色々なIF集   作:超人類DX

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本当になんも考えずに行き当たりばったりに書いただけのもの。


執事さんと魔王少女のプロローグ

 日之影一誠は人間なのに悪魔の執事である。

 

 そこに至るまでの話は割愛するけど、とにかく兵藤という姓を捨てて日之影という姓となった彼はグレモリーとシトリーの執事である。

 

 

 そんな執事な一誠は、基本的に極度のコミュ障であり、グレモリー家とシトリー家以外の者に対しては殆ど喋らないし、表情も固いし、いっそ無愛想ですらある。

 

 本来の兵藤一誠としての人格とは全くの真逆であるその理由もここでは割愛するが、ともかく日之影一誠とはそんな青年なのである。

 

 さて、そんな性格の日之影一誠でも例外という状況が存在する。

 例えば家族を自称するグレモリー家やシトリー家の者達に構い倒された時のリアクションなんかが、まるっきり思春期入った少年の反抗期みたいなソレになるというのもそうなのだが、そんな彼等の中の一人となる、とある悪魔に対しては、寧ろ一誠が生き生きとした表情に変わるのだ。

 

 その悪魔の名はセラフォルー・シトリー。

 現在四大魔王の、レヴィアタンとして冥界のトップに君臨する最高峰の女性悪魔である彼女に対して、日之影一誠は幼少の出会った頃からそれそれは楽しげに虐めまくるのだ。

 冥界に住まう悪魔達が知ったら、それこそ殺しに来るだろう真似を、悪魔ではない一誠だけがセラフォルーに対して行う。

 

 その理由はいまひとつよくわかっては無いのだが、端から見ると、どうにも気になる女の子を虐めてしまう男の子――の様にも見えなくもない。

 

 本人にそう言えば確実に否定するであろうが、周りから見ればそうとしか見えないのだ。

 しかもこの一誠は極端に酒に弱く、以前誤って飲んでしまって泥酔した際に無差別クラスのキス魔に豹変した時も、最初に襲い掛かったのがセラフォルーだったのだ。

 泥酔していたとはいえ、一誠にしてみれば初めてのキスはセラフォルーであり、正気に戻った時にその話を聞いた本人はこれでもかと動揺していたのだから。

 

 

「ねぇ一誠? これはただの疑問というか、興味本位で聞きたいんだけどさ……」

 

「なんだよ……?」

 

「……。ひょっとしてなんだけど、セラフォルーの事が好きだったりしないかい?」

 

「……………は?」

 

 

 それは、一誠が何時か越えるべき壁として認識し、今尚君臨し続ける史上最強の人外悪魔と呼ばれし青年悪魔こと、サーゼクス・グレモリーにもそう見えてしまうので、ある日グレモリーの実家を何時も通りに淡々と独りで掃除をしていた一誠に訊ねてみた。

 一誠をある人外から頼まれて引き取ってから10年以上経った現在、無愛想で口も悪いが、誰よりも努力をし続けるその姿にサーゼクスの妹や娘やその友人達が惹かれているのは知っている。

 

 だからこそサーゼクスは聞きたかったのだ。

 この10年以上の歳月の中、サーゼクスとその妻であるグレイフィアと同世代で友人でもあるセラフォルーに対してだけは嬉々として色々とやる一誠は、実の所セラフォルーが好きなのではと……。

 

 

「急に真顔で何を聞いてくるのかと思えば……頭沸いたのか?」

 

「ボケでもなんでもなく、割りと真面目に聞いてるつもりだ」

 

 

 グレイフィアやヴェネラナといった親世代の女性悪魔達に徹底的に叩き込まれた結果、無駄に執事スキルが対人対応能力以外は高い一誠の怪訝そうな表情に、サーゼクスは半ば予想した通りの返しだと苦笑いだ。

 サーゼクスの対となる平等主義者の人外が言うには、本来の日之影――否、兵藤一誠は寧ろそういった手合いの話を好む傾向があるし、なんなら女性の一部分の大きさに対して鼻の下を伸ばす様な……まあ、今時の若者らしい若者である筈なのだ。

 

 しかし彼は最早兵藤の姓を捨てた日之影一誠。

 本来の運命を外部の存在によって無理矢理外されてしまい、実の親をも信じられなくなってしまった、極度の他人不信者で、信じられるものは『強さ』のみという、拳骨煎餅よりも頑固な思考と化した青年なのだ。

 

 

「なんだ、グレイフィアかババァ共の入れ知恵か何かか?」

 

「半分は正解かもね。

けどね、お前はどうも昔からセラフォルーに対してだけ妙にテンションが高くなってる傾向を感じるんだよねー……」

 

「…………」

 

 

 そんな日之影一誠は男女の仲というものを寧ろ鬱陶しいとさえ思う、なんとも灰色な思考回路の青年にすくすくと育ってしまっていた。

 二度と誰からも奪われない為には力しかない――と、まだ5歳にも満たない年齢から悟ってしまったのと、サーゼクスという身近ながら絶対的な人外に挑んでは敗け続ける日々が、コンプレックスになってしまっているのが主な原因であり、今もこうして小間使いのような真似事をしているのも、自分より強い存在であるサーゼクスに敗けているから従う他無いという、一誠自身のルールに則っているからだからだ。

 

 

「くだらねぇ、セラフォルーを叩きのめす時の俺がそうお前らに見えたからって、惚れた腫れたと解釈するあたり、お前の目は曇ってるな」

 

「これでもビー玉みたいに綺麗な目だってよくグレイフィアに褒めて貰えてるんだけどなー……」

 

「じゃああのオバハンの目も曇ってるんだろ。

へ、まさに似た者夫婦で結構じゃねーか」

 

「………知らないからね? グレイフィアに今の言葉を聞かれたらまたお仕置きされるぞ?」

 

 

 そんな訳で一誠の返答は、予想した通りに『ありえねぇ』であったので、サーゼクスは取り敢えず納得したように頷いておく。

 しかしサーゼクスでもわかる……。

 

 

(まあ、自覚はしてないって所だね)

 

 

 どう考えても、惚れた腫れたでは無いにせよ一誠はセラフォルーに対して一定以上の感情を持っている。

 そうで無ければ、トレーニングに付き合わせる度にガキ大将化してセラフォルーの衣装を定規で消し飛ばして全裸にしたり、されて半泣きになるセラフォルーを満足極まりないとばかりにゲラゲラ笑ったりなんてしやしない。

 一誠は基本的に戦いとなれば相手に隙を与えずに一気に仕留めるタイプ――簡単にいえばプロレスを成立させずにガチンコで空気を読まずに捻り潰してしまう様なスタイルなのだから。

 

 

「で、話はそれだけか? というか、そんなくだらねぇ事を聞きに来る程暇なら、今から俺と戦え。

今度こそぶちのめしてやる」

 

(少しは余裕を持てれば、一皮剥けるんだけどなぁ……)

 

 

 トレーニングにしてもそうだが、その常に鬼気迫るスタイルは赤龍帝としての運命から外された事で覚醒した一誠の気質に『停滞』を意味させるものだということを、同類としてサーゼクスが感じていた。

 

 いつの日か一誠は自分よりも更に先の領域に先んじて到達出来る程の男であると期待をしているだけに、サーゼクスとしてはこの切羽詰まった感を常に出してる今の一誠はナンセンスなのである。

 

 だからサーゼクスは一石を投じてみることにしたのだ。

 本音はあまり一誠に惹かれてる者の一人に肩入れしたら、他の者達に怒られるからしたくは無いのだが、あくまで他人はどうでも良いスタンスを貫こうとしたがる一誠のリアクションが見たい――――つまり、ちょっとしたお茶目な悪戯心だった。

 

 

「一昨日戦って僕に敗けたろ? 二日で差を縮ませる程僕は甘くないよ。

だから戦うのはまだだ」

 

「……チッ、余裕こきやがって」

 

 

 やんわりと戦うのを回避するサーゼクスに、舌打ちをしながら毒づきつつも渋々引き下がる一誠。

 彼が引き下がるのも、サーゼクスが其ほどまでの領域に到達していて、未だ自分には届かないという自覚があるからなのかもしれない。

 

 そんな一誠の心裏を他所に、サーゼクスは『それよりも……』と前置きしてから話した。

 

 

「お前がセラフォルーに対して何にも思ってないのなら話は早いかな」

 

「あ?」

 

 

 何の事だ? と再び怪訝そうな顔をする一誠の、意外と分かりやすい反応にサーゼクスは笑いそうになってしまうが、グッと堪えながら――それはもう神妙な面持ちで口を開く。

 

 

「いやさ、セラフォルーもそろそろ良い歳じゃない?」

 

「良いどころか、人間からみたら干からびたミイラだろ」

 

「でも人間換算したら逆に二十代半ばだよ。

これはアジュカやファルビウムもお偉いさん達に言われた事なんだけど、そろそろ僕みたいに所帯を持ってみたらどうなんだって昨日言われちゃってさぁ?」

 

「………」

 

 

 そのアジュカとファルビウムを8年前の時点で半殺しにした事があったりする一誠は、その二人の現魔王にはまるで関心は無いのだが、セラフォルーまでその話に組み込まれてるとなると聞く気はあるらしく、意外な程黙って聞いていた。

 その変な律儀さまた面白くてサーゼクスは笑いたくなる……どこかセラフォルーがどうでも良いんだか――と。

 

 

「でね? アジュカとファルビウムはあまり乗り気じゃなかったんだけど、セラフォルーは思う所があったのか、意外と乗り気だったんだよね。

多分お前に散々やられてきたせいで、女性としての自信を喪失しちゃってたんだと思うけど……」

 

「…………」

 

(お?)

 

 

 セラフォルーが乗り気だ……その言葉が出た瞬間だったか、僅かに一誠の表情が揺らいだのをサーゼクスは見逃さなかった。

 

 

「で、近々『純血』の悪魔の独身男性を募ってお見合いをしてみようって事になったんだけど…………」

 

 

 チラッと一誠の顔を伺いながら、話してみるサーゼクス。

 

 

「………。勝手にすりゃあ良いだろ。

それを何でわざわ純血でもなければ転生悪魔でもねぇ人間の俺に言うんだよ」

 

「そりゃあだって、眷属を持たないセラフォルーが一番近しい異性ってお前だもん。

まあでもさっきの話を聞いて安心したよ。だって一誠はセラフォルーの事はどうでも良いんでしょう? それこそ上手いこと話の合う相手と縁談が成立して、結婚しちゃったりして、子供なんかできても―――」

 

 

 一誠には関係ないよね? そう続けようとしたその瞬間だったか。

 無造作に拳を振るった一誠によって、グレモリーの実家の立派な壁が窓ガラスごと粉砕したのは。

 

 

「何のつもりか知らねぇが、それ以上ベラベラくっちゃべったら殺す」

 

 

 粉砕と共にグレモリーの城全体を揺るがす程の揺れに、他の使用人悪魔達や警備の者達が何事かと大騒ぎする声が聞こえる中、石像の様に冷たい表情をしながらも、その瞳はサーゼクスと喧嘩をしている時の様な業火の炎に燃えている一誠。

 

 

「話は終わりか? くだらねぇ……」

 

「終わりだけど、壁壊さないでよ……母に揃って怒られるじゃないか」

 

「知るか」

 

 

 集まってきた使用人達が、一誠とサーゼクスの姿を見ると、色々と察したような顔をしている中、一言で切り捨てた一誠は、集まってきた使用人達に一言……。

 

 

「イラついて俺が壊した。

修繕費はツケておけ」

 

「わかりましたが、副長……またサーゼクス様になにか?」

 

「ちょっとだけ……」

 

「はぁ……サーゼクス様もお止めください。

副長はご立派にご成長しましたが、まだまだ繊細な子供なんですよ?」

 

「わかってるよ。

それよりこの事は母に……」

 

「キッチリご報告させて頂きます。

サーゼクス様がイッセー副長をからかったからこうなってしまいましたとね……」

 

「……そ、そう」

 

 

 幼い頃のイッセーを知っている古参の使用人達や護衛達が挙って使用人副長まで到達した一誠の肩を持つ状況に、軽く圧されてしまうサーゼクス。

 無愛想で、無口で、主達に対して傍若無人な態度をしながらも、何かが起こればいの一番に主達を守る盾となり矛にもなる事を……そうなれる様に血反吐を吐き続けた努力を重ねていることを知っているからこそ、悪魔でありながらも彼等は人間である一誠に殆どが年上でありながら敬意を持っている。

 

 それはシトリー家の使用人達や護衛達も同じであり、彼等の場合はシトリー家の護衛兼執事長にまで到達している一誠に対して一種の崇拝にも近いものを抱いている程だ。

 

 

「イッセー副長、ここは我等にお任せください」

 

「副長はこれからご用事があるのでしょう? 行って下さい」

 

「いや別に……」

 

「我慢なさらないでください! 副長がここまで怒りを放つ時は決まって何かが起こった時! ならばその元凶を片付けるべきです! さあ!」

 

「…………」

 

 

 本当なら人間の分際でと疎んじるべきであろう他の使用人達に背中を押されながら、粉砕した壁から外へと出る一誠。

 他人は決して信じないという悟りを開いて行動してきたのに、どうしてコイツ等は……それがわからない一誠は困惑するしかないし、サーゼクスはサーゼクスで『やべぇ、バレたらやべぇ』みたいな顔をしながら他の使用人達に怒られてるのを見つつも、一誠は他の使用人達の好意に――他人からの好意に久し振りに乗ってみることにした。

 

 

「……すぐに戻ります」

 

 

 他人への情を持てば弱くなる。

 そう思い込むからこそ他人を信じるのを止めてきた一誠は、きっと初めて他人に対してそう告げると、地を蹴り、ジェット機の様に空へと翔んだ。

 

 

「ふっ、すぐに戻ります……ですって!! 初めて副長にそんな事を言って貰っちゃったわ! キャー!」

 

「ちょっと目を逸らしながら言った所が可愛いわ! ヴェネラナ様やグレイフィア様、シトリー夫人が可愛がるのが本当によくわかりますわ!」

 

「ではサーゼクス様はご一緒に後片付けをしましょうね?」

 

「え、えぇ……? 僕が壊したんじゃないのに――」

 

『サーゼクス様……?』

 

「うっ……わ、わかったよ。とほほ……」

 

 

 そしてサーゼクスは、使用人に圧されるがままに一誠が粉砕した壁の後片付けを手伝わされていた。

 グレモリー家の長男にして四大魔王の一人なのに。

 

 

 

 

 

 

 冥界は人間界と同等以上に広大である。

 そんな広大な冥界の上空を文字通り高速で飛翔する一誠が目指したのは、セラフォルーが管理をしているレヴィアタン領の都市である。

 

 

「…………」

 

「あ、あの男は確か例の化け物……」

 

「何しにここへ……?」

 

 

 都市部の中心地に文字通り降りた燕尾服の青年に、この地域に住まう多くの悪魔達は、悪い意味で見覚えのある人間の青年にギョッとした顔をする。

 

 

「………」

 

 

 何時もならそんな視線を受ければ、具合が悪くなる一誠だけど、今は他の事に思考が回っているせいか、その兆候が見えず、まるで渋谷のセンター街みたいな近代的な街並みのど真ん中に無表情で佇む一誠は、ふと劇場ビルにあった巨大モニターに、コスプレ全開であれこれやってるセラフォルーの姿が目に入る。

 

 

「……………」

 

 

 今更セラフォルーが何かやってる映像なんて見たところでどうとも思わない。

 何故なら生で嫌というほど見せられるから。

 

 だから一誠は周囲の敵意にも近い感情を向けてくる悪魔達の視線を無視して、ある場所を目指して歩きだす。

 すれ違う住人達が都度、この地域では悪名高い一誠の姿を見てギョッとした顔をしながら思わず道を譲るので、意外な程スイスイと歩けた一誠が到着したのは、セラフォルーの仕事場――のような建物であった。

 

 

「き、貴様は日之影一誠!?」

 

「な、何しに来た! 今セラフォルー様は業務中だ!」

 

「………………」

 

 

 まるでどこぞの県庁みたいな建物の入り口を守る警備員の悪魔達が、普段単独でなら絶対に現れる訳の無い存在を前に驚きと警戒を持って帰れと言うが、今日の一誠は何時も以上に聞き分けが無く、警戒心と恐怖心の入り交じった表情で持っていた武器の矛先を剥ける悪魔達に、指をパキパキと鳴らしながら一言……。

 

 

「………退け」

 

 

 四大魔王の内の三人をまだ10にも満たない年齢の時点で捻り潰した化け物のシンプル過ぎるその言葉に、護衛達は、向けていた武器を片手でへし折ってきたのもあってか、すっかり戦意喪失をしてしまった。

 

 

「きょ、今日は良い天気だな相棒?」

 

「そ、そうだなぁ? あまりにも良い天気過ぎて、思わず業務を忘れてしまいそうになるなぁ?」

 

 

 結果、護衛達は空を見上げてすっとぼける事にした。

 自分は何も見なかったし、ネズミが侵入したのにも気付かないくらい良い天気に気を取られてました……という嘘みたいな誤魔化しに逃げる形で。

 

 それを知った一誠は、背を向けて空を見上げてる護衛達の横を通りすぎて中へと入る。

 中にも魔王としてのセラフォルーを補佐する職員的な悪魔達が居るのだが、全員が全員妙に殺気立ってる一誠を見るや明後日の方向を向いて、見なかった事にしている。

 

 護衛としてそれはどうなんだ? と思うかもしれないが、セラフォルーに対して不敬な真似をする人間の小僧ではあるが、その力は異質でヤバイとある意味一番知ってるのが彼等なので、出来る限り事は構えたくないのだ。

 そもそもセラフォルー本人から『いーちゃんがもし来たら丁重に案内してね☆』なんて言ってるし、別に業務をほっぽりだしてる訳ではないのだ――と、言い訳を自分の中でしながら。

 

 

「……………………」

 

 

 そんな職員達の心境等どうでも良い一誠はといえば、迷い無く階段を上がり、廊下を歩き、また階段を上がりながらセラフォルーの気配を確実に掴み、彼女が今居るだろう部屋に到着した。

 

 

「…………………………」

 

 

 間違いなくこの部屋にセラフォルーが居る。

 中から感じるその気配に一誠は即座に扉を開けようとしたのだが………触れた所でその動きが止まった。

 

 別にセラフォルーの様子を見に来ただけ……と、ここに来るまでにそう考えていた一誠だけど、ふとこの中にもしサーゼクスの言ってた縁談相手が居たらどうしようかと思ってしまい、開けるのを戸惑ってしまっているのだ。

 

 

「……………ふん、馬鹿馬鹿しい」

 

 

 しかしそれは一瞬の事であり、部屋の中からはセラフォルー以外の気配は感じないのだから、こんな意味不明な懸念は無意味だし、何より居たら居たでなんだと云うのだ――なんて、自分の中で無理矢理納得させた一誠は、ノックをするという初歩的な凡ミスを犯しながら、つい勢い良さげに扉を開け放った。

 

 するとそこには気配通りのセラフォルーが……。

 

 

「え……いーちゃん?」

 

「なっ……!?」

 

 

 例のゴテゴテの衣装の上を今まさに脱いでいる姿で目を丸くしながら、思いがけない訪問者に驚いていた。

 正直な所、悪魔に限定するなら異性の一糸纏わぬ姿は見慣れていたし、セラフォルーに限ってはそれ以上に見慣れていた筈だった。

 

 

「え、えっとさ……何でいーちゃんがこんな所に来たのかとか聞きたいんだけど、あんまりそうやって見られると流石に恥ずかしいのと、ドアも閉めて欲しいかなーって……?」

 

「っ……わ、悪い」

 

 

 万歳した状態で固まるセラフォルーの胸が動揺と気恥ずかしさで揺れ動く。

 思わず一誠は謝りながら扉を閉めた。

 

 

「き……着替えたら言ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 

 扉を閉め、そう言う一誠にセラフォルーは扉越しに返事をする。

 微妙に気まずい時間が二分ほど続き、その間一誠は今まで微塵たりとも考えた事なんて無かった筈の、先程のセラフォルーの姿が脳に焼き付いてしまい、必死に頭を振って消そうと躍起だ。

 

 

(ば、馬鹿か俺は、何をセラフォルーの姿に動揺してやがる。

サーゼクスのせいか? いや間違いなくあの野郎のせいだ……! くそっ! 帰ったら一発殴ってやる……!)

 

 

 それもこれもサーゼクスが訳のわからない事を言うせいだ……そう結論付けて無理矢理納得しようとするが、そう考えれば考える程、先程のセラフォルーの姿が思い起こされて動揺が大きくなる。

 

 

「いーちゃん? 着替えたから入っても良いよ?」

 

「!」

 

 

 そうこうしてる内にセラフォルーの声が聞こえた一誠は、ドキッとする。

 いやこれは考え事に没頭してたせいで驚いただけだから……なんて誰にしてるわけでもない言い訳をして誤魔化しながらも、いつになく遠慮がちに扉を開けて中に入る一誠は、あのゴテゴテ衣装ではない――タートルネックの縦セーターにデニムパンツといった……まあ普通の服装のセラフォルーと目が合う。

 

 

「いーちゃんがここに来るなんて思わなかったからビックリしちゃったけど、どうしたの?」

 

「…………」

 

 

 こうしてみると、確かに年上に見えなくもないかもしれない……と、何となく考える一誠にセラフォルーは愛称で呼びながら椅子を用意してあげる。

 連れ込むでもしなければ、まず一誠からは来ない筈なのに、珍しく今回は一誠がここに来たのには何か理由がある筈だ……と、セラフォルーは座らせながら訊ねてみるが、どうも一誠の様子がおかしい。

 

 

「何かあった?」

 

 

 文字通りセラフォルーは一誠が小さい頃から知っている。

 生意気で、ちょっと意地悪な……でもどこまでも律儀な男の子で――泥酔していたとはいえ初めてキスをした相手。

 そんな彼が意味も無くここに訪ねて来る訳が無いのはセラフォルーが一番良く知っているので、普段通りに聞いてみるも、一誠はどこか様子が変だ。

 

 なんというか、ソワソワしている。

 

 

「もしかして聞きにくい事?」

 

「……別に」

 

 

 普段は色々と軽いが、何だかんだ言っても一誠よりも長く生きているだけあって、今のセラフォルーはとても落ち着いている。

 これはサーゼクスやセラフォルーの妹となるリアスやソーナにはまだ育ってない面であり、なるべく話しやすくさせる為にセラフォルーは促してあげる。

 

 それが項をそうしたのか、一誠は本当に言いにくそうな――というか、言いたくは無さそうな顔をしながらゆっくりと話し始めた。

 

 

「サーゼクスから聞かされて、それが本当なのか微妙に――いや本当に興味なんてねーし、どうでも良いんだけど、気にはなったから……」

 

「サーゼクスちゃんから? 何の話を?」

 

「……お前がなんか」

 

「なんか?」

 

「お……見合いみたいな真似事をする的な……」

 

 

 相当たどたどしく、後半はほぼ声に覇気もなくなっていたとはいえ、ここに来た理由を話した一誠に、セラフォルーはキョトンとした。

 

 

「え、私がお見合い?」

 

「上層部に言われてって……」

 

「…………………? …………………! あぁ、昨日確かに言われたかも」

 

 

 途中まで意味がわからなかったセラフォルーも、途中で当たったらしく、確かに言われたと頷いた。

 

 

「そう……か」

 

 

 その瞬間、一誠の表情がなんとなく寂しげなものになったのをセラフォルーは見逃さなかった。

 

 

「まあ……そうだわな。

サーゼクスがグレイフィアとそうなってミリキャスが生まれたんだから、他の魔王だってそうなる時が来るわな」

 

「確かに同じ様な事を言われたけど……」

 

 

 急に開き直った様な態度になる一誠に、セラフォルーははてと首を傾げる。

 それは確かに昨日言われたが、だからといって何で一誠がわざわざ確認してくるのかというか、さっきから聞いてると、自分が結婚するのが決まってる様に思われてる気がする。

 

 

「どこぞの純血と縁談が成立してガキでも生まれたら、一回くらいは抱っこくらいさせろよ? あぁ、なんならミリキャスみてーに鍛えてやっても良いぜ。ははは!」

 

(え、いーちゃんが変になっちゃってるし、何で私が結婚するのが決定してるみたいな感じなの? サーゼクスちゃんはどこまで話してるのさ?)

 

 

 あきらかに『俺、動揺中』と見え見えなまでに爽やかーに笑う一誠に、逆にセラフォルーが戸惑う。

 当たり前だが、セラフォルーは上層部達にそんな話を持ち掛けられたりはしたが、刹那で突っぱねている。

 

 今更自分が自分の意思で惹かれる同族が居るとは思ってないし、何よりセラフォルーとしては……。

 

 

「じゃあ帰るわ、掃除の時間だし」

 

「待っていーちゃん!」

 

 

 どう見ても動揺が隠しきれてない一誠がそのまま帰ろうとするので、セラフォルーは呼び止めた。

 完全に変な誤解をしてるのは明白だったので、とにかく解かなければならないと……。

 

 

「いや掃除の時間……」

 

「お掃除なら他の使用人さんたちでも出来るでしょう? それよりいーちゃんは誤解してるよ!」

 

「何がだよ?」

 

 

 サーゼクスが何を思ってそんな穴だらけの説明をしたのかは知らないが、とにかく一誠にだけは誤解されたくないセラフォルーは、それでも帰ろうとしている一誠を止める為に扉を一瞬で凍結させながら立ち上がり、一誠に近づく。

 

 

「私、誰ともお見合いもしないし、結婚もまだしないんだけど?」

 

「は?」

 

 

 その時の一誠の表情はとても面白かった。セラフォルーは思ったそうな。

 しかしながら、サーゼクスが話を軽く盛ったとわかった時の一誠の怒りっぷりにはセラフォルーも同意できたらしい。

 

 

「あ、あの野郎ォ……!」

 

「わかるよいーちゃん、流石に私もサーゼクスちゃんに一発かましてやりたいもん」

 

 

 取り敢えず誤解は解けたし、サーゼクスには後で報復をする方向に固まった。

 

 

「クソ、何で俺がこんな事に振り回されなきゃならないんだ……!」

 

「……………」

 

 

 しかしながらセラフォルーは思った。

 事実を知った途端、一誠の様子が明らかに戻っている事を。

 

 

「ねぇいーちゃん?」

 

「あ? なんだよ?」

 

 

 セラフォルーも残念な所はあるが、馬鹿ではない。

 サーゼクスの盛った話ひとつで普段なら絶対自分から訪ねて来る筈もない場所に……しかも単独で来た一誠が自分に対して何か思う所があるから来たのだと。

 

 あの動揺っぷりだって、まるでセラフォルーが結婚するかもしれないという事に対して思っている事があるからだということも。

 

 

「ひょっとしてだけどさ、私が結婚するかもしれないって事に反対したかったりする?」

 

 

 だからセラフォルーは聞いた。

 そしてもしその通りだったら……。

 

 

「あ、あるわけねーだろそんなもん! オメーみたいな痛い格好するようなアホ女と結婚させられる憐れな野郎がどんなのかが知りたかっただけだっつーの!」

 

「………………」

 

 

 どう見てもテンパってる一誠にセラフォルーはとても幸せな気持ちになていき、やがて穏やかな笑みが零れる。

 

 

「そっか……えへへ」

 

「な、なに『わかってます』みてーなツラしてんだ? ちげーって言ってんだろうがよ! つーかよーく考えたらオメーみてーなアホ女のノリに付いていける野郎なんざ居るわけもねーしな! 寧ろ向こうからお断りされるに決まってらぁ! オメーは一生独り身じゃあ! キャハハハ!!」

 

「うん、多分そうかもね?」

 

「うっ……」

 

 

 何時ものセラフォルー限定のいじめっ子モードになって罵倒する一誠だが、思ってた反応じゃないセラフォルーに言葉が詰まってしまう。

 

 

「だって私の服を消し飛ばして笑いこけたり、無遠慮にひっぱいたり出来る人なんて悪魔には居ないもん」

 

「……」

 

 

 そんな一誠がおかしくて、それでいて愛しくて……。

 周りに吠え散らかしてきた小さな人間の男の子だった一誠が立派に成長したのをグレイフィアの様に姉の様な気分で見てきた。

 

 それが何時からだろう、愛情を振り撒くことはできても、受け入れる事は出来なかったセラフォルーが、不器用で小さな一誠の優しさを嬉しく思う様になったのは。

 そして泥酔したあの時の一誠に、ちょっと強引だったけど唇を奪われた時に抱いた気持ちが本物となっていった時から……。

 

 

「私ね、昔から眷属なんて必要ないって思ってた。

それは多分だけど、いーちゃんと同じ。

肩を並べて先を歩く同志は居ても、信用できる本当の仲間なんて見つかる訳がないって思ってたから」

 

「セラフォルー……」

 

「おかしいよね? そんな私がさ、私以上に他人を信じようとしないいーちゃんに信じる事を教えようとしてたなんて……」

 

 

 落ち着いた格好をしたセラフォルーが一番の手を取る。

 

 

「だから私はいーちゃんに惹かれたんだと思う。

同じだけど同じじゃない……取り繕った愛を平等に振り撒く事はできても、受け入れられない私が唯一いーちゃんの不器用な優しさを受け入れられたから……」

 

 

 最初は寧ろ同属嫌悪を無意識に互いに抱いていたのかもしれない。

 だから一誠は当初セラフォルーに攻撃的だった。

 けれど時が経つにつれて、互いに足りていないものを見ていく内に惹かれていった。

 

 

「やっぱり私に眷属は要らない。

でもいーちゃんの立つ領域に辿り着いて、一緒に居たい。

それが私の本心だよいーちゃん?」

 

 

 他人を信じないのならそれでも良い。

 けど自分の事はどうか受け入れて欲しい。

 自分の腰くらいの背丈だった男の子は、今では自分を見下ろせるくらいに大きくなった。

 歩んできた月日を感じながらセラフォルーは戸惑っている表情の一誠の身体を抱き締め、セラフォルーという只一人の悪魔としての本心を告げた。

 

 

「ソーナちゃんやリアスちゃん達には悪いけど、やっぱり見てるだけは嫌。

いーちゃんが何時かあの子達の内の誰かとそうなるかもしれないって思うだけで辛い……」

 

 

 例えこの先一誠が力を全て失おうが関係ない。

 そうなったとしても今度は自分が守る。

 きっかけは確かに一誠の持つ異質な気質のお陰かもしれないけど、今となっては関係ない。

 

 サーゼクスの盛った話ひとつで血相かえながら乗り込んで来てくれた……それだけでもセラフォルーは嬉しかったし、ますます惹かれていく。

 

 一誠を抱き締めるセラフォルーは、そんな気持ちを打ち明けると、顔を上げ、爪先で立つと……。

 

 

「好きだよ、いーちゃん……」

 

 

 泥酔した勢いでされた時とは違う、セラフォルーからのキスを送った。

 

 

「…………」

 

「……………」

 

 

 一誠は動揺していたのか、一切抵抗はせず、驚いた表情ながらセラフォルーの唇を受け入れていた。

 1分か……それとも10分か、時間の感覚が狂っていく気がする程に長く感じた重なりはやがて終わり……。

 

 

「「っ!?」」

 

 

 まるで誰かが祝福でもしているかの様な眩い光に包まれ、二人の姿は部屋から――冥界から―――いや、世界から消え去った。

 

 そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……?」

 

「何だここは……?」

 

 

 見知らぬ世界に二人は飛ばされたのだった。

 

 

終わり




補足

簡単に言えば執事シリーズのひとつの確定ルート状態からのどこぞの世界に飛ばされました的な感じ。

どこの世界とかはまったく決めてない。

ただ、こうなってくると、ベリーハード一誠ばりにセラフォルーさんしか見なくなる可能性しかなくなる。


その2
続きもない。

あったとするならというか、希望があるなら活動報告に『どこぞの世界』が良いかの希望を欲しいっすね。

いやまあ、無いとは思ってるけど。
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