色々なIF集   作:超人類DX

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シリーズ原点のマイナス一誠の……微リメイク。

具体的には、砂糖度増し、共依存度増し、イチャコラ度増し増し。

人外度増し増し増し




覚醒イッセーとシトリーさん

 兄なんて最初は居なかった。

 だって俺は元々一人っ子だったんだもの。

 なのに5歳くらいのある日、俺の前に現れた兄と名乗る誰か。

 顔立ちは俺とそっくりで、双子の兄と宣うその誰かは兄弟が居るなんて言ってなかった両親も自分の子と言っている。

 そのある日までそんな存在があるだなんて無かった筈なのに、両親はソイツを俺よりも可愛がって育てた。

 

 俺はソイツが何者で何故兄と名乗っているのかが分からないし、兄とも思えず寧ろ恐怖を感じた。

 だって、笑顔浮かべながら突然俺の前に現れて兄ですとか言われてもピンと来る訳無いし、ソイツの言葉を普通に受け入れている両親を見ても不気味以外何も思わない。

 ともなれば、当然そいつを警戒してしまうし心を許す訳も無かった……それがいけなかったのだろう。

 

 ある日の朝……俺は邪魔者となってしまった。

 脱落者扱いされてしまった……。

 兄を名乗る奴に、俺が居た筈の居場所を奪われた

 何をやっても結果以上の結果を残す奴のせいで、俺は存在価値を消去された。

 俺の兄と名乗らないで欲しい……。

 取って付けた様な笑顔で気安く近づかないで欲しい。

 只の……他人でしか無い貴様なんかに。

 

 

「よし、鍛えてから消してやる」

 

 

 故によく解らない対抗意識というべきなのか何なのか……餓鬼みたいな考えというか。

 とにかくよく解らん殺意をバネに俺は強くなろうと何でもやった。

 取り敢えず鬼のように鍛えまくって、鬼のような殺意を孕み、鬼のようにテメーを苛めぬいた。

 

 その結果……。

 

 

『な、何故……!

赤龍帝もない脱落者のテメーが……がぼっ!?』

 

 

 予想以上に強くなってから、意味不明人物を真正面から始末してやった。

 正直拍子抜けしちゃうくらいに雑魚くて、内心『え、ココまで苦労することもなかったわけ?』と思っちゃったりもしたけど、俺は取り敢えず俺から奪ったクソ野郎を殺してサヨナラしてやった。

 

 するとどうだ……今度はそれまでそいつをちやほやしてた親を含めた連中全てがソイツを『初めから居なかったぜ』とばかりに忘れており、俺の平和は取り戻せた。

 

 …………。まあ、軽く人間不信になっちゃいましたけど、取り敢えず俺は勝って取り戻したのだ。

 心の安息と……力を。

 

 

 

 

 

 普通に起床し、普通に朝飯は食わず、両親だったもの二人に当たり障りのない挨拶をしてから家を出る。

 クソ野郎の一件から、出来損ないと罵られた両親を信じる事が出来ずに居る俺は、表向きには仲良し親子を演じているものの、内面は完全に他人か何かだと思ってしまっていた。

 なので、本当なら中卒と同時に家を飛び出して住み込み旅館で働こうかと思ったんだけど、当時の担任が両親にリークしやがったせいで全部おじゃんだ。

 なので仕方無しに去年から共学校となるという事を余り知られなく、男子枠にて定員割れの恩恵を受けて大した努力も無しに駒王学園という高校に運良く入り込めた。

 

 定員割れで高校に入ったせいなのと、中学卒業と共に家を飛び出る計画だった俺に当然学力なんてものは無く成績はビリッケツ。

 今こうして2学年に在籍出来てる自分に対して奇跡としか思えないくらいだ。

 まあ、進級出来たのはとある理由があるからなんだけど。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 さっさと家を出て学校に来たせいで、登校時間までまだ1時間以上もある。

 到着し、門を潜り、のそのそと俺が居ても意味が無い教室を目指して歩いているが他に登校している生徒は殆ど居ない。

 クソ野郎を始末して全部を取り戻したとはいうものの、結局戻ってきたのは表向きのものばかり。

 良い子ぶって良い顔を向けては居るものの、内心は両親を信じられずに逃げるようにして特にやる事も無い癖に学校に来てこうやって屋上で黄昏とる自分が酷く情けなく思えて仕方ない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 逃げてる自分が嫌になる。

 クソ野郎を殺して全部を取り戻したが、それ以降の人生に楽しいと思える事が何一つ無くなっていた俺は、何度したか分からない溜め息を吐く。

 疑心暗鬼なのにそれを隠すかの様に仮面を被ってるので、お陰さまで友達なんて呼べる存在も居ない……というより俺が他人に懐疑的なせいだからというのが理由だったりする。

 血の繋がった両親ですら今では信じられなくなってるのだ……所詮は他人である連中を信じるなんて俺は無理なのだ。

 

 だから俺には普通の人みたいにおはようと気軽に挨拶を交わすような存在はないのだ。極少数の変人以外は。

 

 

「やっぱり此処に居ましたか」

 

「む……?」

 

 

 やるせない気持ちで屋上からの風景をぼんやり眺めている俺の背後から聞こえる声に、俺は一瞬だけ身体を硬直させながら振り返る。

 先程述べたが、何故か俺に関わろうとする極少数の変人。

 最初は置かれてる立場柄、仕方なく俺に接触したのかと思ってたのだが、本人は違うと否定する変な奴……尤もその違うというのも本当かは知らないけど。

 兎に角その変な奴の内の一人である俺と同じこの学園の生徒である上に優等生バリバリの肩書きである生徒会長の称号を持つセンパイ。

 黒髪と眼鏡という見た通りな感じの雰囲気を持つ人、支取蒼那って人だった。

 

 

「あ、センパイかどーも……」

 

「おはようございます、一誠くん」

 

 

 向こうから接触される事自体にあまり慣れてないせいで気の利いた挨拶すら言えず、無愛想な声で首だけを傾けて会釈する俺に、嫌な顔一つせず挨拶をしてくれるセンパイに何だかむず痒さを感じてしまう。

 フッと笑みを向けてきたセンパイから逃げるようにして背を向けた俺は、手摺に寄り掛かってまた意味もなく見飽きた風景を眺めると、センパイもその隣に来て同じく風景を眺める。

 

 

「「……」」

 

 

 会話はない。

 元々見た目も性別も違うし、親しいとは言えない微妙な関係なのだから当たり前だ。

 何より俺は他人との会話経験が無さすぎて何を言って良いのかよく分からないのだから尚更だ。

 とは言え、2・3言のジョークなら何とかなるが、それでもやはり普通の友達同士の会話は解らない。

 

 

「彼は居ないんすか?」

 

「彼? 彼とは誰の事でしょうか?」

 

「ほら、ヤケに喧嘩腰で突っ掛かってくる男子の……」

 

「ああ、匙ですか? いませんよ」

 

 

 他人は信じられない。

 だけど、話をするくらいなら何も思わないし、いくら会話経験が無いとはいってもこの程度ならギリギリ何とかなる。

 無言に耐えられなくなって思わず話を振ってみれば、センパイはフツーに応じてくれるし、将来就職するに当たって必要なトークスキルはこの人を練習台にするのが丁度良い。

 

 

「匙に何か用でも?」

 

「いや、何か嫌われてるみたいですからね。正直居なくてホッとしてます」

 

 

 センパイの取り巻きの一人でこの学校の数少ない同学年の男子の話は割りと盛り上がる。

 今センパイが言った匙という男子は、どうも俺が気に入らんのか顔を見る度に嫌そうな顔をする。

 理由は……まあ何となく分かるっていうか、この人にあると思ってる。

 何せこの人、基準が俺にはよくわからないけど、一般人から見たら美人と言えるでしょう顔してるしね。

 しかも真面目で俺みたいな劣等拗らせて半グレ気取っちゃってる奴にもこうやって話しかけてくれるんだ。

 そりゃあ奴……あぁ、サジくんだったかが面白くないと思うのも仕方ないと思うよ。

 

 

「なんか申し訳ないですね。

何時も匙には言っているつもりなのですが……」

 

「いや別に……。

アンタみたいな人が俺みたいな馬鹿&見た目アウトロー気取りの奴とこうしてるのを見てるのが心配なんでしょうよ」

 

「む……またそうやって……。

自分を卑下するのはやめて欲しいのですが……」

 

「殆ど事実ですからね、現に俺は何で高校通ってんだよとか超言われるし」

 

 

 基本的な事だけを只こなす。

 目標も無いし、生きてる意味もイマイチわかってないオーラを出しまくってるせいで、クラスでの俺は幽霊か何かの扱いをされている。

 それは別に己の自業自得なんで仕方ないのだけど、ついつい自虐的になってしまう俺のこの発言を、どうもこのセンパイは嫌いらしい。

 自分の事じゃ無いのに何故かムッとしてる。

 

 

「またそんな事を……」

 

「……」

 

 

 何時からか俺を名前で呼ぶようになったセンパイが敢えて風景を見てる俺をまっすぐ見つめる。

 

 

「やる気も無いし、気力も抜けてるし、何でもかんでも『あぁ、良いんじゃないの?』で切り抜けようとする所があるのかもしれない」

 

「おー、よくわかってるじゃん。だったら――ぬっ」

 

 

 随分と酷い事を真顔で言われてる気がした俺は、校庭で走り込みしている女子達から思わずセンパイに顔を向けると、俺の目の前にはセンパイの顔が至近距離で映っていた。

 

 

「けど、それでも私は貴方に興味があります」

 

「…………ア,ハイ」

 

 

 近い……何か良いこと言われた気がしたけど全然聞こえん……あ、眼鏡で気付かなかったけど睫毛が長いや…………。

 

 

「なので私の前で自分を卑下するのは止めてください。

それじゃあ、私が貴方に勉強を教えた意味がありませんからね」

 

「ア,ハイ」

 

「ん、よろしい」

 

「ア,ハイ」

 

 

 よく解らないけど返事だけはしとこう。

 何を言われたのか全然聞こえんかったけど返事だけはしとこうと、俺は変な声で何度も首を縦に振りながら返事をするとセンパイは微笑んだ。

 何でなのかは解らないけど、機嫌が直ってくれたのならそれで良いに越したことは無いのは確かな事だった。

 

 

「あ、チャイムが鳴りましたね。

どうも一誠くんとお話すると時間が経つのが早く感じますね……フフフ」

 

「ア,ハイ」

 

「む……。さっきからそれしか言わないのは何故ですか?」

 

「ア,ハイ」

 

「……」

 

 

 チャイムの音が鳴り終わるのと同時に、バシン! と背中に張り手を貰ったお陰で、俺は意識が戻った。

 そして戻った頃には何故かセンパイはちょっと怒った様子でさっさと行ってしまった。

 

 

「最後は結構勇気を出したのに……」

 

 

 とか何とか言ってたのが聞こえたが、サッパリ分からなかった。

 

 

 兵藤一誠

 

 趣味・一人焼き肉か一人人生ゲーム

 好きなもの・特に無し

 嫌いなもの……嫌いと感じた全て

 

 

備考……全てを取り戻したけど、虚無感だけが残ってしまった人でありながら人でなし。

 

 

「で、おたくら悪魔もわかってくれました? 俺は赤龍帝(これ)ってだけの単なる人だって」

 

「だから別にアナタの力を監視している訳じゃないって――どうしたら信じるのよ……」

 

 

 更に備考……脱け殻気味なヒーロー

 

 

 

 私は悪魔だ。

 しかし悪魔だけど悪魔じゃない性質が私にはあった。

 それは数多の強い悪魔や、魔王と呼ばれた姉すら持ち得ない、私だけのオリジナル。

 故にこれは理解して貰えないもので、封印しなければならないと私は判断し、悪魔社会の未来の為に日々切磋琢磨する子供……という仮面を付けて日々を生きていた。

 どうせ自分の事を解ってくれる者なんて居ない……だったら当たり障りの無い仮面を付けてしまって生きた方が楽なんだと自分に言い聞かせて……。

 

 だけど……だけど……。

 

 

「なんですか? ガン見されると照れるんですけど……」

 

 

 同じは居た。

 悪魔じゃない人間で……それも驚くほどに数奇な人生を歩んできた男の子で。

 

 

能力保持者(スキルホルダー)とは何なんでしょうね……」

 

「またその話ですかい。

俺が知るわけ無いでしょう? 俺だって気付いたら持ってたんだもの」

 

 

 本当の意味で理解し合える、私の運命の人……。

 

 

 ソーナ・シトリー

 

 駒王学園生徒会長……並びにシトリー眷属・(キング)

 

 備考……天然の能力保持者(スキルホルダー)

 

 

「あ、オカ研の面子じゃん。

相変わらず派手なご登場だねー」

 

「去年の今頃に加えた『兵士の少年の加入』で色々と捗っているみたいですよ?」

 

「兵士っつーと……あーっと、アレか。

俺を見るなりいきなり変態扱いしてどついてきた野郎か。

おやおや、今日も取り合いの中心でモテモテじゃのう」

 

「ええ、最近ウチの眷属達も妙に『彼』をあがめるというか、懐いているというか……何処か変なのよねあのリアスの兵士は」

 

「ふーん……?」

 

「それで、やっぱり一誠くんもああいう女の子がお好みと? 胸の大きな子が好みだと?」

 

「は? 急になんすか?」

 

 

 更なる備考……悪循完(バッドエンド)

 

 

「つーかセンパイのソレって俺よりエグいっすよね。多分俺じゃあ勝てねぇかも」

 

「お互い様でしょう。で、やっぱり胸が良いの?」

 

「だから何の話っすか?」

 

 

 

 

 俺に友達はない。

 知り合いはあれど友と呼べる者はない。

 だからそんな俺には放課後誰かと一緒に帰るとか、遊びに行くとかの経験が全く無い。

 なので外食にしても大概一人でいった感じだった。

 そして本日の夕飯は秘密裏にやってるバイト代をコツコツ貯めた自分へのご褒美という事で、ちと豪勢なものとなる。

 

 

「いらっしゃいませ~! 何名様ですか?」

 

「一人です」

 

 

 駅前通りにある焼肉屋で独り焼肉だ。

 

 

「へ?」

 

「なにか?」

 

「ハッ!? あ、い、いえ……こ、こちらへどうぞ……」

 

 

 店内に入り、出てきた案内役の店員さんに人数を教えた瞬間、顔を硬直させていた。

 しかし独りだろうが百人だろうが来れば皆お客なので、店員さんは何とか笑顔になりながら俺をテーブルへと案内する。

 

 

「ご、ご注文お決まりでしたらお呼びください……」

 

「どうも……ぬふふ」

 

 

 テーブルに通され、業務用語を告げてそそくさと去って行った店員さんを横目に、店内に香る炭焼きの匂いに腹を鳴らしながらメニュー表を広げる。

 フフフ、今日はガッツリ食うぞ……。

 

 

「ご注文お決まりでしょうか?」

 

「えー特上霜降カルビ3人前と、特上霜降ロース2人前……。

あとクリームソーダ……取り敢えず以上で」

 

「かしこまりました。それでは真ん中に火鉢を置かせて頂きますので、失礼します」

 

 

 そう言ってテーブルの真ん中に炭火の達磨状の網を置く店員さんはまた去っていく。

 どうやらさっきよりはマシな対応と顔になってるなぁ……とか考えながらボーッとすること10分、頼んだ肉がやって来た。

 

 

「ご注文は以上ですね? それではごゆっくりどうぞ!」

 

「ども……ふくく」

 

 

 この瞬間が実に好きだ。

 誰にも邪魔されず、誰にも指図されず、自分のペースで焼いて食べるこの一時がね……。

 

 

「まずは……」

 

 

 前掛けを装着し、小皿にタレを注ぎ、割り箸を手元に置く……これで最後の準備が完了だ。

 小さめのトングを使ってカルビ一枚を摘まんで網の真ん中に乗せる。

 ジュウゥゥ……という音と共に肉の焼ける良い香りが鼻腔を旋回するのに気分を良くしながらひっくり返すと、丁度良い色の焼き目が付いている。

 

 

「5……4……3……2……1……0」

 

 

 もう片方を小さくカウントダウンしながら焼けるのを待ちつつ0と同時に割り箸で肉を掴む。

 表裏共に焦げは無く、思わず頬を緩ませながら肉をタレに絡めた直後に口へと運ぶ。

 

 

「んふ……うーむ……ふふ……」

 

 

 口いっぱいに広がる肉の味は美味なり。

 多分今の俺は宇宙1幸せなのでは無かろうかとすら思える余韻に浸る。

 これが独り焼肉の醍醐味である。

 

 

「お次は……」

 

 

 侘しい? そんなことは全く思わない。

 寧ろ焼肉はギャーギャーと騒ぎながら食うもんでは無い神聖な食事とすら思うのだ。

 だから俺は独りで良い……周りの目なんて全く気にしないしね。

 とまあ、お次の肉を焼く合間にクリームソーダをチビチビ飲む俺だったが、神聖な食事は中断させられる。

 

 

「…………。よく独りで来れますね……」

 

「へ?」

 

 

 二枚目の肉を口に入れようとした瞬間の出来事だった。

 あんまりにも肉に意識を向けていたせいで目の前に人が立ってた事に気付けなかった俺は、肉を食べようとしていた口を開けたまんま斜め下に向けていた視線を上に向けると、そこに居たのはちょっと呆れ顔になってる支取センパイだった。

 

 

「まあ、一誠くんの性格だからこそですかね……」

 

「何でここに……?」

 

「外から貴方が独りで幸せそうに食べてるのが見えたからですよ」

 

 ボタボタと絡めたタレが肉の端から落ちてテーブルを汚しているのに気が付かずに、ただただ此処に現れたセンパイに驚いている俺の質問に答えながら、さも当たり前の様に座ったセンパイは、許可も無く俺のクリームソーダを飲んで居る。

 

 

「あ、それ俺の飲み掛け……」

 

 

 別に深い意味は無いのだが、こういう飲み掛けのものを異性の人に飲まれるのは余程の仲じゃないと無理とか聞いた事があったので、既に飲んじゃってて遅いが気を利かせるつもりで教えた。

 

 

「(ピクッ) ……。別に気にしません」

 

 

 俺の言葉にセンパイが一瞬硬直した様に見えた。

 が、すぐに何て事無いと言わんばかりのポーカーフェイスで飲み続けている。

 ……。こういう事は女子は恥ずかしがるってのは情報が古いのかな、それとも悪魔だからなのか?

 嫌そうな顔になるのかと思ってたんだけどな……あ、肉が冷めてしまった……まあ美味いけどさ。

 

 

「すいません……。

少し走ってたので喉が乾いてました」

 

「いやそりゃ構いませんケド……え、走ってたって何でですか?」

 

 

 学校の制服姿だし、運動をしてたとは思えないんだがとか思いながらよくよくセンパイの顔を見てみると、本当に走ってたのか頬が少し赤かった。

 活発的って見た目じゃないのに不思議だ。

 

 

「生徒会の仕事が早く終わったので、一誠くんと帰ろうかなと思って探してたのですが、もう帰ったと聞いて追い付こうと走ってただけです」

 

 

 と、思ってたらどうやら俺が原因らしい。

 意味がちょっとよくわからんけど。

 

 

「一々俺なんか探してたんですか?

別にわざわざ探さんでも他の人と帰れば良いじゃないすか。

例えばホラ、匙君でしたっけ? 多分彼なら俺の数千倍気が利くと思いますよ」

 

「なんでそこで匙が?

彼は確かに友人ではありますけど……」

 

「あ、そうですか……」

 

 

 真面目にキョトンってしてるセンパイに俺は心の中で匙君に同情したのと同時に、先は長そうだなと思った。

 てか匙君を友人と認識してるなら、単なる知り合い程度の俺より優先すべきだろうに……。

 

 

「そういう訳で私も一緒に食べます。

勿論、一誠くんの奢りで」

 

「はっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ俺そんな金持ってないんですけど!

そもそも今日の焼肉だって数ヵ月前からコツコツと貯金して……」

 

「そうですか、なら良いですよ。

そしたらこのお店を出たら少し付き合ってください」

 

「そ、それなら大丈夫ですけど……」

 

 

 こ、コイツ……意外とかわいい顔をしながらエグい事を言いやがって。

 なんとか未遂で済ませられたから良かったが……この焼肉屋って割高だから、考えを変えてくれて助かったぜ……。

 何か付き合わされる羽目になったし、その理由も納得出来ないけど財布の中身が全消えしないだけマシだと思って、俺は黙って頷くのだった。

 

 

「ふふ……良かった。

それなら早く食べてください」

 

「え、センパイ食べないの?」

 

 

 ガン見されてると食いづらいんだけど……。

 

 

「一誠くんが今食べようとしてるのを分けてくれるんですか? それなら頂きますけど……」

 

「いやダメ……これはダメです。

こればかりは俺のだからダメっす」

 

 

 こればかりは渡す事ができぬ。

 頑張った自分へのご褒美だけはな……。

 そう断りの言葉を告げた俺は、言われた通りさっさと味わう事も無く食べきるのであった。

 さっきまで感じてた神聖さもクソも無く。

 

 

 

 

 そんなわけで腹に詰め込むだけの食事を終わらせた俺は、言われた通りセンパイの用事に付き合う事にしたのだが……。

 

 

「は? さ、散歩??」

 

「はい」

 

 

 付き合うのは単なる散歩だった。

 ホントに言葉の通り、ただ歩くだけだった。

 

 

「その為に俺は焼肉を味わえなかったのか……」

 

「いやその、その事に関しては本当にすいません……」

 

 

 こんな程度なら待たせてまで味わっときゃ良かったと後悔する俺を見て、罪悪感でも感じたのか謝ってくるセンパイ。

 

 

「あ……いえ別に食いたければまた金貯めれば良いんで気にしないでください。

寧ろ何時までも嫌味っぽくてすいません」

 

 

 しかしながら俺の方はセンパイにデカイ貸しがあるし、今言った通り食いたければまた貯めれば良い。

 大体、何か奢らされるなんて事が無いのだから寧ろ喜ぶべきなのだ。

 だから俺は気にするなと言うと、センパイはホッとした顔をしてから少しだけ笑った。

 

 

「ありがとう一誠くん、我儘に付き合ってくれて……」

 

「別に良いっすよ……どーせ基本暇なんで」

 

 

 お礼言われる様な事をした覚えが無いのに、笑ってありがとうと言ってきたセンパイに、またむず痒い気持ちなってしまった俺は顔を逸らすと、気持ちを紛らわすつもりで匙君の話に切り替える。

 

 

「というか、その我儘ってのを匙君に言ってやれば喜んでくれると思いますよ」

 

「え、また匙?

この前から何故か匙の話ばかりするのは何ででしょうか?」

 

「いやだってホラ……やっぱり良いです」

 

 

 理由を言ってしまおうと思ったが、そのキョトンとするの止めてやれよ。

 言いづらいし、何か意味もなく匙くんが可哀想に思えてくるんだよ…………あ?

 

 

「え、なんすか?」

 

 

 今度匙くんと会ったら応援の言葉の一つでも送ろう……そう決心した矢先だ。

 俺の右手を突然センパイが掴んできたきたのだ。

 

 

「えっと……これはどいう意味?」

 

「知らないのですか? 誰かとお散歩するときはこうして手を繋ぐんです」

 

 

 掴まれた意図が分からず頭にハテナを浮かべる俺に、センパイは何故か真顔で説明してくれた。

 既に辺りが薄暗くなっており、センパイの頬が少し紅いのは果たして気のせいなのか。

 だとすれば何で紅いのか。

 そもそも誰かと散歩する時は手を繋がなくてはならんなんて初耳だったりと……俺には分からんことだらけだった。

 しかし、俺はこれまで他人と並んで歩く事が無かったし、手を繋ぐのは常識なのかもしれないと納得すると、そのまま言われるがままに、俺より小さいセンパイの手を繋いで歩き出すのだった。

 

 

「誰かと歩く時は手を繋ぐって、小学生くらいの話かと思ってたんですがね……。

世の中の常識はコロコロと変わるもんなんだな……」

 

「そうです。

でも、繋ぐのは私以外ダメですからね?」

 

「は? 何でですか??」

 

「とにかくダメなんです。良いですね?」

 

「は……はぁ……?」

 

 

 どうにも騙されてる気がしてきたけど、知る手立ても無いので頷く他無い。

 というか今気付いたけど、こうして誰かと手を繋ぐなんて5歳の誕生日前の両親と以来だし、他人に触れられてるのにあんまり嫌な気分にならないな。

 おかしいな、あの兄と名乗る奴に触れられたらゾッとするのに……うーん。

 

 

「どうかしました?」

 

「いや、居るだけで気持ち悪いとか言われるとか、初対面の連中にボコボコにされるとか以外に、こうして誰かに普通に触れるのは無かったから新鮮な気分に……」

 

 

 分からんな……どう考えても答えが見つからん……。

 センパイが俺の様子を不思議に思って聞いてくるのに答えながら考えてもこの妙な現象の正体は不明だった…………あ? 何だ、急にセンパイが握ってくる手に力が……あ、痛い……!

 

 

「なんですかそれ……初対面の人にボコボコにされたとは? 何でボコボコに黙ってされたの?」

 

 

 あ、あれ、何か怒ってる?

 

 

「ちょっと待ってセンパイ。痛いっす、手が痛い」

 

「あ、すいません……。

一誠くんがボコボコにされたと聞いてつい……」

 

 

 痛いと主張した俺にハッとした顔になって握る手を緩めてくれて少しホッとするのと同時に、割りとこの人は握力あるなぁと思い知る。

 というか、何でセンパイが俺が昔からやられた事に関して怒ったのか良くわからん。

 センパイがやられた訳じゃ無いのに……。

 

 

「昔の事ですよ。

俺ってほら、見た目も中身も根暗だからさー……わはは」

 

「だからって……」

 

「今こうして五体満足で生きてますから大丈夫ですよ。

ていうか、何でセンパイが一々怒ってるんですか? 只の他人事じゃないすか」

 

「む……」

 

 

 只の他人がやられた事に目くじら立てたってしょうがないのになぁ――いで!? いでででで!?!? また手が痛い!

 

 

「怒っては駄目なんですか? 親しい人が傷付けられたと聞いて怒っては……」

 

「い、いだい! センパイってばちょいタンマ!

つ、潰れるから! 俺の手がグチャグチャになる!?」

 

 

 割りとじゃない、マジで握力が強いという新事実を身を以て知りながらタップすると、漸くセンパイは手を緩めてくれた。

 あぁ、ズキズキするし、緩めてくれても手は離してくれないのね……痛い。

 

 

「一誠くんにとって、私は単なる他人なんですか?」

 

「くぅ……え?」

 

「手をこうして繋いでも、他人ですか?」

 

 

 そう少し悲しそうな顔でズキズキと痛む俺の手を空いていた手も使って包み込む様にして握るセンパイに俺は何か初めて変な罪悪感を感じてしまう。

 

 

「繋いでもって、誰かと並んで散歩の時は必ず繋ぐんじゃあ……」

 

「嘘に決まってるでしょう? 手を繋ぐのはその人に心を許せると思ってから初めて繋ぐんです……」

 

「じゃあ何で俺なんかと……」

 

「まだ分からないんですか? 私は貴方にそれほどに心を許してるという事ですよ……この鈍感」

 

 

 ……………え?

 

 

「は、え? そ、そうなの?」

 

 

 思わずため口で頬を染めてるセンパイを見ると、センパイは黙って頷く。

 な、なんてこった……そうなのか、俺、心許されてたのか……。

 う、うむ……だけどな。

 

 

「あの……なんていうか、どうリアクションして良いのか良くわからないんですけど……。

すいません、俺はその……」

 

 

 俺は別にセンパイは知り合いとしか思ってなかったらピンと来ないし、そもそも他人をどうしても信じる事が出来ないと言おうとした俺に、センパイは言うなとばかりに俺の手を握る両手に力を……今度は痛みは無い……何処か懐かしさを感じる暖かさを以て握る。

 

 

「わかってます……。

一誠くんが対人恐怖症だってのはわかってます……。

だからこそ、私はその枠から外れる様に努力します……」

 

「な、何でそこまで……」

 

「それは……ふふ……一誠くんに認めて貰った時に言います……」

 

 

 何時も見せるのとは違って見える笑顔でそう言ったセンパイは、話は此処までとばかりに俺の手を引いて歩き出す。

 分からない……何で他人なのにそこまで心を許せるだなんて言えるのか……何かを置いてきてしまった俺には理解出来なかった。

 

 

「というか、去年のクリスマスにも同じ事言ったのに忘れちゃったんですか?」

 

「いや、一応覚えてますけど、あの時は俺が空気悪くしたからてっきり和ませる為かと……」

 

「和ませるだけであんな事言いませんよ……もう」

 

 

 口を3にしながらちょっと不満そうに呟くセンパイ……。

 他人じゃ無い……ねぇ?

 

 

「まあ、似てるって気分にさせるのはセンパイだけかもしれないな」

 

 

 少なくとも只の他人でも無い事は確かかもな。

 でもね――だからこそ俺はおかしいんだよ。

 

 

「なぁ、センパイよ……」

 

「はい何でしょうか?」

 

 

 丁度人が全く来ない寂れた公園の前まで来たんだ、センパイを中に誘導し、ベンチに座らせた俺は意を決して言った。

 

 

「その綺麗な顔面の皮とか剥がして良い?」

 

「え?」

 

 

 取り戻した代償に何かを失った俺は試したくなる。

 1年程の付き合いの中、自分(テメー)の中身を晒しても変わらずにチョロチョロ来る様な人が、本当に信じても良いのか……俺は確めたくて仕方ないんだ。

 

「妙にアンタが優しいせいで、俺はどうもアンタが気になるんだよ……。

だから試したくなる……アンタの綺麗な顔を剥いで、それでも気になる相手なのか――好きになれるのかとな」

 

 

 俺はあの時クソ野郎を殺して取り戻した代わりに何かを失った。

 それが多分こういう事なんだろうとは分かってはいる。

 でもどうしても確めたいんだ……確めないと済まないんだ。

 

 

「もしも顔面を剥がしても変わらずセンパイと一緒に居てホッと出来るなら、恐らくそれが俺の他人に対しての好きって感情だと思う。

だからセンパイよ……俺の気持ちを受け取ってくれますか?」

 

 

 後は今言った言葉をセンパイが受け入れるかどうか……まあ、無理なら無理で構わないけどね。

 言うだけ言い、ポカンとしてるセンパイを俺は見詰め続ける。

 さあ、センパイ答えを教えてくれ……。

 俺に人を好きになるって感情を教えてくれよ。

 

 

「ふふ……なーんだ、そんな事ですか? 良いですよ」

 

 

 そんな俺の不安な気持ちの混ざった顔に、センパイの答えは……yesだった。

 唐突過ぎる俺の求めにセンパイは眼鏡を外し、笑いながら即答してくれた。

 

 

「中々エキセントリックな要望ですけど、ふふ……そうしてみたいのならやれば良い。

何と無く、その果ては私にとっての幸福な予感がしますから」

 

 

 無い。受け入れてる、理不尽を。

 今の脱け殻で半端者な俺とは違って躊躇いがまるでない。

 

 

「ふ……ははは、アンタやっぱり変だわぁ。

フツー真顔で顔面剥がしても良い? とか聞いてくる奴にそこまで素直に即答するかねぇ?」

 

「む……失礼ですね。

誰彼構わず応じる訳が無いでしょう。私は貴方だから受け入れたに過ぎない。だって、大好きなんですから」

 

 

 余りにも即答過ぎて、笑ってしまう俺に少しムッとした顔になるセンパイ。

 その表情が俺の心臓が大きく鼓動させる。

 

 

「だから構いませんよ。全部一誠くんに任せます……ふふ」

 

 

 その笑顔で心臓が早鐘する。

 

 

「そうです、かい。なら……」

 

 

 隣に座るセンパイと向き合い、白く綺麗な頬に手を添えながら……理解する。

 そうなんだ……これが――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうよ、センパイ……」

 

 

 人を好きになるって事なんだ。

 

 

「後できっちりお礼は戴きますからね?」

 

 

 最期まで笑って俺を見てくれるセンパイから教えてくれたこの感情を大事にしながら、頬に触れた手に力を込め――――

 

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 

 

「変わらないや……」

 

 

 俺はセンパイの顔面を剥がした。

 元に戻せる保証なんて無いのに、俺は剥がしたのだ。

 だけど心に宿るは究極の充足感。

 

 

「全然変わらない……」

 

 

 生暖かい鮮血が俺の右手を中心に広がる。

 目の前には顔が無いセンパイの亡骸がある。

 笑わない、怒らない、喋らないセンパイの亡骸。

 

 

「ふ、はは……」

 

 

 それを見ても俺の心は何も変わらない……全く何にも変わりゃしない。

 見て、目に写し、脳裏に焼き付いたセンパイの亡骸を見下ろしている俺は気が付けば小さく笑い、やがて心の中の何かが爆発した。

 

 

 

「ははははははははは!!! 顔の無いアンタをを見ても何も変わらない!! 一緒に居たいとハッキリ思える!! ふくくく……そうか、これなんだな! はははは、恋って奴はこういう事なんだねセンパイィィィッ!!!!」

 

 

 右手は赤く染まり、顔の無いセンパイが横たわるのを前にして俺は笑った。理解した。思い知った。

 センパイが俺を好きだと言った様に、俺はセンパイが好きなんだと。

 見た目で判断してなんか無かったと。

 ほら、顔が無くとも俺はこうしてセンパイを抱き締められる! ふ、ふはははは……ハッキリと一緒に居たいと思える!

 クッククク……何だか気分が良いなぁ……。

 今なら本当の意味で使えそうだ……いや、何かさっきから疼いて仕方ないんだよ。

 そう……永遠に進化するとは別の――

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)センパイの顔面を剥がしたという現実から逃げる……」

 

 

 意味も無く溢れ出てくるナニかに後押しされる形で俺はスキルを発動した。

 すると、辺りに飛び散った鮮血は消え去り、センパイの剥がれた顔は剥がす前の綺麗な顔の時と寸分違わない状態に戻り、ゆっくりとその目蓋は開かれる。

 そしてその姿を見ていた俺は笑い、戻ってきたセンパイも優しく微笑みながら互いに言った。

 

 

「どうも、そして初めましてソーナ……。『俺』だよ」

 

「ただいま、そして初めまして一誠……。『私』ですよ」

 

 

 同じ者同士による初めての挨拶を。

 

 

「気が変わったぜセンパイ。

死んでもアンタからは離れない事にするぜ」

 

「それは此方も同じです一誠……。私ってかなり執念深いですからね?」

 

 

 微笑むセンパイと同じく俺も笑みを浮かべながら、センパイの手を取り……そして抱き寄せる。

 

 

「今ならハッキリ言える。センパイが大好きです」

 

「私は前からずっと、一誠くんが大好きよ」

 

 

 センパイを抱き締めて感じる体温や匂いが安心する。

 なるほどね……これは良いと思うのと同時に……他の誰にもセンパイを渡したくないという気分になる。

 うん、分かった……センパイに変な事する奴は串刺しにしてやろう。

 センパイを俺から引き剥がそうとする奴は道連れにしてでも殺す。

 

 

「ああ、何か久々に進化を感じたよ……クックックッ!」

 

「そう……私は嬉しくて嬉しくて、どうにかなってしまいそう……」

 

 

 それが何かを失ったものを越えた……ものなんだから。

 

 

 兵藤一誠。

 

 備考……マイナスとの邂逅により目覚めてしまった完全なる人外。

 

 ソーナ・シトリー

 

 備考・異常者との邂逅により進化の道を作り上げた人外予備軍。

 

 

共通備考……色々と見てて砂糖過ぎるバカップル。

 

 

 




補足

本編では生きてる兄貴は既に消されました。
まあ、代わりになにか別なのが潜んでますけど……ぶっちゃけ今回のソーナさんの狂化っぷりは一誠をある意味完封できちゃうというか……うん。


具体的にはベリーハード転生者すら何とでも出来る可能性があるとかないとか。


色々と狂ってるので、顔面剥がしの件も早かった。
そして好き好き独占欲モードも早かった。

多分もう匙きゅんに遠慮すらしなくなるかも……かも?

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