………右よし。左よし。視界前方オールグリーン。
背後に敵影は…なし。
周囲の確認後、速やかに目標建設物へと滑り込む様に侵入を開始。
もちろん、索敵スキルも全開で、移動先に生体反応が無いことも既に把握済みだ。
…自分でも、何やってんだろうと思うが、これはただの登校である。あえて、もう一度言おう。
登校である。
「……プハッ。何で学校に来るだけでこんなアホみたいなことせにゃならんのだ」
近くの壁にもたれかかって問う。もちろん、周りには誰もいないので、答えてくれる人物などいるはずがないのは分かっているのだが、それでも言いたくなることもある。そもそも、学校に来るつもりもなかったんだがな…
「プレシアさんめ…学校行かないと協力関係を打ち切るとか、何考えてんだアノ人…」
まぁ、そんな訳で、現在、来たくもなかった学校に登校中な訳だ。
この学校、大学付属校なだけあって入学は大変だったが、大学までエスカレーター方式に上がっていける夢の様な学校だ。
正直、小、中学生の間はテストで良い点さえ取っていれば、授業だって出なくていい。
「『学校にはちゃんと行きなさい』ねぇ…あんたは俺のお母さんか」
何にしろ、協力関係が打ち切られてしまうのは問題なので、俺は大人しく学校に来たわけだが…
俺には、現在、最大の障害が存在しているのである。
――
普通に登校しようとすれば、校門にてすでに待ち伏せしており。時間帯をずらせば、何故か朝っぱらからいるのである。
やはり、数日前に見つかったのが痛かったのだろうか…
この学校にいることも何故かばれているし、休み時間もオチオチ寝ていられない。………寝ていられないのは元からだが。
最近では魅音だけでなく、なのはや、その友達まで巻き込んで俺の捜索をしているらしい。
「ほんと、勘弁してくれよ…こっちだって状況が違ったら会いに行ってやりたいよ…」
しかし、状況が状況であるし、何が何でも、残りのジュエルシードを集めて事件が収束するまでは正体がばれそうなことはしたくない。
俺がフォレスの正体だと知れたら…嫌われてしまうのだろうし…
………もしそうなったら、俺、自殺するかもしれん。
だから、人の教室で張り込むの止めてください…お願いします。
自分たちの教室ではなく、なぜか俺の方の教室、しかも、俺の席に座ってお喋りしていらっしゃる義妹に溜息がこぼれる。
こうなると、魅音はチャイムが鳴る寸前か、鳴ってからしかあの場所を動かない。
なので、俺は気配を絶って魅音が出ていくまで廊下の片隅で隠れているしかないのだ。
「チャイムは…お、もう鳴るな。遅めに出て正解だった」
授業開始のチャイムが鳴り、学生たちは各々の席へと帰っていく。
「…ムゥ」
「ま、まあまあ、落ち着こうよ魅音ちゃん」
「そうだよ。凪斗君も魅音ちゃんに会いたいって思ってるの。きっと」
「…ムゥゥゥゥ!」
荒れてんなぁ。会うのが怖いな、これは。
何で毎日毎日飽きもせずにここまで来るんだ?暇なのか?もしくは、何か用事でもあるのか。
まぁ、どちらにしても会う気が無いんだから、関係ないな。
「…ハァ。やっと出てったか」
「おいコラ葛梨!」
「ん?何ですか?不躾に」
奴らが出て行ったのを柱の陰から確認し、教室に入って直ぐにクラスの男子に捕まってしまった。
学校にまた来るようになってからほぼ毎日だな。今日はいったい何の用だろうか。
とは言ってみたけど、どうせいつもと同じだろうな。いつも同じことしか言わないし。
「「オマエな!いつもいつも言うけど、聖祥小の女神たちになんて失礼なことして」――声を重ねんな!」
このうるさく叫んでいるのは………うん?名前、聞いたこと無いな。そう言えば。
「いや、すまないな。名も知らぬクラスメイトF」
「なんでFなんだよ!?他にもいっぱいあるだろうが!?」
「いや、そこじゃないだろ?言った俺が言うのも変な話だけどさ」
憤慨して顔を真っ赤にしたクラスメイトFよ。とりあえず退いてくれないだろうか、窓際にある俺の席の前に立たれると俺が席に座れない。
「まぁいい…今回は俺の勝ちの様だしな」
ニヤリと笑うクラスメイトF…もうめんどいな。バカでいいや。バカで。
その目線の先を追うと
「はぁ?何言って「みぃ―つけた」――Oh,My God」
我が愛しの義妹様がいた。
◆
「で?」
「?」
いや、「?」じゃねぇよ。「?」じゃ。
「なにか用事でもあったんじゃないのか?」
「無いよ?」
無いのかよ。
「え?マジでないの?」
「無いよ?」
「逃げようとしたら縄でふんじばって亀甲縛りにした挙句、授業が始まると言うのに屋上まで拉致紛いの行為をして、地面に芋虫の様に転がしておいて何も用事が無いと言うのですね?」
「無ーい」
そう言って俺にへばり付く魅音。
ここまでやっといて俺に何の用もないのかー。そっかー。
「あっはっは!何それ怖い」
家の義妹は何時からこんなに歪んでしまったのか。
特に用事もないのに人を縛って拉致するとか、目を離すのが怖いな。
「こらこら、嘘ついてんじゃないの。温泉に誘うんでしょうが」
魅音と共に俺を拉致ったうちの1人がそんなことを言って、暴走気味の魅音にツッコミを入れた。
あ、なんだ。実は用事あるのか。ちょっとほっとした。理由も無く拉致られたのかと思って、流石に焦ったぞ。
「えーと、バニングスさん…だっけ?」
「ええ、そうよ。流石に私の名前ぐらい知ってるみたいね。安心したわ。それで?あなたが“かの有名な”
にっこりと、擬音が聞こえて来そうなほど微笑んで俺のことを呼ぶバニングスさん。気のせいか、何だか全然笑っているようには見えない。不思議だ。
それにしても、有名?何のことだ?有名になる様なことなんて…してない、よな?
ヤバイな。自分の事なのに自信が持てないや。
「あ、あぁ。確かに俺が葛梨であってるけど、有名ってなんのことだ?」
「はぁ?何?すっ呆けるつもり?あんたのせいで、今学期に入ってから私は毎回2番なのよ!それまでは私が1番だったのに!それだってあんた以外ならまだ許せたわよ!なのにあんたは!あんたときたら!」
え?えっ?何?なんで俺首絞められてんの?今の今まで普通に話してなかった?
頭の中がハテナマークでいっぱいになった俺を、バニングスさんが首を絞めながらブンブン振り回す。もちろん、何故か亀甲縛りされている俺は逃げるどころか抵抗すらできずに振り回されるしかないわけで。
「聞いてるの!?なんで授業も受けずに昼間っから遊んでるあんたなんかに私が負けなきゃいけないのよー!?」
「あばばば…」
「ア、アリサちゃん落ち着いて!?死んじゃう!その人死んじゃうから!!」
「えへへ、凪にぃ。えへへへ」
「アリサちゃん何してるの!?魅音ちゃんも止めてぇ!?」
い、意識が…遠くなって…
………あ。
「――っは!?夢…じゃないな。亀甲縛りのままだし」
と言うか、なんでこんな特殊な縛り方知ってるんだあいつ等。
自分を縛り上げている縄を見て言葉に困る。
今回はベットに括り付けられているらしく、転がる事すらできそうにない。理由はおそらく俺を逃がさないためだろう。いったい誰が縛ってるんだろう。滅茶苦茶上手いんだが。
「ここしばらく逃げまくってたからなぁ」
自業自得と言う言葉が頭に浮かんだが、別に悪いことしたわけじゃないと頭を振って追い出す。それに、どっちかっていうと自縄自縛…って、駄目だ。思考がループしてる。
思考をある程度放棄して、手元にナイフを呼び出す。それを使って手首の縄から切っていく。手が自由に動けるようになれば、抜け出すのは簡単だった。
「んんっーー!!っふぅ」
凝り固まった体を思い切り伸ばし、保健室を後にした。
まぁ、廊下で捕まってしまったけどな。
「な!?どうやって出てきたのよ?アレは!」
バニングスさんがやたらと声を荒げて俺を指さしてくる。アレって、物か何かなのか俺は?
そんな俺の吐き出す溜息は、少女達の騒がしい日常に飲まれて消えるのだった。