平和だけどインフレしてるぽんこつ世界。
※最後が適当だったのでちょっと直しました。
とあるクラスメート視点。
男女比率が女子に傾いているこの駒王学園には、物凄い可愛い、美人の部がある。
生徒会もぶっちゃけレベルは高いが、学園二大お姉様と呼ばれるリアス・グレモリーと姫島朱乃が其々部長と副部長を務めるオカルト研究部の方が色々と目立ってたりするので、学園中の男子や女子はオカルト研究部の姿を見ると大騒ぎするのが風習とも言えるだろう。
「……」
が、そんなオカルト研究部の面子に対し、最初から今まで心の底から興味が無いと顔にモロ出ししている男が一人居る。
「おっ、オカルト研究部の面々だぜイッセー。
木場は邪魔だがやっぱり良いよなぁ」
「二大お姉様のリアス・グレモリーさんと姫島朱乃さん。
癒し系マスコットの塔城小猫ちゃんと、その姉である気まぐれっ娘の黒歌ちゃん。
そして性別を超越せしギャスパー……無敵の布陣だぜありゃ」
兵藤一誠。
取っ付き難そうに見えるが、話してみれば観葉植物みたいにボーッとしているだけで普通な奴であるこの男は、俺達がこぞって教室の窓から見えるオカルト研究部の面子に興奮している最中も、一切興味が無さそうにスマホを弄っている。
健全な青少年としてその態度は如何なものなのかと毎度の事ながら思うけど、イッセーの場合は言っても直らないと思う。
この前も原因は解らないけど何故かイッセーを教室の外からジーッと観察していた塔城姉妹に枯れた態度だったし。
「ほら時間だぞ~、席につけー」
ひょっとしてホモ? と思って本人に聞いてみたら『ゴミを見るような目』を向けられてしまってその線は消えたので無い。
一体コイツは何が楽しくて人生を歩んでいるのだろうか……。
担任の登場と共に携帯をしまいながら何時もの通りのボーッとした表情をしている枯れ果て男を横目に、本日日直の俺は仕事である号令をするのだった。
「さて、突然だがこのクラスに転校生を迎えることになったぞ」
ざわ……! さわ……っ!
何時ものように出席確認をする筈の担任の口から飛び出てきた転校生という言葉に、俺を含めたクラスの人間達はざわめいた。
「せんせー! 野郎ですか? それとも美少女ですか?」
「美少女だなしかも外国人属性付きだ」
エロコンビの片割れである松田が爛々とした顔で質問したのに対し、担任は実に嬉しくなる答えをくれた。
「マジかっ! おいイッセー聞いたかよ!? 美少女で外国人だってよ! グローバルだな!」
「…………」
エロコンビ程露骨じゃないが俺もやはり男な訳で、美少女転校生という言葉に思わずはしゃいでしまいつつ隣の席で頬杖つきながらボーッとしていたイッセーの反応を確かめるつもりで話しかける。
が、オカルト研究部の面子達に対しても興味の興の字すら見せない男に死角は無かった様で、どうでも良さそうな表情は一切揺らいでなかった。
「では入りたまえ」
まあこんな枯れ果て男の事なんぞ今はどうでも良い。
重要なのは担任までもが絶賛する程の美少女転校生なのだ。
担任の声により扉が開けられ、入ってきた転校生――
「ア、アーシア・アルジェントです。ど、どうかよろしくお願いします……!」
想像を遥かに越えた金髪とグリーンの瞳の超絶転校生に……俺は確実に一目惚れをした。
というか多分既に数人の野郎共も俺と同じ事を思っているに違いなかった。
そう――
「イッセーさん! 噛まずにちゃんと言えました!!」
緊張した面持ちだったアーシアたんが教室を見渡し、俺――いや俺の隣で頬杖つきながらボーッとしている枯れ男を目にした瞬間、日に二度の敗北ならぬ、日に二度の一目惚れをしてしまうほどの眩しい笑顔で、普通に、当然のように……まるで既に知り合いだと言わんばかりに枯れ男の名前を呼ぶまでは、少なくともどうやって紳士的に仲良くなれるか本気で模索していたさ。
俺も、多分クラスの野郎共はな……。
「そら昨日三時間もその台詞を言うだけの練習に付き合わされたんだ。言えなかったら頬っぺたつねつねの刑に処してたぜ」
フッと頬を緩ませながら答えた……
「どういう事なのかクラスメートとして聞きたい。お前に一体何があった? 何故アルジェントさんと初っぱなから親しいんだ?」
「リア充死ね」
「美少女と仲良し羨ま死刑」
「……………………」
約束だけは一応守ったんだなと、他人事の様にこの前の交渉通りアーシアを転入させてくれたアホ集団だったリアスの事を思い返しながら、一誠は休み時間と共に普段は相手にもしてこない筈の男子達の嫉妬的視線を受けながらボーッと考えていた。
「お、おいおい。
確かに驚いたけどイッセーがアルジェントさんと既に知り合いだった事を責めたってしょうがなくねーか?」
唯一隣の席でイッセーに話し掛けてくれる爽やかな風体の男子生徒が宥めようとしている訳だが、基本的に欲望に素直な他の男子は聞いちゃいない。
「何優等生みたいな事言ってるんだテメーは!
さっき先生も言ってたじゃねーか! アーシアちゃんはコイツの家に住んでるんだぞ!」
「という事はムフフなハプニングが……いやもう既にあるんだろ!? オイコラどうなんだ!」
「ある訳無いだろ。漫画の読みすぎだバカが」
「ほらこの態度! 自分は興味ありませんな枯れ態度が余計にムカつくぜ!!」
無関心顔を崩さない姿勢のまま、男子達を一言に切り捨てる言葉を吐いた一誠にヘイトがますます溜まる。
「は~……日本語お上手ね」
「はい! イッセーさんに教えて貰いましたから」
「へぇ……あの兵藤君がねぇ?」
そんな男子達の嫉妬を一身に受けている一誠から少し離れた箇所では、転入生のアーシアを囲って女子達が既に和気藹々とトークに花を咲かせていた。
「お家での兵藤君ってどんな感じなの?」
「へ? どう……とは?」
挨拶の時、アーシアが一誠に親しみを込めた表情で話しかけて場が騒然としたタイミングで担任がサラッと暴露した事実。
『アーシアが一誠宅で一緒に住んでいる』という話に反応したのは、何も美少女と同棲してる一誠に嫉妬する男子勢だけでは無かった。
オカルト研究部の美女や美少女にすら興味を示さず、常に光合成が主成分なんじゃないかとすら思えて仕方ないレベルでボーッとやる気の無い顔をしている一誠と一緒に住んでいる――そして家での一誠はどんなのなのかが地味に気になる女子がチラホラ居る訳で……。
「いえね、普段の兵藤君って授業は欠席しないし成績もそこそこ良いってだけしか知らなくてね? それでいて誰に対しても興味無さそうな顔をするから、一部の男子以外は話し掛けづらいというか……」
「だから家での兵藤君ってどんな人なのかなー……なんて」
「あ、そういう事ですか。はい、お家でのイッセーさんは……うーんと」
どうやら初めて教会で自分を連れ出した時以前のボーッとした雰囲気は学校に通っていても変わらないんだ……。と茶髪でセミロングの女子に問われたアーシアは内心察しつつ、とうとう男子勢の言葉すら無視し、顔に似合わずの少女漫画を読み始めた一誠に視線を移しながら、アーシアはハッキリと笑顔で言った。
「確かにお家でも普段は物静かですけど、ちゃんと話し掛ければお返事もくれますし、こうして皆さんとお話出来るように日本語のお勉強もずっと嫌な顔もせず付き合ってくれました。
私は……えっと……そんなイッセーさんは嫌いじゃないと云いますか……一緒に居たいなーといいますか……あははは」
『…………』
話していくに連れて頬を紅く染めていくアーシアを見た女子生徒は、一誠の意外なる面倒見の良さに驚きつつもアーシアが彼に対してどんな感情を向けているのかを察した。
「なーるほどね……兵藤君も隅に置けなかったという訳ね」
「うーん……面倒見の良い兵藤君か、想像し辛いわね」
「……。(私のヒーローさんだって事だけは私の胸の中だけに留めておきたいです。だから……ごめんなさい皆さん)」
自分を助けてくれた時に見せた姿の一誠を知らないまま……。
学校は楽しいです。
皆さんは優しいですし、何よりイッセーさんと一緒にお勉強が出来るなんて夢のようです。
でも確かイッセーさんは言ってたんですよね……この学校が悪魔さんの学校で、その悪魔さんにイッセーさんが頼んだお陰でこうして来れるんだって。
そして悪魔さんに頼んだ事によりイッセーさんは対価を払わなければならない……。
それがどんなものなのかと知ったのは、放課後になってからでした。
「さぁ、兵藤一誠くんにアーシア・アルジェントさん! 放課後になった事だしちょっと来てもらうわよ?」
「うっ……あ、あの時の……」
「……………。水を獲た魚みたいに煩い奴だ」
私たちの教室に現れたのは、この前見た赤い髪をした美人さんな悪魔さん。
クラスの人達がザワザワと彼女達の登場にざわめく中、私とイッセーさんはあれよあれよと悪魔さん達に何処かへと連れて行かれてしまいます。
「で、どうかしら学校は?」
「え? あ、えっと……楽しいと思いますハイ……」
「………………」
クラスの人達が言っていた旧校舎……という場所まで連れてこられ、ちょっと古いなと思う廊下を歩いている最中、イッセーさんはただただ無言で、私も緊張と不安で一切声が出せなかった時、赤い髪をした悪魔さんに学校はどうだと聞かれ、私はビックリしつつ曖昧な返事をしてしまう。
「そう……。それなら彼が私達に頼んできた甲斐があったわね」
「は、はい……それはもう」
「………」
な、何で私にばかり話し掛けてくるのでしょうか? 確かに今のイッセーさんからは『話し掛けるなオーラ』が迸ってはいますけど……。
うう、育ってきた環境と経験上、悪魔さんは正直ちょっと怖いので返事に困ってしまうというか――
「さ、着いたわ」
イッセーさんは一体どんな対価を支払って私なんかの為にしてくれたのかと、申し訳ないとすら思えて来たそのタイミングで赤髪悪魔さんは、数ある教室の扉の一つの前で止まった。
扉のすぐ横の壁に打ち付けられていたプレートには『オカルト研究部』と書かれており、そういえばクラスの方々がオカルト研究部について話していたなぁ……とぼんやり思い出す。
「ようこそオカルト研究部へ」
赤髪の悪魔さんは確かリアス・グレモリーという方で、オカルト研究部の部長さんで……と教えてもらったのは記憶に新しく、学園の人たちから絶大な支持を獲ているのも聞いていましたけど、そう言えばイッセーさんは一切この方達について話をしませんでしたっけ……。
と、ボーッと眠たそうなイッセーさんと一緒に、悪魔の部長さんに案内されるがままに扉の中へとイッセーさんに続いて入ってみると……思わず主にお祈りしてしまうくらい、空間の空気がガラリと変わった気がした。
「うっ……これは、また……」
そしてこれまた如何にもといった内装に、元とはいえシスターだった私は怖くなって思わずイッセーさんの制服の袖を掴んでしまう。
しかもこのお部屋には赤髪の悪魔さんの他に、この前見た……多分お仲間さんだと思う悪魔さん達が私とイッセーさんをジーッと見て来てるので、余計怖かった。
「やっぱり趣味の悪い部室だと思うよなアーシアちゃん。悪魔のセンスってのはよくわからんわ」
「うぐっ……そんな真顔で言わないでよ」
チッ、めんどくせぇ。クソめんどくせー。
帰宅部なのに何で興味もない部活の見学なんざしなきゃなんねーんだ。
しかもよりにもよってこのクソ趣味の悪い部室で茶だぁ? まだグロ映画見ながらハンバーグ食ってた方がマシだぜ。
「え、お、お茶?」
「そうよ。アナタを学園に裏口転入させる条件として兵藤く――いえ、イッセーに提示したのは『アーシア・アルジェントと共に仲良くお茶を嗜む』という一点よ」
「そ、そうだったんですかイッセーさん?」
「まぁね。だから遠慮しないでこのバカ共の目の前で十字を切ってしまうんだ。そしたらコイツ等苦しむぜ?」
「ちょ、ちょっとそれは止めて欲しいのだけど――というかそんな目の前で露骨に言わないでよ……普通に傷付くわ……」
しかしアーシアちゃんにキチンと学んで貰う為には仕方ない事なのだ。
駒王学園の制服が届いた時、物凄い嬉しそうに何度も何度も袖を通しては鏡の前でニコニコしてた姿を見せられれば、バカ共相手に例え無駄な時間を割くことになろうとも我慢もできる。
なんて自分に言い聞かせながらアーシアちゃんを隣にソファに座る。
「あのー……アーシアさんに一応聞くけど、アナタは悪魔人生に興味は――」
「龍帝・改神モード」
「……!?
ゴホンゴホンッ!! な、何でも無いわアーシアさん!
私達は確かに悪魔だけど、アナタやイッセーと仲良く楽しくお茶をしたくて呼んだだけだから! うん!」
「は、はぁ……。
まだ怖いというのが本音ですが、お茶なら喜んでお付き合いしますよ?」
この前のイザコザで俺はコイツを完全なアホ集団だと思っていて特に脅威でも無いと断定している。
が、リアス・グレモリーはアホなので早速アーシアちゃんに対しても勧誘をし始めたので、軽く脅して黙らせてやる。
その後何か言いたげなツラを寄越してきたが無視だ。
「緑茶、紅茶とありますが、どれになさいますか?」
「あ、で、ではお紅茶で……」
「アーシアさんは紅茶と……ではイッセーさんは?」
ていうかよ、何でコイツ等はナチュラルに俺を名前呼びしてる訳? 友達でも何でもねーのに……。
リアス・グレモリーといい、このたれ目で飲みたい茶を聞いてくる……ええっと姫島朱乃といい気安い奴等だ。
まぁ、別に友達じゃ無いものの特別嫌いって訳でもねーし黙って飲みたい茶をリクエストするがよ。
ええっと飲みたいもんは――
「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースチョコチップエクストラコーヒービターキャラメルフラペチーノ」
「………へ?」
「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースチョコチップエクストラコーヒービターキャラメルフラペチーノ、が飲みたい」
「いやなんて?」
………。何だよ、飲みたいもんは聞いてきた癖に何だよ揃いも揃ってそのツラは?
「だから、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースチョコチップエクストラコーヒービターキャラメルフラペチーノが飲みたいんだよ。用意してくれんだろ? え?」
……………。まぁ、用意できるわけねーもんをわざと言ってるんだけどな。
「あ、それってこの前イッセーさんとお父様とお母様と私の四人で行ったカフェで頼んだお飲み物ですよね? 用意できるんですか?」
アーシアちゃんは前に連れてって呪文のいろはを教えておいたので何の事だか解ってる。
が、コイツ等と来たら……。
「ちょ、ちょっと待って? それ何の呪文?」
「呪文じゃねーよ、飲み物の名前でコーヒーだよ。
ほら用意しろや、この前何でも用意するって言ったよな?」
駄目だね。全然ダメだ。
最初に父さんに連れていかれた時の俺みたいな間抜けツラだぜ。
「えっとイッセー? リアスも朱乃もそんな飲み物は想定してないと思うよ? というか私も想定してなかった」
「もの凄い噛みそうな名前の飲み物ですね。逆に気にはなりますけど……」
白髪チビと何か制服が似合わん黒髪女その2も解ってないみたいだ。
「ねぇギャスパー君。もしかしてイッセーくんが言ったのって……」
「多分ス○バですよ……。まさかのス○バとはびっくりです」
が、残りの気弱そうな金髪男とチビガキは地味に気付いている様だった。
まぁそれに気付いた所で意味の無い話だがな。
「あ、あのイッセーさん?
流石にアレは此処には無いと思いますけど……」
「解ってるよアーシアちゃん。わざと言ってるんだから……ほら見ろよアホ共の顔。困惑してるぜ?」
「イッセーさんって私の時もそうでしたけど、結構意地悪ですよね……」
意地悪というか嫌がらせと皮肉をぶつけてやってるだけなんだけどな。
それになアーシアちゃん……本当の意地悪ってのはキミに対してやってた事じゃなくだ……。
「何だよ用意も出来ねぇのか……。帰ろうぜアーシアちゃん」
「え、えっ!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 普通の紅茶ではダメなの!?」
「駄目だなぁ。俺は今ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースチョコチップエクストラコーヒービターキャラメルフラペチーノの気分でね。
無いのならココにはもう用はねぇよ」
こういう事を言うんだぜ? ケッケッケッケッ!
兵藤一誠は鬼だった。
が、確かに鬼だけど色々と残念なオカルト研究部員達にしてみれば色々とアレだった。
「ま、待ってください! 用意出来ない私を豚と蔑んで椅子にしても構いませんから何卒お慈悲を!」
「隣の部屋に嫌がる私を連れ込んで凄いこともして良いので!」
「姉妹同時に凄い事して良いにゃ!」
「ぼ、僕ス〇バの常連だからトークしようよ! な、何なら休日は一緒にス〇バ行って『意識高い系(笑)』なトークとかしたいよ!」
「ぼ、僕も混ざりたいです……」
今の一誠の見せる悪童顔は、それだけで白飯3杯はイケるくらい来るものがあった。
故に神器友達が欲しい木場祐斗やギャスパー・ウラディも。
本能的に自分のご主人様になってくれると勝手に決めてる塔城小猫・黒歌姉妹も。
彼なら偏見なく自分を認めくれるかもしれない人と思っているリアス・グレモリーと姫島朱乃も、全員が全員必死こいて本当に困惑してるアーシアを連れて帰ろうとしている一誠を呼び止めようとする。
「し、縛っても良いわ! け、眷属達を許して欲しい代わりに私を縛っても良いわ! だから帰らないで! 友達になってよ!」
「いえ、王を守るのが勤めであり女王である私が代表して――」
「戦車! 戦車こそ縛っても耐えられます! その後ビリッビリに服を引き裂いて凄い事をされたとしても、嫌で嫌で嫌でしょうがないですが耐えられます!」
「駄目にゃ! 妹にそんな過酷な真似はさせられない! ココは元僧侶であり白音の姉の私が身体を張るよ!」
「ぼ、僕はえっと……と、特に無いけど友達になってくれたら買い食いしながら下校とか一緒にできるよ?」
「ぼ、僕は……あ、えっと……な、無い……」
皆あの日見た兵藤一誠の底知れぬパワーと人間性に残念な性格ゆえに若干魅入られてしまっており、あんまりにも必死に全員が一誠を引き留めようとする姿を見たアーシアは、悪魔という理由で抱いていた恐怖が一瞬にして吹き飛び、逆に女性陣の一誠に対する意味不明な執着心に危機感を覚えてしまう。
「い、イッセーさんはこの方々に何をしたのですか? 特に女性は……」
「さぁ、バカの考えは俺にはわからないよ」
「………」
興味無さそうに答える一誠に、アーシアは特に一誠から女性達に対して何かしらの思いを抱いてる様子は無さそうだと、内心ホッとするのと同時に、自分も女として意識されてない事を思い出してちょっと凹んだ。
というのも、どうもこの一誠という男。
色々とあの両親を見てきすぎたせいで枯れてしまっている様で、つい昨日もちょっとしたハプニングでお風呂上がりの生まれたて状態の姿を一誠に見られてしまった時も――
『はわ!? い、いいい、イッセーさん!?』
『ん、アーシアちゃんお風呂上がりだったの? だったらちょうど良いや、これバスタオルと新しい下着ね』
『うっ……い、イッセーさん? あ、あの……』
『なに? 早く身体拭かないと湯冷めしちゃうぜ? あ、これドライヤーね。それじゃ』
『………………』
と、この様に自分の真っ裸姿をガン見しても眉ひとつすら動かさず、寧ろ逆に傷付ける勢いの淡々とした表情で全身が茹で蛸の様に真っ赤に紅潮しているアーシアにバスタオルと下着を寄越してきた程の枯れっぷりだった。
『あ、あのぉイッセーさん?』
『え、なに? 何か足りないのがあるの?』
『い、いえそうではなく……そ、その……イッセーさんにとっての私って魅力ありませんか?』
『は? ……………あぁ、ごめん見てしまったのは確かに失礼だったよな。一発ぶん殴って良いよ』
『そ、そんな事はしませんし、そういう事を聞いた訳じゃあ……』
『? あ、うん……綺麗な肌だね。えっと、後は……割りと胸はあるんだね……うんうん、可愛い可愛い』
『……………』
もしかして自分の身体は一誠にとって魅力に感じなかったのかと心配になり、今にも羞恥で身体が燃えてしまうかと思うくらい熱くなるのを感じながら問い掛けてみても、一誠は逆にすっぽんぽんのアーシアの身体を上から下までジロジロと何時もの眠そうでやる気の無い表情のまま、取って付けた様な台詞で誉めるだけ。
挙げ句の果てには、去り際に――
『おっと、そろそろハレトークが始まっちまう。
ほらアーシアちゃんもさっさ着替えてTV見ようぜ? 先にリビングでジュース用意して待ってるからよ』
バラエティ番組の方が楽しみですと謂わんばかりに、ちょっと弾んだ声で言うと、何もしないままさっさと出ていってしまった。
ポツンと脱衣所にすっぽんぽんのまま残されたアーシアは、折角お母様に言われても勇気を出したのに……と、生まれて初めて妙な敗北感を味わう事になっているのも知らないまま……。
「チッ、わかったよ煩いな。
何で俺にそんな拘るのかが解んねぇよったく……」
「むむむ……」
が、枯れてるその理由が一誠の両親にあるとはまだアーシアは知らず、ハァとため息を吐きながらソファに座り直るイッセーの横で、同じく小さくため息を吐いてしまう。
「所でイッセーとアーシアさんは恋人なの?」
「違う」
「で、でもお嫁さん候補としてイッセーさんのご両親に認められてますから! ゆくゆくは一緒のお部屋でイッセーさんのご両親の様に……は、は、裸で抱き合うとかしたいと思ってますけどね!」
「あ、あらそうなの……ふーん、そうなんだー?」
「家に居るバカ両親のせいで、この子変な入れ知恵されてるだけだよ。つーかアーシアちゃんも真っ赤になるくらい恥ずかしいなら言うなよそんなアホな事を」
「で、でも……イッセーさんはヒーローだし……私の大切な人だからその……」
割りと切り込んでも、本人は本気じゃないと捉えて相手にしてくれない。
アーシアの戦いはまだまだ始まったばかりだった。
「ふむ……その様子だとペット枠はまだ居ないみたいですね。
ペットになれるチャンスですよ姉様」
「悪いことをしたらお尻ぺんぺんする怖い飼い主とか、お風呂に無理矢理入れてくる飼い主は私も白音も嫌だなー? どっかにいないかなーイッセー?」
「知るか、歓楽街に入り浸るエロ親父と交渉してこいよバカ。それとアンタ等に名前呼びされる程親しいつもりもねぇよ」
「じゃあ何と呼べば? ま、まさかご主人様?」
「呼んでみろよ、呼んだ瞬間ドブ川に投げ落としてやるから。つーか姫島先輩つったか? アンタそんな性格じゃないと聞いてたんだが、頭でもぶつけたのか? あ、元々アホだからぶつけても意味ねーか?」
「はぅ!? ふ、ふふふ……じょ、冗談で言ったのに本気にしないでくれるかしら?
こ、後輩くんの癖に生意気ですねぇ……ふ、ふふふふ……」
「じゃあニヤケんなこのド変態女」
「どっ!? う、うふっ、うふふふ! い、今の台詞のせいでお腹のココがきゅんってなっちゃいましたわ。責任取ってくださいな?」
「む……むむ……」
あらゆる意味で。
補足
アーシアさんは全然まともです。
ただ、地味にドジっ娘というか……こんな一誠に惚れてしまってる時点で彼女もある意味アレかもしれませんね。
その2
枯れてる代わりに女性陣は原作以上に肉食類というか、猛禽類というか……。
リアスさんの観察眼の高さのお陰で自身と眷属さん達に
とって『evolution king!(ドライグ声)』しちゃう切っ掛けを獲られたというか……。
ほんと平和って良いよね