しかし……そのスイッチはスイッチ姫よりやべーのだ。
※胸くそ注意警報
自分は恐らく不運よりも幸運の持ち主である。
そう一夏は自分を客観的に判断する。
よくわからない存在に陥れられたかもしれない。
よくわからない存在によって要らぬ存在にさせられたのかもしれない。
しかし、そんな『運命』へと誘われたからこそ、一夏は本当の強い繋がりを箒と持つようになれたし、一誠とリアスの二人と出会えた。
そういう意味では、嫌味でも何でも無く一夏は一夏に成り代わろうとした春人という存在に感謝をしている。
何処の誰だか知らないし、全くもって今となっては知る気にもならないが、君のお陰で俺は今の俺になることが出来た。
君が優越感に浸っているお陰で俺は箒というもっとも大切な繋がりを持つ事ができた。
その化けの皮がなんやかんやあって剥がれかけているみたいだけど、精々これからも頑張ってくれと心から応援したい。
にこやかに、花束なんかを贈呈しながら送りたい程度には一夏は春人という存在をある意味で肯定している。
リアスに近い気質として開花したその異常性という名の心が確立された今、一夏は春人の存在に動じる事はないのだ。
だから……。
「君が何なのだとか、俺の過去がどうだったとかって正直どうでも良いんだよね。
君がどうして千冬姉さんに似ているのだとか、何をそこまで俺に殺意を抱いているのかとかも含めて心底興味が持てない。
だから君の名前にも興味がない。君の中身にも関心が持てない。
今の状況にしてもそうだぜ?」
「が……! ぅあ……!」
織斑一夏は箒、一誠、リアスとの過去以外の過去は例え自身の出生に繋がろうとも無関心なのだ。
ISで武装した千冬に酷似した少女に突然襲われても、既に箒と共にその領域へと進化しようとしている一夏は息をするように返り討ちにするのだ。
リアスの様に魔力の様な力を扱い、千冬に酷似した少女のISの機体を消し飛ばして。
「お、お前は……! 私達の中では最低の失敗作だった筈……! な、なのにその力は……!?」
うまい棒を片手に、右手から放つ――ISではない力で心身共々打ちのめされてしまった千冬に酷似した少女は、驚愕と憎悪の入り交じった形相で地に這いつくばりながら、サクサクとうまい棒を食べる一夏を睨みあげる。
「何時も思うんだけどさ、漫画だとこういう状況になるとベラベラと今キミがしたみたいな質問に対して答えるんだけどさ、あれってアホだと思わねぇ? 手の内なんて早々明かすとか無いべ? まあ、漫画の展開的に盛り上がるからなんだろうけどさー?」
そんな少女に対して、一夏はヘラヘラと笑いながら答えることはしない。
「まあ、折角の休日に兄と姉の家に皆で集まって鍋パーチーしてて材料が足りないことに気づいたから、買い出しに出たらキミに襲われた――くらいは答えてあげられるけど」
「ふ、ふざけ――」
「ふざけてなんか無いぜ? てかさ、質問したら正確に答えて貰うのが当たり前とか思うなよ?」
リアスに酷似したからこそ、リアスの力を観て体感することで体得した消滅の魔力で、最早破壊されたも同然な少女のISの残り全てを消し飛ばした一夏はそれまでの軽薄な笑みから一気に無機質なものへと変わる。
「ただひとつ言えるのは、蚊とかにちょっと血とか吸われたりすると潰して殺すじゃん? ………………――今そんな気分かなー」
「っ!?」
声のトーンをも変え始めた一夏に、少女はそれまで抱いていた憎悪の炎が消し飛ばされたような感覚と共に、どこまでも無機質なその目に初めて恐怖を抱いた。
(う、嘘じゃない。
この出来損ないだと思っていた化け物は、今私をこのまま本当に、蚊か何かを潰すような感覚で殺すつもりだ……!)
以前、少女が所属している組織で一応同じチームに所属するリーダー格と平構成員が、『生身でISを捻り潰した男』をスカウトしようとしたが、結果は息をするだけの状態にされてしまった事は知っていた。
またその男が、少女にとっては一方的ながらも因縁がある者の一人――つまり目の前の一夏が繋がっていたことも知ることになった。
だから少女は、ある意味確かめるという意味もあって一人になった一夏を暗殺しようと襲い掛かったのだが、結果はご覧の有り様。
ISとは違う全く未知で説明不能の力で、生身でありながらISの装甲だけを消し飛ばし、両手と両足をへし折られた。
完全なまでの敗北。
『失敗作の出来損ないであり、自分自身の影』と思っていた相手に完膚なきまでに見下されてしまった少女は恥辱と恐怖が入り混ざった歪んだ表情を浮かべたまま――徐に一夏が買い物袋から蜂蜜とワインボトルを取り出すのをただ見ることだけしかできない。
「まあ、少しは教えてあげるよ。
あのね、俺がわざわざISで襲ってきたキミに『付き合ってやった』のは理由があるんだ?」
「な、なに――をっ!?」
手足をへし折られ、武器であるISも消し飛ばされ、まさに身動きが取れないまま真っ暗な樹海の奥で倒れ伏す少女は突如頭と身体に蜂蜜とワインを掛けられる。
「まずひとつ、此処までキミを誘導したかったから。
流石にご近所でキミなんぞと真面目こいて戦うなんて、近所迷惑だろ? そして二つ、ここってさ―――年間100体以上の死体が上がる場所で有名な所なんだ……知ってた?」
「ごほ! な、なにをするっ!?」
「でも例外なく身元不明なんだってさ? 何でだと思う? ―――――小動物や虫が食い散らかして、殆ど原形が無くなっちゃうんだって? 怖いよねぇ?」
「ひっ!?」
ヘラヘラと笑いながらワインと蜂蜜を少女の全身に垂らした一夏の言葉に、何故ここまで誘導されたのかをやっと理解した少女はきっと生まれて初めて心の底から恐怖した。
今自分は手足を折られて身動きが全く取れない。
加えてISスーツという殆ど生身が露出した状態。
そんな状態でワインやら蜂蜜が掛けられているとなれば……このまま放置されたら間違いなくその臭いに寄ってくる虫や小動物に食い散らかされて死ぬ。
「や、やめろ! わ、わかった、お、お前を出来損ないと言った事は謝る! お前が織斑春人にされてきた事も知っているから、二人で組んで奴を殺そう! お前の言うことを何でも聞くから―――」
「あっははは……! さっきまで俺を殺そうとしてた奴の台詞を俺が信じるとでも思ってるのか? ていうかアホだなキミ?」
恐らくこれも初めてとなる本気の命乞いをする少女だが、一夏はいっそ爽やかに笑って少女の言葉を切り捨てる。
「キミは豚や牛といった家畜の命乞いに――――耳を貸した事があったのか?」
「…………ぅ」
どこまでも純粋に。
どこまでもにこやかに。
どこまでも朗らかに。
そしてどこまでも優しげに――――一夏は少女の命乞いに対して返した。
「だから俺はキミの命乞いは聞かないよ。
俺だけを殺すとか宣うんだったら俺も此処まではしなかったさ? けどさぁ―――――――
――――――――――流石に箒や皆の事まで言われたらヘラヘラなんてしてらんねーな?」
そう、少女が一言でも箒の事さえ言及しなければ一夏は穏やかに返り討ち程度に留めておいてあげるだけの『親切心』はあった。
だがこの目の前の千冬に似ただけの少女は、一夏だけではなく箒達も傷つけると言い切った。
となれば一夏は躊躇はしない。
この少女が何故千冬に似ていて、自分の影だなんだと宣う理由なんてどうでも良い。
ただの消す対象に切り替わった時点で関係ないのだから。
「リアス姉は止めるだろうし、イチ兄は甘いと言うかもしれないけど、俺なりに考えた『楽には死なせないやり方』ってこんなやり方なんだ?
そういう訳だからお達者で、どうでも良いどこかの誰かさん?」
「ま、待って! 私を置いていかないで!」
そう、一誠や箒に隠れがちだが、一夏もまた己が大切に想う者達を傷つける者は誰であろうが許さない。
理性的に見えるのかもしれないが、一度スイッチが入ればどこまでも残酷になれる。
それは悪魔のように……。
「い、嫌だ! 嫌だ!! そ、それでも人間かお前は!? 私はお前の――うわぁぁぁっ!!!!」
少女の叫び声が樹海全体に響き渡る。
だが誰も少女を助ける者は居ない。
泣いても、後悔しても………。
終わり
補足
………ごめんね、多分二度と現れないよ。
生きてたとしても……。
その2
スイッチが入った場合の一夏は、ある意味直接的な一誠や箒よりも『残虐超人』になれます。
そう、リーアたんに近いということは、覚悟入ったリーアたんやたっちゃんももしかして……。
その3
イメージとしては、ウシジマくんのギャル汚くんの末路みたいな……。
……で、でも大丈夫さ! 組織がなんとか回収してるさ! 虫や小動物に全身うぇーな事になっててもギリギリな!