……という名のただのイチャ付き回
話だけには聞いていたシスターを連れて兄と一誠が帰って来た。
兄の後ろを少し怯えながら付いてくるそのシスターもそうだが、顔が青アザだらけになってヘラヘラしている一誠をうもはも言わさずに治療をしようとしたのだけど、そのシスターが神器の力で治療をした。
ほんの少しだけ納得いかない気分になりはしたものの、とにかく何故一誠が顔をボコボコに腫らせていたのかを問い詰めた所、厄介な事に兵藤イッセーとリアス・グレモリー達とほんの少しだけ小競り合いがあった結果の事らしい。
時間稼ぎのつもりでわざと殴られた一誠本人は『ライザーの兄貴がやっと仲間を得た記念みたいなもんだわ』とおどけて言うが、私は当然納得なんてしないし、元々熱くなりやすい性格だからそのままリアス・グレモリー達に怒鳴り込んでやろうとしたけど、それをしてしまえば、グレモリー家が管理するこの人間界のこの土地に留まれなくなってしまう。
いや、私個人としては別にこの場所に留まれなくなった所で実家に帰れば良いだけの事だとは思っている。
けれど元は人間である一誠に人間の学生を経験させてあげる為にフェニックス家が総出でグレモリー家なんぞに頭を下げながらご機嫌取りをした事が無駄になってしまう。
………まあ、私達一家は『家族』の為なら自分のプライドなんて適当な所にでも投げ捨てて床に額を擦り付けたり靴を舐めるのも辞さないという考え方なのでグレモリー家のご機嫌取りに対して屈辱とは思ってはいない。
このシスターの件も先にリアス・グレモリーから余計な干渉をするなと言われていたのにも拘わらず兄と一誠が関わったばかりか連れて帰って来てしまったという意味では向こうの言い分もわかる。
しかし私にはそれが建前にしか思えない。
元々あの連中は兄と一誠を毛嫌いしているのは見てわかっていたのだから。
「多分退学だろーな」
「ああ、後日話があると言っていた」
「たった一人のシスター一人の為におじゃんにしますか……」
「流れでそうなっちまったから仕方ないぜ」
「そもそも彼女には借りもあったしな……」
「まったくお人好しなんだから二人とも」
少なくとも一年間は一誠を人間界の学舎で生活させられたのだし、この件で追い出される事になったとしてもそれは受け入れよう。
ただし、その話で纏まった直後の事までは保証してあげませんがね。
確実に追い出され確定だ。
自分達のした事でレイヴェルや妹を近くで見守れていた黒歌も巻き込んでしまう事に対して、すまないと謝る一誠とライザーに二人は仕方ないと受け入れつつ、居心地が悪そうにライザーの隣でソワソワしているアーシアに挨拶をする。
「レイヴェル・フェニックス。
そちらのライザーの妹であり、一誠とこちらの黒歌の主ですわ」
「よろしくねー?」
「は、はい」
少々人見知りの傾向があるのか、二人の自己紹介に対して緊張の様子を見せるアーシア。
ライザーと一誠によって命を拾い、そのままライザーの――悪魔の眷属になることになってしまった事や、今現在悪魔に囲まれている事を思えば堅くなってしまうのも仕方がないのかもしれない。
「それでアーシアが寝る部屋だが、確かひとつ部屋が空いてたよな?」
「お兄様と一誠の玩具やらゲームやらのコレクションを飾るオタクのような部屋になっていますけどね」
「う……流石にその部屋で寝てもらうのは悪いな。
となると――」
挨拶もそこそこに替えの燕尾服に着替えた一誠が人数分のお茶の用意をしている横で、アーシアの生活基盤を固める為の話し合いが行われる。
割りとお高めのランクのマンションの部屋で広さもライザー、レイヴェル、一誠、黒歌が其々の部屋を持てるだけの数もあるし、なんならアーシアの為の部屋の空きもまだひとつ余っていた。
しかしながらその空き部屋は今現在、人間界で生活するようになり始めて約一年ですっかり一誠とライザーの趣味保管部屋となってしまっていた。
一応綺麗に整理整頓はされているものの、所謂『男のロマン部屋』にアーシアを寝泊まりさせるのはいくらなんでも可哀想な気がしたので、どうしたものかと唸っていると、黒歌が軽く挙手をしながら口を開く。
「この子が私の部屋を使えば良いんじゃない? 殆ど寝るだけの部屋にしか使ってなかったから私物もそんなに無いし」
「だがお前はどうするんだ? まさかリビングで寝るなんて……」
「当然そうなったら私が一誠の部屋で一緒に寝るわ。
そして世界は平和になるにゃん?」
「いや『にゃん?』って言われても困るんだけど」
断られない自信たっぷりに全員にお茶を配ってその場に直立不動となる一誠にウィンクをする黒歌に本人な微妙に困った顔をしている。
「え、嫌なの?」
「嫌だというか、俺のプライベートの時間がなくなるというか……」
「プライベート? なによそれは?」
「……………………。キャリアウーマン系か女教師系か人妻系のエロ動画が見れない」
そう本気で困った顔をする一誠の発言にレイヴェルと黒歌の目がジトっとなり、アーシアはエロ動画という単語辺りで耳を真っ赤にしていた。
唯一同性で性癖も近めなライザーだけが一誠の気持ちがわかるとばかりに頷いていた。
「だって黒歌もレイヴェルも観ようとすると絶対邪魔するじゃん?」
「邪魔はするわよ。
その性癖をまともにしたいし」
「もういい加減年上の女に変な理想を求めるのはお止めになったらどうかしら? 年上だろうが子供っぽい者だっているし、同い年や年下で包容力のある者も居るのよ?」
「そんな事は無いだろ。
それに部屋一緒だと絶対に悪戯してくるだろ?」
「悪戯じゃないわ! ちょっとイケナイ気分になるから誘ってるだけにゃ!」
「………」
フンスとどこがとは言わないが特盛気味なそれを張って揺らしながら言い切る黒歌に一誠は微妙な顔をする。
この黒歌が余計な事をレイヴェルにも教えるせいで、中学生くらいの年齢辺りから割りと身の危険ばかりだった。
「それに部屋は防音だから激しいプレイで燃えに燃えても外には聞こえないし!」
「だったらレイヴェルの部屋で寝ろよ? 女の子同士だし」
「何言ってるの? このアーシアって子に部屋を明け渡したらレイヴェルも当然一誠の部屋に移動よ?」
「それじゃあ結局部屋ひとつ余るじゃねーか!?」
「……。もういっそ黒歌の言うとおり三人同じ部屋にしろよ? そっちの方が今後の意味でも平和になりそうな気もする」
「兄貴まで何言ってんだよ!?」
大分前から三人の犬も喰わぬ攻防を見てきたライザーの言葉に一誠は苦い顔だ。
「どっちにしろ明日にはこの土地を追い出されるだろうから、今の内に人間界での最後の思い出にしろ。
という訳でアーシアちゃん、今日の所はこの二人使ってる部屋の好きな方を使いなさい。
着替えは暫く体型が一番近いレイヴェルが服を貸してやれ」
「わかりましたわ。
ではアーシアさん、服のサイズをチェックしますので私のお部屋にご案内しますわ」
「あ、は、はい! お願いします!」
「やったー! 久々に一誠とレイヴェルとイチャイチャできるにゃー!」
「ぐぇ!? ぐ、ぐるじぃ……!?」
こうしてアーシアは騒がしくも人間臭い不思議な悪魔達との道の第一歩を踏み出すのだった。
「ふむ、キツいとかはありませんか?」
「あ、はい……大丈夫です。
その、わざわざお洋服まで貸して頂いて……」
「ストップ、その堅苦しいお礼はしないて良いわ。
何があってもずっと眷属を持たなかったライザーの眷属さんなんだからね?」
「は、はい……」
一誠とライザーに紹介されたライザーの妹とその眷属である女性は二人が言っていた通りの人物であったとアーシアはホッとした。
「眷属なんて堅苦しい呼び方をしていますけど、我々たに限ってはそこまで意識をする必要はありませんからね? そもそも兄はアナタを眷属ではなく保護をするつもりで迎えたようですから」
「で、ですが他の悪魔の方は違うと聞いて……」
「他所は他所、ウチはウチってノリで良いの。
その証拠に私は立場の上ではレイヴェルの眷属だけど、こんな事とかしちゃうにゃん♪」
「ちょ!? いきなり抱き着くのはやめ――ひゃんっ!? お、お馬鹿ぁ……! ど、どこ触ってぇ……!」
「あ、あわわわっ……!」
ノリが軽すぎて眷属の黒歌がレイヴェルにじゃれるきらいアバウトな上下関係というのは、抱きつくついでに首筋に舌を這わせながら胸に悪戯をする様を見せられる事で、アーシアはドキドキしながら理解していくのだった。
終わり
オマケ・夜のお時間
敢えて一誠という名だけは、どれだけ人生を変えても自分であるという証の為に名乗り続けていた。
それは地の底に堕ちてから這い戻ってからも変わらない。
いや、這い戻る為に得たかけがえのない繋がりを今度こそ守る為に霧島一誠という少年はその努力を決して怠らない。
「ふぅ、悪いな夜だってのに俺に付き合わせてしまって」
「何時もの事ですから気にしないで良いですわ」
「それに、そんな一誠に付き合ってきたお陰で私も壁を乗り越えられたもの」
常に先の力を求め続ける。
その努力だけは決して妥協はせず、一人では突っ走らず時には仲間に頼りながら強さの領域を上げる。
アーシアを迎え、流れでレイヴェルと黒歌と本日は同じ部屋で眠る事になってしまった一誠は、寝る前の日課であるトレーニングの為に夜の公園で、二人を相手に実戦形式の運動をしていた。
「だけど俺はまだ不安だよ。
もしもっとヤバイのが現れてお前達まで奪われてしまうと思うと、まだまだ足りなさすぎる」
素の実力自体三人は拮抗しており、霧島一誠は別の世界のもしもの数多の彼が持つ無限進化の精神ではない為に壁を乗り越えて駆け上がる速度は遥かに遅い。
だからこそ繋がりを持った大切な人達と共に壁を叩き壊そうとする。
「はは、俺って大分欲深い男だよ。
フェニックス家の人達やライザーの兄貴も当然だけど、レイヴェルと黒歌だけは何があろうと絶対に誰にも取られたくねぇ……なんてアホ考えちまってる」
その為には文字通りなんでもした。
作り替えるというスキルを使って己の身体を強引に作り替える実験すらした。
卑怯と呼ばれるやり方をしてでも敵となる者をある時は粉砕してきた。
この手をどれだけの血に染め続けても、止まるわけにはいかなかった。
「明日は朝から抜き打ちの持ち物チェックをする予定ですし、今日はここまでにして帰りましょう?」
「おう」
「あーぁ、それにしても退学で冥界に帰るとなるとまた暫く白音とはお別れになるのね。
最近一誠に関わった事でアイツ等に意地悪とかされなければ良いけど……」
「そんな事マジでしてたらカチコミ上等だ。
それじゃあお前達の元主共と変わらねぇ……」
「リアス・グレモリーがその一線を越えたりはしないとは思いたいけど……」
それがこの三人の間を結ぶ強い繋がり。
「うぃー……ほれ、先に風呂入ってきな」
「ん、わかったにゃん。
あ、当然だけど覗いても良いのよ?」
「茶ァ冷やすからそんな暇ないぜ」
「はぁ、そこで妙な生真面目さを発揮しなくても良いというのに。
ではお先に頂きます」
「おー、ちゃんと肩まで浸かれよー」
霧島一誠はライザー・フェニックスと同じく恐れている。
この先ももしかしたら現れるかもしれぬ未知なる力を持つ存在を。
この大切な日常を犯す者達を。
だから絶対に止まらないし妥協もしない。
道連れにしてでもこの繋がりは守らないといけない。
「ふー、良いお湯だったにゃー」
「一誠もどうぞ?」
「おー…………って、ちょっとお前等少しは恥じらいとか持てよ」
「んー? なにがー?」
「何がってお前等……全部が丸見え……」
「お兄様もアーシアさんも寝ていて今は私と黒歌さんと一誠だけなのですし、構わないでしょう?」
「俺をなんだと思ってんだよ……。ほら、茶ァ入れといたから勝手に飲んでろ」
それが霧島一誠の生きる理由。
「……今の態度どう思う?」
「それなりでしょうね。
呆れ半分もあるけど、目線は逸らしてましたし……」
「うーん、取り敢えず一誠がお風呂の間にこのお茶にギンギンになる怪しい液体を―――いや、こういうのに頼るのは違う気がするからやっぱりやめとくにゃん」
「アナタも割りとそういう所は生真面目ね? 私も同じ意見だけど」
「そりゃあねぇ……。
一誠が一歩踏み出せない理由もわかるし、一誠の性癖がライザーと同じトラウマから来てしまってるのもわかってるから……」
「で、マジで俺の部屋で寝るんだなお前らは……」
「お兄様も残り少ない人間界での生活の思い出にしろと言っていましたしね?」
「最近白音――は、まぁ良いとしても、まさかのシトリーに目を付けられてるし、ここ等でひとつ私とレイヴェルの成長中の魅力を教えないとね?」
「…………………。そーかい。
はぁ……今日折角元浜と松田から新作のエロ動画を貰ったのに観れねぇじゃんか。
仕方ねぇ、二人がそのベッド使えよ? 俺は適当に床で……」
「そんなベタなオチで済ます訳がないでしょう?」
「はい、おいで一誠?」
性癖に対する正直さとだらしなさはさておき、身内に対してだと妙な誠実さと生真面目さを発揮してしまう一誠を当たり前のように封殺するレイヴェルと黒歌は、それでも渋る一誠をベッドに引きずり込むと、それぞれ左右から挟み込むように密着する。
「あ、折角だからそのエッチな動画を三人で観ようよ?」
「どうせ歳の行った女がメインの動画でしょうけどね」
「そ、それはやだわ! つーかお前ら普通に女を捨て過ぎだっての! あ、返せ俺の携帯!」
「はいはい、えーっとこのフォルダかにゃー?」
「やはりその系統の女ですわね。
こんな年増の何が良いのかしら?」
「やめて!? それはマジで恥ずかし―――」
「内容もありきたりだし。
設定が学食で働いてる未亡人の女がそこの男子生徒に迫られてインするって感じだし」
「ちょ……ホントやめて」
携帯のフォルダに隠してたシークレットデータを普通に見つけられた挙げ句、音量マックスにして三人仰向けになって鑑賞するという光景。
しかも内二人は普通に美少女だし肉親よりと繋がりの深い関係ともなれば流石の一誠も恥ずかしそうに顔を両手で覆ってしまう。
「この男子生徒役のって一誠よりちっちゃいにゃ」
「ふむ……比べてみても確かに一誠の方が――」
「頼むからやめてくれ!!? そこまで俺は恥に対する耐性は突き抜けてないから!」
恥ずかしさで悶絶しようにも二人に挟まれてるせいであまり動けない。
「流石に一誠が可哀想だから動画は切るにゃん」
「そうね。さてと一誠……?」
充分モヤモヤさせてきた一誠への仕返しを済ませた所で動画を切る黒歌とレイヴェルはそのまま顔を隠す一誠を呼びながら、そっと優しく抱き止める。
「ちょっと意地悪が過ぎたわね、ごめんなさい」
「敢えて言うならモヤモヤさせられてきた仕返し。
でも今度は違うにゃん」
実の所、その気になれば二人とも一誠の理想とする女性のタイプのひとつである包容力は持ち合わせていたりする。
ただし一誠にのみしか発揮されないのだが。
「意地悪しちゃったけど、一誠が大好きなのはずっと同じだからね?」
「だからもう少しだけ待って上げるわ。
でも、少しは私達を頼って良いのよ……?」
「お、おう……その、ありがとう……」
優しく微笑みながら頬に其々キスをしたレイヴェルと黒歌に、一誠は辿々しく二人にお礼を言うと二人の手を握りながら静かに目を閉じるのだった。
「すーすー……」
「ちぇ、本当に手なんて出してこないんだから、ヘタレ一誠め」
「いつか必ずそうなれるような女になるまでです。
それに、一誠が寝てからがある意味私達の本番のようなものでしょう?」
「まぁね~♪ さてさて、今日はどっちから―――にゃっ♪ そっかー、私からかぁ……♪」
「むぅ……前の時は私からでしたし、今日は先手を譲りましょう」
「ちゃんと交代するから待ってて…………あぅ♪」
女子達の奮闘がここから始まることを知らずに……。
そして……。
「……………聞いて良いか?」
「んー……なぁに一誠?」
「あまり眠れなかったのかしら?」
「……いや、寧ろ目覚めは信じられないくらい良い。
だけど俺が知りたいのはその――あれだ、お、お前らの胸にどうして虫刺され的な跡が?」
「「…………」」
「うん、甘えたがりな男の子にちゅーってされたからにゃん」
「ふふ、私達より大きくなった男の子に甘えられたからよ?」
「……………………………………………………………………」
「あ、大丈夫大丈夫。何時ものことだから気にしてないし、一誠だから許すにゃん」
「ええ、責任はその内で構わないわ」
「…………………」
その日の夜 終わり
補足
原作の一誠くんだったらそこら辺の恥は突き抜けてるので平気でしょうが、この一誠は微妙にヘタレ入ってるので耐性が高そうで割りと低いのだ。
ましてや繋がりが深いからこそ余計……。