とそんなに変わらない所とか」
別に意図的に出してる訳じゃ無いんだけど、それでも元の人格に戻れば誰も何もせずに向こうから勝手に学校止めたり不登校になったりするはずが、自分の所属してるクラス以外の連中は何一つ変わってなかったんだよ。
朝なんか小猫ちゃんと登校してるの見られると決まって襲い掛かってくるし。
そうか……誤解されてたからなのか……。
「俺と小猫ちゃんはそんな関係じゃありませーん……とか言っても信じてくれなさそうだ」
「別に誤解を解く必要は無いのでは? 私は構いませんよ? というかこの現状からすれば間違ってないと思いますけど」
「えー……?」
「何ですかその顔は?」
微妙な気分がつい声に出てしまったのを聞いた小猫ちゃんがムッとしながら俺を見てる。
いやだって……うん。
「別に文句とかは無いんだけどさ……んー……」
「言いたい事があればどうぞ。怒りませんので」
言いたい事……うん。
「体型がどうとかはもう今更だし言わないよ。
俺が一番引っ掛かってるのは、俺とキミってそんな幸せそうな関係になれると思う?」
「………」
無理だろ。マイナスなんだから。
無理だろ。不運が常に向いてるんだから。
そういう意味を込めた言葉に、小猫ちゃんは黙りこくった。
「俺はキミに色々な事から『逃げる』事を教えただけだ。
それが男女の関係じゃないのは分かるだろ? まあ、なんか現状はこんなザマだけど」
「別に……そこから始まる事だってあるじゃないですか……」
「かもしれないね。俺が普通ならな。だが違う」
小猫ちゃんは嫌いじゃない、寧ろ好きなのかもしれない。
ただそれだけ……俺にはそれ以上の感情が分からない。経験が無いから。
もしかしたらそれが男女の関係となるべくという意味での好きって感情なのかされないけど、解らない。
小猫ちゃんの顔を剥がし、肉片になるまでバラバラにしてみてそれでも残ったソレを好きで居られるのであれば完全に理解出来そうなもんだが……それはやりたくない。
「エロ本を読めばムラムラだってするし、綺麗な人を見たら綺麗だなと思えるけど、俺にとってはそこまでなんだよ。
そこから先は知らないし踏み込もうとも思わない」
「…………」
そんなものなんて無くても生きてはいけるからな。
普段は素敵な恋人云々言ってるけど、所詮口に出してるだねで実際は別にどうでもいいんだよ。
うん、改めると割りと冷めてるよねぇ。
「第一その状態になって裏切られでもしてみなよ? 俺は許すと思うけど暫く凹んで死にたくなるだろうしー」
「先輩は私が裏切るとでも?」
「いーや? 例え話だよ、例え話!」
それは思ってないけど絶対ではないだろ?
もしかしたら俺の方が裏切るかもしれないし……っと?
「何のつもりかな?」
「…………」
何でこんなつまらない話してんだろ? とふと気付いた矢先だ。
パッと立ち上がった小猫ちゃんがそのまま俺の身体をひょいと持つと、そのままベッドの上に放り込み、仰向けになってた俺の上に跨がってきました。
だから何のつもりかな? と半笑いで聞いてみたら、小猫ちゃんは怒った様な顔で言った。
「知らないなら教えます。だから動くな」
「おお、怖い怖い……何だか前に読んだエロ本みたいなシチュエーションで笑いそうだよ俺はね」
ヘラヘラした笑みは止めずに、おどけて見せれば、マジで小猫ちゃんは着ていた服の前ボタンを外し始め……白くて華奢な肌を露出させた。
「で、どうするんだい?」
「そうやってのらりくらりと逃げる先輩を完全に捕まえます……」
「おいおい、キミってまだ種族的に未成熟じゃなかったのかい? 死んでしまう」
「それくらいしないと先輩は自覚してくれませんから。
大丈夫……タダでは死にませんから」
フフっと微笑む小猫ちゃんはそのままキスしてきた……………あ、あぁ……俺そういえば初めてだったのにどうしてくれんだよーーとは言うつもりも無く、スルスルと服を脱がされーーーー
「駄目にゃぁぁぁっ!!!」
「っ!?」
「おわっ!?」
た所で、俺でも小猫ちゃんでも無い他の誰かの叫び声が聞こえたかと思ったら、部屋の入り口の扉が勢い良く薙ぎ倒され、中にその誰かが入ってきた。
「…………」
「…………」
「はあ、はぁ……間に合ったにゃん……」
いきなり過ぎて互いに半裸状態でポカンとする俺と小猫ちゃんと、何処かで聞いたことある語尾を口しながら息切れしている不法侵入者……もとい。
「あ、残念ビッチだ」
「姉様?」
「なっ!? ビッチじゃないにゃ! 黙ってろにゃん!
白音、白音に手を出させないにゃん!!」
小猫ちゃんの姉らしい……ええっと、黒歌さんだっけかが、ポカンとしたままの小猫ちゃんを抱き締めつつ俺をベッドから引き摺り降ろすのだった。
続きはその内