故に平和……故に……皆なんかアレ。
『龍帝・乱神モード』
『Welsh Dragon insanity mode!』
邂逅した赤龍帝の力は絶大だった。
見るだけで……相対しただけで身を押し潰してくる様な圧倒的な重圧は、リアス・グレモリー達に死を連想させた。
(くっ、じ、地雷を踏んじゃったみたいね……!)
髪の色が赤色に変色した原理は不明だが、目の前の少年は明らかに自分達を潰そうと本気だ。
それまで見せていたやる気無しな態度は引っ込み、刃で身を切り刻まれる思いのする刺々しき殺意は、どう考えても素人のソレでは無い。
「…………」
悪魔ですら治療可能な聖母の微笑の神器を持つ少女と共に、あわよくば――という考えは既にリアスの頭の中から淘汰され、あるのはただ、少女をお姫様抱っこなんかしちゃいながらも『今からぶっ殺しますオーラ』を撒き散らす少年との戦いにどう生き残るか。
眷属達もその身に殺意を受けてたじろぎながらも、脅威から解放されようとそれぞれ構える。
しかし――
「あっ!? あそこにUFOがっ!!」
突如として少年はその視線を自分達から、自分達の真後ろ上空へと移すと、ぎょっとしか表情と共に宇宙人の乗り物代表たる円盤が空に浮かんでると叫んだ。
「え!?」
「UFO!?」
「ど、何処ですか!?」
「か、カメラカメラ!!」
普通ならこんな状況で何を――ましてやUFOなんて馬鹿馬鹿しく、そしてこんな時に都合良く現れるわけなんて無いと思うのが一般論だ。
しかし極限状態の心理状況ならびに、あまりにも少年の表情が『本気と書いてマジ』に見えてしまったせいで、リアス達も思わず振り返って上空を見上げる。
「って、居ないじゃない」
しかし当然UFOなんか居るわけも無く、リアス達は何故か妙に落胆しながら一言文句を言おうとお姫様抱っこしている少年へと再び向き直るが……。
「…………」
「……」
「居ない……」
「居ませんね……」
ピュー……という優しい風の音だけを残し、今さっきまでその場に居た筈の赤龍帝の少年と、彼にお姫様抱っこをされていた少女の姿はそこには無かった。
要するにまんまと逃げられてしまったのだ。
「……。居ない……気配も全部消えた。
ま、まさか私の恐ろしさに腰が引けて逃げたのね!?」
「ええ、間違いないですわ。部長はリアス・グレモリーですもの!」
「よ、リアス部長~」
「冥界イチ!」
「やーね、誉めたってお茶しか奢れないわよ? おーほっほっほっ!!」
しかしながらリアス・グレモリー――いや、オカルト研究部と呼ばれる軍団はちょっと『残念』なせいか、消えた一誠が居ないことを良いことに、自分達の都合の良い解釈をして盛り上がっていた。
「まったく、強がらなくても良かったのにねあの子は!(……。こ、怖くて漏れそうだったわ……)」
「しかし最後は部長の覇気に圧された訳ですし、結果オーライですわ!(あのまま戦っていたら私は滅茶滅茶にされてたかも……え、えっちな本みたいに……!)」
「しかし何者だったんでしょうかあの人は? 年も私達と変わらない様に見えましたけど……。(特にあの男の人の視線は私を滅茶滅茶にするぞって目でした……。黒歌姉さまに報告しないと……!)」
「何処かで見たような気がするんですけどね、具体的に数時間前の学校で……気のせいでしょうけど。(駒王学園に通ってる兵藤君だったよね? ……赤龍帝だったんだ……)」
……。ちょっと処じゃない残念さを内に孕みながら。
そして金髪の少年だけが正体に気付いた少年と、明日の朝邂逅する事になるとは……この時だーれも思わなかったとか。
父さんと母さんのリアクションはやっぱりそのまんま想定していた通りだった。
「バイトして金を入れるので、身寄りが完全に無いこの子を家に暮らすのを是非共許可してくださいお父様にお母さ――」
「キャーッ! 一誠から聞いていた以上に可愛いわこの子!」
「僕の事は是非共パパと呼んでくれ」
「え、ええっ!?」
「聞けよクソ親っ!! 真面目な空気がぶち壊しじゃねーか!」
基本クソ化け物の癖に、一周回ってバカな父さんと母さんはアーシアちゃんの事を頼む前から家に住まわせる気満々ですとばかりに俺の話は全部無視していた。
母さんなんかは困惑しまくりのアーシアちゃんに抱き着いてた。
「あらやーね一誠ったら。反抗期かしらお父さん?」
「この年の頃にはよくあるさお母さん。大丈夫、お母さんに反抗するならパパのマッハパンチで土下座させてあげるよ」
「……」
空気が読めない……いや読む気がない性格が夫婦揃ってるせいで、俺は餓鬼の頃から気疲れが半端なかった。
加えて良い歳こいて裸エプロンプレイから主従プレイを毎晩毎晩やるせいで、気持ち悪くてしょうがない。
ぶっちゃけこんな異空間にアーシアちゃんを住まわせる事自体どうかと思うが、彼女の身寄りが無いとなれば――多少我慢して貰うしかない。
何かもう母さんと父さんは住まわせる気満々だし。
「アルバイトはしなくて良いぞ一誠。この前ジャンボ宝くじで一等賞当てたし、ぶっちゃけニートになっても数百年は遊んで暮らせるし、お前は気にせずアーシアちゃんとイチャイチャできる関係を目指しなさい」
「で、アーシアちゃんはこの堅物息子からプロポーズは受けたのかしら?」
「え? えっと……」
「するかっ! テメー等の息子を何だと思ってんだ!」
『……。賑やかな奴等だな』
アーシアちゃんをこのバカップル夫婦の影響を受けさせないようにしなければ。
俺は母さんにされるがまま状態のアーシアちゃんを見つめながら、密かに決心するのと同時に一応報告しておく事にした。
「そういや一時的なノリで暴れたら悪魔にバレちゃったんだけど」
「ん、悪魔?」
「どっち? 赤い方? それとも黒い方?」
「赤い方。一応何もしないでそのまま逃げてきた」
言う必要が果たしてあるかどうかは知らないけど、一応という事で悪魔の存在を知ってる父さんと母さんに話してみると、多分特徴の事を聞かれたので同時に答える。
すると揃って一瞬だけ『あー』って顔をした父さんと母さんは……。
「赤って事はジオティクス君の娘さんだな。そっかそっかオーケーオーケー」
「ヴェネラナちゃん夫婦とは50年くらい会ってなかったからねー……サーゼクスの坊やもきっと大きくなってる筈よねー」
「……………………………。いや待てや。何その知ってますなリアクションは? あの赤髪の事知ってるのかよ?」
「50年……?」
極当たり前とばかりにサラッと向こうの事情っぽい話をニヤニヤしながらほざいてる人外夫婦に、俺はツッコミ、アーシアちゃんは50年という単語に首をかしげていた。
この夫婦……見た目が20代前半なのに実年齢は正直息子の俺でも把握できてない。
てのも……昔聞いた話によると、フラスコ計画とかなんとかの被験者に高校生の頃になり、その時出会って付き合う様になったとかで、その計画の数少ない成功者の代償として、本当かどうかは知らんが『不老不死』になっちゃったとか何とか……。
「ご、50年って……あのイッセーさん? ご両親はかなりお若い容貌ですけど、一体お幾つ……」
「正直解んない。
冗談かもしれないけど数千年以上は生きてるとか……」
「へっ!? そ、それはまさかご両親は神様なんですか!? だとしたら私はなんたる幸運であり、イッセーさんは神様の子――」
「いや落ち着けよ。毎晩胃もたれするようなプレイで喘いでるバカ夫婦が神なんて俺は認めたくない」
もしかしたら怖がられるかもしれない……と覚悟で父さんと母さんの人外っぷりをアーシアちゃんに暴露してみたところ、基本的に残念というかポンコツというか……寧ろ怖がらずにポジティブ解釈しているアーシアちゃんに俺は『やっぱこの子アホだ』とちょっとホッとした。
「まあ、害は無い筈だから多少は大目に見てくれると助かるよ……」
「はい!」
何でホッとしてるのか自分でもよくわかんないけど。
イッセーさんは私にとってのヒーロー
そしてイッセーさんのご両親も、凄い楽しい方でした。
「どうする? 部屋は一緒が良いかしら?」
「本気かいママ!? 参ったな~
初孫の為にこの家をリフォームしないと……」
「うるせーぞバカ! そしてバカ! 宇宙一のバカ夫婦!!」
「うふふ……」
私には家族はいませんでした。
だからイッセーさん達家族と一緒に生活が出きるというだけでポカポカと心が暖かくなる。
私なんかが本当に混ざって良いのかとすら思えてしまう程、楽しくて賑やかで……。
「ちきしょう、叫びすぎて喉がいでぇ……」
「お茶どうぞイッセーさん」
「おう、サンキュー……」
「あらあら、もう見せ付けてくれてるわよお父さん?」
「流石我が息子だな」
「ぐっ……も、もう良い……言い返すのも怠い」
幸せです。
堕天使事件から明くる日。
結局赤龍帝の少年とシスター少女の行方を掴めなかったリアス達は、今後はもっと捜索範囲を広げる方向に、騎士の少年の何か言いにくそうな顔を無視して決めた訳だが……。
「ああっー!? アナタは昨日の!」
「…………あ?」
広げる前にあっさり見付けられた。
具体的には人間に混ざって通う高校の登校時に。
「そ、その格好はまさにウチの学校の男子制服! ま、まさか同じ学校の生徒だったとは恐れ入ったわ!」
「……………………………………」
リアス・グレモリー以下オカルト研究部は、学園生徒男女問わずその平伏したくなる程の麗しき容姿軍団故に大人気だった。
そこを歩けばキャーキャーと騒がれ、そこを歩けばミーハーの如く雄叫びをあげられ。
とにかくビックリするほど一般生徒達から知られているオカルト研究部の部長……学園二大お姉様だなどと吟われているリアス・グレモリー自ら絡む只の男子生徒は何なんだ?
死ぬほど嫌そうな顔をしながら無視して逃げようとするその男子生徒の態度に、一般生徒達はちょっとした敵意を感じた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「………………」
「む!? 朱乃、小猫、祐斗、ギャスパー、黒歌!」
が、男子生徒のクラスメートはそんな彼の性格を知っている為、特に敵意は持たずに何時ものやる気無しの彼の表情に苦笑いすら浮かべてしまう訳で、大人気オカルト研究部相手にすらその態度に寧ろ『凄いわ』という一種の尊敬の念すら抱きつつ、オカルト研究部総メンバーで通せんぼされている兵藤一誠のリアクションを観察していた。
「ふ、ふふん……これで無視はできないわよ? 兵藤一誠くん? (ど、どうしよう? ここまでしたは良いけど具体的に何をしたら良いのかしら?)」
「その反抗的な目……ゾクゾクしますわねぇ……。(昨日みたいな目だったらなお良かったのに……えっちな本みたいな事をされそうな意味で)」
「姉さま、彼が昨日お話した赤龍帝です。(もし怒ったらマズイですよね……。どうしましょう、姉様が見ている前で滅茶滅茶にされちゃうのでしょうか……)」
「っ……!? た、確かに凄そうだね……。(むむむ、白音の前で滅茶滅茶にされちゃったらどうしよう……あ、でもそれはそれで……)」
「こ、怖いですぅ……。(でも男らしいそうな方です……)」
「落ち着け、落ち着けばきっと僕は言える! 神器を持つ者同士友情を育もうと僕なら!!」
ある意味一般生徒達からすれば羨ましいことこの上ないシチュエーションである一誠だが、その目は死ぬほど怠いと主張しまくりであった。
しかも通せんぼされてるので、ちょっとイラッとし始めてもいた。
が、父と母から昨晩聞かされた話の事もあったので、取り敢えず……此処は下手に出て難を逃れようと口を開いた。
「龍帝・乱神モー――」
否、下手処か殺る気満々だった。
「ひっ!? す、ストップスト~ップ!! こ、此処でそれは本当にマズイから止めて! 悪かったから! 私達が悪かったから!」
即座に反応したリアスは昨日の殺意丸出しな姿を思い出し、ちょっと怖くなったのか即座に目付きが変わった一誠にバタバタと腕をだだっ子の様に振りながらキャンセルプリーズした。
「……。じゃあ退けよ」
そうで無くてもこんな一般人だらけの真ん前で神滅具の存在を見せるなんて正気の沙汰じゃない訳で……。
漏れだしつつあった殺意を引っ込め、静かにそう告げた一誠にオカルト研究部達は各々思い思いの表情を向けながらサッと道を開けると、一誠はいつものも怠そうな表情に戻して校舎へとのろのろと歩き出す。
「あ、危なかったわ……。(こ、怖かったよぉ……)」
「まったく、なんて野蛮な……。(や、やっぱりあの目は本物ね。睨まれた瞬間下腹部が熱くなって……)」
「もう少し機会を伺うべきでしたね。(泣き叫ぶ姉様に見られながら滅茶滅茶にされる私……アリですね!)」
「強いよ彼……。流石赤龍帝なだけはあるよ。(白音の身代わりで滅茶滅茶にされる私……アリだにゃん!)」
「良いなぁ……僕もあんな風になれた良いな……」
「や、やぁ兵藤くん! キミとお話がしたいから是非帰りにマ○ク行かないかい? ………よ、よしこれなら自然と誘えるぞ!」
その背を見つめながら、オカルト研究部達は……物凄い残念な思考回路を展開させるのであったとか。
補足
マジもん人外だったとーちゃんかーちゃん。
何と過去に……過去の平行世界にてフラスコ計画の被験者だったせいだった。
故にデフォルト死延足装備、龍帝無神臓状態の一誠もまだ勝てる気がしない。
その2
ぽんこつだけど、結構王様王様なリアスさん。
リアスさんが自力で頑張って小猫さんのお姉ちゃんを探して説得しまくって仲直りさせたり、ギャーくんも怯えはあるけど引きこもりじゃない。
ただ、眷属は王に似るのか……皆基本ぽんこつだった。
その3
故にスキルはちゃんと覚醒してる。
ただし、マイナスは素養はあるけど一切覚醒させてない。