更識刀奈は覚悟している。
更識刀奈に『諦める』という文字は存在しない。
彼がリアス一筋なのは最初から知っている。
実際にどれだけの事をしても彼が無反応なのも理解している。
しかしそれでも更識楯無としてではなく、ただの刀奈として一誠というリアス以外には不器用な男性に惚れ込んでしまっているのだから。
そういう意味ではきっと自分は織斑春人に惚れ込んでいる者達と何ら変わらないのだと思ってもいる。
違いがあるとするなら、春人と違い、一誠は毅然とした態度で突っぱねてくるという所と、取り合いだなんだと彼に好意を抱く者達と喧嘩をすることが無いといった所だろう。
何故ならその一誠から愛されている女性――刀奈にとっては目指すべき壁であるリアスが刀奈や真耶を認めているからだ。
だから喧嘩なんてしないし、寧ろリアスから色々な事を教えて貰っている。
だからこそ刀奈は諦めたくは無いのだ。
出会いから始まり、ほんの小さな交流を重ねていく内に抱いた………あの日胸の中に抱き、やがては大きくなっていったこの気持ちを。
織斑春人の件で用務員・兵藤一誠の存在は知られてしまった。
春人側の印象操作によって、ネガティブな印象をまだ多く持たれているのは事実だ。
けれどそんな事は刀奈には関係ない。
自分のせいで一誠が周りからそう思われてしまった事に対する申し訳無さですら、一誠は『気にするな』の一言で許してくれたし、春人からのストーカーじみた真似をされた時は本気で守ってくれた。
かつてリアスが一誠に全力で守られて来た様に。
そしてリアスが『覚悟』をする事で真の意味で一誠のパートナーへと至った様に……。
無愛想かもしれない。
リアス一筋過ぎて基本的にぶっきらぼうなのかもしれない。
でも刀奈はちゃんと知っている。
認めた相手に対する優しさを……そして命を掛けても見捨てはしないという覚悟と包容力を。
だから好き。
暗部の当主となるべく、情を抑えながら生きてきた身としては、きっと失格なのかもしれない。
でもこの気持ちだけは捨てたくはない。
最初で最後――そして永遠に消える事は無いこの恋心だけは捨てない。
だから刀奈は決して諦めない。
リアスの様な女性になる――無論ただの模倣には決してならず、自分らしくリアスに並ぶ女になって一誠を振り向かせる。
これが刀奈の抱いた
今も尚リアスが持ち続ける
―――――――――
その気持ちにより遂に到達した刀奈の踏み出した道はまだ始まったばかりだ。
自分の生き方は自分で決める。
リアスがかつてそう決めた様に……。
学園祭の日が近づく今日この頃。
其々のクラスが学園祭に向けた準備に精を出している頃、生徒会長の更識楯無――――つまり刀奈は、一夏と箒とシャルロットのクラスが『喫茶店的なお店』をやると知る。
別段その事に関しての問題は全くの皆無なのだが、懸念するのは、一夏達のクラスにリアスと一誠が訪れたら、非常に面倒な事になりはしないかという事である。
何せ一夏のクラスには織斑春人も居るし、そんな春人に好意を持つ者達が多数在籍しているのだ。
そんな所に、世界で最初の男性IS起動者という事にはなっている春人を身体機能の約半分は『再起不能』にしたという事で名前と顔がそれなりに広まっている一誠が行ってみたら、大騒ぎになるのは間違いないのだ。
当初、一誠が学園祭当日は有給取ってリアスと過ごすという話を聞いてしまった刀奈は、思わず我が儘を言って来てもらえる約束を交わす事に成功したものの、今になって冷静に考えたら、厄介事に巻き込んでしまった感が否めないと……ちょっとだけ罪悪感を感じたので、少し前に一誠とリアスに対して謝罪交じりで『やっぱり来ない方が良いのかもしれない』と言ったのだが……。
「一般開放の日に行けば問題ないだろ? 第一、もう店とかキャンセルしちゃったんだぞ」
「アナタが気にする事じゃないから大丈夫よ、刀奈」
織斑春人だ、その周りに何を言われようが知らん顔をする気満々の一誠もリアスも気にするなと言ったので、刀奈はちょっとだけ安心する。
この前シレッと聞かされた、一誠と一夏に武力行使をしながら勧誘をしようとしてきた謎の組織の事もあるので、居場所がすぐに分かる所に居てくれた方が刀奈としても気楽なのだ。
………もっとも、その組織とやらの勧誘人は現在生きているのかもわからない程度に、一誠に八つ裂きにされたみたいなので、その組織からの報復があったところで、組織自体がこの世から消える可能性しか刀奈も感じないのだが。
そんな訳で、気持ちを切り替えて当日はリアスよりも一誠に引っ付いてやると考える事にした刀奈は、生徒会としての仕事や、自身の所属するクラスの学園祭準備等々にも勿論手を抜かずに、修行に励むのだ。
「やっと見つけたわよ!!」
「アナタが春人さんを傷つけた用務員ですわね!?」
「こそこそと逃げ回っていた様だが、もう逃げられんぞ!」
「…………」
そんな時に限って、邪魔をされるのだけど。
「学園の生徒である春人に暴力を振るっておきながら、よく今までのうのうと用務員なんてやってられたわね……!」
「しかも春人さんから聞きましたわよ。
学園の生徒――そちらの生徒会長に手を出したんですって?」
「こうして密会している所を見ると、春人の言う通りだったみたいだな」
「…………………」
「いきなり言いたい放題言ってくれるわね……」
一夏と箒がそうであったように、漸く自分も一誠とリアスが先で待っている領域に到達した事で、本格的な修行――つまりは『花嫁修行』をする為に、日夜自分磨きに精を出している刀奈は、せっかくせっせと一誠が用務員らしく花壇にお花の鉢入れを一人でしていた所を『手伝う』という名目で二人きりになれたというのに、よりにもよって春人に好意を持つ者の中でも、多分話なんて全然聞かなそうなタイプ達に見つかり、絡んで来るや否や、無視して鉢植えしている一誠を責め立てている。
「以前、春人さんの頬を叩いた方ですし、そういった粗暴なお方の方がよくお似合いでしょうがね」
「そうね、そういう意味じゃあ感謝しないでもないわ。アンタがそこの先輩を口説いてくれてね」
「春人を傷つけた者同士、実にお似合いだ。
生徒会長だかなんだか知らないが、そのままその男に尻でも振っていて欲しいものだ」
挙げ句に、春人の入れ知恵だかなんだか知らないが、まるで一誠が自分に対して手を出したから最低だなんだと――刀奈にしてみれば流石に頭に来る事ばかり言ってくる始末。
なので、刀奈は今受けた三人からの言葉を訂正させようと口を開きかけたのだが……。
「ここは終わったし、次行くぞ」
「イ、イッセーさん? どうして……」
その前に一誠が土で汚れた軍手を外した手で刀奈の肩に触れて制止させ、三人を無視して次の現場に行こうと言う。
ここまで言われた刀奈としては、決して一誠が自分に変な事なんてしてないし、寧ろ逆だし、ハッキリ言ってほぼ相手にされてないんだと言ってやりたかったのだ。
しかしそれでも一誠は無言で首を横に振る。
「俺達がコレ等に対して何を言った所で、理解なんてする訳が無い。
好きに言わせておけば良い」
「で、でも一誠さんが私に対してという話は―――」
「…………。ある意味で当たってるんだ。
それもわざわざ否定する事もないだろ」
春人大好きクラブの三人組を『コレ』呼ばわりしつつ、一々相手にするなと、珍しく冷静に言ってくる一誠に、刀奈は渋々引き下がる。
「もっとも、あの小僧がお前に散々付きまとってた事に関してのコメントぐらいは聞きたい所だけど」
だが、自分はともかく、刀奈の事を言われるのは何と無く癪に触るので、一誠は三人に向かって爆弾を放り込む。
「春人がそこの生徒会長に付きまとってたんじゃないわよ!」
「四組の更識さん――つまりそちらの方の妹さんとの仲を修復させたいと思ってのことですわ!」
「そうだ、春人は貴様と違って優しいんだ!」
案の定聞く耳持たない三人は、あくまで春人は刀奈に対してストーカーに近い真似をしていた事を認めない。
なので一誠は涼しい表情をしながら被っていた帽子を被り直しながら背を向け――
「だったらこの子の妹に聞いてみれば良いよ。
キミ等の彼氏とやらが、誰にどう思っているかをな……」
「「「………」」」
「というか、この子に婚約者が居るとわかった途端、この子の実家までわざわざ乗り込んで来るなんて、今にして思えば実にガッツ溢れる少年だと思わないか?」
ちゃっかりと起爆装置を起動させてから、三人に向かって何故かべーっと舌を出して威嚇してる刀奈を連れて去るのであった。
その後三人が簪に話を聞きに行ったかどうかについては一誠も知らないし、あまり興味もなかった。
だが、同じクラスである一夏と箒とシャルロット曰く、三人組がそれまで以上に織斑春人に対しての束縛が強くなりだしたように見えた――らしい。
千冬はそれを目を逸らしながらスルーしようとするし、休み時間の間に久々に簪がやって来たと思ったら、春人に向かって、
『姉に近づく為に私を利用するのはやめてほしいし、もう協力も仲直りも無理だから……』
と言った事で、ある意味信憑性を三人に持たせたらしい。
「放課後になるや否や、あの三人が春人の奴をどこかに連れていく様になったお陰で、ストーキングされる事も無くなったんじゃないかと」
「簪がそんな事を言ったのね……?」
「はい。
とりあえずあの様子から見て、春人に対する愛想は尽きたのではないかと」
「あれだけ毎日来てたのに、全く来なくなりましたからね」
「うん、かんちゃんは少なくとも、自分が利用されてただけだったって改めて自覚してた」
授業が終わるまでの半日の出来事を、普段は殆ど人も寄り付かない例の訓練場にて、一夏と箒とシャルロットと本音から話を聞き、複雑ながらも少しだけホッとする刀奈。
袂を別ったとはいえ、妹は妹だし、やはり今後を含めて心配ではあるのだ。
「てかさ、あの三人の血走った目に執念を感じたよな?」
「ほっといたら彼を地下にでも閉じ込めて、死ぬまで飼うって気迫すら感じたね~?」
「ぶ、物騒だよのほほんさん……。
でも、あまり否定もできないくらい怖かったかも……」
「それならそれで良いだろ。
寧ろあの三人がそうやって春人の行動を抑えてくれてる方がありがたい」
「一応、彼も一夏君とイッセーさんに接触しようとしてきた様な連中に狙われてはいるものね。
大人しくしてくれるに越した事は確かにないわ」
少なくとも春人から離れてさえくれれば、世界で最初の男性起動者という、実験動物にもなりうる春人を狙う輩からの攻撃に巻き込まれる心配は少なくなる。
とすればやはり後は――
「ふっ! はっ! やぁっ!」
「…………」
訓練場の中心で、何故か知らないけどISスーツ姿の童顔教師の山田真耶についてだろう。
「………」
「わわっ!?」
大体刀奈と同時期に一誠とリアスの存在を知り、色々と過ごしている内に、刀奈と同じように一誠に惹かれていった訳だが、そんな真耶は今こうして一誠を相手に鍛練をしている。
元々ISで代表候補生に近い所まで到達していただけに、普段はドジでおっちょこちょいながらも、一誠達との鍛練には着いていけるようになるだけのフィジカルはあったらしい。
慌てた様子ではあるし、一誠も相当の加減をしていりはとはいえ、軽く放つ一誠のパンチや蹴りを避けたり捌いたりしている。
「着実に成長してるよな、先生も」
「ああ、一誠兄さんにデコピンで吹っ飛ばされて泣いてた頃もあったが、少しずつ兄さんの動きにも対応できているぞ」
「この前ISで専用機持ち三人相手に完封したのはかっこ良かったよねー」
「…………」
真耶と一誠の軽い組み手風景を見て、一夏達は真耶の成長に感心しているが、刀奈はそんな真耶と一誠の組み手を別の視点で見ていた。
まずそもそも、何で真耶はジャージではなくISスーツなんだというのもそうなのだが、真耶は意外にも箒と同じ様に、一誠に似たタイプだったりするのだ。
なので、こうして一誠に直接訓練なんかをして貰うと、信じられない速度で成長をする。
その上、胸の大きさもリアスに匹敵かそれ以上という逸材なのだから、刀奈にとってしても無視なんてできないのだ。
もっとも、そんな真耶のメロンが激しく上下してようが、一誠は平然とした顔で真耶をぶん投げたり、張り手で吹っ飛ばしたりと相変わらずだが。
「はぁ……はぁ……」
「今日はここまで」
「は、はひ……あ、ありがとうごじゃいまひた……」
しっとりと汗で滲ませた表情とか、疲労で軽く潤んでいる目だとか、何よりもその我が儘過ぎるスタイルは、健全な男児にはまことに毒だ。
しかし、箒バカとリアス馬鹿である一夏や一誠には一切通じておらず、疲労で立てない真耶に手をかしてあげる姿は、紳士にも見えなくもない。
「ちょ、ちょっと先生!? 大人しい顔しておきながら、どさくさに紛れて何イッセーさんに抱き着いてるんですか!?」
「ち、違いますよ……!? ほ、本当に疲れて足に力が入らなくて……」
「だ、だったらどうしてイッセーさんの背中に腕を回してるんですかっ!? 絶対疲れてるだけじゃないですよね!?」
「だ、だってぇ……」
「………………………」
ISスーツ状態の真耶が、然り気無く疲労を理由にイッセーの胸元に顔まで埋めながら抱き着いたりしても、刀奈が悔しげに抗議したりしても、一誠は微妙な顔をしながらやはり眉ひとつ動かさない。
「こ、こうなったら私もっ! えいっ!」
「あぅ……暖かいです……」
「……………………………………鬱陶しいんだけど」
だから刀奈も対抗して、後ろから一誠に飛び付くけど、それでも一誠は鬱陶しいと口にするだけで、あんまり嬉しそうでもなかった。
花嫁修行の道もまた険しいのだ。
終わり
ただのオマケ
※本編とは無関係
師匠と一緒
その気になれば、ちっぽけな私なんて簡単に殺せるだけの力を持った男だ。
それを知らず、恩師の心に常に居座っているからと憎んでいた私は今にして思えばアホだった。
けど、あいつはそんな私をISに関して教えを乞いに来たし、尖ってた私の態度に怒る事無く、何時も笑って師匠と呼んで……。
私もつい乗せられて、あいつの師みたいな真似事をしてきたし、あいつに助けられた事で師である資格なんてとっくに無くしていた筈なのに……。
あいつはそれでも私を師匠と呼び続けてくれた。
年下の小娘である私を……ずっと。
だから私はアイツの師匠であり続ける事を決めた。
アイツの前では弱音を吐かない。
師であるからこそ、アイツの抱える過去を受け止めてやったりもした。
年上の癖に年上にはあまり思えないアイツの……。
一年一組に転校した二人の生徒。
一人はこの時はまだ男装していたシャルロット。
そしてもう一人は、教官と呼び慕う織斑千冬を慕うあまり、弟である一夏を憎むようになってしまった眼帯銀髪少女のラウラ。
どちらの転校生とも一夏との交流を経て紆余曲折の後に、彼へ好意を持つ事になるのだが……。
「前に教官を見た時もそうだったが、弟の方も本当に普通なんだな。
しかも、びっくりするほどお前に対する執着もない」
「まあ……俺と関わったら人生が台無しになるからって、あの子に釘まで刺されたもんで」
ラウラ・ボーデヴィッヒには弟子が居る。
一応世界で二番目にISを起動しただけの男子生徒――つまり目の前に居る青年がそうだ。
この『やり直し』の人生を歩む中で、唯一変わらない繋がりを目の前の青年とラウラは共有している。
「しかし、お前の年が私と同じだなんてな……。
まあ、前からお前の見た目は詐欺レベルに若かったから、今が年相応といえるけど」
「師匠も変わらずプリティーっすよ? へへへ」
やり直す前にあった繋がりの殆どを今は無くしている中での残っている繋がり。
師と弟子という関係。
それがラウラと――おっさん龍帝だった青年こと一誠の関係だった。
「それより師匠? たしか師匠のISだかなんだかに変なスイッチが仕込まれてた筈ですけど……」
「VTシステムの事か? 心配しなくても起動はしない。
あの時の私はまだ未熟だったが、今は完全に自分の意思で封じ込められる」
「おおっ、さすがっすねラウラ師匠は!」
久しぶりの再会に、色々と肩身を小さくしながらこの学園で影薄く生活していた一誠のテンションも高い。
嘘でもなんでもなく、一誠は確かにラウラを師匠と呼び慕っているし、なんなら普通に大好きと言えるほどだった。
「師として情けない所は見せたくないしな。
それに、これからはまたあの時みたいに一緒だから、何でも遠慮せず言ってくれ。
私はお前の師匠なんだからな……!」
そんな弟子の一誠をラウラも好いている。
ヘラヘラとした態度の奥底に秘める過去や、身体に刻まれた多くの傷の意味を知ったあの日から、決して孤独にはさせないと誓っているから。
そして何より……。
「だからこうして再会した事だし、久々にやってあげようじゃないか?」
「え……」
「ん? なんだ、嫌なのか?」
「い、いや、嫌とかじゃないんだけど……。
良いのかなって思って……」
「今更何を遠慮しているんだお前は……。
私が良いと言ってるのだから良いんだよ……ほら!」
一誠の中に眠る龍の力を持つラウラは、彼への無償の愛情を抱いているのだ。
寮の部屋にて、一誠を優しく抱き止めるラウラの表情は、とても優しげだった。
「胸はちと足りないが、それは我慢してくれよ? ふふふ……」
「ほ、ホント……あの時も思ったけど、キミが同い年だったら全力で口説いてたよ」
「『今』は同い年だろ? まあ、時間はたくさんあるんだ。
私はゆっくり待つさ……」
ラウラ師匠との日常(二周目)
……続かない
補足
何気に煽ったら、普通に成功し、着々と監禁コースフラグを立ててる模様。
お幸せにー
その2
やまやも何気になっちゃんとかを見てるので、そこそこ突撃できるようになってきてるらしい。
本人からは微妙な顔されるけど。
その3
ただのオマケだから気にするな
ラウラたそー