自分が書いている作品は進行速度が遅いのですが、その辺は理解していただけたらと思います。
では、どうぞ
ぱらぱら、という何かを叩く音ような音と、チン、というちょくちょく聞く音が聞こえ、俺はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした視界に最初に映ったのは、いつも見ている茶色い天井だった。
「あつっ」
という、声がし、その声ではっと目が覚める。
すぐに台所を振り向くと、
「あ、おはよ、里見君」
「お、おう、おはよう神流」
延珠が帰ってきたのでは、と一瞬思ってしまったが、そうではなかった。
落胆の表情が表に出たのは、自分でもわかる。
窓を見ると、雨滴で景色が歪んでいる。
さきほどのぱらぱらの正体はこれだったか。
「はい、朝ごはん。簡単に食パンと牛乳だよ」
「ああ、すまないな」
無言のまま、神流が準備してくれた朝ごはんをすぐに食べ終わり、延珠を探す準備を始める。
「じゃ、私もシャワー浴びてくるね」
「ああ・・・つき合わせてすまないな」
「いやいや、これからも仲良くお願いしますよ?」
笑いながら神流は自分の家へと戻っていった。
神流がいなくなると、この部屋にいるのは俺一人なんだな、と強く感じた。
その、今は一人しかいない部屋を見回すと、青い、コバルトブルーの薬液が入った注射器が目につく。
延珠が投薬を欠かしているのに気づき、悲しくなった。
体内侵食率は一日二日でどうにかなるものではないが、長期間放置すれば徐々に体内侵食率が上がっていく。
「・・・・・くッ」
注射器を拾い上げ、頭を抱える。
毎日のように小学校に送り迎えをして、アパートに帰れば料理をせがむ延珠がいた。
延珠は一々料理を辛口批評するので、作りがいがあった。
そんな日常が突然壊れた。
立ち上がり、広すぎる八畳一間をもう一度見回す。
「・・・一人じゃ広すぎるぞ、延珠」
今着ている制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
熱い慈雨が全身を叩き、強張った全身をほぐしていく。
シャワーから上がる頃には、ほぼ本調子に近かった。
「これも、神流のおかげ、か。後でちゃんと礼を言っとかないとな」
携帯電話の中に延珠の顔がアップで映っている画像が残っているのを確かめてから、財布を持って外に出ようとする。
そこで、ふといくら入っていたかと財布を開いて、思わず笑ってしまった。
帰りは徒歩になるかもしれないが、かまうものか。
「里見君~、まだ?」
「神流お前、女のくせに準備早んだな」
「え、里見君、女をなんだと思ってるの?」
「いや、俺は散々待たされたから女は全部そういうやつだと」
「ふふっ、それはどうかな?里見君がそこまで言えるなら、もう大丈夫だね」
「・・・・ありがとな。行くぞ、神流」
「どういたしまして。うん、里見君」
駅まで走り、電車に乗る。
そして終点で降りる。
休日の早朝とあってか、乗り口も出口も閑散としていた。
傘を差し、遠くにモノリスを見ながら、迷わず外周区に向かい、歩を進めた。
モノリスによって人間とガストレアの住む境界が決まって早十年経つ。
大戦によって無傷のまま残ったのは東京都だけだった。
隣接していた神奈川県、千葉県、埼玉県はモノリスによって県が千切れてしまっている。
これらを統合して東京都から東京エリアに改称、四十三区制としてのはいまから九年前のことだった。
元東京都中心部から近い順に番号が振られていき、(聖居があるのは第一区である)、国境線に近づくほど、番号がかさんでいく。
これから向かう外周区の第三十九区は、モノリスと接している国境線区域であり、同時に誰もが住みたがらない廃都だ。
徐々に人気がなくなっていき、不可思議なものが発見され始める。
人のものとは思えないほど大きい足跡。
血がこびりついて落ちなくなった椅子。
ガラスが砕けた4WDの車内は赤錆が湧いたように真っ赤になっていて、クッションのところからは得体の知れない謎の植物が生い茂っている。
緊急で敷設された掲示板には、色とりどりの紙が何層にわたって貼り付けられていた。
家族へ向けた知らせや、この子を探していますという紙とそれに添付された写真。
友達への知らせなど、数多の紙が貼り付けられていた。
これは、戦時中離れ離れになった人たちが再開するために設けた掲示板だ。
中継基地局を破壊されて、携帯電話はただのゴミになってしまった。
ここも、戦火に巻き込まれた地域なのだろう。
進むにつれて、どんどん視界が開けてくる。
倒壊した建物と半壊した建物ばかりになってきたからだ。
その中で、新設された一際大きな工場がある。
あれらは、地熱、火力、水力、風力、太陽光などの各種発電施設、そして原子力発電所だ。
元々日本は四方を海に囲まれていて、海風が強い。
それに、世界の火山の約一割ぐらいがこの日本にある。
つまり、地熱も利用でき、複雑な地形だから高低差もあり、水力も使うことが出来る。
今、二〇三一年現在は、太陽光発電の効率が飛躍的に進歩し、四十一区には試運転段階だけどトカマク式核融合炉も設立されている。
中央の電力はほぼ、外周区でまかなわれている。
しかし、
「・・・政府って、何なんだろう」
「・・・・・」
綺麗に舗装されたアスファルトの道路と、その脇に立っている建物の残骸を見ながら、小さく呟く。
こういう手の災害が起こったとき、最初に復旧されるのは物資を運ぶための道路。
次にライフラインの肝ともいえる水の確保に始まって、どんどん衣食住を充実させていくはずだ。
だけど、復興は未だに進んでいない。
これは政府に復興する意思がないんじゃないか?
外周区が必要とされている主な用途は、危険な原子力発電所を運営するための場所。
エリア中央で出たゴミの捨て場。
ミラクルシードと呼ばれる、小面積で大量収穫が見込める遺伝子改良の種を蒔く。
の三つだ。
その三つのいずれも、ここに住んでいる住人への配慮は、一切無い。
そんなことを考えている間にも、モノリスはだいぶ大きく見えるようになってきた。
モノリスに近づくほど人は少なくなるのだが、少し前から複数の視線が私たちを見ているのがわかる。
そのまま歩き続けると、ある一つのマンホールの前で里見君が立ち止まった。
そして、ニ、三回ノックする。
「・・・?誰かそこに住んでるの?」
「ああ、マンホールチルドレンっていわれてる」
すると蓋が重い音を上げて持ち上がり、「なにー?」という舌足らずな声と共に中から年端もいかない女の子が顔をだす。
七歳くらいかな?きょとんといてこちらを覗き込んでいる。
彼女の瞳は赤かった。
「人捜してんだけど、いいか?」
「けーさつの方ですか?わたしたちに、立ち退く意思はありませんですので。のでので」
「いや違ぇよ、警察じゃねぇ」
「じゃあじゃあ、せーはんざいしゃの方ですか?」
「ぷっ・・・」
「おい神流、笑うなよ・・・俺は性犯罪者でもねぇよ」
「じゃあお引取りくださいですので」
マンホールの蓋がばたんと閉じ、里見君は少しの間固まった。
いや、私はその光景を見て声を殺して笑いながら転げまわってたんだけどね。
尚も転げまわっていると、我に帰ったらしい里見君が叩くようにマンホールをノックする。
「しつこいせーはんざいしゃは嫌いですッ!」
「ぷっ・・・あははははは!!」
「待て待て待て!どうして警察と性犯罪者の二択しか用意されていないんだよ!そして神流、お前も笑うのこらえろよッ!そしてお前はいまどうして俺を性犯罪者だと断定しやがった!」
「あなたのお顔を拝見してそー思いました次第ですので」
「あははははは!!!わ、私、も、もう無理!」
あははは、もう無理。
もう、あれだね。ちょっとは我慢してたけどこれは我慢できないでしょ。
「この・・・おい神流!」
「あはは、はは、な、なに?」
「ところで、なにかごよーでしょうか?」
「はぁ・・・・民警だ。この子を捜してる、会わなかったか?」
あはは、なんかため息つかれちゃったけど。
里見君はため息を私に?ついてから、携帯電話と民警手帳をその少女に見せる。
少女はライセンスと携帯電話に映されているであろう延珠ちゃんの写真を見比べたあと、「知りません」と言った。
「一応他の人にも聞いてみたいんだけど、大人の人、誰かいねぇか?」
「じゃあ長老になりますので、呼んできますので、中でお待ちくださいですので」
「あ、ああ・・・」
ということで、私たちは下水道に降りていった。
ようやく私も笑いの地獄から復帰し、まともに話せるようになった。
中は以外に広く、思ったより清潔そうだった。
少し歩くと、少女が「ここでお待ちくださいですので」といって、ひょこひょこと奥の方へ行ってしまった。
「いや、久しぶりにあんなに笑ったよ、里見君」
「俺は笑えねぇよ」
「私は笑えたよ~」
「性犯罪者呼ばわりされた俺の身にもなってくれよ」
「私は男の子じゃないからわかりませ~ん」
「お前なぁ・・・」
その時だ。
カツンカツンと奥の方からゆっくりと足音が近づいてきたのは。
その足音の主は男性で、背は低く(成人男性と比べれば)、頭は白髪だが、背はまがっていない。
眼鏡を掛けていて、知的な印象さえ受ける。
底部にクッションラバーがついた撞木杖を突いているが、長老というにはまだまだ若い。
「お二人は随分と仲が良さそうですね」
「・・・ふふっ、そうですか?」
「おい神流。なんで俺の顔を一回見たんだ?」
「あはは、いや、別に?」
「まあいい。里見蓮太郎だ」
里見君が民警手帳を見せながらいう。
優しそうな人だ。
もし、延珠ちゃんと月夜が昨日ここに来たのならば、きっと優しく迎えてくれただろう。
それに、里見君が否定しなかったのもちょっと嬉しい。
延珠ちゃんと月夜は今、どこにいるのかな?
読んでくれてありがとうございました。
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