ダイジェストの如く終わりました。
親友であった者には、宿敵となる運命であった者が居た。
赤き龍帝を宿した少年と対となる、白き龍皇を宿した少年。
当初はその因縁に従うかのように殺し合った仲だったけど、いつの日か同じ『倒さなければ一歩も前に進めなくなる共通の大敵』を前に、永く続いた二天龍の因縁を終わらせることになった。
そして、二人の少年は互いにかけがけのない親友となった。
共通の敵を前に集った親友達と共に、世界そのものに戦いを挑む。
恐怖は確かにあったけど、親友達と共に駆け上がれるという確かな現実が恐怖を乗り越えさせた。
そんな親友達と共に駆け上がり、世界そのものを滅ぼした代償は―――喪失。
命と引き換えに戦い抜き、ただ一人生き残ってしまった少年と龍は、託してくれた親友達の意思を無駄にはしないと生き続ける事を誓った。
それが例え、外様で誰も自分達を知らない世界に偶然迷い込んでしまったとしても、少年から大人へとなろうと、彼はその命を――皮肉な事に、自分の人生を壊した存在がトリガーとなって覚醒してしまった、
『まったくお前等にはガッカリしたぜ。
もうちょっとやるかと思ったのによ……』
そんな今を生きる青年は、戦う事が好きな白き龍の宿主にちょっと影響されたのか、スイッチが入ると割りと好戦的になる。
『まあ良いや、程度も知れたし―――遊びは終いだ』
相手からすれば理不尽で不条理な龍の帝王が殺る気満々という悪夢でしかない。
それが例え、立つことも歩くことも不可能になる程に破壊された過激派連中が最後の力を振り絞って呼び出した大物の式神で復讐しようとも……。
「な、なん……なんよ……お前は、貴様は誰なんえ!?」
『俺か? 俺は兵藤一誠でもドライグでも無い。
俺は―――貴様等を破壊する者だ……!』
こんな――こんな化け物を近衛近右衛門が飼っていたなんて。
魔力とは違う、星をも揺らす莫大な気を迸らせながら嗤う龍と融合する事で頭髪が赤く染まる青年。
『俺が甘かったとはいえ、そのザマでまだ動けたのは素直に感服したよ。
だから、俺も本気で応えてやる』
理不尽に叩きのめされ、理不尽に潰された者達に初めて名乗った青年が両手を大きく広げてから前へと突き出し、赤く輝く気を集束させた時点で、彼等は詰みを悟らされた。
『じゃあな、地獄で会おうぜ!』
式神など何の役にもたたない。
『ビッグバン!!!』
どんな魔法だろうと無に帰す。
どんな剣技であろうとも、笑いながら壊す。
「あ、あはは……嘘やん」
「も、もう無理……どうしようも無いえ……」
永遠なる進化への運命へと突き進む最後の赤龍帝の青年は、鬼の軍勢やそれを纏める巨大な鬼もろとも――
『ドラゴン波ァァァッ!!!!』
消し飛ばした。
赤龍帝・融合モード。
歴代最後にて、最もドライグとの繋がりを持つことで可能にした、早い話がドライグとの精神レベルでの一体化だ。
これは、かつての親友にて白龍皇であるヴァーリ・ルシファーも到達した領域であり、切り札のひとつである。
さて、そんな切り札を何故一誠とドライグが切ったのかといえば、早い話がイッセーの『油断』であった。
例の過激派連中を徹底的に叩き潰し、最早妙な真似をしては来ないと踏んでいたという油断が、木乃香が拐われるという展開を招いてしまった。
まさか全身の骨を砕いてから下水道に叩き落としてやった連中が、その執念だけで復帰して来るとは思わなかったし、木乃香の持つ大きな魔力を媒体に巨大な鬼だか何だかを呼び出してくるとも思わなかった。
ここ数年はエヴァの傍で少し平和ボケをしていたのかもしれない。
だからネギが魔法で応戦していた所に参入し、その執念に免じて、
赤き龍の姿そのものを思わせるような燃えるような赤い頭髪。
胸元にかけて広がる赤い龍の鱗。
目の周りは赤く縁取られた異質な姿。
あまりにも人間離れしたその姿に、その場に居た者達は息を飲まされた。
ネギも、アスナも、楓も古菲、そして半人半鳥であったりする刹那でさえも……。
「ヴァーリのせいで、微妙に戦う事が楽しいとか思っちゃう様になっちまったぜ……」
『逆にアイツは微妙にお前の女好きの面に影響を受けてたがな。
もっとも、アイツは尻がどうだこうだと語っていただろう?』
「ははっ! そうそう! 懐かしいな。
ヴァーリは尻、イザイヤは腰、神牙は鎖骨で元士郎はうなじだっけ? はは懐かしいなぁ……。
ギャスパーは特に無かったというか、アイツ自身が特殊体質でな?」
そんな空気の中、軽く消しとんで更地化している関西の総本山のど真ん中で、ケタケタと笑いながら元の姿へと戻っているイッセーは、かつての親友達との思い出をドライグと語り合っていて、気にしている様子が無い。
『しかし、最低限の被害にとどめる為に極限まで加減したとはいえ、少し派手にかましすぎたかもな。
ガキ共が怯えた目で俺たちを見ているぞ』
「んあ? ああ、仕方ないだろ。
元をたどれば、俺の甘さが原因でこうなっちまったんだからよ」
ますますイッセーという存在が何者であるのかがわからなくなってしまったといった様子のネギ達に、イッセーは苦笑いをしている。
最初から確実に消しておけば、木乃香が拉致られたり、こんな騒動に発展することもなかった。
全ては平和ボケしていた自分の落ち度だから、どう思われてしまおうが仕方ない。
それに少なくとも、止め役だったエヴァンジェリンは特に気にした様子もないのだから。
「まさか切り札のひとつを見せるとは思わなかったぞ。
それほどの相手でも無かったというのに」
「奴等の執念に対する礼って奴だよ。
余程あの連中は本家とやらの連中に恨みがあったみたいだし、どうであれ俺が邪魔をしたからな」
『これじゃああのクソ野郎と変わりゃしねぇな……俺も』とこれまでの行いを振り返りながら自虐的に笑うイッセーに、エヴァンジェリンは鼻を鳴らす。
「そのクソ野郎とやらを直に見た訳じゃないから何とも言えんが、少なくともしょうもない女に金を騙し取られたりはせんのだろう?」
「まあ、目を合わせただけで女が惚れるという、意味不明さは俺には無いと断言できるけどよ……」
「じゃあそれで良いだろ。
お前はあの老いぼれから金と引き換えに坊やのフォローをしたまで。
それ以上も以下も無い――それだけの事だ」
何気に自分のやって来た事を思い返して、思い詰めようとするイッセーをエヴァンジェリンなりにフォローする。
エヴァンジェリンにしてみれば、どんな生き方をしようが、その手を血に染めた人生を送ってこようが、失う事への恐怖から過剰な殺意を敵にぶつけようが、どうでも良いのだ。
きっと遠くは無い未来、イッセーはその強大な力が故に世界から生きる事を拒絶される日が来る。
その時、そんな化け物の味方であっても罰なんて当たりはしない――そう思っているから。
「さあ、こんな場所に何時までも留まっている理由も無くなったし、さっさとホテルに戻るぞ。
後は坊や達が石化された連中に対して上手く弁明させれば良いし、今回のお前の姿を見てひとつ思い付いた」
「は?」
「詳しくは後で話す――さっさと来い」
「お、おいエヴァ……?」
ネギ・スプリングフィールドは、サウザントマスターと呼ばれた父の様な立派な魔法使いを目指して、この日本の地で教師をしている。
色々な騒動もあったけど、それでも立派な魔法使いとなる事を夢がネギを突き動かしてきた。
けれど、外の世界を知った事で、ネギは強大な壁にぶち当たってしまった。
ひとつは、自分はあまりにも小さくて弱いという現実。
今回の修学旅行でその弱さを改めて自覚させられる種はどこにでもあったのだ。
恐らくイッセーによって八つ裂きにされた包帯まみれの満身創痍状態の謎の魔法使いにすら歯が立たなかった。
同じく包帯だらけの関西なまりの同い年くらいの少年の身体能力の差を思い知らされた。
そして何よりもネギにとっての壁は、この修学旅行で徐々にその本質を知ることになった副担任の青年――イッセーだ。
女性にだらしなく、妙齢の女性(源しずな除く)に鼻の下を伸ばしている青年の、圧倒的な超暴力。
鬼神すらも簡単に葬る圧倒的なパワー。
自分が歯が立たなかったそれらの連中をいとも簡単に捻り潰すその圧倒的過ぎる――それこそ野獣の様なパワーは恐怖すら覚えるものであり、もしもエヴァンジェリンとの小競り合いの際、イッセーが自分を完全な敵と判断していたら、今ごろ自分は確実に死んでいた。
そんな存在を前に、ネギは初めての徹底的な挫折を覚えさせられていたのだ。
「………。ネギ、元気出しなさい。
確かにイッセーは思ってた以上にヤバかったのかもしれないけど、助けてくれたのは事実なんだから……」
「…………」
「アスナにしては良いこと言うアル」
「ああ。
しかし、あれほどとは拙者達でも読めなかったでござる。
まさに容量が計れないだな」
「でも……僕は何もできませんでした。
まともに動けなかった人たちにすら歯が立たなかったし、イッセー先生が鬼達を全滅させるのをただ見ているだけしかできませんでした……」
「そんな事は……ネギ先生だって」
「そうや。そんなに落ち込まずに元気出すえ……?」
ネギと同じく、イッセーの化け物じみたパワーを目の当たりさせられた生徒達は口々に肩を落とすネギを慰める。
この修学旅行で、イッセーの違う側面を知ってしまった者達であり、古菲と楓はそんなイッセーに対して好意のようなものを抱いている。
そんなイッセーが、今回の件を機にそのまま教師を辞めてどこかへ消えてしまうのでは? そんな嫌な予感が二人にはあったのだ。
「ウチが人質に取られた時は、ニヤニヤしながら『じゃあその人質が死んだ場合、俺は何の気兼ねも無くテメー等を皆殺しに出来る訳だな? 良いぜ、さっさと殺してみろよ?』と言いつつも、助けてくれたし……」
「……その事については、私はまだ納得はしてませんけど、確かにお嬢様の言う通りです」
「とにかく帰りましょう。
今後の事を考えるのは明日からでも出来るわ」
「おお、アスナがさっきから変アル」
「まるで頭が良い者みたいな発言ばかりでござるな」
「さっきから失礼ねっ!! アタシだってそれなりに考えてるわよ! アイツの裏の顔を知ってからは特にね!」
「……………」
生徒達の言葉を受け、その時は少しだけ笑みを溢したネギだが、結局の所強大な壁が目の前に立ちはだかっているのだけは変わらない。
イッセーもそうだが、エヴァンジェリンも強い。
(僕は……無力だ)
ネギはこの大きな壁を前に悩まざるを得なかった。
修学旅行編……おごそかに終わり
オマケ――エヴァにゃんの思い付き。
京都を震源地に大地震が発生したと世間では大騒ぎの中、ホテルにイッセーを連れ帰ったエヴァンジェリンは、そこそこ真面目な顔をしながら部屋にて口を開く。
「チャチャゼロを知っているだろう? 私の従者の人形だ」
「ああ、お前の力が封印されてたせいで動けなかったアレか? そこそこ口が悪い奴だろ?」
『俺に対しても、いきなり八つ裂きにして良いかみたいな事を宣っていたな……』
「そう、そいつだ。
封印を破った今、そのチャチャゼロは私の魔力を核にほぼ自由に動ける――というか、今回実は密かに連れてきていたりする」
エヴァンジェリンの従者の人形――通称チャチャゼロは封印を強引に突破する以前はまともに動くことも叶わなかったエヴァンジェリンの操り人形だった。
イッセーとドライグもその存在は知っていたし、というか話すだけなら封印時点でも可能だったので、普通に話は出来ていたのだが、そんなチャチャゼロの話を何故今するのかと疑問に思う訳で……。
「ヨウ、派手ニヤッタナ? 実ハミテタゼ?」
「ホントだ、普通に動いてらぁ」
『まあ、お前の魔力が復活し、イッセーの血によって更に強靭化しているのだから、動けても不思議ではない。
しかし、今何故その人形の話をする?』
エヴァンジェリンの言葉に呼応するように、ひょこんと背中から出てきたチャチャゼロが、久々のまともな稼働に気分でも良いのかテーブルの上で無駄にアクロバティックな動きをしている。
「いやな、実はそのチャチャゼロが急に言い出したんだ。
ドライグ、お前もこのチャチャゼロみたいに人形を媒体に外に出てみないかとな」
「『は?』」
ケケケと人形故の無表情で笑うチャチャゼロを前に、エヴァンジェリンの提案みたいな言葉を受けたイッセーとドライグは、思わずポカンとする。
「今回の融合モード……だったか? 見ていて思ったのだが、あの形態に変化する為にはどうやらそこそこの時間が必要だと感じてな。
恐らくだが、プロセスとしてはお前の力で一時的に実体化したドライグと直接触れ合う事で融合するのだろうが、もしドライグを人形という器に入れられれば、そのプロセスをある程度簡略化させられるのではないかと思ってな? 悪い話ではないだろ?」
「ああ……」
『この俺に人形の中に入れとほざくのか小娘?』
微妙に理には叶っているので、イッセーは納得するが、ドライグは長年二天龍の片割れと呼ばれていたのもあってか、少々ムッとしている声だ。
しかし、そんなドライグの声に、何故かチャチャゼロが挑発し始める。
「ナンダテメー? ドラゴンダナンテホザイテルワリニハ、ケツノアナガチイセェナ? ビビッテンノカ? ケケケケッ!」
『何だと……?』
人形に挑発されてイラッとしたのか、ドライグが珍しく威圧的な声を放つ。
『初めて貴様を見た時も、随分と嘗めた事を宣っていたが、誰のお陰で動ける様になったのかわかってないのか?』
「オイオイ、ドライグ様トモアロウモノガ、恩ヲ人形デアルオレニ求メルトハ――アソコモチイセェノカ? ケッケケケケ!!」
『……………………………』
「お、おいドライグ? 落ち着けよ? お前らしくないぜ?」
「チャチャゼロもそこまで挑発するんじゃない。どうも最近おかしいぞ?」
あからさまにイラついてると感じて、イッセーの方が珍しくドライグを宥め、挑発するチャチャゼロをエヴァンジェリンが咎めつつ、一応用意しておいたドライグ用の器人形を見せる。
「一応これがドライグ用に作った人形だ。
奇しくもお前達の融合形態に似ている」
「あ、マジだ。鱗と角が無い俺とドライグだ」
『ふざけるな、確かに俺はとっくの昔に神器としての封印を破ったから、イッセーの中から離れることは可能だ。
だが俺はイッセーの中から離れる気はない』
「オレガ御主人ノ魔力デ動ケル様二、テメーモイッセーの力ヲ供給シテモラエバイイダロ?」
『知るか。
可能かもしれんが、する意味は無い』
「「………」」
イッセーの左腕に籠手として出てきてるドライグを蹴りながらチャチャゼロが挑発しているという、シュールな光景をイッセーとエヴァンジェリンを互いに目を合わせつつお茶を飲みながら、暫く黙って見ている。
というか、本当にさっきから黙って茶々丸が……気のせいかもしれないけどソワソワしながら見ているのは何なのだろうか?
そしてそんなチャチャゼロとドライグのやり取りが始まって約一時間後――
「……………………」
「お、おお……! マジで成功しやがった」
「こういうのは得意でね。
どうだドライグ? 私たちの声が聞こえるか?」
「……………。ああ、声も聞こえるし、窮屈だが自力で稼働もできる」
「す、すげー! チビッ子ドライグだ!」
ドライグはお人形稼働という新たな可能性を手に入れられたのだった。
「チッ、戯れに付き合ってやったとはいえ、まだ動くのに慣れが必要だな……」
チャチャゼロとは違い、はっきりと喋れるドライグは、その無駄に渋い声を不満げにさせながらあらゆる箇所を動かしてみる。
すると、すぐ横に居たチャチャゼロが突然人形モードになったドライグの手を掴み始める。
「ケケケ、ヤット触レタゼ。
コレデ言葉ダケジャナイ喧嘩ガ出来ソウダ……!」
「むっ!?」
そして待ってましたとばかりにドライグを押し倒し、馬乗りになってポカポカと叩き始めるチャチャゼロ。
「き、貴様! 俺がまだ慣れてないのを良いことに……よ、よせ!」
「ケケケケケケ! オメーヲ見下セルノガ、コンナニ良イ気分ダトハ思ワナカッタゼ!!」
人形同士のファイトが何故か始まってしまい、ドライグに反撃されても笑いながら襲い掛かるチャチャゼロ。
「…………チャチャゼロはドライグと遊びたかったからエヴァに提案したんじゃね?」
「奇遇だな、私も今そう思ったよ」
「ああ、姉さんが楽しそうでなによりです……!」
「………。茶々丸がおかしくなってるし……」
「それは知らん。たまにあることだろ?」
ドライグ、自力で動ける器を入手したの巻。
「ヨシ、気ハ済ンダシ、折角ダカラ今度ハ御主人トイッセート妹ト一緒二トランプヤローゼ」
「……………」
ただし、ドライグにとっては鬱陶しい人形さんに絡まれやすくなったけど。
終わり
補足
執念で下水道から這い戻って、油断しまくってた隙に木乃香拉致って、執念で魔力を利用して鬼神召喚したのだけど、反省した結果、オーバーキル引っ提げて飛んできた化け物に全部一瞬で消し飛ばされたとさ。
赤龍帝・融合モード
ドライグと文字通りフュージョンする。
プロセスが地味に時間掛かる上にそこそこ隙だらけなので常用はできないし、制限時間も5分未満なので、一気に勝負を着ける為の切り札。
モデルは某4ゴジータ。
その2
そんな満身創痍状態の彼等にすら歯が立たなかったネギきゅん、挫折モードに陥る。
アスナさんが何か頭良さそう? 何故かイッセー関連だとIQが上がるから仕方ないのだ。
その3
エヴァにゃんが全盛期以上になっている為、チャチャゼロもある意味全盛期以上です。
いろんな意味でドライグより優位に立てるのが楽しいらしい。