ブラック・ブレット 夜の海と蓮の華   作:神流朝海

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こんにちわ。

今回いつもより少しだけ長くなっています。

では、どうぞ


呪われた子供たち

私、延珠、蓮太郎、海夜と並んで歩いて帰っているとき、通りの向こうに人だかりが出来ていることに気づいた。

いったいなんだろうと首をかしげた瞬間、向こうのほうから怒鳴り声が聞こえてきた。

関わるのを面倒だと思ったのか、蓮太郎さんが言う。

 

「延珠、神流、月夜、少し遠回りになるけど反対から帰―――」

「―――そいつを捕まえろぉお!」

 

悲鳴のような蛮声が響き渡るのと、人垣がが破れて一人の少女が飛び出すのはほとんど同時だった。

その少女は立ちふさがるような位置にいた私たちを見て、はっと立ち止まる。

服装は革ベルトのデニムスカートに白のチュニック。

一目で『外周区』に住んでいる子供だとわかった。

そして私たちをワインレッドの紅い目で見ていた。

つまり、私と同じ『呪われた子供たち』

 

長い睨み合いを終わらせたのは、後ろから伸びてきた無数の手だった。

大の大人たちがその背に手を掛け荒々しく押し潰すと、こちらにまで骨の軋む音が聞こえてくる。

 

「放せぇ!」

 

「ねぇ。やめなよ」

 

視線が、一斉に声の主、つまりは私に集まる。

 

「その娘がなにかしたの?」

「どうしたもこうしたもねぇよッ!このガキが盗みをやらかして、声をかけた警備員を、力を使って半殺しにしたんだ!」

「そうですか。で?」

 

場がシン・・・と静まる。

 

「・・・なんだぁ?子供だからって子供の肩を持つってのか?」

「じゃあ、聞きますけど、盗みをやらかして警備員を半殺しにしたら、こんな風に捕らえられるんですか?」

「こいつは『呪われた子供たち』だ!人間ですらないバケモノだ。そいつが人間様に手ぇ出してんだ。当たりまえだろ」

「・・・はぁ。そのあなたのいう人間様とは、誰のことなんでしょうかね。少なくとも、あなたはその人間に含まれてないんでしょうね」

「んだとてめぇ!」

「貴様等いったいなにをやっている!」

 

その時、観衆を割ってがたいのいい警官が入ってきた。

蓮太郎さんの方を見ると、蓮太郎さんは私を見て驚いていた。

海夜はまだあのゆるい性格なので、戦力にはならないでしょう。

そしてその警官は、無理やりおさえられていた少女をみると、「ああ」と小さく呟き、少女を立たせると、あろうことか周りの人間に状況を聞かずに彼女の手に手錠を嵌めた。

 

「・・・え?」

 

あまりのことに、少し唖然とした。

警官は、彼女が何をしたのか、なんの罪を犯したのか、把握できていなかったでしょ・・・?

 

「・・・くっ、蓮太郎さん。海夜をお願いします」

「おい、待―――」

 

私はパトカーの後を追って、走り出した。

 

 

 

「うそ・・・?なんで警察署にも派出所にもいかないの・・?」

 

パトカーが入り去る前に小型発信機をパトカーにつけてその後を追っているのだが、今パトカーが向かっている方向には、警察所どころか、派出所さえなかった。

どんどん外周区に近くなっていっている。

 

「月夜、乗れ!」

「蓮太郎さん!?・・わかりました」

 

そこに現れたのは原付に乗って走っている蓮太郎さんだった。

どうしてここに?

 

「パトカーは2ブロック先の廃ビルの前に止まっています」

「わかった。いいか、さっきのようなことはすんなよ」

「どういうことですか?」

「一人でしようとするな。俺は・・・俺はあのとき相談されても動けなかっただろうが、とりあえずは相談しろ。いいな?」

「・・・はい。すみませんでした」

 

そして近くまで来ると少しずつブレーキをかけ、音を立てないように近づく。

辺りはシンと静まりかえり、感じれる範囲に人影はいない。警官二人とあの少女を除いては。

 

「こっちです。来てください」

「お、おう」

 

 

俺と月夜が壊れた鉄柵をくぐったところで声が聞こえてくる。

ゆっくりとその声に近づきながら壁に背をつける。

ゆっくりと顔を角からだすと、こちらに背をむけた状態で二人の警官がいた。

その警官の手には拳銃。

そこから離れた場所に、鉄柵を背に立たされた、先ほどの少女がたたずんでいる。

 

「すみません。行きます」

「おい、待て!」

 

月夜が腰に差した刀を構えながら、歩き出す。

 

「ねぇ。あなたは警官なの?」

「誰だてめ―――」

 

ザシュッッ・・・

 

と、何かが斬れる音がする。

 

そして、ゴトッ・・・という鈍い音。

 

「お、おい!?どうし―――」

 

そして再びザシュッッという音。

 

そしてまた、ゴトッという鈍い音。

 

月夜・・・?なにやってんだ・・?

 

「おい・・・月夜。なにやってんだ?」

「え?なにって、彼女を助けただけですよ?もう大丈夫だからね」

「ひっ・・・あ、ありがとう・・・ございます」

 

当たり前のように、「彼女を助けただけです」と、月夜は言った。

月夜の近くには、先ほどまで立っていた警官の頭と体が二つずつ、落ちている。

そんな風にあっさりと、人を殺す月夜は・・・今までどんな生活をしてきたんだ・・?

 

 

それからその少女を外周区まで送り届けたあと、帰路に着いた。

彼女は足と足首を骨折していたため、病院に向かったのだが、どこの病院からも拒否された。

理由は、彼女が『呪われた子供たち』であるから。

・・・くそ。なにが『呪われた子供たち』だ。

彼らは、ただ産まれてきただけなのに、迫害や差別を受け続ける。

 

「・・・私、初めて知りました」

「・・・?何をだ?」

「警察官って、人は守るけど、私たちのことは守ってくれないんですね。今日のことでそれがよくわかりました」

「・・・・・・」

 

俺はなにも、言うことができなかった。

 

「・・・さて、もうこんな時間になってしまいました。病院めぐりをしていて結構時間を食いましたね」

「・・ああ、もう深夜二時、か」

 

やがて八畳一間の我が茅屋が見えてきた。

明かりはついていない。

その我が家の隣の部屋にも、明かりは点っていない。

延珠がこんな夜更けまで起きているはずがないのは当然なのだが、もしかしたらと心の中で期待していたので一抹の寂しさを感じる。

それにしても神流がもう寝てるとは。

イニシエーターをほっぽりだすようなタイプには見えないんだが・・・

 

「お疲れのようだね。里見くん」

 

反射的に拳銃をドロウし、声の方に向ける。

ゆっくりと後ろを向くと、こちらにも拳銃が突きつけられていた。

カスタム元はベレッタ拳銃だろう、上部にガスポートがついた接近戦用のマズルスパイク。

同じく銃口の跳ね上がりを抑制するための大型スタビライザーには格納式の銃剣アタッチメント。

長く伸びたエクステンションの多弾倉マガジン。

スライド左側面の一行刻印『尊厳ある生を』、右側面『然らずんば殉教者としての死を』。

グリップに埋め込まれた邪心クトゥルフを象ったメダリオン。

銃のいたるところにおびただしい量のトゲトゲしたスパイクがついている。

そして、それを握っているのは―――

 

「随分悪趣味な銃だな、蛭子影胤」

「ヒヒ、こんばんわ里見くん」

「え?蛭子影胤・・?」

「ちょ、待てつ―――」

 

月夜が腰に差した刀を抜き、斬りつける。

 

ガキィィィイ!

 

あの時と同じような刀がぶつかり合う音。

 

「パパァ、こいつも強いよ」

「蛭子・・小比奈」

「よく知っているね。私のイニシエーターにして娘だ」

「私は影ノ月夜。神流海夜のイニシエーター」

「ヒヒヒ、これは驚いた。君は海夜くんのイニシエーターだったか」

「蛭子影胤・・・何の用だ?」

「実は話をしにきたのさ。そろそろ銃を降ろしてくれないかね」

「断る」

「やれやれ」

 

影胤はパチンと指を鳴らす。

 

「―――小比奈、邪魔な右腕を切り落とせ」

「はいパパ」

 

 

反射的に背後に跳躍すると、風きり音と共に俺がいた箇所にすさまじい速さの斬撃が走る。

だが、俺の前で小比奈の漆黒の刀は止まった。

 

「ちょっと遊びましょうよ。最近手ごたえのある相手がいなかったからさ」

「やだ。今はパパの言ったことをやる」

「ちょっと邪魔をしないでもらえるかね?月夜くん」

 

影胤がパチンと指を鳴らす。

あれは―――

 

「離れろ月夜!」

「え?・・!はい」

 

よし、これで月夜は大丈―――

 

「あはは、よそ見してたら右手、落ちるけど?」

 

まず、やられ―――

俺は思わず目を瞑った。

だが次の瞬間、

 

ギィン!

 

という音がして二つの塊が空中で激突すると、擦過音を立てながら吹き飛ばされる。

驚きの声は両者から上がった。

 

「蹴れなかった?」

「えっ、斬れなかった?」

「延珠ッ!」

「蓮太郎ッ!あいつら何者だ」

「敵だ」

「あはは、敵?じゃあ私も斬りたいな」

「海夜・・・まあましなほうですか」

 

延珠に神流まで。

神流の性格っていうか人格、また変わったな。

 

「おやおや、なんだか戦うような空気になってきたじゃないか。戦うかい?」

 

戦えば、もしかしたらあのペアに勝てるのかもしれない。

だが、それはここで今、戦うということだ。

もしあいつが本気なんてだしたら、この辺の住宅街はひとたまりもない。

だからここは、あいつの話を聞くのが最善手だ。

構えていた拳銃を降ろしながら言う。

 

「早く用件を言えよボケ。こっちは眠い上に来週の小テストの勉強までしなきゃいけねぇんだ」

 

影胤は仮面の奥でクツクツと笑うと拳銃をホルスターにしまい、月をバックに鷹揚に手を広げた。

 

「海夜くんも来てくれたことだし、単刀直入に言おう。。里見くん、海夜くん、私の仲間にならないか?」

「なッ、んだと?」

「あはは、それはまた随分な勧誘だね」

「実は最初見たときから君たちのことがなぜか好きになってしまってね。殺すには惜しいと思っていた。無論、海夜くんは私を殺せるだろうが。こちらにつくなら、君たちに危害は加えない」

「・・・仮にも俺は民警だ」

「じゃあ、私も民警だから、ちょっとパスかな」

「民警だから、なんだね?私も元民警だ。残念ながらこれから東京エリアには大絶滅の嵐が吹き荒れる。現在私には強力な後援者がいる。私の味方につくなら金も、女も、力も、好きなものを好きなだけ与えよう」

「・・・・・」

「私は別にいらないよ。まだ貯金があるし」

「そうか。君たちはこの理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?東京エリアの有り方は間違っている。そう思ったことは、一度もないかね?」

 

その言葉に、今まで見てきた子供たちが浮かぶ。

『呪われた子供たち』だったために、周囲から迫害され、自我が壊れてしまった少女。

『呪われた子供たち』だったために、親から暴行を受け、捨てられた少女。

『呪われた子供たち』だったために、いじめの標的にされ、何人もの人から暴力を受けた少女。

 

『呪われた子供たち』だから、だからなんだ?

今まで何度もそう思ってきた。

理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?

そりゃ、あるさ。

こんな世の中を変えてやりたいと思うさ。

 

「聞くところによると、君は経済的にあまり裕福な暮らしをしていないそうだね」

 

影胤はどこからか取り出したアタッシュケースを足でこちらに滑らせてきた。

アタッシュケースは俺の前まで来ると止まり、蓋が跳ね上がる。

中には札束がつまっていた。

 

「これは私からのほんの気持ちだ。君はそこの延珠ちゃんを人間のフリをして学校に通わせているようだね。なぜそんなことをする?彼女達は既存のホモ・サピエンスを超えた次世代の人間の形だ。―――大絶滅を経たあと生き残るのは我々力あるものだ。私につけ、里見蓮太郎、神流海夜」

 

俺は力の限りアタッシュケースを蹴り返し、ケースに向かって三発発砲した。

ケースが跳ね、札束に穴が空き、うち何枚かがひらひらと舞う。

 

「里見君がそういう答えなら、私も」

 

トン、と札束に黒いナイフが突き刺さる。

影胤はしばらくの間穴のあいたアタッシュケースを見つめていた。

 

「・・・君たちは大きな過ちを犯したよ、里見くん、海夜くん」

「過ちだとッ?俺に過ちがあったとすれば、最初にあったときお前を殺しておかなかったことだ、蛭子影胤!」

「過ち、ねぇ。私はみんなが笑っていられる選択をしただけだよ」

「くだらん!あくまで依頼を遂行しようというのか。君たちがいくら奴等に奉仕したところで、奴等は君たちを、何度でも裏切る」

「・・・いいよ。それでも、これが今の最善だから」

 

神流が影胤を見る。

俺も影胤を見る。

影胤も俺と神流を見る。

 

どれくらい経っただろうか、発砲音を聞きつけて遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「フン、水入りだ里見くん、海夜くん。こういうやりくちはあまり趣味ではないが・・・明日学校に行ってみるといい。里見くんもそろそろ現実を見るんだ」

 

影胤は小さく捨て台詞を呟くと、大きく後ろに跳んで闇に溶けた。

影胤が消えたほうをじっとみながら、延珠に、月夜に問う。

 

「あっちのイニシエーター。二人はどう見る?」

「強い、おそろしくな」

「手ごたえのある相手です」

「勝てるか?」

「わからない」

「本気をだせば」

「・・・そうか」

 

去り際に言ったあの言葉。

俺にはあの言葉が重く、消しがたいものとして残っていた。

 




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